霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 馬詈(ばり)〔五五四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第1篇 五里夢中 よみ(新仮名遣い):ごりむちゅう
章:第4章 馬詈 よみ(新仮名遣い):ばり 通し章番号:554
口述日:1922(大正11)年03月23日(旧02月25日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
小鹿峠の谷底につくと、音彦らが気絶しているのを見つけた。宣伝使たちは川の水を口に含んで気絶している三人に吹きかけた。まず音彦が気がついて、一同に礼を言う。
天の数歌を唱えると、弥次彦、与太彦も目を覚ました。しかし弥次彦は、まだ幽界旅行の続きをやっている。与太彦は、弥次彦をポカリと殴って、ようやく弥次彦は現界に帰ってきたことに気がついた。
一同は祝詞を上げて感謝を奏じた。日の出別命は神務のために失礼すると行って、またどこかへ行ってしまった。
六人の宣伝使たちは、上着を脱いで弥次彦と与太彦に与えると、馬に乗って先に行ってしまった。後には弥次彦、与太彦と、先に三五教に改心した六の三人が残された。
三人が歩いて行くと、途中で野馬の群れに出くわした。これに乗って先を行こうと馬を呼び止め、めいめい馬に乗った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-19 01:41:29 文字数:5164 OBC :rm1404
愛善世界社版:68頁 八幡書店版:第3輯 182頁 修補版: 校定版:72頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001 日(ひ)の出別(でわけの)神(かみ)は、002サル山峠(やまたうげ)の頂上(ちやうじやう)に憩(いこ)へる五(ご)人(にん)の宣伝使(せんでんし)と六公(ろくこう)の一行(いつかう)を率(ひき)つれ、003コシカ峠(たうげ)の谷底(たにそこ)に蹄(ひづめ)の音(おと)も勇(いさ)ましく、004轡(くつわ)を連(つ)らねて現(あら)はれたり。
005 茲(ここ)に音彦(おとひこ)、006弥次彦(やじひこ)、007与太彦(よたひこ)の三(さん)人(にん)は、008谷底(たにそこ)の真砂(まさご)の上(うへ)に枕(まくら)を並(なら)べて気絶(きぜつ)して居(ゐ)る。009一同(いちどう)の宣伝使(せんでんし)は交(かは)る交(がは)る河水(かはみづ)を掬(すく)ひ口(くち)にふくんで三(さん)人(にん)の面部(めんぶ)に濺(そそ)ぎかけた。010音彦(おとひこ)はウンと一声(ひとこゑ)起(お)き上(あ)がり、
011音(おと)『オイ此処(ここ)は何処(どこ)だつたかなア、012三途(せうづ)の川(かは)を渡(わた)つて天(あめ)の八衢(やちまた)に進(すす)んだ積(つも)りだに、013この川(かは)は何時(いつ)出来(でき)たのか、014また三途(せうづ)の川(かは)が此処(ここ)へ転宅(てんたく)をしたのではあるまいか』
015岩(いは)『これこれ音彦(おとひこ)サン、016あなた気絶(きぜつ)して居(ゐ)たのですよ。017ここはコシカ峠(たうげ)の谷底(たにそこ)です、018チト確(しつか)りして下(くだ)さい』
019音(おと)『ウンさうだつたかなア、020すつての事(こと)で幽界(いうかい)旅行(りよかう)地獄(ぢごく)探険(たんけん)をやるところでした。021ようまア助(たす)けに来(き)て下(くだ)さいました。022未(ま)だ未(ま)だ現界(げんかい)にご用(よう)があると見(み)えますなア』
