霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一四章 相生(あひおひ)松風(まつかぜ)〔一六九六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第3篇 異燭獣虚 よみ(新仮名遣い):いしょくじゅうきょ
章:第14章 相生松風 よみ(新仮名遣い):あいおいまつかぜ 通し章番号:1696
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の岩窟の牢獄 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4500 OBC :rm6614
愛善世界社版:191頁 八幡書店版:第11輯 801頁 修補版: 校定版:193頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 サンダー、002スガコの両人(りやうにん)は玄真坊(げんしんばう)の要求(えうきう)を何(なん)とか彼(か)とか云(い)つて、003ハツキリと承諾(しようだく)せぬので、004玄真坊(げんしんばう)も稍(やや)自暴自棄(やけ)気味(ぎみ)になり、005モウ此(この)上(うへ)は食(しよく)責(ぜ)めに会(あ)はして、006往生(わうじやう)させ、0061吾(わが)意志(いし)に従(したが)はしめむと厳重(げんぢう)な錠前(ぢやうまへ)をおろし、007両人(りやうにん)を取(とり)込(こ)めておいた。008二人(ふたり)は相思(さうし)の間柄(あひだがら)とて、009斯(か)かる岩窟(がんくつ)に食物(しよくもつ)も与(あた)へられず閉(と)ぢ込(こ)められても余(あま)り苦(くる)しいとは思(おも)はず、010恋(こひ)しき人(ひと)に会(あ)はれたのをば唯一(ゆゐいつ)の楽(たの)しみとして、011いろいろの話(はなし)を交換(かうくわん)してゐた。
012スガコ『サンダーさま、013貴郎(あなた)は何(ど)うして又(また)斯様(かやう)な所(ところ)へ捕(とら)はれてお出(い)でになりましたの』
014サンダー『お前(まへ)の行方(ゆくへ)が分(わか)らなくなつたものだから、015それが心配(しんぱい)になり、016一(いち)時(じ)は憂欝症(いううつしやう)に陥(おちい)り、017自分(じぶん)も今度(こんど)は到底(たうてい)命(いのち)はないだらうと思(おも)つた位(くらゐ)苦(くるし)んだのです。018医者(いしや)は到底(たうてい)駄目(だめ)だといふなり、019両親(りやうしん)は心配(しんぱい)するなり、020能(よ)く能(よ)く其方(そなた)とは縁(えん)のないものだと諦(あきら)め乍(なが)ら、021どうしても思(おも)ひ切(き)れぬ恋(こひ)の暗(やみ)に包(つつ)まれて、022日夜(にちや)煩悶(はんもん)苦悩(くなう)をつづけて居(を)りました。023然(しか)るにオーラ山(さん)の修験者(しゆげんじや)だとか云(い)つて、024白髪(はくはつ)異様(いやう)の老人(らうじん)が吾(わが)門前(もんぜん)を通(とほ)り、025いろいろの効能書(かうのうがき)を並(なら)べ立(た)てたものだから、026一(いち)時(じ)は怪(あや)しみもしたが、027何分(なにぶん)恋(こひ)に心(こころ)を奪(うば)はれた弱味(よわみ)で、028神徳(しんとく)に仍(よ)つて其方(そなた)の所在(ありか)を知(し)らして貰(もら)はむと両親(りやうしん)の目(め)を忍(しの)び、029夜(よる)の路(みち)をやつて来(き)た所(ところ)、030玄真坊(げんしんばう)の使(つか)つてゐる手下(てした)の小盗人(こぬすと)共(ども)とみえ、031自分(じぶん)を巧(うま)く担(かつ)いで、032此(この)岩窟(がんくつ)に連(つ)れて来(き)たのですよ。033併(しか)し今日(けふ)は恋(こひ)しい其方(そなた)に会(あ)うて、034何(なん)とも知(し)れぬ喜(よろこ)びです。035最早(もはや)此処(ここ)で私(わたし)は死(し)んでも満足(まんぞく)です』
