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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
第1章 三途川
第2章 銅木像
第3章 鷹彦還元
第4章 馬詈
第5章 風馬牛
第2篇 幽山霊水
第6章 楽隠居
第7章 難風
第8章 泥の川
第9章 空中滑走
第3篇 高加索詣
第10章 牡丹餅
第11章 河童の屁
第12章 復縁談
第13章 山上幽斎
第14章 一途川
第15章 丸木橋
第16章 返り咲
第4篇 五六七号
第17章 一寸一服
跋文
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第14巻(丑の巻)
> 第3篇 高加索詣 > 第15章 丸木橋
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(B)
(N)
返り咲 >>>
第一五章
丸木橋
(
まるきばし
)
〔五六五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第3篇 高加索詣
よみ(新仮名遣い):
こーかすまいり
章:
第15章 丸木橋
よみ(新仮名遣い):
まるきばし
通し章番号:
565
口述日:
1922(大正11)年03月25日(旧02月27日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は息を吹き返し、鬼婆と格闘した夢を語り合っている。勝公は、これは数十万年未来に艮の方角に男子・女子が現れてミロクの世の活動をされるときに、邪魔をする悪魔が出てくるのだ、と夢判断をする。
与太彦は、谷川の水で禊ぎをして身を清めよう、と提案する。一同は賛成して川に飛び込むが、六公がおぼれてしまう。
一同は六公の生存を祈りつつ、川を下って六を探しに行く。丸木橋が架かったところで、与太彦に六公の生霊が懸って、自分は死んでいない、と口を切った。
すると、橋のたもとから、以前四人が三五教に改心させた烏勘三郎一行が現れ、六公が流れてきたので、川から引き上げて助けてあった、と言う。
勝彦が天の数歌を唱えると、六公は息を吹き返した。一同は神言を奏上し宣伝歌を歌った。四人は烏勘三郎たちに厚く礼を述べ、二十六番峠に向かって進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-09 14:57:44
OBC :
rm1415
愛善世界社版:
248頁
八幡書店版:
第3輯 251頁
修補版:
校定版:
257頁
普及版:
118頁
初版:
ページ備考:
001
二十五
(
にじふご
)
番
(
ばん
)
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
より
強烈
(
きやうれつ
)
なる
烈風
(
れつぷう
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
はれ、
002
谷間
(
たにま
)
に
陥
(
おちい
)
りし
勝公
(
かつこう
)
一行
(
いつかう
)
は、
003
息
(
いき
)
吹
(
ふ
)
き
返
(
かへ
)
し
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
004
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
見合
(
みあは
)
せて、
005
勝
(
かつ
)
『ヤア、
006
此処
(
ここ
)
はコシカ
峠
(
たうげ
)
の
谷底
(
たにそこ
)
だ。
007
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
とやら
云
(
い
)
ふ
並木
(
なみき
)
の
松
(
まつ
)
の
茂
(
しげ
)
つた
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
に
於
(
おい
)
て、
008
常世姫
(
とこよひめ
)
や
木常姫
(
こつねひめ
)
の
悪霊
(
あくれい
)
と
格闘
(
かくとう
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た
積
(
つも
)
りだに、
009
これは
矢張
(
やつぱ
)
り
夢
(
ゆめ
)
だつたかいなア』
010
弥
(
や
)
『アヽ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
011
貴方
(
あなた
)
もソンナ
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのですか、
012
私
(
わたくし
)
も
見
(
み
)
ましたよ、
013
エグイ
顔
(
かほ
)
をした
婆
(
ばば
)
アだつたねー。
014
目
(
め
)
の
周囲
(
まはり
)
から
鼻
(
はな
)
の
辺
(
あた
)
りと
云
(
い
)
ふものは
紫色
(
むらさきいろ
)
に
腫上
(
はれあが
)
つて、
015
随分
(
ずゐぶん
)
見
(
み
)
つともよくない
常世姫
(
とこよひめ
)
の
寝姿
(
ねすがた
)
、
016
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るよりゾツとした。
017
それに
又
(
また
)
、
018
星
(
ほし
)
の
紋
(
もん
)
のついた
水色
(
みづいろ
)
の
羽織
(
はおり
)
を
着
(
き
)
た
中婆
(
ちうばば
)
の
嫌
(
いや
)
らしい
顔
(
かほ
)
つたら、
019
今
(
いま
)
思
(
おも
)
つても
身体中
(
からだぢう
)
がゾクゾクするやうですワ。
020
それに
与太公
(
よたこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
021
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
の
窓
(
まど
)
を
覗
(
のぞ
)
いて、
022
芝居
(
しばゐ
)
がかりに
手踊
(
てをどり
)
をやるをかしさ、
023
可笑
(
をか
)
しいやら、
024
恐
(
おそ
)
ろしいやら、
025
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いやら、
026
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つやら、
027
疳
(
かん
)
が
立
(
た
)
つやら、
028
イヤもう
三五教
(
あななひけう
)
の
精神
(
せいしん
)
も
何処
(
どこ
)
かへ
行
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
うて、
029
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し、
030
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しと
云
(
い
)
ふ
余裕
(
よゆう
)
がなかつた。
031
オイ
与太公
(
よたこう
)
、
032
六公
(
ろくこう
)
、
033
貴様
(
きさま
)
は
如何
(
どう
)
だつた。
034
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
一人
(
ひとり
)
だつたぞ』
035
与
(
よ
)
『
俺
(
おれ
)
もチヨボチヨボだ、
036
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
だとか、
037
欲
(
ほ
)
しい
一図
(
いちづ
)
だとか、
038
婆
(
ばば
)
が
吐
(
ほざ
)
いて
居
(
ゐ
