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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
第1章 三途川
第2章 銅木像
第3章 鷹彦還元
第4章 馬詈
第5章 風馬牛
第2篇 幽山霊水
第6章 楽隠居
第7章 難風
第8章 泥の川
第9章 空中滑走
第3篇 高加索詣
第10章 牡丹餅
第11章 河童の屁
第12章 復縁談
第13章 山上幽斎
第14章 一途川
第15章 丸木橋
第16章 返り咲
第4篇 五六七号
第17章 一寸一服
跋文
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霊界物語
>
如意宝珠(第13~24巻)
>
第14巻(丑の巻)
> 第3篇 高加索詣 > 第13章 山上幽斎
<<< 復縁談
(B)
(N)
一途川 >>>
第一三章
山上
(
さんじやう
)
幽斎
(
いうさい
)
〔五六三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第3篇 高加索詣
よみ(新仮名遣い):
こーかすまいり
章:
第13章 山上幽斎
よみ(新仮名遣い):
さんじょうゆうさい
通し章番号:
563
口述日:
1922(大正11)年03月25日(旧02月27日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行はコーカス山に向かって、小鹿峠の二十三坂の上にやってきた。ここは広い高原になっている。清浄な場所のように思え、一同は気分よく休息している。与太彦は勝彦に、このような清い場所で、鎮魂帰神の法を授けてくれ、と頼み込む。
勝彦は、ここでは水がなくて禊ぎを行えないから、と言って難色を示す。弥次彦、与太彦はしきりに勝彦を説得する。ついに勝彦は承諾して、幽斎を行うことになった。
弥次彦はたちまち神懸りになって、空中に浮遊すると、空高く浮いてしまった。勝彦は指から霊光を発射して、弥次彦の体を制している。
与太彦と六公はそれをみてすっかり感心してしまう。勝彦も自分の神力にやや慢心の態を見せている。勝彦は、今のは木常姫の悪霊が弥次彦にかかったのを、最終的に追い出したのだ、と解説する。
しかし与太彦と六公は、悪神でも何でもよいから、自分たちも空中滑走をやってみたい、と言い出す。勝彦は、人間は大地に足をしっかりつけて活動しなければならない、と諭すが、三人は聞かず、三人とも邪神に憑かれて発動してしまう。
発動した三人は、勝彦の周りを飛びながら迫ってくる。勝彦は言霊や霊光を発射して抵抗するが、効かずに苦しめられる。すると、中空から馬に乗って、日の出別ら宣伝使一行が現れた。
日の出別らは金幣を打ち振って邪神を追い払うと、三人はたちまち正気に返った。勝彦は懺悔の言葉を述べて過ちを悔いると、日の出別は一言も発せずにうなずき、また天に姿を隠した。
一同は二十三坂上での幽斎を反省し、進んでようやく二十五番坂上に着いた。すると、またもや暴風が吹き荒れて四人の体は舞い上がり、谷底に吹き落とされた、と思うと、瑞月は目を覚ました。見れば、藪医者が自分を診断している。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-08-01 15:30:15
OBC :
rm1413
愛善世界社版:
203頁
八幡書店版:
第3輯 233頁
修補版:
校定版:
210頁
普及版:
96頁
初版:
ページ備考:
001
醜
(
しこ
)
の
魔風
(
まかぜ
)
や
様々
(
さまざま
)
の、
002
世
(
よ
)
の
誘惑
(
いうわく
)
に
勝彦
(
かつひこ
)
の、
003
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
004
弥次彦
(
やじひこ
)
、
005
与太彦
(
よたひこ
)
、
006
六公
(
ろくこう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
伴
(
とも
)
なひ、
007
小山
(
こやま
)
の
郷
(
さと
)
を
打過
(
うちす
)
ぎて、
008
二十
(
はたち
)
の
坂
(
さか
)
を
三
(
み
)
つ
越
(
こ
)
えし、
009
峠
(
たうげ
)
の
頂
(
いただ
)
きに
漸
(
やうや
)
く
登
(
のぼ
)
り
着
(
つ
)
いた。
010
この
峠
(
たうげ
)
の
頂
(
いただ
)
きは
今迄
(
いままで
)
過来
(
すぎき
)
し
各峠
(
かくたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
引換
(
ひきか
)
へて
大変
(
たいへん
)
に
広
(
ひろ
)
い
高原
(
かうげん
)
になつて
居
(
ゐ
)
る。
011
小鹿川
(
こしかがは
)
の
流
(
なが
)
れは
眼下
(
がんか
)
の
山麓
(
さんろく
)
を、
012
白布
(
しろぬの
)
を
晒
(
さら
)
した
如
(
ごと
)
く、
013
岩
(
いは
)
と
岩
(
いは
)
とにせかれて
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばして
居
(
ゐ
)
る。
014
山腹
(
さんぷく
)
は
殆
(
ほと
)
んど
岩
(
いは
)
を
以
(
もつ
)
て
蔽
(
おほ
)
はれ、
015
灌木
(
くわんぼく
)
の
其処
(
そこ
)
彼処
(
かしこ
)
に
青々
(
あをあを
)
として、
016
岩
(
いは
)
と
岩
(
いは
)
の
配合
(
はいがふ
)
を、
017
優美
(
いうび
)
に
高尚
(
かうしやう
)
に
色彩
(
いろど
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
018
弥
(
や
)
『
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
も
漸
(
やうや
)
く
二十三
(
にじふさん
)
坂
(
さか
)
を
跋渉
(
ばつせふ
)
したが、
019
この
頂上
(
ちやうじやう
)
くらゐ
広
(
ひろ
)
い
所
(
ところ
)
は
無
(
な
)
かつた。
020
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぽく
)
の
遠近
(
ゑんきん
)
の
山
(
やま
)
、
021
茫漠
(
ばうばく
)
たる
原野
(
げんや
)
は
一望
(
いちばう
)
の
下
(
もと
)
に
横
(
よこ
)
たはり、
022
風
(
かぜ
)
は
清
(
きよ
)
く、
023
何
(
なん
)
となく
春
(
はる
)
の
気分
(
きぶん
)
が
漂
(
ただよ
)
ふて
来
(
き
)
た。
024
此処
(
ここ
)
で
吾々
(
われわれ
)
はゆつくりと
休養
(
きうやう
)
して
参
(
まゐ
)
る
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうか』
025
勝
(
かつ
)
『アヽそれは
宜
(
よ
)
からう、
026
この
頂上
(
ちやうじやう
)
より
四方
(
よも
)
を
眺
(
なが
)
めた
時
(
とき
)
の
気分
(
きぶん
)
は、
027
実
(
じつ
)
に
雄渾
(
ゆうこん
)
快濶
(
くわいくわつ
)
にして、
028
宇宙
(
うちう
)
を
我手
(
わがて
)
に
握
(
にぎ
)
つたやうな
按配
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ。
029
ゆるゆると
神界
(
しんかい
)
の
話
(
はなし
)
でもさして
頂
(
いただ
)
かうか、
030
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
清
(
きよ
)
い
所
(
ところ
)
では、
031
何程
(
なにほど
)
神界
(
しんかい
)
の
秘密
(
ひみつ
)
を
話
(
はな
)
した
所
(
ところ
)
で、
032
滅多
(
めつた
)
に
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
の
襲来
(
しふらい
)
する
虞
(
おそれ
)
もなからう』
033
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
034
青芝
(
あをしば
)
の
上
(
うへ
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
おろ
)
した。
035
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も
同
(
おな
)
じく、
036
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
横
(
よこ
)
たはつた。
037
与
(
よ
)
『アヽ
良
(
い
)
い
気分
(
きぶん
)
だ。
038
何時
(
いつ
)
見
(
み
)
ても、
039
頂上
(
ちやうじやう
)
を
極
(
きは
)
めた
時
(
とき
)
の
心持
(
こころもち
)
はまた
格別
(
かくべつ
)
だが、
040
今日
(
けふ
)
は
殊更
(
ことさら
)
に
気分
(
きぶん
)
が
良
(
よ
)
い。
041
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
に
一
(
ひと
)
つ
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
を
始
(
はじ
)
めたら、
042
キツト
善
(
よ
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
感合
(
かんがふ
)
して
下
(
くだ
)
さるでせう、
043
………もし
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
044
一同
(
いちどう
)
此処
(
ここ
)
で
三五教
(
あななひけう
)
の
鎮魂
(
ちんこん
)
帰神
(
きしん
)
の
神法
(
しんぱふ
)
を
施
(
ほどこ
)
して
下
(
くだ
)
さいませぬか』
045
勝
(
かつ
)
『それは
結構
(
けつこう
)
だが、
046
生憎
(
あひにく
)
高地
(
かうち
)
の
事
(
こと
)
とて、
047
水
(
みづ
)
も
無
(
な
)
し、
048
手
(
て
)
を
洗
(
あら
)
ひ
口
(
くち
)
をすすぎ、
049
水
(
みづ
)
を
被
(
かぶ
)
ると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないから……
第一
(
だいいち
)
此
(
こ
)
れには
閉口
(
へいこう
)
だ』
050
弥
(
や
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
にも、
051
「
身
(
み
)
の
垢
(
あか
)
は
風呂
(
ふろ
)
の
湯槽
(
ゆぶね
)
に
洗
(
あら
)
へ
共
(
ども
)
、
052
洗
(
あら
)
ひ
切
(
き
)
れぬは
魂
(
たま
)
の
垢
(
あか
)
なり」と
示
(
しめ
)
されてある、
053
たとへ
水
(
みづ
)
が
無
(
な
)
くとも、
054
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
一
(
ひと
)
つ
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて、
055
身魂
(
みたま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
をして
貰
(
もら
)
ふ
訳
(
わけ
)
にはゆきますまいか。
056
水
(
みづ
)
は
肉体
(
にくたい
)
の
垢
(
あか
)
を
洗
(
あら
)
ひ
落
(
おと
)
す
丈
(
だけ
)
のもの、
057
鎮魂
(
ちんこん
)
は
精神
(
せいしん
)
の
垢
(
あか
)
を
落
(
おと
)
すものですから、
058
今日
(
けふ
)
は
肉体
(
にくたい
)
は
已
(
やむ
)
を
得
(
え
)
ずとして、
059
霊
(
みたま
)
丈
(
だけ
)
の
洗濯
(
せんたく
)
をして
貰
(
もら
)
ひませうか……ナア
与太彦
(
よたひこ
)
、
060
六公
(
ろくこう
)
』
061
与
(
よ
)
『それも
一
(
ひと
)
つの
真理
(
しんり
)
だ……もしもし
勝彦
(
かつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
062
あなたは
古参者
(
こさんしや
)
だ、
063
吾々
(
われわれ
)
は
新参者
(
しんざんもの
)
、
064
どうぞ
一
(
ひと
)
つ
鎮魂
(
ちんこん
)
を
願
(
ねが
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
065
勝
(
かつ
)
『
霊肉
(
れいにく
)
一致
(
いつち
)
、
066
現幽
(
げんいう
)
一本
(
いつぽん
)
だから、
067
理屈
(
りくつ
)
を
云
(
い
)
へば、
068
別
(
べつ
)
に
水行
(
すゐぎやう
)
をせなくつても、
069
霊
(
れい
)
さへ
洗
(
あら
)
へば
良
(
い
)
いと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
なものだが、
070
矢張
(
やつぱり
)
汚
(
きたな
)
い
肉体
(
にくたい
)
には
美
(
うつく
)
しい
霊
(
みたま
)
の
神
(
かみ
)
が
憑
(
うつ
)
る
事
(
こと
)
は、
071
到底
(
たうてい
)
不可能
(
ふかのう
)
だらう。
072
コンナ
所
(
ところ
)
で
漫然
(
うつかり
)
と
幽斎
(
いうさい
)
でもやらうものなら、
073
ウラル
教
(
けう
)
の
守護
(
しゆご
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
る
悪神
(
あくがみ
)
が、
074
何時
(
なんどき
)
憑依
(
ひようい
)
するかも
知
(
し
)
れたものでない。
075
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
霊界
(
れいかい
)
に
於
(
おい
)
て、
076
往昔
(
むかし
)
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
077
その
他
(
た
)
の
神々
(
かみがみ
)
に
対
(
たい
)
し、
078
極力
(
きよくりよく
)
反抗
(
はんかう
)
を
試
(
こころ
)
み、
079
遂
(
つひ
)
には
大神
(
おほかみ
)
をして
退隠
(
たいいん
)
の
已
(
や
)
むなきに
至
(
いた
)
らしめたと
云