023岩(いは)『あるともあるとも、024今(いま)斯様(こん)なところに国替(くにがへ)して耐(たま)るものか、025確(しつか)りして下(くだ)さい。026之(これ)から遥々(はるばる)フサの都(みやこ)に到着(たうちやく)してコーカス山(ざん)に進(すす)まねばならぬ。027途中(とちう)に斃(へたば)られては吾々(われわれ)は幸先(さいさき)が悪(わる)いですからなア』
028 音彦(おとひこ)は目(め)を擦(こす)りながら、
029音(おと)『ハア日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)様(さま)その他(た)御(ご)一同(いちどう)、030妙(めう)な処(ところ)でお目(め)に掛(かか)りました。031イヤお助(たす)けに預(あづか)りました』
032岩(いは)『音彦(おとひこ)サンは、033やつとの事(こと)で蘇生(そせい)をして下(くだ)さつたが、034二人(ふたり)の方(かた)はまだ魂(たま)がへしが出来(でき)て居(ゐ)ない。035皆(みな)さま一斉(いつせい)に魂呼(たまよ)びを致(いた)しませう』
036 一同(いちどう)は声(こゑ)を揃(そろ)へて一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)を四五回(しごくわい)繰返(くりかへ)せば、037弥次彦(やじひこ)、038与太彦(よたひこ)はムクムクと動(うご)き出(だ)したり。
039音(おと)『ヨー弥次彦(やじひこ)サン、040気(き)を付(つ)けたり。041与太彦(よたひこ)サン目(め)を開(あ)けたり』
042弥(や)『銅木像(どうもくざう)奴(め)が、043また手(て)を換(か)へ品(しな)を換(か)へ瞞(だま)さうと云(い)つたつて、044その手(て)に乗(の)るものかい。045これ源五郎(げんごらう)のサツク奴(め)、046三途川(せうづがは)の鬼婆(おにばば)の代理(だいり)を勤(つと)めたこの弥次(やじ)サンだぞ。047好(よ)い加減(かげん)に改心(かいしん)せぬかい』
048岩(いは)『これこれ弥次(やじ)サン、049確(しつか)りせぬか』
050(岩)『これこれ与太(よた)サン、051確(しつか)りせぬか』
052与(よ)『何(なに)吐(ぬか)しよるのだ。053源五郎(げんごらう)のお化(ばけ)奴(め)が』
054音(おと)『オイオイ、055弥次彦(やじひこ)、056与太彦(よたひこ)の両人(りやうにん)、057此処(ここ)は冥土(めいど)ぢやないぞ、058コシカ峠(たうげ)の谷底(たにそこ)だよ』
059弥(や)『ヘン、060馬鹿(ばか)にするない、061コシカ峠(たうげ)は疾(とう)の昔(むかし)に空中(くうちう)滑走(くわつそう)をやつて首尾(しゆび)よく帰幽(きいう)したのだ。062それから三途(せうづ)の川(かは)を渡(わた)つて天(あめ)の八衢(やちまた)の銅木像(どうもくぞう)を今(いま)遁走(とんそう)させた処(ところ)だ。063如何(いか)に亡者(まうじや)になつたとて、064娑婆(しやば)へ舞(ま)ひ戻(もど)る奴(やつ)があるかい、065俺(おれ)は刹那心(せつなしん)だ。066一足(ひとあし)も後戻(あともど)りは、067嫌(きら)ひだよ』
068音(おと)『アヽ困(こま)つたものだなア、069やつぱり亡者(まうじや)気分(きぶん)で居(ゐ)ると見(み)える。070コレコレ弥次(やじ)サン、071与太(よた)サン死(し)んで居(ゐ)るのぢやないよ、072生(いき)て帰(かへ)つたのだよ』
