霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 谷底(たにぞこ)の宴(えん)〔一六九一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第2篇 容怪変化 よみ(新仮名遣い):ようかいへんげ
章:第9章 谷底の宴 よみ(新仮名遣い):たにぞこのえん 通し章番号:1691
口述日:1924(大正13)年12月16日(旧11月20日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山の谷間 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-14 18:22:04 文字数:4370 OBC :rm6609
愛善世界社版:129頁 八幡書店版:第11輯 777頁 修補版: 校定版:129頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 オーラ山(さん)の谷間(たにあひ)には蒼味(あをみ)だつた水(みづ)が、002可(か)なり広(ひろ)い流(なが)れをなして静(しづか)に流(なが)れて居(ゐ)る。003これより七八丁(しちはつちやう)上(うへ)に登(のぼ)ると非常(ひじやう)に嶮(けは)しい滝(たき)の如(ごと)き水流(すいりう)であるが、004最早(もはや)此(この)地点(ちてん)は水(みづ)の流(なが)れも緩(ゆる)やかにして底(そこ)も深(ふか)く、005深(ふか)い池水(いけみづ)のやうな調子(てうし)である。006この河(かは)には新旧(しんきう)数多(あまた)の船(ふね)が無数(むすう)に浮(う)かべられ運搬用(うんぱんよう)に供(きよう)されて居(ゐ)た。007日々(にちにち)四方(しはう)より持(も)ち運(はこ)び来(きた)る物品(ぶつぴん)を鉄線(てつせん)と滑車(くわつしや)との作用(さよう)によりて、008天王(てんわう)の森(もり)の祠(ほこら)の床下(ゆかした)から逆落(さかおと)しに谷間(たにあひ)へ落(おと)し、009之(これ)を船(ふね)に満載(まんさい)してホールの隠(かく)れ家(や)に送(おく)るのを乾児(こぶん)共(ども)の仕事(しごと)として居(ゐ)た。010沢山(たくさん)の乾児(こぶん)共(ども)は奔命(ほんめい)に疲(つか)れ稍(やや)倦怠(けんたい)の気分(きぶん)を生(しやう)じ、011そろそろ食料(しよくれう)の粗悪(そあく)なるを憤(いきどほ)り、012二百(にひやく)名(めい)計(ばか)り同盟(どうめい)脱退(だつたい)を謀(はか)つてゐた。013三千(さんぜん)の部下(ぶか)の七分(しちぶ)通(どほり)は各地(かくち)へいろいろのよからぬ用務(ようむ)を帯(おび)て散(ち)らばつて居(ゐ)たのである。014そこへシーゴーの親分株(おやぶんかぶ)がパンクと共(とも)に、015沢山(たくさん)の珍味(ちんみ)佳肴(かかう)や、0151豊醇(ほうじゆん)の酒(さけ)をつり下(おろ)した。016ニコニコしながらシーゴーは一同(いちどう)に向(むか)つて云(い)ふ。
017シーゴー『皆(みな)の乾児(こぶん)共(ども)、018お前(まへ)達(たち)には大変(たいへん)な骨(ほね)を折(を)らした。019実(じつ)に、020女帝(によてい)様(さま)を初(はじ)め吾々(われわれ)幹部(かんぶ)は感謝(かんしや)をして居(ゐ)るのだ。021今日(けふ)は幸(さいは)い沢山(たくさん)のお供(そな)へ物(もの)があつたから、022腹一杯(はらいつぱい)美味(びみ)佳肴(かかう)を喰(く)ひ、023酒(さけ)でも呑(の)んで元気(げんき)をつけ大活動(だいくわつどう)をやつて貰(もら)ひたい。024女帝(によてい)様(さま)からも皆(みな)の者(もの)に宜(よろ)しく伝(つた)へて呉(く)れと仰有(おつしやつ)たぞ』
