霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 三途川(せうづがは)〔五五一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第1篇 五里夢中 よみ(新仮名遣い):ごりむちゅう
章:第1章 三途川 よみ(新仮名遣い):しょうずがわ 通し章番号:551
口述日:1922(大正11)年03月23日(旧02月25日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
大海原の宝の島と伝えられる竜宮海の一つ島に、ウラル教を広めようとやってきた六人の宣伝使たちは、島を守る三五教の飯依彦の善言美詞の勢い退散し、フサの海まで帰り来たとき、船上で日の出別宣伝使に出合った。そして上陸したシヅの森で、一同は三五教に改心した。
一行は醜の岩窟を探検したあと、猿山峠で音彦、弥次彦、与太彦は他の宣伝使に遅れをとり、そこをウラル教の捕り手に襲われた。関所を抜けて、泥田で弥次彦・与太彦は服を失った。ついに囲まれて衆寡敵せず、三人はやむなく千尋の谷間に飛び込んだ。
気がつくと三人は青々とした淵の辺にいた。服を失った弥次彦、与太彦は、生まれ赤子の心だなどと呑気なことを言っている。
音彦は、これから旅を続けるのに都合が悪いからと言って、自分の衣服の一部を貸そうとするが、弥次彦・与太彦は聞かない。暗くなってきた路を、三人はそのまま進んで行く。
すると、にわかにあたりが明るくなってきた。そこには大変な大河が南北に流れている。河向こうには金殿玉楼がうっすらと浮かんで見える。三人は川岸に着いた。
与太彦はどうやって河を渡ろうかと案じるが、弥次彦はこのまま泳いでいけばよい、音彦も服を捨てて裸になればよい、と言う。音彦は宣伝使として法服や被面布を捨てるわけにいかない、と行って思案に暮れている。
ふと見ると、傍らにみすぼらしい藁小屋がある。弥次彦は小屋の中で会議をしようと中をうかがうと、婆さんがいる。婆はここは三途の川だと告げ、自分は脱衣婆だと名乗った。
一行はようやく、これは幽界を旅行しているようだと気がついた。脱衣婆は弥次彦の生前の行いをあげつらい、宣伝使としての行いを非難する。弥次彦はそれに対していちいちおかしな理屈を混ぜながら反論している。
弥次彦が脱衣婆をおかしな問答をしていると、ウラル教の大目付源五郎がやってきた。源五郎は、猿山峠で宣伝使たちを追い詰めたが、その後馬から振り落とされて死んだのであった。
弥次彦は敵を討とうと、脱衣婆から職権を一時的に譲り受けると、源五郎の着物をはいで、自分と与太彦のものにしてしまった。また、脱衣婆から釘抜きを借りて、源五郎の舌を抜きにかかった。源五郎はたくさんの罪を抱えて、非常に多くの舌を持っていた。
脱衣婆は、一同にもう河を渡るようにと促した。不思議にも、三途の河の水がなくなって、歩いて渡れるようになっていた。弥次彦は脱衣婆を夫婦気取りで別れを嘆く。それを見て音彦、与太彦、源五郎は吹きだす。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-06 02:12:55 OBC :rm1401
愛善世界社版:9頁 八幡書店版:第3輯 159頁 修補版: 校定版:11頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
001大海原(おほうなばら)(ただよ)へる
002(たから)(しま)(きこ)えたる
003竜宮海(りうぐうかい)(ひと)(じま)
004(たから)(かず)もオセアニヤ
005ウラルの(ひこ)神勅(しんちよく)
006(ほう)じて(きた)(ろく)(にん)
007信神(しんじん)堅固(けんご)守護神(まもりがみ)
008(もと)竜宮(りうぐう)(つか)へたる
009(かみ)(ちから)田依彦(たよりひこ)
010(たま)(みが)いて飯依彦(いひよりひこ)
011(かみ)(つかさ)(あら)はれて
012善言(ぜんげん)美詞(びし)言霊(ことたま)
013言向和(ことむけやは)(いきほひ)
014ウラルの(をしへ)宣伝使(せんでんし)
015三年(みとせ)苦労(くらう)(みづ)(あわ)
016(なに)土産(みやげ)もアルパニー
017(みなと)(あと)千万(ちよろづ)
018浮島原(うきしまばら)乗越(のりこ)えて
019航路(かうろ)(なが)(つる)(くに)
020(つる)(みなと)立出(たちい)でて
021フサの(うみ)まで(かへ)()
022(とき)しもあれや東北(とうほく)
023(かぜ)(あふ)られフサの(うみ)
024三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
025()()(わけ)(めぐ)()
026タルの(みなと)上陸(じやうりく)
027(あし)さへダルの(かは)()
028徐々(しづしづ)(すす)むシヅの(もり)
029(かみ)(ひかり)(てら)されて
030(ここ)(こころ)(ひるがへ)
031(たちま)(かは)三五(あななひ)
032教司(をしへつかさ)(とも)なはれ
033フル()(はら)打渡(うちわた)
034(しこ)岩窟(いはや)探険(たんけん)
035コシの(たうげ)もいつしかに
036わたりて(ここ)猿山(さるやま)
037(たうげ)(ふもと)一同(いちどう)
038まどろむ(をり)しも音彦(おとひこ)
039(ねむり)(さま)して(なが)むれば
040(つき)()()(かがや)きて
041(ここ)()(にん)宣伝使(せんでんし)
042(かげ)姿(すがた)(なが)(たび)
043弥次彦(やじひこ)与太彦(よたひこ)(とも)なひて
044()()(てき)()はれつつ
045荒野(あれの)(わた)(かは)()
046(まが)関所(せきしよ)()()えて
047泥田(どろた)()ちし裸身(はだかみ)
048(あし)(かる)げに小鹿山(こしかやま)
049四十八(しじふや)(さか)()かかりし
050(とき)こそあれや前後(まへうしろ)
051数多(あまた)(てき)襲来(しふらい)
052衆寡(しうくわ)(てき)せず音彦(おとひこ)
053弥次彦(やじひこ)与太彦(よたひこ)諸共(もろとも)
054千尋(ちひろ)谷間(たにま)飛込(とびこ)みて
055谷間(たにま)(なが)るる速川(はやかは)
056(みづ)藻屑(もくづ)となりひびく
057谷間(たにま)(わた)荒風(あらかぜ)
058()(すさま)じき(ばか)りなり。