073弥(や)『馬鹿(ばか)を云(い)ふな、074死(し)んだ者(もの)が二度(にど)死(し)ぬ前例(ためし)があるかい。075生(い)き返(かへ)るも跳(は)ねかへるもあるものかい、076お前(まへ)の修羅(しゆら)の妄執(まうしふ)をサラリと捨(す)てて、077十万(じふまん)億土(おくど)の旅(たび)をするのだ。078顕幽(けんいう)境(さかひ)を異(こと)にしたこの幽界(いうかい)で幾何(いくら)娑婆(しやば)が恋(こひ)しうても一旦(いつたん)往(ゆ)くところ迄(まで)往(ゆ)かねばならぬのだ。079今(いま)は中有(ちうう)だ。080やがて生有(せいう)が来(く)るであらう、081それまでは幽界(いうかい)の規則(きそく)を遵奉(じゆんぽう)して神妙(しんめう)に旅行(りよかう)するのだ、082ノウ与太公(よたこう)』
083与(よ)『エヽ弥次(やじ)サン、084些(ちつ)と変(へん)ぢやないか、085何(なん)だか娑婆(しやば)臭(くさ)くなつて来(き)たやうだよ。086日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)様(さま)もお見(み)えになつて居(を)る。087沢山(たくさん)の宣伝使(せんでんし)も御(ご)列席(れつせき)だ。088好(よ)い加減(かげん)に目(め)を醒(さ)まさぬかい』
089弥(や)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、090日(ひ)の出別(でわけ)の一行(いつかう)は俺(おれ)等(ら)よりも先(さき)に幽界(いうかい)旅行(りよかう)だ。091銅木像(どうもくぞう)の化(ばけ)の奴(やつ)が日天(につてん)様(さま)に頭(あたま)を打(う)ちよつて遁走(とんそう)した後(あと)へ現(あら)はれて来(こ)られたぢやないか』
092岩(いは)『彼奴(あいつ)は一(ひと)つ水(みづ)の吹(ふ)きやうが足(た)らぬ、093いつその事(こと)、094身体(からだ)ぐち此(この)川(かは)へドブヅケ茄子(なす)とやつたらどうだらう』
095 与太彦(よたひこ)は泣(な)き声(ごゑ)を出(だ)して、
096与(よ)『モシモシ宣伝使(せんでんし)様(さま)、097折角(せつかく)助(たす)かつたものを、098ソンナ事(こと)をして貰(もら)つたら土左衛門(どざゑもん)になります。099それだけは何卒(どうぞ)許(ゆる)してやつて下(くだ)さいませ。100アーア弥次彦(やじひこ)はなぜコンナに分(わか)らぬのだらうか、101可愛(かあい)さ余(あま)つて憎(にく)らしうなつて来(き)たワイ』
102と与太彦(よたひこ)は力限(ちからかぎ)り鼻(はな)を捻上(ねぢあ)げる。
103弥(や)『アイタヽヽ、104冥土(めいど)へ来(き)ても未(ま)だ改心(かいしん)をせずに俺(おれ)の鼻(はな)を捻(ね)ぢよつて、105貴様(きさま)きつと地獄(ぢごく)の鼻責(はなぜめ)に遇(あ)はされるぞよ』
106一同(いちどう)『アハヽヽヽ』
107弥(や)『何(なん)だ、108人(ひと)が鼻(はな)を摘(つま)まれて苦(くる)しんで居(を)るのに、109敬神(けいしん)の道(みち)を伝(つた)ふる宣伝使(せんでんし)たるものが、110可笑(をか)しさうに笑(わら)ふと云(い)ふ事(こと)があるものか。111冥土(めいど)の道連(みちづれ)に貴様(きさま)の命(いのち)も奪(と)つてやるのだけれど既(すで)に死(し)んだ奴(やつ)だから奪(と)る命(いのち)もなく、112エヽ残念(ざんねん)な事(こと)だ。113鬼(おに)にでも遇(あ)つたら全部(ぜんぶ)告発(こくはつ)してやるからさう思(おも)へ』
114与(よ)『エヽ仕方(しかた)の無(な)い奴(やつ)だナア。115此奴(こいつ)甦(よみがへ)りそこねよつて、116身魂(みたま)の転宅(てんたく)をやらかし発狂(はつきやう)しよつたな』
117と拳骨(げんこつ)を固(かた)めて横面(よこづら)をポカンと撲(は)る。118その勢(いきほひ)に弥次彦(やじひこ)はヒヨロヒヨロとひよろつき、119石(いし)に躓(つまづ)きばたりと倒(こ)けた。