025 此(この)声(こゑ)に一同(いちどう)は今(いま)迄(まで)の不平面(ふへいづら)は何処(どこ)へやら、026酒肴(しゆかう)と聞(き)いて恵比須(ゑびす)のやうな顔(かほ)になり、027拍手(はくしゆ)の声(こゑ)は谷(たに)の木魂(こだま)を響(ひび)かせ、028雷(かみなり)の落(お)つる如(ごと)き勢(いきほひ)であつた。
029パンク『オイ、030皆(みな)の奴(やつ)、031お前(まへ)達(たち)やア ブツブツと不平(ふへい)を漏(も)らして居(ゐ)たが、032女帝(によてい)さまだつて親分(おやぶん)さまだつて、033お前(まへ)達(たち)の苦労(くらう)はよく御存(ごぞん)じだ。034今日(けふ)は女帝(によてい)様(さま)の思召(おぼしめし)で、035見(み)た事(こと)もないやうな御(ご)馳走(ちそう)を頂(いただ)くのだから、036感謝(かんしや)したらよからうぞ』
037甲(かふ)『オイ、038パンクさま、039お前(まへ)の骨折(ほねをり)で久(ひさ)し振(ぶり)で結構(けつこう)な飲食(おんじき)にありつくのだ。040毎日(まいにち)日日(ひにち)粟(あは)や黍(きび)で口腹(こうふく)を満(み)たして居(ゐ)ても、041骨離(ほねばな)れがしさうで思(おも)ふやうな活動(くわつどう)が出来(でき)なんだが、042かう結構(けつこう)な油(あぶら)をさして貰(もら)へば、043機関(きくわん)が円滑(ゑんくわつ)に運転(うんてん)するだらう。044女帝(によてい)さまに宜(よろ)しく申(まを)して呉(く)れ。045一同(いちどう)を代表(だいへう)してお礼(れい)を申(まを)しておく』
046パンク『ヨシヨシ、047キツト伝(つた)へて置(お)かう、048女帝(によてい)様(さま)もお前(まへ)達(たち)の機嫌(きげん)の好(よ)い顔(かほ)を御覧(ごらん)になつたら049屹度(きつと)満足(まんぞく)なさるだらう。050シーゴー、051玄真坊(げんしんばう)様(さま)の親分(おやぶん)も御(ご)満足(まんぞく)なり、052俺(おれ)達(たち)も満足(まんぞく)だ。053貴様(きさま)達(たち)も大(おほ)いに満足(まんぞく)だらうアハヽヽヽ』
054と笑(わら)ひつつ女帝(によてい)の居室(きよしつ)を指(さ)して急阪(きふはん)を登(のぼ)り行(ゆ)く。055鯨飲(げいいん)馬食(ばしよく)の宴(えん)は無雑作(むざふさ)に開(ひら)かれた。056酒(さけ)がなければ悄気(せうげ)返(かへ)り、057青(あを)い顔(かほ)をしてブツブツ不平(ふへい)を漏(も)らし、058酒(さけ)に飲(くら)ひ酔(よ)ひ腹(はら)が充(み)つれば又(また)もや怒(おこ)つたり、059泣(な)いたり叫喚(わめ)いたり擲(なぐ)り合(あひ)をしたり、060何(ど)うにもかうにも始末(しまつ)におへぬガラクタ計(ばか)りが集(あつ)まつて居(ゐ)るのだから、061容易(ようい)な事(こと)で統御(とうぎよ)は出来(でき)ない。062泥棒(どろばう)の親分(おやぶん)になるのも063嗟(あゝ)又(また)難(かた)い哉(かな)である。064そろそろ酔(よ)ひが廻(まは)り出(だ)すと彼処(あちら)にも此処(こちら)にも濁(にご)りきつた言霊戦(ことたません)が開始(かいし)された。
