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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第29巻(辰の巻)
序
総説
端書
第1篇 玉石混来
第1章 アリナの滝
第2章 懸橋御殿
第3章 白楊樹
第4章 野辺の訓戒
第2篇 石心放告
第5章 引懸戻し
第6章 玉の行衛
第7章 牛童丸
第8章 高姫慴伏
第9章 俄狂言
第10章 国治の国
第3篇 神鬼一転
第11章 日出姫
第12章 悔悟の幕
第13章 愛流川
第14章 カーリン丸
第15章 ヨブの入信
第16章 波の響
第4篇 海から山へ
第17章 途上の邂逅
第18章 天祥山
第19章 生霊の頼
第20章 道すがら
余白歌
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霊界物語
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海洋万里(第25~36巻)
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第29巻(辰の巻)
> 第3篇 神鬼一転 > 第13章 愛流川
<<< 悔悟の幕
(B)
(N)
カーリン丸 >>>
第一三章
愛流川
(
あいるがは
)
〔八三五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻
篇:
第3篇 神鬼一転
よみ(新仮名遣い):
しんきいってん
章:
第13章 愛流川
よみ(新仮名遣い):
あいるがわ
通し章番号:
835
口述日:
1922(大正11)年08月12日(旧06月20日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は広い大原野を横切り、ようやく樹木がやや茂る地点までやってきた。ここには相当に広い清い川が流れていた。そこに草蓑をつけた七十ばかりの婆さんがやってきた。このような人跡まれな場所で三人が不審に思っていると、婆さんは三人を手招きして小さな草葺の小屋に姿を隠した。
三人が庵を訪ねると、婆さんは、連れ合いの爺が天刑病で村に居ることができずにこんな外れの地で看病をして暮らしているのだ、と答えた。そして四五日以前からの夢で、三五教の宣伝使がやってくるからその方を頼れと女神の御告げがあるのだという。
婆は御告げでは宣伝使に病人の体の膿をすっかり吸い取ってもらえば病は全快するのだという。高姫はその話を聞いて快諾し、病人の前に案内されると天津祝詞を奏上して、爺の膿を吸出し始めた。
すると爺は跳ね起きて妙齢の美しい女神の姿を現した。女神は天教山の木花姫命の化身だと名乗り、高姫の心を見届けたと告げ、今後もくれぐれも慢心するなと気をつけた。三人が気付くとあばら屋も何もなく、アイル河の川辺で居眠りをしていた。
三人はまったく同じ夢を見ていた。一行は神様のお気付けに感謝し、高姫は感謝の合掌をした。春彦と常彦は、御魂の系統や日の出神の生き宮と高姫を持ち上げるが、高姫はすっかり謙譲の心になり、働きによって示すのだと神徳を示した。
一行はアイル河が幅広く橋も無いのでどうやって渡ろうかと思案に暮れていた。高姫が一生懸命に祈願を凝らすと、どこともなく大小の鰐がやってきて橋をかけた。三人は無事にアイル河を渡ることができた。
宣伝歌を歌いながら原野を進んで行くと、今度は大湖水に行き当たった。高姫は、また神様に祈って鰐の橋をかけてもらうとご眷属様にご苦労をかけると、左回りに湖を迂回して進むことになった。一里ばかり進んだ椰子樹の森で、三人は休息を取って一夜を明かすことにした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-12-30 18:11:11
OBC :
rm2913
愛善世界社版:
185頁
八幡書店版:
第5輯 533頁
修補版:
校定版:
190頁
普及版:
86頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
は
常彦
(
つねひこ
)
、
002
春彦
(
はるひこ
)
と
共
(
とも
)
にアルゼンチンの
大原野
(
だいげんや
)
、
003
櫟
(
くぬぎ
)
ケ
原
(
はら
)
を
東
(
ひがし
)
へ
東
(
ひがし
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
004
アルの
港
(
みなと
)
迄
(
まで
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
三百
(
さんびやく
)
七八十
(
しちはちじふ
)
里
(
り
)
もある。
005
何程
(
なにほど
)
あせつても
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
の
日数
(
につすう
)
を
費
(
つひ
)
やさねば、
006
アルの
港
(
みなと
)
へは
行
(
ゆ
)
かれない。
007
沢山
(
たくさん
)
の
蜥蜴
(
とかげ
)
のノロノロと
這
(
は
)
つてゐる
草野原
(
くさのはら