(
い
)
ふ
大逆
(
だいぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
常世姫
(
とこよひめ
)
や
木常姫
(
こつねひめ
)
、
080
口子姫
(
くちこひめ
)
、
081
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
の
邪霊
(
じやれい
)
連中
(
れんちう
)
が、
082
少
(
すこ
)
しでも
名望
(
めいばう
)
のある
肉体
(
にくたい
)
に
憑依
(
ひようい
)
し、
083
再
(
ふたた
)
び
神界
(
しんかい
)
混乱
(
こんらん
)
の
陰謀
(
いんぼう
)
を
企
(
くわだ
)
てて
居
(
ゐ
)
るのだから、
084
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
085
何時
(
いつ
)
憑依
(
ひようい
)
されるか
分
(
わか
)
つたものでない。
086
宇宙
(
うちう
)
一切
(
いつさい
)
は
大国治立
(
おほくにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
の
御
(
ご
)
支配
(
しはい
)
だから、
087
到
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
として
正
(
ただ
)
しき
神
(
かみ
)
の
神霊
(
しんれい
)
は、
088
充満
(
じゆうまん
)
し
給
(
たま
)
ふとは
云
(
い
)
ふものの、
089
また
盤古
(
ばんこ
)
系統
(
けいとう
)
、
090
自在天
(
じざいてん
)
系統
(
けいとう
)
の
邪神
(
じやしん
)
も
天地
(
てんち
)
に
充満
(
じゆうまん
)
して
居
(
を
)
るから、
091
此方
(
こちら
)
の
霊
(
れい
)
をよほど
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
にして
掛
(
かか
)
らねば、
092
神聖
(
しんせい
)
の
神
(
かみ
)
の
降臨
(
かうりん
)
を
受
(
う
)
けるといふ
事
(
こと
)
は、
093
到底
(
たうてい
)
不可能
(
ふかのう
)
なが
原則
(
げんそく
)
だ。
094
水
(
みづ
)
が
一滴
(
いつてき
)
もないのだから、
095
肉体
(
にくたい
)
を
清
(
きよ
)
める
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かないから、
096
また
滝壷
(
たきつぼ
)
の
在
(
あ
)
る
所
(
ところ
)
か、
097
清
(
きよ
)
き
流
(
なが
)
れの
水
(
みづ
)
に
禊
(
みそぎ
)
をするとかして、
098
その
上
(
うへ
)
で
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
にかかつたが
宜
(
よろ
)
しからう』
099
弥
(
や
)
『アヽ
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
かぬものだな、
100
全智
(
ぜんち
)
全能
(
ぜんのう
)
の
根本
(
こんぽん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でも、
101
ソンナ
窮屈
(
きうくつ
)
な
意見
(
いけん
)
を
以
(
もつ
)
て
居
(
ゐ
)
られるのだらうか。
102
善悪
(
ぜんあく
)
相
(
あひ
)
混
(
こん
)
じ、
103
美醜
(
びしう
)
互
(
たがひ
)
に
交
(
まじ
)
はつて、
104
天地
(
てんち
)
一切
(
いつさい
)
の
万物
(
ばんぶつ
)
は、
105
茲
(
ここ
)
に
初
(
はじ
)
めて
力
(
ちから
)
を
生
(
しやう
)
じ、
106
各自
(
かくじ
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
開始
(
かいし
)
するのでは
有
(
あ
)
りませぬか。
107
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
絶対
(
ぜつたい
)
の
善
(
ぜん
)
もなければ、
108
また
絶対
(
ぜつたい
)
の
悪
(
あく
)
もない。
109
如何
(
いか
)
に
水晶
(
すゐしやう
)
の
身魂
(
みたま
)
だと
云
(
い
)
つても、
110
大半
(
たいはん
)
腐敗
(
ふはい
)
せる
臭気
(
しうき
)
に
包
(
つつ
)
まれた
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
に
宿
(
やど
)
らねばならぬのだから、
111
何程
(
なにほど
)
表面
(
うはべ
)
を
水
(
みづ
)
位
(
くらゐ
)
で
洗
(
あら
)
つた
所
(
ところ
)
で、
112
五臓
(
ござう
)
六腑
(
ろつぷ
)
まで
洗濯
(
せんたく
)
しきれるものでない、
113
物
(
もの
)
を
深
(
ふか
)
く
考
(
かんが
)
へれば、
114
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
出
(
だ
)
せなくなつて
了
(
しま
)
ふ。
115
何事
(
なにごと
)
も
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
詔直
(
のりなほ
)
して、
116
ここで
一
(
ひと
)
つ
神聖
(
しんせい
)
なる
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
を、
117
是非
(
ぜひ
)
々々
(
ぜひ
)
開始
(
かいし
)
して
下
(
くだ
)
さい。
118
ナンダカ
神経
(
しんけい
)
が
興奮
(
こうふん
)
して、
119
神懸
(
かむがかり
)
の
修業
(
しうげふ
)
がしたくつて、
120
仕方
(
しかた
)
がなくなつて
来
(
き
)
た』
121
勝
(
かつ
)
『
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
は
心身
(
しんしん
)
を
清浄
(
せいじやう
)
にする
為
(
ため
)
、
122
第一
(
だいいち
)
の
要件
(
えうけん
)
として、
123
清潔
(
せいけつ
)
なる
衣服
(
いふく
)
を
纏
(
まと
)
ひ、
124
身体
(
しんたい
)
を
湯水
(
ゆみづ
)
に
清
(
きよ
)
めて
掛
(
かか
)
らねばならぬのだが、
125
さう
言
(
い
)
へば
仕方
(
しかた
)
がない、
126
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
をさして
頂
(
いただ
)
く
事
(
こと
)
にしやうかなア』
127
弥
(
や
)
『イヤー
有難
(
ありがた
)
いありがたい……ナア
与太彦
(
よたひこ
)
、
128
六公
(
ろくこう
)
、
129
貴様
(
きさま
)
は
今迄
(
いままで
)
まだ
神懸
(
かむがかり
)
の
経験
(
けいけん
)
がないのだから、
130
この
弥次彦
(
やじひこ
)
サンの
神懸
(
かむがかり
)
を、
131
能
(
よ
)
つく
拝
(
をが
)
め、
132
心
(
こころ
)
を
清
(
きよ
)
め、
133
肝
(
きも
)
を
錬
(
ね
)
れ、
134
……サア
勝彦
(
かつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
135
早
(
はや
)
く
審神
(
さには
)
をして
下
(
くだ
)
さい。
136
ナンダカ
気
(
き
)
がイソイソとして
堪
(
た
)
まらなくなつて
来
(
き
)
ました、
137
……ウンウンウンウン、
138
ウーウー』
139
と
忽
(
たちま
)
ち
惟神
(
かむながら
)
的
(
てき
)
に
両手
(
りやうて
)
は
組
(
く
)
まれ、
140
身体
(
しんたい
)
忽
(
たちま
)
ち
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
動揺
(
どうえう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
141
与
(
よ
)
『ヨー
弥次彦
(
やじひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
142
独
(
ひと
)
り
芝居
(
しばゐ
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
したナ、
143
ナンダ、
144
妙
(
めう
)
な
恰好
(
かつかう
)
だな、
145
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎよつて
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み、
146
坐
(
すわ
)
つたなりに
飛上
(
とびあ
)
がり、
147
宙
(
ちう
)
にまいまいの
芸当
(
げいたう
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
148
大方
(
おほかた
)
松
(
まつ
)
の
大木
(
たいぼく
)
から
滑走
(
くわつそう
)
しよつた
時
(
とき
)
の
亡霊
(
ばうれい
)
が、
149
まだ
体
(
からだ
)
のどつかに
残留
(
ざんりう
)
して
居
(
を
)
つたと
見
(
み
)
える……オイ
六公
(
ろくこう
)
、
150
面白
(
おもしろ
)
いぢやないか、
151
……コレコレ
勝彦
(
かつひこ
)
サン、
152
今日
(
けふ
)
はモウ
口上
(
こうじやう
)
丈
(
だけ
)
はやめて
下
(
くだ
)
さい、
153
頼
(
たの
)
みますぜ』
154
勝
(
かつ
)
『アハヽヽヽ』
155
弥次彦
(
やじひこ
)
は
夢中
(
むちう
)
になつて、
156
汗
(
あせ
)
をブルブル
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
157
蚋
(
ぶと
)
が
空中
(
くうちう
)
に
餅搗
(
もちつき
)
した
様
(
やう
)
に、
158
地上
(
ちじやう
)
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
以上
(
いじやう
)
を
離
(
はな
)
れ、
159
五六
(
ごろく
)
尺
(
しやく
)
の
間
(
あひだ
)
を
昇降
(
しやうかう
)
運動
(
うんどう
)
を
開始
(
かいし
)
して
居
(
ゐ
)
る。
160
神懸
(
かむがかり
)
に
関
(
くわん
)
しては
素人
(
しろうと
)
の
与太彦
(
よたひこ
)
、
161
六公
(
ろくこう
)
の
二人
(
ふたり
)
は、
162
口
(
くち
)
アングリとして
大地
(
だいち
)
に
倒
(
たふ
)
れた
儘
(
まま
)
、
163
与
(
よ
)
、
164
六
(
ろく
)
『アーアー、
165
ヤルヤル、
166
妙
(
めう
)
だ
妙
(
めう
)
だ、
167
オイ
弥次彦
(
やじひこ
)
、
168
貴様
(
きさま
)
はそれ
丈
(
だけ
)
の
隠
(
かく
)
し
芸
(
げい
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
つたのか、
169
重宝
(
ちようほう
)
な
奴
(
やつ
)
だ、
170
宙吊
(
ちうづ
)
りの
芸当
(
げいたう
)
は
珍
(
めづ
)
らしい。
171
ワハヽヽヽ、
172
モシモシ
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
173
どうとかして、
174
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
で
弥次彦
(
やじひこ
)
の
体
(
からだ
)
を、
175
猿廻
(
さるまは
)
しの
様
(
やう
)
に
使
(
つか
)
つて
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいな』
176
勝彦
(
かつひこ
)
は
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み、
177
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
声
(
こゑ
)
も
緩
(
ゆる
)
やかに
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
り、
178
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
と、
179
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り、
180
右
(
みぎ
)
の
食指
(
ひとさしゆび
)
の
指頭
(
しとう
)
より
五色
(
ごしき
)
の
霊光
(
れいくわう
)
を
発射
(
はつしや
)
し、
181
弥次彦
(
やじひこ
)
の
身体
(
からだ
)
に
向
(
むか
)
つて、
182
空中
(
くうちう
)
に
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
いた。
183
弥次彦
(
やじひこ
)
の
身体
(
からだ
)
は
勝彦
(
かつひこ
)
の
指
(
ゆび
)
の
廻転
(
くわいてん
)
に
伴
(
つ
)
れて、
184
空中
(
くうちう
)
に
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
き、
185
指
(
ゆび
)
の
向
(
むか
)
ふ
方向
(
はうかう
)
に、
186
彼
(
かれ
)
が
身体
(
からだ
)
は
回転
(
くわいてん
)
する。
187
勝彦
(
かつひこ
)
は、
188
今度
(
こんど
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
腕
(
うで
)
を
延
(
の
)
べ、
189
中天
(
ちうてん
)
に
向
(
むか
)
つて
ブンマワシ
の
如
(
ごと
)
くに
円
(
ゑん
)
を
描
(
ゑが
)
き、
190
弥次彦
(
やじひこ
)
の
体
(
からだ
)
は
勝彦
(
かつひこ
)
の
指
(
ゆび
)
さす
中空
(
ちうくう
)
に
向
(
むか
)
つて
舞上
(
まひあが
)
り
舞
(
ま
)
ひ
下
(
くだ
)
り、
191
また
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り
