霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 風馬牛(ふうばぎう)〔五五五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第1篇 五里夢中 よみ(新仮名遣い):ごりむちゅう
章:第5章 風馬牛 よみ(新仮名遣い):ふうばぎゅう 通し章番号:555
口述日:1922(大正11)年03月23日(旧02月25日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
三人は裸馬にまたがって小鹿峠の急坂を登っていった。弥次彦は馬と喧嘩を始めた。そして馬によってさんざんな目に会わされて戒められる。最後に馬は、自分は木花姫の分霊の罵倒観音だ、と洒落ると、姿が消えてしまう。
弥次彦は、馬はどこへ行ったのか、と与太彦、六に尋ねるが、二人は最初から馬などいない、と不思議がる。
今度は牛の群れが三人の方にやってきた。弥次彦は馬で懲りてもう乗ろうとしないが、与太彦と六は、楽をしようと牛に乗って、背から落ちた。
と思った瞬間、それは与太彦と六の夢であった。弥次彦は二人をからかう。そのとき、山岳が崩れるばかりの音が響いてきた。
何事かと驚いて三人は目を覚ました。気がつけば、三人は小鹿峠の道端で居眠りをしていたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-19 01:42:31 文字数:4626 OBC :rm1405
愛善世界社版:83頁 八幡書店版:第3輯 187頁 修補版: 校定版:87頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
001 三(さん)人(にん)は駻馬(かんば)に跨(またが)り放屁(はうひ)の砲撃(はうげき)を受(う)けながら小鹿峠(こしかたうげ)の急阪(きふはん)を一目散(いちもくさん)に登(のぼ)り行(ゆ)く。
002弥(や)『長鞭(ちやうべん)馬腹(ばふく)に及(およ)ばずだ、003エー邪魔(じやま)臭(くさ)い、004鞭(むち)は無用(むよう)だ』
005と馬上(ばじやう)より惜(を)し気(げ)もなく鞭(むち)を投(な)げ捨(す)てた。
006馬(うま)『無智(むち)な奴(やつ)の、007人三(にんさん)化七(ばけしち)に鞭(むち)の必要(ひつえう)があるものかい、008牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)の大将(たいしやう)奴(め)、009もう此処(ここ)らで一(ひと)つ直立(ちよくりつ)してやらうかい』
010弥(や)『馬公(うまこう)の奴(やつ)、011減(へ)らず口(ぐち)をたたくな。012古今(ここん)無双(むさう)の乗馬(じやうば)の達人(たつじん)、013弥次彦(やじひこ)サンを知(し)らないか、014愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬか)すと胴腹(どんばら)を締(し)めて息(いき)を止(と)めてやらうか』
015馬(うま)『ヒヽヽヽヽヒンヒン、016可笑(をか)しい哩(わい)、017蚊(か)の一匹(いつぴき)も留(とま)つたやうな感覚(かんかく)も起(おこ)らぬワ、018狐(きつね)の容器(いれもの)奴(め)が』
019弥(や)『オイ、020畜生(ちくしやう)、021口(くち)が過(す)ぎるぞ。022主人(しゆじん)に向(むか)つて無礼(ぶれい)であらうぞ』
023馬(うま)『ヒヽヽヽヽヒン、024美(み)ん事(ごと)仰有(おつしや)る哩(わい)、025轡(くつわ)も嵌(は)めずに馬(うま)に乗(の)る奴(やつ)があるかい、026余程(よつぽど)いい頓馬(とんま)だな』
027弥(や)『頓馬(とんま)とは貴様(きさま)の事(こと)だよ』
