霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第七章 女(をんな)白浪(しらなみ)〔一六八九〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm6607
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 デカタン高原中(かうげんちう)の、0011最高地(さいかうち)、002而(しか)も地味(ちみ)最(もつと)も肥(こえ)たるトルマン国(ごく)の西北端(せいほくたん)に、003雲(くも)に聳(そび)えた大高山(だいかうざん)がある。004樹木(じゆもく)密生(みつせい)して昼(ひる)猶(なほ)暗(くら)く、005猛獣(まうじう)毒蛇(どくだ)の棲息(せいそく)するもの最(もつと)も多(おほ)しと伝(つた)へられてゐる。006之(これ)がオーラ山(さん)である。007オーラ山(さん)と云(い)ふのは008沢山(たくさん)の山(やま)が同(おな)じ形(かたち)に並(なら)んでゐる意味(いみ)であつて、009数百(すうひやく)里(り)に延長(えんちやう)し、010此(この)区域(くゐき)をオーラ山脈(さんみやく)地帯(ちたい)と称(しよう)してゐる。011谷々(たにだに)より流(なが)れ出(い)づる水(みづ)は何(いづ)れもオーラ河(がは)に注(そそ)ぎ、012印度(いんど)を縦断(じうだん)して印度洋(いんどやう)に注(そそ)ぐ有名(いうめい)な大河(たいが)である。
013 元(もと)バラモン教(けう)の修験者(しゆげんじや)たりしシーゴー坊(ばう)は、014片腕(かたうで)と頼(たの)む玄真坊(げんしんばう)と共(とも)に此(この)山脈(さんみやく)の中心地(ちうしんち)、015即(すなは)ちオーラ山(さん)に根拠(こんきよ)を構(かま)へ、016時(とき)の到(いた)るを待(ま)つて、017先(ま)づバルガン城(じやう)を占領(せんりやう)し、018勢(せい)を集(あつ)めてハルナの都(みやこ)に押(おし)寄(よ)せ、019大黒主(おほくろぬし)を征伐(せいばつ)し、020印度(いんど)一国(いつこく)の覇権(はけん)を握(にぎ)らむと、021三千(さんぜん)の部下(ぶか)を引連(ひきつ)れて山寨(さんさい)を造(つく)り、022オーラ河(がは)を利用(りよう)し、023一切(いつさい)の挙兵(きよへい)準備(じゆんび)に着手(ちやくしゆ)してゐた。024先(ま)づ第一(だいいち)に必要(ひつえう)なのは軍資金(ぐんしきん)である。025彼(かれ)は所在(あらゆる)方法(はうはふ)手段(しゆだん)を講(かう)じて金品(きんぴん)穀類(こくるゐ)並(ならび)に武器(ぶき)を蒐集(しうしふ)する事(こと)に腐心(ふしん)してゐた。026オーラ山(さん)の中腹(ちうふく)には稍(やや)広(ひろ)き平地(へいち)があつて、027数(すう)里(り)を隔(へだ)てた遠方(ゑんぱう)から、028幾抱(いくかか)えとも知(し)れぬ大杉(おほすぎ)のコンモリとした枝(えだ)が目立(めだ)つて見(み)えてゐる。029シーゴー、030玄真坊(げんしんばう)の二人(ふたり)は首(くび)を鳩(あつ)め、031秘密会(ひみつくわい)を開(ひら)いた。
032シーゴー『オイ玄真(げんしん)、033計画(けいくわく)もおひおひ緒(ちよ)につき、034三千(さんぜん)の部下(ぶか)は集(あつ)まつたが、035併(しか)し乍(なが)ら食料(しよくれう)の欠乏(けつぼう)と云(い)ひ、036武器(ぶき)の不足(ふそく)といひ、037到底(たうてい)此(この)儘(まま)に経過(けいくわ)すれば、038折角(せつかく)の計画(けいくわく)も画餅(ぐわへい)に帰(き)するより途(みち)はない。039又(また)豺狼(さいらう)の如(ごと)き部下(ぶか)を統一(とういつ)せむとすれば、040食糧(しよくりやう)が豊富(ほうふ)でなくては、041吾々(われわれ)の命令(めいれい)も聞(き)かなくなつて了(しま)ふ。042何(なん)ぞ可(い)い工夫(くふう)はあるまいかなア』
043玄真(げんしん)『左様(さやう)で厶(ござ)いますなア。044私(わたし)もいろいろと思案(しあん)を致(いた)して居(を)りますが、045何(なん)と云(い)つてもバラモンの信仰(しんかう)を以(もつ)て固(かた)まつた此(この)国(くに)、046一(ひと)つの奇瑞(きずゐ)を現(あら)はし、047人心(じんしん)を収攬(しうらん)し、048信仰(しんかう)の力(ちから)に仍(よ)つて、049金銭(きんせん)物品(ぶつぴん)其(その)他(た)の武器(ぶき)を献上(けんじやう)させては如何(いかが)で厶(ござ)いませう。050私(わたし)は之(これ)より外(ほか)に可(い)い方法(はうはふ)はなからうかと存(ぞん)じます』