)
たよ。
039
余程
(
よほど
)
よい
血迷
(
ちまよ
)
ひ
婆
(
ばば
)
アだワイ』
040
六
(
ろく
)
『
鬼婆
(
おにばば
)
が
出刄
(
でば
)
をもつて、
041
突
(
つ
)
つかかつて
来
(
き
)
よつた
時
(
とき
)
にや、
042
この
方
(
はう
)
は
無手
(
むて
)
だ、
043
先方
(
むかう
)
は
獲物
(
えもの
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るのだから
一寸
(
ちよつと
)
ハラハラした
途端
(
とたん
)
、
044
目
(
め
)
が
醒
(
さ
)
めたのだ。
045
アヽ
嫌
(
いや
)
らしい
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たものだ。
046
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
と
云
(
い
)
ふからには、
047
何処
(
どこ
)
かにかう
云
(
い
)
ふ
事実
(
じじつ
)
があるかも
知
(
し
)
れないよ』
048
弥
(
や
)
『
夢
(
ゆめ
)
と
云
(
い
)
ふものは
神聖
(
しんせい
)
なものだ。
049
吾々
(
われわれ
)
が
社会
(
しやくわい
)
的
(
てき
)
の
総
(
すべ
)
ての
羈絆
(
きはん
)
を
脱
(
だつ
)
して、
050
他愛
(
たあい
)
もなく
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
発動
(
はつどう
)
に
一任
(
いちにん
)
した
時
(
とき
)
だから、
051
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
事実
(
じじつ
)
はきつと
過去
(
くわこ
)
か、
052
現在
(
げんざい
)
か、
053
未来
(
みらい
)
のうちには
実現
(
じつげん
)
するものだよ』
054
六
(
ろく
)
『さうだらうかなア、
055
過去
(
くわこ
)
の
事
(
こと
)
だらうか、
056
未来
(
みらい
)
の
事
(
こと
)
だらうかな』
057
勝
(
かつ
)
『それは、
058
この
夢
(
ゆめ
)
の
実現
(
じつげん
)
は
数十万
(
すふじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
の
事
(
こと
)
だ。
059
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
と
云
(
い
)
ふ
悪魔
(
あくま
)
横行
(
わうかう
)
の
時代
(
じだい
)
が
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
、
060
八尾
(
やつを
)
八頭
(
やつがしら
)
や
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪霊
(
あくれい
)
が
再
(
ふたた
)
び
発動
(
はつどう
)
しよつて、
061
常世姫
(
とこよひめ
)
や
木常姫
(
こつねひめ
)
の
霊魂
(
みたま
)
の
憑
(
うつ
)
り
易
(
やす
)
い
肉体
(
にくたい
)
を
使
(
つか
)
つて、
062
行
(
や
)
りよる
事
(
こと
)
だよ。
063
天眼通
(
てんがんつう
)
力
(
りき
)
によつて
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ると、
064
何
(
なん
)
でもこれから
艮
(
うしとら
)
の
方
(
はう
)
に
当
(
あた
)
つて、
065
神
(
かみ
)
さまの
公園地
(
こうゑんち
)
に、
066
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
男子
(
なんし
)
とか
女子
(
によし
)
とかが
現
(
あら
)
はれて、
067
ミロクの
世
(
よ
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
開始
(
かいし
)
されるのを、
068
何
(
なん
)
でも
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
懸
(
かか
)
り、
069
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つて
教
(
をし
)
への
子
(
こ
)
を
食
(
く
)
ひ
殺
(
ころ
)
し、
070
玉取
(
たまと
)
りをやる
事
(
こと
)
の
知
(
し
)
らせであらう。
071
アヽ
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
と
云
(
い
)
ふ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
人間
(
にんげん
)
は
実
(
じつ
)
に
可憐
(
かあい
)
さうだ。
072
それにつけても、
073
厳霊
(
いづのみたま
)
、
074
瑞霊
(
みづのみたま
)
や
金勝要
(
きんかつかね
)
の
神
(
かみ
)
、
075
木花姫
(
このはなひめ
)
の
呑剣
(
どんけん
)
断腸
(
だんちやう
)
の
御
(
お
)
苦
(
くる
)
しみが
思
(
おも
)
ひやられる
哩
(
わい
)
。
076
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
077
与
(
よ
)
『
吾々
(
われわれ
)
は
過去
(
くわこ
)
現在
(
げんざい
)
未来
(
みらい
)
の
衆生
(
しうじやう
)
済度
(
さいど
)
のため、
078
この
清
(
きよ
)
らかな
川辺
(
かはべ
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだのを
幸
(
さいは
)
ひに、
079
御禊
(
みそぎ
)
を
修
(
しう
)
し、
080
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
してミロク
神政
(
しんせい
)
の
建設
(
けんせつ
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
、
081
男子
(
なんし
)
女子
(
によし
)
をはじめ、
082
金勝要
(
きんかつかね
)
の
神
(
かみ
)
、
083
木花姫
(
このはなひめ
)
の
霊
(
みたま
)
の
鎮
(
しづ
)
まりたまふ
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
の
為
(
ため
)
に、
084
祈
(
いの
)
りませうか。
085
この
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が
万劫
(
まんがふ
)
末代
(
まつだい
)
維持
(
ゐぢ
)
していけるやうに、
086
善
(
ぜん
)
ばかりの
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
くやうに』
087
勝
(
かつ
)
『
大賛成
(
だいさんせい
)
です、
088
皆
(
みな
)
サン
与太彦
(
よたひこ
)
サンの
提案
(
ていあん
)
に
従
(
したが
)
つて
即時
(
そくじ
)
決行
(
けつかう
)
致
(
いた
)
しませう』
089
弥
(
や
)
、
090
六
(
ろく
)
『
吾々
(
われわれ
)
も
賛成
(
さんせい
)
です』
091