)
を、
008
萱
(
かや
)
の
株
(
かぶ
)
を
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
潜
(
くぐ
)
りつつ、
009
天恵
(
てんけい
)
的
(
てき
)
に
野辺
(
のべ
)
一面
(
いちめん
)
に
赤
(
あか
)
くなつて
稔
(
みの
)
つて
居
(
ゐ
)
る
味
(
あぢ
)
の
良
(
よ
)
き
苺
(
いちご
)
を
食
(
く
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
010
草
(
くさ
)
の
枕
(
まくら
)
も
五
(
いつ
)
つ
六
(
むつ
)
つ
重
(
かさ
)
ねて、
011
稍
(
やや
)
樹木
(
じゆもく
)
の
茂
(
しげ
)
れる
地点
(
ちてん
)
迄
(
まで
)
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た。
012
此処
(
ここ
)
には
相当
(
さうたう
)
に
広
(
ひろ
)
い
河
(
かは
)
が
清
(
きよ
)
く
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
た。
013
河
(
かは
)
の
岸
(
きし
)
には
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
大王松
(
だいわうまつ
)
や、
014
樫
(
かし
)
などが
生
(
は
)
えて
居
(
ゐ
)
る。
015
河辺
(
かはべ
)
には
桔梗
(
ききやう
)
の
花
(
はな
)
女郎花
(
をみなへし
)
の
花
(
はな
)
などが
時
(
とき
)
ならず
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れてゐた。
016
丁度
(
ちやうど
)
内地
(
ないち
)
の
秋
(
あき
)
の
草野
(
くさの
)
の
如
(
や
)
うであつた。
017
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
河
(
かは
)
の
辺
(
ほとり
)
に
下
(
お
)
り
立
(
た
)
ち、
018
清泉
(
せいせん
)
に
喉
(
のど
)
をうるほし、
019
あたりの
風景
(
ふうけい
)
を
眺
(
なが
)
めて、
020
過来
(
すぎこ
)
し
方
(
かた
)
の
蜥蜴
(
とかげ
)
や
虻
(
あぶ
)
、
021
蜂
(
はち
)
、
022
金蠅
(
きんばへ
)
のうるさかつたこと、
023
苺
(
いちご
)
の
味
(
あぢ
)
の
美味
(
びみ
)
なりしと、
024
黄
(
き
)
紅
(
くれなゐ
)
青
(
あを
)
白
(
しろ
)
紫
(
むらさき
)
其
(
その
)
他
(
た
)
いろいろの
美
(
うる
)
はしき
草花
(
くさばな
)
の
処
(
ところ
)
狭
(
せ
)
きまで
咲
(
さ
)
き
満
(
み
)
ちて、
025
旅情
(
りよじやう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めてくれたことなどを
追懐
(
つゐくわい
)
し、
026
神
(
かみ
)
の
恩恵
(
おんけい
)
の
深
(
ふか
)
きを
感謝
(
かんしや
)
しつつあつた。
027
其処
(
そこ
)
へのそりのそりと
草蓑
(
くさみの
)
を
着
(
つ
)
け、
028
編笠
(
あみがさ
)
を
被
(
かぶ
)
り、
029
竹
(
たけ
)
の
杖
(
つゑ
)
をついた
七十
(
しちじふ
)
許
(
ばか
)
りの
婆
(
ばば
)
アがやつて
来
(
き
)
た。
030
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は……ハテ
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
に
人
(
ひと
)
が
住
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
るのかなア……と
不審相
(
ふしんさう
)
に、
031
婆
(
ばば
)
アの
顔
(
かほ
)
を
眺
(
なが
)
め
入
(
い
)
つた。
032
婆
(
ばば
)
アは
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
手招
(
てまね
)
きし
乍
(
なが
)
ら、
033
一二丁
(
いちにちやう
)
上手
(
かみて
)
の
小
(
ちい
)
さき
草葺
(
くさぶき
)
の
家
(
いへ
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
した。
034
常彦
(
つねひこ
)
『モシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
035
あの
婆
(
ばば
)
アは
何
(
なん
)