051シーゴー『成程(なるほど)、052可(い)い所(ところ)へ気(き)がついた。053俺(おれ)も永(なが)らくバラモンの修験者(しゆげんじや)をやつてゐ乍(なが)ら、054宗教(しうけう)的(てき)信仰(しんかう)を以(もつ)て人心(じんしん)を収攬(しうらん)し、055大望(たいまう)を達(たつ)せむとする最善(さいぜん)の方法(はうはふ)手段(しゆだん)は気(き)がつかなかつた。056併(しか)し乍(なが)ら斯(か)かる山奥(やまおく)に在(あ)つて、057人(ひと)を集(あつ)むるは容易(ようい)の事(こと)ではあるまい』
058玄真(げんしん)『サア其(その)事(こと)に付(つ)いて、059私(わたし)も頭(あたま)を悩(なや)めて居(を)ります。060里(さと)近(ちか)く出(い)づれば人(ひと)の寄(よ)りは宜(よろ)しいが、061秘密(ひみつ)の漏洩(ろうえい)する虞(おそれ)がある。062此(この)山奥(やまおく)に居(を)れば安全(あんぜん)ではありますが、063人(ひと)を集(あつ)める事(こと)は容易(ようい)ではありますまい。064余程(よほど)の離(はな)れ業(わざ)をして見(み)せむ事(こと)には、065此(この)山奥(やまおく)へ愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)をおびきよせる事(こと)は難(むつか)しいでせう』
066シーゴー『俺(おれ)もいろいろ雑多(ざつた)と考(かんが)へてはみたが、067第一(だいいち)食糧(しよくりやう)の窮乏(きうばふ)を告(つ)げるやうな事(こと)では此(この)大望(たいまう)は成就(じやうじゆ)せない。068三千(さんぜん)の部下(ぶか)に泥棒(どろばう)許(ばか)りさせてゐても、069結局(けつきよく)統一(とういつ)が出来(でき)なくなり、070終(つひ)には国民(こくみん)の嫌悪(けんを)を買(か)ひ怨府(ゑんぷ)となり、071大業(たいげふ)の妨害(ばうがい)を来(きた)すであらう。072何(なん)とか可(い)い方法(はうはふ)手段(しゆだん)を捻(ひね)り出(だ)せないものかなア』
073 両人(りやうにん)は首(くび)を傾(かたむ)け思案(しあん)に暮(く)れてゐる。074そこへ岩窟(いはや)の戸(と)を開(あ)けて次(つぎ)の岩窟(いはや)から這入(はい)つて来(き)たのは玄真坊(げんしんばう)の妻(つま)ヨリコ姫(ひめ)であつた。
075ヨリコ『あゝこれはこれは親方(おやかた)様(さま)、076旦那(だんな)様(さま)、077何(なに)か可(い)いお話(はなし)が出来(でき)てゐるやうですなア。078どうか私(わたし)にも御(お)招伴(せうばん)さして下(くだ)さいませ』
079シーゴー『ウーン、080イヤ、081何(なん)でもない。082余(あま)り大原野(だいげんや)の風景(ふうけい)が佳(い)いので、083玄真(げんしん)殿(どの)と眺望(てうばう)を恣(ほしいまま)にしてゐた所(ところ)だ』
084ヨリコ『ホヽヽヽ妙(めう)な事(こと)を仰有(おつしや)いますな。085岩窟(いはや)の戸(と)を閉(し)めきつておき乍(なが)ら、086大原野(だいげんや)をみはらすの、087眺望(てうばう)が佳(よ)いのと、088子供(こども)を騙(だま)すやうな御(お)言葉(ことば)、089何(なに)程(ほど)お隠(かく)しなさつても、090貴方(あなた)等(がた)の心(こころ)の奥(おく)迄(まで)看破(かんぱ)して居(を)りますよ』
091玄真(げんしん)『ナアニ、092本当(ほんたう)に見(み)てゐたのだよ。093今(いま)お前(まへ)が来(く)る一寸(ちよつと)前(まへ)に戸(と)を閉(し)めた所(ところ)だ』
094ヨリコ『ホヽヽヽ嘘(うそ)許(ばつか)り、095そんな白々(しらじら)しい事(こと)が仰有(おつしや)られますわい。096貴方(あなた)等(がた)は妾(わらは)を女(をんな)と侮(あなど)り097いつもコソコソとよからぬ御(ご)相談(さうだん)許(ばか)りしてゐられますが、098小(ちい)さい悪(あく)をするよりも一層(いつそう)男(をとこ)らしう大悪(だいあく)をなさつたら何(ど)うですか。099大悪(だいあく)は大善(だいぜん)に似(に)たり……といふ事(こと)があるぢやありませぬか』
