霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 恋(こひ)の夢路(ゆめぢ)〔一六九八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第4篇 恋連愛曖 よみ(新仮名遣い):れんれんあいあい
章:第16章 恋の夢路 よみ(新仮名遣い):こいのゆめじ 通し章番号:1698
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:バルガン城へ向かう原野、西(オーラ山)へ向かう原野 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-21 18:49:35 文字数:5047 OBC :rm6616
愛善世界社版:227頁 八幡書店版:第11輯 814頁 修補版: 校定版:231頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001梅公(うめこう)『三千(さんぜん)世界(せかい)の梅(うめ)の花(はな)
002一度(いちど)に開(ひら)く神(かみ)の教(のり)
003開(ひら)いて散(ち)りて実(み)を結(むす)ぶ
004月日(つきひ)と大地(だいち)の恩(おん)を知(し)れ
005此(この)世(よ)を清(きよ)むる生神(いきがみ)は
006高天原(たかあまはら)に神集(かむつど)ふ
007神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
008黒雲(くろくも)包(つつ)む天地(あめつち)を
009厳(いづ)の伊吹(いぶき)に吹(ふ)き払(はら)ひ
010瑞(みづ)の清水(しみづ)に清(きよ)めつつ
011天国(てんごく)浄土(じやうど)を永久(とこしへ)に
012此(この)地(ち)の上(うへ)に建設(けんせつ)し
013百八十(ももやそ)国(くに)の民草(たみぐさ)を
014常住(じやうぢう)不断(ふだん)の信楽(しんらく)に
015救(すく)はむものと遠近(をちこち)に
016神(かみ)のよさしの宣伝使(せんでんし)
017まくばり給(たま)ふぞ尊(たふと)けれ
018照国別(てるくにわけ)に従(したが)ひて
019産砂山(うぶすなやま)の霊場(れいぢやう)を
020後(あと)に眺(なが)めて河鹿山(かじかやま)
021沐雨(もくう)櫛風(しつぷう)の苦(く)を忍(しの)び
022夜(よ)を日(ひ)に継(つ)いでデカタンの
023風(かぜ)も激(はげ)しき高原地(かうげんち)
024トルマン国(ごく)に来(き)て見(み)れば
025ハルナの都(みやこ)に蟠(わだか)まる
026八岐(やまた)大蛇(をろち)の悪霊(あくれい)に
027左右(さいう)されたる曲津(まがつ)神(かみ)
028大黒主(おほくろぬし)の軍勢(ぐんぜい)が
029人(ひと)の住家(すみか)を焼(や)き払(はら)ひ
030金銀(きんぎん)物資(ぶつし)を掠奪(りやくだつ)し
031人妻(ひとづま)娘(むすめ)の分(わか)ちなく
032魔手(ましゆ)を延(の)ばして掻(か)ツ攫(さら)ひ
033深山(みやま)の奥(おく)へと忍(しの)び行(ゆ)く
034此(この)国民(くにたみ)は戦(をのの)きて
035夜(よ)も日(ひ)も碌(ろく)に寝(ね)むられぬ
036塗炭(とたん)の苦(くる)しみ見(み)るにつけ
037如何(いか)にもなして救(すく)はむと
038心(こころ)の駒(こま)はあせれども
039吾(わが)師(し)の君(きみ)の御許(みゆる)しを
040得(え)ざる悲(かな)しさ村肝(むらきも)の
041心(こころ)の駒(こま)を押(おさ)へつつ