舞下
(
まひくだ
)
り、
192
空中
(
くうちう
)
遊行
(
いうかう
)
の
大活劇
(
だいくわつげき
)
を
演
(
えん
)
ずる
面白
(
おもしろ
)
さ。
193
与
(
よ
)
『オイ
六公
(
ろくこう
)
、
194
あれを
見
(
み
)
い、
195
弥次彦
(
やじひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
196
漸々
(
だんだん
)
熱練
(
じゆくれん
)
しよつて、
197
体
(
からだ
)
が
小
(
ちい
)
さくなつて、
198
見
(
み
)
えぬやうな
高
(
たか
)
い
所
(
とこ
)
まで、
199
空中
(
くうちう
)
を
滑走
(
くわつそう
)
し、
200
上
(
あが
)
つたり
下
(
お
)
りたり、
201
上
(
うへ
)
になつたり
下
(
した
)
になつたり、
202
大変
(
たいへん
)
な
大技能
(
だいぎのう
)
を
発揮
(
はつき
)
しよるぢやないか、
203
……モシモシ
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
204
あなたの
指
(
ゆび
)
の
動
(
うご
)
く
通
(
とほ
)
りに、
205
弥次彦
(
やじひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
206
動
(
うご
)
きますなア。
207
あれなら
軽業師
(
かるわざし
)
になつても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
食
(
く
)
へますナ』
208
勝
(
かつ
)
『アハヽヽヽ、
209
あれは
霊線
(
れいせん
)
の
力
(
ちから
)
に
操
(
あやつ
)
られて、
210
体
(
からだ
)
を
自由
(
じいう
)
に
使
(
つか
)
はれて
居
(
ゐ
)
るのだ。
211
俺
(
わし
)
の
指
(
ゆび
)
の
通
(
とほ
)
りになるであらうがな』
212
与
(
よ
)
『ハハア、
213
さうすると
弥次彦
(
やじひこ
)
が
偉
(
えら
)
いのじやなくて、
214
あなたの
指
(
ゆび
)
が
偉
(
えら
)
い
神力
(
しんりき
)
を
具備
(
ぐび
)
して
居
(
を
)
るのだなア……あなたはヤツパリ
魔法使
(
まはふつかひ
)
だ、
215
恐
(
おそ
)
ろしい
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢや、
216
私
(
わたくし
)
丈
(
だけ
)
はアンナ
曲芸
(
きよくげい
)
は、
217
どうぞ
遣
(
や
)
らさぬ
様
(
やう
)
に
願
(
ねが
)
ひますで、
218
喃
(
のう
)
六公
(
ろくこう
)
、
219
アンナ
事
(
こと
)
をやられたら、
220
息
(
いき
)
も
何
(
なに
)
も
切
(
き
)
れて
了
(
しま
)
うワ』
221
六
(
ろく
)
『アヽ
恐
(
おそ
)
ろしい
事
(
こと
)
だのう』
222
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
ふ
中
(
うち
)
、
223
弥次彦
(
やじひこ
)
の
身
(
み
)
はスーと
空気
(
くうき
)
を
分
(
わ
)
ける
音
(
おと
)
と
共
(
とも
)
に、
224
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
前
(
まへ
)
に
下
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
た。
225
勝彦
(
かつひこ
)
は
又
(
また
)
もや
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
んで、
226
『
許
(
ゆる
)
す』と
一声
(
いつせい
)
、
227
弥次彦
(
やじひこ
)
は
常態
(
じやうたい
)
に
復
(
ふく
)
し、
228
目
(
め
)
をギロつかせ
乍
(
なが
)
ら、
229
弥
(
や
)
『アヽやつぱり
二十三
(
にじふさん
)
峠
(
たうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
だつた、
230
ヤア
怖
(
こわ
)
い
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たよ、
231
天
(
てん
)
へ
上
(
あ
)
がるかと
思
(
おも
)
へば
地
(
ち
)
へ
下
(
くだ
)
つて、
232
地
(
ち
)
へ
下
(
くだ
)
つたと
思
(
おも
)
へば
又
(
また
)
天
(
てん
)
へ
引上
(
ひきあ
)
げられる、
233
目
(
め
)
はまわる、
234
何
(
なん
)
ともかとも
知
(
し
)
れぬほど
苦
(
くる
)
しかつた、
235
アヽやつぱり
夢
(
ゆめ
)
だ
夢
(
ゆめ
)
だ』
236
与
(
よ
)
、
237
六
(
ろく
)
『エ、
238
なアに、
239
夢
(
ゆめ
)
所
(
どころ
)
か
実地
(
じつち
)
誠
(
まこと
)
の
正味
(
しやうみ
)
正真
(
しやうまつ
)
だ。
240
現
(
げん
)
に
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
今
(
いま
)
ここで
貴様
(
きさま
)
の
大発明
(
だいはつめい
)
の
軽業
(
かるわざ
)
を、
241
無料
(
むれう
)
観覧
(
くわんらん
)
した
所
(
ところ
)
だ。
242
貴様
(
きさま
)
もよつぽど
妙
(
めう
)
な
病気
(
びやうき
)
があると
見
(
み
)
える、
243
親
(
おや
)
のある
間
(
うち
)
に
治療
(
ちれう
)
をして
置
(
お
)
かないと、
244
親
(
おや
)
が
無
(
な
)
くなつたら、
245
到底
(
たうてい
)
一生
(
いつしやう
)
病
(
やまひ
)
だ。
246
不治
(
ふぢ
)
の
難症
(
なんしやう
)
と
筍
(
たけのこ
)
医者
(
いしや
)
に
宣告
(
せんこく
)
されるが
最後
(
さいご
)
、
247
芝
(
しば
)
を
被
(
かぶ
)
つて
来
(
こ
)
ない
限
(
かぎ
)
り、
248
迚
(
とて
)
も
此
(
この
)
世
(
よ
)
では
駄目
(
だめ
)
だぞ、
249
……モシモシ
勝彦
(
かつひこ
)
さま、
250
コラ
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
業
(
わざ
)
ですか』
251
勝
(
かつ
)
『
弥次彦
(
やじひこ
)
には、
252
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
木常姫
(
こつねひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
が、
253
タツタ
今
(
いま
)
油断
(
ゆだん
)
を
見
(
み
)
すまして、
254
くつつきよつたのだ。
255
そこで
私
(
わし
)
が
鎮魂
(
ちんこん
)
の
力
(
ちから
)
を
以
(
もつ
)
て
木常姫
(
こつねひめ
)
の
悪霊
(
あくれい
)
を
縛
(
しば
)
つたのだ。
256
悪霊
(
あくれい
)
は
私
(
わし
)
の
指
(
ゆび
)
の
指揮
(
しき
)
に
従
(
したが
)
つて、
257
あの
通
(
とほ
)
り
容器
(
いれもの
)
と
一所
(
いつしよ
)
に、
258
宙
(
ちう
)
を
舞
(
ま
)
ひ
狂
(
くる
)
うたのだよ、
259
モウ
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
では、
260
木常姫
(
こつねひめ
)
の
邪霊
(
じやれい
)
も
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
して
逃
(
に
)
げよつたから、
261
弥次彦
(
やじひこ
)
も
旧
(
もと
)
の
通
(
とほ
)
り、
262
常態
(
じやうたい
)
になつたのだ、
263
ウツカリして
居
(
を
)
ると、
264
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
亦
(
また
)
何時
(
なんどき
)
邪霊
(
じやれい
)
の
一派
(
いつぱ
)
に
襲
(
おそ
)
はれるか
知
(
し
)
れやしないぞ。
265
夫
(
そ
)
れだから、
266
至貴
(
しき
)
至重
(
しちよう
)
至厳
(
しげん
)
なる
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
は、
267
肉体
(
にくたい
)
を
浄
(
きよ
)
めもせず、
268
汗
(
あせ
)
だらけの、
269
垢
(
あか
)
の
付
(
つ
)
いた
衣服
(
いふく
)
を
纏
(
まと
)
ふて
奉仕
(
ほうし
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないと、
270
私
(
わし
)
が
説諭
(
せつゆ
)
したのだ。
271
それにも
拘
(
かか
)
はらず、
272
私
(
わし
)
の
言葉
(
ことば
)
を
無
(
む
)
にして
聞
(
き
)
かないものだから、
273
修業
(
しうげふ
)
も
始
(
はじ
)
めない
中
(
うち
)
から、
274
邪霊
(
じやれい
)
に
誑惑
(
けうわく
)
され、
275
忽
(
たちま
)
ち
木常姫
(
こつねひめ
)
の
容器
(
いれもの
)
となりよつたのだ、
276
……オイ
弥次彦
(
やじひこ
)
、
277
しつかりせないと、
278
又
(
また
)
もや
邪神
(
じやしん
)
が
襲来
(
しふらい
)
するぞ』
279
弥
(
や
)
『
智覚
(
ちかく
)
精神
(
せいしん
)
を
殆
(
ほと
)
んど
忘却
(
ばうきやく
)
して
居
(
ゐ
)
ましたから、
280
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
私
(
わたし
)
としては、
281
明瞭
(
めいれう
)
を
欠
(
か
)
きますが、
282
仮令
(
たとへ
)
邪神
(
じやしん
)
にもせよ、
283
宙
(
ちう
)
を
駆
(
か
)
けるナンテ、
284
偉
(
えら
)
い
力
(
ちから
)
のあるものですなア』
285
勝
(
かつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
を
言
(
い
)
ふな、
286
胴体
(
どうたい
)
なしの
凧
(
いかのぼり
)
といふ
事
(
こと
)
がある。
287
悪魔
(
あくま
)
と
云
(
い
)
ふ
者
(
もの
)
は、
288
大体
(
だいたい
)
が
表面
(
うはべ
)
ばかりで、
289
実地
(
じつち
)
の
身
(
み
)
がないから、
290
恰度
(
ちやうど
)
、
291
言
(
い
)
へば
風
(
かぜ
)
の
様
(
やう
)
なものだ。
292
その
邪霊
(
じやれい
)
が
人間
(
にんげん
)
の
肉体
(
にくたい
)
へ
這入
(
はい
)
つたが
最後
(
さいご
)
、
293
人間
(
にんげん
)
の
体
(
からだ
)
は
風船玉
(
ふうせんだま
)
が
人間
(
にんげん
)
を
宙
(
ちう
)
にひつぱり
上
(
あ
)
げる
様
(
やう
)
な
具合
(
ぐあひ
)
になつて、
294
体
(
からだ
)
が
飛
(
と
)
び
上
(
あ
)
がるのだ。
295
人間
(
にんげん
)
は
大地
(
だいち
)
を
歩
(
あゆ
)
む
者
(
もの
)
、
296
鳥
(
とり
)
かなんぞの
様
(
やう
)
に、
297
宙
(
ちう
)
を
翔
(
た
)
つ
奴
(
やつ
)
は、
298
最早
(
もはや
)
人間
(
にんげん
)
としての
資格
(
しかく
)
はゼロだ、
299
貴様
(
きさま
)
たちも
中空
(
ちうくう
)
が
翔
(
かけ
)
つて
見
(
み
)
たいのか』
300
与
(
よ
)
、
301
六
(
ろく
)
『ヘイヘイ
邪神
(
じやしん
)
だらうが、
302
何
(
なん
)
だらうが、
303
人間
(
にんげん
)
として
天空
(
てんくう
)
を
翔
(
かけ
)
ると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るのなら、
304
私
(
わたくし
)
は
一寸
(
ちよつと
)
一遍
(
いつぺん
)
、
305
ソンナ
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ふて
見
(
み
)
たいですな。
306
世界
(
せかい
)
の
人間
(
にんげん
)
は
驚
(
おどろ
)
いて……「ヤア
与太彦
(
よたひこ
)
、
307
六公
(
ろくこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
308
偉
(
えら
)
い
神力
(
しんりき
)
を
貰
(
もら
)
ひよつた、
309
生神
(
いきがみ
)
さまになりよつた」と
云
(
い
)
つて、
310
尊敬
(
そんけい
)
して
呉
(
く
)
れるでせう。
311
そうなると、
312
「ヤア
彼奴
(
あいつ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
だ、
313
三五教
(
あななひけう
)
は
神力
(
しんりき
)
の
強
(
つよ
)
い
神
(
かみ
)
だ、
314
俺
(
おれ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
に
帰依
(
きえ
)
する」と
云
(
い
)
ふて、
315
世界中
(
せかいぢう
)
の
人間
(
にんげん
)
が
一遍
(
いつぺん
)
に
改心
(
かいしん
)
するのは
請合
(
うけあひ
)
です。
316
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
も
吾々
(
われわれ
)
にアンナ
神力
(
しんりき
)
を
与
(
あた
)
へて、
317
世界
(
せかい
)
の
奴
(
やつ
)
をアツと
言
(
い
)
はして
下
(
くだ
)
さつたら
一遍
(
いつぺん
)
にお
道
(
みち
)
が
開
(
ひら
)
けて、
318
世界
(
せかい
)
の
有象
(
うざう
)
無象
(
むざう
)
が
改心
(
かいしん
)
するのだけれどなア』
319
勝
(
かつ
)
『
正法
(
しやうはふ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
なし、
320
