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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
第1章 暁の空
第2章 祖先の恵
第3章 酒浮気
第4章 里庄の悩
第5章 愁雲退散
第6章 神軍義兵
第2篇 容怪変化
第7章 女白浪
第8章 神乎魔乎
第9章 谷底の宴
第10章 八百長劇
第11章 亞魔の河
第3篇 異燭獣虚
第12章 恋の暗路
第13章 恋の懸嘴
第14章 相生松風
第15章 喰ひ違ひ
第4篇 恋連愛曖
第16章 恋の夢路
第17章 縁馬の別
第18章 魔神の囁
第19章 女の度胸
第20章 真鬼姉妹
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
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第66巻(巳の巻)
> 第2篇 容怪変化 > 第7章 女白浪
<<< 神軍義兵
(B)
(N)
神乎魔乎 >>>
第七章
女
(
をんな
)
白浪
(
しらなみ
)
〔一六八九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第2篇 容怪変化
よみ(新仮名遣い):
ようかいへんげ
章:
第7章 女白浪
よみ(新仮名遣い):
おんなしらなみ
通し章番号:
1689
口述日:
1924(大正13)年12月16日(旧11月20日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
オーラ山の大杉
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-12-05 13:59:15
OBC :
rm6607
愛善世界社版:
99頁
八幡書店版:
第11輯 765頁
修補版:
校定版:
99頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
デカタン
高原中
(
かうげんちう
)
の、
0011
最高地
(
さいかうち
)
、
002
而
(
しか
)
も
地味
(
ちみ
)
最
(
もつと
)
も
肥
(
こえ
)
たるトルマン
国
(
ごく
)
の
西北端
(
せいほくたん
)
に、
003
雲
(
くも
)
に
聳
(
そび
)
えた
大高山
(
だいかうざん
)
がある。
004
樹木
(
じゆもく
)
密生
(
みつせい
)
して
昼
(
ひる
)
猶
(
なほ
)
暗
(
くら
)
く、
005
猛獣
(
まうじう
)
毒蛇
(
どくだ
)
の
棲息
(
せいそく
)
するもの
最
(
もつと
)
も
多
(
おほ
)
しと
伝
(
つた
)
へられてゐる。
006
之
(
これ
)
がオーラ
山
(
さん
)
である。
007
オーラ
山
(
さん
)
と
云
(
い
)
ふのは
008
沢山
(
たくさん
)
の
山
(
やま
)
が
同
(
おな
)
じ
形
(
かたち
)
に
並
(
なら
)
んでゐる
意味
(
いみ
)
であつて、
009
数百
(
すうひやく
)
里
(
り
)
に
延長
(
えんちやう
)
し、
010
此
(
この
)
区域
(
くゐき
)
をオーラ
山脈
(
さんみやく
)
地帯
(
ちたい
)
と
称
(
しよう
)
してゐる。
011
谷々
(
たにだに
)
より
流
(
なが
)
れ
出
(
い
)
づる
水
(
みづ
)
は
何
(
いづ
)
れもオーラ
河
(
がは
)
に
注
(
そそ
)
ぎ、
012
印度
(
いんど
)
を
縦断
(
じうだん
)
して
印度洋
(
いんどやう
)
に
注
(
そそ
)
ぐ
有名
(
いうめい
)
な
大河
(
たいが
)
である。
013
元
(
もと
)
バラモン
教
(
けう
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
たりしシーゴー
坊
(
ばう
)
は、
014
片腕
(
かたうで
)
と
頼
(
たの
)
む
玄真坊
(
げんしんばう
)
と
共
(
とも
)
に
此
(
この
)
山脈
(
さんみやく
)
の
中心地
(
ちうしんち
)
、
015
即
(
すなは
)
ちオーラ
山
(
さん
)
に
根拠
(
こんきよ
)
を
構
(
かま
)
へ、
016
時
(
とき
)
の
到
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つて、
017
先
(
ま
)
づバルガン
城
(
じやう
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
018
勢
(
せい
)
を
集
(
あつ
)
めてハルナの
都
(
みやこ
)
に
押
(
おし
)
寄
(
よ
)
せ、
019
大黒主
(
おほくろぬし
)
を
征伐
(
せいばつ
)
し、
020
印度
(
いんど
)
一国
(
いつこく
)
の
覇権
(
はけん
)
を
握
(
にぎ
)
らむと、
021
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
引連
(
ひきつ
)
れて
山寨
(
さんさい
)
を
造
(
つく
)
り、
022
オーラ
河
(
がは
)
を
利用
(
りよう
)
し、
023
一切
(
いつさい
)
の
挙兵
(
きよへい
)
準備
(
じゆんび
)
に
着手
(
ちやくしゆ
)
してゐた。
024
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
必要
(
ひつえう
)
なのは
軍資金
(
ぐんしきん
)
である。
025
彼
(
かれ
)
は
所在
(
あらゆる
)
方法
(
はうはふ
)
手段
(
しゆだん
)
を
講
(
かう
)
じて
金品
(
きんぴん
)
穀類
(
こくるゐ
)
並
(
ならび
)
に
武器
(
ぶき
)
を
蒐集
(
しうしふ
)
する
事
(
こと
)
に
腐心
(
ふしん
)
してゐた。
026
オーラ
山
(
さん
)
の
中腹
(
ちうふく
)
には
稍
(
やや
)
広
(
ひろ
)
き
平地
(
へいち
)
があつて、
027
数
(
すう
)
里
(
り
)
を
隔
(
へだ
)
てた
遠方
(
ゑんぱう
)
から、
028
幾抱
(
いくかか
)
えとも
知
(
し
)
れぬ
大杉
(
おほすぎ
)
のコンモリとした
枝
(
えだ
)
が
目立
(
めだ
)
つて
見
(
み
)
えてゐる。
029
シーゴー、
030
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
二人
(
ふたり
)
は
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
め、
031
秘密会
(
ひみつくわい
)
を
開
(
ひら
)
いた。
032
シーゴー『オイ
玄真
(
げんしん
)
、
033
計画
(
けいくわく
)
もおひおひ
緒
(
ちよ
)
につき、
034
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
は
集
(
あつ
)
まつたが、
035
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
食料
(
しよくれう
)
の
欠乏
(
けつぼう
)
と
云
(
い
)
ひ、
036
武器
(
ぶき
)
の
不足
(
ふそく
)
といひ、
037
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
経過
(
けいくわ
)
すれば、
038
折角
(
せつかく
)
の
計画
(
けいくわく
)
も
画餅
(
ぐわへい
)
に
帰
(
き
)
するより
途
(
みち
)
はない。
039
又
(
また
)
豺狼
(
さいらう
)
の
如
(
ごと
)
き
部下
(
ぶか
)
を
統一
(
とういつ
)
せむとすれば、
040
食糧
(
しよくりやう
)
が
豊富
(
ほうふ
)
でなくては、
041
吾々
(
われわれ
)
の
命令
(
めいれい
)
も
聞
(
き
)
かなくなつて
了
(
しま
)
ふ。
042
何
(
なん
)
ぞ
可
(
い
)
い
工夫
