霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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裸体二人

インフォメーション
題名:裸体二人 著者:出口王仁三郎
ページ:266 目次メモ:
概要:28歳の頃 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-08 00:00:00 OBC :B119800c063
二十八歳の頃
山王(さんわう)の山の尾の()晃晃(くわうくわう)とかがやきのぼる十三夜の月
高熊の雌岩(めいは)のかげにうづくまりわれただ一人瞑想にふける
大いなる雌岩(めいは)(せな)(つき)てりてかたへは暗く影を(おと)せり
琴滝(ことたき)()つる水音(みなおと)()あらしに吹かれみだるるしぶきに月()
琴滝(ことたき)のふもとにひそびそ人の声きこゆるさまのいぶかしきかな
足音を忍ばせながら琴滝(ことたき)(うへ)にひそびそ忍びよりたり
息こらし琴滝(ことたき)(うへ)ゆうかがへば裸体(らたい)(をとこ)二人たちをり
ほそぼそと落つる滝水(たきみづ)浴びながらまたもやあやしき神憑(かむがかり)してをり
ありがたい勿体(もつたい)ないぞ疑ふな俺はまことの天狗と言ひをり
疑ひはいたしませねど下司熊(げしくま)の行ひわが腑に落ちぬといふ(ぢぢ)
神の道にゐながら人をそしるとは()しからぬぞときめつけてをり
世の人を泣かせ博奕(ばくち)はうちたれど改心のけふは神が使ふぞ
またしても(にせ)神憑(かむがかり)なしながら欲ぼけ親爺を下司熊(げしくま)あやつる
五万円の(かね)のありかを神ならば知らして下されと祈れる親爺よ
その(はう)(いもうと)を女房にいたすなら百万円でも()ると言ひをり
ありかさへ先にお知らせ下さらば(いもうと)はすぐにあげますと言ふ
そりやいかぬ(いもうと)を先に下司(げし)が妻に渡せ順序が違ふと言ひをり
この下司(げし)()しだまされてはわが妻にすまずと親爺(あたま)ふりをり
現金な親爺なるかな欲ぼけて神第一といふこと知らぬか
神第一は知つてをります(ひと)第一は私はどしてもせぬと(ぢぢ)いふ
どこまでもこの神憑(かみがかり)疑ふならば勝手にせよと下司熊(げしくま)いひをり
勝手にするくらゐなりせば真夜中にこの奥山には()ぬと(ぢぢ)いふ
恋と欲とにとぼけた男両人が滝をあびつついさかひてをり
天狗の実体
をかしさにわれは思はずふきだしてワツと笑へば二人は(もだ)せり
あの声はどうやら喜楽に違ひない探そぢやないかと相談してをり
両人は手早く(ころも)を身にまとひ滝の左右に(わか)れてのぼる
ほの(ぐら)雌岩(めいは)のかげにうづくまり息をこらして忍びゐたりき
両人は恋と欲とに目がくらみわが姿さへ目に()らぬらし
喜楽()巌窟(いはや)の中にゐるだらうなどと言ひつつ山かけ登る
両人のたち去るあとを月かげにすかしてほつと一息つきたり
蚊にさされ夜露(よつゆ)にしめり苦しさをこらへて雌岩(めいは)のかげに(われ)をり
しんしんと()()けわたり月高く頭上の()()にかがやきにけり
われもまた雌岩(めいは)のかげを()()でて巌窟(がんくつ)近くしのび寄りたり
五万円のありかありかと西塔(さいたふ)は執念深く連発してをり
五万円の(かね)よりまづは千円の(かね)のありかを知らすと下司(げし)いふ
高熊の三つ葉つつじのその下に小判千両いけありと下司(げし)いふ
そんな(こと)昔から俺は知つてゐるそりやこの山の伝説ぢやないか
伝説は知つてをれども本当の(かね)のありかは誰も知るまい
三つ葉つつじありかわかればその下を掘れば出るよと(にせ)神憑(かむがかり)いへり
その三つ葉つつじのありかを神ならば今知らせよとなじる欲爺(よくぢぢ)
そんな無茶いふ(やつ)神も困るぞよなどと熊公(くまこう)(にせ)神憑(かむがかり)
三つ葉つつじありかも知らぬ神ならば(にせ)神憑(かむがかり)欲爺(よくぢぢ)(いか)
その(はう)神信心(かみしんじん)はおもてむき(かね)かねばかりぬかす(やつ)かな
貴様こそ(かみ)鰹節(かつをぶし)にわが(いもと)恋にとぼけて欲しがる(やつ)だよ
喧嘩
今晩に(かね)のありかがわからねば(しり)くらへ観音(いもうと)はやらぬ
土手(どて)南瓜(かぼちや)七お多福のすべた()を誰がもらふかと啖呵(たんか)きる下司(げし)
(いもうと)土手(どて)南瓜(かぼちや)とは何を云ふ聞きずてならぬとなじる西塔()
どこまでも(かね)のありかは知らさぬと(にせ)神憑(かむがかり)威猛高(ゐたけだか)にいふ
貴様らに(かね)のありかは聞かずとも喜楽さがして聞くといふ(ぢぢ)
こら親爺喜楽にきくなら真夜中に何故(なぜ)この(はう)をひきだしたか馬鹿め
一村(いつそん)の公爵さんを馬鹿()とは何ぬかすかと頭をなぐる
俺だとて尋常大学出身者だ馬鹿にするなとゐたける熊公
両人の争ひますますしげくなり巌窟(いはや)の前にて組うちをなす
両人はからみあひたるそのままに断崖(だんがい)の上より渓間(たにま)に落ちたり
断崖ゆ落ちたる刹那に思はずもわれは神号(しんごう)宣りあげにけり
両人の上に(つつが)()かれかしと少時(しばし)祈りぬ天地(てんち)の神に
宗襄の仁「宗襄」は「宋襄(そうじょう)」の誤字か?
