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霊界物語
如意宝珠(第13~24巻)
第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
第1章 三途川
第2章 銅木像
第3章 鷹彦還元
第4章 馬詈
第5章 風馬牛
第2篇 幽山霊水
第6章 楽隠居
第7章 難風
第8章 泥の川
第9章 空中滑走
第3篇 高加索詣
第10章 牡丹餅
第11章 河童の屁
第12章 復縁談
第13章 山上幽斎
第14章 一途川
第15章 丸木橋
第16章 返り咲
第4篇 五六七号
第17章 一寸一服
跋文
余白歌
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>
如意宝珠(第13~24巻)
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第14巻(丑の巻)
> 第2篇 幽山霊水 > 第7章 難風
<<< 楽隠居
(B)
(N)
泥の川 >>>
第七章
難風
(
なんぷう
)
〔五五七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第2篇 幽山霊水
よみ(新仮名遣い):
ゆうざんれいすい
章:
第7章 難風
よみ(新仮名遣い):
なんぷう
通し章番号:
557
口述日:
1922(大正11)年03月24日(旧02月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
急坂を登った一行は、休息を取っている。弥次彦と与太彦はおかしな雑談を交わしている。
弥次彦はその中にも、言霊の善言美詞についての一説を交えるなど、中には三五教の教理にかなった法話を含ませている。
折から、小鹿山の山おろしが猛烈に吹いてきた。一行は、強風に飛ばされないように二人一組で肩を組んで進んで行くことにした。
突然突風が吹くと、弥次彦と勝彦の二人を空中に舞い上げ、谷間の彼方に吹き飛ばした。与太彦と六は慌てて二人を探しに行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-12-23 17:55:18
OBC :
rm1407
愛善世界社版:
112頁
八幡書店版:
第3輯 198頁
修補版:
校定版:
117頁
普及版:
52頁
初版:
ページ備考:
001
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
急阪
(
きふはん
)
を、
002
弥次彦
(
やじひこ
)
、
003
与太彦
(
よたひこ
)
、
004
勝彦
(
かつひこ
)
、
005
六公
(
ろくこう
)
の
一行
(
いつかう
)
は、
006
岩根
(
いはね
)
に
躓
(
つまづ
)
き、
007
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
に
足
(
あし
)
を
掻
(
か
)
き、
008
右
(
みぎ
)
に
倒
(
たふ
)
れ
左
(
ひだり
)
に
転
(
こ
)
け
どつくり
の
口
(
くち
)
から
出任
(
でまか
)
せ、
009
野趣
(
やしゆ
)
満々
(
まんまん
)
たる
俄作
(
にはかづく
)
りの
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謳
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
010
爪先
(
つまさき
)
上
(
あが
)
りの
雨
(
あめ
)
に
曝
(
さら
)
され
掘
(
ほ
)
れたる
路
(
みち
)
を、
011
千鳥
(
ちどり
)
の
足
(
あし
)
の
覚束
(
おぼつか
)
なくも、
012
喘
(
あへ
)
ぎに
喘
(
あへ
)
ぎ
上
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
013
塵
(
ちり
)
も
積
(
つも
)
れば
山
(
やま
)
となる、
014
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
跨
(
また
)
げた
足
(
あし
)
も、
015
始終
(
しじう
)
休
(
やす
)
まぬ
四十八
(
しじふや
)
坂
(
さか
)
を、
016
心
(
こころ
)
ばかりの
勝彦
(
かつひこ
)
が、
017
自慢
(
じまん
)
お
箱
(
はこ
)
の
十八番
(
じふはちばん
)
の
阪
(
さか
)
の
上
(
うへ
)
に、
018
やつと
上
(
のぼ
)
つて、
019
鼈
(
すつぽん
)
に
蓼
(
たで
)
を
噛
(
か
)
ました
様
(
やう
)
な
荒息
(
あらいき
)
を
継
(
つ
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら
親
(
おや
)
も
居
(
を
)
らぬに
ハア
(
母
(
はは
)
)ハアと
息
(
いき
)
をはづませ
辿
(
たど
)
り
行
(
ゆ
)
く。
020
勝
(
かつ
)
『
皆
(
みな
)
サン、
021
此
(
この
)
見晴
(
みは
)
らしの
佳
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
で、
022
暫
(
しばら
)
くコンパスの
停車
(
ていしや
)
をして、
023
浩然
(
こうぜん
)
の
気
(
き
)
を
養
(
やしな
)
つたらどうですか』
024
弥
(
や
)
『サア
誰
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もありませぬワ、
025
公然
(
こうぜん
)
と
休養
(
きうやう
)
致
(
いた
)
しませう、
026
天
(
てん
)
洪然
(
こうぜん
)
を
空
(
むな
)
しうする
勿
(
なか
)
れだ。
027
しかし
休養
(
きうやう
)
序
(
ついで
)
に
一
(
ひと
)
つ
石炭
(
せきたん
)
の
積込
(
つみこみ
)
をやりませうかい、
028
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
適当
(
てきたう
)
な
港口
(
かうこう
)
は、
029
この
先
(
さき
)
には
滅多
(
めつた
)
に
有
(
あ
)
りますまい、
030
どうやら
機関
(
きくわん
)
の
油
(
あぶら
)
が
涸
(
か
)
れさうになつて
来
(
き
)
ました』
031
勝
(
かつ
)
『
何分
(
なにぶん
)
アンナ
堅
(
かた
)
い
所
(
ところ
)
へ
格納
(
かくなふ
)
されて
居
(
ゐ
)
たものだから、
032
サツパリ
倉庫
(
さうこ
)
は
空虚
(
くうきよ
)
になつて
了
(
しま
)
つた、
033
何
(
なに
)
をパクついて
可
(
い
)
いか、
034
肝腎
(
かんじん
)
の
原料
(
げんれう
)
はないのだから
仕方
(
しかた
)
がありませぬワ、
035
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
が
咽喉部
(
いんこうぶ
)
まで
突喊
(
とつかん
)
して
来
(
き
)
て、
036
切
(
しき
)
りに
汽笛
(
きてき
)
を
吹
(
ふ
)
きます、
037
せめて
給水
(
きふすゐ
)
なりとやつて、
038
芥
(
ごみ
)
を
濁
(
にご
)
したいが、
039
生憎
(
あひにく
)
谷
(
たに
)
は
深
(
ふか
)
し、
040
起臥
(
きぐわ
)
進退
(
しんたい
)
維
(
これ
)
谷
(
きは
)
まると
云
(
い
)
ふ
腹具合
(
はらぐあひ
)
ですワイ、
041
何
(
なん
)
とか
良
(
い
)
い
腹案
(
ふくあん
)
はありますまいかな』
042
弥
(
や
)
『オー
此処
(
ここ
)
にお
粗末
(
そまつ
)
な、
043
火
(
ひ
)
にも
掛
(
か
)
けぬのに
焦
(
こ
)
げた
様
(
やう
)
な
色
(
いろ
)
のした
握飯
(
むすび
)
が、
044
〆
(
しめ
)
て
二個
(
にこ
)
ありますワイ、
045
三途川
(
せうづがは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
アサンから
記念
(
きねん
)
の
為
(
ため
)
に
貰
(
もら
)
つて
来
(
き
)
た、
046
形而
(
けいじ
)
上
(
じやう
)
の
弁当
(
べんたう
)
だ、
047
噛
(
か
)
む
世話
(
せわ
)
も
要
(
い
)
らねば、
048
五臓
(
ござう
)
六腑
(
ろつぷ
)
にお
世話
(
せわ
)
になる
面倒
(
めんだう
)
も
無
(
な
)
い。
049
これなつと
食
(
く
)
つて、
050
唾液
(
つばき
)
でも
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んで、
051
食
(
く
)
つた
気分
(
きぶん
)
になりませうかい』
052
与
(
よ
)
『オイオイ
弥次彦
(
やじひこ
)
、
053
あた
汚
(
きたな
)
い、
054
貴様
(
