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観音堂

インフォメーション

題名：観音堂著者：出口王仁三郎

ページ：71 目次メモ：

概要：備考：『霧の海』p23-28 タグ：データ凡例：データ最終更新日：2023-10-31 08:40:29 OBC ：B121808c34

─二十三四歳の頃─

穴太寺(あなをでら)観音堂の法会(ほふゑ)の夜(よ)こころ合ひたる女とかたる

穴太寺(あなをでら)春の法会(ほふゑ)の無縁経(むえんきやう)に有縁(うえん)の女と語る楽しさ

観音堂の裏の小暗(をぐら)き庭にたち堅く握りし手は熱(あつ)かりき

何となく胸をののきて一言(ひとこと)も吾(わ)が言(こと)の葉(は)は出(い)でざりにけり

感激の身をふるはせて彼(か)の女吾(われ)と同じくもだし居(ゐ)たりき

手を握り互(たがひ)に目と目をそらしつつ面(おも)はほてりぬ息ははづみぬ

漸(やうや)くに好きと小声に吾(われ)いへばにやりと笑ひてすと逃げてゆく

或家(あるいへ)の門口(かどぐち)あけて彼(か)の女伯母(をば)と語れる言葉ふるへる

戸(と)の外(そと)にそとたたずみてその女伯母(をば)と語れる様子聞き居り

どうしてももう一言(ひとこと)を語らねば心すまずと去りがてに居し

屋内にパッと消えたる洋燈(やうとう)に吾(われ)あきらめて家路に帰る

わが家に帰れと眼(まなこ)さえにつつ彼女のことのみ夢に見たりき

女の名(な)寝言(ねごと)にいひし翌(あくる)朝(あさ)父はほほゑみもらへと語る

ほほゑめる父の面貌(おもは)のはづかしさ面(おも)ほてりつつ知らぬと答へぬ

お互ひの恋の佳境に入(い)りしころ吾(われ)は修業のために村去る

小北山(こぎたやま)南(みなみ)おもては恋(こ)ふる人のうからやからの住める里なり

獣医学(じういがく)修業せむとて園部(そのべ)ゆく途中を彼女の家に立ち寄る

○

立ち寄れば彼女の父はよろこびて風流談(ふうりうだん)などなして夜(よ)明(あか)す

一夜(ひとよ)さの夢も結ばず小北山(こぎたやま)越えて園部(そのべ)へ吾(われ)は出(い)でゆく

二三日すれば彼女の玉(たま)の文(ふみ)盂蘭盆(うらぼん)の夜(よ)に会はむとしるせり

○

この文(ふみ)を見るより盂蘭盆(うらぼん)待ちかねて牛飼ふ業(わざ)も手につかぬ思ひ

盂蘭盆(うらぼん)の日を待ちかねて故郷(ふるさと)に帰れば伯母にさまたげられたり

喜楽さんお前はすまぬ男よと彼女の伯母は吾(われ)をたしなむ

伯母の眼(め)の鋭きままに一言(ひとこと)もかはす術(すべ)なく惜しく別(わか)れし

その日より叶(かな)はぬ恋とあきらめて吾(われ)は園部(そのべ)に立帰(たちかへ)りけり

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