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第三章 白楊樹(はくようじゆ)〔八二五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻 篇:第1篇 玉石混来 よみ(新仮名遣い):ぎょくせきこんらい
章:第3章 白楊樹 よみ(新仮名遣い):はくようじゅ 通し章番号:825
口述日:1922(大正11)年08月11日(旧06月19日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
鷹依姫の一行四人は、ウヅの国の櫟が原にようやく辿り着いた。竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人は、黄金の玉を錦の袋に収めて、交代で担ぎながらアリナ山の急坂を上り下りしながらこの場所にやってきた。どうしたわけか、玉は一足一足重量を増すがごとくに思えて転倒しそうな気分になってきた。
一行は、白楊樹の陰に足を伸ばして休むことになった。四人は玉を抱えて草の上に眠りについてしまった。折から夜嵐が吹き、白楊樹が弓のようにしなったはずみに、玉の袋を首に掛けていたテーリスタンは白楊樹の枝を抱えてしまい、白楊樹のしなりが元に戻ると、テーリスタンは梢に引き上げられてしまった。
驚いたテーリスタンは足を踏み外して落ちてしまった。三人は驚いて目を覚まし、テーリスタンを介抱する。三人はテーリスタンが首に掛けていた黄金の玉が紛失しているのに気付き、テーリスタンに問いただす。
鷹依姫に責められたテーリスタンは、やはり権謀術数的なやり方をするから神罰が当たったのだ、と言い返す。鷹依姫と言い合っているうちに、カーリンスが白楊樹の梢に錦の袋が引っかかっているのを見つけた。鷹依姫の命でカーリンスが白楊樹に登りかけたが、悲鳴を上げて落ち倒れてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ:櫟ケ原(櫟が原) データ凡例: データ最終更新日:2021-12-20 17:56:17 OBC :rm2903
愛善世界社版:39頁 八幡書店版:第5輯 479頁 修補版: 校定版:39頁 普及版:18頁 初版: ページ備考:
001三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
002鷹依姫(たかよりひめ)(はじ)めとし
003竜国別(たつくにわけ)やテー、カーの
004一行(いつかう)()(にん)蛸取村(たことりむら)
005山奥(やまおく)(ふか)(すす)()
006アリナの(たき)上流(じやうりう)
007神代(かみよ)(むかし)月照彦(つきてるひこ)
008(かみ)(みこと)()れませる
009(かがみ)(いけ)岩窟(がんくつ)
010()(ひそ)めつつ黄金(わうごん)
011(たま)所在(ありか)(さぐ)らむと
012鷹依姫(たかよりひめ)岩窟(がんくつ)
013(なか)(かく)して(かみ)となし
014竜国別(たつくにわけ)(いけ)()
015(いほり)(むす)朝夕(あさゆふ)
016天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)
017審神者(さには)(しよく)(つと)めつつ
018テーリスタンやカーリンス
019二人(ふたり)(をとこ)西(にし)(ひがし)
020(きた)(みなみ)国々(くにぐに)
021言宣(ことふ)(がみ)()をやつし
022アリナの(たき)上流(じやうりう)
023月照彦(つきてるひこ)(あら)はれて
024(いづ)れの(ひと)(かぎ)りなく
025(たま)()のつく(もの)あらば
026(いた)りて(かみ)(けん)ずれば
027大三災(だいさんさい)風水火(ふうすゐくわ)
028小三災(せうさんさい)饑病戦(きびやうせん)
029(ゆる)(たま)ひて(その)(ひと)
030無限(むげん)無量(むりやう)寿(じゆ)(あた)
031五穀(ごこく)果物(くだもの)成就(ぜうじゆ)
032無限(むげん)福徳(ふくとく)(さづ)かると
033()(こと)づくめをふれまはし
034(よく)()のなき国人(くにびと)
035(たま)()()円石(まるいし)
036瑪瑙(めなう)(たま)しやこ翡翠(ひすゐ)