(
くふう
)
はあるまいかなア』
043
玄真
(
げんしん
)
『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア。
044
私
(
わたし
)
もいろいろと
思案
(
しあん
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますが、
045
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもバラモンの
信仰
(
しんかう
)
を
以
(
もつ
)
て
固
(
かた
)
まつた
此
(
この
)
国
(
くに
)
、
046
一
(
ひと
)
つの
奇瑞
(
きずゐ
)
を
現
(
あら
)
はし、
047
人心
(
じんしん
)
を
収攬
(
しうらん
)
し、
048
信仰
(
しんかう
)
の
力
(
ちから
)
に
仍
(
よ
)
つて、
049
金銭
(
きんせん
)
物品
(
ぶつぴん
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
武器
(
ぶき
)
を
献上
(
けんじやう
)
させては
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
050
私
(
わたし
)
は
之
(
これ
)
より
外
(
ほか
)
に
可
(
い
)
い
方法
(
はうはふ
)
はなからうかと
存
(
ぞん
)
じます』
051
シーゴー『
成程
(
なるほど
)
、
052
可
(
い
)
い
所
(
ところ
)
へ
気
(
き
)
がついた。
053
俺
(
おれ
)
も
永
(
なが
)
らくバラモンの
修験者
(
しゆげんじや
)
をやつてゐ
乍
(
なが
)
ら、
054
宗教
(
しうけう
)
的
(
てき
)
信仰
(
しんかう
)
を
以
(
もつ
)
て
人心
(
じんしん
)
を
収攬
(
しうらん
)
し、
055
大望
(
たいまう
)
を
達
(
たつ
)
せむとする
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
手段
(
しゆだん
)
は
気
(
き
)
がつかなかつた。
056
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
斯
(
か
)
かる
山奥
(
やまおく
)
に
在
(
あ
)
つて、
057
人
(
ひと
)
を
集
(
あつ
)
むるは
容易
(
ようい
)
の
事
(
こと
)
ではあるまい』
058
玄真
(
げんしん
)
『サア
其
(
その
)
事
(
こと
)
に
付
(
つ
)
いて、
059
私
(
わたし
)
も
頭
(
あたま
)
を
悩
(
なや
)
めて
居
(
を
)
ります。
060
里
(
さと
)
近
(
ちか
)
く
出
(
い
)
づれば
人
(
ひと
)
の
寄
(
よ
)
りは
宜
(
よろ
)
しいが、
061
秘密
(
ひみつ
)
の
漏洩
(
ろうえい
)
する
虞
(
おそれ
)
がある。
062
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
に
居
(
を
)
れば
安全
(
あんぜん
)
ではありますが、
063
人
(
ひと
)
を
集
(
あつ
)
める
事
(
こと
)
は
容易
(
ようい
)
ではありますまい。
064
余程
(
よほど
)
の
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
をして
見
(
み
)
せむ
事
(
こと
)
には、
065
此
(
この
)
山奥
(
やまおく
)
へ
愚夫
(
ぐふ
)
愚婦
(
ぐふ
)
をおびきよせる
事
(
こと
)
は
難
(
むつか
)
しいでせう』
066
シーゴー『
俺
(
おれ
)
もいろいろ
雑多
(
ざつた
)
と
考
(
かんが
)
へてはみたが、
067
第一
(
だいいち
)
食糧
(
しよくりやう
)
の
窮乏
(
きうばふ
)
を
告
(
つ
)
げるやうな
事
(
こと
)
では
此
(
この
)
大望
(
たいまう
)
は
成就
(
じやうじゆ
)
せない。
068
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
に
泥棒
(
どろばう
)
許
(
ばか
)
りさせてゐても、
069
結局
(
けつきよく
)
統一
(
とういつ
)
が
出来
(
でき
)
なくなり、
070
終
(
つひ
)
には
国民
(
こくみん
)
の
嫌悪
(
けんを
)
を
買
(
か
)
ひ
怨府
(
ゑんぷ
)
となり、
071
大業
(
たいげふ
)
の
妨害
(
ばうがい
)
を
来
(
きた
)
すであらう。
072
何
(
なん
)
とか
可
(
い
)
い
方法
(
はうはふ
)
手段
(
しゆだん
)
を
捻
(
ひね
)
り
出
(
だ
)
せないものかなア』
073
両人
(
りやうにん
)
は
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れてゐる。
074
そこへ
岩窟
(
いはや
)
の
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて
次
(
つぎ
)
の
岩窟
(
いはや
)
から
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たのは
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
妻
(
つま
)
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
であつた。
075
ヨリコ『あゝこれはこれは
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
076
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
077
何
(
なに
)
か
可
(
い
)
いお
話
(
はなし
)
が
出来
(
でき
)
てゐるやうですなア。
078
どうか
私
(
わたし
)
にも
御
(
お
)
招伴
(
せうばん
)
さして
下
(
くだ
)
さいませ』
079
シーゴー『ウーン、
080
イヤ、
081
何
(
なん
)
でもない。
082
余
(
あま
)
り
大原野
(
だいげんや
)
の
風景
(
ふうけい
)
が
佳
(
い
)
いので、
083
玄真
(
げんしん
)
殿
(
どの
)
と
眺望
(
てうばう
)
を
恣
(
ほしいまま
)
にしてゐた
所
(
ところ
)
だ』
084
ヨリコ『ホヽヽヽ
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな。
085
岩窟
(
いはや
)
の
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
めきつておき
乍
(
なが
)
ら、
086
大原野
(
だいげんや
)
をみはらすの、
087
眺望
(
てうばう
)
が
佳
(
よ
)
いのと、
088
子供
(
こども
)
を
騙
(
だま
)
すやうな
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
089
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
お
隠
(
かく
)
しなさつても、
090
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
心
(
こころ
)
の
奥
(
おく
)
迄
(
まで
)
看破
(
かんぱ
)
して
居
(
を
)
りますよ』
091
玄真
(
げんしん
)
『ナアニ、
092
本当
(
ほんたう
)
に
見
(
み
)
てゐたのだよ。
093
今
(
いま
)
お
前
(
まへ
)
が
来
(
く
)
る
一寸
(
ちよつと
)
前
(
まへ
)
に
戸
(
と
)
を
閉
(
し
)
めた
所
(
ところ
)
だ』
094
ヨリコ『ホヽヽヽ
嘘
(
うそ
)
許
(
ばつか
)
り、
095
そんな