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
092
着衣
(
ちやくい
)
を
川辺
(
かはべ
)
に
脱
(
ぬ
)
ぎ
捨
(
す
)
て、
093
谷川
(
たにがは
)
にザンブとばかり
飛込
(
とびこ
)
んだ。
094
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
一度
(
いちど
)
に
水
(
みづ
)
に
浸
(
ひた
)
り
身体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
めて
居
(
を
)
る
際
(
さい
)
、
095
ブルブルブルと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて、
096
六公
(
ろくこう
)
は
水底
(
すゐてい
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
097
勝公
(
かつこう
)
を
初
(
はじ
)
め
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
川上
(
かはかみ
)
に
向
(
むか
)
つて
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
つてフト
傍
(
かたはら
)
を
見
(
み
)
れば
六公
(
ろくこう
)
の
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えぬ。
098
勝
(
かつ
)
『ヤア
六
(
ろく
)
サンは
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つた。
099
オーイ
六
(
ろく
)
サン
何処
(
どこ
)
だ』
100
と
呼
(
よ
)
べど
叫
(
さけ
)
べど
何
(
なん
)
の
応
(
いら
)
へもなく、
101
激潭
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
の
音
(
おと
)
轟々
(
ぐわうぐわう
)
と
聞
(
きこ
)
ゆるのみ。
102
弥次彦
(
やじひこ
)
は、
103
弥次彦
『ヤア
大変
(
たいへん
)
だ、
104
六公
(
ろくこう
)
が
何処
(
どこ
)
かへ
沈没
(
ちんぼつ
)
しよつたな、
105
これや
斯
(
こ
)
うしては
居
(
を
)
られぬ
哩
(
わい
)
、
106
何
(
なん
)
とかして
捜索
(
そうさく
)
をせなくてはならぬ、
107
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
沢山
(
たくさん
)
の
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
んで
縡
(
ことぎ
)
れては
取返
(
とりかへ
)
しがつかぬ。
108
オイ
与太公
(
よたこう
)
どうせうかなア』
109
与
(
よ
)
『どうせうたつて
仕方
(
しかた
)
がないサ、
110
大方
(
おほかた
)
六公
(
ろくこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
111
潜水艇
(
せんすゐてい
)
気取
(
きど
)
りで
何処
(
どこ
)
かの
水底
(
すゐてい
)
に
暫時
(
ざんじ
)
伏艇
(
ふくてい
)
して
居
(
を
)
るのだらう。
112
彼奴
(
あいつ
)
は
水練
(
すゐれん
)
に
妙
(
めう
)
を
得
(
え
)
た
奴
(
やつ
)
だから、
113
決
(
けつ
)
して
溺
(
おぼ
)
れるやうな
気遣
(
きづか
)
ひはないよ。
114
貴様
(
きさま
)
が
松
(
まつ
)
の
枝
(
えだ
)
に
引
(
ひ
)
つ
懸
(
かか
)
つて
居
(
ゐ
)
た
時
(
とき
)
も、
115
あの
着物
(
きもの
)
のまま
谷川
(
たにがは
)
を
泳
(
およ
)
ぎ
渡
(
わた
)
つて
平気
(
へいき
)
で
居
(
を
)
る
奴
(
やつ
)
だから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ。
116
吾々
(
われわれ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
驚
(
おどろ
)
かしてやらうと
思
(
おも
)
うて
洒落
(
しやれ
)
て
居
(
を
)
るのだよ』
117
弥
(
や
)
『なにほど
水泳
(
すゐえい
)
の
達人
(
たつじん
)
だと
云
(
い
)
つても
油断
(
ゆだん
)
は
出来
(
でき
)
ない、
118
さう
楽観
(
らくくわん
)
する
訳
(
わけ
)
にもいかない、
119
諺
(
ことわざ
)
にも、
120
好
(
よ
)
く
泳
(
およ
)
ぐものは
好
(
よ
)
く
溺
(
おぼ
)
る、
121
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
122
此奴
(
こいつ
)
はどうしても
俺
(
おれ
)
の
考
(
かんが
)
へでは
名替
(
ながへ
)
をしよつたに
相違
(
さうゐ
)
ない』
123
与
(
よ
)
『
名替
(
ながへ
)
つて
何
(
なん
)
だい、
124
流
(
なが
)
れの
間違
(
まちが
)
ひだらう』
125
弥
(
や
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
126
川底
(
かはぞこ
)
土左衛門
(
どざゑもん
)
と
改名
(
かいめい
)
したらうと
云
(
い
)
ふのだ』
127
与
(
よ
)
『
土左衛門
(
どざゑもん
)
とは
怪
(
け
)
しからぬ、
128
真
(
しん
)
に
大変
(
たいへん
)
だ。
129
それだから
道中
(
だうちう
)
に
四人
(
しにん
)
連
(
づれ
)
はいかないと
云
(
い
)
ふのだ。
130
オイ
六公
(
ろくこう
)
、
131
生
(
い
)
きて
居
(
を
)
るのか
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
るか、
132
ハツキリ
返事
(
へんじ
)
をせぬかい』
133
弥
(
や
)
『
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
るものが
返事
(
へんじ
)
をするかい、
134
気
(
き
)
を
落着
(
おちつ
)
けないか』
135
与
(
よ
)
『
一息
(
ひといき
)
を
争
(
あらそ
)
ふ
水
(
みづ
)
の
中
(
なか
)
だ、
136
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
る
間
(
ま
)
に
息
(
いき
)
が
切
(
き
)
れたらどうするのだ。
137
コンナ
時
(
とき
)
に
落着
(
おちつ
)
き
払
(
はら
)
つて
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
は
非人道
(
ひじんだう
)
的
(
てき
)
の
骨頂
(
こつちやう
)
だ。
138
これがどうして
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
せずに
居
(
を
)
られうかい。
139
オーイ オーイ、
140
六公
(
ろくこう
)
、
141
六道
(
ろくだう
)
の
辻
(
つじ
)
を
通
(
とほ
)
るのは
未
(
ま
)
だ
早
(
はや
)
いぞ、
142
コーカス
参
(
まゐ
)
りの
途中
(
とちう
)
ぢやないか、
143
早
(
はや
)
く
浮
(
う
)
かばぬか
浮
(
う
)
