円山応挙は本名を上田主水と称したのである。京都の円山の辺に住んで妙筆を揮つて居たので、画名を円山応挙と名告つたのである。然るに同じ穴太に丸山といふ姓があるので、応挙は丸山家から出たものと世人は誤解して居るのである。現に穴太生れの丸山某は京都の町に居をトし、何時の間にやら、丸まるを円まるに変更し、円山応挙六世の孫なぞといつて居るのである。厚顔無恥も、茲に至つて極まれりと謂ふべしだ。
丸山某といふ人は、明治の初年に伏見鳥羽の戦争に、長州の武士から人夫として雇はれ、敗戦の結果、多数の死者が出来た。その際に某氏は死骸の中に潜り込み、死者の懐中物を一々探つて莫大なる金銀を集め、それを資本として郷里に数町歩の田畑を購求し、傍ら三百代言をして随分人に憎まれつつ持丸長者になつた所から、名誉欲に唆られて、終に円山応挙の末裔と偽称するに至つたのである。某は金の力で京都に出で、三百も余り面白からぬ如うになつたので、或る方法に依つて印紙屋を営み、数十万円の資産を造り上げ、府会議員まで鰻上りに上つた、容易ならぬ敏腕家である。そこで郷里の穴太に円山応挙生誕地といふ立派な碑を樹てて、裏面には府会議員円山某と刻して居るやうな虚栄家である。
たしかに明治十六年、王仁が十三才の時であつた。丸山某氏が訪ねて来て、ここの家には上田主水さんの画の描き降しが沢山にあると聞いたが、一度拝見したいと申込んで来た。そこで王仁の両親は快く古長持の中に納めてあつた数百枚の画の描き損じを出して見せた。某は非常に驚歎して帰つた。四五日を経て、某は再び訪ねて来ていふには、
『お前さん処にこんな反古を何時までも大事に保存して置いた所で、何の役にも立たぬから、私は五円に買うて進げよう。五円あれば米が一石も買へる。正月にも沢山な餅を搗いて子供を喜ばして与つては何うだ』
と謂つて、頻りに売れ売れと迫るのである。
癇癪持の父の吉松は、丸山某の言草が気に喰はぬと、大変に怒り出し、
『お前さんに買つて貰ふ位なら、ここで灰にして了ふ』
と謂つて、其の中から数十枚持ち出して某の眼の前で焼き捨てて了つたので、某は詮方なく無礼を詫びて帰つて往つた。それからは種々と手を替へ、人を頼んで売却の儀を申込んで来たが、頑固一偏の父は、最初の某の言草が気に喰はぬからと主張して、断乎として要求に応じなかつたのである。さうすると今度は、王仁を養子に貰ひたい、大学へ入れて立派な人間に仕上げて与るからと、幾度となく出て来て、余り五月蠅くて堪らず、癇癪親父が到頭大喧嘩をおつ始めて絶交して了うた。持丸長者の某が破れ家の水呑百姓の小伜を養子に呉れと申込んで来るのは普通ではない。何か三百代言だから深い魂胆が伏在するに相違はないと謂つて、父が立腹して居たのが歴然として王仁の記憶に今猶残つて居るのである。
然るに不幸にも上田の倭屋は、明治三十三年の二月七日に祝融子の見舞ふところとなり、家財家具は言ふに及ばず、円山応挙に関する書類も絵画も、悉皆烏有に帰したのである。サアさうすると、例の丸山某は得たり賢しとして、自分が応挙の六世の孫なりと宣言し、終に応挙生誕地の石碑までも建立するやうになつたのである。然るに丸山某は代々西穴太に屋敷があつて、今は上田和市氏の邸宅になつてをり、生誕地と書いてある記念碑の建設地は、明治十二三年頃に穴太寺の桑園地であつたのを購入して、新たに居宅を造り住んだのであるから、生誕地で無い事は明白な事実である。
霊界物語.ネット～出口王仁三郎 大図書館～