037珊瑚(さんご)珠玉(じゆだま)持出(もちだ)して
038(とほ)山野(やまの)打渡(うちわた)
039(かがみ)(いけ)(かたはら)
040(そな)へて(かへ)可笑(をか)しさよ
041竜国別(たつくにわけ)一々(いちいち)
042()(ひか)らして(なが)むれど
043(ひと)つも(ろく)(やつ)はない
044(たまたま)黄色(きいろ)(たま)()れば
045表面(へうめん)(かざ)金鍍金(きんめつき)
046ガラクタ(だま)(やま)(ごと)
047()(かさ)なりて(かず)(おほ)
048()(かさ)ぬれど三五(あななひ)
049(にしき)(みや)(をさ)まりし
050黄金(こがね)(たま)(かげ)もなし
051テー、カー二人(ふたり)はそろそろと
052小言(こごと)八百(はつぴやく)()(なら)
053(かがみ)(いけ)(あと)にして
054何処(いづこ)(はて)にか宿替(やどがへ)
055(また)(あらた)めて一芝居(ひとしばゐ)
056()たうぢやないか』と両人(りやうにん)
057言挙(ことあ)げすれば鷹依姫(たかよりひめ)
058竜国別(たつくにわけ)は『()(しば)
059モウ一息(ひといき)辛抱(しんばう)
060(こら)(しの)びは幸福(かうふく)
061(はは)となるぞ』と両人(りやうにん)
062チヨロまかしつつ()(うち)
063テーナの(さと)酋長(しうちやう)
064黄金(こがね)(たま)持出(もちい)でて
065(たま)輿(みこし)()(なが)
066数多(あまた)人数(にんず)引連(ひきつ)れて
067アリナの(たき)鏡池(かがみいけ)
068(かみ)御前(みまへ)(ささ)げむと
069(かぜ)(はた)をば(なび)かせつ
070(すす)(きた)るぞ(いさ)ましき。
071虚実(きよじつ)(ほど)()らねども
072(まが)(かた)なき黄金(わうごん)
073(たま)(のど)をば()らせつつ
074テーナの(さと)酋長(しうちやう)
075国玉依別(くにたまよりわけ)()(あた)
076(しばら)くアリナの(たき)()
077御禊(みそぎ)(わざ)(めい)じおき
078瑪瑙(めなう)(たま)()()へて
079夜陰(やいん)(まぎ)れて谷川(たにがは)
080(さかのぼ)りつつアリナ(やま)
081(みね)打渉(うちわた)宇都(うづ)(くに)
082(くぬぎ)(はら)四人(よにん)()
083(かや)生茂(おひしげ)大野原(おほのはら)
084やうやう辿(たど)りつきにけり。
085 竜国別(たつくにわけ)086テーリスタン、087カーリンスの(さん)(にん)は、088(かは)(がは)黄金(こがね)(たま)(にしき)(ふくろ)(をさ)め、089(かた)(かつ)いでアリナ(さん)急坂(きふはん)(のぼ)(くだ)りし(なが)ら、090(あせ)をタラタラ(やうや)(ここ)辿(たど)()きぬ。091どうしたものか、092(この)(たま)一歩(ひとあし)々々(ひとあし)重量(ぢうりやう)()し、093(うしろ)から何者(なにもの)引張(ひつぱ)(やう)心地(ここち)し、094余程(よほど)(あたま)(まへ)(かたむ)けて()らぬと、095(たま)(おも)みに()きつけられて、096仰向(あふむ)けに転倒(てんだう)する(やう)気分(きぶん)になつた。097(やうや)くにして生命(いのち)カラガラ此処(ここ)までやつて()て、098最早(もはや)大丈夫(だいぢやうぶ)白楊樹(はくやうじゆ)(かげ)(あし)()ばして一休(ひとやすみ)する(こと)()しぬ。
099 ()(たけ)()(しやく)(ばか)りの大蜥蜴(おほとかげ)幾百(いくひやく)ともなく萱野(かやの)(はら)前後(ぜんご)左右(さいう)駆巡(かけめぐ)り、100(すずめ)(やう)熊蜂(くまばち)101(あぶ)汗臭(あせくさ)(にほひ)をかいで()(きた)り、102油蝉(あぶらぜみ)(やう)金色(きんいろ)糞蠅(くそばひ)103咫尺(しせき)(べん)ぜざる(ほど)群集(ぐんしふ)(きた)り、104ブンブンと(うな)りを()てる、105(その)(うる)ささ。106()(にん)(かや)()(たば)ねて大麻(おほぬさ)()へ、107(みぎ)()にて(あぶ)108(はち)109金蠅(きんばい)などを(はら)(なが)ら、110()()れたるに是非(ぜひ)なく、111(たま)(かか)えて、112()(にん)(くさ)(うへ)(よこ)たはり、113草臥(くたびれ)()てて、114()いて()られても(わか)らぬ(まで)熟睡(じゆくすい)()たりけり。