036と言(い)ひ乍(なが)ら涙(なみだ)を袖(そで)に拭(ぬぐ)ふ。
037スガコ『妾(わらは)のやうな者(もの)でも、038ようそこ迄(まで)思(おも)つて下(くだ)さいました。039有難(ありがた)う厶(ござ)います。040貴郎(あなた)はトルマン国(ごく)切(き)つての美男子(びだんし)、041両親(りやうしん)の許嫁(いひなづけ)とは云(い)ひ乍(なが)ら、042到底(たうてい)妾(わらは)の如(ごと)き者(もの)を、043まさかの時(とき)には相手(あひて)にしては下(くだ)さるまいと思(おも)ひまして、044平素(へいそ)から諦(あきら)めて居(を)りました。045それだけ貴郎(あなた)に篤(あつ)いお恵(めぐみ)があるとは夢(ゆめ)にも知(し)らず、046時々(ときどき)貴郎(あなた)をお怨(うら)み申(まを)して暮(くら)して来(き)ました妾(わらは)の罪(つみ)、047どうぞ御(お)赦(ゆる)し下(くだ)さいませ』
048サンダー『兎(と)も角(かく)相思(さうし)の男女(だんぢよ)が、049かやうな所(ところ)で会(あ)はうとは、050実(じつ)に奇縁(きえん)です。051玄真坊(げんしんばう)の云(い)つたのには、052両人(りやうにん)共(とも)自分(じぶん)のいふ事(こと)を聞(き)かねば食責(しよくぜめ)にするとの事(こと)、053仮令(たとへ)食責(しよくぜめ)に合(あ)うても、054恋(こひ)しい其方(そなた)に会(あ)うた以上(いじやう)は、055互(たがひ)に手(て)を取(と)り、056真(まこと)の神(かみ)のまします天国(てんごく)の旅行(りよかう)を神(かみ)に祈(いの)りませう。057最早(もはや)それより吾々(われわれ)は開(ひら)くべき道(みち)はありませぬからなア』
058スガコ『御尤(ごもつと)もで厶(ござ)います。059三途(せうづ)の川(かは)も死出(しで)の山(やま)も、060天(あめ)の八衢(やちまた)も、061貴郎(あなた)と一緒(いつしよ)に参(まゐ)りますならば、062何(なん)の苦(くるし)みも厶(ござ)いませぬ。063どうか一時(いつとき)も早(はや)く此(この)世(よ)を去(さ)りたいもので厶(ござ)います。064あゝ一人(ひとり)の父上(ちちうへ)を後(あと)に遺(のこ)し先立(さきだ)ちまする不孝(ふかう)の罪(つみ)、065どうぞ赦(ゆる)して下(くだ)さいませ』
066と死(し)ぬ覚悟(かくご)を決(き)めたスガコはホロリと涙(なみだ)を膝(ひざ)の上(うへ)に落(おと)した。
067サンダー『斯(か)うなれば、068互(たがひ)に覚悟(かくご)を致(いた)しませう。069此(この)世(よ)の別(わか)れに臨(のぞ)み、070歌(うた)でも詠(よ)んで潔(いさぎよ)く死期(しき)を待(ま)ちませう』
071スガコ『ハイ、072現世(このよ)の名残(なごり)に妾(わらは)も歌(うた)を詠(よ)まして頂(いただ)きませう、073先(ま)づ貴郎(あなた)からお聞(き)かせ下(くだ)さいませ』
074サンダー『天(てん)は蒼々(さうさう)として高(たか)し
075地(ち)は漠々(ばくばく)として限(かぎり)なく広(ひろ)し
076あゝ吾(われ)は
077天地(てんち)の御子(みこ)として
078明暗(めいあん)ゆき交(か)ふ
079うつし世(よ)の人(ひと)と生(うま)れ来(き)ぬ
080幸(かう)か不幸(ふかう)か
081里庄(りしやう)の家(いへ)の子(こ)となり
082年(とし)若(わか)くして未(いま)だ世情(せじやう)に通(つう)ぜず