028馬(うま)『弥次彦(やじひこ)の馬鹿者(ばかもの)奴(め)、029お竹(たけ)の宿(やど)で小便(せうべん)を飲(の)まされよつて、030此奴(こいつ)は馬(うま)の小便(せうべん)ぢや無(な)からうかと馬首(ばしゆ)を傾(かたむ)けて思案(しあん)した時(とき)の可笑(をか)しさ、031屁馬(へま)ばつかりやる奴(やつ)だな。032それだから馬抜(まぬけ)野郎(やらう)と言(い)ふのだ』
033弥(や)『エー、034能(よ)く囀(さへづ)る頓馬(とんま)野郎(やらう)だ、035轡(くつわ)は無(な)し一寸(ちよつと)困(こま)つたな』
036馬(うま)『轡(くつわ)が無(な)けりや乗(の)るない、037貴様(きさま)は木馬(きうま)で結構(けつこう)だ。038何(なん)でも今(いま)の奴(やつ)は金(かね)の轡(くつわ)さへ嵌(は)めさへすれば温柔(おとな)しくなるのだよ、039如何(どう)だ、040金(かね)を持(も)つとるかい』
041弥(や)『俺(おれ)も貴様(きさま)のやうな頓馬(とんま)だから此(この)頃(ごろ)は手許(てもと)不如意(ふによい)でヒンヒン(貧々(ひんひん))だ。042オイ与太彦(よたひこ)、043貴様(きさま)の馬(うま)は如何(どう)だ』
044与(よ)『乗心地(のりごこち)が良(よ)いワ。045女偏(をんなへん)に馬(うま)の字(じ)に跨(またが)つた様(やう)な気分(きぶん)だよ』
046弥(や)『エー仕方(しかた)が無(な)いワ、047コンナジヤジヤ馬(うま)に乗(の)り合(あは)したのが災難(さいなん)だ。048オイ六(ろく)サン、049お前(まへ)は如何(どう)だい』
050六(ろく)『俺(おれ)もチヨボチヨボだ、051乗心地(のりごこち)が良(よ)いよ、052何(なに)とも言(い)へぬ良(よ)い気持(きもち)だ。053丁度(ちやうど)金竜(きんりう)、054銀竜(ぎんりう)に乗(の)つとる様(やう)な股倉(またぐら)加減(かげん)だよ』
055弥(や)『エー、056異馬(いま)々々(いま)しい、057貧乏籤(びんばふくじ)を抽(ひ)いたものだワイ』
058馬(うま)『オイ弥次(やじ)サン、059お前(まへ)は弥次馬(やじうま)だから仕方(しかた)が無(な)いよ。060マア馬(うま)の俺(おれ)の背中(せなか)から空中(くうちう)滑走(くわつそう)をやつて着陸(ちやくりく)して頭(あたま)をポカンと割(わ)つて、061ま一遍(いつぺん)十万(じふまん)億土(おくど)へ行(い)つて来(こ)い、062さうすれば立派(りつぱ)な馬(うま)に乗(の)れまいものでも無(な)いワ』
063弥(や)『エー、064能(よ)う口答(くちごたへ)をする馬鹿(ばか)野郎(やらう)だナア』
065 馬(うま)、066鬘(たてがみ)を振(ふ)り立(た)て目(め)を瞋(いか)らし口(くち)を開(あ)けてガブツと腕(うで)を噛(か)みかけやうとする。
067弥(や)『コラ、068何(なに)をしやがるのだい、069ジヤジヤ馬(うま)奴(め)が、070貴様(きさま)等(ら)に噛(か)まれて堪(たま)るかい』
071馬(うま)『直立(ちよくりつ)しやうか、072貴様(きさま)は四足(よつあし)の容器(いれもの)だから一遍(いつぺん)ぐらゐ人間(にんげん)らしう直立(ちよくりつ)した馬(うま)に乗(の)つて見(み)るも良(よ)からう』
073弥(や)『コラ、074馬(うま)は馬(うま)らしうせぬかい、075四足(よつあし)が立(た)つて歩(ある)くといふことは天則(てんそく)違反(ゐはん)だぞ』
076馬(うま)『ヒンヒンヒン、077それは貴様(きさま)の事(こと)だ。078四足(よつあし)身魂(みたま)が偉相(えらさう)に、079立(た)つて歩(ある)くのが何(なに)が不思議(ふしぎ)だい、080ヒンヒンヒン』