065甲(かふ)『オイ皆(みな)の奴(やつ)、066好(い)い加減(かげん)に喰(くら)うとかぬか、067何(なん)だ、068アタ嫌(いや)らしい、069チヨンチヨンと舌(した)打(う)ちをしやがつて、070おまけに皿(さら)を嘗(な)めたり箸(はし)を舐(ね)ぶつたり、071まるきり乞食(こじき)の所作(しよさ)ぢやないか、072エーン、073卑(いや)しいものだなア。074オーラ川(がは)の杭(くひ)ぢやないが、075大食(おほぐひ)の長食(ながぐひ)とは貴様(きさま)等(ら)の事(こと)だ。076褌(ふんどし)の河流(かはなが)れで、077食(く)ひにかかつたら離(はな)れぬと云(い)ふ代物(しろもの)だからなア。078餓鬼(がき)みたやうな奴(やつ)と行動(かうどう)を共(とも)にするのは、079本当(ほんたう)に情(なさけ)ないわ。080チヨツ081嫌(いや)になつて了(しま)ふ』
082乙(おつ)『ナヽヽ何(なん)だ、083何(なに)が卑(いや)しいのだい。084苟(いやし)くもオーラ山(さん)の山寨(さんさい)に割拠(かつきよ)するヨリコ女帝(によてい)様(さま)の吾々(われわれ)は輩下(はいか)だ。085まるで塵(ちり)埃(ほこり)を箒(はうき)で掃(は)くやうな事(こと)を吐(ぬか)すと086此方(こつち)にも了見(れうけん)があるぞ』
087甲(かふ)『アハヽヽヽ、088その了見(れうけん)を聞(き)かして貰(もら)はうかい』
089丙(へい)『(浄瑠璃)計略(けいりやく)と云(い)ひ義心(ぎしん)と云(い)ひ、090かほどの臣(けらい)を持(も)ち乍(なが)ら、091了見(れうけん)もあるべきに、092浅(あさ)き企(たく)みの塩谷(えんや)殿(どの)、093今(いま)の忠義(ちうぎ)を戦場(せんぢやう)の、094御(おん)馬前(うまさき)にて尽(つく)さばやと、095思(おも)へば無念(むねん)に閉(と)ぢふさがる、096胸(むね)は七重(ななへ)の門(もん)の戸(と)も、097漏(も)るるは涙(なみだ)計(ばか)りなり、098ジヤン、099ジヤンジヤン、100アハヽヽ。101オイ甲(かふ)、102乙(おつ)、103歌(うた)でも謡(うた)つて機嫌(きげん)を直(なほ)したらどうだ。104結構(けつこう)な酒(さけ)を頂(いただ)いて小言(こごと)を云(い)ふと云(い)ふ事(こと)があるものか、105冥加(みやうが)知(し)らずの奴(やつ)だなア。106女帝(によてい)様(さま)のお志(こころざし)を何(なん)と心得(こころえ)て居(ゐ)るんだ』
107甲(かふ)『エー、108何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだ。109女帝(によてい)の志(こころざし)が聞(き)いて呆(あき)れるわ。110自分(じぶん)が計略(けいりやく)をもつて愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)の懐中(くわいちう)を捲(まき)あげ、111そして俺(おれ)達(たち)に振舞(ふるま)つてやるのなんのとはおとましいわい。112自分(じぶん)が汗(あせ)膏(あぶら)を流(なが)して造(つく)つた飲食(おんじき)でもあるまいし、113譬(たとへ)て言(い)へば114此(この)川(かは)の中(なか)に入(はい)つて115お前(まへ)と俺(おれ)とが水(みづ)を浴(あ)びて居(ゐ)る時(とき)、116其(その)手許(てもと)から水(みづ)を掬(すく)つて俺(おれ)の口(くち)へ入(い)れて呉(く)れたやうなものだ』
117丙(へい)『そんな水臭(みづくさ)い事(こと)を云(い)ふない。118女帝(によてい)様(さま)に聞(きこ)えたらどうするのだ』