両人の安否いかにと(つゆ)わけてわれ谷底にうかがひよりぬ
谷底をいてらす月のかげにみれば組みつきしまま倒れてゐたりき
谷水を掬ひて二人が顔面にそそげばうんと息吹きかへせり
虫のなくやうなか細き声しぼり感謝してゐる()さんのあはれさ
下司熊(げしくま)はハツと気がつきぽつぽつとわれに逆襲こころみにけり
断崖ゆ突いて(おと)して殺さむとしたる喜楽を訴へると云ふ
こら喜楽明日(あす)警察に訴へるそれがいやなら(かね)出せといふ
訴へるならうつたへろ生命(せいめい)をたすけて貰うた恩人のわれを
手と足のこの深傷(ふかきず)を証拠にて訴へるとて逆捻(さかねぢ)くはせり
西塔(さいたふ)下司(げし)の言葉にいかりたち(ばち)あたり()と泣きつ(いか)りつ
下司熊(げしくま)は悪の本性あらはしてそろそろわれにもつれかかりぬ
真夜中に精州(しやうず)の滝でわれ()二人おどかしよつたは喜楽と下司(げし)いふ
かうなればやぶれかぶれだ神憑(かむがかり)みな(うそ)だつたと舌を出しをり
この親爺(かね)のありかを迫るゆゑ(にせ)神憑(かむがかり)も困つたと笑ふ
一匹の牛をこの(はう)に渡さねば突き(おと)したと訴へてやる
喜楽()が魔術つかつて断崖ゆ(おと)しよつたと無茶いふ熊公
西塔(さいたふ)下司(げし)の芝居と知らずして心弱きわれ牛とられけり
牛とりしそのあくる日は西塔(さいたふ)(いもうと)下司(げし)の妻となりをり
下司熊(げしくま)は牛一匹を強奪し羽織(はおり)(はかま)をさらへてかへる
井戸ばたに行水したるそのすきに羽織(はおり)(はかま)下司(げし)がもちゆく
西塔(さいたふ)下司(げし)もその()はわが(いへ)にたづね来たらず顔そむけゐる
我利亡者
高熊山青草(あをくさ)しげる谷底(たにそこ)(まつ)()の月無心(むしん)()らせり
下司熊(げしくま)の無理難題の馬鹿らしさ彼が心をわれあはれみぬ
(かね)と恋に()ゑたる二人の痩犬(やせいぬ)を救ひしと()へば心(すが)しき
()せこけし二人はあばらの壁下地(かべしたぢ)夜目(よめ)にも見ゆるばかりなりけり
素裸(すはだか)になりて滝水(たきみづ)浴びる(さま)はさながら地獄の亡者に似たりき
骨と皮ばかりの肉体滝壺に浸して(かれひ)のごとく泳げり
皎皎(かうかう)と月は二人の黒き()を骨もとほれと(ひか)りさし()
両人の()せたる身体(からだ)見るにつけ(われ)は思はず涙にくれたり
色と金に()ゑたる二人も一匹の牛をもらうて神に感謝す
神様のお蔭で喜楽が牛くれたと滝に打たれて感謝して()
西塔(さいたふ)下司(げし)の二人はわが前に必ずたのむと()(あは)し居り
心からの感謝にあらずと知りながら痩せた姿をあはれみ牛やる
牛くれる喜楽は誠の神様と云ひつつ二人が()(あは)せをり
(にせ)神憑(かむがかり)やつたらどうかとからかへば(にせ)にあらずと熊公むきになる
千両万両
五万円のありかは知らぬが千両のありかを知つて()るとからかふ
下司熊(げしくま)は両手を頭上にさし上げて(われ)野天狗(のてんぐ)喜楽たのむといふ
野天狗(のてんぐ)のうつるやうなる下司熊(げしくま)にありかは知らせぬ修行せいといふ
西塔(さいたふ)両掌(りやうて)をあはして五百円が三百円でも結構といふ
万両は西塔(さいたふ)の庭に千両は高熊山になれりとわれ云ふ
こりや喜楽馬鹿にするのか千両や万両の()何処(どこ)にもあるわい
こんな事()つてからかふ喜楽()が又(うし)やらうと(うそ)をいふのか
乳牛(ちちうし)奥條(おくでう)の農家にあづけあれば勝手に持つてゆけと(われ)いふ
御意(ぎよい)(かは)らぬうちと両人は夜更(よふ)けの谷道くだりて帰る
両人が帰りし後姿(うしろで)見送りて(われ)はつくづく世を(さび)しみぬ
大方(おほかた)の人の心はかくもあるかと思へば淋し夜更(よふ)けの深山(ふかやま)
西塔(さいたふ)下司(げし)身魂(みたま)正道(まさみち)(かへ)させたまへと祈り久しき
神界は正神(せいしん)邪神(じやしん)の区別あり欲に迷へば邪神になぶらる
西塔(さいたふ)は今や邪神に(だま)されて下司熊(げしくま)頤使(いし)に従へるなり
(その)こころ(ただ)しかりせば正神(せいしん)に感合すべき神界の(のり)
下司熊(げしくま)の曇れる(たま)西塔(さいたふ)欲惚(よくぼ)(ごころ)と合致せるらし
両人が色と欲とに目のいろを変へて騒げるさま憐れなり
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