115 折柄(をりから)()()るレコード(やぶ)りの夜嵐(よあらし)に、116萱草(かやぐさ)はザワザワと(おと)()て、117白楊樹(はくようじゆ)(かぜ)(ふく)んで(ゆみ)(ごと)く、118大地(だいち)()で、119(あぶ)120(はち)121(はへ)などは、122何処(どこ)へか()()らされて、123一匹(いつぴき)()なくなつて(しま)つた。124白楊樹(はくようじゆ)(ゆみ)(ごと)(かぜ)()かれて()()でた途端(とたん)に、125()(にん)(からだ)(うへ)(おそ)()たりぬ。
126 テーリスタンは寝惚(ねとぼ)けた(まま)127(たま)(ふくろ)(くび)(むす)びつけ(なが)ら、128白楊樹(はくようじゆ)(えだ)を、129夢現(ゆめうつつ)になつて(ちから)(かぎ)りに(かか)えた。130さしもの暴風(ばうふう)もピタリと()んで、131(てん)(ちう)する白楊樹(はくようじゆ)(もと)(ごと)直立(ちよくりつ)して(しま)つた。132よくよく()ればテーリスタンは、133白楊樹(はくようじゆ)(しん)に、134何時(いつ)()にか(あげ)られてゐた。135『アツ』と(おどろ)途端(とたん)(あし)ふみ(はづ)し、136(うな)りを()てて(さん)(にん)()てゐる側近(そばちか)く、137図転倒(づでんどう)落下(らくか)(きた)り、138ウンと一声(ひとこゑ)()黒玉(くろたま)をどつかへ(かく)して(しま)つて、139白玉(しろたま)(ばか)りグルリと()き、140(だい)()となつて、141手足(てあし)をピリピリと(ふる)はして()る。142(たま)(つつ)んだ(にしき)(ふくろ)は、143白楊樹(はくようじゆ)(そら)()つかかつてブラつきゐたり。
144 (さん)(にん)(おどろ)いてテーリスタンの(そば)駆寄(かけよ)り『(みづ)(みづ)よ』と(さけ)(なが)ら、145あたりを()(ども)146水溜(みづたま)りはどこにも()い。147(つき)淡雲(たんうん)押分(おしわ)けて、148(やうや)下界(げかい)(ひかり)()げた。149あたりを()れば()(あか)()めて(いちご)()がそこら一面(いちめん)(じゆく)してゐる。150竜国別(たつくにわけ)手早(てばや)二三個(にさんこ)むし()り、151()をくひしばつて(たふ)れてゐるテーリスタンの(くち)無理(むり)にこじあけ、152(いちご)(つぶ)して、153(その)(しる)口中(こうちゆう)()れた。154テーリスタンは(やうや)くにして(いき)()(かへ)し、155(かほ)をしかめて、156(こし)のあたりを(しき)りに()(まは)しゐる。
157カー『おいテー、158貴様(きさま)一体(いつたい)如何(どう)したのだ。159こんな(ところ)でフンのびたり、160心細(こころぼそ)(こと)をやつて()れな。161ヤアそして貴様(きさま)(くび)にかけて()つた玉袋(たまぶくろ)何処(どこ)へやつたのだい』
162テー『どこへやつたのか、163()つから(おぼ)えない。164(なん)でも(おれ)天狗(てんぐ)にさらはれて、165(たか)(とこ)へあげられた(ゆめ)()たが、166ヤツパリ(もと)(ところ)だつた。167大方(おほかた)(ゆめ)(なか)天狗(てんぐ)()つて()にやがつたかも()れやしないぞ。168(なん)()つても結構(けつこう)黄金(こがね)(たま)だから、169天狗(てんぐ)(まで)()しがると()える。170小人(せうじん)(たま)(いだ)いて(つみ)ありとは(この)(こと)だなア。171あゝ(こし)(いた)い、172(たま)(どころ)(さわ)ぎかい。173(なん)とかして()れぬと、174(いき)がつまりさうだ。175アイタタ アイタタ』
176(かほ)をしかめて()る。177鷹依姫(たかよりひめ)はビツクリして顔色(かほいろ)()へ、
178鷹依(たかより)『コレ、179テーさま、180今迄(いままで)苦労(くらう)艱難(かんなん)して()()れた黄金(こがね)(たま)を、181(まへ)如何(どう)したのだ。182サア(はや)(かへ)して(くだ)さい。183あの(たま)紛失(ふんしつ)でもしたら、184承知(しようち)しませぬぞや』