119甲(かふ)『聞(きこ)えたらどうだい。120何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もそつと物(もの)した物(もの)を、121俺(おれ)達(たち)にものして呉(く)れる丈(だけ)の事(こと)ぢやないか。122いつも俺(おれ)達(たち)に働(はたら)かして其(その)上前(うはまへ)をとり、123大将然(たいしやうぜん)と構(かま)へて居(を)るのだから、124地部下(ぢぶした)の俺(おれ)達(たち)は耐(たま)らないわ。125たまに酒(さけ)の一杯(いつぱい)や二杯(にはい)呑(の)まして呉(く)れたつて恩(おん)に着(き)る理由(りいう)もなし、126又(また)恩(おん)に着(き)せる理由(りいう)も無(な)いのだ。127つまり、128要(えう)するに、129結局(けつきよく)俺(おれ)達(たち)が物(もの)して、1291来(き)た物(もの)を俺(おれ)達(たち)が喰(く)うやうなものぢや。130部下(ぶか)に命(いのち)掛(が)けの仕事(しごと)をさして置(お)いて、131自分(じぶん)は高(たか)い所(ところ)にとまり、132吾々(われわれ)を頤(あご)で使(つか)ひ、133女帝(によてい)だの何(なん)のとほんとに忌々(いまいま)しいぢやないか。134鰌(どぢやう)か何(なん)ぞのやうに俺(おれ)達(たち)の不平(ふへい)の虫(むし)を酒(さけ)で殺(ころ)さうと思(おも)つたつて、135そんな奸策(かんさく)に乗(の)る奴(やつ)があるか。136俺(おれ)や137酒(さけ)を呑(の)めと吐(ぬか)しやがつた時(とき)にや、138腹(はら)の中(なか)の癇癪(かんしやく)の虫(むし)がグルグルと喉元(のどもと)で鳴(な)りやがつて、139手(て)を出(だ)しよつたのだ。140アタ味(あぢ)なくも無(な)い酒(さけ)を滅多(めつた)矢鱈(やたら)に強(しひ)られて、141俺(おれ)だつて耐(たま)つたものぢやない。142其辺(そこら)の山(やま)も木(き)も岩(いは)も草(くさ)も、143天手古(てんてこ)舞(まひ)をさらすなり、144俺(おれ)の体(からだ)は宙(ちう)に捲(ま)き上(あ)げらるるなり、145本当(ほんたう)にひどい目(め)に合(あ)はすぢやないか。146エヽ怪体(けつたい)の悪(わる)い、147もう之(これ)から酒(さけ)などは一杯(いつぱい)も呑(の)んでやらぬわい、148とは云(い)はぬわい』
149乙(おつ)『エヘヽヽヽ、150何(なん)だか知(し)らぬが、151俺(おれ)は結構(けつこう)な酒(さけ)に酔(よ)ひ、152脂肪(あぶらつ)濃(こ)い御(ご)馳走(ちそう)に預(あづ)かつて何(なん)とも云(い)へぬ気分(きぶん)だ。153併(しか)し乍(なが)ら脂肪気(あぶらけ)の多(おほ)い食物(しよくもつ)は些(ちつと)ひつこいな』
154丙(へい)『さうだ155一寸(ちよつと)ひつこいはひつこいが、156併(しか)しひつこう甘(うま)いぢやないか、157俺(おれ)はもうグンドサが破裂(はれつ)しさうだ。158どうれ159パサパーナ[※「グンドサ」「パサパーナ」は愛善世界社版の脚注によると、それぞれモンゴル語で「腹」「吐糞」のこと。]でもやつてこうかな』
160と言(い)ひ乍(なが)ら立(た)ち上(あが)らうとして目(め)が眩(くら)み、161又(また)もやドスンと其(その)場(ば)に腰(こし)を下(お)ろした。
162甲(かふ)『何(なん)だ其(その)態(ざま)ア、163腰(こし)も何(なに)も脱(ぬ)けて居(ゐ)るぢやないか』