白々
(
しらじら
)
しい
事
(
こと
)
が
仰有
(
おつしや
)
られますわい。
096
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
妾
(
わらは
)
を
女
(
をんな
)
と
侮
(
あなど
)
り
097
いつもコソコソとよからぬ
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
許
(
ばか
)
りしてゐられますが、
098
小
(
ちい
)
さい
悪
(
あく
)
をするよりも
一層
(
いつそう
)
男
(
をとこ
)
らしう
大悪
(
だいあく
)
をなさつたら
何
(
ど
)
うですか。
099
大悪
(
だいあく
)
は
大善
(
だいぜん
)
に
似
(
に
)
たり……といふ
事
(
こと
)
があるぢやありませぬか』
100
玄真
(
げんしん
)
『
女神
(
めがみ
)
のやうな
優
(
やさ
)
しいお
前
(
まへ
)
にも
似
(
に
)
ず、
101
今日
(
けふ
)
は
又
(
また
)
太
(
ふと
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか。
102
人間
(
にんげん
)
も
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
るものだなア』
103
ヨリコ『そらさうです
共
(
とも
)
、
104
朱
(
しゆ
)
に
交
(
まじ
)
はれば
赤
(
あか
)
くなり、
105
麻
(
あさ
)
につれる
蓬
(
よもぎ
)
、
106
門前
(
もんぜん
)
の
小僧
(
こぞう
)
習
(
なら
)
はずに
経
(
きやう
)
を
読
(
よ
)
み、
107
勧学院
(
くわんがくゐん
)
の
雀
(
すずめ
)
は
蒙求
(
もうぎう
)
を
囀
(
さへづ
)
るとやら、
108
日日
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
悪党
(
あくたう
)
哲学
(
てつがく
)
の
実習
(
じつしふ
)
を
受
(
う
)
けてゐるのですもの、
109
悪
(
あく
)
にかけたら、
110
出藍
(
しゆつらん
)
の
誉
(
ほまれ
)
ともいふべき
妾
(
わたし
)
ですよ。
111
最早
(
もはや
)
妾
(
わたし
)
はタライの
村
(
むら
)
時代
(
じだい
)
のヨリコ
嬢
(
ぢやう
)
ではありませぬ。
112
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
大悪党
(
だいあくたう
)
の
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
が
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
、
113
ホヽヽヽ
随分
(
ずいぶん
)
発達
(
はつたつ
)
したものでせう』
114
シーゴー『
何
(
なん
)
とマア
感心
(
かんしん
)
だなア。
115
オイ
玄真
(
げんしん
)
、
116
お
前
(
まへ
)
も
最早
(
もはや
)
安心
(
あんしん
)
だよ。
117
こんな
有力
(
いうりよく
)
な
後援者
(
こうゑんしや
)
が
出来
(
でき
)
たのだから、
118
鬼
(
おに
)
に
鉄棒
(
かなぼう
)
だ。
119
就
(
つ
)
いては
俺
(
おれ
)
も
百万
(
ひやくまん
)
の
後楯
(
うしろだて
)
を
得
(
え
)
た
如
(
や
)
うだ。
120
あゝ
愉快
(
ゆくわい
)
々々
(
ゆくわい
)
、
121
オツホヽヽヽ』
122
と
肩
(
かた
)
をゆすつて
笑
(
わら
)
ふ。
123
玄真
(
げんしん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
124
親方
(
おやかた
)
の
仰
(
おほせ
)
の
通
(
とほ
)
り、
125
随分
(
ずいぶん
)
悪化
(
あくくわ
)
したものですわい。
126
オイ、
127
ヨリコ、
128
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
親方
(
おやかた
)
や
自分
(
じぶん
)
達
(
たち
)
の
大望
(
たいまう
)
をお
前
(
まへ
)
に
打
(
うち
)
明
(
あ
)
けて、
129
後援
(
こうゑん
)
して
貰
(
もら
)
ひたいと
喉元
(
のどもと
)
迄
(
まで
)
出
(
で
)
てゐたが、
130
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
名人
(
めいじん
)
の
画
(
ゑ
)
から
抜
(
ぬけ
)
出
(
で
)
たやうな、
131
嬋娟
(
せんけん
)
窈窕
(
えうてう
)
たる
其方
(
そなた
)
、
132
霊体
(
れいたい
)
一致
(
いつち
)
の
関係
(
くわんけい
)
から
見
(
み
)
ても、
133
優美
(
いうび
)
な
高尚
(
かうしやう
)
な
正直
(
しやうぢき
)
なお
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
、
134
こんな
悪党
(
あくたう
)
な
企
(
たく
)
らみを、
135
うつかりお
前
(
まへ
)
に
聞
(
き
)
かせて、
136
愛想
(
あいそ
)
をつかされ、
137
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
の
恋
(
こひ
)
は
一度
(
いちど
)
に
醒
(
さ
)
め、
138
俺
(
おれ
)
を
振
(
ふ
)
りすてて
逃
(
に
)
げ
帰
(
かへ
)
るか、
139
但
(
ただし
)
は
自害
(
じがい
)
でもしてくれちや
大変
(
たいへん
)
だと、
140
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
迄
(
まで
)
秘密
(
ひみつ
)
を
心
(
こころ
)
に
包
(
つつ
)
んでゐたのだが、
141
お
前
(
まへ
)
にそれ
丈
(
だけ
)
の
悪度胸
(
わるどきよう
)
があるとすれば、
142
俺
(
おれ
)
も
最早
(
もはや
)
大安心
(
だいあんしん
)
だ。
143
天下
(
てんか
)
は
吾
(
わが
)
意
(
い
)
の
如
(
ごと
)
く
軈
(
やが
)
てなるだらう。
144
テもさても
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
だわい、
145
アツハヽヽヽ』
146
ヨリコ『
夫
(
をつと
)
に
連添
(
つれそ
)
ふ
女房
(
にようばう
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
147
タライの
村
(
むら
)
の
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へお
泊
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さつた
時
(
とき
)
、
148
どつかに
一癖
(
ひとくせ
)
のある
御
(
おん
)
目
(
ま
)
なざし、
149
此
(
この
)
方
(
かた
)
は
何
(
いづ
)
れは
善
(
ぜん
)
か
悪
(
あく
)
かは
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
、
150
大業
(
たいげふ
)
を
企
(
くはだ
)
てる
快男子
(
くわいだんじ
)
だと
直覚
(
ちよくかく
)
しましたので、
151
大恩
(
だいおん
)
ある
母
(
はは
)
を
捨
(
す
)
て、
152
可愛
(
かあい
)
い
妹
(
いもうと
)
に
放
(
はな
)
れて、
153
貴方
(
あなた
)
に
心中立
(
しんぢうだて
)
をしたので
厶
(
ござ
)
います。
154
ここ
迄
(
まで
)
打明
(
うちあ
)
けた