かばぬか、
144
何処
(
どこ
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふとるのだ。
145
オーイ オーイ』
146
勝
(
かつ
)
『エヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
147
滅多
(
めつた
)
にこの
激流
(
げきりう
)
を
潜
(
くぐ
)
つて
上
(
のぼ
)
る
筈
(
はず
)
もなし、
148
大方
(
おほかた
)
渦
(
うづ
)
に
巻込
(
まきこ
)
まれて
流
(
なが
)
れたのかも
知
(
し
)
れませぬよ、
149
谷川
(
たにがは
)
伝
(
づた
)
ひに
此処
(
ここ
)
を
下
(
くだ
)
つて
探
(
さが
)
して
見
(
み
)
ませうか』
150
弥
(
や
)
『
探
(
さが
)
さうと
云
(
い
)
つたつて、
151
アレあの
通
(
とほ
)
り
碧潭
(
へきたん
)
激流
(
げきりう
)
、
152
何
(
ど
)
うする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやありませぬか。
153
コンナ
時
(
とき
)
に
鷹彦
(
たかひこ
)
サンが
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れば
捜索隊
(
さうさくたい
)
になつて
貰
(
もら
)
ふのに
大変
(
たいへん
)
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
いけれどなア、
154
追々
(
おひおひ
)
日
(
ひ
)
も
暮
(
く
)
れて
来
(
く
)
る、
155
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ。
156
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
吾々
(
われわれ
)
迄
(
まで
)
がドンナ
災難
(
さいなん
)
に
遇
(
あ
)
ふかも
知
(
し
)
れぬ、
157
マア
六公
(
ろくこう
)
は
六公
(
ろくこう
)
で
仕方
(
しかた
)
がないとして、
158
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
大事
(
だいじ
)
なお
使
(
つか
)
ひ
道具
(
だうぐ
)
だ。
159
あまり
足許
(
あしもと
)
の
暗
(
くら
)
くならない
間
(
うち
)
に
頂上
(
ちやうじやう
)
まで、
160
駆
(
か
)
けつけませう』
161
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
谷辺
(
たにべり
)
を
駆
(
か
)
け
登
(
のぼ
)
る。
162
二人
(
ふたり
)
も
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
辛
(
から
)
うじて
黄昏頃
(
たそがれごろ
)
、
163
二十五
(
にじふご
)
番
(
ばん
)
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
の
山道
(
やまみち
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
164
弥
(
や
)
『サア
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
165
漸
(
やうや
)
く
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
元
(
もと
)
の
地点
(
ちてん
)
に
凱旋
(
がいせん
)
しましたが、
166
六公
(
ろくこう
)
の
奴
(
やつ
)
困
(
こま
)
つたものですなア。
167
小山村
(
こやまむら
)
のお
婆
(
ば
)
アサンが
聞
(
き
)
いたら、
168
嘸
(
さぞ
)
歎
(
なげ
)
く
事
(
こと
)
でせう、
169
老爺
(
ぢい
)
サンも
中風
(
ちうぶう
)
なり、
170
あれ
程
(
ほど
)
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
ゐ
)
たものを、
171
アヽ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
と
云
(
い
)
ふものは
残酷
(
ざんこく
)
なものだ。
172
本当
(
ほんたう
)
に
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
娑婆
(
しやば
)
世界
(
せかい
)
だ。
173
何
(
なん
)
とかして
万有
(
ばんいう
)
一切
(
いつさい
)
どこ
迄
(
まで
)
も
不老
(
ふらう
)
不死
(
ふし
)
で
悪魔
(
あくま
)
の
襲来
(
しふらい
)
や
不時
(
ふじ
)
の
過
(
あやま
)
ちの
無
(
な
)
い
完全
(
くわんぜん
)
なる
世界
(
せかい
)
を
作
(
つく
)
りたいものですなア』
174
与
(
よ
)
『アヽ
人間
(
にんげん
)
を
老少
(
らうせう
)
不定
(
ふぢやう
)
とはよく
云
(
い
)
つたものだ。
175
無常
(
むじやう
)
迅速
(
じんそく
)
の
感
(
かん
)
益々
(
ますます
)
深
(
ふか
)
しだワイ』
176
勝
(
かつ
)
『
泣
(
な
)
いても
悔
(
くや
)
んでもモウ
仕方
(
しかた
)
がない、
177
暮
(
く
)
れる
時
(
とき
)
が
来
(
く
)
れば
日
(
ひ
)
は
暮
(
く
)
れる、
178
人間
(
にんげん
)
も
死
(
し
)
ぬ
時節
(
じせつ
)
が
来
(
き
)
たら
死
(
し
)
なねばならない、
179
桜
(
さくら
)
の
花
(
はな
)
は
永久
(
とこしへ
)
に
梢
(
こづゑ
)
に
止
(
とど
)
まらず、
180
頭
(
あたま
)
の
髪
(
かみ
)
は
何時迄
(
いつまで
)
も
黒
(
くろ
)
い
艶
(
つや
)
を
保
(
たも
)
つ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないのは
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
習
(
なら
)
はせだ。
181
アーアもう
過
(
す
)
ぎ
越
(
こ
)
し
苦労
(
くらう
)
はサラリと
谷川
(
たにがは
)
へ
流
(
なが
)
して
刹那心
(
せつなしん
)
を
楽
(
たの
)
しまうかい』
182
与
(
よ
)
『
実
(
じつ
)
に
切
(
せつ
)
ない
刹那心
(
せつなしん
)
だナア。
183
過越
(
すぎこ
)
し
苦労
(
くらう
)
をせまいと
思
(
おも
)
つても、
184
今
(
いま
)
の
今迄
(
いままで
)
ピンピンと
噪
(
はしや
)
いで
居
(
を
)
つた
六公
(
ろくこう
)
の
事
(
こと
)
がどうして
忘
(
わす
)
れる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
やうぞ。
185
一昨日
(
おととひ
)
も
六公
(
ろくこう
)
と、
186
お
前
(
まへ
)
サン
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
捜
(
さが
)
した
時
(
とき
)
には
六公
(
ろくこう
)
の
美
(
うるは
)
しい
心
(
こころ
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