164丙(へい)『何(なに)、165今(いま)御輿(みこし)を下(お)ろした所(ところ)だ。166併(しか)し乍(なが)ら、167かう足(あし)の立(た)たぬ所(ところ)迄(まで)結構(けつこう)な酒肴(しゆかう)を頂(いただ)いて、168精神(せいしん)正(まさ)に恍惚(くわうこつ)とし、169天国(てんごく)に遊(あそ)ぶやうな気分(きぶん)になつたのも、170皆(みんな)女帝(によてい)様(さま)のお蔭(かげ)だよ。171よく考(かんが)へて見(み)よ、172シーゴーの奴(やつ)が大親分(おほおやぶん)として威張(ゐば)つてけつかつた時(とき)は自分(じぶん)計(ばか)り喰(く)つて、173手下(てした)の奴(やつ)には酒(さけ)一杯(いつぱい)も飲(の)めとは吐(ぬか)しやがらなかつたぢやないか。174ヨリコ姫(ひめ)様(さま)が大親分(おほおやぶん)に取(と)つて代(かは)られてから、175直(すぐ)様(さま)かふいふ結構(けつこう)な御(ご)馳走(ちそう)を下(くだ)さつたのだ。176それを思(おも)へば今度(こんど)の女帝(によてい)様(さま)は、177吾々(われわれ)に対(たい)する慈母(じぼ)だ。178拝(をが)み奉(たてまつ)らぬと罰(ばち)が当(あた)るぞよ、179バヽ罰(ばち)が……』
180甲(かふ)『何(なに)、181さう有難(ありがた)がるには及(およ)ばないわ。182あいつ等(ら)は鮟鱇(あんかう)に海月(くらげ)に鰐(わに)の集合(しふがふ)団隊(だんたい)だから、183終(しまひ)の果(はて)には吾々(われわれ)をよい食物(くひもの)にしやがるのだ。184それだから俺(おれ)が最初(さいしよ)に、185もう脱退(だつたい)しようと云(い)つたぢやないか』
186乙(おつ)『三(さん)人(にん)の親分(おやぶん)が、187鮟鱇(あんかう)だとか、1871鰐(わに)だとか海月(くらげ)だとか貴様(きさま)は云(い)ふが、188一体(いつたい)鮟鱇(あんかう)と云(い)ふのは誰(たれ)だい』
189甲(かふ)『ヘン、190分(わか)らぬ奴(やつ)だなア、191女帝(によてい)が鮟鱇(あんかう)で、192玄真坊(げんしんばう)が鰐(わに)でシーゴーの奴(やつ)が海月(くらげ)だ。193鮟鱇(あんかう)と云(い)ふ奴(やつ)はな、194沼(ぬま)の底(そこ)や海(うみ)の底(そこ)にじつと潜伏(せんぷく)しやがつて、195頭(あたま)から細(ほそ)い細(ほそ)い糸(いと)の様(やう)な物(もの)を水面(すいめん)にニユツと泛(う)かべ、196其(その)先(さき)に花(はな)とも虫(むし)とも分(わか)らぬやうな肉塊(にくくわい)をつけ、197いろいろの魚(うを)が好(い)い餌(ゑ)があると思(おも)つて其(その)肉塊(にくくわい)を喰(く)ひに往(ゆ)くと、198チクチクと綱(つな)を手繰(たぐり)、199自分(じぶん)の口(くち)に来(き)た時(とき)にガブリとやるのだ。200今(いま)の世(よ)の中(なか)にはこの鮟鱇(あんかう)に似(に)たやうな奴(やつ)が、201女帝(によてい)のみならず沢山(たくさん)居(ゐ)るよ。202さういふ代物(しろもの)を称(しよう)して鮟鱇(あんかう)主義(しゆぎ)の生活(せいくわつ)と云(い)ふのだ』
203乙(おつ)『ハヽヽヽヽ、204そいつは面白(おもしろ)い。205そして玄真坊(げんしんばう)の鰐(わに)の理由(りいう)を聞(き)かして呉(く)れい』