でせうなア。
036
あの
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
根元
(
ねもと
)
の
小
(
ちい
)
さな
家
(
いへ
)
へ
這入
(
はい
)
つて
了
(
しま
)
ひましたが、
037
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
嬉
(
うれ
)
し
相
(
さう
)
な
顔
(
かほ
)
して
手招
(
てまね
)
きして
居
(
ゐ
)
たぢやありませぬか。
038
何
(
なん
)
でもあの
婆
(
ばば
)
アの
配偶者
(
つれあひ
)
が
病気
(
びやうき
)
にでも
罹
(
かか
)
つて
居
(
を
)
るので、
039
吾々
(
われわれ
)
を
頼
(
たの
)
みに
来
(
き
)
たのかも
知
(
し
)
れませぬよ。
040
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
一寸
(
ちよつと
)
立寄
(
たちよ
)
つて
見
(
み
)
やうではありませぬか』
041
高姫
(
たかひめ
)
『あゝあ、
042
玉公
(
たまこう
)
、
043
竜公
(
たつこう
)
に
別
(
わか
)
れてから、
044
今日
(
けふ
)
が
日
(
ひ
)
迄
(
まで
)
六日
(
むゆか
)
の
間
(
あひだ
)
、
045
人
(
ひと
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
たことはなかつたが、
046
今日
(
けふ
)
は
珍
(
めづら
)
しい、
047
人間
(
にんげん
)
に
会
(
あ
)
ふことが
出来
(
でき
)
ました。
048
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
あの
婆
(
ばば
)
アの
庵
(
いほり
)
迄
(
まで
)
往
(
い
)
つて
見
(
み
)
ませう。
049
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
如何
(
どう
)
して
御
(
お
)
試
(
ため
)
しなさるか
分
(
わか
)
りませぬから、
050
決
(
けつ
)
して
腹
(
はら
)
を
立
(
たて
)
てはなりませぬよ』
051
常彦
(
つねひこ
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
052
絶対
(
ぜつたい
)
に
腹
(
はら
)
などは
立
(
た
)
てませぬワ。
053
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さい。
054
……なア
春彦
(
はるひこ
)
、
055
お
前
(
まへ
)
もさうだろな』
056
春彦
(
はるひこ
)
『ウン、
057
私
(
わたし
)
もその
通
(
とほ
)
りだ。
058
高姫
(
たかひめ
)
さま、
059
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
060
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
婆
(
ばば
)
アの
庵
(
いほり
)
に
着
(
つ
)
いた。
061
婆
(
ばば
)
アは
嬉
(
うれ
)
しさうに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
出迎
(
でむか
)
へ、
062
婆
『これはこれは
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
063
能
(
よ
)
うこそ
斯様
(
かやう
)
な
醜
(
みにく
)
い
茅屋
(
あばらや
)
を
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいました。
064
就
(
つ
)
いては
折入
(
をりい
)
つて
御
(
お
)
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
したい
事
(
こと
)
が
御座
(
ござ
)
いますのぢや。
065
何
(
なん
)
と
人
(
ひと
)
を
一人
(
ひとり
)
助
(
たす
)
けると
思
(
おも
)
うて、
066
お
聞
(
き
)
き
下
(
くだ
)
さる
訳
(
わけ
)
には
参
(
まゐ
)
りますまいかなア』
067
高姫
(
たかひめ
)
『ハイ
妾
(
わたし
)
達
(
たち
)
の
力
(
ちから
)
に
叶
(
かな
)
ふことならば、
068
如何様
(
いかやう
)
なことなり
共
(
とも
)
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
069
婆
(
ばば
)
『それは
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
070