100玄真(げんしん)『女神(めがみ)のやうな優(やさ)しいお前(まへ)にも似(に)ず、101今日(けふ)は又(また)太(ふと)い事(こと)を云(い)ふぢやないか。102人間(にんげん)も変(かは)れば変(かは)るものだなア』
103ヨリコ『そらさうです共(とも)、104朱(しゆ)に交(まじ)はれば赤(あか)くなり、105麻(あさ)につれる蓬(よもぎ)、106門前(もんぜん)の小僧(こぞう)習(なら)はずに経(きやう)を読(よ)み、107勧学院(くわんがくゐん)の雀(すずめ)は蒙求(もうぎう)を囀(さへづ)るとやら、108日日(ひにち)毎日(まいにち)悪党(あくたう)哲学(てつがく)の実習(じつしふ)を受(う)けてゐるのですもの、109悪(あく)にかけたら、110出藍(しゆつらん)の誉(ほまれ)ともいふべき妾(わたし)ですよ。111最早(もはや)妾(わたし)はタライの村(むら)時代(じだい)のヨリコ嬢(ぢやう)ではありませぬ。112比較(ひかく)的(てき)大悪党(だいあくたう)の玄真坊(げんしんばう)様(さま)が宿(やど)の妻(つま)、113ホヽヽヽ随分(ずいぶん)発達(はつたつ)したものでせう』
114シーゴー『何(なん)とマア感心(かんしん)だなア。115オイ玄真(げんしん)、116お前(まへ)も最早(もはや)安心(あんしん)だよ。117こんな有力(いうりよく)な後援者(こうゑんしや)が出来(でき)たのだから、118鬼(おに)に鉄棒(かなぼう)だ。119就(つ)いては俺(おれ)も百万(ひやくまん)の後楯(うしろだて)を得(え)た如(や)うだ。120あゝ愉快(ゆくわい)々々(ゆくわい)、121オツホヽヽヽ』
122と肩(かた)をゆすつて笑(わら)ふ。
123玄真(げんしん)『成程(なるほど)、124親方(おやかた)の仰(おほせ)の通(とほ)り、125随分(ずいぶん)悪化(あくくわ)したものですわい。126オイ、127ヨリコ、128実(じつ)の所(ところ)は親方(おやかた)や自分(じぶん)達(たち)の大望(たいまう)をお前(まへ)に打(うち)明(あ)けて、129後援(こうゑん)して貰(もら)ひたいと喉元(のどもと)迄(まで)出(で)てゐたが、130何(なん)と云(い)つても名人(めいじん)の画(ゑ)から抜(ぬけ)出(で)たやうな、131嬋娟(せんけん)窈窕(えうてう)たる其方(そなた)、132霊体(れいたい)一致(いつち)の関係(くわんけい)から見(み)ても、133優美(いうび)な高尚(かうしやう)な正直(しやうぢき)なお前(まへ)の心(こころ)、134こんな悪党(あくたう)な企(たく)らみを、135うつかりお前(まへ)に聞(き)かせて、136愛想(あいそ)をつかされ、137三(さん)年(ねん)の恋(こひ)は一度(いちど)に醒(さ)め、138俺(おれ)を振(ふ)りすてて逃(に)げ帰(かへ)るか、139但(ただし)は自害(じがい)でもしてくれちや大変(たいへん)だと、140今日(けふ)の日(ひ)迄(まで)秘密(ひみつ)を心(こころ)に包(つつ)んでゐたのだが、141お前(まへ)にそれ丈(だけ)の悪度胸(わるどきよう)があるとすれば、142俺(おれ)も最早(もはや)大安心(だいあんしん)だ。143天下(てんか)は吾(わが)意(い)の如(ごと)く軈(やが)てなるだらう。144テもさても愉快(ゆくわい)な事(こと)だわい、145アツハヽヽヽ』
146ヨリコ『夫(をつと)に連添(つれそ)ふ女房(にようばう)ぢや厶(ござ)いませぬか。147タライの村(むら)の吾(わが)家(や)へお泊(とま)り下(くだ)さつた時(とき)、148どつかに一癖(ひとくせ)のある御(おん)目(ま)なざし、149此(この)方(かた)は何(いづ)れは善(ぜん)か悪(あく)かは知(し)らね共(ども)、150大業(たいげふ)を企(くはだ)てる快男子(くわいだんじ)だと直覚(ちよくかく)しましたので、151大恩(だいおん)ある母(はは)を捨(す)て、152可愛(かあい)い妹(いもうと)に放(はな)れて、153貴方(あなた)に心中立(しんぢうだて)をしたので厶(ござ)います。154ここ迄(まで)打明(うちあ)けた以上(いじやう)は決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)なく、155一切(いつさい)万事(ばんじ)私(わたし)も相談(さうだん)に乗(の)せて下(くだ)さいませ』
156玄真(げんしん)『何(なん)とマア、157女(をんな)といふ者(もの)は分(わか)らぬものだなア。158否(いな)159恐(おそ)ろしい者(もの)だなア、160丸切(まるき)り化物(ばけもの)だ。161能(よ)くマア、162こんな極悪(ごくあく)美人(びじん)を抱(だ)いて寝(ね)て、163寝首(ねくび)をかかれなかつた事(こと)だワイ、164アツハヽヽヽ』
