霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 楽隠居(らくいんきよ)〔五五六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第2篇 幽山霊水 よみ(新仮名遣い):ゆうざんれいすい
章:第6章 楽隠居 よみ(新仮名遣い):らくいんきょ 通し章番号:556
口述日:1922(大正11)年03月23日(旧02月25日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
弥次彦、与太彦、六の三人が小鹿峠を上がっていくと、路傍に大きな岩窟があった。岩窟の中には、三五教の勝公が捉えられていた。
勝公はウラル教の目付けの中に潜入していたが、音彦、弥次彦、与太彦が猿山峠に逃げる際に関所で目配せをして逃げ道を示してあげた。それが疑われて、岩窟に閉じ込められていたのであった。
三人は勝公を岩窟から出し、コーカス山に向かって祝詞を奏上した。弥次彦はこれまでの顛末を読み込んだ滑稽な宣伝歌を歌いながら、一行は小鹿峠を進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-19 01:43:57 文字数:4416 OBC :rm1406
愛善世界社版:99頁 八幡書店版:第3輯 193頁 修補版: 校定版:103頁 普及版:46頁 初版: ページ備考:
001 弥次(やじ)、002与太(よた)、003六公(ろくこう)の三(さん)人(にん)は、004怪訝(けげん)な顔(かほ)して小鹿峠(こしかたうげ)を登(のぼ)つて行(ゆ)く。005十七八(じふしちはつ)丁(ちやう)も来(き)たと思(おも)ふ頃(ころ)、006路傍(ろばう)に可(か)なり大(おほ)きな巌窟(がんくつ)のあるのに目(め)がついた。
007六(ろく)『弥次(やじ)サン、008与太(よた)サン、009非常(ひじやう)な狭(せま)い途(みち)になつたものだナア、010一方(いつぱう)は断巌(だんがん)絶壁(ぜつぺき)、011眼下(がんか)の谷川(たにがは)は激流(げきりう)飛沫(ひまつ)を飛(と)ばし実(じつ)に物凄(ものすご)き光景(くわうけい)、012一瞥(いちべつ)するも肌(はだ)に粟(あは)を生(しやう)ずるやうだ。013そのまた狭(せま)い途(みち)に大変(たいへん)な巌窟(がんくつ)が衝(つ)き立(た)つてゐるぢやないか。014彼奴(あいつ)はナンデも可笑(をか)しい奴(やつ)だ。015ウラル教(けう)の奴(やつ)がこの難所(なんしよ)に、016吾々(われわれ)を待(ま)ち受(う)けして居(ゐ)るのぢやあるまいか』
017弥(や)『ヤーホントに馬(うま)の背中(せなか)のやうな細(ほそ)い途(みち)に、018巌窟(がんくつ)がヌツト突(つ)き出(で)てゐよるワイ。019此奴(こいつ)は些(ち)とをかしいぞ。020一(ひと)つここらから石(いし)でも抛(ほ)つて瀬踏(せぶみ)して見(み)やうかい』
021与(よ)『よかろう、022一(ひと)つ測量(そくりやう)だ』
023と云(い)ひ乍(なが)ら、024手頃(てごろ)の石(いし)を掴(つか)んで三(さん)人(にん)一度(いちど)に速射砲(そくしやはう)的(てき)に、025巌窟(がんくつ)目蒐(めが)けてパチパチパチと打(う)ちつける。026巌窟(がんくつ)の中(なか)より、
027(岩窟の中より)『ヤーイ危(あぶ)ないわい。028何(なん)をテンゴするのだい』
029弥(や)『これほど岩(いは)を以(もつ)て固(かた)めた洞穴(ほらあな)に石(いし)が当(あた)つたつて応(こた)へるものか。030一寸(ちよつと)眠(ねむ)りを醒(さま)してやつたのだよ。031一体(いつたい)そこに居(を)る奴(やつ)は何者(なにもの)だ』