きさま
)
はまだ
娑婆
(
しやば
)
の
妄執
(
まうしふ
)
………オツトドツコイ
幽界
(
いうかい
)
の
妄執
(
まうしふ
)
が
除
(
と
)
れぬと
見
(
み
)
えて、
055
婆
(
ばば
)
アだの、
056
ハナ
飯
(
めし
)
だのと、
057
不潔
(
ばば
)
い
事
(
こと
)
を
囀
(
さへづ
)
る
奴
(
やつ
)
だ、
058
可
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つたらどうだい』
059
弥
(
や
)
『
山
(
やま
)
に
伐
(
き
)
る
木
(
き
)
は
沢山
(
たくさん
)
あれど、
060
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
る
き
は
更
(
さら
)
にない………あの
婆
(
ば
)
アサンの、
061
厭
(
いや
)
らしい
顔
(
かほ
)
をして、
062
歯糞
(
はくそ
)
だらけの
くすぼ
つた
歯
(
は
)
を、
063
ニユーツと
突出
(
つきだ
)
し「
親譲
(
おやゆづ
)
りの
着物
(
きもの
)
をこつちやへ
渡
(
わた
)
せ」と
吐
(
ぬか
)
しよつた
時
(
とき
)
の
面付
(
つらつき
)
を、
064
どうして
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るか、
065
飯
(
めし
)
食
(
く
)
ふたびに
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
のことを
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
して、
066
ムカムカして
来
(
く
)
るワイ』
067
与
(
よ
)
『どこまでも
弥次
(
やじ
)
式
(
しき
)
だな、
068
夫
(
そ
)
れほど
恐
(
おそ
)
ろしい
婆
(
ばば
)
アに、
069
なぜ
貴様
(
きさま
)
は
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
だとか、
070
半座
(
はんざ
)
を
分
(
わ
)
けて
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
るとか、
071
ハンナリとせぬ、
072
変則
(
へんそく
)
的
(
てき
)
なローマンスをやりよつたのだ、
073
得体
(
えたい
)
の
知
(
し
)
れぬ
唐変木
(
たうへんぼく
)
だなア』
074
弥
(
や
)
『そこは、
075
外交
(
ぐわいかう
)
的
(
てき
)
手腕
(
しゆわん
)
を
揮
(
ふる
)
つたのだよ。
076
燕雀
(
えんじやく
)
何
(
なん
)
ぞ
大鵬
(
たいほう
)
の
志
(
こころざし
)
を
知
(
し
)
らむやだ、
077
至聖
(
しせい
)
大賢
(
たいけん
)
の
心事
(
しんじ
)
が、
078
朦昧
(
もうまい
)
無智
(
むち
)
の
人獣
(
にんじう
)
に
分
(
わか
)
つてたまるものかい』
079
与
(
よ
)
『
人獣
(
にんじう
)
とは
何
(
なん
)
だ、
080
俺
(
おれ
)
が
人獣
(
にんじう
)
なら
貴様
(
きさま
)
は
人鬼
(
にんき
)
だ』
081
弥
(
や
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だよ、
082
天下
(
てんか
)
一品
(
いつぴん
)
の
人気
(
にんき
)
男
(
をとこ
)
だもの、
083
それだから、
084
閻魔
(
えんま
)
サンでさへも
跣足
(
はだし
)
で
逃
(
に
)
げる
様
(
やう
)
な、
085
あの
鬼婆
(
おにばば
)
アが、
086
俺
(
おれ
)
にかけたら、
087
蛸
(
たこ
)
か、
088
豆腐
(
とうふ
)
のやうに
骨
(
ほね
)
無
(
な
)
しになつて
仕舞
(
しま
)
ひよつて
目
(
め
)
まで
細
(
ほそ
)
くして、
089
ミヅバナ
の
混
(
まじ
)
つた
涎
(
よだれ
)
を
垂
(
た
)
れよつた
位
(
くらゐ
)
だもの………
貴様
(
きさま
)
は
俺
(
おれ
)
の
人気
(
にんき
)
男
(
をとこ
)
を
実地
(
じつち
)
目撃
(
もくげき
)
した
正確
(
せいかく
)
な
保証人
(
ほしようにん
)
だ、
090
勝彦
(
かつひこ
)
や、
091
六公
(
ろくこう
)
にも
吹聴
(
ふいちやう
)
せぬかい、
092
俺
(
おれ
)
の
戦功
(
せんこう
)
を
報告
(
はうこく
)
するのは
貴様
(
きさま
)
の
使命
(
しめい
)
だ、
093
縁
(
えん
)
の
下
(
した
)
の
舞
(
まひ
)
と
埋没
(
まいぼつ
)
されては、
094
吾々
(
われわれ
)
が
苦心
(
くしん
)
惨憺
(
さんたん
)
の
神妙
(
しんめう
)
鬼策
(
きさく
)
も
何時
(
いつ
)
の
日
(
ひ
)
か
天下
(
てんか
)
に
現
(
あら
)
はれむやだ』
095
与
(
よ
)
『アハヽヽヽ、
096
貴様
(
きさま
)
どこまでも
弥次
(
やじ
)
式
(
しき
)
だな』
097
弥
(
や
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ、
098
シキだよ、
099
天下
(
てんか
)
一品
(
いつぴん
)
の
色魔
(
しきま
)
だよ。
100
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
、
101
貴賎
(
きせん
)
貧富
(
ひんぷ
)
の
区別
(
くべつ
)
なく、
102
猫
(
ねこ
)
も
杓子
(
しやくし
)
も、
103
鼬
(
いたち
)
も
鼈
(
すつぽん
)
も、
104
蝸牛
(
でんでんむし
)
も
なめくぢり
も、
105
牛
(
うし
)
も
馬
(
うま
)
も、
106
この
弥次
(
やじ
)
サンに
向
(
むか
)
つては
皆
(
みんな
)
駄目
(
だめ
)
だ。
107
アヽ
人気
(
にんき
)
男
(
をとこ
)
と
言
(
い
)
ふものは
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
の
揉
(
も
)
めるものだ。
108
冥土
(
めいど
)
へ
行
(
い
)
けば
行
(
い
)
くで、
109
優
(
やさ
)
しうもない
脱衣婆
(
だついばば
)
アまでが、
110
強烈
(
きやうれつ
)
なる
電波
(
でんぱ
)
を
向
(
む
)
けるのだから、
111
人気
(
にんき
)
男
(
をとこ
)
の
色男
(
いろをとこ
)
といふ
者
(
もの
)
は
変
(
かは
)
つたものだよ、
112
古今
(
ここん
)
にその
類例
(
るゐれい
)
を
絶
(
た
)
つと
云
(
い
)
ふチーチヤーだ、
113
チーチヤー
貴様
(
きさま
)
もこの
弥次彦
(
やじひこ
)
にあやかつたらどうだ』
114
勝
(
かつ
)
『アハヽヽヽ、
115
ナント
面白
(
おもしろ
)
い
人足
(
にんそく
)
………オツトドツコイ
人気
(
にんき
)
男
(
をとこ
)
に
出会
(
でつくは
)
したものだナア』
116
弥
(
や
)
『ヤア
勝
(
かつ
)
サン、
117
お
前
(
まへ
)
は
私
(
わたし
)
の
知己
(
ちき
)
だ、
118
英雄
(
えいゆう
)
の
心事
(
しんじ
)
を
知
(
し
)
る
者
(
もの
)
は、
119
君
(
きみ
)
たつた
一人
(
ひとり
)
だよ。
120
人気
(
にんき
)
応変
(
おうへん
)
、
121
活殺
(
くわつさつ
)
自在
(
じざい
)
、
122
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の、
123
赤門
(
あかもん
)
出
(
で
)
のチヤキチヤキのチーチヤアだからネ』
124
与
(
よ
)
『アハヽヽヽ、
125
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
塞
(
ふさ
)
がらぬワイ』
126
弥
(
や
)
『
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
が
塞
(
ふさ
)
がるまい、
127
牛糞
(
うしぐそ
)
が
天下
(
てんか
)
を
取
(
と
)
るぞよ、
128
コンナお
粗末
(
そまつ
)
な
弥次
(
やじ
)
の
弥次馬
(
やじうま
)
でも、
129
馬糞
(
うまくそ
)
の
天下
(
てんか
)
を
取
(
と
)
る
時節
(
じせつ
)
が
来
(
く
)
るのだから、
130
あまり
軽蔑
(
けいべつ
)
して
貰
(
もら
)
ふまいかい、
131
アンナものがコンナものになつたと
云
(
い
)
ふ
仕組
(
しぐみ
)
であるぞよ』
132
与
(
よ
)
『イヤー
吹
(
ふ
)
いたりな
吹
(
ふ
)
いたりな、
133
三百十
(
さんびやくとを
)
日
(
か
)
の
大風
(