165シーゴー『ウツフヽヽヽヽヽ、166ますます面白(おもしろ)くなつて来(き)た。167鬼(おに)の夫(をつと)に蛇(じや)の女房(にようばう)……とは能(よ)く言(い)つたものだ、168エツヘヽヽヽ』
169ヨリコ『もし親方(おやかた)様(さま)、170珍(めづ)らし相(さう)に何(なん)で厶(ござ)いますか、171女(をんな)は魔物(まもの)と昔(むかし)からいふぢやありませぬか。172私(わたし)も玄真坊(げんしんばう)様(さま)と三(さん)年(ねん)が間(あひだ)暮(くら)してゐる間(ま)に、173時々(ときどき)気(き)の弱(よわ)い事(こと)を云(い)つたり、174世(よ)をはかなんだりなさる度(たび)毎(ごと)に、175…エーエ腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だな、176一層(いつそう)の事(こと)、177寝首(ねくび)をかいてやらうか。178イヤ待(ま)て待(ま)て現代(げんだい)の男(をとこ)といふ奴(やつ)、179何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も腰抜(こしぬけ)許(ばか)りだ。180善(ぜん)を徹底(てつてい)的(てき)に行(おこな)ふでもなければ、181悪(あく)を徹底(てつてい)的(てき)に遂行(すゐかう)する快男児(くわいだんじ)もない。182世間(せけん)の男(をとこ)から比(くら)べて見(み)れば、183此(この)玄真坊(げんしんばう)様(さま)は幾分(いくぶん)か偽善(ぎぜん)と悪辣(あくらつ)との手腕(しゆわん)が、184チツと許(ばか)り優(まさ)つてゐるやうに思(おも)つたので185自分(じぶん)の意(い)には充(み)たないけれど、1851将来(しやうらい)何(なに)か使(つか)つてやる時(とき)もあらうと、186今(いま)迄(まで)辛抱(しんばう)してゐたのですよ、187オツホヽヽヽ。188玄真(げんしん)様(さま)、189誠(まこと)に済(す)みませぬが、190決(けつ)して悪(わる)く思(おも)つて下(くだ)さいますな。191妾(わたし)だつて時々(ときどき)愛(あい)は注(そそ)いでゐるでせう。192何(なん)と云(い)つても人体(じんたい)自然(しぜん)の理(り)に依(よ)つて月(つき)に一度(いちど)や二度(にど)は、193発情期(はつじやうき)が出(で)て来(き)ますからねえ。194ひだるい時(とき)のまづい物(もの)なし、195喉(のど)の渇(かわ)いた時(とき)は、196泥田(どろた)の水(みづ)も呑(の)めば甘露(かんろ)の味(あぢ)がするとやら、197本当(ほんたう)に貴郎(あなた)は、198妾(わたし)が唯一(ゆゐいつ)の慰安者(ゐあんしや)でしたよ、199小(せう)なる救世主(きうせいしゆ)でしたよ。200ホツホヽヽヽ』
201玄真(げんしん)『チエツー、202馬鹿(ばか)にしてゐる。203さうするとお前(まへ)は俺(おれ)の威力(ゐりよく)に恐(おそ)れて、204心(こころ)ならずも服従(ふくじう)してゐたのだな。205そして時々(ときどき)情欲(じやうよく)の炎(ほのほ)を消(け)すポンプに使(つか)つてゐたのだらう』
206ヨリコ『貴方(あなた)のポンプは人並(ひとなみ)勝(すぐ)れて馬(うま)並(なみ)でしたよ。207併(しか)し乍(なが)ら其(その)お蔭(かげ)でウツトコの孔口(こうこう)が拡大(くわくだい)し、208東経(とうけい)百度(ひやくど)、209北緯(ほくゐ)二百度(にひやくど)といふ大(だい)竜門洞(りうもんどう)が形(かたち)作(づく)られたのですもの、210ホツホヽヽヽ』
211玄真(げんしん)『エー、212お前(まへ)は男子(だんし)を嘲弄(てうろう)するのか』
213ヨリコ『ホヽヽヽさうです共(とも)、214聖人(せいじん)の言葉(ことば)にも、215長老(ちやうらう)を敬(うやま)へといふぢやありませぬか。216所謂(いはゆる)、217貴方(あなた)に対(たい)して嘲弄(てうろう)するのは結局(けつきよく)敬意(けいい)を表(へう)してゐたのですワ。218それに時々(ときどき)女(をんな)の腐(くさ)つたやうな、219チヨロ臭(くさ)い泣言(なきごと)を仰有(おつしや)るのを聞(き)く度(たび)毎(ごと)に、220胸(むね)がムカムカ致(いた)しましたよ。221和尚(おしやう)の屁(へ)は長老(ちやうらう)臭(くさ)いといひますからね。222時々(ときどき)丸(まる)で水(みづ)の中(なか)で屁(へ)をひつたやうな、223掴(つか)まへ所(どころ)のない計画(けいくわく)をしては失敗(しつぱい)をなさるのだもの、224カラツキシ信用(しんよう)がおけないぢやありませぬか』