120弥(や)『アイタヽヽ、121やつぱり痛(いた)い事(こと)が分(わか)る哩(わい)、122さうすると未(ま)だ娑婆(しやば)に居(を)つたのかいなア。123ヤア日(ひ)の出別(でわけ)さま、124鷹(たか)サン、125岩(いは)サン、126梅(うめ)サン、127駒(こま)サンに音(おと)サン、128与太彦(よたひこ)に、129もう一匹(いつぴき)のお方(かた)』
130音(おと)『アーア、131お前(まへ)はそれだから困(こま)るのだ。132性念(しやうねん)がつくと直(すぐ)他(よそ)のお方(かた)を捉(つかま)へて一匹(いつぴき)だなんて口(くち)の悪(わる)い男(をとこ)だナア』
133弥(や)『ヤア矢張(やつぱり)本当(ほんたう)だ。134コシカ峠(たうげ)の谷底(たにそこ)だつたワイ』
135一同(いちどう)『気(き)が付(つ)いた、136気(き)が付(つ)いた。137サア祝(いはひ)に祝詞(のりと)の奏上(そうじやう)だ』
138と一同(いちどう)は真裸(まつぱだか)となつて川(かは)に飛(と)び込(こ)み、139御禊(みそぎ)を修(しう)し天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)する。
140日(ひ)『オー思(おも)はぬ時間(じかん)を費(つひ)やした。141コーカス山(ざん)の神務(しんむ)が忙(いそが)しい。142吾々(われわれ)はお先(さき)に失敬(しつけい)する、143皆様(みなさま)悠(ゆつく)り後(あと)から来(き)て下(くだ)さい』
144と云(い)ひながら馬(うま)の手綱(たづな)を掻(か)い繰(く)り空中(くうちう)目蒐(めが)けて鈴(すず)の音(おと)、145轡(くつわ)の音(おと)勇(いさ)ましく、146シヤンコシヤンコと空中(くうちう)指(さ)して昇(のぼ)り行(ゆ)く。
147岩(いは)『ヨー遉(さすが)は日(ひ)の出別(でわけ)の神(かみ)さま、148天馬(てんば)空(くう)を行(ゆ)くと云(い)ふ離(はな)れ業(わざ)は、149吾々(われわれ)の如(ごと)き力(ちから)の無(な)い宣伝使(せんでんし)では到底(たうてい)望(のぞ)まれない。150皆(みな)サンこれからフサの都(みやこ)に急(いそ)ぎませう。151弥次彦(やじひこ)、152与太彦(よたひこ)、153モ一人(ひとり)のお方(かた)、154悠(ゆつく)り後(あと)から来(き)て下(くだ)さい』
155 六(ろく)人(にん)の宣伝使(せんでんし)は轡(くつわ)を並(なら)べて駆(か)け出(だ)さむとする。156弥次彦(やじひこ)は馬(うま)の轡(くつわ)をぐつと握(にぎ)り、
157弥(や)『マア待(ま)つた待(ま)つた、158二人(ふたり)の裸人(はだか)はどうして下(くだ)さるのだ』
159岩(いは)『みな一(いち)枚(まい)づつ脱(ぬ)いで借(か)して上(あ)げませうか』
160一同(いちどう)『宜敷(よろし)からう』
161と上着(うはぎ)を一(いち)枚(まい)づつ脱(ぬ)ぎ、
162一同(いちどう)『三人(さんにん)様(さん)、163後(あと)から悠(ゆつく)り来(き)て下(くだ)さい。164貴方(あなた)は二本足(にほんあし)、165吾々(われわれ)は四本足(しほんあし)に乗(の)つて居(ゐ)るのだから、166到底(たうてい)追(おつ)つけない。167フサの都(みやこ)で待(ま)つて居(ゐ)ます』
168と駿馬(しゆんめ)に鞭(むちう)ち雲(くも)を霞(かすみ)とかけ去(さ)りにける。