032巌窟(がんくつ)の中(なか)より『俺(おれ)だ俺(おれ)だ。033貴様(きさま)は誰(たれ)だい』
034弥(や)『俺(おれ)も俺(おれ)だ。035矢(や)つ張(ぱ)り人間(にんげん)だ』
036巌窟(がんくつ)の中(なか)より『貴様(きさま)はウラル教(けう)か、037三五教(あななひけう)か』
038弥(や)『三五教(あななひけう)のお方(かた)だよ』
039巌窟(がんくつ)の中(なか)より『オーさうか。040間違(まちが)ひはないか。041俺(おれ)も三五教(あななひけう)だ、042ウラル教(けう)の奴(やつ)に捉(つかま)へられて、043コンナ処(ところ)へ閉(と)ぢ込(こ)められたのだ。044助(たす)けて呉(く)れないか』
045与(よ)『オイオイ弥次公(やじこう)、046気(き)を付(つ)けないといかないぞ。047悪神(あくがみ)の奴(やつ)、048ドンナ計略(けいりやく)をやつてゐよるか分(わか)つたものぢやないワ。049オイ巌窟(がんくつ)の中(なか)の代物(しろもの)、050貴様(きさま)は本当(ほんたう)に三五教(あななひけう)ならば何(なん)といふ名(な)だ、051言挙(ことあ)げせぬかい』
052巌窟(がんくつ)の中(なか)より『貴様(きさま)から名(な)を聞(き)かして呉(く)れ。053若(もし)もウラル教(けう)だと駄目(だめ)だからのう』
054与(よ)『ハー矢(や)つ張(ぱ)り此奴(こいつ)は三五教(あななひけう)らしいぞ。055中々(なかなか)語気(ごき)が確(しつ)かりしてゐる哩(わい)。056コンナ穴(あな)へ閉(と)ぢ込(こ)められて彼(あ)れだけの元気(げんき)のある奴(やつ)は三五教(あななひけう)式(しき)だ。057ウラル教(けう)の奴(やつ)ならきつと泣声(なきごゑ)を出(だ)しよつて、058「モーシモーシ、059上(のぼ)り下(くだ)りのお客(きやく)サン、060何卒(どうぞ)憐(あは)れと思召(おぼしめ)し、061難儀(なんぎ)な難儀(なんぎ)な私(わたくし)の境遇(きやうぐう)を憐(あは)れみ下(くだ)さいませ。062モーシモーシ、063通(とほ)り掛(がか)りのお旦那(だんな)様(さま)、064難儀(なんぎ)な盲目(めくら)でございます」と機械(きかい)的(てき)に乞食(こじき)もどきに吐(ぬ)かすのだけれど、065何処(どこ)となく言霊(ことたま)に強味(つよみ)があるやうだ。066不自由(ふじゆう)な巌窟(がんくつ)の中(なか)に閉(と)ぢ込(こ)められて居(を)つてさへ、067あれ丈(だ)けの元気(げんき)だから、068仮令(たとへ)ウラル教(けう)にしても少(すこ)しは気骨(きこつ)のある奴(やつ)だ。069一(ひと)つ外(そと)から揶揄(からかつ)て見(み)やうかい』
070弥(や)『それも面白(おもしろ)からう。071オイオイ巌窟(いはや)の中(なか)のご隠居(いんきよ)サン、072嘸(さぞ)や御(ご)退屈(たいくつ)でございませうナ』
073巌窟(がんくつ)の中(なか)より『エー滅相(めつさう)な、074小(ちい)さい穴(あな)が前(まへ)の方(はう)に開(あ)いて居(を)りますから、075時々(ときどき)外部(そと)を覗(のぞ)きますと、076小鹿川(こしかがは)の緑(みどり)紅(くれなゐ)こき混(ま)ぜて、077春色(しゆんしよく)豊(ゆたか)に飛沫(ひまつ)を飛(と)ばす川(かは)の流(なが)れ、078実(じつ)に天下(てんか)の絶景(ぜつけい)ですよ。079お前(まへ)サンも年(とし)が寄(よ)つて隠居(いんきよ)をするのならコンナ所(ところ)を選(えら)んで、080常磐(ときは)堅磐(かきは)に鎮座(ちんざ)するのだな』
081弥(や)『此奴(こいつ)は面白(おもしろ)い奴(やつ)だ。082オイオイご隠居(いんきよ)サン、083お前(まへ)の年齢(とし)は幾(いく)つだ』