042義勇(ぎゆう)の軍(いくさ)に従(したが)ひて
043バルガン城(じやう)に進(すす)み行(ゆ)く
044士気(しき)は俄(にはか)に昂舞(かうぶ)して
045其(その)勢(いきほひ)は天(てん)を衝(つ)く
046吾(わが)師(し)の君(きみ)やジャンクさま
047これの軍(いくさ)を指揮(しき)なして
048進(すす)ませ給(たま)へばバラモンの
049勇士(ゆうし)は如何(いか)に多(おほ)くとも
050荒野(あらの)を風(かぜ)の渡(わた)るごと
051服(まつろ)ひ来(きた)るは目(ま)の当(あた)り
052吾(われ)梅公(うめこう)は唯(ただ)一人(ひとり)
053軍(いくさ)に在(あ)らうが有(あ)るまいが
054此(この)全局(ぜんきよく)の戦(たたか)ひに
055いくらの影響(えいきやう)あるべきぞ
056師(し)の御心(みこころ)に叛(そむ)くとは
057吾(われ)も覚悟(かくご)の上(うへ)ながら
058はやりきつたる魂(たましひ)は
059タライの村(むら)の花香姫(はなかひめ)
060スガコの姫(ひめ)やサンダーさま
061三人(みたり)の哀(あは)れな境遇(きやうぐう)を
062救(すく)ひ出(いだ)して天国(てんごく)の
063花(はな)咲(さ)き香(にほ)ふ喜(よろこ)びに
064救(すく)はにやおかぬと雄健(をたけ)びし
065吾(わが)師(し)の君(きみ)の目(め)を忍(しの)び
066夜陰(やいん)に紛(まぎ)れて嘎々(かつかつ)と
067駒(こま)に鞭(むち)うち今(いま)此処(ここ)に
068限(かぎ)りも知(し)らぬ荒野原(あれのはら)
069目的(あてど)もなしに来(きた)りけり
070オーラの峰(みね)を見渡(みわた)せば
071夜(よ)な夜(よ)な光(ひか)る妖光(えうくわう)は
072曲神(まがかみ)共(ども)の集(あつ)まりて
073醜(しこ)の企(たく)みをなしつつも
074世人(よびと)を苦(くる)しめ居(ゐ)るならむ
075心(こころ)のせいかは知(し)らねども
076オーラの山(やま)が気(き)にかかり
077寝(ね)ても醒(さ)めても忘(わす)られぬ
078命(いのち)を的(まと)に唯(ただ)一騎(いつき)
079駒(こま)の蹄(ひづめ)の続(つづ)く迄(まで)
080如何(いか)に山途(やまみち)嶮(けは)しとも
081如何(いか)でひるまむ大和魂(やまとだま)
082思(おも)ひつめたる鉄石(てつせき)の
083心(こころ)の征矢(そや)ははや既(すで)に
084真弓(まゆみ)の弦(つる)を放(はな)れたり
085最早(もはや)返(かへ)らぬ吾(わが)意気地(いくぢ)
086彼(かれ)等(ら)三人(みたり)のあで人(びと)を
087まんまと救(すく)はせたまへかし
088三五教(あななひけう)を守(まも)ります
089国治立(くにはるたち)の大御神(おほみかみ)
090神(かむ)素盞嗚(すさのを)の大神(おほかみ)の
091御前(みまへ)に畏(かしこ)み願(ね)ぎまつる』
092 梅公(うめこう)はジャンクの家(いへ)に宿(とま)つた時(とき)、093スガコやサンダーの何者(なにもの)にか攫(さら)はれた事(こと)を聞(き)き、094何(なん)となくオーラ山(さん)に悪漢(わるもの)の為(た)めに閉(と)ぢ籠(こ)められて居(ゐ)るやうな、095暗示(あんじ)を何者(なにもの)にか与(あた)へられた。096さうして婆(ば)アさまの家(いへ)を訪(たづ)ねた時(とき)、097サンヨの娘(むすめ)花香(はなか)がバラモン軍(ぐん)に捉(とら)はれたと聞(き)いた時(とき)、098之(これ)も何処(どこ)かの山奥(やまおく)に隠(かく)されて居(ゐ)るやうな気(き)がした。