169弥(や)『アア世(よ)の中(なか)は妙(めう)なものだワイ、170三途川(せうづがは)の鬼婆(おにばば)が、171裸体(らたい)の吾々(われわれ)を捉(つかま)へて衣服(いふく)が無(な)ければ親譲(おやゆづ)りの皮衣(かはごろも)を出(だ)しよらぬかと吐(ぬか)しよつたに、172遉(さすが)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)、173立派(りつぱ)な着物(きもの)を脱(ぬ)ぎ捨(す)てて惜(を)し気(げ)もなく二人(ふたり)に与(あた)へて往(い)つてしまつた。174オイ与太(よた)、175羽織(はおり)ばかり貰(もら)つたところで、176仕方(しかた)が無(な)いぢやないか、177帯(おび)もなし、178袴(はかま)もなし、179生憎(あひにく)針(はり)も糸(いと)も持(も)つて居(ゐ)ないから、180仕立(したて)直(なほ)すわけにも行(ゆ)かず、181アヽこれだから独身(どくしん)生活(せいくわつ)は困(こま)ると云(い)ふのだ。182青瓢箪(あをべうたん)のやうな嬶(かかあ)はあつても、183高取村(たかとりむら)まで帰(かへ)らねばお目(め)に懸(かか)る訳(わけ)にも行(ゆ)かず、184電話(でんわ)でもあつたら掛(か)けて呼(よ)び寄(よ)せるのだけれど、185仕方(しかた)がないなア』
186与(よ)『良(い)い事(こと)がある、187羽織(はおり)を倒(さかさ)まにして袖(そで)に両足(りやうあし)を突込(つつこ)めば立派(りつぱ)な袴(はかま)が出来(でき)る。188さうして上(うへ)に羽織(はおり)を着(き)るのだ、189もう一(いち)枚(まい)の羽織(はおり)を前後(まへうしろ)にして着(き)さへすれば好(よ)い、190何(なん)と妙案(めうあん)だらう』
191弥(や)『妙案(めうあん)々々(めうあん)、192しかし帯(おび)は如何(どう)するのだい』
193与(よ)『帯(おび)は其辺(そこら)の蔓(かづら)をむしつて臨時(りんじ)代用(だいよう)だ。194これを着(き)て久(ひさ)し振(ぶ)り女房(にようばう)の家(いへ)へ帰(かへ)り、195門口(かどぐち)に立(た)つて、196女房(にようばう)喜(よろこ)べ、197背中(せなか)がお腹(はら)になつたぞよ、198とかますのだ。199そこで女房(にようばう)の奴(やつ)、200一(ひと)つ逃(のが)れて又(また)一(ひと)つ』
201弥(や)『オイオイソンナ滑稽(こつけい)を云(い)つて居(ゐ)る場合(ばあひ)ぢやないぞ、202ソンナ事(こと)は五十万(ごじふまん)年後(ねんご)未来(みらい)の十九(じふく)世紀(せいき)とか云(い)ふ時(とき)の、203ガラクタ人間(にんげん)の近松(ちかまつ)とか出雲(いづも)とか何(なん)とか云(い)ふ坊主(ばうず)上(あが)りが作(つく)る文句(もんく)だ。204今(いま)は天孫(てんそん)降臨(かうりん)前(ぜん)の原始(げんし)時代(じだい)だ。205未来(みらい)の夢(ゆめ)を見(み)る奴(やつ)があるかい』
206与(よ)、207六(ろく)『ウフヽヽヽ』
208弥(や)『お前(まへ)は何処(どこ)から降(ふ)つて来(き)たのだ、209何(なん)といふ男(をとこ)だい』
210六(ろく)『ハイ、211私(わたくし)は六(ろく)といふ男(をとこ)でございます』
212弥(や)『何(ど)うせろくでも無(な)い奴(やつ)だと思(おも)つて居(を)つた。213ろくろくに挨拶(あいさつ)もしよらぬと何(なん)だい、214その六ケ(むつか)しい顔(かほ)は』
215六(ろく)『どうぞ以後(いご)お見知(みし)り置(お)かれまして、216お六(む)つまじう末長(すゑなが)く御(ご)交際(かうさい)を願(ねが)ひます』
217与(よ)『アハヽ此奴(こいつ)は面白(おもしろ)い、218三(さん)人(にん)世(よ)の元(もと)だ、219いよいよ之(これ)からコシカ峠(たうげ)の四十八(しじふや)坂(さか)を跋渉(ばつせふ)し、220ウラル教(けう)の奴輩(やつばら)を片端(かたつぱし)から言向(ことむ)け和(やは)し、221フサの都(みやこ)に凱旋(がいせん)をするのだ。222何時迄(いつまで)もコンナ谷底(たにそこ)に呆(とぼ)け顔(がほ)してウヨウヨして居(を)るのも気(き)が利(き)かない。223さあさあ馬丁(べつとう)、224馬(うま)の用意(ようい)だ』