おほかぜ
)
のやうだのう』
134
弥
(
や
)
『
三百十
(
さんびやくとを
)
日
(
か
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるかい、
135
二百十
(
にひやくとを
)
日
(
か
)
だらう』
136
与
(
よ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
言
(
い
)
へ、
137
貴様
(
きさま
)
は
三百
(
さんびやく
)
代言
(
だいげん
)
をやつておつた
男
(
をとこ
)
だ、
138
十人
(
じふにん
)
十日口
(
とをかぐち
)
だと
吐
(
ぬか
)
して、
139
その
日
(
ひ
)
暮
(
ぐら
)
しの
貧苦
(
ひんく
)
の
生活
(
せいくわつ
)
に
苦
(
くる
)
しみ、
140
三
(
みつ
)
つ
違
(
ちがひ
)
の
兄
(
にい
)
サン………と
云
(
い
)
ふて
暮
(
くら
)
して
居
(
ゐ
)
るうちに』
141
弥
(
や
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
142
そりや
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だよ、
143
俺
(
おれ
)
ん
所
(
ところ
)
は
人
(
ひと
)
も
知
(
し
)
る
如
(
ごと
)
く、
144
高取村
(
たかとりむら
)
の
豪農
(
がうのう
)
だ、
145
下女
(
げぢよ
)
の
一人
(
ひとり
)
も
使
(
つか
)
ひ、
146
僕
(
しもべ
)
の
半人
(
はんにん
)
も
使
(
つか
)
つた
門閥家
(
もんばつか
)
だぞ』
147
与
(
よ
)
『アハヽヽヽ、
148
半人
(
はんにん
)
の
僕
(
しもべ
)
とは、
149
そらナンダイ』
150
弥
(
や
)
『きまつたことよ、
151
允請
(
ゐんせい
)
ポリスを
置
(
お
)
いた
事
(
こと
)
だよ』
152
与
(
よ
)
『ポリスでも
判任官
(
はんにんくわん
)
か……
判任官
(
はんにんくわん
)
の
目下
(
めした
)
ぢやないか』
153
弥
(
や
)
『その
点
(
てん
)
はしつかりと
判任
(
はんにん
)
せぬワイ、
154
マアどうでも
好
(
よ
)
いワ、
155
貴様
(
きさま
)
も
一人前
(
いちにんまへ
)
の
人間
(
にんげん
)
になるのだ。
156
一人
(
ひとり
)
一党
(
いつたう
)
主義
(
しゆぎ
)
で、
157
快活
(
くわいくわつ
)
に
誰
(
たれ
)
憚
(
はばか
)
る
所
(
ところ
)
もなく、
158
無限
(
むげん
)
の
天地
(
てんち
)
に
活躍
(
くわつやく
)
するのが
人間
(
にんげん
)
の
本分
(
ほんぶん
)
だ』
159
与
(
よ
)
『エーソンナ
雑談
(
ざつだん
)
は
中止
(
ちうし
)
解散
(
かいさん
)
を
命
(
めい
)
じます』
160
弥
(
や
)
『
聴衆
(
ちやうしう
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
立
(
た
)
ち、
161
喧々
(
けんけん
)
囂々
(
がうがう
)
収拾
(
しうしう
)
す
可
(
べか
)
らずと
云
(
い
)
ふ
幕
(
まく
)
だな、
162
アハヽヽヽ』
163
勝
(
かつ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
164
吾々
(
われわれ
)
は
米
(
こめ
)
喰
(
く
)
ふ
虫
(
むし
)
だ、
165
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
つては
戦
(
いくさ
)
が
出来
(
でき
)
ない、
166
何
(
なん
)
とか
兵糧
(
ひやうろう
)
を
工面
(
くめん
)
せなくてはなりますまい』
167
六
(
ろく
)
『
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なされますな、
168
今日
(
こんにち
)
の
兵站部
(
へいたんぶ
)
は
私
(
わたくし
)
が
担任
(
たんにん
)
致
(
いた
)
しませう、
169
お
粗末
(
そまつ
)
な
物
(
もの
)
であなた
方
(
がた
)
等
(
ら
)
のお
口
(
くち
)
には
合
(
あ
)
ひますまいが、
170
大事
(
だいじ
)
なければ、
171
召
(
めし
)
あがつて
下
(
くだ
)
さいませ』
172
と
背中
(
せなか
)
の
風呂敷
(
ふろしき
)
から
固
(
かた
)
パンを
出
(
だ
)
した。
173
勝
(
かつ
)
『アー
有難
(
ありがた
)
い、
174
腹
(
はら
)
がカツカツして
殆
(
ほとん
)
ど
渇命
(
かつめい
)
にも
及
(
およ
)
ばむとする
所
(
ところ
)
だつたよ』
175
弥
(
や
)
『コラコラ
六
(
ろく
)
でもない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふない、
176
六公
(
ろくこう
)
、
177
人様
(
ひとさま
)
に
物
(
もの
)
を
上
(
あ
)
げるのに、
178
粗末
(
そまつ
)
だとか、
179
お
口
(
くち
)
に
合
(
あ
)
ひますまいとか、
180
そら
何
(
な
)
んだ、
181
チツト
言霊
(
ことたま
)
を
慎
(
つつし
)
まないか。
182
これは
美味
(
おい
)
しいから
献
(
あ
)
げませう、
183
うまいから
食
(
く
)
つて
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さいと
言
(
い
)
ふのが
礼儀
(
れいぎ
)
ぢやないか……、
184
ナンダ
失敬
(
しつけい
)
な、
185
食
(
く
)
はれぬ
様
(
やう
)
な
物
(
もの
)
や、
186
粗末
(
そまつ
)
なものを
人
(
ひと
)
に
進上
(
しんじやう
)
するといふ
事
(
こと
)
があるかい。
187
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
物
(
もの
)
を
献
(
あ
)
げるのにも、
188
蜜柑
(
みかん
)
の
五
(
いつ
)
つ
位
(
くらゐ
)
のピラミツドを
拵
(
こしら
)
へて、
189
蕪
(
かぶら
)
や
大根
(
だいこん
)
人参
(
にんじん
)
位
(
ぐらゐ
)
をあしらひ、
190
千切
(
せんぎり
)
や
昆布
(
こんぶ
)
、
191
和布
(
わかめ
)
、
192
果実
(
このみ
)
、
193
小鮎
(
こあゆ
)
、
194
ジヤコ
位
(
ぐらゐ
)
をチヨンビリ
奉
(
たてまつ
)
つて、
195
海河
(
うみかは
)
山野
(
やまぬの
)
種々
(
くさぐさ
)
の
美味物
(
うましもの
)
を、
196
八足
(
やたり
)
の
机代
(
つくゑしろ
)
に
横山
(
よこやま
)
の
如
(
ごと
)
く
置足
(
おきた
)
らはして
奉
(
たてまつ
)
る
状
(
さま
)
を、
197
平
(
たひら
)
けく
安
(
やす
)
らけく
聞
(
きこ
)
し
召
(
め
)
せ、
198
ポンポン………とやるぢやないか』
199
六
(
ろく
)
『ハイハイ、
200
あなたの
御
(
ご
)
趣意
(
しゆい
)
は
徹底
(
てつてい
)
しました。
201
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたくし
)
の
本心
(
ほんしん
)
は、
202
この
麺包
(
パン
)
は
美味
(
おい
)
しい
結構
(
けつこう
)
なものだと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
るのだが、
203
一寸
(
ちよつと
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
をして、
204
お
粗末
(
そまつ
)
だとか、
205
お
口
(
くち
)
に
合
(
あ
)
ふまいと
言
(
い
)
つたのですワ』
206
弥
(
や
)
『
口
(
くち
)
と
心
(
こころ
)
の
違
(
ちが
)
ふ
横道者
(
わうだうもの
)
だナア、
207
虚偽
(
きよぎ
)
虚飾
(
きよしよく
)
パノラマ
式
(
しき
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けて、
208
得々然
(
とくとくぜん
)
として
居
(
を
)
るとは、
209
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
心得
(
こころえ
)
ちがひだ。
210
ソンナ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
211
五十万
(
ごじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