225玄真(げんしん)『あーあ、226大変(たいへん)な女帝(によてい)様(さま)を女房(にようばう)に持(も)つたものだなア』
227ヨリコ『コリヤ面白(おもしろ)い、228妾(わたし)を女帝(によてい)様(さま)と云(い)ひましたね。229敬(うやま)ひ過(す)ぐれば礼(れい)を失(しつ)するとか申(まをし)まして、230貴方(あなた)は妾(わたし)に対(たい)し、231軽侮(けいぶ)嘲笑(てうせう)の的(まと)として厶(ござ)るのでせう。232併(しか)し乍(なが)ら愚弄(ぐろう)的(てき)にもせよ、233軽侮(けいぶ)的(てき)にもせよ、234女帝(によてい)といはれた其(その)言霊(ことたま)は、235妾(わたし)に取(と)つては身魂(みたま)相応(さうおう)、236実(じつ)に感謝(かんしや)致(いた)します、237ホツホヽヽヽ』
238シーゴー『コレコレ女帝(によてい)さま、239大変(たいへん)な馬力(ばりき)ぢやありませぬか』
240ヨリコ『ハイ、241馬力(ばりき)所(どころ)か、242象力(ざうりき)ですよ。243大象(だいざう)も女(をんな)の黒髪(くろかみ)一筋(ひとすぢ)にて曳(ひ)かれると云(い)ふぢやありませぬか。244男子(だんし)は馬力(ばりき)、245之(これ)を詳説(しやうせつ)すれば馬鹿力(ばかりき)と云(い)ひ、246女(をんな)は所謂(いはゆる)象力(ざうりき)です。247象(ざう)は憎(ぞう)に通(つう)じ248飽(あ)く迄(まで)男子(だんし)を憎悪(ぞうを)して居(を)つても女子(ぢよし)の精神(せいしん)を知(し)らず、249俺(おれ)に惚(ほれ)てゐるに違(ちがひ)ないと大変(たいへん)な馬鹿力(ばかりき)を出(だ)し象憎悪(ぞうぞお)しくも、250主人面(しゆじんづら)をさげて納(をさ)まり返(かへ)つてゐるのが世間(せけん)一般(いつぱん)の男子(だんし)の病患(びやうくわん)ですワ。251本当(ほんたう)に男子(だんし)といふ者(もの)は憐(あは)れな代物(しろもの)ですよ。252ホツホヽヽ』
253シーゴー『これは怪(け)しからぬ、254天下(てんか)無双(むさう)の勇士(ゆうし)二人(ふたり)を手玉(てだま)に取(と)つて罵詈(ばり)嘲弄(てうろう)を擅(ほしいまま)にし、255絶対(ぜつたい)無限(むげん)な侮辱(ぶじよく)を与(あた)へるとは言語(ごんご)道断(だうだん)な代物(しろもの)だ。256キツト敵(かたき)を取(と)つて上(あ)げますから、257其(その)覚悟(かくご)をなさるが可(よ)からう』
258ヨリコ『ホヽヽヽヽお気(き)に障(さはり)ましたら、259御免(ごめん)下(くだ)さいませ。260此(この)女帝(によてい)は世間(せけん)普通(ふつう)一般(いつぱん)のガラクタ男子(だんし)に対(たい)し、261万丈(ばんぢやう)の気焔(きえん)を吐(は)いた迄(まで)です。262貴方(あなた)のやうな男(をとこ)の中(なか)の男(をとこ)、263天晴(あつぱれ)偉丈夫(ゐぢやうぶ)に対(たい)しては例外(れいぐわい)ですワ。264私(わたし)、265実(じつ)の所(ところ)はシーゴー様(さま)が本当(ほんたう)に好(す)きなのよ、266ねー、267シーゴー様(さま)、268頭(かしら)に純白(じゆんぱく)の雪(ゆき)を頂(いただ)き乍(なが)ら、269其(その)艶々(つやつや)しいお面(かほ)、270之(これ)が世(よ)の所謂(いはゆる)白髪(はくはつ)童顔(どうがん)とでも申(まを)しませうか。271丸(まる)つ切(き)り劫(ごふ)を経(へ)た狒々公(ひひこう)のやうですワ。272ヒヽヽヽ』
273シーゴー『これはしたり、274怪(け)しからぬ女帝(によてい)のお言葉(ことば)、275益々(ますます)以(もつ)て八(はち)尺(しやく)の男子(だんし)を、276讒誣(ざんぶ)嘲笑(てうせう)なさるか』
277ヨリコ『滅相(めつさう)もない、278ここに玄真坊(げんしんばう)様(さま)がゐらつしやるぢやありませぬか』
279シーゴー『エヘヽヽヽヽヽ、280褒(ほ)めたり、281くさしたり、282上(あ)げたり下(お)ろしたり、283何(なに)が何(なん)だかチツトも訳(わけ)が分(わか)らない。284瞹昧(あいまい)模糊(もこ)として竜(りう)の如(ごと)く霞(かすみ)の如(ごと)く、285吾々(われわれ)の馬力(ばりき)では到底(たうてい)其(その)首尾(しゆび)を捕捉(ほそく)することは出来(でき)ぬワイ、286エツヘヽヽヽヽヽ』