185テー『そんな(こと)()つたつて、186()(そで)はふれぬぢやありませぬか。187(いづ)れどつかにアリナの(たき)でせう。188(うま)(こと)()つて酋長(しうちやう)(いへ)(たから)何々(なになに)して()たものだから、189神罰(しんばつ)覿面(てきめん)190何々(なになに)がやつて()何々(なになに)したのかも()れませぬぜ。191(まへ)さまも(あま)(おほ)きな(こゑ)小言(こごと)()資格(しかく)はありますまい。192仮令(たとへ)泥棒(どろぼう)()られた(ところ)元々(もともと)ぢやないか。193泥棒(どろぼう)上前(うはまへ)をはねられたと(おも)へば()(こと)だ。194あゝこれで改心(かいしん)をして権謀(けんぼう)術数(じゆつすう)(てき)行方(やりかた)今日(けふ)(かぎ)断念(だんねん)なされませ。195(こころ)(たま)さへ(ひか)れば、196黄金(こがね)(たま)(みつ)つや()()くなつたつて、197(もの)(かず)でもありませぬ。198酋長(しうちやう)(やつ)性念玉(しやうねんだま)()りうつつてると()えて、199アリナの(やま)(わた)(とき)にも随分(ずゐぶん)(あと)から引張(ひつぱ)られる(やう)で、200(おも)たくて、201(くる)しくて仕方(しかた)がなかつた。202(この)(ひろ)高砂島(たかさごじま)を、203あんな(おも)たい(もの)()つて(ある)かされようものなら、204それこそ吾々(われわれ)(いき)ついて(しま)ひますワ。205黄金(こがね)(たま)紛失(ふんしつ)したとてさう悲観(ひくわん)したものでもありませぬ。206つまり(かみ)(さま)から大難(だいなん)小難(せうなん)(まつ)りかへて、207罪業(めぐり)をとつて(いただ)いたと(おも)へば、208こんな結構(けつこう)(こと)はありませぬ。209サアサア皆様(みなさま)210大神(おほかみ)(さま)感謝(かんしや)祈願(きぐわん)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)して(くだ)さい』
211鷹依姫(たかよりひめ)『これテーさま、212(なん)()勝手(かつて)(こと)仰有(おつしや)るのだ。213(まへ)もチツとは責任(せきにん)観念(かんねん)()つたら如何(どう)だい。214折角(せつかく)(なが)海山(うみやま)()え、215苦労(くらう)艱難(かんなん)をしてヤツと()()れた三千(さんぜん)世界(せかい)()神宝(しんぱう)を、216ムザムザと紛失(ふんしつ)しておいて、217ようマアそんな勝手(かつて)(こと)()へたものだ。218如何(どう)しても()うしても、219(その)(たま)(ふたた)発見(はつけん)する(まで)は、220テーさま、221(まへ)仮令(たとへ)(じふ)(ねん)でも(ひやく)(ねん)でも、222ここを(うご)(こと)はなりませぬぞえ』
223テー『あゝ(こま)つたなア。224月様(つきさま)何程(なにほど)()つても、225肝腎(かんじん)月照彦(つきてるひこの)(かみ)(さま)如何(どう)して御座(ござ)るのか。226キツパリとあの(たま)はどこに(かく)れて()るとか、227誰人(たれ)()つたとか、228()らして(くだ)さりさうなものだ。229アヽ鷹依姫(たかよりひめ)さまにボヤかれる、230(こし)(ほね)(ゆが)んで(いた)(くるし)い。231この(やう)蜥蜴原(とかげばら)脛腰(すねこし)()たぬ(やう)()()はされて如何(どう)なるものか。232(かみ)(さま)(あんま)(きこ)えませぬワイ、233アンアンアン』
234とソロソロ()()したり。
235鷹依(たかより)『これテー、236何程(なにほど)()いたつて、237(たま)(かへ)つては()ませぬぞえ。238チトしつかりして、239(むね)()(あて)(かんが)へて()なさい。240(まへ)はまだ本当(ほんたう)()()めぬのだらう』
241テー『マアさうセチセチ()はずに、242チツと(ばか)猶予(いうよ)(あた)へて(くだ)さい。243(たま)行方(ゆくへ)何処(いづく)ぞと、244沈思(ちんし)黙考(もくかう)せなくては、245短兵(たんぺい)(きふ)吐血(とけつ)(おこ)つた(やう)請求(せいきう)されても、246早速(さつそく)()いた(くち)がすぼまりませぬワイ』