225六(ろく)『馬(うま)ア何処(どこ)に居(を)りますか』
226弥(や)『何(なに)、227膝栗毛(ひざくりげ)だ。228心(こころ)の駒(こま)に鞭打(むちう)つて敵(てき)の牙城(がじやう)に突撃(とつげき)を試(こころ)むるのだ。229一(いち)二(に)三(さん)四(し)、230全隊(ぜんたい)進(すす)めツ』
231与(よ)『オイオイ弥次公(やじこう)、232四(し)とは何(なん)だ、233三(さん)人(にん)より居(ゐ)ないぢやないか』
234弥(や)『馬鹿(ばか)云(い)ふな、235守護神(しゆごじん)がついとるぞ、236サア詔直(のりなほ)して今度(こんど)は一人(ひとり)二人(ふたり)で勘定(かんぢやう)だ。237俺(おれ)が一(ひと)つ標本(へうほん)を出(だ)してやらう、238俺(おれ)が、239一(いち)人(にん)二(に)人(にん)三(さん)人(にん)四(よ)人(にん) 五匹(ごひき)六匹(ろつぴき) 七(しち)人(にん) 八匹(はつぴき)九匹(くひき) 十(じふ)人(にん) 十一匹(じふいつぴき)十二匹(じふにひき)、240と斯(か)う云(い)ふのだよ』
241与(よ)『怪体(けたい)な勘定(かんぢやう)だな、242何故(なぜ)ソンナ人(ひと)と匹(ひき)とを混合(こんがふ)するのだい』
243弥(や)『極(きま)つたことよ、244人間(にんげん)が三(さん)人(にん)に守護神(しゆごじん)が三(さん)人(にん)、245四(よ)つ足(あし)が六匹(ろつぴき)だ、246貴様(きさま)等(ら)の守護神(しゆごじん)は一匹(いつぴき)二匹(にひき)で沢山(たくさん)だよ』
247与(よ)『馬鹿(ばか)にしよる、248エヽ仕方(しかた)がない、249一匹(いつぴき)でも連(つれ)が多(おほ)い方(はう)が道中(だうちう)は賑(にぎ)やかだ、250オイ六(ろく)人(にん)六匹(ろつぴき)突喊(とつかん)々々(とつかん)』
251と馬鹿口(ばかぐち)を叩(たた)きながら絶壁(ぜつぺき)を、252木(き)の株(かぶ)を力(ちから)に坂道(さかみち)まで漸(やうや)く辿(たど)り着(つ)いた。
253弥(や)『アヽ此処(ここ)だ此処(ここ)だ、254ウラル教(けう)の奴(やつ)、255数百(すうひやく)人(にん)をもつて吾々(われわれ)を囲(かこ)みよつた所(ところ)だ。256弥次(やじ)サン与太(よた)サンの古戦場(こせんじやう)だ。257亡魂(ばうこん)が此辺(ここら)に迷(まよ)ふて居(を)るかも知(し)れぬ。258記念碑(きねんひ)でも建(た)ててやらうかい』
259与(よ)『アハヽヽ、260好(よ)く洒落(しやれ)る奴(やつ)だナア』
261六(ろく)『之(これ)から先(さき)には四十八(しじふや)坂(さか)と云(い)ふ大変(たいへん)な峻(きつ)い坂(さか)がありますぜ、262まア悠(ゆつく)りと此処(ここ)で休息(きうそく)して行(ゆ)きませう、263大分(だいぶん)に長途(ちやうと)の旅(たび)で疲(つか)れましたからなア』
264弥(や)『馬鹿(ばか)にするない、265長途(ちやうと)の旅(たび)か一寸(ちよつと)の旅(たび)か知(し)らないが、266今(いま)此処(ここ)の谷川(たにがは)から漸(やうや)く此処(ここ)まで登(のぼ)つて来(き)たばかりぢやないか』
267六(ろく)『私(わたくし)は宣伝使(せんでんし)のお伴(とも)をしてサル山峠(やまたうげ)の頂上(ちやうじやう)から七八(しちはち)里(り)の道(みち)をテクツて来(き)ました、268足(あし)が草臥(くたび)れて居(ゐ)ます、269一寸(ちよつと)一服(いつぷく)さして下(くだ)さいな』