以上
(
いじやう
)
は
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なく、
155
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
私
(
わたし
)
も
相談
(
さうだん
)
に
乗
(
の
)
せて
下
(
くだ
)
さいませ』
156
玄真
(
げんしん
)
『
何
(
なん
)
とマア、
157
女
(
をんな
)
といふ
者
(
もの
)
は
分
(
わか
)
らぬものだなア。
158
否
(
いな
)
159
恐
(
おそ
)
ろしい
者
(
もの
)
だなア、
160
丸切
(
まるき
)
り
化物
(
ばけもの
)
だ。
161
能
(
よ
)
くマア、
162
こんな
極悪
(
ごくあく
)
美人
(
びじん
)
を
抱
(
だ
)
いて
寝
(
ね
)
て、
163
寝首
(
ねくび
)
をかかれなかつた
事
(
こと
)
だワイ、
164
アツハヽヽヽ』
165
シーゴー『ウツフヽヽヽヽヽ、
166
ますます
面白
(
おもしろ
)
くなつて
来
(
き
)
た。
167
鬼
(
おに
)
の
夫
(
をつと
)
に
蛇
(
じや
)
の
女房
(
にようばう
)
……とは
能
(
よ
)
く
言
(
い
)
つたものだ、
168
エツヘヽヽヽ』
169
ヨリコ『もし
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
、
170
珍
(
めづ
)
らし
相
(
さう
)
に
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
171
女
(
をんな
)
は
魔物
(
まもの
)
と
昔
(
むかし
)
からいふぢやありませぬか。
172
私
(
わたし
)
も
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
と
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
が
間
(
あひだ
)
暮
(
くら
)
してゐる
間
(
ま
)
に、
173
時々
(
ときどき
)
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つたり、
174
世
(
よ
)
をはかなんだりなさる
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に、
175
…エーエ
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だな、
176
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
177
寝首
(
ねくび
)
をかいてやらうか。
178
イヤ
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
現代
(
げんだい
)
の
男
(
をとこ
)
といふ
奴
(
やつ
)
、
179
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
腰抜
(
こしぬけ
)
許
(
ばか
)
りだ。
180
善
(
ぜん
)
を
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
行
(
おこな
)
ふでもなければ、
181
悪
(
あく
)
を
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
遂行
(
すゐかう
)
する
快男児
(
くわいだんじ
)
もない。
182
世間
(
せけん
)
の
男
(
をとこ
)
から
比
(
くら
)
べて
見
(
み
)
れば、
183
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
は
幾分
(
いくぶん
)
か
偽善
(
ぎぜん
)
と
悪辣
(
あくらつ
)
との
手腕
(
しゆわん
)
が、
184
チツと
許
(
ばか
)
り
優
(
まさ
)
つてゐるやうに
思
(
おも
)
つたので
185
自分
(
じぶん
)
の
意
(
い
)
には
充
(
み
)
たないけれど、
1851
将来
(
しやうらい
)
何
(
なに
)
か
使
(
つか
)
つてやる
時
(
とき
)
もあらうと、
186
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
辛抱
(
しんばう
)
してゐたのですよ、
187
オツホヽヽヽ。
188
玄真
(
げんしん
)
様
(
さま
)
、
189
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬが、
190
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
つて
下
(
くだ
)
さいますな。
191
妾
(
わたし
)
だつて
時々
(
ときどき
)
愛
(
あい
)
は
注
(
そそ
)
いでゐるでせう。
192
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
人体
(
じんたい
)
自然
(
しぜん
)
の
理
(
り
)
に
依
(
よ
)
つて
月
(
つき
)
に
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
は、
193
発情期
(
はつじやうき
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ますからねえ。
194
ひだるい
時
(
とき
)
のまづい
物
(
もの
)
なし、
195
喉
(
のど
)
の
渇
(
かわ
)
いた
時
(
とき
)
は、
196
泥田
(
どろた
)
の
水
(
みづ
)
も
呑
(
の
)
めば
甘露
(
かんろ
)
の
味
(
あぢ
)
がするとやら、
197
本当
(
ほんたう
)
に
貴郎
(
あなた
)
は、
198
妾
(
わたし
)
が
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
慰安者
(
ゐあんしや
)
でしたよ、
199
小
(
せう
)
なる
救世主
(
きうせいしゆ
)
でしたよ。
200
ホツホヽヽヽ』
201
玄真
(
げんしん
)
『チエツー、
202
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐる。
203
さうするとお
前
(
まへ
)
は
俺
(
おれ
)
の
威力
(
ゐりよく
)
に
恐
(
おそ
)
れて、
204
心
(
こころ
)
ならずも
服従
(
ふくじう
)
してゐたのだな。
205
そして
時々
(
ときどき
)
情欲
(
じやうよく
)
の
炎
(
ほのほ
)
を
消
(
け
)
すポンプに
使
(
つか
)
つてゐたのだらう』
206
ヨリコ『
貴方
(
あなた
)
のポンプは
人並
(
ひとなみ
)
勝
(
すぐ
)
れて
馬
(
うま
)
並
(
なみ
)
でしたよ。
207
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
でウツトコの
孔口
(
こうこう
)
が
拡大
(
くわくだい
)
し、
208
東経
(
とうけい
)
百度
(
ひやくど
)
、
209
北緯
(
ほくゐ
)
二百度
(
にひやくど
)
といふ
大
(
だい
)
竜門洞
(
りうもんどう
)
が
形
(
かたち
)
作
(
づく
)
られたのですもの、
210
ホツホヽヽヽ』
211
玄真
(
げんしん
)
『エー、
212
お
前
(
まへ
)
は
男子
(
だんし
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
するのか』
213
ヨリコ『ホヽヽヽさうです
共
(
とも
)
、
214
聖人
(
せいじん
)
の
言葉
(
ことば
)
にも、
215
長老
(
ちやうらう
)
を
敬
(
うやま
)
へといふぢやありませぬか。
216
所謂
(
いはゆる
)
、
217
貴方