083艱苦(かんく)の味(あぢ)はひを知(し)らず
084漸(やうや)く十八(じふはつ)才(さい)の春(はる)を迎(むか)へて
085恋海(れんかい)の浪(なみ)に漂(ただよ)ひ
086激浪(げきらう)怒濤(どたう)に呑(の)まれ
087舟(ふね)将(まさ)に覆(くつが)へらむとす
088あゝ如何(いか)にせむ
089あが恋(こ)ふる
090玉(たま)の舟(ふね)の
091渦(うづ)巻(ま)く波(なみ)に翻弄(ほんろう)されて
092今(いま)は何処(いづく)の空(そら)に彷徨(さまよ)ふか
093探(さぐ)り当(あ)てむと朝夕(あさゆふ)に
094天(てん)に訴(うつた)へ地(ち)に哭(こく)し
095心(こころ)は千々(ちぢ)にかき乱(みだ)れて
096身体(しんたい)日(ひ)に夜(よ)に細(ほそ)りゆく
097恋(こひ)に悩(なや)みし心(こころ)の苦(くる)しさ
098いかに艱苦(かんく)の世(よ)とはいへ
099吾(わが)身(み)にふりかかりし
100恋(こひ)のなやみの
101激(はげ)しきには及(およ)ばむや
102あゝ如何(いか)にせむ
103なれが命(みこと)の行方(ゆくへ)をと
104空(そら)行(ゆ)く雲(くも)に心(こころ)を移(うつ)し
105或(あるひ)は夕(ゆふべ)の虫(むし)の音(ね)に
106汝(なれ)が面影(おもかげ)を浮(うか)び出(い)でては
107夜(よ)も夜(よる)ならず昼(ひる)も昼(ひる)ならず
108常夜(とこよ)の暗(やみ)に迷(まよ)ふが如(ごと)し
109むしろ運(うん)を天(てん)に任(まか)し
110味気(あぢき)なき浮世(うきよ)を去(さ)つて
111天国(てんごく)に昇(のぼ)り
112永久(とこしへ)の生命(いのち)を保(たも)たむやと
113静(しづか)に門(かど)を立(たち)出(い)でて
114野辺(のべ)の景色(けしき)を眺(なが)むる折(をり)しも
115現(あら)はれ来(きた)る
116白髪(はくはつ)異様(いやう)の修験者(しゆげんじや)
117われに向(むか)つて宣(の)らす様(やう)
118オーラの山(やま)の聖場(せいぢやう)に
119神力(しんりき)無双(むさう)の救世主(きうせいしゆ)
120現(あら)はれ玉(たま)ふと教(をし)へしゆ
121汝(な)れを思(おも)ふの余(あま)り
122若(も)しやと一縷(いちる)の望(のぞ)みを起(おこ)し
123病(やまひ)にやつれし身(み)をも
124恋(こひ)の力(ちから)に支(ささ)へつつ
125漸(やうや)く登(のぼ)り岩窟(いはやど)に
126つくづく思案(しあん)の折(をり)もあれ
127心(こころ)汚(きたな)き玄真坊(げんしんばう)が
128恋(こひ)の擒(とりこ)となり果(は)てて
129身動(みうご)きならぬ破目(はめ)となり
130言葉(ことば)を左右(さいう)に托(たく)しつつ
131一日(ひとひ)々々(ひとひ)と今日(けふ)迄(まで)も
132送(おく)り来(きた)りし果敢(はか)なさよ
133あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
134梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
135何卒(なにとぞ)吾(われ)等(ら)が窮状(きうじやう)を
136憐(あはれ)み玉(たま)ひて逸早(いちはや)く
137二人(ふたり)の身(み)をば明(あか)るみに
138救(すく)はせ玉(たま)へと
139願(ね)ぎまつる。
140うつし世(よ)をあとに見(み)すてて久方(ひさかた)の
141天津(あまつ)御国(みくに)に吾(われ)は進(すす)まむ。
142大神(おほかみ)の御許(みゆる)しうけてわれは今(いま)
143スガコと共(とも)に天国(みくに)に行(ゆ)かむ。