た。
187
見
(
み
)
かけによらぬ
親切
(
しんせつ
)
な
男
(
をとこ
)
だつた。
188
それはそれは
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
189
貴方達
(
あなたがた
)
のお
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えなかつた
時
(
とき
)
には、
190
あの
男
(
をとこ
)
はどれだけ
心配
(
しんぱい
)
をしよつたか
知
(
し
)
れませぬぜ。
191
二人
(
ふたり
)
の
友達
(
ともだち
)
がもし
国替
(
くにがへ
)
をして
居
(
を
)
るのなら、
192
私
(
わたくし
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
川
(
かは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げてお
伴
(
とも
)
をしたいと
迄
(
まで
)
云
(
い
)
つた
位
(
くらゐ
)
だ。
193
アヽ
可憐
(
かあい
)
さうな
事
(
こと
)
をした。
194
僅
(
わづか
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
道連
(
みちづれ
)
になつても
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
の
知己
(
ちき
)
のやうに
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
す
六公
(
ろくこう
)
の
心
(
こころ
)
の
麗
(
うるは
)
しさ、
195
これを
思
(
おも
)
へば
吾々
(
われわれ
)
も
六公
(
ろくこう
)
の
道連
(
みちづれ
)
になつてやりたいやうだ。
196
アヽもう
此
(
この
)
世
(
よ
)
では
彼奴
(
あいつ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬのか、
197
情
(
なさけ
)
ない
可憐
(
かあい
)
さうだ』
198
と
涙
(
なみだ
)
含
(
ぐ
)
み、
199
身
(
み
)
の
置処
(
おきどころ
)
なきさまに
大地
(
だいち
)
に
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げた。
200
弥
(
や
)
『コラコラ
与太公
(
よたこう
)
、
201
しつかりせぬか、
202
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
するのは
貴様
(
きさま
)
ばかりぢやない、
203
俺
(
おれ
)
だつて
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だよ』
204
と、
205
又
(
また
)
もや
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
澪
(
こぼ
)
し
顔
(
かほ
)
に
袖
(
そで
)
をあて、
206
道
(
みち
)
の
上
(
うへ
)
にべたりと
倒
(
たふ
)
れ、
207
身
(
み
)
を
揺
(
ゆす
)
つて
遂
(
つひ
)
には
両人
(
りやうにん
)
声
(
こゑ
)
をあげて
泣
(
な
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ。
208
勝公
(
かつこう
)
も
涙
(
なみだ
)
の
目
(
め
)
を
瞬
(
しば
)
たたきながら、
209
勝
(
かつ
)
『コレコレ
弥次彦
(
やじひこ
)
サン、
210
与太彦
(
よたひこ
)
サン、
211
さう
気投
(
きな
)
げをするものぢやない、
212
チト
確
(
しつか
)
りせぬか。
213
男
(
をとこ
)
と
云
(
い
)
ふものは
仮
(
か
)
りにも
涙
(
なみだ
)
を
澪
(
こぼ
)
すものぢやない、
214
あまり
女々
(
めめ
)
しいぢやないか』
215
と
自分
(
じぶん
)
も
亦
(
また
)
落
(
お
)
つる
涙
(
なみだ
)
を
袖
(
そで
)
にて
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
216
愁歎
(
しうたん
)
の
幕
(
まく
)
は
漸
(
やうや
)
く
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し
幽
(
かす
)
かに
巻上
(
まきあ
)
げられた。
217
短
(
みじか
)
き
夜
(
よ
)
は
既
(
すで
)
に
明
(
あ
)
け
離
(
はな
)
れ
足許
(
あしもと
)
は
仄
(
ほんのり
)
と
明
(
あ
)
かくなつて
来
(
き
)
た。
218
一同
(
いちどう
)
は
六公
(
ろくこう
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
が
矢張
(
やは
)
り
気
(
き
)
に
懸
(
かか
)
ると
見
(
み
)
え
東天
(
とうてん
)
に
向
(
むか
)
つて
合掌
(
がつしやう
)
し、
219
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
220
次
(
つい
)
で
六公
(
ろくこう
)
の
無事
(
ぶじ
)
生存
(
せいぞん
)
せむ
事
(
こと
)
を
祈
(
いの
)
り、
221
終
(
をは
)
つて
又
(
また
)
もや
急坂
(
きふはん
)
を
西北
(
せいほく
)
さして
下
(
くだ
)
り
往
(
ゆ
)
く。
222
足並
(
あしなみ
)
早
(
はや
)
き
下
(
くだ
)
り
坂
(
ざか
)
にもいつしか
暇
(
ひま
)
を
告
(
つ
)
げて、
223
又
(
また
)
もや
茫々
(
ばうばう
)
たる
原野
(
げんや
)
を
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
くこと
数百丁
(
すうひやくちやう
)
、
224
丸木橋
(
まるきばし
)
のかけられた
辺
(
ほとり
)
に
辿
(
たど
)
りついた。
225
弥
(
や
)
『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
。
226
大分
(
だいぶん
)
足
(
あし
)
も
草臥
(
くたび
)
れました。
227
此処
(
ここ
)
に
腰
(
こし
)
をおろして
一休
(
ひとやす
)
み
致
(
いた
)
しませうか』
228
勝
(
かつ
)
『オヽこの
川
(
かは
)
だつた、
229
六公
(
ろくこう
)
はこの
水上
(
みなかみ
)
で
見失
(
みうしな
)
ひ、
230
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
をしたが、
231
今頃
(
いまごろ
)
はどうなつて
居
(
ゐ
)
るだらう』
232
与太彦
(
よたひこ
)
は
忽
(
たちま
)
ちウンウンと
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
し、
233
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
んで
身体
(
からだ
)
を
動揺
(
どうえう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
234
弥
(
や
)
『ヤア
又
(
また
)
しても
神憑
(
かむがか
)
りになりよつた。
235
モウ
悪魔
(
あくま
)
の
襲来
(
しふらい
)
は
懲
(
こ