081弥(や)『エー仕様(しやう)の無(な)い奴(やつ)だ、082もう暇(ひま)を遣(つか)はす、083これから親(おや)ゆづりの膝栗毛(ひざくりげ)に乗(の)つて歩(ある)かうかい、084胴柄(どうがら)ばかり大(おほ)きくて、085屁(へ)ばつかり達者(たつしや)な頓馬(とんま)野郎(やらう)奴(め)、086止(と)まれ止(と)まれ、087下(お)りてやらう』
088馬(うま)『下(おろ)さぬぞ下(おろ)さぬぞ、089下(おろ)す所(ところ)が違(ちが)ふワ。090も少(すこ)し待(ま)つて居(を)れ、091この先(さき)に大変(たいへん)な断巌(だんがん)絶壁(ぜつぺき)があつて、092谷底(たにぞこ)には猿捉茨(さるとりいばら)が一面(いちめん)生(は)えてゐる、093そこまで行(い)つて下(おろ)してやらぬと根(ね)つから興味(きようみ)が薄(うす)い哩(わい)』
094弥(や)『此奴(こいつ)は聊(いささ)か迷惑(めいわく)千万馬(せんばんば)の、095閉口(へいこう)頓首(とんしゆ)ぢや』
096馬(うま)『今(いま)に閉口(へいこう)頓死(とんし)だよ』
097弥(や)『何(なに)を吐(ぬか)しやがるのだ、098落(おと)すなら落(おと)して見(み)よ。099貴様(きさま)の鬘(たてがみ)に喰(く)ひついて居(ゐ)るから貴様(きさま)も一所(いつしよ)に猿捉茨(さるとりいばら)の中(なか)に埋没(まいぼつ)だ。100死(し)んだ馬(うま)につけたら能(よ)う動(うご)かぬほど、101其処(そこ)になつたらドツサリと賃銀(ちんぎん)をはりこんで与(や)る哩(わい)』
102馬(うま)『サア之(これ)からだ、103一(ひ)ン二(ふ)ン三(み)ンツ』
104弥(や)『コラ、105暴(あば)れるな、106静(しづか)にせないかい、107俺(おれ)は貴様(きさま)が暴(あば)れると喰(く)ひついて血(ち)を吸(す)ふてやるぞ、108それでも可(い)いかエーン』
109馬(うま)『何(なん)だか、110チツポイ人間(にんげん)だと思(おも)つたら貴様(きさま)は蚤(のみ)の如(よ)うな奴(やつ)だ。111馬偏(うまへん)に蚤(のみ)といふ奴(やつ)は騒(さわ)ぐに定(きま)つてる。112ヨシ之(これ)から一騒(ひとさわ)ぎだ、113覚悟(かくご)せい』
114弥(や)『もう仕方(しかた)が無(な)い、115馬上(ばじやう)悠(ゆた)かに此(この)世(よ)の名残(なご)りに飲食(のみくひ)でもやらうかい。116馬(うま)よ騒(さわ)げよ、117一寸先(いつすんさき)や闇(やみ)だ、118蚤(のみ)が食(く)ひついて飲食(のみくひ)だ、119これが牛飲(ぎういん)馬食(ばしよく)だ、120チツト噛(かじ)つて遣(や)らうかい』
121馬(うま)『ヒンヒンヒン、122貧相(ひんさう)な奴(やつ)だな、123品格(ひんかく)の悪(わる)い』
124弥(や)『何(なん)だ、125宣伝使(せんでんし)の人格(じんかく)を品等(ひんとう)すると言(い)ふ事(こと)が畜生(ちくしやう)の分際(ぶんざい)としてあるものかい』
126馬(うま)『ヤア、127もう斯(こ)うなつたら破(やぶ)れかぶれだ、128ジヤジヤ馬(うま)だ』
129と言(い)ふより早(はや)く鬘(たてがみ)を震(ふる)つて直立(ちよくりつ)し、130前後(ぜんご)左右(さいう)に二三間(にさんげん)ばかり空中(くうちう)に跳(と)び上(あが)り狂(くる)ひ廻(まは)るにぞ、
131弥(や)『コラコラ静(しづか)にせないか、132目(め)が廻(まは)るわい、133目(め)どころか、134山(やま)も道(みち)もみんな廻(まは)り出(だ)したワイ、135ジヤイロコンパスの様(やう)に、136そこらが廻転(くわいてん)し出(だ)した哩(わい)、137いい加減(かげん)に静(しづ)まらないか』
138馬(うま)『何(なに)、139貴様(きさま)が落(お)ちる所(ところ)まで暴(あば)れるのだ。140今(いま)に冥土(めいど)に送(おく)つてやるのだ』