099自分(じぶん)は恋(こひ)でもなく色(いろ)でもなく何(なん)となく同情心(どうじやうしん)に駆(か)られ、100この可憐(かれん)な女(をんな)を助(たす)けてやりたいと義侠心(ぎけふしん)に充(み)たされて居(ゐ)た。101けれども自分(じぶん)は照国別(てるくにわけ)の従者(じゆうしや)であり102勝手(かつて)気儘(きまま)に列(れつ)を離(はな)れる事(こと)は出来(でき)ぬ。103如何(いかが)はせむかと兎(と)つ追(お)ひつ思案(しあん)に暮(く)れながら、104照国別(てるくにわけ)、105ジャンクの義勇軍(ぎゆうぐん)に従(したが)ひ106駒(こま)に鞭(むち)打(う)つて渺茫(べうばう)たる大広原(だいくわうげん)を駆(か)け出(だ)したが、107黄昏時(たそがれどき)になり、108自分(じぶん)の乗馬(じやうば)は何(なに)程(ほど)鞭(むち)打(う)つてもいましめても一歩(いつぽ)も前(まへ)に進(すす)まうとはしない。109其(その)間(あひだ)に数多(あまた)の義勇軍(ぎゆうぐん)は梅公(うめこう)を大広原(だいくわうげん)の中(なか)に残(のこ)し110馬(うま)の蹄(ひづめ)に砂塵(しやぢん)を捲(ま)き上(あ)げながら暴風(ばうふう)の如(ごと)き勢(いきほひ)にてバルガン城(じやう)をさして進(すす)み行(ゆ)く。111梅公(うめこう)は馬上(ばじやう)にて双手(もろて)を組(く)み暫(しば)し思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)たが……吾(わが)馬(うま)に限(かぎ)つて何故(なぜ)進(すす)まぬのだらう、112何(なに)か深(ふか)き御(ご)神慮(しんりよ)のましますならむ……と試(こころ)みに右(みぎ)の手綱(たづな)を一寸(ちよつと)引(ひ)けば駒(こま)は頭(かしら)を西(にし)に立直(たてなほ)し、113星明(ほしあか)りの原野(げんや)をあてどもなく一瀉(いつしや)千里(せんり)の勢(いきほひ)で駆(か)け出(だ)した。114梅公(うめこう)は……あゝ師(し)の君(きみ)には済(す)まない、115併(しか)し乍(なが)ら肝腎(かんじん)の駒(こま)が進(すす)まないのは何(なに)か特別(とくべつ)の使命(しめい)が神界(しんかい)から下(くだ)つたのだらう。116今(いま)となつては何事(なにごと)も神(かみ)のまにまに行動(かうどう)するのみ……と決心(けつしん)の臍(ほぞ)を固(かた)めた。117乗馬(じやうば)は漸(やうや)く梅公(うめこう)の心(こころ)を知(し)つたかの如(ごと)く、118フサフサとした太(ふと)い長(なが)い尾(を)を左右(さいう)に振(ふ)り乍(なが)ら、119勇(いさ)ましく高(たか)く嘶(いなな)きつつポカリポカリと静(しづか)に歩(あゆ)み出(だ)した。
120 蒼(あを)ずんだ空(そら)に金銀色(きんぎんしよく)の星(ほし)は金箔(きんぱく)を打(う)つたる如(ごと)くキラリキラリと輝(かがや)いて121梅公(うめこう)の行動(かうどう)を監視(かんし)するものの如(ごと)くに思(おも)はれた。122天(てん)は高(たか)くして静(しづか)に、123地(ち)は際限(さいげん)なき茫々(ばうばう)たる原野(げんや)、124猛獣(まうじう)の声(こゑ)も聞(きこ)えず、125そよと吹(ふ)く風(かぜ)の響(ひびき)もなし、126唯(ただ)駒(こま)の鼻(はな)呼吸(いき)、127蹄(ひづめ)の音(おと)のみ砂地(すなぢ)の草(くさ)ツ原(ぱら)を駆(か)け行(ゆ)く音(おと)が柔(やはら)かにポカポカと聞(きこ)ゆるのみであつた。