084巌窟(がんくつ)の男(をとこ)『俺(わし)かい、085どうやら斯(こ)うやら数(かぞ)へ年(どし)の三十(さんじふ)だよ』
086弥(や)『それはあまり若隠居(わかいんきよ)ぢやないか。087人間(にんげん)も三十(さんじふ)といへば元気(げんき)盛(ざか)りだ。088これから五十万(ごじふまん)年(ねん)の未来(みらい)に於(おい)て、089支那(しな)に丘(きう)とか孟(まう)とか云(い)ふ奴(やつ)が現(あら)はれて、090三十(さんじふ)にして立(た)つとか吐(ほざ)くぢやないか。091今(いま)から隠居(いんきよ)するのはチト勿体(もつたい)ないぞ。092一体(いつたい)お前(まへ)は何(なん)と云(い)ふ男(をとこ)だい』
093巌窟(がんくつ)の中(なか)より『俺(おれ)は元(もと)はウラル教(けう)の信者(しんじや)であつたが石凝姥(いしこりどめ)の宣伝使(せんでんし)がコーカス山(ざん)へ往(ゆ)く時(とき)に、094孔雀姫(くじやくひめ)の館(やかた)に巡(めぐ)り会(あ)ふて、095それから改心(かいしん)を致(いた)し三五教(あななひけう)になつたのだが、096神(かみ)様(さま)に対(たい)して一(ひと)つの功(こう)もよう立(た)てないので、097ナントカ御用(ごよう)に立(た)たねばならぬと、098また元(もと)のウラル教(けう)へ表面(へうめん)復帰(ふくき)して捕手(とりて)の役(やく)に加(くは)はつて居(を)つたのだ。099さうした所(ところ)が三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)が二人(ふたり)の供(とも)を伴(つ)れて関所(せきしよ)に迷(まよ)ひ込(こ)んで来(き)た。100俺(おれ)たちの同僚(どうれう)は血(ち)のついた出刃(でば)を以(もつ)て猪(しし)を料理(れうり)して居(を)つた所(ところ)、101三五教(あななひけう)の奴(やつ)が来(き)たので、102いつそのこと荒料理(あられうり)をしてやらうかと、103側(はた)の奴(やつ)が吐(ぬか)すので俺(おれ)も堪(たま)らぬやうになり、104三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)に一寸(ちよつと)目配(めくば)せしたら、105押戸(おしど)を開(あ)けて一目散(いちもくさん)に遁(に)げて了(しま)つた。106サア、107さうすると同僚(どうれう)の奴(やつ)、108貴様(きさま)は変(へん)な奴(やつ)だ。109やつぱり三五教(あななひけう)の臭味(しうみ)が脱(ぬ)けぬと見(み)えて、110何(なん)だか妙(めう)な合図(あひづ)をしよつた。111懲戒(こらしめ)のために無期限(むきげん)に此処(ここ)に蟄居(ちつきよ)せよと吐(ぬか)しよつて、112昨日(きのふ)から押(お)し込(こ)められたのだ。113俺(おれ)は三五教(あななひけう)の勝公(かつこう)といふ男(をとこ)だよ。114早(はや)く天(あま)の岩戸(いはと)を開(あ)けて俺(おれ)を救(すく)ひ出(だ)して呉(く)れないか』
115弥(や)『待(ま)て待(ま)て、116今(いま)天(あま)の岩戸(いはと)開(びら)きをやつてやらう。117オイ与太彦(よたひこ)、118貴様(きさま)は大麻(おほぬさ)を以(もつ)て祓(はら)ふ役(やく)だ。119俺(おれ)は天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)する、120六公(ろくこう)は何(なに)も供物(くもつ)が無(な)いから木(こ)の葉(は)でもむしつて御(お)供物(そなへもの)にするのだよ』
121勝(かつ)『エー洒落(しやれ)どころちやないワ。122早(はや)く開(あ)けて呉(く)れないか』
