霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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田草取り

インフォメーション
題名:田草取り 著者:出口王仁三郎
ページ:349 目次メモ:
概要:28歳の頃 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-08 00:00:00 OBC :B119800c081
二十八歳の頃
家族(うから)親族(やから)友垣(ともがき)(たち)にせめられていやいやながら田の草を取る
稲の田の草とりをれば治郎松(ぢろまつ)はお前の所作は似合ふとからかふ
治郎松『これからは(きつね)(たぬき)を祀らずに百姓をせよ信用回復のために
穴太(あなを)には禅宗寺(ぜんしうでら)も観音堂も立派にあるから(たぬき)はまつるな』
十分にお前は改心してをらぬ(しり)(たぬき)()があるとわらふ
治郎松(ぢろまつ)にくさぐさ(そし)られからかはれ腹立つままに草とりてをり
百姓にみが()りてをらぬ取つたあとに(ひえ)があるぞとやかましく言ふ
神様のこと思ひつつ田草(たぐさ)とりて(ひえ)一株(ひとかぶ)を抜き忘れをり
(ひえ)(かぶ)(どろ)つきしまま抜きとりて投ぐる拍子に治郎松(ぢろまつ)にあたる
俺の顔に(どろ)ふりかけたと(いか)りたちて(くは)をふりあげわが(しり)を打つ
無意識にかかつた泥を(くは)をもて(しり)を打つとはあんまりだと(なじ)
泥田の争ひ
治郎松『馬鹿いふな貴様は知つてゐながらに俺を恨んで(どろ)掛けたのだ』
治郎松(ぢろまつ)小癪(こしやく)な野郎といひながら又(くは)上げてわが(しり)を打つ
忍耐は神の(をしへ)腹立(はらだち)をこらへてわざとあやまりてみし
(くち)ばかり心の中ではこの俺を馬鹿にしてるとますます(いか)
あやまつてをれども言葉が(うは)つ調子その手はくはぬと又(しり)をうつ
腹の虫承知いたさずたちまちに堪忍袋の緒はきれにけり
治郎松(ぢろまつ)(くは)をやにはにひつたくり野中の深井戸(ふかゐど)に投げ捨てにけり
百姓の一の宝のわが(くわ)を井戸に投げたと(いか)りて組みつく
われもまた負けてはをらず治郎松(ぢろまつ)に武者振りついて田に倒しけり
()ゑし泥田(どろた)の中に両人は組みつはぐれつ揉みあひにけり
両人は泥にまみれて呶鳴りつつ半泣声(はんなきごゑ)をあげてあらそふ
隣田(となりだ)に草とりをりし与三(よさ)といふ狂人(きちがひ)親爺(おやぢ)がかけつけて来る
治郎松(ぢろまつ)喜楽(きらく)の喧嘩は面白い俺も加勢と二人をなぐる
治郎松(ぢろまつ)狂人(きちがひ)親爺になぐられて血を出しながら与三(よさ)(くみ)つく
治郎松(ぢろまつ)狂人(きちがひ)与三(よさ)の両人が水田(みづた)の中にごろごろしてをり
両人が争ふすきをうかがひて小便ひりかけ逃げ出しにけり
小便をかけられながら両人は一生懸命()らずに争ふ
(ごと)田ごと草とりをりし村人の老若男女はその場に(あつま)
打たれたる(しり)の痛さにびつこひきて()けつ(まろ)びつわが()に帰れり
八十五の老婆はわが(しり)の傷をみて涙ながらに介抱されたり
草刈りて山より帰りし由松(よしまつ)は母とともどもわが傷みてをり
こりや兄貴如何(どう)して(しり)をきられたと(ども)り尋ねる由松(よしまつ)をかし
きられても助けぬやうなやくざ(がみ)これから兄貴まつるなといふ
ほんとうの神なら治郎松(ぢろまつ)をさかさまに()らす(ちから)がある(はず)といふ
溝狸(どぶだぬき)奴狐(どぎつね)祀つた仏罰(ぶつばつ)でよいこらしめと弟が笑ふ