128左手(ゆんで)の方(かた)の、129コンモリとした小山(こやま)をみれば木立(こだち)の間(あひだ)からチヨロチヨロと火(ひ)が燃(も)えて居(ゐ)る。130梅公(うめこう)は……あの山麓(さんろく)に人家(じんか)あり、131何(なに)は兎(と)もあれ立(た)ち寄(よ)つて様子(やうす)を探(さぐ)りみむ……と左手(ゆんで)に馬首(ばしゆ)を廻(めぐ)らせば、132駒(こま)は勢(いきほ)ひ込(こ)んで驀進(まつしぐら)に進(すす)みゆく。133梅公(うめこう)は火(ひ)を目当(めあて)に駒(こま)の足音(あしおと)を忍(しの)ばせながら、134木蔭(こかげ)に近(ちか)づき眺(なが)むれば、135バラモンの落武者(おちむしや)と見(み)えて四五(しご)人(にん)の荒(あら)くれ男(をとこ)、136一人(ひとり)の美人(びじん)を後手(うしろで)に縛(しば)り、137何事(なにごと)か荒々(あらあら)しく叫(さけ)びながら女(をんな)の体(からだ)を所(ところ)かまはず鞭(むち)にて打(う)ち据(す)ゑてゐる。138其(その)度毎(たびごと)に女(をんな)はヒイヒイと悲鳴(ひめい)を上(あ)げ、139髪(かみ)振(ふり)乱(みだ)し、140無念(むねん)の歯(は)を喰(くひ)しばり美人(びじん)乍(なが)らも形相(ぎやうさう)凄(すさま)じく、141遉(さすが)の梅公(うめこう)も肝(きも)を潰(つぶ)す許(ばか)りであつた。142梅公(うめこう)は……如何(いか)にもして彼女(かのぢよ)を助(たす)けてやりたい。143今(いま)や彼(かれ)は血(ち)に餓(う)ゑたる豺狼(さいらう)の餌食(ゑじき)たらむとするのであるか、144あゝ不愍(ふびん)なものだ。145併(しか)し乍(なが)ら敵(てき)は数人(すうにん)の荒武者(あらむしや)、146自分(じぶん)は一人(ひとり)だ。147されど、148千(せん)里(り)の駿足(しゆんそく)を力(ちから)として万一(まんいち)失敗(しつぱい)した時(とき)は一目散(いちもくさん)に逃(に)げ出(だ)せばよい。149一(ひと)つ試(ため)しに脅(おど)かして見(み)む……と、150密樹(みつじゆ)の蔭(かげ)に駒(こま)を寄(よ)せ馬上(ばじやう)より大音声(だいおんじやう)、
151梅公(うめこう)『ウハヽヽヽ、152某(それがし)はオーラ山(さん)に鎮(しづ)まる天降坊(てんかうばう)と申(まを)す大天狗(だいてんぐ)だ。153汝(なんぢ)等(ら)不届(ふとど)き至極(しごく)にも、154繊弱(かよわ)き婦人(ふじん)を弄(もてあそ)び、155無体(むたい)の恋慕(れんぼ)を企(くはだ)て、156非望(ひばう)を遂(と)げむとする憎(につく)き曲者(くせもの)、157今(いま)や当山(たうざん)の眷族(けんぞく)共(ども)が報告(はうこく)により、158汝(なんぢ)等(ら)一同(いちどう)の悪人(あくにん)共(ども)を征伐(せいばつ)せむ為(た)め、159今(いま)此処(ここ)に立(た)ち向(むか)ふたり、160不届者(ふとどきもの)奴(め)、161其処(そこ)動(うご)くな、162ウーウー』
163と唸(うな)り立(た)つるや、164寝耳(ねみみ)に水(みづ)のバラモン共(ども)は忽(たちま)ち度(ど)を失(うしな)ひ、165女(をんな)を捨(す)てて、
166『天狗(てんぐ)だ天狗(てんぐ)だ』
167と呼(よ)ばはり乍(なが)ら軍服(ぐんぷく)や帽(ばう)や靴(くつ)、168剣(けん)などを其(その)場(ば)に捨(す)ておき、169思(おも)ひ思(おも)ひに逃(に)げ散(ち)つて了(しま)つた。