)
り
懲
(
こ
)
りだ。
236
オイ
与太公
(
よたこう
)
の
体
(
からだ
)
に
憑依
(
のりうつ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
悪霊
(
あくれい
)
共
(
ども
)
、
237
速
(
すみやか
)
に
退散
(
たいさん
)
致
(
いた
)
さぬか』
238
与
(
よ
)
『ロヽヽヽヽクヽヽヽヽ
六
(
ろく
)
ぢや
六
(
ろく
)
ぢや』
239
弥
(
や
)
『エヽ
碌
(
ろく
)
でもない
六
(
ろく
)
の
奴
(
やつ
)
、
240
貴様
(
きさま
)
土左衛門
(
どざゑもん
)
になりよつて
幽世
(
あのよ
)
の
人間
(
にんげん
)
となりながら
未
(
ま
)
だ
娑婆
(
しやば
)
が
恋
(
こひ
)
しうて
迷
(
まよ
)
うて
来
(
き
)
たか。
241
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
執着心
(
しふちやくしん
)
を
去
(
さ
)
つて、
242
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
霊神
(
みたまのかみ
)
になれ。
243
貴様
(
きさま
)
はお
竹
(
たけ
)
を
残
(
のこ
)
して
死
(
し
)
んだのだから
残
(
のこ
)
り
惜
(
をし
)
からう。
244
残念
(
ざんねん
)
なのは
尤
(
もつと
)
もだが、
245
モウ
斯
(
か
)
うなつては
仕方
(
しかた
)
がない、
246
早
(
はや
)
く
神界
(
しんかい
)
へ
とつと
と
往
(
い
)
つてお
竹
(
たけ
)
の
場所
(
ばしよ
)
を
拵
(
こしら
)
へて
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るがよからう。
247
俺
(
おれ
)
だとて
三百
(
さんびやく
)
年
(
ねん
)
か
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
の
後
(
さき
)
かは
知
(
し
)
らぬが、
248
何
(
いづ
)
れ
一度
(
いちど
)
は
行
(
ゆ
)
くのだから、
249
景色
(
けしき
)
のよい
場所
(
ばしよ
)
を
取
(
と
)
つて
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れ。
250
閻魔
(
えんま
)
さまと
相談
(
さうだん
)
して
俺
(
おれ
)
の
場所
(
ばしよ
)
だけには、
251
契約済
(
けいやくずみ
)
の
札
(
ふだ
)
を
立
(
た
)
てて
置
(
お
)
くのだぞ。
252
その
代
(
かは
)
り
俺
(
おれ
)
は
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
ゐ
)
て、
253
朝晩
(
あさばん
)
貴様
(
きさま
)
のため
冥福
(
めいふく
)
を
祈
(
いの
)
つてやる。
254
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
に
出遇
(
であ
)
つたら、
255
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
でも
聞
(
き
)
くのだから、
256
何
(
なん
)
なら
紹介状
(
せうかいじやう
)
を
書
(
か
)
いてやらうか』
257
与
(
よ
)
『オヽヽヽレヽヽヽワヽヽシヽヽ、
258
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
らぬ』
259
弥
(
や
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
よ、
260
死
(
し
)
んだものは
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
らぬのは
当然
(
あたりまへ
)
だ。
261
居
(
を
)
らぬ
筈
(
はず
)
の
貴様
(
きさま
)
が
何故
(
なぜ
)
コンナ
処
(
ところ
)
へ
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふて
来
(
く
)
るのだ』
262
与
(
よ
)
『オヽレヽヽワヽヽマヽダヽイヽ
生
(
いき
)
て
居
(
を
)
る、
263
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
らぬぞ、
264
今
(
いま
)
に
肉体
(
にくたい
)
を
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
つて
来
(
き
)
て
見
(
み
)
せてやらう』
265
弥
(
や
)
『ハア
死
(
し
)
んで
居
(
を
)
らぬと
云
(
い
)
つたのか、
266
よく
分
(
わか
)
つた、
267
さうすると
六
(
ろく
)
の
生霊
(
いきりやう
)
だな、
268
今
(
いま
)
何処
(
どこ
)
に
魔胡
(
まご
)
ついとるのか』
269
与
(
よ
)
『イヽ
今
(
いま
)
に
判
(
わか
)
る、
270
此処
(
ここ
)
で
半時
(
はんとき
)
ばかり
三
(
さん
)
人
(
にん
)
とも
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ。
271
烏
(
からす
)
勘三郎
(
かんざぶらう
)
に
助
(
たす
)
けられて
命
(
いのち
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
助
(
たす
)
かつた。
272
安心
(
あんしん
)
してくれ』
273
弥
(
や
)
『ヤアそれや
本当
(
ほんたう
)
か、
274
本当
(
ほんたう
)
なら
俺
(
おれ
)
も
嬉
(
うれ
)
しい
哩
(
わい
)
。
275
これこれ
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
276
余
(
あんま
)
り
甘
(
うま
)
い
話
(
はなし
)
だが、
277
此奴
(
こいつ
)
は
邪神
(
じやしん
)
が
誑
(
たぶら
)
かして
居
(
ゐ
)
るのではあるまいか、
278
貴方
(
あなた
)
一
(
ひと
)
つ
審神
(
さには
)
をして
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さいな』
279
勝
(
かつ
)
『
神
(
かみ
)
に
間違
(
まちが
)
ひはありますまい、
280
軈
(
やが
)
て
六
(
ろく
)
サンの
肉体
(
にくたい
)
に
遇
(
あ
)
はれませう。
281
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
に
坐
(
すわ
)
つて
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
282
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しませう。
283
モシモシ、
284
六
(
ろく
)
サンとやら、
285
モウ
判
(
わか
)
りました、
286
お
引
(
ひ
)
き
取
(
と
)
りを
願
(
ねが
)
ひます。
287
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
、
288
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
289