おひおひに(しり)はれあがり痛み出し身動きならず病床に(うな)
神なれば兄貴の(しり)をなほさんかと由松(よしまつ)いかりて祭壇をこはす
叔父の来訪
由松(よしまつ)の急報により船岡(ふなをか)妙霊(めうれい)教師の叔父は来たれり
わが叔父の妙霊教師清六(せいろく)(めう)(めう)(めう)と祈り出したり
妙妙(めうめう)と祈るをかしさ(こら)へをれば傷所(きずしよ)にひびきてますます痛む
妙妙(めうめう)を嫌うた(ばち)でこんなことになつたと叔父はわれをいましむ
清六『由松(よしまつ)が狸といふも無理はない妙妙(めうめう)さんをいやがるお前を』
それみたか叔父も狸というてゐる妙妙(めうめう)まつれと由松(よしまつ)いたける
(しり)痛め寝てゐる俺を妙妙(めうめう)といふ宗教は絶対嫌ひだ
妙なことお前はいうとわが叔父は妙な顔して妙妙(めうめう)と祈る
妙妙(めうめう)をまつらなこれから叔父でない(をひ)ではないと(われ)をおどせり
勘当をされてもかまはぬ神といふ親がわしにはあると答ふる
神様が親なら何故(なぜ)にこの傷をなほしてくれぬと由松(よしまつ)(なじ)
神様が親なればこそ大難(たいなん)小難(せうなん)にまつりかへ下さつたのだ
こりや兄貴とぼけたことをぬかすなと由松(よしまつ)(いか)りて水ぶちかける
腹立てど身動きならぬ悲しさに腮辺(しへん)にわれは紅涙(こうるゐ)ながせり
おひおひに熱(たか)まりてわが(かしら)(かね)つく如く痛みだしたり
わんわんと(かしら)は痛み耳なりて苦しき枕べに妙妙(めうめう)の声
わが叔父は一心不乱に汗流し一万回の妙妙(めうめう)()
妙妙(めうめう)としわがれ(ごゑ)をきかされてわが精神は妙にいら立つ
おせつかひ
株内(かぶうち)のお(まさ)()さんがたづね来てわが病床に首振りもの言ふ
お政『(まつ)さんとお前はえらい喧嘩して(しり)きられたといふではないか
穴太寺(あなをでら)の観音様を拝まずにお前は(たぬき)を祀つた(ばち)よ』
やかましい()んでおくれとわれ言へばお(まさ)()さんが目をつりあげる
お政『御先祖の応挙(おうきよ)さんは金剛寺(こんがうじ)に絵をかいてござる(とほけ)信者よ
御先祖は(ほとけ)になつてござるのに神(まつ)るとは不心得のお前
神様と思つたお前は奴狸(どたぬき)をまつつてゐるといふがほん(たう)か』
狸なら一時も早くくすべ出せと水ばなすすりていさめる(ばあ)さん
仏法(ぶつぱう)がいやなら幸ひ叔父さんの妙妙(めうめう)さんに従へといふ
やかましい(あたま)が痛むとわれいへば(ばち)あたり()とお(まさ)(にら)
穴太寺(あなをでら)の観音様が(まつ)さんの手をかり(しり)を打たしたといふ
(やかま)しいうるさい早く()なんかとわれやけくそになりて呶鳴れり
お政『妙妙(めうめう)さん狸が()いてをりまする早く退散さして下さい』
清六『奴狐(どぎつね)溝狸(どぶだぬき)()とが()いてゐるわが念力で退()けて見せます』
わが叔父は妙妙(めうめう)(とな)心経(しんきやう)をお(まさ)が一心不乱にとなへる
隣からおむつ()さんが聞きつけてわが()に来たり法華経を読む
南無阿弥陀妙妙(めうめう)妙法蓮華経言霊(ことたま)一つになりてうるさき
われもまた負けずおとらず苦しき息を惟神霊幸倍坐世と宣る
またしても惟神(かむながら)惟神(かむながら)ぬかすかとおむつ(ばあ)さん珠数(じゆず)もてなぐる
治郎松(ぢろまつ)の母親おこの(ばあ)さんがこの場にあらはれ(あご)しやくりをり
枕べに直立しながらおこの(ばあ)さんがにたりと笑ふいやらしき顔
溝狸(どぶだぬき)早く()なぬか与三(よさ)はんに(うつ)つて(せがれ)を苦しめたといふ