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
して
嘲弄
(
てうろう
)
するのは
結局
(
けつきよく
)
敬意
(
けいい
)
を
表
(
へう
)
してゐたのですワ。
218
それに
時々
(
ときどき
)
女
(
をんな
)
の
腐
(
くさ
)
つたやうな、
219
チヨロ
臭
(
くさ
)
い
泣言
(
なきごと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るのを
聞
(
き
)
く
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に、
220
胸
(
むね
)
がムカムカ
致
(
いた
)
しましたよ。
221
和尚
(
おしやう
)
の
屁
(
へ
)
は
長老
(
ちやうらう
)
臭
(
くさ
)
いといひますからね。
222
時々
(
ときどき
)
丸
(
まる
)
で
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
で
屁
(
へ
)
をひつたやうな、
223
掴
(
つか
)
まへ
所
(
どころ
)
のない
計画
(
けいくわく
)
をしては
失敗
(
しつぱい
)
をなさるのだもの、
224
カラツキシ
信用
(
しんよう
)
がおけないぢやありませぬか』
225
玄真
(
げんしん
)
『あーあ、
226
大変
(
たいへん
)
な
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
を
女房
(
にようばう
)
に
持
(
も
)
つたものだなア』
227
ヨリコ『コリヤ
面白
(
おもしろ
)
い、
228
妾
(
わたし
)
を
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ひましたね。
229
敬
(
うやま
)
ひ
過
(
す
)
ぐれば
礼
(
れい
)
を
失
(
しつ
)
するとか
申
(
まをし
)
まして、
230
貴方
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
に
対
(
たい
)
し、
231
軽侮
(
けいぶ
)
嘲笑
(
てうせう
)
の
的
(
まと
)
として
厶
(
ござ
)
るのでせう。
232
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
愚弄
(
ぐろう
)
的
(
てき
)
にもせよ、
233
軽侮
(
けいぶ
)
的
(
てき
)
にもせよ、
234
女帝
(
によてい
)
といはれた
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
は、
235
妾
(
わたし
)
に
取
(
と
)
つては
身魂
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
、
236
実
(
じつ
)
に
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します、
237
ホツホヽヽヽ』
238
シーゴー『コレコレ
女帝
(
によてい
)
さま、
239
大変
(
たいへん
)
な
馬力
(
ばりき
)
ぢやありませぬか』
240
ヨリコ『ハイ、
241
馬力
(
ばりき
)
所
(
どころ
)
か、
242
象力
(
ざうりき
)
ですよ。
243
大象
(
だいざう
)
も
女
(
をんな
)
の
黒髪
(
くろかみ
)
一筋
(
ひとすぢ
)
にて
曳
(
ひ
)
かれると
云
(
い
)
ふぢやありませぬか。
244
男子
(
だんし
)
は
馬力
(
ばりき
)
、
245
之
(
これ
)
を
詳説
(
しやうせつ
)
すれば
馬鹿力
(
ばかりき
)
と
云
(
い
)
ひ、
246
女
(
をんな
)
は
所謂
(
いはゆる
)
象力
(
ざうりき
)
です。
247
象
(
ざう
)
は
憎
(
ぞう
)
に
通
(
つう
)
じ
248
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
男子
(
だんし
)
を
憎悪
(
ぞうを
)
して
居
(
を
)
つても
女子
(
ぢよし
)
の
精神
(
せいしん
)
を
知
(
し
)
らず、
249
俺
(
おれ
)
に
惚
(
ほれ
)
てゐるに
違
(
ちがひ
)
ないと
大変
(
たいへん
)
な
馬鹿力
(
ばかりき
)
を
出
(
だ
)
し
象憎悪
(
ぞうぞお
)
しくも、
250
主人面
(
しゆじんづら
)
をさげて
納
(
をさ
)
まり
返
(
かへ
)
つてゐるのが
世間
(
せけん
)
一般
(
いつぱん
)
の
男子
(
だんし
)
の
病患
(
びやうくわん
)
ですワ。
251
本当
(
ほんたう
)
に
男子
(
だんし
)
といふ
者
(
もの
)
は
憐
(
あは
)
れな
代物
(
しろもの
)
ですよ。
252
ホツホヽヽ』
253
シーゴー『これは
怪
(
け
)
しからぬ、
254
天下
(
てんか
)
無双
(
むさう
)
の
勇士
(
ゆうし
)
二人
(
ふたり
)
を
手玉
(
てだま
)
に
取
(
と
)
つて
罵詈
(
ばり
)
嘲弄
(
てうろう
)
を
擅
(
ほしいまま
)
にし、
255
絶対
(
ぜつたい
)
無限
(
むげん
)
な
侮辱
(
ぶじよく
)
を
与
(
あた
)
へるとは
言語
(
ごんご
)
道断
(
だうだん
)
な
代物
(
しろもの
)
だ。
256
キツト
敵
(
かたき
)
を
取
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げますから、
257
其
(
その
)
覚悟
(
かくご
)
をなさるが
可
(
よ
)
からう』
258
ヨリコ『ホヽヽヽヽお
気
(
き
)
に
障
(
さはり
)
ましたら、
259
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
さいませ。
260
此
(
この
)
女帝
(
によてい
)
は
世間
(
せけん
)
普通
(
ふつう
)
一般
(
いつぱん
)
のガラクタ
男子
(
だんし
)
に
対
(
たい
)
し、
261
万丈
(
ばんぢやう
)
の
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
いた
迄
(
まで
)
です。
262
貴方
(
あなた
)
のやうな
男
(
をとこ
)
の
中
(
なか
)
の
男
(
をとこ
)
、
263
天晴
(
あつぱれ
)
偉丈夫
(
ゐぢやうぶ
)
に
対
(
たい
)
しては
例外
(
れいぐわい
)
ですワ。
264
私
(
わたし
)
、
265
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はシーゴー
様
(
さま
)
が
本当
(
ほんたう
)
に
好
(
す
)
きなのよ、
266
ねー、
267
シーゴー
様
(
さま
)
、
268
頭
(
かしら
)
に
純白
(
じゆんぱく
)
の
雪
(
ゆき
)
を
頂
(
いただ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
269
其
(
その
)
艶々
(
つやつや
)
しいお
面
(
かほ
)
、
270
之
(
これ
)
が
世
(
よ
)
の
所謂
(
いはゆる
)
白髪
(
はくはつ
)
童顔
(
どうがん
)
とでも
申
(
まを
)
しませうか。
271
丸
(
まる
)
つ
切
(
き
)
り
劫
(
ごふ
)
を
経
(
へ
)
た
狒々公
(
ひひこう
)
のやうですワ。
272
ヒヽヽヽ』
273
シーゴー『これはしたり、
274
怪
(
け
)
しからぬ
女帝
(
によてい
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
275
益々
(
ますます
)
以
(
もつ
)
て
八
(
はち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
を、
276
讒誣
(
ざんぶ
)
嘲笑
(
てうせう
)
なさるか』
277
ヨリコ『
滅相
(