奇蹟
(
きせき
)
を
以
(
もつ
)
て
人
(
ひと
)
を
導
(
みちび
)
かむとする
者
(
もの
)
は、
321
いはゆる
悪魔
(
あくま
)
の
好
(
この
)
んで
執
(
と
)
る
所
(
ところ
)
の
手段
(
しゆだん
)
だ。
322
吾々
(
われわれ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
貴重
(
きちよう
)
な
生宮
(
いきみや
)
だ、
323
充分
(
じゆうぶん
)
に
自重
(
じちよう
)
して、
324
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
に
重
(
おも
)
みを
付
(
つ
)
け、
325
少々
(
せうせう
)
の
風
(
かぜ
)
にまで
飛
(
とび
)
あがり、
326
宙
(
ちう
)
をかける
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
になつては、
327
最早
(
もはや
)
天地
(
てんち
)
経綸
(
けいりん
)
の
司宰者
(
しさいしや
)
たる
資格
(
しかく
)
はゼロになつたのだ。
328
何処
(
どこ
)
までも
吾々
(
われわれ
)
はお
土
(
つち
)
の
上
(
うへ
)
に
足
(
あし
)
をピツタリと
付
(
つ
)
け
居
(
を
)
るのが
法則
(
はふそく
)
だ』
329
与
(
よ
)
『それでも、
330
鷹彦
(
たかひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
宙
(
ちう
)
を
翔
(
た
)
つぢやありませぬか』
331
勝
(
かつ
)
『
鷹彦
(
たかひこ
)
は
半鳥
(
はんてう
)
半人
(
はんじん
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
居
(
ゐ
)
るエンゼルだ。
332
彼
(
かれ
)
は
時
(
とき
)
あつて
空中
(
くうちう
)
を
飛行
(
ひかう
)
し、
333
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
すべき
使命
(
しめい
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから、
334
羽翼
(
うよく
)
が
与
(
あた
)
へられてあるのだよ。
335
羽翼
(
うよく
)
は
空中
(
くうちう
)
を
飛翔
(
ひしよう
)
するための
道具
(
だうぐ
)
だ。
336
羽
(
はね
)
もない
人間
(
にんげん
)
が、
337
今
(
いま
)
弥次彦
(
やじひこ
)
の
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
を
行
(
や
)
るのは
変則
(
へんそく
)
だ、
338
悪魔
(
あくま
)
の
翫弄物
(
おもちや
)
にせられて
居
(
を
)
るのだよ』
339
六
(
ろく
)
『さうすると、
340
悪魔
(
あくま
)
の
方
(
はう
)
がよつぽど
偉
(
えら
)
い
様
(
やう
)
ですな。
341
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
土
(
つち
)
に
親
(
した
)
しみ、
342
悪魔
(
あくま
)
は
天空
(
てんくう
)
を
翔
(
かけ
)
るとは、
343
実
(
じつ
)
に
天地
(
てんち
)
転倒
(
てんたう
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
とは
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
344
コラ
又
(
また
)
あまり
矛盾
(
むじゆん
)
ぢやありませぬか。
345
仮令
(
たとへ
)
邪神
(
じやしん
)
でも
何
(
なん
)
でも
構
(
かま
)
はぬ、
346
一遍
(
いつぺん
)
アンナ
離
(
はな
)
れ
業
(
わざ
)
を
演
(
えん
)
じて
見
(
み
)
たいワ』
347
勝
(
かつ
)
『コラコラ
六公
(
ろくこう
)
、
348
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はふ
国
(
くに
)
だ、
349
ソンナ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふと、
350
貴様
(
きさま
)
には、
351
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
から
鬼城山
(
きじやうざん
)
に
使
(
つか
)
ひした、
352
一旦
(
いつたん
)
大神
(
おほかみ
)
に
叛
(
そむ
)
いた
口子姫
(
くちこひめ
)
の
霊
(
れい
)
が、
353
貴様
(
きさま
)
の
身辺
(
しんぺん
)
を
狙
(
ねら
)
つて
居
(
ゐ
)
るぞ、
354
シツカリ
致
(
いた
)
せ』
355
六
(
ろく
)
『ヤアそいつは
一寸
(
ちよつと
)
乙
(
おつ
)
でげすな、
356
何時
(
いつ
)
も
憑
(
うつ
)
り
通
(
どほ
)
しにされては
困
(
こま
)
るが、
357
一遍
(
いつぺん
)
位
(
くらゐ
)
は
憑
(
うつ
)
つて
呉
(
く
)
れても
御
(
ご
)
愛嬌
(
あいけう
)
だ、
358
……ヤイ
口子姫
(
くちこひめ
)
とやら、
359
俺
(
おれ
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
貸
(
か
)
して
与
(
や
)
るから、
360
一遍
(
いつぺん
)
アツサリと
憑
(
うつ
)
つて
呉
(
く
)
れぬかい』
361
弥次彦
(
やじひこ
)
口
(
くち
)
をきつて
362
弥次彦
『クヽヽヽチヽヽヽコヽヽヽヒヽヽヽメヽヽヽ
口子
(
くちこ
)
…
口子
(
くちこ
)
…ヒヒメメメメ
口子姫
(
くちこひめの
)
命
(
みこと
)
只今
(
ただいま
)
より
六公
(
ろくこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
すぞよ』
363
六
(
ろく
)
『
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
364
と
云
(
い
)
ふや
否
(
いな
)
や、
365
身体
(
からだ
)
を
上下
(
じやうげ
)
左右
(
さいう
)
に
動揺
(
どうえう
)
し
始
(
はじ
)
めた。
366
地上
(
ちじやう
)
より
四五
(
しご
)
尺
(
しやく
)
許
(
ばか
)
りの
所
(
ところ
)
を、
367
上
(
のぼ
)
りつ
下
(
くだ
)
りつ、
368
石搗
(
いしつき
)
の
曲芸
(
きよくげい
)
を
演
(
えん
)
じ
始
(
はじ
)
めた。
369
遂
(
つひ
)
には
足
(
あし
)
は
地上
(
ちじやう
)
を
離
(
はな
)
れ、
370
最低
(
さいてい
)
地上
(
ちじやう
)
を
距
(
さ
)
ること
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
余
(
よ
)
、
371
最高
(
さいかう
)
二三丈
(
にさんぢやう
)
の
空中
(
くうちう
)
を
上下
(
じやうげ
)
し、
372
廻転
(
くわいてん
)
し
始
(
はじ
)
めた。
373
弥
(
や
)
『ヤア
六公
(
ろくこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
374
偉
(
えら
)
い
神力
(
しんりき
)
を
貰
(
もら
)
ひよつたぞ、
375
羨
(
けな
)
りい
事
(
こと
)
だ、
376
俺
(
おれ
)
も
一遍
(
いつぺん
)
アンナ
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
つて
見
(
み
)
たい。
377
俺
(
おれ
)
にアヽ
言
(
い
)
ふ
実地
(
じつち
)
が
現
(
あら
)
はれたら、
378
それこそ
一
(
いち
)
も
二
(
に
)
もなく
神
(
かみ
)
の
存在
(
そんざい
)
を、
379
心底
(
しんてい
)
から
承認
(
しようにん
)
するのだが、
380
どうしても
俺
(
おれ
)
には、
381
霊
(
れい
)
が
曇
(
くも
)
つて
居
(
を
)
ると
見
(
み
)
えて、
382
神
(
かみ
)
が
憑
(
うつ
)
つて
呉
(
く
)
れぬワイ』
383
与
(
よ
)
『オイ
弥次公
(
やじこう
)
、
384
貴様
(
きさま
)
ア、
385
アンナ
事
(
こと
)
所
(
どころ
)
かい、
386
殆
(
ほとん
)
ど
日天
(
につてん
)
様
(
さま
)
の
所
(
ところ
)
へ
行
(
ゆ
)
きよつたかと
思
(
おも
)
ふほど
高
(
たか
)
う、
387
空中
(
くうちう
)
をクルクルクルと
廻転
(
くわいてん
)
しよつて、
388
まるで
鳥
(
とり
)
位
(
くらゐ
)
小
(
ちい
)
さく
見
(
み
)
える
所
(
とこ
)
まで……
貴様
(
きさま
)
は
現
(
げん
)
に
大曲芸
(
だいきよくげい
)
を
演
(
えん
)
じよつたのだよ、
389
それを
貴様
(
きさま
)
は
記憶
(
きおく
)
して
居
(
を
)
らぬか』
390
弥
(
や
)
『アヽさうか、
391
ナンダかソンナ
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たやうな
記憶
(
きおく
)
が
朧
(
おぼろ
)
げに
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ。
392
ヤアヤア
六公
(
ろくこう
)
の
奴
(
やつ
)
、
393
追々
(
おひおひ
)
と
熟練
(
じゆくれん
)
しよつて、
394
ハア
上
(
あが
)
るワ
上
(
あが
)
るワ……
殆
(
ほとん
)
ど
体
(
からだ
)
が
小
(
ちい
)
さく
見
(
み
)
える
所
(
ところ
)
まで
上
(
あが
)
りよつたナ、
395
……モシモシ
勝彦
(
かつひこ
)
さま、
396
アラ
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
どうなるのですか』
397
勝
(
かつ
)
『あまり
慢心
(
まんしん
)
をすると、
398
体
(
からだ
)
の
重量
(
おもみ
)
がスツカリ
無
(
な
)
くなつて、
399
邪神
(
じやしん
)
の
容器
(
ようき
)
となり、
400
風船玉
(
ふうせんだま
)
のやうに
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らされるのだ、
401
幸
(
さいはひ
)
に
今
(
いま
)
は
無風
(
むふう
)
だから
好
(
よ
)
いが、
402
一昨日
(
おととひ
)
の
様
(
やう
)
な
風
(
かぜ
)
でも
吹
(
ふ
)
いた
位
(
くらゐ
)
なら、
403
夫
(
そ
)
れこそ、
404
どこへ
散
(
ち
)
つて
仕舞
(
しま
)
ふか
分
(
わか
)
りやしないぞ。
405
それだから
俺
(
おれ
)
が
此処
(
ここ
)
では
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
は
行
(
や
)
られぬと
云
(
い
)
ふたのだ、
406
……
吁
(
あゝ
)
、
407
困
(
こま
)
つた
病人
(
びやうにん
)
が
二人
(
ふたり
)
も
出来
(
でき
)
よつた、
408
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると、
409
与太公
(
よたこう
)
、
410
貴様
(
きさま
)
にも
伝染
(
でんせん
)
の
兆候
(
てうこう
)
が
見
(
み
)
えて
居
(
ゐ
)
る、
411
病菌
(
びやうきん
)
の
潜伏期
(
せんぷくき
)
だ。
412
何
(
なん
)
とかして、
413
免疫法
(
めんえきはふ
)
を
講
(
かう
)
じたいものだが、
414
此
(
この
)
附近
(
ふきん
)
には
避病院
(
ひびやういん
)
もなし、
415
消毒薬
(
せうどくやく
)
も
無
(
な
)
し、
416
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だワイ』
417
与
(
よ
)
『
消毒薬
(
せうどくやく
)
とは
何
(
なん
)
ですか』
418
勝
(
かつ
)
『
生粋
(
きつすゐ
)
の
清浄
(
せいじやう
)
なお
水
(
みづ
)
だ、
419
お
水
(
みづ
)
で
体
(
からだ
)
を
清
(
きよ
)
めて、
420
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
霊光
(
れいくわう
)
の
火
(
ひ
)
で、
421
黴菌
(
ばいきん
)
を
焼
(
や
)
き
亡
(
ほろ
)
ぼすのだ。
422
吁
(
あゝ
)
、
423
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だ、
424
……オイ
与太公
(
よたこう
)
、
425
しつかりせぬか、
426
貴様
(
きさま
)
には
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
が
附
(
つ
)
け
狙
(
ねら
)
ふて
居
(
を
)
るぞ、
427
……
何
(
なん
)
だ
其
(
その
)
態度
(
たいど
)
は……またガタガタと
震
(
ふる
)
ひ
出
(
だ
)
したぢやないか』
428
与
(
よ
)
『
強度
(
きやうど
)
の
帰神
(
きしん
)
状態
(
じやうたい
)
で、
429
……イヤもう
神人
(
しんじん
)
感合
(
かんがふ
)
の
妙境
(
めうきやう
)
に
達
(
たつ
)
するのも、
430
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
くはありますまい、
431
……
南無
(
なむ
)
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
大明神
(
だいみやうじん
)
、
432
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
この
与太彦
(
よたひこ
)
が
肉体
(
にくたい
)
にどこどこまでもお
見捨
(
みす
)
てなく、
433
神懸
(
かむがか
)
り
下
(
くだ
)
さいませ、
434
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