270弥(や)『何(なん)だ、271八(はち)里(り)や十(じふ)里(り)歩(ある)いたつてそれ程(ほど)苦(くる)しいか、272俺(おれ)たちは今(いま)十万(じふまん)億土(おくど)の旅(たび)をして来(き)たところだ。273それでも俺(おれ)のコンパスはコンナものだい。274アハヽヽヽ』
275 かく雑談(ざつだん)に耽(ふけ)る折(をり)しも、276数千頭(すうせんとう)の野馬(やば)群(むれ)をなして此方(こなた)に向(むか)つて駆(か)け来(きた)る。
277六(ろく)『ヤア有難(ありがた)いものだ。278天(てん)の与(あた)へた野馬(やば)に乗(の)つて往(ゆ)く事(こと)にせう、279鞍(くら)もなし裸馬(はだかうま)に乗(の)るのは野馬(やば)なものだが、280仕方(しかた)がないワ、281もしも野馬(やば)と一緒(いつしよ)にこの渓谷(けいこく)に辷(すべ)り落(お)ちて又(また)もや弥次(やじ)サンや、282与太(よた)サンのやうに冥土(めいど)の旅(たび)をするやうになつたら後世(こうせい)の人間(にんげん)が此処(ここ)は六道(ろくだう)の辻(つじ)の六公(ろくこう)の終焉地(しうえんち)だ。283野馬(やば)の落(お)ちた処(ところ)や、284野馬渓(やばけい)だと記念碑(きねんひ)でも建(た)てて名所(めいしよ)にするかも知(し)れぬぞ。285オイ、286野馬公(やばこう)の奴(やつ)、287六(ろく)サンの仰(あふ)せだ、288馬匹(ばひつ)点検(てんけん)だ、289全隊(ぜんたい)止(と)まれ。290ヤアこの野良馬(のらうま)奴(め)、291吾輩(わがはい)の言霊(ことたま)を馬耳(ばじ)東風(とうふう)と聞(き)き流(なが)しよるナ、292余(あま)り馬鹿(ばか)にするない』
293馬(うま)『モシモシ三(さん)人(にん)の足弱(あしよわ)サン、294私(わたくし)に御用(ごよう)ですか、295賃金(ちんぎん)は幾何(いくら)出(だ)します』
296六(ろく)『ヨー此奴(こいつ)、297勘定(かんぢやう)の高(たか)い奴(やつ)だナ、298ウラル教(けう)だな。299世(よ)が曇(くも)つて来(く)ると馬(うま)までが化(ば)けよつて人語(じんご)を使(つか)ふやうになつて来(く)る哩(わい)、300もう世(よ)の終(をは)りだ』
301馬(うま)『馬(うま)でも物(もの)を言(い)ひますとも、302狐(きつね)でも狸(たぬき)でも物(もの)を云(い)つてるぢやないか』
303弥(や)『何処(どこ)に狐(きつね)や狸(たぬき)が物(もの)を云(い)つてるかい』
304馬(うま)『お前(まへ)サンの腹(はら)の中(なか)から副(ふく)守護神(しゆごじん)とか云(い)つて喋(しやべ)つて居(ゐ)るよ。305狐(きつね)が物(もの)言(い)ふのに馬(うま)が物(もの)云(い)はれぬと云(い)ふ規則(きそく)があるか、306お前(まへ)も聞(き)いて居(ゐ)るだらう「馬(うま)が物(もの)云(い)ふた鈴鹿(すずか)の坂(さか)で、307お三女郎(さんぢよらう)なら乗(の)せうと云(ゆ)た」この馬(うま)サンも女(をんな)なら乗(の)せたいのだけれど、308ソンナ欠杭(かつくひ)の化(ば)け物(もの)見(み)たやうな唐変木(たうへんぼく)を乗(の)せるのは些(ちつ)と背(せ)が痛(いた)い。309しかしお三(さん)の変(かは)りに狐(きつね)三匹(さんびき)乗(の)せてやらうか、310お前(まへ)のやうな奴(やつ)は、311世間(せけん)から「狐(きつね)を馬(うま)に乗(の)せたやうな奴(やつ)」だと云(い)はれて居(を)るから名実(めいじつ)相伴(あひともな)ふ、312言行(げんかう)一致(いつち)三五教(あななひけう)の教理(けうり)の実現(じつげん)だ。313どうだ、314この馬(うま)サンのヒンヒン、315ヒントは外(はづ)れはせまい』