123弥(や)『定(きま)つたことよ。124あけたらくれるのは毎日(まいにち)定(きま)つてゐる。125あけてはくれあけてはくれ、126その日(ひ)その日(ひ)が暮(く)れるのだ。127アハヽヽヽ』
128勝(かつ)『エー辛気(しんき)くさい。129可(い)い加減(かげん)にじらして置(お)け』
130弥(や)『じらすとも、131貴様(きさま)はコンナ所(ところ)に窮窟(きうくつ)な目(め)をして、132可憐(いじ)らしい奴(やつ)だから此方(こちら)も意地(いぢ)でじらしてやるのだ。133アハヽヽヽ』
134与(よ)『オイオイ弥次彦(やじひこ)、135ソンナ与太(よた)を云(い)ふな。136早(はや)く開(あ)けてやらぬかい』
137弥(や)『開(あ)けて悔(くや)しい玉手箱(たまてばこ)、138後(あと)でコンナことだと知(し)つたなら開(あ)けぬが優(まし)であつたものを、139会(あ)ひたい見(み)たいと明暮(あけくれ)に、140ナンテ芝居(しばゐ)もどきに、141愁歎場(しうたんば)を見(み)せつけられては困(こま)るからなア』
142六(ろく)『エー碌(ろく)でもないことを云(い)ふ人(ひと)だナア。143綺麗(きれい)さつぱりと開放(かいはう)して上(あ)げなさい』
144弥(や)『アヽさうださうだ、145開(あ)けて上(あ)げませう。146ヤー偉(えら)い錠(ぢやう)を下(おろ)してゐやがる哩(わい)。147折悪(をりあし)く合鍵(あひかぎ)の持合(もちあは)せがないから、148オイ勝(かつ)サンとやら、149仕方(しかた)がないワ。150まあ悠(ゆつ)くりと時節(じせつ)が来(く)るまで御(ご)逗留(とうりう)遊(あそ)ばせ』
151勝(かつ)『そこらに在(あ)る手頃(てごろ)の石(いし)を以(もつ)て錠前(ぢやうまへ)を砕(くだ)いて出(だ)して呉(く)れ』
152弥(や)『コンナ立派(りつぱ)な錠前(ぢやうまへ)をむざむざと潰(つぶ)すのは勿体(もつたい)ないぢやないか』
153勝(かつ)『勿体(もつたい)ないも糞(くそ)もあつたものか。154ウラル教(けう)の錠前(ぢやうまへ)だ、155木葉(こつぱ)微塵(みぢん)に砕(くだ)いて出(だ)して呉(く)れ』
156弥(や)『待(ま)て待(ま)て、157折角(せつかく)出来(でき)たものを破壊(はくわい)するといふことは、158一寸(ちよつと)考(かんが)へ物(もの)だ。159過激(くわげき)主義(しゆぎ)のやうになつては、160天道(てんだう)様(さま)へ申訳(まをしわけ)がない。161何(なん)とか完全(くわんぜん)に原形(げんけい)を存(そん)して、162開(あ)ける工夫(くふう)があるまいかな』
163六(ろく)『もし此処(ここ)にコンナものがある。164これは屹度(きつと)何(なに)かの合図(あひづ)でせうで』
165と言(い)ひ乍(なが)ら小指(こゆび)のやうな形(かたち)をした巌壁(がんぺき)の細長(ほそなが)き巌片(がんぺん)をグツと押(お)した途端(とたん)に、166岩(いは)の戸(と)は苦(く)もなくパツと開(ひら)いた。
167弥(や)、168与(よ)『アハヽヽヽ、169ナアンダ、170鼻糞(はなくそ)で的(まと)を貼(は)つたやうなことしよつて、171何処(どこ)までもウラル教(けう)式(しき)だワイ。172オイ勝(かつ)サン、173早(はや)く出(で)ないか』
174勝(かつ)『この日(ひ)の長(なが)いのに、175さう狼狽(あはて)るものぢやない。176まア、177悠(ゆつ)くりと皆(みな)サンも此処(ここ)へ這入(はい)りなさい。178持寄(もちよ)り話(ばなし)でもして春(はる)の日長(ひなが)を暮(くら)しませうかい』