の
十九
(
じふきう
)
世紀
(
せいき
)
から
二十
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
の
初期
(
しよき
)
にかけて
生
(
うま
)
れた、
212
人三
(
にんさん
)
化七
(
ばけしち
)
の
吐
(
ほざ
)
く
巧妙
(
こうめう
)
な
辞令
(
じれい
)
だ、
213
チツト
確乎
(
しつかり
)
せぬかい』
214
六
(
ろく
)
『
益々
(
ますます
)
以
(
もつ
)
て
不可解
(
ふかかい
)
千万
(
せんばん
)
、
215
合点
(
がてん
)
の
虫
(
むし
)
がどうしても
検定
(
けんてい
)
済
(
ず
)
みにして
呉
(
く
)
れませぬワイ』
216
弥
(
や
)
『まだ
貴様
(
きさま
)
は
分
(
わか
)
らないのか』
217
六
(
ろく
)
『
日本
(
にほん
)
や
支那
(
しな
)
の
道徳
(
だうとく
)
を
混乱
(
こんらん
)
して
言
(
い
)
つたつて
和漢乱
(
わかんらん
)
は
当然
(
たうぜん
)
ぢやないか、
218
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
正直
(
しやうぢき
)
と
誠実
(
まこと
)
の
行
(
おこな
)
ひをお
喜
(
よろこ
)
びなさるのに、
219
ナンダ、
220
お
粗末
(
そまつ
)
の
物
(
もの
)
を、
221
ホンの
後家
(
ごけ
)
婆
(
ばば
)
アの
世帯
(
しよたい
)
ほど
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
奉
(
たてまつ
)
つて、
222
相嘗
(
あひな
)
めに
聞
(
きこ
)
し
召
(
め
)
せとか、
223
海河
(
うみかは
)
山野
(
やまぬ
)
の
種々
(
くさぐさ
)
の
美味物
(
うましもの
)
だとか、
224
横山
(
よこやま
)
の
如
(
ごと
)
く
置足
(
おきた
)
らはしてとか、
225
現幽
(
げんいう
)
一致
(
いつち
)
に
御
(
ご
)
透見
(
とうけん
)
遊
(
あそ
)
ばす
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
に、
226
虚偽
(
きよぎ
)
を
垂
(
た
)
れて、
227
商売
(
しやうばい
)
繁昌
(
はんぜう
)
、
228
家運
(
かうん
)
長久
(
ちやうきう
)
、
229
子孫
(
しそん
)
繁栄
(
はんゑい
)
、
230
無病
(
むびやう
)
息災
(
そくさい
)
、
231
願望
(
ぐわんばう
)
成就
(
じやうじゆ
)
、
232
天下
(
てんか
)
泰平
(
たいへい
)
、
233
国土
(
こくど
)
成就
(
じやうじゆ
)
、
234
五穀
(
ごこく
)
豊穣
(
ほうじやう
)
なぞと、
235
斎官
(
はふり
)
共
(
ども
)
が
吐
(
ぬか
)
すぢやないか、
236
一体
(
いつたい
)
全体
(
ぜんたい
)
この
点
(
てん
)
が
腑
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちないのだよ』
237
弥
(
や
)
『
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だなア、
238
この
天地
(
てんち
)
は
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はふ
国
(
くに
)
だ、
239
悪
(
わる
)
い
物
(
もの
)
でも
善
(
よ
)
く
詔直
(
のりなほ
)
すのだ。
240
少
(
すくな
)
い
物
(
もの
)
でも
沢山
(
たくさん
)
なやうに
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
すのだ、
241
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
に、
242
善
(
よ
)
い
物
(
もの
)
を
悪
(
わる
)
いと
言
(
い
)
ひ、
243
美味
(
うま
)
い
物
(
もの
)
をまづいと
云
(
い
)
ふのは、
244
言霊
(
ことたま
)
の
法則
(
はふそく
)
を
破壊
(
はくわい
)
すると
云
(
い
)
ふものだ。
245
世
(
よ
)
は
禁厭
(
まじなひ
)
と
言
(
い
)
つて、
246
勇
(
いさ
)
んで
暮
(
くら
)
せば
勇
(
いさ
)
む
事
(
こと
)
が、
247
とつかけ
引
(
ひ
)
つかけ
現
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
る、
248
悔
(
くや
)
めば
悔
(
くや
)
むほど
悔
(
くや
)
み
事
(
ごと
)
が
続発
(
ぞくはつ
)
するものだ、
249
それだから
人間
(
にんげん
)
は、
250
言霊
(
ことたま
)
を
清
(
きよ
)
くせなくてはならないのだよ』
251
六
(
ろく
)
『モシモシ
弥次彦
(
やじひこ
)
サン、
252
チツトの
物
(
もの
)
を
沢山
(
たくさん
)
だと
言
(
い
)
ひ、
253
味
(
あぢ
)
無
(
な
)
い
物
(
もの
)
を
美味
(
うま
)
い
物
(
もの
)
と
云
(
い
)
ふのは、
254
いはゆる
羊頭
(
やうとう
)
を
掲
(
かか
)
げて
狗肉
(
くにく
)
を
売
(
う
)
るといふものぢやないか。
255
ソンナ
事
(
こと
)
をすると、
256
現行
(
げんかう
)
刑法
(
けいはふ
)
第何条
(
だいなんでう
)
に
依
(
よ
)
つて
詐欺
(
さぎ
)
取財
(
しゆざい
)
の
告発
(
こくはつ
)
を
為
(
し
)
られますよ。
257
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
盲
(
めくら
)
ばつかりの
人間
(
にんげん
)
が
集
(
よ
)
つてたかつて
拵
(
こしら
)
へた
法律
(
はふりつ
)
でさへも、
258
是丈
(
これだけ
)
に
条理
(
でうり
)
整然
(
せいぜん
)
として
居
(
ゐ
)
るのだ、
259
况
(
ま
)
して
尊厳
(
そんげん
)
無比
(
むひ
)
なる
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に、
260
詐欺
(
さぎ
)
をやつて
良
(
い
)
い
気
(
き
)
で
済
(
す
)
まして
居
(
を
)
れると
思
(
おも
)
ふのか、
261
無感覚
(
むかんかく
)
にも
程
(
ほど
)
が
有
(
あ
)
るぢやないか』
262
弥
(
や
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だい、
263
人間
(
にんげん
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
水火
(
いき
)
から
生
(
うま
)
れた
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
だ、
264
少
(
すこ
)
しでも
間隔
(
かんかく
)
があつて
堪
(
たま
)
らうかい、
265
無
(
む
)
かんかく
が
当然
(
たうぜん
)
だよ』
266
六
(
ろく
)
『ヤア
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
へ
脱線
(
だつせん
)
しよつたな、
267
本当
(
ほんたう
)
に
脱線
(
だつせん
)
もない………』
268
弥
(
や
)
『
脱線
(
だつせん
)
は
流行
(
はやり
)
ものだい、
269
工事
(
こうじ
)
請負人
(
うけおひにん
)
と○○と
結托
(
けつたく
)
して○○をやるものだから、
270
広軌
(
くわうき
)
鉄道
(
てつだう
)
であらうが、
271
電鉄
(
でんてつ
)
だらうが、
272
直
(
すぐ
)
に
脱線
(
だつせん
)
転覆
(
てんぷく
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
273
善人
(
ぜんにん
)
は
悪人
(
あくにん
)
と
見做
(
みな
)
され、
274
悪人
(
あくにん
)
は
脱線
(
だつせん
)
して
善人
(
ぜんにん
)
になると
云
(
い
)
ふ
暗
(
くら
)
がりの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
275
吁
(
あゝ
)
脱線
(
だつせん
)
なる
哉
(
かな
)
脱線
(
だつせん
)
なる
哉
(
かな
)
だ、
276
アハヽヽ』
277
勝
(
かつ
)
『
広軌
(
くわうき
)
鉄道
(
てつだう
)
とか
電鉄
(
でんてつ
)
とか
云
(
い
)
ふものは、
278
それや
何処
(
どこ
)
に
敷設
(
ふせつ
)
されてるものですか』
279
弥
(
や
)
『ヤア
此
(
こ
)