144村肝(むらきも)の心(こころ)の合(あ)ひし二人(ふたり)連(づ)れ
145うべなひ玉(たま)はむ天津(あまつ)御神(みかみ)も。
146醜神(しこがみ)の魔手(ましゆ)を遁(のが)れて天津国(あまつくに)
147登(のぼ)り行(ゆ)く身(み)ぞ楽(たの)しかるらむ。
148われ行(ゆ)かば嘸(さぞ)醜神(しこがみ)は驚(おどろ)きて
149足(あ)がきなすらむ岩窟(いはや)の中(なか)に。
150玉(たま)の緒(を)の命(いのち)の糸(いと)も刻々(こくこく)に
151切(き)れなむとす神国(みくに)待(ま)たるる』
152 スガコは声低(こゑびく)に歌(うた)ふ。
153スガコ『天津空(あまつそら)よりいと高(たか)き
154神(かみ)の御恵(みめぐみ)父(ちち)の恩(おん)
155海(うみ)より深(ふか)き母(はは)の恩(おん)
156父(ちち)と母(はは)とにはぐくまれ
157二八(にはち)の春(はる)の今日(けふ)迄(まで)も
158月(つき)よ花(はな)よと育(そだ)てられ
159足(た)らはぬ事(こと)のなき迄(まで)も
160此(この)世(よ)の幸(さち)を身(み)に受(う)けて
161月(つき)より清(きよ)き御姿(みすがた)の
162サンダーの君(きみ)を背(せ)となして
163タライの村(むら)の花(はな)となり
164月(つき)ともなりて世(よ)の人(ひと)に
165羨(うらや)まれつつ天国(てんごく)の
166楽(たの)しき御代(みよ)を送(おく)らむと
167思(おも)ひ居(ゐ)たるも水(みづ)の泡(あわ)
168醜(しこ)の嵐(あらし)に吹(ふ)かれつつ
169身(み)は常暗(とこやみ)の巌(いはほ)の中(なか)
170悪神(あくがみ)共(ども)に囚(とら)はれて
171朝(あさ)な夕(ゆふ)なに厭(いや)らしき
172醜(しこ)の司(つかさ)の恋(こひ)の鞭(むち)
173受(う)くる度(たび)毎(ごと)身体(からたま)も
174吾(わが)魂(たましひ)も千万(ちよろづ)に
175砕(くだ)くる許(ばか)りの苦(くる)しさよ
176如何(いか)なる宿世(すぐせ)の罪業(ざいごふ)が
177吾(わが)身(み)にめぐり来(きた)りしか
178仰(あふ)いで天(てん)に叫(さけ)べ共(ども)
179天(てん)は答(こた)へず地(ち)に伏(ふ)して
180歎(なげ)けど地(ち)には声(こゑ)もなし
181オーラの山(やま)の山颪(やまおろし)
182時(とき)じく吹(ふ)けど吾(わが)魂(たま)は
183父(ちち)の御側(みそば)に通路(かよひぢ)の
184ひたと断(た)たれし悩(なや)ましさ
185せめては父(ちち)の御(おん)夢(ゆめ)に
186吾(わが)魂(たましひ)の苦(くるし)みを
187告(つ)げさせ玉(たま)へと祈(いの)れ共(ども)
188祈(いの)りし甲斐(かひ)やあら悲(かな)し
189朝夕(あさゆふ)幾(いく)つ重(かさ)ねつつ
190待(ま)てど暮(くら)せど音沙汰(おとさた)も
191只(ただ)泣(な)く声(こゑ)は猿(ましら)のみ
192木魂(こだま)に響(ひび)く鳥(とり)の声(こゑ)
193あゝ是非(ぜひ)もなや是非(ぜひ)もなや
194一層(いつそ)此(この)世(よ)に暇(いとま)乞(ご)ひ
195霊(みたま)となりて父上(ちちうへ)や
196恋(こひ)しき汝(なれ)の御(おん)側(そば)に
197通(かよ)はむものと思(おも)ふ折(をり)
198不思議(ふしぎ)や恋(こひ)しき汝(なれ)の声(こゑ)
199巌(いはほ)の戸口(とぐち)に耳(みみ)を寄(よ)せ
200様子(やうす)洩(も)れなく聞(き)く折(をり)もあれ
201夢(ゆめ)か現(うつつ)か幻(まぼろし)か
202恋(こひ)しき人(ひと)の声(こゑ)すなり
203天(てん)をば拝(はい)し地(ち)を拝(はい)し
204喜(よろこ)ぶ間(ま)もなく岩(いは)の戸(と)を