おこの『田の中で狂人(きちがひ)与三(よさ)睾丸(きんたま)を握られ松が目をまはしたぞや
これも皆お前のわざと思うたら親のわしには腹が立つぞえ
喜楽さんはこんな男でなかつたに狸が()いて無茶をし出した
仏様(ほとけさま)のお(かげ)(まつ)はなほつたがこの奴狸(どたぬき)は出さねばおかぬ』
治郎松(ぢろまつ)はちんば()きひき()り来たり(たぬき)(たぬき)(した)出して笑ふ
この(たぬき)三千年(さんぜんねん)(がふ)()たしたたかものよ容易にのくまい
わが叔父は一心不乱に妙妙(めうめう)(とな)へてみれど何の(へん)なし
法華経も禅宗の読経も(しるし)なく(しり)と頭の痛みなほらず
今板額
()の女(たちま)ち泣きつつ()り来たり今大阪ゆ帰りしといふ
治郎松(ぢろまつ)(しり)打たれしと聞くよりも(たちま)(まつ)にくつてかかれり
板額(ばんがく)といはれし彼女は治郎松(ぢろまつ)横面(よこづら)ぴたりとなぐり倒せり
治郎松(ぢろまつ)おこの()さんも由松(よしまつ)も手に(つばき)して彼女に組みつく
三人にくらひつかれて板額(ばんがく)悠悠(いういう)(には)にふるひ(おと)せり
隣村(りんそん)の宣伝なせし石田こすゑは噂ききつけ急ぎ帰れり
治郎松(ぢろまつ)は貴様も敵の片割れと石田こすゑをなぐりとばせり
驚きて石田こすゑはいち早く交番さしてはせゆきにけり
苦しめるわが病床を中にして有象(うざう)無象(むざう)(ささや)き高し
靴の音高くきこえて警官はわが()に急ぎ()り来たりけり
松、おこの、お(まさ)に、おむつ、板額(ばんがく)、こすゑ、由松(よしまつ)清六(せいろく)、一斉に(うつた)
治郎松(ぢろまつ)が負傷させたは罪なりと巡査の言葉に母子(おやこ)はふるふ
治郎松(ぢろまつ)を訴へますかとわが耳に小声で巡査ささやきにけり
治郎松(ぢろまつ)はこれを聞くよりふるへ出し両掌(りやうて)(あは)せて巡査を拝む
喜楽さんの意見次第と警官は松の頼みをはねつけてをり
治郎松(ぢろまつ)はわが枕辺(まくらべ)()(あは)せお前はたすけの神さんといふ
現金な治郎松(ぢろまつ)の態度のをかしさに俺は神ではないと首ふる
そんな事おつしやらずして治郎松(ぢろまつ)をお助けあれと一同合掌す
溝狸(どぶだぬき)奴狐(どぎつね)の俺は親分だ人間の言葉はわからぬといふ
治郎松『これからは(たぬき)(きつね)とはいひませぬ喜楽の神さんおたすけ下さい』
板額(ばんがく)は座敷の中にあぐら組みわからぬ(やつ)と巡査に言ひをり
おこの『意地悪きことを言はずにわが(せがれ)たすけて下され邪魔させませぬ』
さすがにもわが子の可愛(かあい)さおこの()さんは(なみだ)流して拝むあはれさ
お政『喜楽さん親類同志のことぢやないかあとが大事(だいじ)ぢや料簡(れうけん)しなさい』
おむつ『近所同志喧嘩をするのは見つともない和合するのが(ほとけ)のみこころ』
清六『親類の人を(うつた)へ敵にしてお前はそれをよいと思ふか』
母『どんなことで世話になるかもわからない近い親類は一番大事よ』
由松『(うつた)へるなら訴へよこら兄貴(おれ)は懲役してもかまはぬ』
由松(よしまつ)は改心せよといひながらわが痛き(しり)無性(むしやう)に打つなり
そんな事してはならぬと警官にいはれ由松(よしまつ)ちぢまりて泣く
警官の仲裁によりていつたんはこの争ひも安くをさまる
治郎松(ぢろまつ)はやつと胸をば撫でおろしお前は偉いと追従(つゐしよう)のみ言ふ
これからはお前のすること一言(ひとこと)も邪魔は()れぬと誓ふ治郎松(ぢろまつ)
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