170梅公(うめこう)『アハヽヽヽ。171案(あん)に相違(さうゐ)の弱虫(よわむし)共(ども)、172吾(わが)言霊(ことたま)に辟易(へきえき)して脆(もろ)くも逃(に)げ散(ち)つたるその可笑(をか)しさ。173ても扨(さ)ても愉快(ゆくわい)な事(こと)だわい』
174と独語(ひとりご)ちつつ駒(こま)の手綱(たづな)を引(ひ)きしめ引(ひ)きしめ女(をんな)の傍(かたはら)に進(すす)みより、175ヒラリと駒(こま)を飛(と)び降(お)りて女(をんな)の縄目(なはめ)を解(と)き水筒(すいとう)の水(みづ)を口(くち)に含(ふく)ませ、176二(ふた)つ三(み)つ背(せな)を叩(たた)けば、177ウンと女(をんな)は呼吸(いき)吹(ふ)きかへし、178梅公(うめこう)の顔(かほ)を星影(ほしかげ)に透(す)かし見(み)て、
179女(をんな)(花香姫)『どうかお助(たす)け下(くだ)さいませ。180何(なん)と仰有(おつしや)つても私(わたし)は許嫁(いひなづけ)が厶(ござ)いますから、181身(み)を汚(けが)す事(こと)は出来(でき)ませぬ。182これ許(ばか)りは御(ご)勘弁(かんべん)を願(ねが)ひます。183いくらお責(せ)め下(くだ)さいましても命(いのち)にかへても操(みさを)を守(まも)らねばなりませぬ』
184と掌(て)を合(あは)す。
185梅公(うめこう)『これこれお女中(ぢよちう)、186拙者(せつしや)は決(けつ)してバラモン軍(ぐん)ではない。187三五教(あななひけう)の梅公(うめこう)と云(い)ふ神(かみ)の使(つかひ)だ。188お前(まへ)さまが大勢(おほぜい)の男(をとこ)に責(せ)められて居(を)るのを見(み)るに忍(しの)びず、189命(いのち)を的(まと)に敵(てき)を追(お)ひ散(ち)らしてやつたのだ。190安心(あんしん)しなさい。191決(けつ)して操(みさを)を破(やぶ)るやうな事(こと)を申(まを)さないから、192安心(あんしん)なさいませ。193こんな所(ところ)に長居(ながゐ)して居(ゐ)ては又(また)もや敵(てき)が引返(ひきかへ)して来(く)るかも知(し)れぬ。194詳(くは)しき話(はなし)は途々(みちみち)承(うけたま)はりませう。195吾(わが)馬(うま)にお乗(の)りなさい』
196と云(い)ひながら女(をんな)を抱(かか)へて自分(じぶん)と共(とも)に駒(こま)の背(せ)に跨(またが)り、197再(ふたた)び元(もと)の高原(かうげん)を西(にし)へ西(にし)へと進(すす)み行(ゆ)く。198梅公(うめこう)は馬上(ばじやう)ながら女(をんな)に向(むか)つて遭難(さうなん)の顛末(てんまつ)を尋(たづ)ねた。
199梅公(うめこう)『これお女中(ぢよちう)さま、200お前(まへ)さまは、201どうして又(また)、202こんな所(ところ)へ誘拐(かどわか)されて来(き)たのだ。203何(なに)か深(ふか)い訳(わけ)があらう。204差支(さしつかへ)ない限(かぎ)り、205一伍(いちぶ)一什(しじふ)を話(はな)して貰(もら)ひたいものだなア』
206女(をんな)(花香姫)『ハイ、207御(ご)親切(しんせつ)に預(あづか)りまして、208お蔭様(かげさま)で危難(きなん)を免(まぬが)れました。209妾(わたし)はタライの村(むら)の花香(はなか)と申(まを)す娘(むすめ)で厶(ござ)いますが、210二三(にさん)日(にち)以前(いぜん)バラモンの軍人(ぐんじん)が吾(わ)が村(むら)に屯営(とんえい)致(いた)し、211其(その)際(さい)母(はは)を縛(しば)り上(あ)げ、212妾(わたし)を無理(むり)無体(むたい)に縛(しば)つて馬(うま)の背(せ)に乗(の)せ、213其処辺(そこら)中(ぢう)を引(ひ)き廻(まは)し、214遂(つひ)にはあの洞(ほら)ケ丘(をか)の森林(しんりん)に誘(おび)き出(だ)し、215寄(よ)つてかかつて獣欲(じうよく)を遂(と)げむとして居(ゐ)ました所(ところ)、216貴方(あなた)様(さま)がお出(いで)下(くだ)さつて危(あやふ)い所(ところ)を救(すく)はれ、217何(なん)ともお礼(れい)の申(まを)しやうが厶(ござ)いませぬ』