めつさう
)
もない、
278
ここに
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
がゐらつしやるぢやありませぬか』
279
シーゴー『エヘヽヽヽヽヽ、
280
褒
(
ほ
)
めたり、
281
くさしたり、
282
上
(
あ
)
げたり
下
(
お
)
ろしたり、
283
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だかチツトも
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らない。
284
瞹昧
(
あいまい
)
模糊
(
もこ
)
として
竜
(
りう
)
の
如
(
ごと
)
く
霞
(
かすみ
)
の
如
(
ごと
)
く、
285
吾々
(
われわれ
)
の
馬力
(
ばりき
)
では
到底
(
たうてい
)
其
(
その
)
首尾
(
しゆび
)
を
捕捉
(
ほそく
)
することは
出来
(
でき
)
ぬワイ、
286
エツヘヽヽヽヽヽ』
287
ヨリコ『
妾
(
わたし
)
は
其
(
その
)
白髪
(
はくはつ
)
童顔
(
どうがん
)
が
大変
(
たいへん
)
に
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つてますのよ。
288
大政党
(
だいせいたう
)
を
率
(
ひき
)
つれ、
289
平民
(
へいみん
)
大臣
(
だいじん
)
として
時
(
とき
)
めきわたり
遊
(
あそ
)
ばす
大資格
(
だいしかく
)
が
備
(
そな
)
はつてゐるのですもの。
290
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
用心
(
ようじん
)
なさいませよ。
291
停車場
(
ていしやぢやう
)
や
人
(
ひと
)
ごみの
中
(
なか
)
を、
292
何時
(
いつ
)
中岡
(
なかをか
)
艮一
(
こんいち
)
が
現
(
あら
)
はれるか
知
(
し
)
れませぬからね、
293
オツホヽヽヽ』
294
シーゴー『
未来
(
みらい
)
における
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
総理
(
そうり
)
大臣
(
だいじん
)
とは
縁起
(
えんぎ
)
が
可
(
い
)
い。
295
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
296
刺客
(
しかく
)
に
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
丈
(
だけ
)
は
真平
(
まつぴら
)
だ』
297
ヨリコ『そらさうです
共
(
とも
)
、
298
古今
(
ここん
)
無双
(
むそう
)
のナイスに
惚
(
ほ
)
れられて、
299
其
(
その
)
上
(
うへ
)
権力
(
けんりよく
)
は
天下
(
てんか
)
に
並
(
なら
)
びなく、
300
酔
(
よ
)
ふては
眠
(
ねむ
)
る
窈窕
(
えうてう
)
美人
(
びじん
)
の
膝
(
ひざ
)
、
301
醒
(
さ
)
めては
握
(
にぎ
)
る
堂々
(
だうだう
)
天下
(
てんか
)
の
権
(
けん
)
……と
酒
(
さけ
)
の
機嫌
(
きげん
)
で
唄
(
うた
)
つてゐると、
302
そこへキツト
刺客
(
しかく
)
が
現
(
あら
)
はれやうまいものでもありませぬよ。
303
恋
(
こひ
)
の
仇
(
かたき
)
とやらいふ
曲神
(
まがかみ
)
が
現
(
あら
)
はれましてね』
304
シーゴー『
其
(
その
)
刺客
(
しかく
)
といふのは、
305
一体
(
いつたい
)
どんな
奴
(
やつ
)
だ』
306
ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ、
307
此処
(
ここ
)
では
一寸
(
ちよつと
)
差支
(
さしつかへ
)
ますが、
308
ゲのつく
色男
(
いろをとこ
)
さまですよ。
309
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
なさいませ』
310
玄真
(
げんしん
)
『コリヤ、
3101
女帝
(
によてい
)
311
何
(
なん
)
といふ
暴言
(
ばうげん
)
を
吐
(
は
)
くのだ。
312
亭主
(
ていしゆ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのか。
313
モウ
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り、
314
貴様
(
きさま
)
のやうな
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
い
不卓腐
(
ふてくさ
)
れには
暇
(
ひま
)
を
遣
(
つか
)
はさぬワイ』
315
ヨリコ『ホヽヽヽ、
316
あのマア
妙
(
めう
)
な
面
(
かほ
)
ワイの、
317
丸
(
まる
)
つ
切
(
き
)
り
古狸
(
ふるだぬき
)
の
化
(
ば
)
け
損
(
そこな
)
つたやうだワ』
318
シーゴー『
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
女帝
(
によてい
)
さまに
嘲弄
(
からかわ
)
れて
居
(
を
)
つても
事務
(
じむ
)
が
進捗
(
しんせふ
)
せない。
319
サア、
320
之
(
これ
)
は
之
(
これ
)
で
切上
(
きりあ
)
げて、
321
本問題
(
ほんもんだい
)
の
討議
(
たうぎ
)
にかからうぢやないか。
322
なア
玄真坊
(
げんしんばう
)
』
323
玄真
(
げんしん
)
『
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
324
女帝
(
によてい
)
は
女帝
(
によてい
)
として、
325
雲
(
くも
)
深
(
ふか
)
く
祭
(
まつ
)
り
上
(
あ
)
げておき、
326
親分
(
おやぶん
)
さまと
私
(
わたし
)
と
肝胆
(
かんたん
)
相照
(
あひて
)
らし、
327
唇歯
(
しんし
)
輔車
(
ほしや
)
的
(
てき
)
関係
(
くわんけい
)
を
益々
(
ますます
)
密接
(
みつせつ
)
にし、
328
空前
(
くうぜん
)
の
大業
(
たいげふ
)
につき
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
を
協議
(
けふぎ
)
致
(
いた
)
さうぢやありませぬか』
329
シーゴー『よからう。
330
併
(
しか
)
しヨリコさまに
居
(
を
)
つて
貰
(
もら
)
つちや
聊
(
いささ
)
か
憚
(
はばか
)
るやうだ。
331
失礼
(
しつれい
)
ながら
御
(
ご
)
退席
(
たいせき
)
を
願
(
ねが
)
ひませうか』
332
ヨリコ『ホヽヽ
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
許
(
ばか
)
りが
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めて、
333
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
メートルを
上
(
あ
)
げたつて、
334
馬力
(
ばりき
)
をかけたつて、
335
到底
(
たうてい
)
碌
(
ろく
)
な
相談
(
さうだん
)
は
纒
(
まと
)
まりますまい。
336
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
の
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
の
御
(
ご
)
手腕
(
しゆわん
)
は
念入
(
ねんい
)
りに
拝見
(
はいけん
)
さして