059()()(なか)()くしたものですな。060一方(いつぱう)には断巌(だんがん)屹立(きつりつ)したる山腹(さんぷく)(ひか)へ、061一方(いつぱう)には千仭(せんじん)谷間(たにま)062かてて(くは)へて前後(ぜんご)より数多(あまた)(てき)取囲(とりかこ)まれ、063衆寡(しうくわ)(てき)せず、064(いのち)(まと)溪川(たにがは)()がけて、065ザンブと(ばか)飛込(とびこ)みた(とき)心持(こころもち)()つたら、066(なん)ともかとも()れぬ(くる)しさであつたが、067エーままよ、068(かみ)(さま)(ささ)げた生命(いのち)069一寸先(いつすんさき)(かみ)御手(みて)にあるのだと覚悟(かくご)をきわめ、070飛込(とびこ)()れば、071都合(つがふ)()青々(あをあを)とした(ふち)072(もと)より(はだか)吾々(われわれ)両人(りやうにん)は、073水泳(すゐえい)には(あつら)(むき)だ。074宣伝使(せんでんし)はドツサリと、075ベラベラした装束(しやうぞく)()(まと)つて()られたものだから、076水中(すゐちう)(はま)つた(とき)には、077大変(たいへん)なお(くるし)みでしたな。078(さいは)吾々(われわれ)両人(りやうにん)真裸(まつぱだか)になつて()つたものだから、079溺死(できし)もせずに(たす)かつたと()ふもの、080()うなると親譲(おやゆづ)りの(かはごろも)無一物(むいちぶつ)(はう)が、081千騎(せんき)一騎(いつき)(とき)には(なに)ほど(らく)だか()れぬ。082それだから(かみ)(さま)持物(もちもの)(かる)くせいと仰有(おつしや)るのだ。083(はだか)(もの)遺失(おと)さぬと()(こと)がある。084(はだか)くらゐ結構(けつこう)なものはない。085ナア与太公(よたこう)……』
086与太彦『ウンさうだなア、087泥田(どろた)()ちて赤裸(まつぱだか)になつた(とき)には、088(はだか)道中(だうちう)がなるものか、089アー(なさけ)ない(こと)だ、090せめて(まわし)(だけ)なつと()しいものだと、091執着心(しふちやくしん)(はな)れなかつたが、092()()(とき)には(うま)赤児(あかご)赤裸(まつぱだか)一番(いちばん)都合(つがふ)()い。093これも(かみ)(さま)のお(かげ)だ。094(さん)(にん)(さん)(にん)(とも)(おも)着物(きもの)()けて()つたなれば、095(たれ)(かれ)(たす)からずに、096幽界(あのよ)とやらへ旅立(たびだち)をする(ところ)であつたにナア』
097音公(おとこう)は、
098音彦『ソレモさうだ、099(かみ)(みち)荷物(にもつ)不要(いら)ぬ。100(しか)(なが)(なん)とかして、101()()でも()んで着物(きもの)(こしら)へなくちや、102この(さき)(たび)する(わけ)にも()かぬ。103風俗(ふうぞく)壊乱(くわいらん)でポリス先生(せんせい)科料(くわれう)でも()られちや()つともない。104ぢやと()つて泥棒(どろばう)する(わけ)にもゆかず、105(こま)つたものだ。106(くさ)でも()みて、107(ひと)着物(きもの)でも(つく)つたらどうだらう、108のう弥次公(やじこう)
109弥次彦『ウン折角(せつかく)(はだか)にして(もら)つたのだから、110これも惟神(かむながら)だ。111逆転(ぎやくてん)御免(ごめん)だ。112ナーニ(かま)うものか、113(つら)(かは)(なら)はせとか()つて、114(なに)ほど(さむ)くつても、115(つら)(かは)には薄着(うすぎ)(いち)(まい)()せた(こと)はない、116()れて(しま)へば真裸(まつぱだか)でも、117(さむ)くも(あつ)くも(なん)ともない、118()()(とほ)(はだか)(ばう)だ、119(はだか)道中(だうちう)面白(おもしろ)いよ、120音彦(おとひこ)(くん)
121音彦『それだと()つて、122どうも不恰好(ぶかつかう)だ。123吾輩(わがはい)衣類(いるゐ)分配(ぶんぱい)して、124一人(ひとり)羽織(はおり)125一人(ひとり)(はかま)126一人(ひとり)着物(きもの)()(ふう)にやつたらどうだらうかナア弥次公(やじこう)
127弥次彦『ヤアそいちア、128尚々(なほなほ)恰好(かつかう)(わる)い、129それこそ化物(ばけもの)行列(ぎやうれつ)みたやうだ。130エー(かま)はぬ、131()きませうかい。132与太公(よたこう)ドウダイ』
133与太彦()()れたと()えて、134非常(ひじやう)(くら)くなつたぢやないか。135(くら)(とこ)(ある)くのは、136(はだか)でも(なん)でも(かま)はぬ、137()つとも()いも、138()つとも(わる)いも()つたものぢやない。139(ひと)大手(おほて)(ひろ)げてコンパスの(つづ)(かぎ)前進(ぜんしん)せうかい』
140(さん)(にん)(やみ)(みち)当途(あてど)もなく(あし)(まか)せて(すす)()く。141音公(おとこう)は、
142音彦『ヤア、143(にはか)(あか)くなつて()たぞ。144一体(いつたい)此処(ここ)何処(どこ)だらう、145大変(たいへん)大河(おほかは)南北(なんぽく)(なが)れて()るぢやないか、146河向(かはむか)ふには()()はれぬ金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)が、147(くも)()いた(やう)()えて来出(きだ)した。148ナンダか()がいそいそとして、149一刻(いつこく)(はや)()きたい(やう)心持(こころもち)になつて()たワイ』
150弥次(やじ)151与太(よた)両人(りやうにん)は、
152弥次彦、与太彦『ホンにホンに、153立派(りつぱ)建築物(たちもの)()えますな、154(これ)()ると勝利(しようり)(みやこ)近付(ちかづ)いた(やう)心持(こころもち)がして()ました、155………ヤア有難(ありがた)有難(ありがた)い、156進退(しんたい)(これ)(きは)まつて、157九死(きうし)一生(いつしやう)谷間(たにま)飛込(とびこ)みの芸当(げいたう)をやつたと(おも)へば、158(あに)(はか)らむや、159コンナ結構(けつこう)(みやこ)近付(ちかづ)いた。160(これ)だから(こわ)(ところ)()かねば熟柿(じゆくし)()へぬと()ふのだ。161有難(ありがた)有難(ありがた)い、162それにしても、163鷹公(たかこう)164梅公(うめこう)165岩公(いはこう)166駒公(こまこう)一同(いちどう)は、167どうして御座(ござ)るであらう、168猿山峠(さるやまたうげ)急坂(きふはん)を、169痩馬(やせうま)(しり)(たた)いて行軍(かうぐん)真最中(まつさいちう)だらうか。170(これ)だから(さき)()つた(もの)手柄(てがら)をするとも、171(おく)れた(もの)手柄(てがら)をするとも(わか)らぬものだ、172何事(なにごと)(かみ)のまにまに(まか)すほど安心(あんしん)(こと)はないなア』
173(かた)りつつ、174(さん)(にん)(やうや)河幅(かははば)(ひろ)水底(みなそこ)(ふか)青々(あをあを)とした(なが)(ぎし)()いた。175弥次(やじ)(おどろ)いて、
176弥次彦『ヤアこの(かは)立派(りつぱ)(かは)だナア。177大抵(たいてい)(かは)は、178通常(ふだん)河原(かはら)ばつかりで、179(よこ)(はう)(おび)(やう)に、180(あを)(みづ)がホンの形式(けいしき)(てき)に、181条目(でうもく)(やう)(なが)れて()るものだが、182この(かは)はまた例外(れいぐわい)だよ、183(かは)一面(いちめん)(なが)れで、184しかも青味(あをみ)()つた清水(せいすゐ)(なが)れて()る。185大抵(たいてい)(かは)は、186(かは)一面(いちめん)(みづ)(なが)れる(とき)大雨(おほあめ)(とき)で、187泥々(どろどろ)真赤(まつか)(みづ)だが、188コラまた稀代(きたい)立派(りつぱ)(かは)だワイ』