435
勝
(
かつ
)
『また
伝染
(
でんせん
)
しよつた、
436
病毒
(
びやうどく
)
の
伝播
(
でんぱ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
437
実
(
じつ
)
に
迅速
(
じんそく
)
なものだ、
438
アヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
439
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
は
皆
(
みな
)
奇蹟
(
きせき
)
を
好
(
この
)
んで
神
(
かみ
)
を
認
(
みと
)
めやうとする
偽信者
(
にせしんじや
)
だから、
440
谷底
(
たにそこ
)
へ
落
(
お
)
ちて
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
ますまで
打遣
(
うつちや
)
つて
置
(
お
)
かうかなア。
441
大火事
(
おほくわじ
)
の
中
(
なか
)
へ、
442
一本
(
いつぽん
)
や
二本
(
にほん
)
のポンプを
向
(
む
)
けた
所
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
がないワ。
443
エ、
444
ままよ、
445
これ
丈
(
だけ
)
熱
(
あつ
)
くなつて
燃
(
も
)
え
来
(
きた
)
つた
火柱
(
ひばしら
)
の
様
(
やう
)
な、
446
周章魂
(
うろたへだましひ
)
は、
447
最早
(
もはや
)
救
(
すく
)
ふの
余地
(
よち
)
はない、
448
……
吁
(
あゝ
)
、
449
国治立
(
くにはるたち
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
450
木花姫
(
このはなひめ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
451
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
、
452
モウ
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
貴神
(
あなた
)
の
御心
(
みこころ
)
の
儘
(
まま
)
になさつて
下
(
くだ
)
さいませ、
453
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
454
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
455
勝彦
(
かつひこ
)
の
祈
(
いの
)
り
終
(
をは
)
るや、
456
六公
(
ろくこう
)
は
上下動
(
じやうげどう
)
を
休止
(
きうし
)
し、
457
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
にキチンと
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んだ
儘
(
まま
)
端坐
(
たんざ
)
し、
458
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
459
汗
(
あせ
)
をタラタラと
垂
(
た
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
460
与太公
(
よたこう
)
は
又
(
また
)
もや
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
した。
461
法
(
はふ
)
外
(
はづ
)
れの
大声
(
おほごゑ
)
で、
462
与太彦
『ヤヤヤヤヤア、
463
ヤソ、
464
ヤソ ヤソ ヤソ、
465
ママママ、
466
ガヽヽヽ、
467
マガ マガ マガ、
468
ヒヒ、
469
ココ、
470
ヒコ ヒコ、
471
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
だア……
腐
(
くさ
)
り
切
(
き
)
つたる
魂
(
たましひ
)
で、
472
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とは
能
(
よ
)
くも
言
(
い
)
ふたり、
473
勝彦
(
かつひこ
)
の
奴
(
やつ
)
、
474
……
俺
(
おれ
)
の
審神
(
さには
)
が
出来
(
でき
)
るなら、
475
サア、
476
サア サア サア、
477
美事
(
みごと
)
行
(
や
)
つて
見
(
み
)
よ……』
478
勝
(
かつ
)
『ナニツ、
479
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
乱
(
みだ
)
す
悪神
(
あくがみ
)
、
480
退却
(
たいきやく
)
致
(
いた
)
せ』
481
と
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
霊線
(
れいせん
)
を
発射
(
はつしや
)
した。
482
八
(
や
)
『アハヽヽヽヽ、
483
ワツハヽヽヽヽ、
484
可笑
(
をか
)
しいワイ、
485
イヤ
面白
(
おもしろ
)
いワイ、
486
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
二十三
(
にじふさん
)
坂
(
さか
)
の
上
(
うへ
)
に
於
(
おい
)
て、
487
審神者
(
さには
)
面
(
づら
)
を
致
(
いた
)
した
其
(
その
)
酬
(
むく
)
い、
488
数多
(
あまた
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
引
(
ひ
)
きつれて、
489
貴様
(
きさま
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
八裂
(
やつざき
)
に
致
(
いた
)
してやらう、
490
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ、
491
……ヤツ…ヤツ…』
492
と
矢声
(
やごゑ
)
を
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
493
勝彦
(
かつひこ
)
が
端坐
(
たんざ
)
せる
頭上
(
づじやう
)
を、
494
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
飛
(
と
)
びまわり
出
(
だ
)
した。
495
勝彦
(
かつひこ
)
は
全身
(
ぜんしん
)
の
力
(
ちから
)
と
霊
(
れい
)
を
籠
(
こ
)
めて、
496
右
(
みぎ
)
の
食指
(
ひとさしゆび
)
より
霊光
(
れいくわう
)
を、
497
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
の
憑
(
かか
)
れる
与太彦
(
よたひこ
)
の
前額部
(
ぜんがくぶ
)
目掛
(
めが
)
けて
発射
(
はつしや
)
した。
498
八
(
や
)
『ワツハヽヽヽ、
499
オツホヽヽヽ、
500
猪口才
(
ちよこざい
)
な
腰抜
(
こしぬけ
)
審神者
(
さには
)
、
501
吾々
(
われわれ
)
を
審判
(
さには
)
するとは
片腹
(
かたはら
)
痛
(
いた
)
い。
502
サアこれよりは
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
素
(
そ
)
つ
首
(
くび
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いてやらう、
503
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ』
504
と
猿臂
(
えんぴ
)
を
延
(
の
)
ばして
掴
(
つか
)
みかかる。
505
勝彦
(
かつひこ
)
は『ウン』と
一声
(
いつせい
)
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
に、
506
与太彦
(
よたひこ
)
の
身体
(
からだ
)
は
翻筋斗
(
もんどり
)
うつてクルクルと
七八
(
しちはち
)
廻転
(
くわいてん
)
し
乍
(
なが
)
ら、
507
傍
(
かたはら
)
の
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
みに
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
508
又
(
また
)
もや
弥次彦
(
やじひこ
)
は
容色
(
ようしよく
)
変
(
へん
)
じ、
509
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らせ、
510
歯
(
は
)
をキリキリと
轢
(
きし
)
る
音
(
おと
)
、
511
……
暫
(
しばら
)
くあつて
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
ひら
)
き、
512
弥次彦
『コヽヽヽツヽヽヽネヽヽヽヒヽヽヽヒメ、
513
コツコツコツ、
514
ネヽヽヽヒヒヒ、
515
メメメメ、
516
コツコツ、
517
コツネヒメのミコト、
518
……
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
と
申
(
まを
)
し、
519
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
埴安彦
(
はにやすひこ
)
の
神
(
かみ
)
、
520
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
埴安姫
(
はにやすひめ
)
の
神
(
かみ
)
の
神政
(
しんせい
)
を
楯
(
たて
)
に
取
(
と
)
り、
521
吾々
(
われわれ
)
の
天下
(
てんか
)
を
騒
(
さわ
)
がす
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
、
522
この
二十三
(
にじふさん
)
峠
(
たうげ
)
は、
523
吾々
(
われわれ
)
が
屈強
(
くつきやう
)
の
関所
(
せきしよ
)
だ。
524
二十三
(
にじふさん
)
坂
(
さか
)
、
525
二十四
(
にじふし
)
坂
(
さか
)
の
間
(
あひだ
)
は、
526
ウラル
彦
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
に
守護
(
しゆご
)
いたす、
527
八岐
(
やまた
)
の
大蛇
(
おろち
)
や、
528
金狐
(
きんこ
)
、
529
悪鬼
(
あくき
)
の
縄張
(
なはばり
)
地点
(
ちてん
)
、
530
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たは
汝
(
なんぢ
)
が
運
(
うん
)
の
尽
(
つ
)
き、
531
これから
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
霊肉
(
れいにく
)
共
(
とも
)
に
木葉
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
にうち
亡
(
ほろ
)
ぼし
呉
(
く
)
れむ、
532
カカ
覚悟
(
かくご
)
をせよ』
533
と
弥次彦
(
やじひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は、
534
拳骨
(
げんこつ
)
を
固
(
かた
)
めて、
535
勝彦
(
かつひこ
)
目
(
め
)
がけて
迫
(
せま
)
つて
来
(
く
)
る。
536
勝彦
(
かつひこ
)
は
又
(
また
)
もや『ウン』と
一声
(
ひとこゑ
)
言霊
(
ことたま
)
の
水火
(
いき
)
を
発射
(
はつしや
)
した。
537
弥次彦
(
やじひこ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
二三間
(
にさんげん
)
後
(
うしろ
)
に
飛
(
と
)
び
下
(
さ
)
がり、
538
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて、
539
弥次彦
『オホヽヽヽヽ、
540
汝
(
なんぢ
)
盲
(
めくら
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
分際
(
ぶんざい
)
と
致
(
いた
)
して、
541
この
木常姫
(
こつねひめ
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
さむとは
片腹
(
かたはら
)
痛
(
いた
)
し、
542
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
れよ。
543
汝
(
なんぢ
)
が
身魂
(
みたま
)
の
生命
(
いのち
)
は、
544
最早
(
もはや
)
風前
(
ふうぜん
)
の
灯火
(
ともしび
)
だ。
545
この
谷底
(
たにそこ
)
に
蹶
(
け
)
り
落
(
おと
)
し、
546
絶命
(
ぜつめい
)
させてやらうか、
547
ホヽヽホウ、
548
愉快
(
ゆくわい
)
千万
(
せんばん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たワイ。
549
貴様
(
きさま
)
を
首途
(
かどで
)
の
血祭
(
ちまつ
)
りに、
550
祭
(
まつ
)
りあげ、
551
夫
(
そ
)
れよりは
尚
(
なほ
)
も
進
(
すす
)
んでコーカス
山
(
ざん
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し、
552
ウラルの
神
(
かみ
)
に
刄向
(
はむか
)
ふ
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
身魂
(
みたま
)
を
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
喰
(
く
)
ひ
殺
(
ころ
)
し、
553
平
(
たひら
)
げ
呉
(
く
)
れむは
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
、
554
オツホヽヽホウ、
555
嬉
(
うれ
)
し
嬉
(
うれ
)
し
喜
(
よろこ
)
ばし、
556
大願
(
たいぐわん