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
りますワ。
337
……
女
(
をんな
)
賢
(
さか
)
しうして
牛
(
うし
)
売
(
う
)
り
損
(
そこな
)
ふとやら、
338
或
(
あるひ
)
は
女子
(
ぢよし
)
と
小人
(
せうじん
)
は
養
(
やしな
)
ひ
難
(
がた
)
しとやら、
339
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
子
(
こ
)
はなす
共
(
とも
)
、
340
女
(
をんな
)
に
大事
(
だいじ
)
をあかすなとやら、
341
女
(
をんな
)
は
嫉妬
(
しつと
)
の
権化
(
ごんげ
)
だとか、
342
悪魔
(
あくま
)
の
化身
(
けしん
)
だとか、
343
婦女子
(
ふぢよし
)
の
言
(
げん
)
信
(
しん
)
ず
可
(
べか
)
らず……とか
今時
(
いまどき
)
の
男子
(
だんし
)
は
自分
(
じぶん
)
の
馬鹿
(
ばか
)
を
棚
(
たな
)
に
上
(
あ
)
げて、
344
交際
(
かうさい
)
場裡
(
ぢやうり
)
の
花
(
はな
)
ともいふべき
婦人
(
ふじん
)
に
対
(
たい
)
し
冷笑
(
れいせう
)
軽侮
(
けいぶ
)
を
以
(
もつ
)
て
迎
(
むか
)
へてをりますが、
345
女
(
をんな
)
だつて、
3451
さう
捨
(
す
)
てたものではありませぬよ。
346
本当
(
ほんたう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
は
女
(
をんな
)
にあるのですからなア。
347
よく
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい、
348
釈迦
(
しやか
)
も
孔子
(
こうし
)
もキリストも
皆
(
みな
)
女
(
をんな
)
の
玉門
(
ぎよくもん
)
から
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
されたものぢやありませぬか。
349
妾
(
わたし
)
がここに
居
(
を
)
りまして、
350
お
邪魔
(
じやま
)
になるとは
聞
(
きこ
)
えませぬよ。
351
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
を
云
(
い
)
へば、
352
表面
(
へうめん
)
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
に
親方
(
おやかた
)
様
(
さま
)
……とか、
353
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
とかいつて
面従
(
めんじゆう
)
して
居
(
を
)
りますが、
354
うしろ
向
(
む
)
いては
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
し、
355
……
取
(
と
)
るに
足
(
た
)
らない、
356
腑甲斐
(
ふがひ
)
ない、
357
ケチな
野郎
(
やらう
)
だなア……と、
358
何時
(
いつ
)
も
子供
(
こども
)
扱
(
あつかひ
)
にして
居
(
ゐ
)
るのですよ。
359
どうですか、
360
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
、
361
妾
(
わたし
)
を
智慧
(
ちゑ
)
の
宝庫
(
はうこ
)
として
尊重
(
そんちよう
)
し、
362
此
(
この
)
大望
(
たいまう
)
を
成就
(
じやうじゆ
)
する
考
(
かんが
)
へは
厶
(
ござ
)
いませぬか。
363
馬鹿
(
ばか
)
野郎
(
やらう
)
や、
364
下司
(
げす
)
の
智慧
(
ちゑ
)
で
到底
(
たうてい
)
天下
(
てんか
)
は
取
(
と
)
れませぬよホヽヽヽ。
365
雑言
(
ざふごん
)
無礼
(
ぶれい
)
の
段
(
だん
)
御
(
ご
)
勘弁
(
かんべん
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
366
と
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
なヨリコ
姫
(
ひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
に、
367
さしも
兇悪
(
きようあく
)
なる
二人
(
ふたり
)
は
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
て、
368
少時
(
しばし
)
言葉
(
ことば
)
も
出
(
で
)
なかつた。
369
ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
女
(
をんな
)
と
思召
(
おぼしめ
)
すでせうが、
370
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
で
驚
(
おどろ
)
くやうな
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
なれば
最早
(
もはや
)
取
(
と
)
るには
足
(
た
)
らない、
371
目
(
め
)
なつと
噛
(
か
)
んで
死
(
し
)
んだ
方
(
はう
)
が、
372
余程
(
よつぽど
)
男
(
をとこ
)
らしいですよ』
373
シーゴー『イヤ、
374
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
375
今日
(
けふ
)
から
貴女
(
あなた
)
の
部下
(
ぶか
)
にして
下
(
くだ
)
さい。
376
キツト
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
服従
(
ふくじう
)
致
(
いた
)
します』
377
ヨリコ『
決
(
けつ
)
して
間違
(
まちがひ
)
はありますまいな』
378
シーゴー『バラモン
男子
(
だんし
)
の
一言
(
いちごん
)
は
岩石
(
がんせき
)
の
如
(
ごと
)
く
動
(
うご
)
きませぬ』
379
ヨリコ『
宜
(
よろ
)
しい、
380
そんなら
今日
(
けふ
)
から
女帝
(
によてい
)
の
部下
(
ぶか
)
ですよ。
381
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
は
親方
(
おやかた
)
々々
(
おやかた
)
と
尊敬
(
そんけい
)
してゐましたが、
382
今日
(
けふ
)
からはシーゴーと
呼
(
よ
)
びつけを
致
(
いた
)
しますから、
383
其
(
その
)
お
覚悟
(
かくご
)
をなさいませ』
384
シーゴー『ハイ、
385
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
、
386
徹頭
(
てつとう
)
徹尾
(
てつび
)
、
387
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
誓
(
ちか
)
ひます』
388
ヨリコ『ホヽヽヽ、
389
善哉
(
ぜんざい
)
々々
(
ぜんざい
)
。
390
コレコレ
玄真
(
げんしん
)
さま、
391
お
前
(
まへ
)
は
何
(
ど
)
うする
考
(
かんが
)
へだい』
392
玄真
(
げんしん
)
『お
前
(
まへ
)
が
大親分
(
おほおやぶん
)
になつて、
393
シーゴーさまを
乾児
(
こぶん
)
とした
以上
(
いじやう
)
は、
394
俺
(
おれ
)
はお
前
(
まへ
)
の
夫
(
をつと
)
だ。
395
お
前
(
まへ
)
の
地位
(
ちゐ
)
が
高
(
たか
)
まると
共
(
とも
)
に
俺
(
おれ
)
の
地位
(
ちゐ
)
も
高
(
たか
)
まるのが
当然
(
たうぜん
)
の
帰結
(
きけつ