189与太彦(よたひこ)は、
190与太彦(かは)立派(りつぱ)だが、191何時(いつ)まで()めちぎつて()(ところ)で、192(はし)()ければ、193(ふね)()いぢやないか、194どうして(わた)つたがよからうかな。195これや(ひと)つ、196(なん)とか工夫(くふう)をせねばならないぞ』
197弥次彦『ナニ、198吾々(われわれ)(さいは)真赤裸(まつぱだか)だ。199水泳(すゐえい)(めう)()とるのだから、200対岸(むかふぎし)(なが)(わた)りに(わた)れば()いのだ。201()()(とき)には、202裸一貫(はだかいつくわん)無一物(むいちぶつ)は、203大変(たいへん)都合(つがふ)()いワイ、204(ただ)(こま)るのは音彦(おとひこ)宣伝使(せんでんし)(さま)だけだ……………もしもし宣伝使(せんでんし)(さま)205一層(いつそう)(こと)あなたの()衣服(めしもの)全部(ぜんぶ)この(かは)()()んで、206三人共(さんにんとも)(はだか)になつたらどうですか、207(うし)()でも附合(つきあひ)(いた)しますで…………』
208音彦『それもさうだが、209(まへ)はまだ普通(ふつう)(ひと)だ。210吾々(われわれ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)といふ重荷(おもに)()つて()る。211この被面布(ひめんぷ)大切(たいせつ)(いた)さねばならず、212法服(はふふく)()てる(わけ)には()かない。213アヽこうなると、214責任(せきにん)地位(ちゐ)()(もの)(つら)(もの)だ、215窮屈(きうくつ)不便利(ふべんり)至極(しごく)だわい』
216弥次彦『あなたは、217宣伝使(せんでんし)法服(はふふく)だとか、218被面布(ひめんぷ)だとかに執着心(しふちやくしん)があるから()けないのだ。219保護色(ほごしよく)(つつ)まれて()るから、220自由(じいう)自在(じざい)活動(くわつどう)出来(でき)ないのだ。221(はだか)になれば(また)(はだか)立行(たちゆ)くものです。222カメリオンの(やう)に、223(あを)(くさ)(まじ)れば(あを)くなり、224(あか)()(とま)れば(あか)くなり、225(しろ)()にとまれば(しろ)くなると()ふ、226変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)自由(じいう)活動(かうどう)()るのが、227宣伝使(せんでんし)(むし)()るべき手段(しゆだん)ではありますまいか。228大歳(おほとし)(かみ)は、229宣伝使(せんでんし)(ふく)()いで(にはか)百姓(ひやくしやう)となり、230農夫(のうふ)(ふく)()農業(のうげふ)手伝(てつだ)ひ、231立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)本分(ほんぶん)(つく)されたと()(こと)ですよ。232(かは)(わた)るのには(はだか)でなくちや駄目(だめ)だと弥次彦(やじひこ)(おも)ふがナア』
233(おと)『さう()へばさうだが、234せめてコーカス(ざん)にお参詣(まゐり)する(まで)音彦(おとひこ)は、235この(ふく)(はな)したくない』
236弥次彦『あなたはさうすると、237何時迄(いつまで)此処(ここ)に、238河端柳(かはばたやなぎ)ぢやないが、239(みづ)(なが)れをクヨクヨと()(くら)すと()方針(はうしん)ですかい』
240音彦『ヤア進退(しんたい)(これ)(きは)まつた。241音彦(おとひこ)もどうしたら()からうかなア』
242双手(もろて)()思案(しあん)()れて()る。243(かたはら)(わら)(もつ)屋根(やね)()いた(ちい)さい(いへ)()()いた。
244()『ヤア此処(ここ)に、245(しめ)一戸(いつこ)246村落(そんらく)があるワイ、247あまり(ちい)さいので、248見落(みおと)して()つた。249()()づあの(やかた)へでも侵入(しんにふ)して、250ユツクリと河端(かはばた)会議(くわいぎ)でも開催(かいさい)しませうか』
251(さき)()つて弥次彦(やじひこ)は、252藁小屋(わらごや)(なか)(すす)()る。
253弥次彦『ヤアこの藁小屋(わらごや)(なか)には、254ナンダか生物(いきもの)()るぞ。255コンコンと咳払(せきばらひ)をやつて()るワイ、256もしもし宣伝使(せんでんし)さま、257これは後家婆(ごけば)アの(かく)()()える、258マア一服(いつぷく)さして(もら)ひませうかい………』
259 小屋(こや)(なか)より皺枯(しわが)れた(ばば)(こゑ)で、
260(だれ)(だれ)だ、261この河辺(かはべ)()つて(なに)(ささや)いて()るか。262此処(ここ)はどこぢやと(おも)ふて()る、263三途(せうづ)(かは)(ふち)だぞ』
264()くより弥次彦(やじひこ)婆々(ばば)(にら)(なが)ら、
265弥次彦『ナニツ、266三途(せうづ)(かは)(ふち)だと? 全然(まるで)冥途(めいど)(たび)(やう)だ。267ソンナラ大方(おほかた)着物(きもの)()がす(ばば)ぢやないか。268ヤアナンダか気分(きぶん)(わる)いワイ。269モシモシ宣伝使(せんでんし)さま、270(なに)をグズグズして()るのだい、271(はや)()鎮魂(ちんこん)をして(くだ)さいな、272()しからぬ(こと)()老婆(ばばあ)()りますで……』
273音彦弥次彦(やじひこ)(まへ)は、274(なに)(こわ)さうに()ふのだ。275乞食(こじき)(ばば)アだよ、276()つときなさい』
277乞食(こじき)(ばば)とは(なん)だ、278三途河(せうづがは)鬼婆(おにばば)だぞ。279サアサア娑婆(しやば)執着(しふちやく)をスツクリ(なが)(ため)に、280真裸(まつぱだか)にしてやらうかい』
281(わら)()みたる押戸(おしど)()けて、282白髪頭(しらがあたま)をヌツと()し、283渋紙面(しぶがみづら)(さら)して(あら)はれて()た。
284 弥次彦(やじひこ)は、
285弥次彦『ヤアナント()(たか)い、286小面憎(こづらにく)(つら)をした老婆(ばばあ)だな………オイ糞婆(くそばば)287貴様(きさま)()加減(かげん)改心(かいしん)をせぬかい。288よい(とし)しよつて、289何時(いつ)までも(よく)(かは)をひつぱると、290()んだら地獄(ぢごく)()ちるぞ』
291『わしはお(まへ)(たち)着物(きもの)()がす(やく)だよ。292サア綺麗(きれい)サツパリと()いで()かつしやれ』