218梅公(うめこう)『何(なに)、219お前(まへ)さまが、220花香(はなか)さまか、221何(なん)と不思議(ふしぎ)な事(こと)があるものだ。222実(じつ)は一昨朝(きのうのあさ)の事(こと)、223お前(まへ)の家(いへ)へ立(た)ち寄(よ)つて見(み)ればサンヨさまは、224雁字(がんじ)搦(がら)みに縛(しば)りつけられ、225眉間(みけん)から血(ち)を出(だ)して、226虫(むし)の息(いき)になつて居(ゐ)られた所(ところ)、227吾(わが)お師匠(ししやう)様(さま)の照国別(てるくにわけ)様(さま)一行(いつかう)がお救(すく)ひ申(まを)し、228漸(やうや)く全快(ぜんくわい)された。229其(その)時(とき)にお前(まへ)さまの話(はなし)を聞(き)いたのだ。230サンヨさまの仰有(おつしや)るには「娘(むすめ)は到底(たうてい)命(いのち)の無(な)いものと諦(あきら)めて居(ゐ)ます。231併(しか)し乍(なが)ら、232貴方(あなた)の御(ご)神徳(しんとく)で娘(むすめ)を救(すく)うて下(くだ)さつたならば、233娘(むすめ)の身(み)の上(うへ)を一切(いつさい)お任(まか)せする」と頼(たの)まれました。234併(しか)し乍(なが)らお前(まへ)さまにはエルソンと云(い)ふ意中(いちう)の男(をとこ)があるでせう』
235 花香(はなか)は驚(おどろ)いて、
236花香(はなか)『ハイ、237母(はは)迄(まで)が豪(えら)いお世話(せわ)になりましてお礼(れい)の申(まを)しやうも厶(ござ)いませぬ。238そして母(はは)が妾(わらは)の身(み)の上(うへ)を貴方(あなた)様(さま)にお任(まか)せ申(まを)しますと申(まを)しまして厶(ござ)いますか』
239梅公(うめこう)『確(たしか)に頼(たの)まれましたが、240併(しか)し乍(なが)ら其処(そこ)へエルソンさまが見舞(みまひ)に見(み)えてサンヨさまに心(こころ)の丈(たけ)を打(う)ち明(あ)けられたので、241大変(たいへん)にサンヨさまもお喜(よろこ)びになり、242お前(まへ)さまが無事(ぶじ)で帰(かへ)つたなら、243きつと夫婦(ふうふ)にしてやらうと云(い)ふお約束(やくそく)が出来(でき)て居(ゐ)ますよ』
244花香(はなか)『あれまア、245母(はは)がそんな事(こと)を申(まを)しましたか。246貴方(あなた)様(さま)に妾(わたし)の身(み)の上(うへ)をお任(まか)せすると云(い)つたぢや御座(ござ)いませぬか。247何(ど)うも母(はは)の言葉(ことば)として二人(ふたり)の男(をとこ)に任(まか)すと云(い)ふのは合点(がつてん)が参(まゐ)り兼(か)ねます』
248梅公(うめこう)『ハヽヽヽヽ。249これ花香(はなか)さま、250さう深(ふか)く考(かんが)へてはいけない。251私(わたし)は宣伝使(せんでんし)、252天下(てんか)を股(また)にかけて旅行(りよかう)するもの、253サンヨさまが、254私(わたし)に任(まか)すと云(い)つたのは、255そんな夫婦(ふうふ)関係(くわんけい)のやうな深(ふか)い意味(いみ)ぢやない。256要(えう)するに……娘(むすめ)を救助(きうじよ)して呉(く)れ……と云(い)ふ意味(いみ)だ。257エルソンさまに云(い)はれた事(こと)と私(わたし)に云(い)はれた事(こと)とは大(おほい)に意味(いみ)が違(ちが)ひますよ』