)
ぢやないか。
396
馬鹿
(
ばか
)
な
質問
(
しつもん
)
をするものぢやないワ、
397
アツハヽヽヽヽ』
398
ヨリコ『ホヽヽヽヽ
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
虫
(
むし
)
のよい、
399
唐変木
(
たうへんぼく
)
だこと、
400
物
(
もの
)
が
分
(
わか
)
らぬと
云
(
い
)
つても、
401
余
(
あま
)
りぢやないか。
402
最前
(
さいぜん
)
からの
女帝
(
によてい
)
の
言葉
(
ことば
)
にチヨコチヨコと
現
(
あら
)
はれてゐるのが、
403
お
前
(
まへ
)
さまは
気
(
き
)
がつかないのかい。
404
最早
(
もはや
)
今日
(
けふ
)
となつては、
405
ヨリコ
女帝
(
によてい
)
の
部下
(
ぶか
)
ですよ』
406
玄真
(
げんしん
)
『コリヤコリヤ
女帝
(
によてい
)
、
407
まだ
三行半
(
みくだりはん
)
を
渡
(
わた
)
した
事
(
こと
)
もなし、
408
さうお
前
(
まへ
)
の
方
(
はう
)
できめて
貰
(
もら
)
つても
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
に
承諾
(
しようだく
)
はしてゐないぢやないか』
409
ヨリコ『
三行半
(
みくだりはん
)
も
四行半
(
よくだりはん
)
も
要
(
い
)
りますか、
410
承諾
(
しようだく
)
も
妾宅
(
せふたく
)
もあつたものですか。
411
お
前
(
まへ
)
もモチツと
勉強
(
べんきやう
)
して
此
(
この
)
女帝
(
によてい
)
をへこます
丈
(
だけ
)
の
実力
(
じつりよく
)
が
具備
(
ぐび
)
したならば、
412
再
(
ふたた
)
び
夫婦
(
ふうふ
)
になつて
上
(
あ
)
げませう。
413
それ
迄
(
まで
)
は
夫婦
(
ふうふ
)
たる
権利
(
けんり
)
は
撤回
(
てつくわい
)
しますよ』
414
玄真
(
げんしん
)
『コレ、
415
シーゴーさま、
416
あんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ひますワ、
417
チツと
可
(
い
)
い
挨拶
(
あいさつ
)
をして
下
(
くだ
)
さいな』
418
シーゴー『エー、
419
君
(
きみ
)
、
420
断念
(
だんねん
)
し
玉
(
たま
)
へ、
421
君
(
きみ
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
は
提灯
(
ちやうちん
)
に
釣鐘
(
つりがね
)
だ。
422
到底
(
たうてい
)
智慧
(
ちゑ
)
と
云
(
い
)
ひ、
423
力
(
ちから
)
といひ、
424
不相応
(
ふさうおう
)
な
夫婦
(
ふうふ
)
の
関係
(
くわんけい
)
は
永続
(
えいぞく
)
は
難
(
むつ
)
かしいよ。
425
それよりも
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
426
此
(
この
)
女帝
(
によてい
)
を
謀師
(
ぼうし
)
とし、
427
日頃
(
ひごろ
)
の
大望
(
たいまう
)
を
成就
(
じやうじゆ
)
させようぢやないか。
428
女帝
(
によてい
)
の
承諾
(
しようだく
)
もなしに
形式
(
けいしき
)
的
(
てき
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
だなんて
愛
(
あい
)
のない
夫婦
(
ふうふ
)
関係
(
くわんけい
)
は
険難
(
けんのん
)
だよ。
429
最前
(
さいぜん
)
も
女帝
(
によてい
)
が
言
(
い
)
つただらう、
430
……
幾度
(
いくど
)
も
幾度
(
いくど
)
もこの
頓馬
(
とんま
)
野郎
(
やらう
)
、
431
寝首
(
ねくび
)
をかいてやらうと
思
(
おも
)
つたか
知
(
し
)
れぬ……との
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
、
432
あれを
聞
(
き
)
いた
時
(
とき
)
や、
433
俺
(
おれ
)
も
体内
(
たいない
)
地震
(
ぢしん
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
したよ。
434
本当
(
ほんたう
)
に
腕
(
うで
)
の
凄
(
すご
)
い、
435
豪胆
(
がうたん
)
な
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
だ、
436
モウ
諦
(
あきら
)
めて
了
(
しま
)
へ。
437
それよりも
沢山
(
たくさん
)
な
乾児
(
こぶん
)
に
命
(
めい
)
じ、
438
世界
(
せかい
)
の
美人
(
びじん
)
を
誘拐
(
いうかい
)
して
来
(
き
)
て、
439
選
(
よ
)
り
取
(
ど
)
り
見取
(
みど
)
り、
440
不義
(
ふぎ
)
の
快楽
(
けらく
)
に
耽
(
ふけ
)
つた
方
(
はう
)
が
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
男
(
をとこ
)
らしいか
知
(
し
)
れないよ。
441
ヨリコ
女帝
(
によてい
)
許
(
ばか
)
りが
女
(
をんな
)
ぢやあるまいし、
442
男子
(
だんし
)
はモウ
少
(
すこ
)
し
心
(
こころ
)
を
広
(
ひろ
)
く
持
(
も
)
たないと
駄目
(
だめ
)
だよ』
443
玄真
(
げんしん
)
『エー、
444
仕方
(
しかた
)
がない、
445
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
446
夫
(
をつと
)
の
権利
(
けんり
)
を
放棄
(
はうき
)
します。
447
どうか
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
448
今日
(
こんにち
)
只今
(
ただいま
)
よりシーゴーの
親分
(
おやぶん
)
同様
(
どうやう
)
に
可愛
(
かあい
)
がつて
使
(
つか
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
449
ヨリコ『ヨシヨシ、
450
シーゴーは
左守
(
さもり
)
、
451
玄真
(
げんしん
)
は
右守
(
うもり
)
、
452
三位
(
さんみ
)
一体
(
いつたい
)
となつて、
453
天下
(
てんか
)
の
経綸
(
けいりん
)
を
行
(
おこな
)
ひませう』
454
茲
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
はヨリコ
姫
(
ひめ
)
に
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
権利
(
けんり
)
を
賦与
(
ふよ
)
し、
455
いよいよ
大陰謀
(
だいいんぼう
)
の
計画
(
けいくわく
)
にかかる
事
(
こと
)
となつた。
456
密議
(
みつぎ
)
の
次第
(
しだい
)
は
次章
(
じしやう
)
に
於
(
おい
)
て
明
(
あきら
)
かになるであらう。
457
オーラ
山
(
さん
)
の
醜
(
しこ
)
の
嵐
(
あらし
)
の
強
(
つよ
)
くして
458
四方
(
よも
)
の
草木
(
くさき
)
は
悩
(
なや
)
み
伏
(
ふ
)
しなむ。
459
女
(
をんな
)
てふものの
強
(
つよ
)
きを
今
(
いま
)
ぞ
知
(
し
)
る
460
醜
(
しこ
)
の
曲霊
(
まがつ
)
のまつらふみれば。
461
(
大正一三・一二・一六
旧一一・二〇
於祥雲閣
松村真澄
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