205開(ひら)いて入(い)り来(く)る玄真坊(げんしんばう)
206恋(こひ)しき人(ひと)の手(て)を取(と)つて
207これの岩窟(いはや)に投(なげ)込(こ)みつ
208憎々(にくにく)しげに睨(にら)みつけ
209立(たち)去(さ)りしこそ忌(いま)はしき
210あゝさり乍(なが)らさり乍(なが)ら
211こがれ慕(した)ひし背(せ)の君(きみ)の
212気高(けだか)き姿(すがた)目(ま)のあたり
213拝(をが)みし事(こと)の嬉(うれ)しさよ
214仮令(たとへ)飢死(うゑじに)なすとても
215高天原(たかあまはら)に昇(のぼ)りなば
216霊(みたま)の糧(かて)は沢々(さはさは)に
217神(かみ)の御国(みくに)の御(おん)倉(くら)に
218蓄(たくは)へありて汝(な)とあれに
219与(あた)へ給(たま)はむ厳(いづ)の神(かみ)
220瑞(みづ)の御霊(みたま)の大神(おほかみ)の
221慈愛(じあい)に充(み)つる顔容(かんばせ)を
222今(いま)目(ま)のあたりたしたしに
223拝(をが)みまつりし心地(ここち)する
224サンダーの君(きみ)よ背(せ)の君(きみ)よ
225仮令(たとへ)如何(いか)なる事(こと)あるも
226互(たがひ)に心(こころ)を結(むす)びつけ
227後(のち)の命(いのち)を玉(たま)の緒(を)の
228縁(えにし)の糸(いと)にしかと結(むす)び
229いづくの空(そら)に至(いた)るとも
230二人(ふたり)離(はな)れぬ常磐木(ときはぎ)の
231栄(さか)え久(ひさ)しき青松葉(あをまつば)
232おちて枯(か)れても二人(ふたり)連(づ)れ
233常磐(ときは)の契(ちぎり)今(いま)よりも
234誓(ちか)はせ給(たま)へ背(せ)の御君(みきみ)
235吾(わ)れは汝(なれ)をば力(ちから)とし
236生命(いのち)となして現世(うつしよ)や
237幽界(かくりよ)共(とも)に活(い)くるなり
238汝(なれ)をば恋(こ)ふる吾(わが)心(こころ)
239之(これ)を除(のぞ)きて生命(せいめい)の
240泉(いづみ)の何処(いづこ)にあるものぞ
241憐(あはれ)み給(たま)へ天津(あまつ)神(かみ)
242愛(あい)させ給(たま)へ吾(あが)背(せ)の君(きみ)
243あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
244御神(みかみ)に任(まか)せ奉(たてまつ)る。
245恋雲(こひぐも)の漸(やうや)くはれて大空(おほぞら)に
246輝(かがや)きわたるみづの月影(つきかげ)。
247醜神(しこがみ)の醜(しこ)の館(やかた)に囚(とら)はれて
248心(こころ)は清(きよ)き御空(みそら)に遊(あそ)ぶ。
249身体(からたま)は岩窟(いはや)の中(なか)にまかるとも
250霊(みたま)は広(ひろ)く宇宙(うちう)に遊(あそ)ぶ。
251オーラ山(やま)曲(まが)の砦(とりで)に忍(しの)び入(い)り
252恋(こひ)しき人(ひと)に只(ひた)に会(あ)ふ哉(かな)。
253背(せ)の君(きみ)と天国(みくに)に行(ゆ)くは嬉(うれ)しけれど
254心(こころ)は残(のこ)る父(ちち)の身(み)の上(うへ)。
255父(ちち)なくば妾(わらは)も心(こころ)痛(いた)めまじ
256恋(こひ)の勝利(しようり)を得(え)たる身(み)なれば。
257現世(うつしよ)はよし添(そ)へず共(とも)天津国(あまつくに)
258神(かみ)の御前(みまへ)に永久(とは)に栄(さか)えむ』
259サンダー『天津国(あまつくに)昇(のぼ)り得(え)ずして八衢(やちまた)に
260よし彷徨(さまよふ)も二人(ふたり)楽(たの)しき。
261根(ね)の国(くに)によしおつる共(とも)吾(あ)と汝(なれ)と