293弥次彦(なに)(ぬか)しよるのだ。294貴様(きさま)他人(ひと)着物(きもの)()がして、295沢山(たくさん)箪笥(たんす)(なか)仕舞込(しまひこ)()いても、296(すゑ)(みじか)貴様(きさま)が、297()んだならば冥土(めいど)とやらへ()かねばなるまい。298その(とき)三途河(せうづがは)鬼婆(おにばば)が、299みな()がして(しま)ふと()(こと)だぞ。300あまり(よく)をかわくない』
301『その三途川(せうづがは)鬼婆(おにばば)此方(こな)さまだ。302愚図(ぐづ)々々(ぐづ)()はずに()がぬかい』
303弥次彦『ヤア此奴(こいつ)盲婆(めくらばば)だな、304(はだか)(おれ)着物(きもの)()げつて(ぬか)しよる、305()いケレマタ(ばば)()れば()るものだナ。306ワツハヽヽヽ』
307『お(まへ)先祖(せんぞ)(ゆづ)りの洋服(やうふく)()とるぢやないか、308(うさぎ)(かは)()いたやうに、309(あたま)からクレクレと()いてやるのだ。310弥次彦(やじひこ)覚悟(かくご)()いか』
311弥次彦『これは(かはごろも)だぞツ』
312(かは)(ふち)()がすのだから、313(かはごろも)(なほ)結構(けつこう)だよ』
314弥次彦『エー洒落(しやれ)ない、315(ばば)(くせ)して………オイ与太公(よたこう)316宣伝使(せんでんし)さま、317チツト()(くだ)さらぬか、318(おも)ひの(ほか)シブトい(ばば)だから』
319音彦『ヤア、320弥次(やじ)さま、321どうやら此処(ここ)三途(せうづ)(かは)らしいぞ。322小鹿峠(こしかたうげ)から谷川(たにがは)飛込(とびこ)んだ(とき)に、323気絶(きぜつ)した途端(とたん)に、324どうやら幽界(いうかい)旅行(りよかう)急転(きふてん)したらしい、325どうも空気(くうき)(へん)だ。326ナア与太彦(よたひこ)327(まへ)はどう(おも)ふか』
328与太彦宣伝使(せんでんし)のお(かんが)へは(ちが)ひますまい。329(わたくし)(なん)だか、330四辺(しへん)状況(じやうきやう)娑婆(しやば)とは(ちが)(やう)()(いた)しますワ………』
331『コラコラ、332(まへ)たち(さん)(にん)(やつ)は、333(わし)(たれ)だと(おも)ふて()る、334(わし)(つら)()よ』
335 弥次彦(やじひこ)(あご)をシヤクリ(なが)ら、
336弥次彦『ツラツラ(かんが)ふるに、337(なん)とも(はや)338形容(けいよう)出来(でき)ない怪体(けつたい)面付(つらつき)だナア。339ひよつとしたら、340宣伝使(せんでんし)のお言葉(ことば)(とほ)り、341三途川(せうづがは)鬼婆(おにばば)かも()れぬワイ』
342合点(がつてん)()つたか、343親重代(おやぢうだい)宝物(ほうもつ)たる(くろ)土瓶(どびん)(なか)小便(しよんべん)()れる(やう)な、344(けが)れた身魂(みたま)人足(にんそく)だから、345此処(ここ)赤裸(はだか)にして(みたま)洗濯(せんたく)()てやるのだよ』
346弥次彦『ヤア合点(がてん)()かぬ(ばば)アだ。347土瓶(どびん)(こと)まで(ぬか)しよる、348貴様(きさま)はお(たけ)母親(ははおや)か』
349『お(たけ)母親(ははおや)か、350父親(てておや)か、351よう(かんが)へて()ろ。352弥次彦(やじひこ)のガラクタ()
353弥次彦(くろ)(くろ)()握飯(にぎりめし)(にぎ)りよつて、354手鼻汁(てばな)をかみ、355(みづばな)(おと)した握飯(にぎりめし)(こしら)へた(きたな)老婆(ばばあ)(くら)べると、356(ひと)汚穢(きたな)(やつ)だ。357(おれ)(みたま)(きたな)いから洗濯(せんたく)せいと()ひよるが、358マア貴様(きさま)(きたな)(かほ)から洗濯(せんたく)せい………霊魂(みたま)洗濯(せんたく)せい、359(うつく)しうなれと、360(くち)ばつかり他人(ひと)()ひよつて、361自分(じぶん)(きたな)(こと)()らぬ(かほ)半兵衛(はんべゑ)でけつかる。362(こま)つた(もの)だなア、363自分(じぶん)尻糞(しりくそ)()()かぬと()えるワイ。364全然(まるで)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(やう)(こと)(ぬか)(やつ)だ。365アハヽヽヽヽヽ』
366『ババはババいから(ばば)()ふのだ。367ヂヂはヂヂムサイから老爺(ぢぢ)()ふのだよ。368(くそ)(きたな)い、369(たん)(きたな)い、370(はな)(うつく)しいと、371開闢(かいびやく)以来(いらい)(きま)つとるぞ。372(おれ)(やう)(きたな)(ところ)()ちた(もの)は、373(きた)なうして()ればよいのだよ。374貴様(きさま)のやうに、375(おもて)立派(りつぱ)な、376三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だとか、377信者(しんじや)とか()ひよつて羊頭(やうとう)(かか)げて狗肉(くにく)()(やう)罪悪人(ざいあくにん)は、378何処(どこ)までも洗濯(せんたく)をせな()かない。379(はら)(そこ)まで洗濯(せんたく)をしてやるのだ。380チツト(くる)しうても辛抱(しんばう)せい。381親譲(おやゆづ)りの着物(きもの)(これ)から()がして、382この老婆(ばばあ)洗濯(せんたく)をして着替(きかへ)さしてやらうかい、383コラ弥次彦(やじひこ)のガラ()
384弥次彦『ヤア、385此処(こいつ)洗濯(せんたく)(ばば)アだな、386(おに)()()洗濯(せんたく)バタバタ(はや)身魂(みたま)(あら)ふて(くだ)されよ、387改心(かいしん)一等(いつとう)だぞよ、388(いま)までの塵芥(ごもくた)389(なが)(かは)ヘサツパリ(なが)して、390水晶(すゐしやう)身魂(みたま)になつて(くだ)されよ……といふ筆法(ひつぱふ)だな。391ソンナ(こと)三五教(あななひけう)教祖(けうそ)(をしへ)にチヤンと()()るのだ。392(こと)(あたら)しく三途河(せうづがは)(ふち)まで()て、393()つて(もら)はいでも、394(とほ)(むかし)御存(ごぞん)じだ。395大学(だいがく)卒業生(そつげふせい)だぞツ。396骨董品(こつとうひん)(やう)(ふる)(あたま)をしよつて、397文明(ぶんめい)人種(じんしゆ)吾々(われわれ)意見(いけん)をするのは、398釈迦(しやか)(きやう)()(やう)なものだよ』
399『お(まへ)(たち)(くち)ばつかり立派(りつぱ)信者(しんじや)だ。400(した)(みみ)とは極楽(ごくらく)()つて、401その(ほか)はみな地獄(ぢごく)(ゆき)だ。402(した)(みみ)とを(おれ)(あづか)つて、403(これ)から高天原(たかあまはら)小包(こづつみ)郵便(ゆうびん)(おく)つてやらう。404マア(かはごろも)()ぐより、405第一(だいいち)着手(ちやくしゆ)として(した)()せ、406(した)(みみ)とを()つてやらうかい、407弥次(やじ)(やつ)