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
時節
(
じせつ
)
到来
(
たうらい
)
だ、
557
………ヤアヤア
部下
(
ぶか
)
の
者共
(
ものども
)
、
558
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
勝彦
(
かつひこ
)
が
身辺
(
しんぺん
)
に
群
(
むら
)
がり
来
(
きた
)
つて、
559
息
(
いき
)
の
根
(
ね
)
を
止
(
と
)
めよ、
560
ホーイ ホーイ ホーイ』
561
と
云
(
い
)
ふかと
見
(
み
)
れば、
562
ゾツと
身
(
み
)
に
沁
(
し
)
む
怪
(
あや
)
しの
風
(
かぜ
)
、
563
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
り、
564
四辺
(
しへん
)
陰鬱
(
いんうつ
)
の
気
(
き
)
に
閉
(
とざ
)
され、
565
数十万
(
すうじふまん
)
の
厭
(
いや
)
らしき
泣
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
、
566
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
、
567
叫
(
さけ
)
び
声
(
ごゑ
)
、
568
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
惨澹
(
さんたん
)
たる
光景
(
くわうけい
)
となつて
来
(
き
)
た。
569
勝彦
(
かつひこ
)
は
最早
(
もはや
)
これ
迄
(
まで
)
と、
570
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
、
571
両眼
(
りやうがん
)
を
閉
(
と
)
ぢ、
572
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
573
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
574
与太彦
(
よたひこ
)
の
身体
(
からだ
)
は
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
脱兎
(
だつと
)
の
如
(
ごと
)
く、
575
駆
(
か
)
け
廻
(
めぐ
)
り
始
(
はじ
)
めた。
576
続
(
つづ
)
いて
弥次彦
(
やじひこ
)
の
身体
(
からだ
)
は
四
(
よ
)
つ
這
(
ばひ
)
となつて
猛虎
(
まうこ
)
の
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふが
如
(
ごと
)
く、
577
口
(
くち
)
より
猛火
(
まうくわ
)
を
吐
(
は
)
きつつ、
578
勝彦
(
かつひこ
)
の
居所
(
ゐどころ
)
を
中心
(
ちうしん
)
に
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ひ
飛廻
(
とびまは
)
る。
579
六公
(
ろくこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
頭上
(
づじやう
)
の
中空
(
ちうくう
)
に
跳上
(
はねあ
)
がり、
580
勝彦
(
かつひこ
)
が
頭上
(
づじやう
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
駆
(
か
)
けめぐり、
581
何
(
なん
)
とも
譬
(
たとへ
)
難
(
がた
)
き
悪臭
(
あくしう
)
を
放
(
はな
)
ち
始
(
はじ
)
めた。
582
四辺
(
あたり
)
は
刻々
(
こくこく
)
に
暗黒
(
あんこく
)
の
度
(
ど
)
を
増
(
ま
)
した。
583
最早
(
もはや
)
勝彦
(
かつひこ
)
の
身辺
(
しんぺん
)
は
烏羽玉
(
うばたま
)
の
闇
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
了
(
しま
)
つた。
584
(弥次彦)
『
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
、
585
木常姫
(
こつねひめ
)
、
586
口子姫
(
くちこひめ
)
の
神
(
かみ
)
の
神力
(
しんりき
)
には
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか、
587
イヤ
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
らずに
居
(
を
)
られうまい、
588
ワツハヽヽヽ、
589
オツホヽヽヽ、
590
ホツホヽヽヽ』
591
と
暗
(
くら
)
がりより、
592
怪体
(
けたい
)
な
声
(
こゑ
)
切
(
しき
)
りに
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
る。
593
虎
(
とら
)
嘯
(
うそぶ
)
くか、
594
獅子
(
しし
)
吼
(
ほ
)
ゆるか、
595
竜
(
りう
)
吟
(
ぎん
)
ずるか、
596
但
(
ただ
)
しは
暴風
(
ばうふう
)
怒濤
(
どたう
)
の
声
(
こゑ
)
か、
597
響
(
ひびき
)
か、
598
四辺
(
しへん
)
暗澹
(
あんたん
)
、
599
荒涼
(
くわうりやう
)
、
600
魔神
(
まがみ
)
の
諸声
(
もろこゑ
)
は
五月蝿
(
さばへ
)
の
如
(
ごと
)
く
響
(
ひび
)
き
渡
(
わた
)
る。
601
怪
(
くわい
)
また
怪
(
くわい
)
に
包
(
つつ
)
まれたる
勝彦
(
かつひこ
)
は、
602
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
、
603
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
き
汗
(
あせ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
604
神言
(
かみごと
)
を
生命
(
いのち
)
の
綱
(
つな
)
に、
605
声
(
こゑ
)
の
続
(
つづ
)
く
限
(
かぎ
)
り
奏上
(
そうじやう
)
しかけた。
606
この
時
(
とき
)
闇
(
やみ
)
を
照
(
てら
)
して、
607
中空
(
ちうくう
)
より、
608
馬
(
うま
)
に
跨
(
またが
)
り
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
る
四五
(
しご
)
の
生神
(
いきがみ
)
があつた。
609
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
610
金幣
(
きんぺい
)
を
打振
(
うちふ
)
り
打振
(
うちふ
)
り、
611
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
馬
(
うま
)
を
躍
(
をど
)
らせ、
612
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
れば、
613
流石
(
さすが
)
の
邪神
(
じやしん
)
も
度
(
ど
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
614
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ふて
二十四
(
にじふし
)
坂
(
さか
)
の
方面
(
はうめん
)
指
(
さ
)
して、
615
ドツと
許
(
ばか
)
り
動揺
(
どよ
)
めき
渡
(
わた
)
り、
616
怪
(
あや
)
しき
声
(
こゑ
)
と
共
(
とも
)
に
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
つた。
617
与太彦
(
よたひこ
)
、
618
弥次彦
(
やじひこ
)
、
619
六公
(
ろくこう
)
は
忽
(
たちま
)
ち
元
(
もと
)
の
覚醒
(
かくせい
)
状態
(
じやうたい
)
に
復帰
(
ふくき
)
した。
620
勝
(
かつ
)
『アヽ
有難
(
ありがた
)
し
有難
(
ありがた
)
し、
621
悪魔
(
あくま
)
の
襲来
(
しふらい
)
を
払
(
はら
)
ひ
清
(
きよ
)
め
給
(
たま
)
ひし、
622
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
有難
(
ありがた
)
く
感謝
(
かんしや
)
仕
(
つかまつ
)
ります』
623
と
大地
(
だいち
)
に
頭
(
かしら
)
をすりつけて、
624
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
咽
(
むせ
)
ぶ。
625
弥次彦
(
やじひこ
)
、
626
与太彦
(
よたひこ
)
、
627
六公
(
ろくこう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
も、
628
同
(
おな
)
じく
芝生
(
しばふ
)
に
頭
(
あたま
)
を
着
(
つ
)
け、
629
何
(
なん
)
となく
驚異
(
きやうい
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られ、
630
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
居
(
ゐ
)
る。
631
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
身体
(
からだ
)
は
虹
(
にじ
)
の
如
(
ごと
)
き
鮮麗
(
せんれい
)
なる
霊衣
(
れいい
)
に
包
(
つつ
)
まれた。
632
芳香
(
はうかう
)
馥郁
(
ふくいく
)
として
四辺
(
しへん
)
に
薫
(
かほ
)
り、
633
嚠喨
(
りうりやう
)
たる
音楽
(
おんがく
)
の
響
(
ひびき
)
は、
634
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
身魂
(
みたま
)
に
沁
(
し
)
み
込
(
こ
)
むが
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
ゆるのであつた。
635
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
く
首
(
かうべ
)
を
挙
(
あ
)
げて
眺
(
なが
)
むれば、
636
こはそも
如何
(
いか
)
に、
637
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は、
638
鷹彦
(
たかひこ
)
、
639
岩彦
(
いはひこ
)
、
640
梅彦
(
うめひこ
)
、
641
亀彦
(
かめひこ
)
、
642
駒彦
(
こまひこ
)
、
643
音彦
(
おとひこ
)
と
共
(
とも
)
に、
644
馬上
(
ばじやう
)
豊
(
ゆたか
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
645
勝
(
かつ
)
『ヤア
是
(
こ
)
れは
是
(
こ
)
れは
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
646
能
(
よ
)
くも
御
(
お
)
加勢
(
かせい
)
下
(
くだ
)
さいました。
647
思
(
おも
)
はぬ
不調法
(
ぶてうはふ
)
を
致
(
いた
)
しまして、
648
重々
(
ぢうぢう
)
の
罪
(
つみ
)
御
(
お
)
宥
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
649
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
650
斯
(
か
)
かる
不規律
(
ふきりつ
)
なる
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
は
断
(
だん
)
じて
行
(
おこな
)
ひませぬ。
651
何事
(
なにごと
)
も、
652
我々
(
われわれ
)
が
不覚
(
ふかく
)
無智
(
むち
)
の
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
、
653
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
慢心
(
まんしん
)
仕
(
つかまつ
)
り、
654
お
詫
(
わび
)
の
申様
(
まをしやう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ』
655
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
の
神
(
かみ
)
は
一言
(
いちごん
)
も
発
(
はつ
)
せず、
656
首
(
くび
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
肯
(
うなづ
)
かせ
乍
(
なが
)
ら、
657
一行
(
いつかう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
658
再
(
ふたた
)
び
天馬
(
てんば
)
空
(
くう
)
を
駆
(
かけ
)
つて、
659
雲上
(
うんじやう
)
高
(
たか
)
く
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
660
無数
(
むすう
)
の
光輝
(
くわうき
)
に
冴
(
さ
)
えたる
霊線
(
れいせん
)
は、
661
虹
(
にじ
)
の
如
(
ごと
)
く
彗星
(
すゐせい
)
の
如
(
ごと
)
く、
662
一行
(
いつかう
)
の
後
(
あと
)
に
稍
(
やや
)
暫
(
しばら
)
く
姿
(
すがた
)
を
存
(
そん
)
しける。
663
峰
(
みね
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
を
吹
(
ふ
)
き
亘
(
わた
)
る
春風
(
はるかぜ
)
の
声
(
こゑ
)
は、
664
淑
(
しと
)
やかに
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
665
百鳥
(
ひやくてう
)
の
春
(
はる
)
を
唄
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