れから
数十万
(
すうじふまん
)
年後
(
ねんご
)
の、
280
餓鬼道
(
がきだう
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の、
281
文明
(
ぶんめい
)
の
利器
(
りき
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
の
付
(
つ
)
く
化物
(
ばけもの
)
のことだよ。
282
アハヽヽヽ』
283
六
(
ろく
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
あなたの
滑車
(
くわつしや
)
は
能
(
よ
)
く
運転
(
うんてん
)
しますな、
284
万丈
(
ばんぢやう
)
の
気焔
(
きえん
)
を
吐
(
は
)
いて、
285
我々
(
われわれ
)
を
煙
(
けむり
)
に
巻
(
ま
)
き、
286
雲煙
(
うんえん
)
糢糊
(
もこ
)
として
四辺
(
しへん
)
を
包
(
つつ
)
む
態
(
てい
)
の
鼻息
(
はないき
)
、
287
イヤモウ
恐縮
(
きようしゆく
)
軍縮
(
ぐんしゆく
)
の
至
(
いた
)
りですよ』
288
与
(
よ
)
『
随分
(
ずゐぶん
)
巨大
(
きよだい
)
なクルツプ
砲
(
はう
)
が
装置
(
さうち
)
されて
有
(
あ
)
ると
見
(
み
)
えますワイ、
289
ホー
砲
(
はう
)
、
290
砲
(
はう
)
、
291
砲
(
はう
)
、
292
ホー』
293
弥
(
や
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だよ、
294
与太公
(
よたこう
)
や
六公
(
ろくこう
)
の
様
(
やう
)
な、
295
与太六
(
よたろく
)
とはチツト
原料
(
げんれう
)
が
違
(
ちが
)
ふのだ、
296
特別
(
とくべつ
)
大
(
だい
)
極
(
ごく
)
上等
(
じやうとう
)
の、
297
豊富
(
ほうふ
)
なる
原料
(
げんれう
)
を
以
(
もつ
)
て、
298
鍛錬
(
たんれん
)
に
鍛錬
(
たんれん
)
を
加
(
くは
)
へ、
299
製造
(
せいざう
)
したる
至貴
(
しき
)
至重
(
しちよう
)
なる
身魂
(
みたま
)
の
持主
(
もちぬし
)
だ、
300
古今
(
ここん
)
に
類例
(
るゐれい
)
を
絶
(
た
)
つと
云
(
い
)
ふ
逸物
(
いつぶつ
)
だから、
301
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つたつて、
302
弥次彦
(
やじひこ
)
の
足型
(
あしがた
)
をも
踏
(
ふ
)
めさうな
事
(
こと
)
はないのだ』
303
勝
(
かつ
)
『モシモシ
弥次彦
(
やじひこ
)
サン、
304
あなたは
余程
(
よほど
)
自尊心
(
じそんしん
)
の
旺盛
(
わうせい
)
強烈
(
きやうれつ
)
なる
御
(
ご
)
人格者
(
じんかくしや
)
ですネー、
305
自分
(
じぶん
)
を
称
(
しよう
)
して
弥次彦
(
やじひこ
)
サンと
敬語
(
けいご
)
を
使
(
つか
)
ひ、
306
友人
(
いうじん
)
に
対
(
たい
)
しては、
307
与太公
(
よたこう
)
だの、
308
六公
(
ろくこう
)
だのと、
309
恰
(
あたか
)
も
君王
(
くんわう
)
が
僕
(
しもべ
)
に
対
(
たい
)
する
様
(
やう
)
な
傲慢
(
ごうまん
)
不遜
(
ふそん
)
の
御
(
ご
)
態度
(
たいど
)
、
310
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬお
振舞
(
ふるまひ
)
、
311
どこで
勘定
(
かんぢやう
)
が
違
(
ちが
)
つたのでせう。
312
これもやつぱり
脱線
(
だつせん
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
感化
(
かんくわ
)
をお
受
(
う
)
けになつたのぢやありますまいかな』
313
弥
(
や
)
『ソンナラ
是
(
これ
)
から
与太彦
(
よたひこ
)
サン、
314
六公
(
ろくこう
)
サンと
詔
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しますが、
315
しかしよく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
なさい、
316
神
(
かみ
)
を
敬
(
けい
)
する
如
(
ごと
)
く
人
(
ひと
)
を
敬
(
けい
)
し、
317
我身
(
わがみ
)
を
敬
(
けい
)
すべしと
云
(
い
)
ふ
信条
(
しんでう
)
が
三五教
(
あななひけう
)
の
何処
(
どつか
)
に
有
(
あ
)
つたやうに
思
(
おも
)
ひます。
318
我々
(
われわれ
)
は
無限
(
むげん
)
絶対力
(
ぜつたいりよく
)
の
至貴
(
しき
)
至尊
(
しそん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
水火
(
いき
)
を
以
(
もつ
)
て
生
(
うま
)
れ
出
(
い
)
で、
319
天地
(
てんち
)
経綸
(
けいりん
)
の
司宰者
(
しさいしや
)
たる
特権
(
とくけん
)
を
賦与
(
ふよ
)
されて
居
(
を
)
る
者
(
もの
)
ではありませぬか、
320
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
なり、
321
神
(
かみ
)
は
人
(
ひと
)
なり、
322
神人
(
しんじん
)
合一
(
がふいつ
)
して
茲
(
ここ
)
に
無限
(
むげん
)
の
権力
(
けんりよく
)
を
発揮
(
はつき
)
するのでせう。
323
吾々
(
われわれ
)
の
霊肉
(
れいにく
)
共
(
とも
)
に
決
(
けつ
)
して
私有物
(
しいうぶつ
)
ではありませぬ、
324
みな
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
預
(
あづか
)
り
物
(
もの
)
です、
325
さうだから、
326
弥次彦
(
やじひこ
)
サンと
云
(
い
)
つたつて
別
(
べつ
)
に
少
(
すこ
)
しの
矛盾
(
むじゆん
)
も
撞着
(
どうちやく
)
もないぢやありませぬか。
327
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
は、
328
大蛇
(
おろち
)
を
退治
(
たいぢ
)
て、
329
串稲田
(
くしなだ
)
姫
(
ひめ
)
と
芽出度
(
めでた
)
く
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
び
給
(
たま
)
ふた
時
(
とき
)
に、
330
自分
(
じぶん
)
の
胸
(
むね
)
を
抑
(
おさ
)
へて「あが
御心
(
みこころ
)
すがすがし」と、
331
自分
(
じぶん
)
が
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
を
敬
(
うやま
)
はせ
給
(
たま
)
ひ、
332
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
は「われは
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
なり」と
自
(
みづか
)
ら
敬語
(
けいご
)
をお
使
(
つか
)
ひになつた。
333
昔
(
むかし
)
の
帝
(
みかど
)
様
(
さま
)
は
葛城山
(
かつらぎざん
)
に
狩猟
(
かり
)
をなされた
時
(
とき
)
にも、
334
その
御腕
(
みうで
)
に
虻
(
あぶ
)
が
食
(
く
)
ひ
付
(
つ
)
いた、
335
その
時
(
とき
)
に「あが
御腕
(
みたたむき
)
虻
(
あぶ
)
かきつき」と
詔
(
の
)
らせ
給
(
たま
)
ふたぢやありませぬか、
336
これを
見
(
み
)
ても
敬語
(
けいご
)
と
云
(
い
)
ふものは、
337
どこまでも
使用
(
しよう
)
せなくてはなりませぬよ、
338
決
(
けつ
)
して
等閑
(
とうかん
)
に
附
(
ふ
)
すべき
問題
(
もんだい
)
ではなからうと
拝察
(
はいさつ
)
するのです。
339
今
(
いま
)
の
奴
(
やつ
)
は、
340
君主
(
くんしゆ
)
でもない
友人
(
いうじん
)
に
対
(
たい
)
して、
341
君
(
きみ
)
とか、
342
賢兄
(
けんけい
)
とか
言
(
い
)
ひ、
343
僕
(
しもべ
)
でもないのに
僕
(
ぼく
)
だとか
拙者
(
せつしや
)
だとか
云
(
い
)
つて、
344
虚偽
(
きよぎ
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
送
(