408弥次彦『エー何処(どこ)までも(ばば)(ばば)らしい(こと)(ぬか)しよるワイ。409舌切雀(したきりすずめ)(はなし)(やう)に、410(した)()つてやらうの、411桃太郎(ももたらう)(はなし)(やう)に、412洗濯(せんたく)をするのと、413らしい(こと)()ひよるワイ、414アハヽヽヽ。415オイ(ばあ)416この(かは)には随分(ずゐぶん)(もも)(なが)れて()るだらう。417(ふた)つや()つは(たくは)へて()るだらうから、418(ひと)(おれ)招伴(せうばん)させぬかい、419(はら)()つて(いささ)迷惑(めいわく)(てい)だ』
420『お(まへ)()ふのは此処(ここ)(あづか)つてある、421サアサア(これ)なと()つて着物(きもの)(わた)すのだよ』
422()(くろ)けの握飯(にぎりめし)(ふた)()す。
423弥次彦『ヤア此奴(こいつ)ア、424(たけ)(うち)柴屋(しばや)()握飯(にぎりめし)だ。425コンナ(あか)()いた、426鼻水(はなみづ)だらけの握飯(にぎりめし)仮令(たとへ)(かつ)えて()んでも()はれるものかい、427(かつ)しても盗泉(たうせん)(みづ)()まぬ(おれ)だぞ』
428『どうしても(くら)はねば、429貴様(きさま)(この)鬼婆(おにばば)(かは)りに()つて(しま)ふがよいか………勿体(もつたい)ない、430粒々(りうりう)辛苦(しんく)になつた結構(けつこう)なお(こめ)(こしら)へた握飯(にぎりめし)を、431(くろ)いの(きたな)いのとは(なん)(こと)だ。432たとへ鼻水(はなみづ)(はい)つて()らうが、433百分(ひやくぶん)(いち)(くらゐ)なものだ、434(なに)ほど綺麗(きれい)人間(にんげん)でも、435百分(ひやくぶん)八九十(はちくじふ)までは(きたな)分子(ぶんし)含蓄(がんちく)して()る。436貴様(きさま)肉体(にくたい)つたら、437九分(くぶ)九厘(くりん)まで()(くろ)けの鼻水(はなみづ)握飯(にぎりめし)(やう)なものだぞ。438(わし)辛抱(しんばう)して()てやると()ふのだから、439これが冥途(めいど)食納(くひをさ)め、440(よろこ)んで()はぬかい』
441 弥次彦(やじひこ)(くび)(かたむ)けて
442弥次彦『オイ与太公(よたこう)443サツパリ(わけ)(わか)らぬぢやないか、444貴様(きさま)()(のこ)しだ。445おれや(もと)から(ひと)つも()はないのだから、446貴様(きさま)()つたらよからう』
447与太彦(わたくし)はあなた(さま)(ぶん)まで頂戴(ちやうだい)(いた)しまして、448スツカリ()べるのは、449あまり(れい)(しつ)すると(おも)ひ、450(ふた)(だけ)(のこ)して()きました。451(けつ)して(きたな)いから(のこ)したのぢやありませぬ、452()れは弥次彦(やじひこ)領分(りやうぶん)だと(おも)つて遠慮(ゑんりよ)したのです………もしもしお()アさま、453(わたくし)腹一杯(はらいつぱい)頂戴(ちやうだい)したので、454それ以上(いじやう)()へなかつたのと、455弥次彦(やじひこ)愛想(あいそう)(のこ)してやつたのですから、456(けつ)して(けつ)して、457(きたな)いの(なん)のといふ、458ソンナ冥加(みやうが)(わる)(こころ)(のこ)したのでは御座(ござ)いませぬ。459これは弥次彦(やじひこ)()ふべきもので御座(ござ)います』
460弥次彦『エーエー、461与太彦(よたひこ)までが()しからぬ議案(ぎあん)()しよつた。462河端(かはばた)会議(くわいぎ)だから(にぎ)(つぶ)しといふ(わけ)にも()くまい。463三途(せうづ)(かは)一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)で、464否決(ひけつ)流会(りうくわい)だ』
465握飯(にぎりめし)(にぎ)つて(かは)()てむとするを、466(ばば)はその()をグツと(にぎ)りたり。467弥次彦(やじひこ)は、
468弥次彦『ヤア(つめ)たい(つめ)たい、469(こほり)のやうな()をしよつて………()(しび)れて(しま)ふワイ』
470『ヤア不思議(ふしぎ)だワイ、471(まへ)(れい)は、472(とほ)(むかし)(しび)れて(しま)ふて免疫性(めんえきせい)無感覚(むかんかく)だと(おも)つたに、473(つめ)たいのが(わか)るか、474それではチート何処(どこ)かにまだ(いき)があるワイ、475コンナ(ところ)()るのはチト(はや)いのだけれど、476修業(しうげふ)(ため)に、477()()(やう)に、478この(かは)(わた)れ、479(かはごろも)()(だけ)免除(めんぢよ)してやらう。480随分(ずゐぶん)(つめ)たい(かは)だぞ、481この(かは)(つめ)たくなくして(わた)れる(やう)ならモウ駄目(だめ)だ。482(つめ)たければチツトはまだ人間(にんげん)(いき)が、483(みたま)(かよ)ふて()るのだよ』
484弥次彦『オイ()アさま、485(まへ)随分(ずゐぶん)屁理窟(へりくつ)()ふがそれ(だけ)理窟(りくつ)(わか)つて()れば、486この弥次彦(やじひこ)(さむ)うて(こま)つとるのを、487チツトは同情(どうじやう)するだらう。488亡者(まうじや)着物(きもの)毎日(まいにち)追剥(おひはぎ)しよつて、489沢山(たくさん)()めとるだらうが、490(おれ)似合(にあ)(やう)着物(きもの)(いち)(まい)分配(ぶんぱい)して()れぬか、491どうで老若(らうにやく)男女(なんによ)色々(いろいろ)(ふう)(ちが)ふだらうから、492(おれ)()つて()けた(やう)着物(きもの)もあるだらうにのう』
493『エヽ附上(つけあが)りのした(をとこ)だなア、494(まへ)()せる(やう)着物(きもの)(いち)(まい)もありやしないよ。495みな(かは)()がしては(なが)し、496()がしては(なが)し、497(いま)ここに()(まい)ある(だけ)だ。498それもみな子供(こども)着物(きもの)だ。499(いち)(まい)(おれ)()にやならぬし、500()(まい)着物(きもの)貴様(きさま)(いち)(まい)やれば、501モウあとは()(まい)だよ』
502弥次彦『ヤアこの(ばば)503なかなか洒落(しやれ)てけつかる、504風流(ふうりう)(ばば)アだなア』
505(きま)つた(こと)だ、506何事(なにごと)執着心(しふちやくしん)()てて、507風流(ふうりう)(むね)(あか)洗濯(せんたく)(ばば)アだ。508(まへ)(はや)身魂(みたま)洗濯(せんたく)をせないと()ふと、509(はら)(なか)毛虫(けむし)がわいて、510弥次(やじ)身中(しんちう)(むし)となつて、511(まへ)肉体(にくたい)(ほろ)ぼす(やう)になるぞ』
512弥次彦(ばあ)さま、513オツト()つた、514(おれ)亡者(まうじや)じやないか、515一旦(いつたん)(ほろ)びた(もの)(また)(ほろ)びるといふ(こと)があるかい』
516顕幽(けんいう)一致(いつち)517生死(せいし)不二(ふじ)だよ。518(いま)娑婆(しやば)()(やつ)は、519肉体(にくたい)()きて()るが、520(れい)はみな()にたり、521(くさ)つたり、522(ほろ)びて(しま)つて()るのだ。523(しか)(なが)ら、524貴様(きさま)感心(かんしん)(こと)には、525肉体(にくたい)(ほろ)びたが、526まだ(みたま)生命(せいめい)があるワイ』