287ヨリコ『妾(わたし)は其(その)白髪(はくはつ)童顔(どうがん)が大変(たいへん)に気(き)に入(い)つてますのよ。288大政党(だいせいたう)を率(ひき)つれ、289平民(へいみん)大臣(だいじん)として時(とき)めきわたり遊(あそ)ばす大資格(だいしかく)が備(そな)はつてゐるのですもの。290併(しか)し乍(なが)ら用心(ようじん)なさいませよ。291停車場(ていしやぢやう)や人(ひと)ごみの中(なか)を、292何時(いつ)中岡(なかをか)艮一(こんいち)が現(あら)はれるか知(し)れませぬからね、293オツホヽヽヽ』
294シーゴー『未来(みらい)における自転倒(おのころ)島(じま)の総理(そうり)大臣(だいじん)とは縁起(えんぎ)が可(い)い。295併(しか)し乍(なが)ら296刺客(しかく)に会(あ)ふ事(こと)丈(だけ)は真平(まつぴら)だ』
297ヨリコ『そらさうです共(とも)、298古今(ここん)無双(むそう)のナイスに惚(ほ)れられて、299其(その)上(うへ)権力(けんりよく)は天下(てんか)に並(なら)びなく、300酔(よ)ふては眠(ねむ)る窈窕(えうてう)美人(びじん)の膝(ひざ)、301醒(さ)めては握(にぎ)る堂々(だうだう)天下(てんか)の権(けん)……と酒(さけ)の機嫌(きげん)で唄(うた)つてゐると、302そこへキツト刺客(しかく)が現(あら)はれやうまいものでもありませぬよ。303恋(こひ)の仇(かたき)とやらいふ曲神(まがかみ)が現(あら)はれましてね』
304シーゴー『其(その)刺客(しかく)といふのは、305一体(いつたい)どんな奴(やつ)だ』
306ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ、307此処(ここ)では一寸(ちよつと)差支(さしつかへ)ますが、308ゲのつく色男(いろをとこ)さまですよ。309御(ご)用心(ようじん)なさいませ』
310玄真(げんしん)『コリヤ、3101女帝(によてい)311何(なん)といふ暴言(ばうげん)を吐(は)くのだ。312亭主(ていしゆ)を馬鹿(ばか)にするのか。313モウ今日(こんにち)限(かぎ)り、314貴様(きさま)のやうな気(き)の多(おほ)い不卓腐(ふてくさ)れには暇(ひま)を遣(つか)はさぬワイ』
315ヨリコ『ホヽヽヽ、316あのマア妙(めう)な面(かほ)ワイの、317丸(まる)つ切(き)り古狸(ふるだぬき)の化(ば)け損(そこな)つたやうだワ』
318シーゴー『何時(いつ)迄(まで)も女帝(によてい)さまに嘲弄(からかわ)れて居(を)つても事務(じむ)が進捗(しんせふ)せない。319サア、320之(これ)は之(これ)で切上(きりあ)げて、321本問題(ほんもんだい)の討議(たうぎ)にかからうぢやないか。322なア玄真坊(げんしんばう)』
323玄真(げんしん)『左様(さやう)で厶(ござ)います。324女帝(によてい)は女帝(によてい)として、325雲(くも)深(ふか)く祭(まつ)り上(あ)げておき、326親分(おやぶん)さまと私(わたし)と肝胆(かんたん)相照(あひて)らし、327唇歯(しんし)輔車(ほしや)的(てき)関係(くわんけい)を益々(ますます)密接(みつせつ)にし、328空前(くうぜん)の大業(たいげふ)につき最善(さいぜん)の方法(はうはふ)を協議(けふぎ)致(いた)さうぢやありませぬか』
329シーゴー『よからう。330併(しか)しヨリコさまに居(を)つて貰(もら)つちや聊(いささ)か憚(はばか)るやうだ。331失礼(しつれい)ながら御(ご)退席(たいせき)を願(ねが)ひませうか』
332ヨリコ『ホヽヽ頓馬(とんま)野郎(やらう)許(ばか)りが首(くび)を鳩(あつ)めて、333何(なに)程(ほど)メートルを上(あ)げたつて、334馬力(ばりき)をかけたつて、335到底(たうてい)碌(ろく)な相談(さうだん)は纒(まと)まりますまい。336今日(こんにち)迄(まで)の貴方(あなた)等(がた)の御(ご)手腕(しゆわん)は念入(ねんい)りに拝見(はいけん)さして頂(いただ)いて居(を)りますワ。