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
071
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
宅
(
うち
)
の
爺
(
おやぢ
)
さまは
最早
(
もはや
)
八十
(
はちじふ
)
の
坂
(
さか
)
を
七
(
なな
)
つも
越
(
こ
)
え、
072
来年
(
らいねん
)
は
桝掛
(
ますかけ
)
の
祝
(
いは
)
ひをせうと
思
(
おも
)
うて、
073
孫
(
まご
)
や
子供
(
こども
)
が
楽
(
たのし
)
んで
居
(
を
)
りましたが、
074
とうとう
今年
(
ことし
)
の
春
(
はる
)
頃
(
ごろ
)
から、
075
人
(
ひと
)
の
嫌
(
いや
)
がる
病気
(
びやうき
)
に
取付
(
とりつ
)
き、
076
あの
爺
(
ぢい
)
は
天刑病
(
てんけいびやう
)
だから、
077
村
(
むら
)
には
置
(
お
)
くことは
出来
(
でき
)
ぬと
云
(
い
)
つて、
078
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
一軒家
(
いつけんや
)
の
淋
(
さび
)
しい
川
(
かは
)
の
畔
(
ほとり
)
に
形
(
かたち
)
ばかりの
家
(
いへ
)
を
造
(
つく
)
り、
079
雨露
(
うろ
)
を
凌
(
しの
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
080
年
(
とし
)
の
老
(
と
)
つた
婆
(
ばば
)
アが
介抱
(
かいほう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りまする。
081
いろいろと
百草
(
ひやくさう
)
を
集
(
あつ
)
め、
082
薬
(
くすり
)
を
拵
(
こしら
)
へて
呑
(
の
)
ましたり、
083
附
(
つ
)
けたり
致
(
いた
)
しましたが、
084
病
(
やまひ
)
は
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
重
(
おも
)
る
計
(
ばか
)
り、
085
体
(
からだ
)
はずるけ、
086
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
へぬ
臭
(
くさ
)
い
匂
(
にほ
)
ひが
致
(
いた
)
し、
087
沢山
(
たくさん
)
蠅
(
はへ
)
が
止
(
と
)
まつて、
088
女房
(
にようばう
)
の
妾
(
わたし
)
が
見
(
み
)
てさへもゾゾ
髪
(
かみ
)
が
立
(
た
)
ちまする。
089
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
090
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
から
妙
(
めう
)
な
夢
(
ゆめ
)
を
続
(
つづ
)
けて
見
(
み
)
ますのぢや。
091
其
(
その
)
夢
(
ゆめ
)
と
申
(
まを
)
すのは、
092
あのアイル
河
(
がは
)
の
畔
(
ほとり
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
現
(
あら
)
はれて
来
(
く
)
るから、
093
其
(
その
)
お
方
(
かた
)
を
頼
(
たの
)
んで
癒
(
なほ
)
して
頂
(
いただ
)
けとの
女神
(
めがみ
)
さまの
夢
(
ゆめ
)
のお
告
(
つ
)
げ、
094
それが
又
(
また
)
毎晩
(
まいばん
)
々々
(
まいばん
)
同
(
おな
)
じ
夢
(
ゆめ
)
を、
095
昨夜
(
ゆうべ
)
で
五
(
い
)
つ
夜
(
よ
)
さも
見
(
み
)
まするので、
096
此
(
この
)
茅屋
(
あばらや
)
から
翡翆
(
かはせみ
)
の
様
(
やう
)
に
川
(
かは
)
計
(
ばか
)
り
眺
(
なが
)
めて
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
りました。
097
所
(
ところ
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
仰有
(
おつしや
)
つた
通
(
とほ
)
り、
098
三人
(
さんにん
)
連
(
づ
)
れで
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
越
(
こ
)
しになり、
099
川
(
かは
)
でお
休
(
やす
)
みになつてる
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
を
拝
(
をが
)
んだ
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しさ、
100