527弥次彦(きま)つた(こと)だい、528せいめい無垢(むく)生粋(きつすゐ)大和(やまと)(だましひ)だもの。529万劫(まんがふ)末代(まつだい)()つる(こと)なく(ほろ)(こと)なき霊主(れいしゆ)体従(たいじゆう)弥次彦(やじひこ)さまの(ほん)守護神(しゆごじん)は、530永世(ゑいせい)不滅(ふめつ)(かみ)分霊(わけみたま)531万劫(まんがふ)末代(まつだい)生通(いきどう)しだ。532肉体(にくたい)(ほろ)びても、533吾々(われわれ)(れい)至極(しごく)健全(けんぜん)だ。534これから三途(せうづ)(かは)横渡(よこわた)りをして、535(こころ)(おに)地獄(ぢごく)(おに)(かた)(ぱし)から言向和(ことむけやは)し、536地獄(ぢごく)(くわ)して天国(てんごく)とする覚悟(かくご)だ。537オイ(ばば)ア、538貴様(きさま)もコンナ(ところ)(よわ)(もの)(いじ)めをして、539亡者(まうじや)(たい)剥取(はぎとり)強盗(がうたう)をするよりも、540(はや)改心(かいしん)(いた)して(おれ)のお(とも)をせないかエーン』
541与太彦(よたひこ)は、
542与太彦『オイ弥次彦(やじひこ)543しやうもない(こと)()ふない。544地獄(ぢごく)開設(かいせつ)以来(いらい)545三途川(せうづがは)鬼婆(おにばば)()つて、546この(かは)(そな)(つけ)常置品(じやうちひん)だよ。547ソンナ(もの)でも閻魔(えんま)(ちやう)()れて()つたが最後(さいご)548天則(てんそく)………ドツコイ地獄則(ぢごくそく)違反者(ゐはんしや)だ………と()つて、549(つみ)(つみ)(かさ)ねる(やう)なものだよ』
550弥次彦『さうだな、551出雲姫(いづもひめ)(やう)美人(びじん)()れて、552閻魔(えんま)(ちやう)出立(しゆつたつ)するのは気分(きぶん)()いが、553()(こけ)()えた枯木(かれき)(やう)になつた骨董品(こつとうひん)()れて()くのは、554弥次彦(やじひこ)もチツト迷惑(めいわく)だ。555……オイ(ばば)ア、556(まへ)何時(いつ)までも(この)川辺(かはべり)に、557コンナ(こと)をやつとるのが面白(おもしろ)いのかい』
558(なに)面白(おもしろ)からう、559これも仕方(しかた)がないワ、560木蓮(もくれん)尊者(そんじや)母親(ははおや)ぢやないが、561(つみ)(かたまり)で、562因果(いんぐわ)(めぐ)()て、563コンナ(ひと)(いや)がる(やく)を、564よい(とし)してやらされて()るのだよ。565(わし)はモウ駄目(だめ)だ、566終身官(しうしんくわん)だから、567辞職(じしよく)する(わけ)には()かぬワイ』
568弥次彦『それを()けば、569(なん)だかチツト、570哀憐(あいれん)(こころ)(おこ)つて()たワイ。571一層(いつそう)(こと)572一思(ひとおも)ひにこの(かは)へ、573バサン()()みてやらうか。574さうすれば、575地獄(ぢごく)()(のが)れて、576(まへ)幸福(かうふく)だらうに』
577()サンとやつたつて駄目(だめ)だよ。578(ぜん)(みち)破産(はさん)した(わし)だから、579到底(たうてい)(すく)はれる予算(よさん)()たぬワイ』
580弥次彦『アヽ三途(せうづ)がないなア、581かはいさうな(もの)だ。582ナント詮術(せんすべ)なきの川水(かはみづ)583ミヅバナ()らして握飯(にぎりめし)(かた)めて、584ムスメのお世話(せわ)になつた()主人(しゆじん)(さま)に、585()らう(こと)()るまい(こと)か、586()べさそうと(いた)し、587おまけに小便茶(しよんべんちや)をも(すす)めた天罰(てんばつ)覿面(てきめん)(めぐ)(きた)つて、588三途川(せうづがは)鬼婆(おにばば)とまで()()てしか、589アヽ(おも)へば(おも)へばいぢらしや、590弥次彦(やじひこ)同情(どうじやう)(なみだ)(くれ)にけりだ』
591音彦『アハヽヽヽ、592面白(おもしろ)面白(おもしろ)い、593弥次(やじ)喜多(きた)道中(だうちう)は、594冥土(めいど)()てもヤツパリ、595五十三(ごじふさん)(つぎ)気分(きぶん)がするワイ、596音彦(おとひこ)はまるで大井川(おほゐがは)川縁(かはべり)()いた(やう)心持(こころもち)がするワイ』
597弥次彦大井川(おほゐがは)なら、598この(ばば)大井(おほゐ)(かは)いがつてやるのですな、599アハヽヽヽ』
600 この(とき)いかめしい装束(しやうぞく)をした一人(ひとり)(をとこ)601金剛杖(こんがうづゑ)をつき(なが)ら、602トボトボと(あゆ)()たりぬ。603()()()れば、604ウラル(けう)大目付(おほめつけ)605源五郎(げんごらう)なりける。606弥次彦(やじひこ)()るより、
607弥次彦『ヤア貴様(きさま)はウラル(けう)源五郎(げんごらう)だナ、608(おれ)猿山峠(さるやまたうげ)(ふもと)森林(しんりん)で、609華胥(くわしよ)(くに)遊楽(いうらく)する(をり)しも、610しやうもない(ゆめ)をば、611与太公(よたこう)()せよつて、612(おどろ)かしよつた腰抜(こしぬけ)野郎(やらう)だらう。613(うま)からひつくり(かへ)つて、614四足(よつあし)圧搾(あつさく)されて、615背中(せなか)(はら)()へられぬぢやない、616(うま)背中(せなか)(はら)(ゑぐ)られて、617(かはず)をぶつけた(やう)に、618()をクルクルと()きよつて(くた)ばつた代物(しろもの)だらう。619サア()(ところ)()よつた。620こちらは(さん)(にん)貴様(きさま)一人(ひとり)だ。621娑婆(しやば)()つた(とき)此方(こちら)(さん)(にん)貴様(きさま)味方(みかた)五十(ごじふ)(にん)622五十(ごじふ)(にん)でさへも敗北(はいぼく)した(やう)腰抜(こしぬけ)だから、623到底(たうてい)(かな)ふまい。624貴様(きさま)着物(きもの)一切(いつさい)()()るのだ、625サアサア()いだり()いだり』
626 音彦(おとひこ)は、
627音彦『オイオイ弥次(やじ)628()アサンの職権(しよくけん)まで蹂躙(じうりん)すると()(こと)があるかい』
629弥次彦『モシモシ、630()アサン、631(この)(ところ)ちよつと代理権(だいりけん)執行(しつかう)(いた)しますから、632事後(じご)承諾(しようだく)(ねが)ひます』
633『ハーイハイ、634(よろ)しき(やう)に………お(まへ)一任(いちにん)(いた)すぞや』
635()音彦(おとひこ)さま、636サアどうだ、637(これ)からこの弥次彦(やじひこ)が、638()アサンの代理(だいり)だ。639脱衣婆(だついばば)アといふ職権(しよくけん)ができた。640()アサンの片相手(かたあひて)は、641弥次(やじ)サンに(きま)つてるよハヽヽヽ。642オイ源五郎(げんごらう)643()アサンのおやぢだ。644娑婆(しやば)()つた(とき)弥次彦(やじひこ)だが、645(いま)三途川(せうづがは)(おに)おやぢだ。646キリキリチヤツト()いで(しま)ヘツ』