179弥(や)『ヨー此奴(こやつ)はまた法(はふ)外(はづ)れの呑気者(のんきもの)だ。180類(るゐ)を以(もつ)て集(あつ)まるとは、181よく云(い)つたものだナア。182馬(うま)は馬(うま)連(づ)れ、183牛(うし)は牛(うし)連(づ)れだ。184いよいよ此処(ここ)に四魂(しこん)揃(そろ)つたりだ。185オー勝(かつ)サン、186どうぞ御(ご)昵懇(じつこん)に願(ねが)ひますよ。187私(わたくし)は弥次彦(やじひこ)と云(い)ふ剽軽(へうきん)な生(うま)れ付(つ)き、188此奴(こいつ)は天下(てんか)一品(いつぴん)の与太(よた)だから与太彦(よたひこ)と云(い)ふ名(な)がついてゐます。189モー一匹(いつぴき)の奴(やつ)はあまり碌(ろく)な奴(やつ)ぢやないから六(ろく)と云(い)ひますよ。190アハヽヽヽ』
191勝(かつ)『アヽよい所(ところ)へ来(き)て下(くだ)さつた。192御(お)かげで密室(みつしつ)監禁(かんきん)の憂目(うきめ)を免(のが)れました。193お前(まへ)サンは何処(どこ)かで見(み)たことのあるやうな顔(かほ)だな』
194弥(や)、195与(よ)『有(あ)るとも有(あ)るとも、196彼(あ)の出刃(でば)の災難(さいなん)に遭(あ)はうとした時(とき)、197目(め)で知(し)らして呉(く)れたのはお前(まへ)だつたよ。198敵(てき)の中(なか)にも味方(みかた)があると云(い)つて非常(ひじやう)に感謝(かんしや)して居(を)つたのだ。199その時(とき)の恩人(おんじん)はお前(まへ)だつたか、200妙(めう)なものだな。201お前(まへ)に助(たす)けられて又(また)此処(ここ)で助(たす)けられた俺(わし)達(たち)が、202お前(まへ)を助(たす)けるとは不思議(ふしぎ)なことだ。203これだから人間(にんげん)は善(よ)いことをして人(ひと)を助(たす)けねばならない。204神(かみ)様(さま)の実地(じつち)教育(けういく)を受(う)けたのだ。205あゝ有難(ありがた)い有難(ありがた)い、206四(よ)人(にん)一同(いちどう)揃(そろ)つて神言(かみごと)を奏上(そうじやう)しませうか』
207と巌窟前(がんくつぜん)の細道(ほそみち)を向方(むかふ)へ渡(わた)りやや広(ひろ)き道(みち)に出(い)で、208四(よ)人(にん)はコーカス山(ざん)の方(はう)に向(むか)つて、209恭(うやうや)しく祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)した。
210弥(や)『此処(ここ)はウラル教(けう)の奴(やつ)等(ら)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)ともいふべき区域(くゐき)だから、211一(ひと)つ元気(げんき)を出(だ)し宣伝歌(せんでんか)でも謳(うた)つて行(ゆ)きませうかい。212音頭(おんど)取(と)りは私(わたくし)が致(いた)しませう』
213一同(いちどう)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
214善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
215この世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
216心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
217唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
218直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
219身(み)の過(あやま)ちは詔(の)り直(なほ)せ
220三五教(あななひけう)の神(かみ)の道(みち)
221音(おと)に名高(なだか)き音彦(おとひこ)の
222神(かみ)の司(つかさ)と諸共(もろとも)に