思
(
おも
)
はず
熱
(
あつ
)
い
涙
(
なみだ
)
がこぼれました。
101
就
(
つ
)
いては
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
仰
(
あふ
)
せには、
102
此
(
この
)
ずるけた
病気
(
びやうき
)
でも、
103
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がやつて
来
(
き
)
て、
104
体
(
からだ
)
の
汁
(
しる
)
や
膿
(
うみ
)
を、
105
スツカリ
舐
(
な
)
めて
呉
(
く
)
れたならば、
106
其
(
その
)
場
(
ば
)
で
全快
(
ぜんくわい
)
すると
仰有
(
おつしや
)
いました。
107
誠
(
まこと
)
にかやうな
事
(
こと
)
を
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
すは
畏
(
おそれおほ
)
いことで
御座
(
ござ
)
いますが、
108
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
夢
(
ゆめ
)
のお
告
(
つ
)
げで
御座
(
ござ
)
いますから、
109
お
気
(
き
)
に
障
(
さわ
)
るか
存
(
ぞん
)
じませぬが、
110
一寸
(
ちよつと
)
申上
(
まをしあ
)
げました』
111
高姫
(
たかひめ
)
暫
(
しばら
)
く
差
(
さ
)
し
俯
(
うつ
)
むいて
腕
(
うで
)
を
組
(
く
)
み、
112
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
たが、
113
高姫
(
たかひめ
)
『あゝ
宜
(
よろ
)
しい
宜
(
よろ
)
しい、
114
どんな
膿
(
うみ
)
でも
汁
(
しる
)
でも、
115
御
(
ご
)
註文
(
ちうもん
)
通
(
どほ
)
り
吸
(
す
)
ひ
取
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げませう。
116
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
で、
117
初稚姫
(
はつわかひめ
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
一行
(
いつかう
)
が、
118
癩病
(
らいびやう
)
患者
(
くわんじや
)
の
膿血
(
うみち
)
を
吸
(
す
)
うて
助
(
たす
)
けた
例
(
ため
)
しもある。
119
サアお
爺
(
ぢい
)
さまのお
座敷
(
ざしき
)
へ
案内
(
あんない
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
120
婆
(
ばば
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
121
案内
(
あんない
)
しませう』
122
と
立
(
たち
)
あがり、
123
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
へ
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
124
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
と
云
(
い
)
つても
只
(
ただ
)
萱草
(
かやくさ
)
の
壁
(
かべ
)
を
仕切
(
しき
)
つた
丈
(
だけ
)
で、
125
二間
(
ふたま
)
作
(
づく
)
りの
小
(
ちい
)
さき
家
(
いへ
)
であつた。
126
常彦
(
つねひこ
)
、
127
春彦
(
はるひこ
)
も
高姫
(
たかひめ
)
と
共
(
とも
)
に
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
128
見
(
み
)
れば
金色
(
きんいろ
)
の
蠅
(
はへ
)
が
真黒
(
まつくろ
)
にたかつて
居
(
ゐ
)
る。
129
爺
(
ぢい
)
は
仰向
(
あふむ
)
けに
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになつて、
130
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
膿
(
うみ
)
汁
(
しる
)
を
流
(
なが
)
し、
131
蠅
(
はへ
)
に
吸
(
す
)
はれた
儘
(
まま
)
、
132
半死
(
はんし
)
半生
(
はんしやう
)
の
態
(
てい
)
で
苦
(
くる
)
しんで
居
(
ゐ
)
る。
133
高姫
(
たかひめ
)
は
直
(
ただち
)
に
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
するや、
134
数多
(