おく
)
り
得意
(
とくい
)
がつて
居
(
を
)
る
逆様
(
さかさま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
345
自分
(
じぶん
)
の
父
(
ちち
)
ほど
賢
(
かしこ
)
い
者
(
もの
)
は
無
(
な
)
い、
346
母
(
はは
)
ほど
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
は
無
(
な
)
いと
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
で
褒
(
ほ
)
めて
居乍
(
ゐなが
)
ら、
347
愚父
(
ぐふ
)
だとか、
348
愚母
(
ぐぼ
)
だとか
言
(
い
)
ひ、
349
自分
(
じぶん
)
の
息子
(
むすこ
)
は
悧巧
(
りこう
)
だ、
350
他家
(
よそ
)
の
息子
(
むすこ
)
は
馬鹿
(
ばか
)
だ、
351
天保銭
(
てんぽうせん
)
だと
心
(
こころ
)
に
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
352
自分
(
じぶん
)
の
子
(
こ
)
を
称
(
しよう
)
して、
353
愚息
(
ぐそく
)
だとか、
354
拙息
(
せつそく
)
だとか
豚児
(
とんじ
)
だとか
吐
(
ほざ
)
き、
355
他人
(
たにん
)
の
馬鹿
(
ばか
)
息子
(
むすこ
)
や、
356
鼻垂
(
はなたれ
)
小僧
(
こぞう
)
を
御
(
ご
)
賢息
(
けんそく
)
だとか、
357
御
(
ご
)
令息
(
れいそく
)
だとか
言
(
い
)
つて、
358
嘘
(
うそ
)
で
固
(
かた
)
めてゐる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
359
本当
(
ほんたう
)
に
冠履
(
くわんり
)
転倒
(
てんたう
)
とはこの
事
(
こと
)
だ。
360
女郎
(
じよらう
)
の
言
(
い
)
ひ
分
(
ぶん
)
ぢやないが、
361
「
口
(
くち
)
で
悪
(
わる
)
う
言
(
い
)
ふて
心
(
こころ
)
で
褒
(
ほ
)
めて、
362
蔭
(
かげ
)
の
のろけ
が
聞
(
き
)
かしたい」と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な、
363
娼婦
(
しやうふ
)
的
(
てき
)
奴根性
(
どこんじやう
)
の
人間
(
にんげん
)
許
(
ばか
)
りだから、
364
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
逆様
(
さかさま
)
ばつかり
出来
(
でき
)
るのだ。
365
一日
(
いちじつ
)
も
早
(
はや
)
く
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
を
天下
(
てんか
)
に
宣明
(
せんめい
)
して、
366
第一
(
だいいち
)
着手
(
ちやくしゆ
)
として、
367
この
言霊
(
ことたま
)
の
詔直
(
のりなほ
)
しを
始
(
はじ
)
めなくては、
368
何時
(
いつ
)
までも
五六七
(
みろく
)
の
神政
(
しんせい
)
は
樹立
(
じゆりつ
)
さるるものではありませぬワイ』
369
勝
(
かつ
)
『イヤア
是
(
これ
)
は
是
(
これ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
を
承
(
うけたま
)
はりました、
370
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふお
話
(
はなし
)
は
度々
(
たびたび
)
教
(
をし
)
へて
下
(
くだ
)
さいませ。
371
私
(
わたくし
)
も
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて、
372
この
通
(
とほ
)
り
変幻
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
、
373
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
続
(
つづ
)
けて
来
(
き
)
ましたが
未
(
ま
)
だその
点
(
てん
)
に
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
なかつたのです…………
吁
(
あゝ
)
、
374
何処
(
どこ
)
にドンナ
人
(
ひと
)
が
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
るやら、
375
何時
(
いつ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
口
(
くち
)
を
藉
(
か
)
つて、
376
戒
(
いまし
)
めて
下
(
くだ
)
さるやら、
377
分
(
わか
)
つたものぢやない。
378
アヽ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
379
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
380
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
381
与
(
よ
)
『コレコレ
弥次彦
(
やじひこ
)
サン、
382
お
前
(
まへ
)
は
又
(
また
)
、
383
日頃
(
ひごろ
)
の
言行
(
げんかう
)
にも
似
(
に
)
ず、
384
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
何故
(
なぜ
)
ソンナ
深遠
(
しんゑん
)
な
教理
(
けうり
)
を
説
(
と
)
いたのだい』
385
弥
(
や
)
『ナニ、
386
ナンダカ
口
(
くち
)
が
辷
(
すべ
)
つて、
387
中
(
なか
)
から
何者
(
なにもの
)
かが
言
(
い
)
ひよつたのだい、
388
弥次彦
(
やじひこ
)
の
知
(
し
)
つた
事
(
こと
)
かい、
389
アハヽヽヽ』
390
勝
(
かつ
)
『ヤア
六
(
ろく
)
サン、
391
結構
(
けつこう
)
なお
弁当
(
べんたう
)
を
沢山
(
たくさん
)
頂戴
(
ちやうだい
)
いたしました、
392
これで
元気
(
げんき
)
も
快復
(
くわいふく
)
しました。
393
サア
徐々
(
そろそろ
)
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
、
394
テクル
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうかな』
395
弥
(
や
)
『コレコレ
勝彦
(
かつひこ
)
サン、
396
表
(
おもて
)
は
表
(
おもて
)
、
397
裏
(
うら
)
は
裏
(
うら
)
だ、
398
この
道中
(
だうちう
)
にソンナ
几帳面
(
きちやうめん
)
な
挨拶
(
あいさつ
)
は
免除
(
めんぢよ
)
して
下
(
くだ
)
さいな、
399
互
(
たがひ
)
に
無駄口
(
むだぐち
)
の
叩
(
たた
)
き
合
(
あひ
)
で、
400
われ、
401
俺
(
おれ
)
で
行
(
ゆ
)
きませうかい、
402
何
(
なん
)
だか
肩
(
かた
)
が
凝
(
こ
)
つて
疲労
(
ひらう
)
の
度
(
ど
)
を
増
(
ま
)
す
様
(
やう
)
だから…………のう
勝公
(
かつこう
)
、
403
与太六
(
よたろく
)
』
404
与
(
よ
)
『
与太六
(
よたろく
)
とはあまり
酷
(
ひど
)
いちやないか』
405
弥
(
や
)
『
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
いから、
406
与太公
(
よたこう
)
と
六公
(
ろくこう
)
とを
併合
(
へいがふ
)
したのだ、
407
会社
(
くわいしや
)
でもチツト
左前
(
ひだりまへ
)
になると
併合
(
へいがふ
)
するものだよ』
408
与
(
よ
)
『
今
(
いま
)
俺
(
おれ
)
はパンを
鱈腹
(
たらふく
)
食
(
く
)
つたのだ、
409
空腹前
(
ひだるまへ
)
所
(
どころ
)
か、
410
これ
見
(
み
)
い、
411
この
通
(
とほ
)
りの
太
(
ふと
)
つ
腹
(
ぱら
)
だ』
412
弥
(
や
)
『ホンにホンに、
413
全然
(
まるで
)
鰒
(
ふぐ
)
の
横飛
(
よことび
)
見
(
み
)
たやうな
土手
(
どて
)
つ
腹
(
ぱら
)
だな、
414
蟇
(
ふくがへる
)
の
行列
(
ぎやうれつ
)
か、
415
鰒
(
ふぐ
)
の
陳列会
(
ちんれつくわい
)
か、
416
イヤモウ
何
(
な
)
んともかとも
形容
(
けいよう
)
の
出来
