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下僕

インフォメーション

題名：下僕著者：出口王仁三郎

ページ：30 目次メモ：

概要：備考：『故山の夢』p34-40 タグ：データ凡例：データ最終更新日：2023-10-30 08:26:21 OBC ：B121808c17

─十五六歳の頃─

凍柱(いてばしら)たつ麦の田に霜(しも)ふみて肥料をやれば手足こごれり

肥料(こえ)一荷(いつか)麦の田にかけ帰るさに昇る旭のあたたかみかも

白白(しろじろ)と霜(しも)おく野辺もかつぎたる肥料(こえ)の重さに汗にじむ肌

○

藁(わら)をきざみ糠(ぬか)にまぶして牛にやる朝(あした)したしきうまやのおもて戸(ど)

閂(かんぬき)をはづして牛を牽(ひ)きいだし夕(ゆふ)べの小川に追ひ入(い)るる夏

朝夕にこきつかはるる百姓の下僕(しもべ)のわれの牛に似しかな

ものいはぬ牛とかたりて夕暮の山路(やまぢ)淋しく柴(しば)刈りてかへる

○

霜柱(しもばしら)たてる朝(あした)に柴(しば)を刈る農家の下僕(しもべ)はくるしかりけり

山焼けの跡の枯木(かれき)を刈りとりて村の男(を)の子(こ)にどなられしかも

独り立つ身分ならねば百姓の下僕(しもべ)の業(わざ)にいそしむ朝夕(あさゆふ)

垣(かき)一重(ひとへ)へだてて父母はありながら訪(と)ふひまもなき下僕(しもべ)なりける

○

近眼(きんがん)のおやぢが田芋(たいも)とあやまりて梅干(うめぼし)皿にもり食ふをかしさ

まけをしみ強きおやぢは梅干が大好物と顔しかめ食ひぬ

一皿(ひとさら)の梅干を食ひて喉(のど)かわきやたらに水をがぶがぶのめる

このおやぢ丹波与作と名告(なの)りつつ力(ちから)自慢で角力(すまふ)とりたがる

近眼(きんがん)のおやぢを幸ひ掌(てのひら)に墨(すみ)ぬりつけて顔にとびつきし

日の暮(くれ)か何だか顔がうつとしいなどと近眼(ちかめ)が墨顔(すみがほ)なでる

手を拍(う)つて笑へばおやぢ感づきてコン畜生奴(め)と追ひかけまはる

逃げながら縄ひきをけば足にかかり近眼(ちかめ)のおやぢどんとこけたり

コン畜生もう料簡(れうけん)はならぬぞと血を出しながら地団駄を踏む

生活に苦しき若き身ながらもいたづらのみは忘れざりけり

○

氏神(うぢがみ)の祭の太皷(たいこ)をかつぎだし厠(かはや)の中に打ちてしからる

人魂(ひとだま)が出ると村中(むらぢう)ふれまはし薮(やぶ)にひそみて灯(ひ)をともしたり

瓦斯燈(がすとう)に青紙(あをがみ)はりてつき出せば石なげられて吾(わ)が顔傷(きず)つく

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