223猿山峠(さるやまたうげ)を右(みぎ)に見(み)て
224荒野(あれの)ケ原(はら)を駆(かけ)めぐり
225見(み)ても危(あやふ)き丸木橋(まるきばし)
226やつと渡(わた)つて川岸(かはぎし)に
227憩(やす)む折(をり)しも傍(かたはら)の
228草(くさ)のしげみを掻(か)き分(わ)けて
229現(あら)はれ出(い)でし黒頭巾(くろづきん)
230三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
231その他(た)の奴輩(やつばら)一々(いちいち)に
232何(なん)の容赦(ようしや)も荒縄(あらなは)の
233縛(しば)つてくれむと雄健(をたけ)びの
234その見幕(けんまく)に怖(おぢ)け立(た)ち
235力限(ちからかぎ)りに遁(に)げ出(だ)せば
236豈(あに)図(はか)らむや突(つ)き当(あた)る
237途(みち)の真中(まなか)に醜(しこ)が住(す)む
238関所(せきしよ)の中(なか)に迷(まよ)ひ込(こ)み
239如何(いかが)はせむと思(おも)ふ折(をり)
240花(はな)も実(み)も有(あ)る勝彦(かつひこ)が
241深(ふか)き情(なさけ)に救(すく)はれて
242虎口(ここう)をのがれ息急(いきせ)きと
243駆出(かけだ)す途端(とたん)に道(みち)の辺(べ)の
244泥田(どろた)の中(なか)に辷(すべ)り込(こ)み
245二人(ふたり)諸共(もろとも)泥(どろ)まぶれ
246後(あと)より敵(てき)は襲(おそ)ひ来(く)る
247何(なん)の容赦(ようしや)も荒肝(あらぎも)を
248取(と)られて泥田(どろた)を這(は)ひ上(あが)り
249一行(いつかう)三(さん)人(にん)一筋(ひとすぢ)の
250田圃(たんぼ)の道(みち)を遁(に)げ出(だ)せば
251怪(あや)しき奴(やつ)が唯一人(ただひとり)
252目(め)をばぎよろぎよろ睨(にら)み居(ゐ)る
253此奴(こいつ)的切(てつき)りウラル教(けう)
254目付(めつけ)の奴(やつ)と全身(ぜんしん)の
255力(ちから)をこめて傍(かたはら)の
256泥田(どろた)の中(なか)へ突(つ)き落(おと)し
257後(あと)をも見(み)ずにトントンと
258小鹿峠(こしかたうげ)に来(き)て見(み)れば
259思(おも)ひもかけぬ三(さん)人(にん)の
260鬼(おに)をも欺(あざむ)く荒男(あらをとこ)
261前(まへ)と後(うしろ)に数百(すうひやく)の
262ウラルの彦(ひこ)の捕手(とりて)共(ども)
263雲霞(うんか)の如(ごと)く攻(せ)め来(きた)る
264進退(しんたい)茲(ここ)に谷(きは)まりて
265忽(たちま)ち谷間(たにま)へ三(さん)人(にん)は
266空中(くうちう)滑走(くわつそう)の曲芸(きよくげい)を
267演(えん)じて河中(かちう)に着陸(ちやくりく)し
268ウンと一声(いつせい)気絶(きぜつ)して
269十万(じふまん)億土(おくど)の幽界(いうかい)の
270三途(せうづ)の川(かは)の渡場(わたしば)で
271怪体(けたい)な婆(ばば)アに出会(でくは)して
272何(なん)ぢや彼(かん)ぢやとかけ合(あ)ひの
273其(そ)の最中(さいちう)に珍(めづ)らしや
274ウラルの彦(ひこ)の目付役(めつけやく)
275源五郎(げんごらう)奴(め)がやつて来(き)て
276要(い)らざる繰言(くりごと)吐(ほざ)きつつ
277ここにいよいよ真裸(まつぱだか)
278川(かは)と見(み)えたる荒野原(あれのはら)
279トントントンと進(すす)み行(ゆ)く
280行(ゆ)けば程(ほど)なく禿山(はげやま)の
281麓(ふもと)にぴたりと行(ゆ)き当(あた)り
282行手(ゆくて)を塞(ふさ)がれ是非(ぜひ)も無(な)く
283天津(あまつ)祝詞(のりと)を声(こゑ)清(きよ)く