206甲(かふ)『ヨシ、207聞(き)かしてやらう、208何(なん)でも世(よ)の中(なか)に分(わか)らない事(こと)があつたら、209俺(おれ)に聞(き)くのだな。210抑(そもそも)鰐(わに)と云(い)ふ奴(やつ)は、211体(からだ)にも似合(にあ)はぬ大(おほ)きな口(くち)をしやがつて其(その)口(くち)の中(なか)に木(き)の片(はしくれ)や枯枝(かれえだ)なんかを一(いつ)ぱい詰(つ)め、212小魚(こうを)どもがよい隠(かく)れ家(が)があると思(おも)つて悠々(いういう)と這入(はい)つて来(く)る奴(やつ)をソツと舌(した)を出(だ)してグイグイと腹(はら)の中(なか)へ引(ひ)つ張(ぱ)り込(こ)み、213自分(じぶん)の腹(はら)を肥(こや)す奴(やつ)だ。214あの大杉(おほすぎ)の木(き)の下(した)に陣(ぢん)を構(かまへ)て、215寄(よ)つて来(く)る有象(うざう)無象(むざう)や、216小雑魚(こざこ)などを引張(ひつぱ)り込(こ)むやり方(かた)と云(い)ふものは、217まるで鰐(わに)そつくりぢやないか』
218乙(おつ)『ウン成程(なるほど)、219こいつは面白(おもしろ)い、220序(ついで)に、221シーゴー親分(おやぶん)が海月(くらげ)だと云(い)ふ因縁(いんねん)を聞(き)かして貰(もら)はうかい』
222甲(かふ)『海月(くらげ)と云(い)ふ奴(やつ)は骨(ほね)も無(な)ければ、223ロクに顔(かほ)も無(な)い奴(やつ)だ。224そして長(なが)たらしい尾(を)を幾条(いくすぢ)も幾条(いくすぢ)も引(ひ)きづりやがつて浪(なみ)のまにまに漂(ただよ)ひ乍(なが)ら、225俺(おれ)達(たち)のやうな小雑魚(こざこ)を沢山(たくさん)に丸(まる)い笠(かさ)の下(した)に隠(かく)し、226親分(おやぶん)気取(きどり)で保護(ほご)して居(ゐ)やがるのだ。227さうすると些(ちつと)計(ばか)り大(おほ)きな魚(うを)が、228その小魚(こうを)を取(と)らうと思(おも)つて海月(くらげ)に近(ちか)づいてくるのだ。229さうすると海月(くらげ)の奴(やつ)ぬるぬるとした紐(ひも)でクルクルとしめつけ、230頭(あたま)から食(く)うと云(い)ふ代物(しろもの)だ。231そこで小雑魚(こざこ)は海月(くらげ)の奴(やつ)に守(まも)られ、232些(すこ)し大(おほ)きな魚(うを)は海月(くらげ)の奴(やつ)に喰(く)はれるのだ。233吾々(われわれ)だつて今(いま)は小雑魚(こざこ)の身分(みぶん)だから親分(おやぶん)の傘下(さんか)に保護(ほご)されて居(ゐ)るのだが、234些(すこ)し大(おほ)きくなつて頭(あたま)を擡(もた)げて見(み)い、235屹度(きつと)唯(ただ)では置(お)かない。236親分(おやぶん)だつて、237これを思(おも)ふと前途(ぜんと)闇黒(あんこく)になつて、238嫌(いや)になつて仕舞(しま)ふわ。239今(いま)の世(よ)の中(なか)は形式(けいしき)こそ変(かは)れ、240こんな奴(やつ)ばかりだ。241海月(くらげ)生活(せいくわつ)、242鰐(わに)生活(せいくわつ)、243鮟鱇(あんかう)生活(せいくわつ)と人(ひと)の云(い)つて居(ゐ)るのは、244大略(だいりやく)右様(みぎやう)のやり方(かた)をやる人間(にんげん)の事(こと)だ。245エヽ怪体(けつたい)の悪(わる)い、246折角(せつかく)呑(の)んだ酒(さけ)迄(まで)醒(さ)めて了(しま)つた。247オイ乙(おつ)、248一杯(いつぱい)俺(おれ)につがないか』
249乙(おつ)『サアサア250呑(の)んだり呑(の)んだり』
251甲(かふ)『オツトツトツトツ、252こぼれるこぼれる。253矢張(やつぱり)酒(さけ)の香(か)は有難(ありがた)いものだなア。254イヒヽヽヽヽ』