141弥(や)『鳴動(めいどう)も爆発(ばくはつ)もあつたものかい、142これだけクルクル廻(まは)る地球(ちきう)上(じやう)は俺(おれ)も嫌(いや)になつた哩(わい)、143何(なん)でも世(よ)の立替(たてかへ)が急速度(きふそくど)を以(もつ)て開展(かいてん)して行(ゆ)くと見(み)えるわい。144アーア、145能(よ)く廻(まは)る世(よ)の中(なか)だ』
146馬(うま)『輪廻(りんね)に迷(まよ)ふ浅間(あさま)しさ、147回天(くわいてん)動地(どうち)の神業(しんげふ)に参加(さんか)すると貴様(きさま)は毎時(いつ)も吐(ほざ)いてゐるが如何(どう)だい、148回天(くわいてん)動地(どうち)の大事業(だいじげふ)は馬(うま)サンの活動(くわつどう)に勝(まさ)るものはあるまい、149一(いつ)分間(ぷんかん)に八千回(はつせんくわい)、150回転(くわいてん)するジヤイロコンパスよりも早(はや)い俺(おれ)の放(はな)れ業(わざ)には感心(かんしん)したか』
151弥(や)『恐(おそ)れ入(い)つた、152もう耐(こら)へて呉(く)れえ』
153馬(うま)『醜態(ざま)見(み)やがれ、154一体(いつたい)俺(おれ)を誰(たれ)だと思(おも)つてるのだ』
155弥(や)『畜生(ちくしやう)の馬公(うまこう)ぢやないか』
156馬(うま)『馬鹿(ばか)だな、157俺(おれ)は木花姫(このはなひめ)の分霊(わけみたま)だ、158罵倒(ばたふ)観音(くわんのん)だ。159すなはち馬頭(ばとう)観音(くわんのん)様(さま)だよ』
160弥(や)『これはこれは、161失礼(しつれい)いたしました、162何卒(どうぞ)許(ゆる)して下(くだ)さいませ』
163 馬(うま)ブウブウブスと音(おと)を立(た)てて屁(へ)のやうに消(き)えて仕舞(しま)つた。
164弥(や)『アヽア、165大変(たいへん)だつた、166恐(こわ)い目(め)に遭(あ)はされた。167オー与太公(よたこう)、168六公(ろくこう)、169貴様(きさま)、170馬(うま)は如何(どう)したのだ』
171与(よ)、172六(ろく)『馬(うま)を如何(どう)したつて、173誰(たれ)が馬(うま)に乗(の)つたのだい』
174弥(や)『貴様(きさま)、175今(いま)いい気(き)でヒン馬(ば)に跨(またが)つて此処(ここ)まで来(き)たのぢやないか』
176二人(ふたり)『馬鹿(ばか)言(い)ふない、177俺(おれ)たちは親譲(おやゆづ)りの交通(かうつう)機関(きくわん)でてくつて来(き)たのだ、178貴様(きさま)も矢張(やつぱ)り何(なん)だか妙(めう)な面(つら)をしよつて目(め)を塞(ふさ)いだまま歩(ある)いて居(を)つたぢやないか、179歩(ある)きもつて夢(ゆめ)を見(み)よつたのだな、180気楽(きらく)な奴(やつ)だ、181アヽコンナ奴(やつ)と道連(みちづ)れになるのも頼(たよ)りない事(こと)だナア』
182弥(や)『ハテ、183面妖(めんえう)な、184合点(がてん)の往(ゆ)かぬこの場(ば)の光景(くわうけい)、185何物(なにもの)の仕業(しわざ)なるぞ』
186与(よ)『アハヽヽヽ、187何(なん)だ、188大(おほ)きな目(め)を剥(む)きよつてコンナ処(ところ)で芝居(しばゐ)をやつたとて誰(たれ)も観客(くわんきやく)は出(で)て来(き)はせないぞ。189ど拍子(びやうし)の抜(ぬ)けた銅羅声(どらごゑ)を出(だ)しよつて、190団栗眼(どんぐりまなこ)を廻転(くわいてん)させて大根(だいこん)役者(やくしや)奴(め)が、191何(なん)の真似(まね)だい、192チツト春(はる)さきで逆上(のぼ)せよつたな、193アハヽヽヽヽ』
194弥(や)『そうすると矢張(やつぱ)り夢(ゆめ)だつたかいな』