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
290
六公
(
ろくこう
)
の
生霊
(
いきりやう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
肉体
(
にくたい
)
を
離
(
はな
)
れた。
291
与太彦
(
よたひこ
)
は
元
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
くケロリとしながら、
292
与
(
よ
)
『アヽ、
293
矢張
(
やは
)
り
六公
(
ろくこう
)
は
生
(
いき
)
て
居
(
ゐ
)
ますなア、
294
とうとう
憑依
(
のりうつ
)
つて
来
(
き
)
よつて、
295
アンナ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひよつた。
296
余
(
あま
)
り
六公
(
ろくこう
)
々々
(
ろくこう
)
と
思
(
おも
)
ひ
詰
(
つ
)
めて
居
(
ゐ
)
たものだから、
297
此方
(
こちら
)
の
一心
(
いつしん
)
が
届
(
とど
)
いて
六
(
ろく
)
の
生霊
(
いきりやう
)
に
感応
(
かんのう
)
したと
見
(
み
)
える、
298
私
(
わたし
)
の
口
(
くち
)
を
借
(
か
)
つて
云
(
い
)
つた
事
(
こと
)
が
本当
(
ほんたう
)
なら
嬉
(
うれ
)
しいがなア』
299
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
に
端坐
(
たんざ
)
して
稍
(
やや
)
沈黙
(
ちんもく
)
に
耽
(
ふけ
)
る
折
(
をり
)
しも
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
を
背負
(
せお
)
うて
川
(
かは
)
から
上
(
あが
)
り、
300
ノソリノソリと
上
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る
大男
(
おほをとこ
)
がある。
301
後
(
あと
)
よりガヤガヤと
囁
(
ささや
)
きながら
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
がついて
来
(
く
)
る。
302
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
をして
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
を
凝視
(
みつめ
)
て
居
(
ゐ
)
る。
303
男
(
をとこ
)
『ヤア
貴方
(
あなた
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
』
304
三
(
さん
)
人
(
にん
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
烏
(
からす
)
勘三郎
(
かんざぶらう
)
だないか』
305
烏
『ハイ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います、
306
六
(
ろく
)
サンを
連
(
つ
)
れて
参
(
まゐ
)
りました』
307
弥
(
や
)
『
夫
(
それ
)
は
夫
(
それ
)
は
有難
(
ありがた
)
い、
308
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた。
309
六
(
ろく
)
サンは
物
(
もの
)
言
(
い
)
ひますかな、
310
イヤ
未
(
ま
)
だ
生
(
いき
)
て
居
(
を
)
りますか』
311
烏
(
からす
)
『
物
(
もの
)
も
言
(
い
)
はず
動
(
うご
)
きもしませぬが、
312
身体
(
からだ
)
の
一部
(
いちぶ
)
に
温味
(
ぬくみ
)
がありますので、
313
火
(
ひ
)
でも
焚
(
た
)
いてあたらしたら、
314
此方
(
こつち
)
のものにならうも
知
(
し
)
れぬと
考
(
かんが
)
へて、
315
ブカブカと
流
(
なが
)
れて
来
(
く
)
るのを
吾々
(
われわれ
)
一同
(
いちどう
)
が
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
川
(
かは
)
へ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
拾
(
ひろ
)
つて
来
(
き
)
ました』
316
勝
(
かつ
)
『それは
有難
(
ありがた
)
い、
317
唯今
(
ただいま
)
の
先
(
さき
)
、
318
六公
(
ろくこう
)
が
此処
(
ここ
)
にやつて
来
(
き
)
てタツタ
今
(
いま
)
、
319
お
目
(
め
)
に
懸
(
かか
)
ると
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ました』
320
烏
(
からす
)
『
妙
(
めう
)
ですなア、
321
先程
(
さきほど
)
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たとは
合点
(
がてん
)
が
往
(
ゆ
)
かぬ。
322
さうすると
此奴
(
こいつ
)
は
六
(
ろく
)
サンぢやないのかなア、
323
大方
(
おほかた
)
化物
(
ばけもの
)
だらう。
324
エヽ
偉
(
えら
)
い
苦労
(
くらう
)
をさせよつて、
325
呶
(
ど
)
狸
(
たぬき
)
奴
(
め
)
が、
326
打
(
う
)
ちつけて
蹂躙
(
ふみにじ
)
つてやらうか』
327
弥
(
や
)
『マアマア
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
328
ソンナ
手荒
(
てあら
)
い
事
(
こと
)
をしてどうなるものか、
329
夫
(
それ
)
こそ
本当
(
ほんたう
)
に
死
(
し
)
んで
仕舞
(
しま
)
はア。
330
そつと
其辺
(
そこら
)
におろして
呉
(
く
)
れ、
331
これから
霊
(
たま
)
よびの
神業
(
かむわざ
)
だ』
332
烏
(
からす
)
『アヽ
何
(
なん
)
だかテント、
333
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬやうになつて
来
(
き
)
たワイ。
334
マア
仕方
(
しかた
)
がない、
335
下
(
おろ
)
さうかい』
336
と
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
にそつと
下
(
おろ
)
した。
337
弥
(
や
)
『オヽ
六公
(
ろくこう
)
、
338
貴様
(
きさま
)
は
仕合
(
しあは
)
せものだ、
339
待
(
ま
)
て
待
(
ま
)
て
今
(
いま
)
に
魂返
(
たまがへ
)
しをやつてやらう。
340
サア
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
341
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
始
(
はじ
)
めませうか』
342
勝彦
(
かつひこ
)
は
無言
(
だま
)
つて、
343
首肯
(
うなづ
)
きながら
拍手
(
かしはで
)
を
打
(
う
)
ち
声
(
こゑ
)
も
細
(
ほそ
)
く
静
(
しづか
)
に
落着
(
おちつ
)
き
払
(
はら
)
つて、
344
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