647源五郎(げんごらう)は、
648源五郎『ヤア、649仕方(しかた)がない、650ソンナラ()ぎませう。651(いち)(まい)でこらへて(くだ)さいや』
652弥次彦『エー執着心(しふちやくしん)()つな、653真裸(まつぱだか)になれ』
654源五郎『それでもまだ(この)(さき)655十万(じふまん)億土(おくど)(たび)をせにやならぬのだから、656慈悲(じひ)(いち)(まい)(のこ)して(くだ)さいナ』
657弥次彦『エツ(いち)(まい)()ぐも(さん)(まい)()ぐも、658()ぐのに(ちが)ふた(こと)があるか、659(うま)赤子(あかご)になるのだよ』
660源五郎『ナント、661(まへ)さまはエライ権利(けんり)()つてますなア』
662弥次彦(きま)つた(こと)だよ、663泥棒(どろばう)権利(けんり)執行者(しつかうしや)だ。664キリキリチヤツト、665(はだか)になつたり(はだか)になつたり』
666(げん)『アヽもう()うなつては源五郎(げんごらう)もサツパリ源助(げんすけ)だ、667娑婆(しやば)()(とき)には、668()(とり)(おと)(いきほひ)であつたが、669可愛(かあい)女房(にようばう)には(わか)れ、670生命(いのち)より大事(だいじ)()めた財産(ざいさん)弊履(へいり)(ごと)打棄(うちす)てて、671身軽(みがる)になつて此処(ここ)()たと(おも)へば、672この(うす)着物(きもの)まで()がれて(しま)ふのか、673アヽ仕方(しかた)がない。674どうしたら()からうかナア』
675弥次彦『エー女々(めめ)しいワイ、676(ごう)()つては(ごう)(したが)へだ。677娑婆(しやば)理窟(りくつ)冥土(めいど)には通用(つうよう)せぬぞ。678泥棒(どろばう)にも三分(さんぶ)理窟(りくつ)があるのだ。679脱衣爺(だついぢい)命令(めいれい)全部(ぜんぶ)服従(ふくじゆう)……(いな)盲従(まうじゆう)するのだ。680亡者(まうじや)亡者(まうじや)(したが)ふのは所謂(いはゆる)亡従(まうじゆう)だよ。681アハヽヽヽ』
682源五郎『アヽ仕方(しかた)がありませぬ、683()がして(いただ)きます』
684弥次彦貴様(きさま)()いだ(あと)は、685(おれ)(はだか)(こま)つて()るのだから、686(みぎ)から(ひだり)へスツと着替(きか)へるのだ。687…………オイ与太公(よたこう)688此奴(こいつ)ア、689大分(だいぶ)沢山(たくさん)()()よるから、690貴様(きさま)分配(ぶんぱい)して、691着々(ちやくちやく)()(すす)めるのだよ』
692源五郎『お(まへ)さまも、693(はだか)(つら)(こと)御存(ごぞん)じでせう。694自分(じぶん)(くる)しみにつまされて、695(わたくし)不憫(ふびん)とは(おも)ひませぬか』
696弥次彦『エー八釜(やかま)しいワイ、697(くら)がりの()(なか)だ。698一々(いちいち)()をあけて()つたならば、699(いち)(にち)生活(せいくわつ)出来(でき)るものかい。700何事(なにごと)(ひと)(あは)れは、701()ざる、702()かざる、703()はざるで…………自分(じぶん)一身(いつしん)一族(いちぞく)保護(ほご)するのが当世(たうせい)だよ。704まだまだ(これ)では()まぬぞ、705貴様(きさま)持物(もちもの)をみな()いで(しま)へ』
706源五郎『これ(だけ)(まはし)まで()いで(しま)つたぢやありませぬか、707この(うへ)(なに)()ぐのですかい……』
708弥次彦(きま)つた(こと)だよ、709親譲(おやゆづ)りの………貴様(きさま)はまだ洋服(やうふく)()()る。710(くつ)も、711手袋(てぶくろ)も、712頭巾(づきん)も、713(なに)もかも、714みな()ぐのだ。715貴様(きさま)娑婆(しやば)()(とき)から、716彼奴(あいつ)鉄面皮(てつめんぴ)だと()はれて()つたぢやらう。717その鉄面皮(てつめんぴ)此処(ここ)()がしてやらう。718(した)千枚舌(せんまいじた)だと()(こと)だから、719(いち)(まい)(たす)けてやるが、720九百(くひやく)九十九(くじふく)(まい)まで此処(ここ)()()るのだ。721コレコレ()アサン、722釘抜(くぎぬき)()しテンかいナ』
723『ハイハイ、724おやぢ(ひこ)()(こと)なら、725(なん)でも()きませう。726釘抜(くぎぬき)がチツト()びて()るけれど、727此奴(こいつ)(した)()びてゐるから、728()ふたり、729(かな)ふたりだ、730ワハヽヽヽ』
731弥次彦『ヤア()()いた(ばば)アだ、732流石(さすが)(おれ)女房(にようばう)(だけ)あるワイ、733………オイ源公(げんこう)734千枚舌(せんまいじた)()せ…………(くち)()け…………』
735源五郎『アーア仕方(しかた)がない、736冥途(めいど)法律(はふりつ)(したが)はねばならぬか。737ソンナラどうぞ、738ヤンワリと()いて(くだ)さい』
739弥次彦『よしよし』
740()ひつつ、741釘抜(くぎぬき)(もつ)源公(げんこう)大地(だいち)仰向(あふむ)けに()させ、742(みぎ)(あし)(あたま)にグツと()せ、
743弥次彦『イヨー沢山(たくさん)(した)だワイ………(この)(した)放蕩(はうたう)(した)744(いち)(まい)……オイオイ与太公(よたこう)745貴様(きさま)勘定役(かんぢやうやく)だ。746音彦(おとひこ)受取(うけと)つて(くだ)さい。747……この(した)違約(ゐやく)(した)……オツト()(まい)……こいつは間女房(まにようばう)(した)……オツト(さん)(まい)……こいつは讒言(ざんげん)(した)748オツト()(まい)だよ、749……こいつは失敗(しつぱい)(した)750オツト()(まい)だ………こいつはアフンと(した)751オツト(ろく)(まい)………こいつはインチキを(した)……道傍(みちばた)でウンコを(した)……遠慮(ゑんりよ)(した)……ドツコイ遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなしに乱暴(らんばう)(した)……強欲(がうよく)(した)……ウツカリ(した)……スベタに(うつつ)()(した)……姦通(かんつう)(した)……(ひと)監禁(かんきん)(した)……苦面(くめん)(した)……喧嘩(けんくわ)(した)……善悪(ぜんあく)混同(こんどう)(した)……散財(さんざい)(した)……()らぬ心配(しんぱい)(した)……狡猾(すこ)(こと)(した)……民衆(みんしう)運動(うんどう)煽動(せんどう)(した)……探偵(たんてい)(した)……(そん)(した)……畜生(ちくしやう)(ころ)(した)……(つか)まへ(そこ)なひを(した)……(しか)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