255と肩(かた)を揺(ゆ)する。256一方(いつぱう)の方(はう)には泣(な)いたり笑(わら)つたり怒(おこ)つたり、257廻(まは)らぬ舌(した)の面白(おもしろ)い歌(うた)が初(はじ)まつて居(ゐ)る。
258『オーラの山(やま)に鬼(おに)が出(で)た
259出(で)た出(で)た出(で)た出(で)た鬼(おに)が出(で)た
260このまた鬼(おに)の素性(すじやう)をば
261調(しら)べて見(み)れば月(つき)の国(くに)
262ハルナの都(みやこ)に蟠(わだかま)る
263妖幻坊(えうげんばう)の片腕(かたうで)と
264羽振(はぶり)利(き)かした曲津(まがつ)神(かみ)
265玄真坊(げんしんばう)やシーゴーの
266両(りやう)親分(おやぶん)に取(と)りついて
267バルガン城(じやう)をば占領(せんりやう)し
268天下(てんか)を乱(みだ)し人種(ひとだね)を
269絶(た)やして曲津(まがつ)の世(よ)の中(なか)に
270転覆(てんぷく)せむとの企(たく)み事(ごと)
271さはさりながら俺(おれ)も亦(また)
272今(いま)は曲津(まがつ)の御(ご)厄介(やくかい)
273百姓(ひやくしやう)するにも道具(だうぐ)なし
274商売(しやうばい)するにも資本(もとで)なし
275肝腎要(かんじんかなめ)の妻(つま)も子(こ)も
276親(おや)さへもなき吾々(われわれ)は
277一層(いつそう)気楽(きらく)な泥棒業(どろばうげふ)
278元(もと)から悪(あく)とは知(し)り乍(なが)ら
279食(く)はず呑(の)まぬが悲(かな)しさに
280善(ぜん)の心(こころ)を立直(たてなほ)し
281悪魔(あくま)の乾児(こぶん)となり下(さが)り
282一寸先(いつすんさき)は暗(やみ)の夜(よ)で
283其日(そのひ)々々(そのひ)を送(おく)るのだ
284バラモン教(けう)の教(をしへ)には
285人(ひと)の物(もの)をば盗(ぬす)んだり
286人(ひと)を痛(いた)めておいたなら
287未来(みらい)は地獄(ぢごく)に落(お)ちるぞと
288聞(き)いて居(を)れども如何(いか)にせむ
289背(せ)に腹(はら)は替(か)へられぬ
290ウントコドツコイドツコイシヨ
291ヨイトサノサ、ヨーイヤサだ』
292甲(かふ)『ダヽヽ誰(たれ)だい、293そんな大(おほ)きな声(こゑ)で不穏(ふおん)な事(こと)を申(まを)すと、294鮟鱇(あんかう)さまに申(まをし)上(あ)げるぞ』
295丁(てい)『ナヽ何(なん)だ。296喧(やかま)しう云(い)ふない。297俺(おれ)や今日(けふ)限(かぎ)り脱退(だつたい)するのだから、298もはや女帝(によてい)の権力(けんりよく)も俺(おれ)にや及(およ)ぶまい。299云(い)ひ度(た)い事(こと)を云(い)うて酒(さけ)を呑(の)まなけりや、300日頃(ひごろ)の欝憤(うつぷん)が晴(は)れないぢやないか、301貴様(きさま)は何時(いつ)迄(まで)も鮟鱇(あんかう)に盲従(まうじゆう)する積(つも)りか、302よい馬鹿(ばか)ぢやなア、303エヘヽヽヽ』
304 数多(あまた)の部下(ぶか)は思(おも)ひ思(おも)ひの小言(こごと)をつきながら、305日(ひ)の暮(く)るる迄(まで)此(この)谷間(たにあひ)に酒(さけ)に浸(ひた)り、306思(おも)はぬ睾丸(きんたま)の皺(しわ)のばしをやつて居(ゐ)た。
307(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 加藤明子録)
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