195与(よ)『一遍(いつぺん)手洗(てうづ)を使(つか)はむかい、196恍(とぼ)け人足(にんそく)奴(め)、197貴様(きさま)は図体(づうたい)ばかり仁王(にわう)の荒削(あらけづ)り見(み)たいな奴(やつ)だが、198大男(おほをとこ)総身(そうみ)に智慧(ちゑ)が廻(まは)りかねか、199独活(うど)の大木(たいぼく)、200胴柄(どうがら)倒(たふ)し、201困(こま)つた奴(やつ)だナア。202この与太(よた)サンは身体(からだ)は小(ちい)さくても山椒(さんせう)小粒(こつぶ)でもヒリリツと辛(から)いと言(い)ふ哥兄(にい)サンだぞ』
203弥(や)『チヤチヤ吐(ぬか)すない、204鶏(にはとり)は跣足(はだし)だ』
205与(よ)『馬(うま)は大(おほ)きうてもふりまらだ、206チツト褌(ふんどし)でも締(し)めて、207しつかりせむかい、208アハヽヽヽ』
209弥(や)『この小鹿峠(こしかたうげ)はやつぱり噂(うはさ)の通(とほ)り化物(ばけもの)峠(たうげ)だ、210しつかりせむとお三狐(さんぎつね)にちよろまかされるぞ』
211与(よ)『アハヽヽヽ、212吐(ぬか)したりな吐(ぬか)したりな、213自分(じぶん)がちよろまかされよつて憚(はばか)りさまだ、214この与太(よた)サンはチツト身魂(みたま)の製造法(せいざうはふ)が違(ちが)ふのだ。215貴様(きさま)のやうな粗製(そせい)濫造(らんざう)とは聊(いささ)か選(せん)を異(こと)にしてゐるのだぞ、216喃(の)う六公(ろくこう)』
217六(ろく)『恰(まる)で弥次(やじ)サンは六道(ろくだう)の辻(つじ)に亡者(まうじや)が迷(まよ)ふた様(やう)な人(ひと)ですな』
218与(よ)『オイオイ、219亡者(まうじや)の序(ついで)に向(むか)ふを見(み)よ、220沢山(たくさん)の亡者(まうじや)が来(く)るぢやないか』
221弥(や)『貴様(きさま)こそ恍(とぼ)けて居(ゐ)よる、222彼奴(あいつ)は牛(うし)じやないか』
223与(よ)『牛(うし)だからもうじや』
224弥(や)『何(なに)を吐(ぬか)しやがる、225コンナ処(ところ)で口合(くちあ)ひを出(だ)しやがつて』
226六(ろく)『くちあいものには蝿(はへ)が集(たか)るか、227アハヽヽヽヽ』
228弥(や)『真実(ほんと)に沢山(たくさん)なもう公(こう)ぢや、229オイ如何(どう)だ与太公(よたこう)、230馬(うま)を牛(うし)に乗(の)り換(か)へたら』
231与(よ)『乗(の)り換(か)へるも乗(の)り換(か)へぬもあつたものかい、232馬(うま)に乗(の)つた覚(おぼ)えがないぢやないか』
233 牛(うし)の群(むれ)ドシドシと三(さん)人(にん)の前(まへ)に突進(とつしん)し来(き)たる。
234与(よ)『牛公(うしこう)の奴(やつ)、235貴様(きさま)の喧嘩(けんくわ)ぢやないが天地間(てんちかん)は、236もちつ、237もたれつぢや。238如何(どう)だ、239附合(つきあひ)に俺(おれ)を一(ひと)つ乗(の)せて行(ゆ)かないか、240附合(つきあひ)ぢやと言(い)つても俺(おれ)を突(つ)いては困(こま)るよ』
241牛(うし)『もう止(や)めておこかい、242もう昧(まい)頑固(ぐわんこ)なもう碌(ろく)を乗(の)せたつてもうからぬからな』
243与(よ)『此奴(こいつ)、244洒落(しやれ)た事(こと)を言(い)ひよる、245一寸(ちよつと)談(はな)せる哩(わい)、246乗(の)つてやらうか』
247牛(うし)『乗(の)るなら乗(の)れ、248その代(かは)りに牛々(ぎうぎう)言(い)ふ目(め)に遇(あ)はされるぞ』
249与(よ)『何(なに)を吐(ぬか)しよるのだ、250ソンナ不心得(ふこころえ)の事(こと)をしよつたが最後(さいご)、251貴様(きさま)のどたまをトン骨(こつ)とやつて肉(にく)は喰(くら)ひ皮(かは)は太鼓(たいこ)に張(は)つてやるのだ』
252牛(うし)『マア兎(と)も角(かく)、253乗(の)つたが良(よ)からう』