)を……手癖(てくせ)(わる)いことを(した)……遁亡(とんばう)(した)……難儀(なんぎ)(した)……(もの)窮迫(きうはく)(した)……(ひと)見殺(みごろ)しに(した)……(にく)まれ(ぐち)(たた)いた(した)だ……(ぬす)みも(した)……猫婆(ねこばば)(した)……無報酬(ただ)飲食(のみくひ)(した)……(かみ)反対(はんたい)(した)……貧乏(びんばふ)(した)(やつ)圧迫(あつぱく)(した)……憤慨(ふんがい)(した)……変改(へんかい)(した)……(ひと)(かね)漫遊(まんいう)(した)……無理(むり)(した)……斤量(ちぎ)目盗(めぬす)みも(した)……悶着(もんちやく)(した)……(たましひ)宿替(やどがへ)(した)……それは良心(りやうしん)転宅(てんたく)だ……隠険(いんけん)なことも(した)……(うそ)つきも(した)……縁談(えんだん)妨害(ばうがい)(した)……(よく)(たく)みも(した)……乱痴気(らんちき)(さわ)ぎも(した)……悋気(りんき)(した)……不在(るす)(うち)(ねら)つて○○を(した)……猟師(れふし)をして沢山(たくさん)畜生(ちくしやう)捕獲(ほくわく)(した)……(ろん)にも(くひ)にもかからぬ(やう)議論(ぎろん)(した)……忘八苦(わんぱく)(した)……意地(いぢ)(わる)(こと)(した)……エー閻魔(えんま)さまの眼鏡(めがね)(かな)はぬ(やう)(こと)沢山(たくさん)(した)……(ひと)をおど(した)……霊界(れいかい)物語(ものがたり)邪魔(じやま)(した)……(おれ)もモウウンザリ(した)(これ)でまだ六十(ろくじふ)(まい)だがモウ()加減(かげん)()めに(した)がよからうかアツハヽヽヽ』
752音彦随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)(した)ですネー、753音彦(おとひこ)感心(かんしん)しま(した)754ワアツハヽヽヽ』
755弥次彦此奴(こいつ)は、756何時(いつ)数多(あまた)人間(にんげん)(あご)使(つか)ひよつて、757舌長(したなが)(もの)()かす(した)たか(もの)だから、758(した)()随分(ずゐぶん)(つよ)くつて、759この三途川(せうづがは)鬼爺(おにおやぢ)も、760大変(たいへん)苦労(くらう)(した)761アーア(した)()商売(しやうばい)も、762懲々(こりこり)(した)わい、763ワツハヽヽヽ』
764『これはこれはおやぢ(ひこ)765(えら)苦労(くらう)をかけま(した)766これで一寸(ちよつと)源五郎(げんごらう)制敗(せいばい)一部(いちぶ)落着(らくちやく)いた(した)()ふものだ』
767源五郎『アーア(つら)()()ふたものだ。768三味線(さみせん)(いと)ほど引締(ひきし)められて、769(ばち)()てられ、770(まへ)のお()きに紫檀棹(したんざを)771源五郎(げんごらう)(これ)無罪(むざい)放免(はうめん)にして(もら)ひませうか』
772『まだまだ……此処(ここ)はこれでよい、773この(かは)(わた)つて(むか)ふへ()つたら、774今度(こんど)はお(まへ)(かいな)()くのだよ』
775与太彦(よたひこ)面白(おもしろ)さうに、
776与太彦『アヽそうかいな777(いた)かいな778(くる)しいかいな
779弥次彦『コラ与太公(よたこう)780ソンナ陽気(やうき)(こと)()ふとる場合(ばあひ)ぢやないぞ、781改心(かいしん)をせぬか、782緊張(きんちやう)せぬかい、783弥次彦(やじひこ)(した)()いてやらうか』
784与太彦『オイ弥次彦(やじひこ)785よい加減(かげん)にコンナ殺生(せつしやう)商売(しやうばい)辞職(じしよく)したらどうだい』
786弥次彦八釜(やかま)()ふない、787モウ(すこ)(つと)めさして()れ、788……恩給(おんきふ)年限(ねんげん)()つるまで……』
789()貴様(きさま)はどこまでも、790徹底(てつてい)(てき)(よく)(やつ)だナ、791欲々(よくよく)体主(たいしゆ)霊従(れいじう)性来(しやうらい)ぢやと()えるワイ。792()(なか)他人(ひと)がよく()はぬのも当然(たうぜん)だ』
793『サアサア弥次彦(やじひこ)サン永々(ながなが)世話(せわ)だつた。794只今(ただいま)(かぎ)解職(かいしよく)する、795(はや)くこの(かは)(わた)りしやれ』
796弥次彦『ヤア(なん)だ、797何時(いつ)()にか(かは)()くなつて(しま)つた。798かわい女房(にようばう)生別(いきわか)れと()場面(ばめん)だナ。799オイ(ばば)ア、800折角(せつかく)綺麗(きれい)(かは)何処(どこ)ヘスツ()めて(しま)つたのだい』
801『お(まへ)(つみ)(うす)らいだから、802(かは)はモウ(なが)して(しま)つたのだよ』
803弥次彦(かは)(なが)すとは(めう)だな、804ヤツパリ現界(げんかい)とはすべての光景(くわうけい)(かは)つて()るワイ……ヤア面白(おもしろ)い、805茫々(ばうばう)たる原野(げんや)(にはか)早替(はやがは)り、806活動(くわつどう)写真(しやしん)()とる(やう)だ……()れは()れはお()アサン、807(なが)らく()厄介(やくかい)(あづか)りました。808(あたま)(ひと)つもおなぐり(をし)いが、809(わたくし)(さき)()きますから、810これで(あか)(わか)れを(いた)しませう。811これから(ぢい)(さん)(にん)亡者(まうじや)()れて、812あの()(たび)をする(ほど)に、813おばば、814(あと)供養(くやう)をしつかり(たの)むぞや。815極楽(ごくらく)()立派(りつぱ)(ところ)()つて半座(はんざ)()けて()つて()る、816一時(いつとき)もはやく、817第二(だいに)娑婆(しやば)()()てて、818おやぢの(そば)へやつて()()れ、819万劫(まんがふ)末代(まつだい)820一蓮(いちれん)托生(たくしやう)821(かなら)(わす)れて()れるなよ』
822 与太彦(よたひこ)()()して、
823与太彦『アハヽヽヽ、824(なに)(ぬか)しよるのだ、825アンナ老婆(ばばあ)一蓮(いちれん)托生(たくしやう)になつて(たま)るかい』
826弥次彦『それでも袖振合(そでふりあ)ふも他生(たしやう)(えん)よ「ヤアおやぢサン、827ばばア……」と仮令(たとへ)半時(はんとき)でも(えん)(むす)んだ以上(いじやう)は、828夫婦(ふうふ)には(ちがひ)ない、829夫婦(ふうふ)(じやう)門外漢(もんぐわいかん)窺知(きち)すべき(ところ)でない、830色気(いろけ)()唐変木(たうへんぼく)容喙(ようかい)すべき(かぎ)りにあらずだ』
831音彦(おとひこ)832与太彦(よたひこ)833源五郎(げんごらう)一度(いちど)にふき()し、
834音、与、源『アハヽヽヽ、835ウフヽヽヽ、836エヘヽヽヽ』
837大正一一・三・二三 旧二・二五 松村真澄録)

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