(
でき
)
ないお
姿
(
すがた
)
だ、
417
コンナ
所
(
とこ
)
を
三面
(
さんめん
)
記者
(
きしや
)
にでも
見
(
み
)
つけられた
位
(
くらゐ
)
なら、
418
直
(
すぐ
)
に
新聞
(
しんぶん
)
の
材料
(
ざいれう
)
だよ。
419
アハヽヽヽ』
420
折
(
をり
)
から
小鹿山
(
こしかやま
)
の
山颪
(
やまおろし
)
、
421
木
(
き
)
も
倒
(
たふ
)
れ
岩
(
いは
)
も
飛
(
と
)
べよと
許
(
ばか
)
りに
吹
(
ふ
)
き
来
(
きた
)
る。
422
弥
(
や
)
『ヨー
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
、
423
一寸
(
ちよつと
)
洒落
(
しやれ
)
てゐよるなア。
424
吹
(
ふ
)
くなら
吹
(
ふ
)
け、
425
大砲
(
たいはう
)
の
弥次彦
(
やじひこ
)
がご
通行
(
つうかう
)
だ、
426
反対
(
あべこべ
)
に
吹飛
(
ふきと
)
ばしてやらうか』
427
与
(
よ
)
『アハヽヽヽ、
428
偉
(
えら
)
い
元気
(
げんき
)
だのう、
429
しかし
何
(
なに
)
ほど
弥次
(
やじ
)
サンが
黄糞
(
かにここ
)
をこいて、
430
金
(
きん
)
の
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
気張
(
きば
)
つた
所
(
ところ
)
で、
431
的
(
てき
)
サンは
洒々
(
しやしや
)
落々
(
らくらく
)
、
432
風
(
ふう
)
馬牛
(
ばぎう
)
といふ
御
(
ご
)
態度
(
たいど
)
だから、
433
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まいかい』
434
弥
(
や
)
『ヨーヨーこれや
意外
(
いぐわい
)
の
強風
(
きやうふう
)
だぞ、
435
二人
(
ふたり
)
づつ
肩
(
かた
)
と
肩
(
かた
)
とを
から
組
(
く
)
んで
進
(
すす
)
まうかい…………
与太六
(
よたろく
)
、
436
貴様
(
きさま
)
は
一組
(
ひとくみ
)
だ、
437
弥次彦
(
やじひこ
)
は
勝公
(
かつこう
)
と
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んで、
438
単梯陣
(
たんていぢん
)
を
張
(
は
)
つて、
439
驀地
(
まつしぐら
)
に
進軍
(
しんぐん
)
だ。
440
小舟
(
こぶね
)
に
乗
(
の
)
つて
大海
(
たいかい
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
にも、
441
暴風
(
ばうふう
)
怒濤
(
どたう
)
に
出会
(
であ
)
つた
時
(
とき
)
には、
442
舟
(
ふね
)
と
舟
(
ふね
)
と
二艘
(
にそう
)
一所
(
いつしよ
)
に
合
(
あ
)
はして
連結
(
からく
)
んで
置
(
お
)
くと、
443
容易
(
ようい
)
に
顛覆
(
てんぷく
)
せないものだ。
444
舟
(
ふね
)
じやないけれど、
445
吾々
(
われわれ
)
は
風
(
かぜ
)
に
対
(
たい
)
する
風船玉
(
ふうせんだま
)
の
難
(
なん
)
を
避
(
さ
)
ける
為
(
ため
)
に、
446
連結
(
からく
)
んで
風
(
かぜ
)
の
波
(
なみ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
渡
(
わた
)
る
事
(
こと
)
とせうかい。
447
グヅグヅして
居
(
を
)
ると
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
渓谷
(
けいこく
)
へ
顛覆
(
てんぷく
)
沈没
(
ちんぼつ
)
の
厄
(
やく
)
に
遭
(
あ
)
ふかも
知
(
し
)
れない。
448
サアサア
早
(
はや
)
く
早
(
はや
)
く、
449
連結
(
からく
)
んだ
連結
(
からく
)
んだ』
450
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
二人
(
ふたり
)
づつ
肩
(
かた
)
と
肩
(
かた
)
とを
組
(
く
)
み
合
(
あは
)
せ、
451
風
(
かぜ
)
に
向
(
むか
)
つて
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に、
452
前方
(
ぜんぱう
)
三十五
(
さんじふご
)
度
(
ど
)
の
傾斜体
(
けいしやたい
)
で
坂路
(
さかみち
)
を
跋渉
(
ばつせふ
)
する。
453
与
(
よ
)
『イヨー
此奴
(
こいつ
)
ア
猛烈
(
まうれつ
)
だ、
454
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
455
どう
予算
(
よさん
)
を
狂
(
くる
)
はせよつたのか、
456
勿体
(
もつたい
)
なくも、
457
天地
(
てんち
)
経綸
(
けいりん
)
の
司宰者
(
しさいしや
)
たる
人間
(
にんげん
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
通行
(
つうかう
)
遊
(
あそ
)
ばすのに、
458
恐
(
おそ
)
れ
気
(
げ
)
もなく
前途
(
ぜんと
)
を
抗塞
(
かうそく
)
するとは、
459
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
だ。
460
ヤア
六公
(
ろくこう
)
、
461
しつかりせぬかい、
462
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばされるぞ』
463
六
(
ろく
)
『これ
位
(
くらゐ
)
な
風
(
かぜ
)
に
吹飛
(
ふきと
)
ばされる
気遣
(
きづかひ
)
はないが、
464
弥次彦
(
やじひこ
)
サンの
気焔
(
きえん
)
には
随分
(
ずゐぶん
)
吹飛
(
ふきと
)
ばされさうだ。
465
アハヽヽヽ』
466
弥
(
や
)
『コラコラ、
467
貴様
(
きさま
)
何
(
なに
)
をグヅグヅ
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
よるのだい、
468
この
烈風
(
れつぷう
)
に
確乎
(
しつかり
)
勇気
(
ゆうき
)
を
出
(
だ
)
して
進
(
すす
)
まないと、
469
内閣
(
ないかく
)
の
乗取
(
のつとり
)
は
不可能
(
ふかのう
)
だぞ、
470
グヅグヅしてると、
471
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
行
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で
流産
(
りうざん
)
内閣
(
ないかく
)
になつて
了
(
しま
)
ふかも
知
(
し
)
れないぞ』
472
与
(
よ
)
『エー
八釜
(
やかま
)
しう
言
(
い
)
ふない、
473
如何
(
いか
)
に
神出
(
しんしゆつ
)
鬼没
(
きぼつ
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
でも、
474
ハヤこの
風
(
かぜ
)
に
向
(
むか
)
つて、
475
どうして
突喊
(
とつかん
)
が
出来
(
でき
)
るものかい、
476
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
でさへも
中空
(
ちうくう
)
に
巻
(
ま
)
きあげると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
鼻息
(
はないき
)
だ、
477
チツト
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
も、
478
聞直
(
ききなほ
)
して
呉
(
く
)
れさうなものだな、
479
この
谷間
(
たにま
)
へでも
落
(
お
)
ちて
見
(
み
)
よれ、
480
又
(
また
)
候
(
ぞろ
)
幽界
(
いうかい
)
の
旅行
(
りよかう
)
をやらねばならぬぞ』
481
弥
(
や
)
『そら
何
(
なに
)
を
幽界
(
いうかい
)
、
482
悲観
(
ひくわん
)
するな、
483
モツト
愉快
(
ゆくわい
)
になつて、
484
風
(
かぜ
)
を
突
(
つ
)
いて
突進
(
とつしん
)
するのだ』
485
与
(
よ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
貴様
(
きさま
)
のやうな
無茶
(
むちや
)
な
事
(
こと
)
は、
486
俺
(
おれ
)
には
到底
(
たうてい
)
不可能
(
ふかのう
)
だ。
487
如何
(
いか