337……女(をんな)賢(さか)しうして牛(うし)売(う)り損(そこな)ふとやら、338或(あるひ)は女子(ぢよし)と小人(せうじん)は養(やしな)ひ難(がた)しとやら、339七(しち)人(にん)の子(こ)はなす共(とも)、340女(をんな)に大事(だいじ)をあかすなとやら、341女(をんな)は嫉妬(しつと)の権化(ごんげ)だとか、342悪魔(あくま)の化身(けしん)だとか、343婦女子(ふぢよし)の言(げん)信(しん)ず可(べか)らず……とか今時(いまどき)の男子(だんし)は自分(じぶん)の馬鹿(ばか)を棚(たな)に上(あ)げて、344交際(かうさい)場裡(ぢやうり)の花(はな)ともいふべき婦人(ふじん)に対(たい)し冷笑(れいせう)軽侮(けいぶ)を以(もつ)て迎(むか)へてをりますが、345女(をんな)だつて、3451さう捨(す)てたものではありませぬよ。346本当(ほんたう)の英雄(えいゆう)は女(をんな)にあるのですからなア。347よく考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい、348釈迦(しやか)も孔子(こうし)もキリストも皆(みな)女(をんな)の玉門(ぎよくもん)から吐(は)き出(だ)されたものぢやありませぬか。349妾(わたし)がここに居(を)りまして、350お邪魔(じやま)になるとは聞(きこ)えませぬよ。351実(じつ)の所(ところ)を云(い)へば、352表面(へうめん)貴方(あなた)等(がた)に親方(おやかた)様(さま)……とか、353御(ご)主人(しゆじん)様(さま)とかいつて面従(めんじゆう)して居(を)りますが、354うしろ向(む)いては舌(した)を出(だ)し、355……取(と)るに足(た)らない、356腑甲斐(ふがひ)ない、357ケチな野郎(やらう)だなア……と、358何時(いつ)も子供(こども)扱(あつかひ)にして居(ゐ)るのですよ。359どうですか、360貴方(あなた)等(がた)、361妾(わたし)を智慧(ちゑ)の宝庫(はうこ)として尊重(そんちよう)し、362此(この)大望(たいまう)を成就(じやうじゆ)する考(かんが)へは厶(ござ)いませぬか。363馬鹿(ばか)野郎(やらう)や、364下司(げす)の智慧(ちゑ)で到底(たうてい)天下(てんか)は取(と)れませぬよホヽヽヽ。365雑言(ざふごん)無礼(ぶれい)の段(だん)御(ご)勘弁(かんべん)を願(ねが)ひます』
366と傍若(ばうじやく)無人(ぶじん)なヨリコ姫(ひめ)の言葉(ことば)に、367さしも兇悪(きようあく)なる二人(ふたり)は呆(あき)れ果(は)て、368少時(しばし)言葉(ことば)も出(で)なかつた。
369ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ大胆(だいたん)不敵(ふてき)の女(をんな)と思召(おぼしめ)すでせうが、370此(この)位(くらゐ)な事(こと)で驚(おどろ)くやうな貴方(あなた)等(がた)なれば最早(もはや)取(と)るには足(た)らない、371目(め)なつと噛(か)んで死(し)んだ方(はう)が、372余程(よつぽど)男(をとこ)らしいですよ』
373シーゴー『イヤ、374女帝(によてい)様(さま)、375今日(けふ)から貴女(あなた)の部下(ぶか)にして下(くだ)さい。376キツト御(ご)命令(めいれい)に服従(ふくじう)致(いた)します』
377ヨリコ『決(けつ)して間違(まちがひ)はありますまいな』
378シーゴー『バラモン男子(だんし)の一言(いちごん)は岩石(がんせき)の如(ごと)く動(うご)きませぬ』
379ヨリコ『宜(よろ)しい、380そんなら今日(けふ)から女帝(によてい)の部下(ぶか)ですよ。381今(いま)迄(まで)は親方(おやかた)々々(おやかた)と尊敬(そんけい)してゐましたが、382今日(けふ)からはシーゴーと呼(よ)びつけを致(いた)しますから、383其(その)お覚悟(かくご)をなさいませ』
384シーゴー『ハイ、385一切(いつさい)万事(ばんじ)、386徹頭(てつとう)徹尾(てつび)、387絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を誓(ちか)ひます』
388ヨリコ『ホヽヽヽ、389善哉(ぜんざい)々々(ぜんざい)。390コレコレ玄真(げんしん)さま、391お前(まへ)は何(ど)うする考(かんが)へだい』
392玄真(げんしん)『お前(まへ)が大親分(おほおやぶん)になつて、393シーゴーさまを乾児(こぶん)とした以上(いじやう)は、394俺(おれ)はお前(まへ)の夫(をつと)だ。395お前(まへ)の地位(ちゐ)が高(たか)まると共(とも)に俺(おれ)の地位(ちゐ)も高(たか)まるのが当然(たうぜん)の帰結(きけつ)ぢやないか。396馬鹿(ばか)な質問(しつもん)をするものぢやないワ、397アツハヽヽヽヽ』