247鷹依(たかより)『お(まへ)(どころ)か、248こつちの(はう)から、249(あま)りの(こと)で、250阿呆(あはう)らしさが偉大(いつこ)うて、251()いた(くち)が、252それこそすぼまりませぬワイナ』
253 カーリンス(そら)(あふ)()て、
254カー『ヤア、255月夜(つきよ)でハツキリは(わか)らぬが、256あのポプラの(しん)に、257(なん)だかピカピカと(ひか)つて、258ブラ(さが)つて()(もの)()えるぢやないか。259あれはテツキリ(たま)這入(はい)つた(にしき)(ふくろ)(やう)だぞ』
260 竜国別(たつくにわけ)白楊樹(はくやうじゆ)(そら)(なが)めて、
261竜国(たつくに)『ヤア如何(いか)にも、262あれは(にしき)(ふくろ)だ。263おいテー、264(まへ)()苦労(くらう)にも、265あの(やう)(たか)()(しん)(ふくろ)(くく)りつけ、266(ぬす)まれぬ(やう)にと()()かした(まで)はよかつたが、267(あし)ふみ(はづ)し、268真逆(まつさか)(さま)墜落(つゐらく)して(こし)()ち、269()()かして()よつたのだなア。270アハヽヽヽ。271サアこれから()苦労(くらう)だが、272テーさまに(のぼ)つておろして()(もら)はうかい。273あこ(まで)(くく)りつけに()(だけ)のお(まへ)だから、274木登(きのぼ)りはよく得手(えて)()ると()える。275サア(はや)()ろして()てくれ』
276 テー、277天空(そら)(あふ)()て、
278テー『ヤア如何(いか)にも不思議(ふしぎ)だ。279何時(いつ)()にかあんな(ところ)へ、280(たれ)()つて(のぼ)りよつたのだらう。281(わし)(うま)()き、282木登(きのぼ)りは拙劣(へた)だから、283到底(たうてい)あんな(ところ)へあがれる気遣(きづかひ)はないのだ。284大方(おほかた)天狗(てんぐ)(やつ)悪戯(いたづら)しよつたのであらう。285あんな(ところ)へあがるのは、286到底(たうてい)天狗(てんぐ)でなくては出来(でき)るものではありませぬワイ……なア竜国別(たつくにわけ)さま、287あなた鎮魂(ちんこん)して天狗(てんぐ)呼集(よびあつ)め、288あの(ふくろ)(ここ)()つて()(やう)にして(くだ)さいなア』
289竜国(たつくに)『お()アさま、290如何(どう)でせう。291合点(がてん)()かぬ(こと)ぢやありませぬか。292テーは御存(ごぞん)じの(とほ)り、293()(おも)たい(をとこ)で、294あの(やう)(ところ)へ、295()うあがり(さう)(こと)はありませぬ。296コリヤ矢張(やつぱり)天狗(てんぐ)悪戯(いたづら)間違(まちがひ)ありませぬよ』
297鷹依(たかより)(この)(へん)には野天狗(のてんぐ)沢山(たくさん)()るから、298油断(ゆだん)をする(こと)出来(でき)ませぬ。299これは(なん)とかして、300(かみ)(さま)()(ねがひ)(まを)()ろして(いただ)かねば吾々(われわれ)何時(いつ)になつても此処(ここ)(はな)れる(こと)出来(でき)ませぬ。301……コレ、302カー、303(まへ)はチツとばかり()(かる)さうだ。304(かみ)(さま)(ため)305世界(せかい)(ため)()(たから)だから、306()りにあがつても滅多(めつた)無調法(ぶてうはふ)はありますまい。307(わたし)がこれから大神(おほかみ)(さま)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ねがひ)をこめるから、308(まへ)()苦労(くらう)だが、309一寸(ちよつと)(のぼ)つて()()れまいかなア』
310カー『さうですな、311マア一寸(ちよつと)(ためし)(のぼ)れるか(のぼ)れぬか、312調(しら)べて()ませう』
313と、314一抱(ひとかかへ)もある白楊樹(はくようじゆ)根元(ねもと)立寄(たちよ)り、315()(みき)一寸(ちよつと)()をかけ『キヤツ』と悲鳴(ひめい)をあげて、316(その)()にカーリンスは打倒(うちたふ)人事(じんじ)不省(ふせい)(おちい)りにける。
317大正一一・八・一一 旧六・一九 松村真澄録)
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