254与『ヨー有難(ありがた)い、255牛(うし)に引(ひ)かれて善光寺(ぜんくわうじ)詣(まゐ)りと言(い)ふ事(こと)は聞(き)いて居(を)るが、256牛(うし)に乗(の)つてコーカス詣(まゐ)りか。257合(あ)ふたり、258適(かな)ふたり、259開(あ)いた口(くち)に牡丹餅(ぼたもち)、260三口(みつくち)にしんこ、261四(よ)つ口(くち)に羊羹(やうかん)、262○○に踵(きびす)、263ピツタリコだ。264水(みづ)も漏(も)らさぬ仲(なか)となつてコーカス詣(まう)でだ』
265牛(うし)『オイ与太公(よたこう)、266俺(おれ)の朋輩(ともがら)は百(ひやく)人(にん)、267貴様(きさま)の連(つ)れは三匹(さんびき)だ、268この中(うち)から選挙(せんきよ)して何(ど)れなつと乗(の)るが宜(よ)からう』
269弥(や)『サアサア選挙権(せんきよけん)の所有者(しよいうしや)は三(さん)人(にん)だ、270被(ひ)選挙権(せんきよけん)者(しや)も三匹(さんびき)だ、271如何(どう)だ、272普通(ふつう)選挙(せんきよ)でやらうかな』
273牛(うし)『如何(どう)でも宜(よ)いワ、274早(はや)くやらないか』
275与(よ)『一(いち)人(にん)一票(いつぺう)だ、276俺(おれ)は赤(あか)の牝(めん)だ』
277牛(うし)『貴様(きさま)、278矢張(やつぱ)り牝(めん)が好(す)きだな、279余程(よつぽど)あかだと見(み)える哩(わい)』
280六(ろく)『俺(おれ)は白(しろ)の牝(めん)だ』
281牛(うし)『白(しろ)い牛(うし)に烏(からす)のやうな男(をとこ)が乗(の)ると似合(にあ)はないぞ、282一層(いつそ)黒(くろ)にして乗(の)つてやれ』
283六(ろく)『俺(おれ)は牛(うし)に乗(の)るのはしろ人(うと)だから白(しろ)にするのだ。284黒(くろ)に乗(の)つて、285苦労(くらう)するのは困(こま)るからのう』
286弥(や)『俺(おれ)は選挙権(せんきよけん)の棄却(ききやく)だ』
287牛(うし)『神聖(しんせい)な一票(いつぺう)の選挙権(せんきよけん)を放棄(はうき)すると言(い)ふ事(こと)があるものか、288立憲(りつけん)政治(せいぢ)を何(なん)と心得(こころえ)てゐる』
289弥(や)『俺(おれ)は馬(うま)に乗(の)つた夢(ゆめ)を見(み)て、290懲(こ)り懲(こ)りした、291もうもう乗(の)り物(もの)は廃止(はいし)だ。292これからボツボツとてくる事(こと)にしやう、293乗(の)つた所(ところ)で牛(うし)の奴(やつ)、294足(あし)が遅(おそ)いから却(かへつ)てテクが良(い)い訳(わけ)だ』
295与(よ)『ソンナラ俺(おれ)は乗(の)せて貰(もら)はう。296オイ六公(ろくこう)、297貴様(きさま)も乗(の)つたり』
298六(ろく)『乗(の)らいでか、299ロハで乗(の)せてやらうと言(い)ふのだもの、300コンナ安価(やす)い乗(の)り物(もの)があるかい、301サア白(しろ)サン、302赤(あか)サン、303歩(ある)いたり歩(ある)いたり』
304赤(あか)、305白(しろ)『ヤア当選(たうせん)の光栄(くわうえい)を得(え)まして有難(ありがた)うございます』
306与(よ)『極(きま)つた事(こと)だ、307一騎(いつき)当千(たうせん)の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)が乗(の)つて居(ゐ)るのだもの、308当選(たうせん)するのは当然(たうぜん)だ、309サア進(すす)んだり進(すす)んだり』
310赤(あか)『オイ、311与太(よた)サン、312この先(さき)へ行(ゆ)くと峻(きつ)い阪(さか)がある、313その阪(さか)まで行(い)つたら直立(ちよくりつ)するから覚悟(かくご)してお呉(く)れや』
