八九歳の頃
学校に行けば教師が鉄棒であたまをなぐると友はおどせり
全身は漆にまけて瘡だらけ歩みもならず寝て聞いて居り
学校はそんな恐ろしいところかと子供心にをののきのわく
漆まけのなほりし九歳の春となり父につれられ学校に入る
等外の席に椅子をば並べられ友と居睡りばかりなし居り
ゐねむりて受持教師に指示管で机と頭をしばかれて泣く
学校の教師のこはさにちぢこまり道にあそびて弁当を食ふ
通学もなさで途中で弁当食ひ遊ぶと教師父に知らせり
吾が父は小学読本とり出だし通読せよとしきりにせまる
一行も読めぬ苦しさ無学なる父をさいはひ無茶苦茶を読む
そんなこと教へる様な学校は行くなと父はおこり出したり
吾が父は小学校にどなりこみ教師に読本きかされて帰る
親までもだますづぶとき小伜と煙管がんくび額にうちこむ
金剛寺
額より流るる血潮をぬぐひながら禅宗寺に逃げこみにけり
金剛寺住職栗山禅味氏は父にかけ合ひ弟子となしたり
右の手に如意をもちつつ禅味氏は吾れに読本をしへたまへり
居睡れば如意もて忽ちなぐらるる和尚のこはさにちぢまりにけり
六ケ月和尚のもとに通ひつめ日本外史を読み覚えたり
再度入学
金剛寺和尚と父の依頼にてふたたび入学ゆるされにけり
ゆきなりに下等四級の席につきまた教員と激論をなす