262二人(ふたり)なりせば楽(たの)しかるらむ。
263八衢(やちまた)の関所(せきしよ)を無事(ぶじ)に通(とほ)りぬけ
264恋(こひ)の花(はな)さく神国(みくに)に至(いた)らむ。
265月(つき)花(はな)に譬(たと)ふべらなる吾(あ)と汝(なれ)は
266天(あめ)八衢(やちまた)の栄(さか)えなるらむ』
267スガコ『八衢(やちまた)によし迷(まよ)ふ共(とも)何(なに)かあらむ
268恋(こひ)しき汝(なれ)を光(ひかり)と思(おも)へば。
269常暗(とこやみ)の根底(ねそこ)の国(くに)に落(お)つる共(とも)
270月(つき)の光(ひかり)の汝(なれ)としあらば。
271月影(つきかげ)を仰(あふ)ぎみる度(たび)思(おも)ふ哉(かな)
272いつも清(きよ)けき君(きみ)の姿(すがた)を』
273サンダー『春夏(はるなつ)の野(の)に咲(さ)く花(はな)を眺(なが)めては
274君(きみ)の御姿(みすがた)思(おも)ひうかべつ。
275山百合(やまゆり)の花(はな)に微風(びふう)の当(あた)るさま
276汝(な)がスタイルによくも似(に)しかな。
277世(よ)の中(なか)のすべての事(こと)を打(うち)忘(わす)れ
278只(ただ)君(きみ)のみに心(こころ)注(そそ)ぎぬ』
279スガコ『たらちねの親(おや)と親(おや)との許嫁(いひなづけ)
280なりとし聞(き)けどいとも恥(はづ)かし。
281仰(あふ)ぎ見(み)る高根(たかね)の花(はな)か大空(おほぞら)の
282月(つき)にひとしき君(きみ)にありせば。
283手折(たを)られて君(きみ)が館(やかた)の床(とこ)のべに
284かをらむものと思(おも)ひける哉(かな)』
285 斯(か)く両人(りやうにん)は述懐(じゆつくわい)や辞世(じせい)をよんで、286身(み)の餓(う)ゑ疲(つか)れを忘(わす)れ、287霊(たま)を天国(てんごく)の楽園(らくゑん)に馳(は)せ居(ゐ)る折(をり)しも、288ガチンと錠前(ぢやうまへ)を外(はづ)して、289悠々(いういう)と入(いり)来(きた)りしは二人(ふたり)の男女(だんぢよ)が蚰蜒(げぢげぢ)の如(ごと)く嫌(きら)つて居(ゐ)た玄真坊(げんしんばう)であつた。290玄真坊(げんしんばう)は両人(りやうにん)の痩(やせ)こけた姿(すがた)を見(み)て、291さも愉快(ゆくわい)げに打(うち)笑(ゑ)み乍(なが)ら、
292玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、293オイ何(ど)うだ両人(りやうにん)、294最早(もはや)覚悟(かくご)はついたか、295其方(そなた)等(たち)の生命(いのち)は、296此(この)玄真坊(げんしんばう)が手(て)の内(うち)に握(にぎ)つてゐるのだ。297生命(いのち)あつての物種(ものだね)、298いつ迄(まで)も頑固(ぐわんこ)な事(こと)を申(まを)さずに、299ウンと靡(なび)いたが、300其方(そなた)の身(み)の得(とく)、301命(いのち)の鍵(かぎ)、302返答(へんたふ)を聞(き)かして呉(く)れ』
303 サンダー、304スガコの両人(りやうにん)は既(すで)に死(し)を決(けつ)してゐたものの、305まだ何処(どこ)やらに生(せい)の執着心(しふちやくしん)が残(のこ)つてゐた。306……何(なん)とかゴマかして一(いち)日(にち)でも生命(いのち)を保(たも)ち居(を)らば、307両人(りやうにん)が此(この)岩窟(いはや)を無事(ぶじ)に逃(にげ)出(だ)し、308天下(てんか)晴(は)れて、309此(この)世(よ)で添(そ)ひ遂(と)げる事(こと)が出来(でき)るであらう。310何(なに)は兎(と)もあれ、311迷(まよ)ひきつた此(この)売僧(まいす)、312口(くち)の先(さき)にてゴマかしやらむ……と期(き)せずして両人(りやうにん)の胸(むね)に泛(うか)んだ。