398ヨリコ『ホヽヽヽヽ何時(いつ)迄(まで)も虫(むし)のよい、399唐変木(たうへんぼく)だこと、400物(もの)が分(わか)らぬと云(い)つても、401余(あま)りぢやないか。402最前(さいぜん)からの女帝(によてい)の言葉(ことば)にチヨコチヨコと現(あら)はれてゐるのが、403お前(まへ)さまは気(き)がつかないのかい。404最早(もはや)今日(けふ)となつては、405ヨリコ女帝(によてい)の部下(ぶか)ですよ』
406玄真(げんしん)『コリヤコリヤ女帝(によてい)、407まだ三行半(みくだりはん)を渡(わた)した事(こと)もなし、408さうお前(まへ)の方(はう)できめて貰(もら)つても此方(こちら)の方(はう)に承諾(しようだく)はしてゐないぢやないか』
409ヨリコ『三行半(みくだりはん)も四行半(よくだりはん)も要(い)りますか、410承諾(しようだく)も妾宅(せふたく)もあつたものですか。411お前(まへ)もモチツと勉強(べんきやう)して此(この)女帝(によてい)をへこます丈(だけ)の実力(じつりよく)が具備(ぐび)したならば、412再(ふたた)び夫婦(ふうふ)になつて上(あ)げませう。413それ迄(まで)は夫婦(ふうふ)たる権利(けんり)は撤回(てつくわい)しますよ』
414玄真(げんしん)『コレ、415シーゴーさま、416あんな事(こと)を言(い)ひますワ、417チツと可(い)い挨拶(あいさつ)をして下(くだ)さいな』
418シーゴー『エー、419君(きみ)、420断念(だんねん)し玉(たま)へ、421君(きみ)の夫婦(ふうふ)は提灯(ちやうちん)に釣鐘(つりがね)だ。422到底(たうてい)智慧(ちゑ)と云(い)ひ、423力(ちから)といひ、424不相応(ふさうおう)な夫婦(ふうふ)の関係(くわんけい)は永続(えいぞく)は難(むつ)かしいよ。425それよりも一層(いつそう)の事(こと)、426此(この)女帝(によてい)を謀師(ぼうし)とし、427日頃(ひごろ)の大望(たいまう)を成就(じやうじゆ)させようぢやないか。428女帝(によてい)の承諾(しようだく)もなしに形式(けいしき)的(てき)の夫婦(ふうふ)だなんて愛(あい)のない夫婦(ふうふ)関係(くわんけい)は険難(けんのん)だよ。429最前(さいぜん)も女帝(によてい)が言(い)つただらう、430……幾度(いくど)も幾度(いくど)もこの頓馬(とんま)野郎(やらう)、431寝首(ねくび)をかいてやらうと思(おも)つたか知(し)れぬ……との御(ご)託宣(たくせん)、432あれを聞(き)いた時(とき)や、433俺(おれ)も体内(たいない)地震(ぢしん)が勃発(ぼつぱつ)したよ。434本当(ほんたう)に腕(うで)の凄(すご)い、435豪胆(がうたん)な女帝(によてい)様(さま)だ、436モウ諦(あきら)めて了(しま)へ。437それよりも沢山(たくさん)な乾児(こぶん)に命(めい)じ、438世界(せかい)の美人(びじん)を誘拐(いうかい)して来(き)て、439選(よ)り取(ど)り見取(みど)り、440不義(ふぎ)の快楽(けらく)に耽(ふけ)つた方(はう)が何(なに)程(ほど)男(をとこ)らしいか知(し)れないよ。441ヨリコ女帝(によてい)許(ばか)りが女(をんな)ぢやあるまいし、442男子(だんし)はモウ少(すこ)し心(こころ)を広(ひろ)く持(も)たないと駄目(だめ)だよ』
443玄真(げんしん)『エー、444仕方(しかた)がない、445思(おも)ひ切(き)つて、446夫(をつと)の権利(けんり)を放棄(はうき)します。447どうか女帝(によてい)様(さま)、448今日(こんにち)只今(ただいま)よりシーゴーの親分(おやぶん)同様(どうやう)に可愛(かあい)がつて使(つか)つて下(くだ)さい』
449ヨリコ『ヨシヨシ、450シーゴーは左守(さもり)、451玄真(げんしん)は右守(うもり)、452三位(さんみ)一体(いつたい)となつて、453天下(てんか)の経綸(けいりん)を行(おこな)ひませう』
454 茲(ここ)に二人(ふたり)はヨリコ姫(ひめ)に絶対(ぜつたい)的(てき)権利(けんり)を賦与(ふよ)し、455いよいよ大陰謀(だいいんぼう)の計画(けいくわく)にかかる事(こと)となつた。456密議(みつぎ)の次第(しだい)は次章(じしやう)に於(おい)て明(あきら)かになるであらう。
457オーラ山(さん)の醜(しこ)の嵐(あらし)の強(つよ)くして
458四方(よも)の草木(くさき)は悩(なや)み伏(ふ)しなむ。
459女(をんな)てふものの強(つよ)きを今(いま)ぞ知(し)る
460醜(しこ)の曲霊(まがつ)のまつらふみれば。
461(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→