316六(ろく)『馬(うま)いこと吐(ぬか)しよる、317馬鹿(ばか)々々(ばか)しいが、318今日(けふ)は弥次彦(やじひこ)、319与太彦(よたひこ)サンの御(ご)命日(めいにち)オツトどつこい再生日(さいせいび)だから、320お慈悲(じひ)で乗(の)つてやらうかい、321貴様(きさま)もこれで後(さき)の世(よ)には人間(にんげん)に生(うま)れて来(こ)られるワ、322宣伝使(せんでんし)を乗(の)せた御(ご)利益(りやく)と云(い)ふものは偉(えら)いものだぞ』
323馬(うま)『人間(にんげん)を乗(の)せるのなら有難(ありがた)いけれど、324狐(きつね)や狸(たぬき)の容器(いれもの)を乗(の)せるかと思(おも)へば情(なさけ)なくなつて来(き)た。325ヒンヒンヒン、326貧(ひん)ほど辛(つら)いものがあらうか、327四百四(しひやくし)病(びやう)の病(やまひ)より、328辛(つら)いのは狐狸(こり)に使(つか)はれる事(こと)だ。329アヽ慈善(じぜん)的(てき)に四十八(しじふや)坂(さか)を渡(わた)つて野馬渓(やばけい)の実現(じつげん)でもやつて、330末代(まつだい)名(な)を残(のこ)さうかな』
331弥(や)『こりや怪(け)しからぬ、332迂濶(うつかり)乗(の)れたものぢやないぞ』
333馬(うま)『人(ひと)には添(そ)ふて見(み)い、334馬(うま)には乗(の)つて見(み)いだ、335サア早(はや)く乗(の)らぬかい、336貴様(きさま)は毎時(いつも)真(ま)つ暗(くら)な処(ところ)へ嬶(かか)アの目(め)をちよろまかして、337金(かね)を盗(ぬす)んで、338行灯(あんどん)部屋(べや)に放(ほ)り込(こ)まれ、339終(しまひ)には馬(うま)をつれて帰(かへ)る代物(しろもの)だよ。340馬(うま)に送(おく)つて貰(もら)ふのは、341一寸(ちよつと)願(ねが)つたり叶(かな)つたりだ、342ヒンヒンヒン』
343三(さん)人(にん)『エヽ八釜(やかま)しい哩(わい)、344それほど頼(たの)めば乗(の)つてやらう』
345と、346数十(すうじふ)の馬(うま)を目蒐(めが)けて飛(と)びついた。
347弥(や)『ヤア此奴(こいつ)は宛(あて)が違(ちが)つた、348睾丸(きんたま)のある奴(やつ)だ。349同(おな)じ乗(の)るのなら牝(ひん)の方(はう)に乗(の)り換(か)へてやらうか、350身(み)の過失(あやまち)はのり直(なほ)せだ』
351馬(うま)『ドツコイ、352さうは行(ゆ)かぬぞ、353乗(の)りかけた船(ふね)ぢやない馬(うま)だ。354もうかうなつては此方(こちら)の者(もの)だ、355鷲掴(わしづかみ)の源五郎(げんごらう)のやうに、356急阪(きふはん)になつたら前足(まへあし)を上(あ)げてデングリ返(かへ)つて背(せ)で腹(はら)を潰(つぶ)してやるのだ。357ヤア面白(おもしろ)い おもしろい』
358与(よ)『俺(おれ)のは牝(ひん)だ、359此奴(こいつ)は些(ちつ)と温順(おとな)しいらしいぞ』
360六(ろく)『俺(おれ)のも牝(ひん)ぢや』
361弥(や)『ヤイ八釜敷(やかまし)いわい、362馬(うま)がヒンヒン吐(ぬか)してビン棒籤(ぼうくじ)を抽(ひ)いて困(こま)つて居(を)るのに、363貴様(きさま)迄(まで)が同(おな)じにヒンヒンと吐(ぬか)すな、364ヒンの悪(わる)い』
365 数多(あまた)の馬(うま)声(こゑ)を揃(そろ)へて、
366馬『ヒンヒンヒン、367ヒンヒンヒン』
368(大正一一・三・二三 旧二・二五 加藤明子録)
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