314与(よ)『よしよし直立(ちよくりつ)せい、315俺(おれ)は貴様(きさま)の角(つの)に喰(くら)ひ付(つ)いて居(を)るから大丈夫(だいぢやうぶ)だよ』
316白(しろ)『これこれ六(ろく)サン、317俺(おれ)もチヨボチヨボだ、318この先(さき)へ行(ゆ)くと羊腸(やうちやう)の小径(こみち)がある、319そこを通(とほ)る時(とき)は如何(どう)しても直立(ちよくりつ)せねばならぬから、320しつかりなさいよ、321千(せん)人(にん)の者(もの)が九百(くひやく)九十九(くじふく)人(にん)まで落(お)ちて死(し)ぬ処(ところ)だから……』
322六(ろく)『ヤアソンナ処(ところ)があるのかい、323ソンナラもう此処(ここ)で破約(はやく)だ、324小便(せうべん)だ、325下(おろ)して呉(く)れ』
326白(しろ)『下(おろ)して堪(たま)るか、327喃(のう)、328赤公(あかこう)』
329赤(あか)『極(きま)つた事(こと)だ、330下(おろ)すのはまだ早(はや)い、331断巌(だんがん)絶壁(ぜつぺき)で振(ふ)り落(おと)してやらうかい』
332与(よ)『ヤア此奴(こいつ)洒落(しやれ)た事(こと)を吐(ほざ)いてゐよる、333エー、334仕方(しかた)が無(な)い、335思(おも)ひ切(き)つて空中(くうちう)滑走(くわつそう)だ。336一(ひい)、337二(ふう)、338三(みつ)つ、339ドスン、340アイタヽヽヽ』
341弥(や)『オイオイ貴様(きさま)、342何(なん)だ、343二人(ふたり)とも道(みち)を歩(ある)きもつて跳(と)び上(あが)りよつて地(ち)べたにへたつて、344アイタタもあつたものかい、345しつかりせぬか』
346与(よ)『オレは、347もうもう、348牛々(ぎうぎう)云(い)ふ目(め)に遭(あ)はされちやつた』
349弥(や)『如何(どう)したと言(い)ふのだ、350夢(ゆめ)を見(み)たのぢや無(な)いか、351歩(ある)きもつて夢(ゆめ)を見(み)る奴(やつ)が何処(どこ)にあるかい』
352与(よ)『何(なに)を吐(ぬか)しよるのだ、353歩(ある)きもつて夢(ゆめ)見(み)るのは貴様(きさま)が教祖(けうそ)ぢやないか、354俺(おれ)も競争(きやうさう)して夢(ゆめ)を見(み)てやつたのだ、355ナア六公(ろくこう)、356貴様(きさま)も碌(ろく)でもない夢(ゆめ)を見(み)たのだらう』
357弥(や)『アハヽヽヽヽ、358神(かみ)様(さま)は偉(えら)いものだ、359俺(おれ)が夢(ゆめ)を見(み)たと言(い)つて襤褸糞(ぼろくそ)に笑(わら)ひよるものだから罰(ばつ)は覿面(てきめん)、360貴様(きさま)も同(おな)じ様(やう)に歩(ある)きもつて夢(ゆめ)を見(み)せられよつたな。361これだからアルコールの脱(ぬ)けた甘酒(あまざけ)のやうな低脳児(ていなうじ)と同行(どうかう)するのは困(こま)ると言(い)ふのだ』
362 この時(とき)山岳(さんがく)も崩(くづ)るる許(ばか)りの怪音(くわいおん)が聞(きこ)えて来(き)た。363三(さん)人(にん)は驚(おどろ)いて目(め)を醒(さま)せば豈(あに)図(はか)らむや小鹿峠(こしかたうげ)の道端(みちばた)にコクリコクリと居睡(ゐねむ)つて居(ゐ)た。
364三(さん)人(にん)『アーア偉(えら)い夢(ゆめ)を見(み)た喃(のう)、365夢(ゆめ)の中(なか)に夢(ゆめ)を見(み)たり、366何(なに)が何(なん)だか有名(いうめい)無実(むじつ)、367曖昧(あいまい)朦朧(まうろう)、368アア小鹿峠(こしかたうげ)だ、369こしつかりと腹帯(はらおび)でも締(し)めて行(い)かうかい』
370(大正一一・三・二三 旧二・二五 北村隆光録)
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