)
に
人間
(
にんげん
)
が
賢
(
かしこ
)
いと
云
(
い
)
つてもコンナ
記録
(
きろく
)
破
(
やぶ
)
りの
暴風
(
ばうふう
)
に
出会
(
でくわ
)
しては、
488
人間
(
にんげん
)
としては
到底
(
たうてい
)
不可抗力
(
ふかかうりよく
)
だ、
489
………オイ
一寸
(
ちよつと
)
そこらで
一服
(
いつぷく
)
したらどうだい』
490
弥
(
や
)
『
三五教
(
あななひけう
)
に
退却
(
たいきやく
)
の
二字
(
にじ
)
はないぞ、
491
どこ
迄
(
まで
)
も
唯
(
ただ
)
進
(
すす
)
むの
一事
(
いちじ
)
あるのみだ。
492
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
、
493
何時
(
いつ
)
までも
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
だつて、
494
さう
資本
(
しほん
)
が
続
(
つづ
)
くものぢやない。
495
グヅグヅ
吐
(
ぬ
)
かすと
足手纏
(
あしてまと
)
ひになるから、
496
貴様
(
きさま
)
と
俺
(
おれ
)
とは
最早
(
もはや
)
国交
(
こくかう
)
断絶
(
だんぜつ
)
だ、
497
旅券
(
りよけん
)
を
交附
(
かうふ
)
してやるから、
498
サツサと
本国
(
ほんごく
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
したが
宜
(
よ
)
からうぞ』
499
与
(
よ
)
『アーア
仕方
(
しかた
)
のない
頓馬助
(
とんますけ
)
だナア……オイ
六公
(
ろくこう
)
、
500
マア
見
(
み
)
とれ、
501
向意気
(
むこいき
)
ばつかり
強
(
つよ
)
いが、
502
タツタ
今
(
いま
)
風
(
かぜ
)
に
煽
(
あふ
)
られて、
503
再
(
ふたたび
)
幽冥界
(
いうめいかい
)
の
探険
(
たんけん
)
と
出
(
で
)
かけるのが
落
(
おち
)
だぞ』
504
この
時
(
とき
)
山岳
(
さんがく
)
も
崩
(
くづ
)
れ、
505
蒼天
(
さうてん
)
墜落
(
つゐらく
)
するかと
思
(
おも
)
はるる
許
(
ばか
)
りの
音響
(
おんきやう
)
と
共
(
とも
)
に、
506
最大
(
さいだい
)
強烈
(
きやうれつ
)
なる
暴風
(
ばうふう
)
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
るよと
見
(
み
)
る
間
(
ま
)
に、
507
弥次彦
(
やじひこ
)
の
羽織
(
はおり
)
袴
(
はかま
)
の
袂
(
たもと
)
に
風
(
かぜ
)
を
含
(
ふく
)
んで、
508
勝彦
(
かつひこ
)
と
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んだまま、
509
中空
(
ちうくう
)
に
吹
(
ふき
)
あげられ、
510
空中
(
くうちう
)
飛行
(
ひかう
)
の
曲芸
(
きよくげい
)
を
演
(
えん
)
じつつ、
511
風
(
かぜ
)
に
追
(
お
)
はれて
谷間
(
たにま
)
の
彼方
(
あなた
)
に、
512
悠々
(
いういう
)
として
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
513
不思議
(
ふしぎ
)
や
烈風
(
れつぷう
)
は、
514
嘘
(
うそ
)
をついた
様
(
やう
)
にケロリと
歇
(
や
)
んだ。
515
与
(
よ
)
『ヤア
大変
(
たいへん
)
だ、
516
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
い
風
(
かぜ
)
だないか、
517
弥次彦
(
やじひこ
)
を
吹飛
(
ふきと
)
ばして
置
(
お
)
きよつて、
518
それを
合図
(
あひづ
)
にピタリと
休戦
(
きうせん
)
の
喇叭
(
らつぱ
)
をふきよつた
様
(
やう
)
なものだ』
519
六
(
ろく
)
『あまり
弥次公
(
やじこう
)
は
大法螺
(
おほぼら
)
をふくものだから、
520
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
521
一
(
ひと
)
つ
懲
(
こら
)
しめてやらうと
思
(
おも
)
つて、
522
何
(
なん
)
でも
早
(
はや
)
うから
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
をやつて
居
(
を
)
つたのに
違
(
ちがひ
)
ないぞ、
523
何
(
なん
)
だか
夜前
(
やぜん
)
から
雲行
(
くもゆき
)
が
悪
(
わる
)
いと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
つた。
524
ヤア
夫
(
そ
)
れにしても
吾々
(
われわれ
)
はこの
儘
(
まま
)
に
放任
(
はうにん
)
して
置
(
お
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
い
)
かず、
525
滅多
(
めつた
)
に
天上
(
てんじやう
)
した
気遣
(
きづかひ
)
はなからうから、
526
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
捜索
(
そうさく
)
をせなければなるまいぞ』
527
与
(
よ
)
『ナアニ、
528
彼奴
(
あいつ
)
ア
風
(
かぜ
)
に
乗
(
の
)
つて、
529
コーカス
山
(
ざん
)
へお
先
(
さき
)
へ
失礼
(
しつれい
)
とも
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
はずに、
530
参詣
(
さんけい
)
しよつたのだらうよ。
531
アハヽヽヽ』
532
六
(
ろく
)
『ソンナ
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふて
居
(
を
)
る
場合
(
ばあひ
)
じやあるまい、
533
是
(
これ
)
から
両人
(
りやうにん
)
協心
(
けふしん
)
戮力
(
りくりよく
)
して、
534
両人
(
りやうにん
)
が
在処
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
さうじやないか』
535
与
(
よ
)
『
探
(
さが
)
すもよいが、
536
拙劣
(
へた
)
に
間誤
(
まご
)
つくと、
537
冥土
(
めいど
)
の
道伴
(
みちづれ
)
にならねばならないかも
知
(
し
)
れないぞ、
538
俺
(
おれ
)
はモウ
冥土
(
めいど
)
の
旅
(
たび
)
は
一度
(
いちど
)
経験
(
けいけん
)
を
積
(
つ
)
んだのだから、
539
余
(
あま
)
り
苦
(
くる
)
しいとも
思
(
おも
)
はぬが、
540
貴様
(
きさま
)
は
初旅
(
はつたび
)
だから
勝手
(
かつて
)
も
分
(
わか
)
らず、
541
随分
(
ずゐぶん
)
困
(
こま
)
るだらうよ』
542
六
(
ろく
)
『エー
ろく
でもない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふものじやないワ、
543
言霊
(
ことたま
)
の
幸
(
さち
)
はふ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だのに』
544
与
(
よ
)
『
風玉
(
かざだま
)
の
災
(
わざはひ
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ、
545
アハヽヽヽ』
546
二人
(
ふたり
)
は
弥次彦
(
やじひこ
)
、
547
勝彦
(
かつひこ
)
の
散
(
ち
)
りて
行
(
い
)
つた
方面
(
はうめん
)
を
指
(
さ
)
して、
548
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
を
変
(
か
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
549
急
(
いそ
)
いで
元
(
もと
)
来
(
き
)
し
道
(
みち
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し、
550
二人
(
ふたり
)
の
所在
(
ありか
)
を
捜索
(
そうさく
)
することとなつた。
551
吁
(
あゝ
)
、
552
二人
(
ふたり
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
はどうなつたであらう。
553
(
大正一一・三・二四
旧二・二六
松村真澄
録)
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