313サンダー『玄真坊(げんしんばう)様(さま)、314妾(わらは)も決心(けつしん)を致(いた)しました。315おかげに依(よ)りまして、316利害(りがい)得失(とくしつ)を悟(さと)り得(え)ましたから、317今(いま)迄(まで)の頑固(ぐわんこ)一点(いつてん)の態度(たいど)を更(あらた)め318可成的(なるべく)御意(ぎよい)に従(したが)ひませう。319どうか空腹(くうふく)に悩(なや)んで居(を)りますから、320パンをお与(あた)へ下(くだ)さいませ』
321 玄真坊(げんしんばう)は此(この)言葉(ことば)に飛立(とびた)つ許(ばか)り打(うち)喜(よろこ)び乍(なが)ら、322ワザと素知(そし)らぬ渋(しぶ)り切(き)つた顔(かほ)して、
323玄真(げんしん)『ウン、324気(き)が付(つ)いたならば、325そち共(ども)の幸福(かうふく)だ。326断食(だんじき)といふものは精神(せいしん)が落付(おちつ)いて、327悟(さと)りを開(ひら)く第一(だいいち)の修行(しゆぎやう)の要訣(えうけつ)だ。328決(けつ)して此(この)玄真坊(げんしんばう)は汝(なんぢ)等(ら)両人(りやうにん)を干(ほ)し殺(ころ)さうと思(おも)つて食(しよく)を与(あた)へないのではない。329断食(だんじき)の修行(しうぎやう)をさせて、330誠(まこと)の真理(しんり)を悟(さと)らしてやりたいといふ、331大慈(だいじ)大悲(だいひ)の心(こころ)より斯(か)く取計(とりはか)らつたのだ。332どうだ、333吾(わが)慈悲心(じひしん)が分(わか)つたか』
334サンダー『ハイ確(たしか)に分(わか)りまして厶(ござ)います。335結構(けつこう)な修行(しうぎやう)をさして頂(いただ)きました。336いかにも貴方(あなた)は天(てん)の選(えら)みし救世主(きうせいしゆ)だと悟(さと)らして頂(いただ)きました』
337玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、338さうなくては叶(かな)はぬ事(こと)、339これこれスガコ、340そちは何(ど)うだ。341少(すこ)し真理(しんり)が分(わか)つたか、342此(この)玄真坊(げんしんばう)が真心(まごころ)を悟(さと)つたか』
343スガコ『ハイ、344悟(さと)らして頂(いただ)きました』
345玄真(げんしん)『何(ど)う悟(さと)つたのだ』
346スガコ『ハイ、347師(し)の君様(きみさま)の魔心(まごころ)をスツカリ悟(さと)らして貰(もら)ひました』
348玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、349悟(さと)りが開(ひら)けたならば、350此(この)方(はう)の申(まを)す事(こと)は絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)するだらうな。351ヨモヤ両人(りやうにん)、352違背(ゐはい)は致(いた)すまいのう』
353サンダー『どうかパンをお与(あた)へ下(くだ)さい。354最早(もはや)お答(こた)へする勇気(ゆうき)が出(で)て参(まゐ)りませぬ』
355玄真(げんしん)『成程(なるほど)無理(むり)もない。356まてまて拙僧(せつそう)が自(みづか)ら飲食(おんじき)を調理(てうり)し、357可愛(かあい)い其方(そなた)等(たち)に食(く)はしてやらう』
358とニコニコし乍(なが)ら、359戸(と)をピシヤリと締(し)め、360再(ふたた)び錠(ぢやう)をおろして立(たち)去(さ)つた。
361(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→