は
長閑
(
のどか
)
に
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
耳
(
みみ
)
に
音楽
(
おんがく
)
の
如
(
ごと
)
く
聞
(
きこ
)
え
始
(
はじ
)
めた。
666
弥
(
や
)
『モシ
勝彦
(
かつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
667
大変
(
たいへん
)
な
大騒動
(
だいさうどう
)
がおつぱじまつて、
668
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
隠
(
がく
)
れの
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りましたな、
669
あの
時
(
とき
)
の
私
(
わたし
)
の
苦
(
くる
)
しさと
云
(
い
)
つたら、
670
沢山
(
たくさん
)
な
青面
(
あをづら
)
、
671
赤面
(
あかづら
)
、
672
黒面
(
くろづら
)
の
兎
(
うさぎ
)
や、
673
虎
(
とら
)
や、
674
狼
(
おほかみ
)
、
675
大蛇
(
だいじや
)
が
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
て、
676
足
(
あし
)
にかぶり
付
(
つ
)
く、
677
髪
(
かみ
)
の
毛
(
け
)
を
引
(
ひ
)
つぱる、
678
耳
(
みみ
)
を
引
(
ひ
)
く、
679
腕
(
かいな
)
をひく、
680
擲
(
なぐ
)
る、
681
それはそれは
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
に
逢
(
あ
)
はされました。
682
イヤもう
神懸
(
かむがかり
)
は
懲
(
こ
)
り
懲
(
こ
)
りでした。
683
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
として
昼夜
(
ちうや
)
を
弁
(
べん
)
ぜず、
684
苦
(
くる
)
しいと
云
(
い
)
つても
譬様
(
たとへやう
)
のない、
685
えぐい、
686
痛
(
いた
)
い、
687
辛
(
つら
)
い、
688
臭
(
くさ
)
いイヤもう
惨々
(
さんざん
)
な
きつい
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
ひました。
689
その
時
(
とき
)
に…アヽ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
がウンと
一
(
ひと
)
つ
行
(
や
)
つて
下
(
くだ
)
さると
好
(
い
)
いのだけれど、
690
あなたは
霊眼
(
れいがん
)
が
疎
(
うと
)
いと
見
(
み
)
えて、
691
敵
(
てき
)
の
居
(
ゐ
)
ない
方
(
はう
)
ばつかり、
692
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
鎮魂
(
ちんこん
)
をやるものだから、
693
鼻糞
(
はなくそ
)
で
的
(
まと
)
貼
(
は
)
つた
程
(
ほど
)
も
効能
(
かうのう
)
は
無
(
な
)
く、
694
聾
(
つんぼ
)
ほども
言霊
(
ことたま
)
の
神力
(
しんりき
)
は
利
(
き
)
かず、
695
イヤモウ
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
な
事
(
こと
)
でしたよ』
696
勝
(
かつ
)
『アヽさうだつたか、
697
そらさうだらう、
698
何分
(
なにぶん
)
曇
(
くも
)
り
切
(
き
)
つた
肉体
(
にくたい
)
で、
699
俄
(
にはか
)
審神者
(
さには
)
を
強
(
し
)
ひられて
無理
(
むり
)
に
行
(
や
)
つたものだから、
700
審神者
(
さには
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
完全
(
くわんぜん
)
に
宿
(
やど
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬものだから
失敗
(
しつぱい
)
をやつたのだ。
701
然
(
しか
)
しチツトは
鎮魂
(
ちんこん
)
も
効能
(
かうのう
)
が
現
(
あら
)
はれただらう』
702
弥
(
や
)
『
千遍
(
せんべん
)
に
一度
(
いちど
)
位
(
くらゐ
)
まぐれ
当
(
あた
)
りに、
703
私
(
わたくし
)
を
責
(
せ
)
めて
居
(
ゐ
)
る
悪霊
(
あくれい
)
の
方
(
はう
)
に
霊光
(
れいくわう
)
が
発射
(
はつしや
)
したのは
確
(
たし
)
かです。
704
イヤモウ
脱線
(
だつせん
)
だらけで、
705
必要
(
ひつえう
)
な
所
(
ところ
)
へはチツトも
霊
(
れい
)
の
光線
(
くわうせん
)
が
発射
(
はつしや
)
せないものだから、
706
悪魔
(
あくま
)
の
奴
(
やつ
)
益々
(
ますます
)
付
(
つ
)
け
込
(
こ
)
んで、
707
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつき、
708
えらい
苦
(
くるし
)
みをしました。
709
アーア
斯
(
こ
)
うなると
立派
(
りつぱ
)
な
大将
(
たいしやう
)
が
欲
(
ほ
)
しくなつて
来
(
き
)
たワイ』
710
勝
(
かつ
)
『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
711
与
(
よ
)
『
私
(
わたし
)
もえらい
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
はされた、
712
人
(
ひと
)
の
首
(
くび
)
を
真黒
(
まつくろ
)
けの
縄
(
なは
)
で、
713
悪魔
(
あくま
)
の
奴
(
やつ
)
、
714
幾筋
(
いくすぢ
)
ともなく
縛
(
しば
)
りよつて、
715
古池
(
ふるいけ
)
の
水
(
みづ
)
を
両方
(
りやうはう
)
から、
716
釣瓶
(
つるべ
)
の
綱
(
つな
)
をつけて
替揚
(
かへあ
)
げる
様
(
やう
)
に、
717
空中
(
くうちう
)
を
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
しよつた
時
(
とき
)
の
苦
(
くるし
)
さと
言
(
い
)
つたら、
718
何遍
(
なんべん
)
息
(
いき
)
が
絶
(
た
)
えたと
思
(
おも
)
つたか
分
(
わか
)
りませぬ、
719
アヽコンナ
苦
(
くるし
)
い
責苦
(
せめく
)
に
会
(
あ
)
ふのなら、
720
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
721
一思
(
ひとおも
)
ひに
殺
(
ころ
)
して
欲
(
ほ
)
しいと
思
(
おも
)
ひましたよ。
722
熱
(
あつ
)
いと
思
(
おも
)
へば
又
(
また
)
冷
(
つめ
)
たい
谷底
(
たにそこ
)
へ
体
(
からだ
)
を
吊
(
つ
)
り
下
(
お
)
ろされ、
723
今度
(
こんど
)
は
又
(
また
)
焦
(
こげ
)
つく
様
(
やう
)
な
熱
(
あつ
)
い
所
(
ところ
)
へ
吊
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げられ、
724
夏
(
なつ
)
と
冬
(
ふゆ
)
とが
瞬間
(
しゆんかん
)
に
交代
(
かうたい
)
をするのだから、
725
体
(
からだ
)
の
健康
(
けんかう
)
は
台
(
だい
)
なしになるなり、
726
手足
(
てあし
)
は
散
(
ち
)
り
散
(
ち
)
りバラバラになつて
了
(
しま
)
つた
様
(
やう
)
な
苦
(
くるし
)
みを
感
(
かん
)
じた。
727
その
時
(
とき
)
に
審神者
(
さには
)
の
勝彦
(
かつひこ
)
サンは、
728
どうして
御座
(
ござ
)
るか、
729
ここらでこそ
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れさうなものだと
思
(
おも
)
つて、
730
あなたの
方
(
はう
)
を
眺
(
なが
)
めて
見
(
み
)
れば、
731
あなたの
背後
(
うしろ
)
には、
732
常世姫
(
とこよひめ
)
の
悪霊
(
あくれい
)
が、
733
貧乏
(
びんばふ
)
団扇
(
うちは
)
をふつて、
734
悪霊
(
あくれい
)
の
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る、
735
お
前
(
まへ
)
さまは、
736
その
常世姫
(
とこよひめ
)
の
手
(
て
)
の
動
(
うご
)
く
通
(
とほ
)
りに、
737
操
(
あやつ
)
り
人形
(
にんぎやう
)
の
様
(
やう
)
に
活動
(
くわつどう
)
し………
否
(
いな
)
蠢動
(
しゆんどう
)
して
居
(
を
)
るものだから、
738
却
(
かへつ
)
てそれが
此方
(
こちら
)
の
助
(
たす
)
け
所
(
どころ
)
か、
739
邪魔
(
じやま
)
になつて、
740
益々
(
ますます
)
苦
(
くる
)
しさを
加
(
くは
)
へ、
741
イヤモウ
言語
(
げんご
)
に
絶
(
ぜつ
)
する
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
、
742
目
(
め
)
の
球
(
たま
)
が
一丁
(
いつちやう
)
ほど
先
(
さき
)
へ
飛出
(
とびだ
)
すやうな
悲惨
(
ひさん
)
な
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はされました』
743
勝
(
かつ
)
『それだから、
744
コンナ
所
(
ところ
)
で
幽斎
(
いうさい
)
の
修業
(
しうげふ
)
は
廃
(
よ
)
せと
言
(
い
)
ふのに、
745
貴様
(
きさま
)
が
勝手
(
かつて
)
に
悪魔
(
あくま
)
の
方
(
はう
)
へ
行
(
ゆ
)
きよつたのだ。
746
仮令
(
たとへ
)
邪神
(
じやしん
)
でも、
747
あの
弥次彦
(
やじひこ
)
の
様
(
やう
)
に、
748
空中
(
くうちう
)
滑走
(
くわつそう
)
がしたいの
曲芸
(
きよくげい
)
が
演
(
えん
)
じたいのと、
749
熱望
(
ねつばう
)
的
(
てき
)
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
くものだから、
750
魔神
(
まがみ
)
の
奴
(
やつ
)
得
(
え
)
たり
賢
(
かしこ
)
し、
751
御
(
ご
)
註文
(
ちゆうもん
)
通
(
とほ
)
り
何
(
なん
)
でも
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はります、
752
私
(
わたし
)
の
好物
(
かうぶつ
)
、
753
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ました、
754
何
(
なん
)
のこれしきの
芸当
(
げいたう
)
に
手間
(
てま
)
もへツチヤクレも
要
(
い
)
るものか、
755
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
にや
及
(
およ
)
ばぬ、
756
悪神
(
あくがみ
)
の
容器
(
いれもの
)
には
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いして
来
(
こ
)
いぢや、
757
ヤツトコドツコイして
来
(
こ
)
いナ、
758
権兵衛
(
ごんべゑ
)
も
来
(
きた
)
れ、
759
太郎兵衝
(
たらうべゑ
)
も
来
(
きた
)
れ、
760
黒
(
くろ
)
も
来
(
こ
)
い、
761
赤
(
あか
)
も
来
(
こ
)
い、
762
大蛇
(
だいじや
)
も
来
(
こ
)
い、
763
序
(
ついで
)
に
狐
(
きつね
)
も、
764
狸
(
たぬき
)
も、
765
野天狗
(
のてんぐ
)
も、
766
幽霊
(
いうれい
)
も、
767
あらゆる
四
(
よ
)
つ
足
(
あし
)
霊
(
みたま
)
もやつて
来
(
こ
)
いと、
768
八十
(
やそ
)
枉彦
(
まがひこ
)
の
号令
(
がうれい
)
の
下
(
もと
)
に
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
つた
数万
(
すうまん
)
の
魔軍
(
まぐん
)
、
769
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
を
尽
(
つく
)
して
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
る
仰々
(
ぎやうぎやう
)
しさ、
770
目
(
め
)
ざましかりける
次第
(
しだい
)
なりけりだ。
771
アツハヽヽヽ』
772
与
(
よ
)
『モシモシ
勝彦
(
かつひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
773
あまり
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いて
貰
(
もら
)
ひますまいか、
774
………イヤ
法螺
(
ほら
)
ぢやない
業託
(
ごうたく
)
を
並
(
なら
)
べて
嘲弄
(
てうろう
)
して
貰
(
もら
)
ひますまいかい。
775
この
天地
(
てんち
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はふ
国
(
くに
)
ぢやありませぬか、
776
ソンナ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
ると、
777
又
(
また
)
もや
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
に、
778
軽業
(
かるわざ
)
の
標本
(
へうほん
)
に、
779
魔神
(
まがみ
)
の
奴
(
やつ
)
から
使役
(
しえき
)
されますぜ。
780
労銀
(
らうぎん
)
値上
(
ねあげ
)
の
八釜
(
やかま
)
しい
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に、