284奏上(そうじやう)するや忽(たちま)ちに
285地(ち)から湧(わ)き出(で)た銅木像(どうもくざう)
286からくり人形(にんぎやう)の曲芸(きよくげい)を
287一寸(ちよつと)演(えん)じたご愛嬌(あいけう)
288煤(すす)を吐(は)くやらミヅバナを
289頻(しき)りに浴(あ)びせかけるやら
290茶色(ちやいろ)のやうな小便(せうべん)の
291虹(にじ)の雨(あめ)やら針(はり)の雨(あめ)
292こりや堪(たま)らぬと思(おも)ふ折(をり)
293日(ひ)の出(で)の別(わけ)の宣伝使(せんでんし)
294数多(あまた)の弟子(でし)をば引連(ひきつ)れて
295やつて来(き)たかと思(おも)ひきや
296冥土(めいど)の旅(たび)は嘘(うそ)の皮(かは)
297流(なが)れも清(きよ)き小鹿川(こしかがは)
298川(かは)の真砂(まさご)に横臥(わうぐわ)して
299夢(ゆめ)の中(なか)にも夢(ゆめ)を見(み)る
300怪体(けたい)な幕(まく)を切(き)り上(あ)げて
301木株(こかぶ)を力(ちから)に元(もと)の道(みち)
302登(のぼ)つて見(み)れば数百(すうひやく)の
303馬(うま)が出(で)て来(く)る牛(うし)が来(く)る
304馬(うま)と牛(うし)との夢(ゆめ)を見(み)る
305やつと此処(ここ)まで来(き)て見(み)れば
306思(おも)ひも寄(よ)らぬ巌窟(がんくつ)に
307三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)
308負(まけ)ても名(な)だけは勝(かつ)サンが
309三十(さんじふ)男(をとこ)の楽隠居(らくいんきよ)
310神(かみ)の恵(めぐ)みに巡(めぐ)り合(あ)ひ
311互(たがひ)に見合(みあ)はす顔(かほ)と顔(かほ)
312善(ぜん)と善(ぜん)との引合(ひきあは)せ
313コンナ嬉(うれ)しいことあろか
314善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
315神(かみ)の教(をしへ)のわれわれは
316前途(ぜんと)益々(ますます)有望(いうばう)だ
317進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
318四魂(しこん)揃(そろ)つて堂々(だうだう)と
319曲(まが)の砦(とりで)に立向(たちむか)ひ
320ウラルの彦(ひこ)の目付(めつけ)等(ら)を
321片(かた)つ端(ぱし)から打(う)ちのめし
322勝鬨(かちどき)挙(あ)げて高架索(コーカサス)山(ざん)の
323神(かみ)の御前(みまへ)に復(かへ)り言(ごと)
324申(まを)すも左(さ)まで遠(とほ)からじ
325朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
326月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
327たとへ大地(だいち)は沈(しづ)むとも
328三五教(あななひけう)には離(はな)れなよ
329ウラルの教(をしへ)に迷(まよ)ふなよ
330進(すす)めよ進(すす)めいざ進(すす)め
331悪魔(あくま)の軍勢(ぐんぜい)の滅(ほろ)ぶまで
332曲津(まがつ)の神(かみ)の失(う)するまで』
333と倒(こ)け徳利(どつくり)の様(やう)に口(くち)から出放題(ではうだい)の宣伝歌(せんでんか)を謳(うた)ひ乍(なが)ら、334小鹿峠(こしかたうげ)を勢(いきほ)ひよく脚(あし)踏(ふ)み鳴(な)らして進(すす)み行(ゆ)く。
335(大正一一・三・二三 旧二・二五 外山豊二録)
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