と
二回
(
にくわい
)
繰
(
くり
)
かへした。
345
六公
(
ろくこう
)
の
体
(
からだ
)
はムクムクと
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
し、
346
直
(
ただち
)
に
起上
(
おきあが
)
り
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
顔
(
かほ
)
をキヨロキヨロと
眺
(
なが
)
め、
347
六
(
ろく
)
『アヽお
前
(
まへ
)
は
弥次公
(
やじこう
)
、
348
与太公
(
よたこう
)
か、
349
ヤア
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
妙
(
めう
)
な
処
(
ところ
)
で
遇
(
あ
)
ひました。
350
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
り
損
(
そこ
)
ねてスツテの
事
(
こと
)
で
二度目
(
にどめ
)
の
国替
(
くにがへ
)
をするところだつたが、
351
烏
(
からす
)
勘三郎
(
かんざぶらう
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
352
十数
(
じふすう
)
人
(
にん
)
の
弟子
(
でし
)
と
共
(
とも
)
に
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
川
(
かは
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
私
(
わたし
)
を
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
353
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ふて
何処
(
どこ
)
ともなしにトントン
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
したと
思
(
おも
)
つたら
丸木橋
(
まるきばし
)
の
袂
(
たもと
)
、
354
お
前
(
まへ
)
サンはやはり
幽界
(
いうかい
)
の
旅
(
たび
)
をして
居
(
ゐ
)
なさるのか、
355
今度
(
こんど
)
は
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのに
何処
(
どこ
)
までも
交際
(
つきあひ
)
のよい
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
なお
方
(
かた
)
だ。
356
持
(
も
)
つべきものは
朋友
(
ほういう
)
なりけりだ。
357
アヽ、
358
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
359
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
360
弥次彦
(
やじひこ
)
は
六公
(
ろくこう
)
の
背
(
せ
)
を
平手
(
ひらて
)
で
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ、
361
力
(
ちから
)
を
籠
(
こ
)
めて
擲
(
なぐ
)
りつけた。
362
六
(
ろく
)
『アイタヽヽヽ
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なに
)
をするのだい。
363
驚
(
おどろ
)
いたな、
364
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
から
乱暴
(
らんばう
)
な
奴
(
やつ
)
だと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
たが、
365
貴様
(
きさま
)
未
(
ま
)
だ
冥途
(
めいど
)
に
来
(
き
)
ても
改心
(
かいしん
)
出来
(
でき
)
ぬか』
366
弥
(
や
)
『
此処
(
ここ
)
は
冥途
(
めいど
)
ぢやないぞ、
367
二十五
(
にじふご
)
番
(
ばん
)
峠
(
たうげ
)
を
下
(
くだ
)
つて
数百丁
(
すうひやくちやう
)
来
(
き
)
たところだ。
368
お
前
(
まへ
)
は
谷川
(
たにがは
)
に
溺
(
おぼ
)
れて
一旦
(
いつたん
)
縡
(
ことぎ
)
れて
居
(
を
)
つたのだ。
369
それを
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せで
勘三郎
(
かんざぶらう
)
サンの
親内
(
みうち
)
の
者
(
もの
)
に
助
(
たす
)
けられ、
370
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
たのだ。
371
確
(
しつか
)
りして
呉
(
く
)
れ』
372
六公
(
ろくこう
)
は
目
(
め
)
を
擦
(
こす
)
りながら
今更
(
いまさら
)
のやうな
顔
(
かほ
)
をして
四辺
(
あたり
)
を
念入
(
ねんい
)
りに
見廻
(
みまは
)
し、
373
六公
『ヤア、
374
矢張
(
やはり
)
どうやら
娑婆
(
しやば
)
らしい、
375
ヤ、
376
皆
(
みな
)
サン、
377
偉
(
えら
)
い
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけました、
378
有難
(
ありがた
)
う。
379
これはこれは
烏
(
からす
)
勘三郎
(
かんざぶらう
)
サン、
380
その
他
(
た
)
親内
(
みうち
)
の
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
、
381
よう
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
382
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
だと
思
(
おも
)
ふてこの
御恩
(
ごおん
)
は
生涯
(
しやうがい
)
忘
(
わす
)
れませぬ』
383
烏
(
からす
)
『ヤア
気
(
き
)
がついて
何
(
なに
)
より
結構
(
けつこう
)
でした。
384
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しませう』
385
茲
(
ここ
)
に
一同
(
いちどう
)
は
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
386
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
387
又
(
また
)
もや
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
一行
(
いつかう
)
は
勘三郎
(
かんざぶらう
)
その
他
(
た
)
に
厚
(
あつ
)
く
礼
(
れい
)
を
述
(
の
)
べ、
388
丸木橋
(
まるきばし
)
を
渡
(
わた
)
つて
二十六番
(
にじふろくばん
)
峠
(
たうげ
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
389
(
大正一一・三・二五
旧二・二七
加藤明子
録)
390
(昭和一〇・三・一六 於嘉義市嘉義ホテル 王仁校正)
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