781
破天荒
(
はてんくわう
)
の………
否
(
いな
)
廻転
(
くわいてん
)
動天
(
どうてん
)
の
軽業
(
かるわざ
)
を
生命
(
いのち
)
からがら、
782
無報酬
(
むはうしう
)
で
強制
(
きやうせい
)
され、
783
汗
(
あせ
)
や
脂
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
られて、
784
墓原
(
はかはら
)
の
骨左衛門
(
ほねざゑもん
)
か
骨皮
(
ほねかは
)
の
痩右衝門
(
やせうゑもん
)
の
様
(
やう
)
な、
785
我利
(
がり
)
々々
(
がり
)
亡者
(
まうじや
)
の
痩餓鬼
(
やせがき
)
にならねばなりますまい、
786
チツト
改心
(
かいしん
)
なされ』
787
勝
(
かつ
)
『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
788
六
(
ろく
)
『コレコレ
立派
(
りつぱ
)
な
審神者
(
さには
)
の
勝彦
(
かつひこ
)
さま、
789
あなたの
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
には
往生
(
わうじやう
)
致
(
いた
)
しましたよ、
790
イヒヽヽヽ』
791
勝
(
かつ
)
『みなが
寄
(
よ
)
つて、
792
さう
俺
(
おれ
)
を
包囲
(
はうゐ
)
攻撃
(
こうげき
)
しても
困
(
こま
)
るぢやないか。
793
俺
(
おれ
)
だつて
誠心
(
せいしん
)
誠意
(
せいい
)
、
794
有
(
あ
)
らむ
限
(
かぎ
)
りのベストを
尽
(
つく
)
したのだ。
795
これ
以上
(
いじやう
)
吾々
(
われわれ
)
に
望
(
のぞ
)
むのは、
796
予算
(
よさん
)
超過
(
てうくわ
)
と
云
(
い
)
ふものだ。
797
国庫
(
こくこ
)
支弁
(
しべん
)
の
方法
(
はうはふ
)
に
差支
(
さしつか
)
へて
了
(
しま
)
ふ。
798
又復
(
またまた
)
増税
(
ぞうぜい
)
なんて、
799
人
(
ひと
)
の
嫌
(
いや
)
がる
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はねばならぬ。
800
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
はさう
言
(
い
)
つて、
801
吾々
(
われわれ
)
当局
(
たうきよく
)
の
審神者
(
さには
)
を
攻撃
(
こうげき
)
するが、
802
当局者
(
たうきよくしや
)
の
身
(
み
)
にもチツトはなりて
見
(
み
)
るが
宜
(
よ
)
い。
803
国家
(
こくか
)
多事
(
たじ
)
多難
(
たなん
)
のこの
際
(
さい
)
ぢや、
804
金
(
かね
)
の
要
(
い
)
るのは
底
(
そこ
)
知
(
し
)
れず、
805
増税
(
ぞうぜい
)
、
806
徴募
(
ちようぼ
)
あらゆる
手段
(
しゆだん
)
を
尽
(
つく
)
して
膏血
(
かうけつ
)
を
絞
(
しぼ
)
り、
807
有
(
あ
)
らむ
限
(
かぎ
)
りの
智慧
(
ちゑ
)
味噌
(
みそ
)
の
臨時
(
りんじ
)
支出
(
ししゆつ
)
までして、
808
ヤツトこの
場
(
ば
)
を
切抜
(
きりぬ
)
けたのだ。
809
さう
八釜
(
やかま
)
しく
責
(
せ
)
め
立
(
たて
)
ると、
810
勝彦
(
かつひこ
)
内閣
(
ないかく
)
も
瓦解
(
がかい
)
の
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ざる
悲運
(
ひうん
)
に
立到
(
たちいた
)
らねばならなくなる。
811
さうなれば、
812
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
、
813
連袂
(
れんぺい
)
辞職
(
じしよく
)
と
出
(
で
)
かけねばなるまい。
814
今度
(
こんど
)
の
責任
(
せきにん
)
を
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
に
負担
(
ふたん
)
させやうと
云
(
い
)
ふのは、
815
あまり
虫
(
むし
)
が
好過
(
よす
)
ぎるワイ。
816
共通
(
きようつう
)
的
(
てき
)
の
責任
(
せきにん
)
を
持
(
も
)
つのが、
817
いはゆる
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
主義
(
しゆぎ
)
だよ、
818
アハヽヽヽ』
819
弥
(
や
)
『イヤ
仰
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
りだ、
820
御尤
(
ごもつと
)
もだ、
821
モチだ。
822
スツテの
事
(
こと
)
で
勝彦
(
かつひこ
)
内閣
(
ないかく
)
も
崩解
(
ほうかい
)
するとこだつた。
823
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
824
人間
(
にんげん
)
は
老少
(
らうせう
)
不定
(
ふぢやう
)
、
825
何時
(
なんどき
)
冥土
(
めいど
)
の
鬼
(
おに
)
に
迎
(
むか
)
へられて、
826
欠員
(
けつゐん
)
が
出来
(
でき
)
るか
知
(
し
)
れたものぢやない、
827
その
時
(
とき
)
には、
828
弥次彦
(
やじひこ
)
が
後釜
(
あとがま
)
に
坐
(
すわ
)
つて、
829
この
弥次
(
やじ
)
喜多
(
きた
)
内閣
(
ないかく
)
でも
組織
(
そしき
)
し、
830
お
前
(
まへ
)
サンの
政綱
(
せいかう
)
を
維持
(
ゐぢ
)
して
行
(
ゆ
)
く、
831
つまり
連鎖
(
れんさ
)
内閣
(
ないかく
)
でも
成立
(
せいりつ
)
させて、
832
居
(
ゐ
)
すわる
積
(
つも
)
りだから、
833
後
(
あと
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
さず、
834
白紙
(
はくし
)
の
三角帽
(
さんかくぼう
)
を
頭
(
あたま
)
に
戴
(
いただ
)
いて、
835
未練
(
みれん
)
残
(
のこ
)
さず
旅立
(
たびだち
)
なされ。
836
何
(
いづ
)
れ
新顔
(
しんがほ
)
の
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
は
入
(
い
)
れても
構
(
かま
)
はぬ、
837
居坐
(
ゐすわ
)
り
内閣
(
ないかく
)
をやつて
居
(
を
)
る
方
(
はう
)
が、
838
党勢
(
たうせい
)
維持
(
ゐぢ
)
上
(
じやう
)
都合
(
つがふ
)
が
好
(
い
)
いから、
839
アハヽヽヽ。
840
併
(
しか
)
しコンナ
所
(
ところ
)
に
長居
(
ながゐ
)
は
恐
(
おそ
)
れだ、
841
グズグズしとると、
842
冥土
(
めいど
)
から
角
(
つの
)
の
生
(
は
)
えた
鬼族院
(
きぞくゐん
)
がやつて
来
(
こ
)
られちや、
843
一寸
(
ちよつと
)
閉口
(
へいこう
)
だ。
844
これや
一
(
ひと
)
つ、
845
研究会
(
けんきうくわい
)
でも
開
(
ひら
)
いて、
846
熟議
(
じゆくぎ
)
をこらすが
道
(
みち
)
だけれど、
847
余
(
あま
)
り
同
(
おな
)
じ
処
(
ところ
)
にくつついて
居
(
を
)
るのも
気
(
き
)
が
利
(
き
)
かない。
848
二十四番
(
にじふしばん
)
峠
(
たうげ
)
も
踏破
(
たふは
)
し、
849
二十五
(
にじふご
)
番
(
ばん
)
の
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
で、
850
善後策
(
ぜんごさく
)
をゆつくり
講究
(
かうきう
)
致
(
いた
)
しませうか、
851
アハヽヽヽ』
852
一同
(
いちどう
)
『ワハヽヽヽ』
853
勝
(
かつ
)
『まだ
笑
(
わら
)
ふ
所
(
ところ
)
へは
行
(
ゆ
)
かないぞ、
854
何時
(
いつ
)
瓦解
(
がかい
)
の
虞
(
おそれ
)
があるかも
知
(
し
)
れやしない。
855
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
が、
856
遠
(
とほ
)
く
海
(
うみ
)
の
彼方
(
あなた
)
に
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
つて、
857
盛
(
さかん
)
に
空中
(
くうちう
)
無線
(
むせん
)
電信
(
でんしん
)
で
合図
(
あひづ
)
をして
居
(
ゐ
)
るから、
858
一寸
(
いつすん
)
の
隙
(
すき
)
も
有
(
あ
)
つたものぢやない、
859
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けツ、
860
進
(
すす
)
めツおいち
二
(
に
)
三
(
さん
)
四
(
し
)
ツ』
861
と
道
(
みち
)
なき
路
(
みち
)
をアルコールに
酔
(
よ
)
ふた
猩々
(
しやうじやう
)
の
如
(
ごと
)
く、
862
無闇
(
むやみ
)
矢鱈
(
やたら
)
に
二十五
(
にじふご
)
番
(
ばん
)
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
まで、
863
漸
(
やうや
)
く
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
864
勝
(
かつ
)
『アーア、
865
ヤレヤレ
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
だつた、
866
中空
(
ちうくう
)
に
高
(
たか
)
き
一本
(
いつぽん
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
を
渡
(
わた
)
つて
来
(
く
)
るやうな
心持
(
こころもち
)
だつた』
867
弥
(
や
)
『
地獄
(
ぢごく
)
の
釜
(
かま
)
の
一足飛
(
いつそくとび
)
といふ
曲芸
(
きよくげい
)
も、
868
首尾
(
しゆび
)
能
(
よ
)
く
成功
(
せいこう
)
致
(
いた
)
しました。
869
皆様
(
みなさま
)
、
870
お
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りましたら、
871
一同
(
いちどう
)
揃
(
そろ
)
ふて
拍手
(
はくしゆ
)
喝采
(
かつさい
)
を
希望
(
きばう
)
いたします』
872
勝
(
かつ
)
『ヤア
賛成者
(
さんせいしや
)
は
少
(
すくな
)
いなア、
873
……、
874
ヤア
一
(
ひと
)
つも
拍手
(
はくしゆ
)
する
奴
(
やつ
)
がない、
875
全然
(
ぜんぜん
)
反対
(
はんたい
)
だと
見
(
み
)
えるワイ』
876
与
(
よ
)
『それでも
勝彦
(
かつひこ
)
さま、
877
あなたの
身
(
み
)
の
内
(
うち
)
に
簇生
(
ぞくせい
)
して
居
(
を
)
る
寄生虫
(
きせいちう
)
は、
878
ソツと
拍手
(
はくしゆ
)
して
居
(
ゐ
)
ましたよ。
879
その
声
(
こゑ
)
が……ブン……と
云
(
い
)
つて、
880
裏門
(
うらもん
)
から
放出
(
はうしゆつ
)
しました。
881
イヤもう
鼻持
(
はなもち
)
のならぬ
臭
(
くさ
)
い
事
(
こと
)
だつた、
882
ワハヽヽヽ』
883
この
時
(
とき
)
忽然
(
こつぜん
)
として、
884
東北
(
とうほく
)
の
天
(
てん
)
より
黒雲
(
こくうん
)
起
(
おこ
)
り、
885
暴風
(
ばうふう
)
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
つて、
886
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
に
立
(
た
)
てる
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
体
(
からだ
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
り、
887
底
(
そこ
)
ひも
知
(
し
)
れぬ
谷間
(
たにま
)
目
(
め
)
がけて
天上
(
てんじやう
)
より、
888
岩
(
いは
)
をぶつつけた
如
(
ごと
)
く、
889
一瀉
(
いつしや
)
千里
(
せんり
)
の
勢
(
いきほひ
)
を
以
(
もつ
)
て、
890
青
(
あを
)
み
立
(
た
)
つたる
淵
(
ふち
)
に
向
(
むか
)
つて、
891
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
にザンブと
落込
(
おちこ
)
んだ。
892
その
途端
(
とたん
)
に
夢
(
ゆめ
)
は
破
(
やぶ
)
られ
附近
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば
瑞月
(
ずゐげつ
)
が
近隣
(
きんりん
)
の
三四
(
さんよ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
893
藪医者
(
やぶいしや
)
を
招
(
まね
)
いて
脈
(
みやく
)
を
執
(
と
)
らせて
居
(
ゐ
)
る。
894
藪医者
(
やぶいしや
)
は、
895
一寸
(
ちよつと
)
首
(
くび
)
を
捻
(
ひね
)
つて、
896
医者
『アー
此奴
(
こいつ
)
ア、
897
強度
(
きやうど
)
の
催眠
(
さいみん
)
状態
(
じやうたい
)
に
陥
(
おちい
)
つて
居
(
を
)
る、
898
自然
(
しぜん
)
に
覚醒
(
かくせい
)
状態
(
じやうたい
)
になるまで、
899
放任
(
はうにん
)
して
置
(
お
)
くより
途
(
みち
)
はなからう……
非常
(
ひじやう
)
な
麻痺
(
まひ
)
だ、
900
痙攣
(
けいれん
)
だ……』
901
と
宣告
(
せんこく
)
を
下
(
くだ
)
し
居
(
ゐ
)
たりける。
902
(
大正一一・三・二五
旧二・二七
松村真澄
録)
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