258花香(はなか)『ハイ、259分(わか)りました。260偉(えら)い御(ご)厄介(やくかい)をかけまして誠(まこと)に済(す)まない事(こと)で厶(ござ)います。261併(しか)し乍(なが)ら妾(わたし)は貴方(あなた)が何(なん)だか恋(こひ)しく思(おも)はれてなりませぬわ』
262梅公(うめこう)『これこれ花香(はなか)さま、263さう脱線(だつせん)してはいけませぬよ。264今(いま)貴女(あなた)が悪漢(わるもの)にさいなまれて居(ゐ)た時(とき)、265木蔭(こかげ)に隠(かく)れて聞(き)いて居(を)れば、266どこ迄(まで)も……女(をんな)の操(みさを)を破(やぶ)らない……と云(い)うて、267命(いのち)に代(か)へて操(みさを)を守(まも)つたぢやありませぬか。268夫(それ)はきつとエルソンの為(た)めでせう』
269花香(はなか)『いいえ、270エルソンなんか一回(いつくわい)も約束(やくそく)した事(こと)はありませぬ。271彼方(あちら)の方(はう)から何(なん)とか彼(か)とか云(い)うて幾度(いくたび)となく云(い)ひ寄(よ)られた事(こと)は厶(ござ)いますが、272いつとても体(てい)よくお断(ことわ)りを申(まをし)て居(ゐ)るのです』
273梅公(うめこう)『そんなら、274貴女(あなた)の恋人(こひびと)はまだ外(ほか)にあるのですか』
275花香(はなか)『ハイ、276立派(りつぱ)なお方(かた)が唯(ただ)一人(ひとり)厶(ござ)います』
277梅公(うめこう)『其(その)恋人(こひびと)と云(い)ふのは今(いま)何(なに)をして居(を)られるのですか』
278花香(はなか)『ハイ、279お恥(はづ)かし乍(なが)ら今(いま)妾(わたし)と一緒(いつしよ)に馬(うま)に乗(の)つて居(を)られます』
280梅公(うめこう)『ハヽヽヽヽ。281これ花香(はなか)さま、282冗談(じようだん)云(い)つちやいけませぬよ。283貴女(あなた)は私(わたし)を揶揄(からか)つて居(ゐ)るのですな』
284花香(はなか)『イエイエ勿体(もつたい)ない、285命(いのち)の恩人(おんじん)、286神(かみ)の与(あた)へた恋人(こひびと)に対(たい)し、287どうして揶揄(からかひ)なんぞ致(いた)しませう。288妾(わたし)の言葉(ことば)は熱血(ねつけつ)より迸(ほとばし)つて居(を)りますの』
289梅公(うめこう)『どうも合点(がつてん)のゆかぬ事(こと)を云(い)ひますね』
290花香(はなか)『妾(わらは)は夜(よ)な夜(よ)な夢(ゆめ)に麗(うるは)しき神人(しんじん)と遇(あ)つて居(を)ります。291其(その)御(お)方(かた)はいつも馬(うま)に跨(またが)り、292妾(わたし)を山野(さんや)に導(みちび)いていろいろの教訓(けうくん)をして下(くだ)さいますが、293今(いま)貴方(あなた)のお顔(かほ)を拝(をが)みまして、294初(はじ)めて夢(ゆめ)の中(なか)の恋人(こひびと)に遇(あ)へたと思(おも)つて喜(よろこ)びに耐(た)えませぬ。295妾(わたし)は夢(ゆめ)の中(なか)なる恋人(こひびと)と深(ふか)く契(ちぎり)を結(むす)びました。296其(その)夢(ゆめ)に現(あら)はれた方(かた)は貴方(あなた)にそつくりです。297お顔(かほ)と云(い)ひお声(こゑ)と云(い)ひ298馬(うま)の乗(の)りかたと云(い)ひ、299この馬(うま)迄(まで)がそつくりですもの。300これが何(ど)う疑(うたが)はれませう』
301 梅公(うめこう)は吐息(といき)をつきながら、
302梅公(うめこう)『ハテナ、303これや夢(ゆめ)ではあるまいか。304どうも合点(がつてん)のゆかぬ事(こと)があるものだ。305宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)をしながら女房(にようばう)を連(つ)れて歩(ある)く訳(わけ)にもゆかず、306困(こま)つた事(こと)が出来(でき)たものだなア』
307花香(はなか)『もし貴方(あなた)は梅(うめ)さまと云(い)ふ名(な)ぢや厶(ござ)いませぬか。308いつも夢(ゆめ)の中(なか)で、309梅公(うめこう)さま梅公(うめこう)さまと云(い)つて交際(つきあ)つて居(ゐ)ましたよ』
310梅公(うめこう)『成程(なるほど)私(わし)の名(な)は梅公(うめこう)だ。311さうしてお前(まへ)さまの名(な)は花香(はなか)。312三千(さんぜん)世界(せかい)一(いち)時(じ)に開(ひら)く梅(うめ)の花(はな)の香(かを)りと云(い)ふ所(ところ)だなー、313ハヽヽヽヽ。314何(なん)だか訳(わけ)が分(わか)らなくなつて来(き)ましたわい』
315花香(はなか)『貴方(あなた)は……二人(ふたり)の仲(なか)は神(かみ)の定(さだ)めた真(まこと)の夫婦(ふうふ)だ……とお感(かん)じになりませぬか』
316梅公(うめこう)『まア悠(ゆつく)り思案(しあん)さして下(くだ)さい。317馬上(ばじやう)では分(わか)りませぬわ。318何処(どこ)かへ下(お)りて悠(ゆつく)りと考(かんが)へませう。319や、320幸(さいは)ひ此処(ここ)に、321好(よ)い場所(ばしよ)がある。322花香(はなか)さま、323貴女(あなた)はこのまま馬(うま)に乗(の)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。324私(わたし)は一寸(ちよつと)鎮魂(ちんこん)をして神勅(しんちよく)を伺(うかが)つて見(み)ませう』
325と云(い)ひ乍(なが)ら馬(うま)をヒラリと飛(と)びおりた。
326花香(はなか)『もし梅公(うめこう)様(さま)、327女(をんな)が馬(うま)に乗(の)つて居(ゐ)るのは、328何(なん)と云(い)ふ謎(なぞ)で厶(ござ)いませうかな、329一寸(ちよつと)考(かんが)へて下(くだ)さいな』
330梅公(うめこう)『女(をんな)に馬(うま)、331フン、332成程(なるほど)、333媽(かか)と云(い)ふ洒落(しやれ)だな。334かかる不思議(ふしぎ)な事(こと)は開闢(かいびやく)以来(いらい)誰(たれ)も味(あぢ)はうたものはあるまい』
335と云(い)ひ乍(なが)ら双手(もろて)を組(く)み瞑目(めいもく)して鎮魂(ちんこん)の行(ぎやう)に入(い)つた。336花香(はなか)も馬(うま)をヒラリと飛(と)び下(お)り傍(かたはら)に同(おな)じく座(ざ)して鎮魂(ちんこん)の姿勢(しせい)を取(と)つた。337無心(むしん)の馬(うま)は目(め)を閉(つむ)つて四辺(あたり)の草(くさ)をむしつて居(ゐ)る。338暫(しばら)くあつて梅公(うめこう)も花香(はなか)も互(たがひ)に何(なん)とも云(い)はず、339再(ふたた)び相乗(あひの)り馬(うま)にて際限(さいげん)もなき広野(くわうや)をオーラ山(さん)の峰(みね)を目蒐(めが)けて、340野嵐(のあらし)に吹(ふ)かれ乍(なが)ら進(すす)み行(ゆ)くのであつた。
341(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 加藤明子録)
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