あまた
)
の
金蠅
(
きんばい
)
は
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
らず、
135
ブンブンと
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて、
136
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
へ
逃出
(
にげだ
)
して
了
(
しま
)
つた。
137
高姫
(
たかひめ
)
は
爺
(
ぢい
)
の
体
(
からだ
)
に
口
(
くち
)
を
当
(
あ
)
て、
138
胸
(
むね
)
の
辺
(
あた
)
りから
膿血
(
うみち
)
を
吸
(
す
)
ひ
始
(
はじ
)
めた。
139
常彦
(
つねひこ
)
は
足
(
あし
)
から、
140
春彦
(
はるひこ
)
は
頭
(
あたま
)
から、
141
汚
(
きた
)
な
相
(
さう
)
にもせず、
142
此
(
この
)
爺
(
ぢい
)
さまを
助
(
たす
)
けたい
一杯
(
いつぱい
)
に、
143
吾
(
わ
)
れを
忘
(
わす
)
れて、
144
臭気
(
しうき
)
紛々
(
ふんぷん
)
たる
膿
(
うみ
)
汁
(
しる
)
を
平気
(
へいき
)
で
吸
(
す
)
うて
居
(
ゐ
)
る。
145
爺
(
ぢ
)
イは『ウン』と
云
(
い
)
つて
撥
(
は
)
ね
起
(
お
)
来
(
き
)
た。
146
見
(
み
)
れば
不思議
(
ふしぎ
)
や、
147
紫摩
(
しま
)
黄金
(
わうごん
)
の
肌
(
はだ
)
を
現
(
あら
)
はしたる
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
となり、
148
美人
(
びじん
)
『ヤア
高姫
(
たかひめ
)
、
149
汝
(
なんぢ
)
の
心底
(
しんてい
)
見届
(
みとど
)
けたり。
150
我
(
わ
)
れこそは
天教山
(
てんけうざん
)
に
鎮
(
しづ
)
まる
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめの
)
命
(
みこと
)
の
化身
(
けしん
)
なるぞ。
151
いよいよ
汝
(
なんぢ
)
は
是
(
こ
)
れより
天晴
(
あつぱ
)
れ
神柱
(
かむばしら
)
として
神業
(
しんげふ
)
に
仕
(
つか
)
ふることを
得
(
う
)
るであらう。
152
まだまだ
幾回
(
いくくわい
)
となく
神
(
かみ
)
の
試
(
ため
)
しに
会
(
あ
)
ふことあらむ。
153
そこを
切抜
(
きりぬ
)
けなば、
154
真
(
まこと
)
の
汝
(
なんぢ
)
の
肉体
(
にくたい
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
となりて
仕
(
つか
)
ふるも
難
(
かた
)
き
事
(
こと
)
にあらざるべし。
155
必
(
かなら
)
ず
慢心
(
まんしん
)
してはなりませぬぞ。
156
又
(
また
)
常彦
(
つねひこ
)
、
157
春彦
(
はるひこ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
を
間違
(
まちが
)
はない
様
(
やう
)
に、
158
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
を
第一
(
だいいち
)
とするが
宜
(
よろ
)
しいぞ。
159
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
為
(
ため
)
に
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
く
仕組
(
しぐ
)
んだのであるから、
160
必
(
かなら
)
ず
今後
(
こんご
)
とても
油断
(
ゆだん
)
を
致
(
いた
)
してはなりませぬぞや』
161
高姫
(
たかひめ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は『ハイ』と
答
(
こた
)
へて
平伏
(
へいふく
)
した。
162
何処
(
いづこ
)
よりともなく、
163
香
(
かん
)
ばしき
匂
(
にほ
)
ひ
薫
(
くん
)
じ
来
(
きた
)
り
音楽
(
おんがく
)
の
響
(
ひび
)
き
嚠喨
(
りうりやう
)
として
冴
(
さ
)
え
渡
(
わた
)
り、
164
涼
(
すず
)
しき
風
(
かぜ
)
は
窓
(
まど
)
を
通
(
とほ
)
して、
165
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
面
(
おもて
)
を
払
(
はら
)
ふ。
166
不図
(
ふと
)
頭
(
かうべ
)
をあぐれば、
167
こは
如何
(
いか
)
に、
168
茅屋
(
あばらや
)
もなければ、
169
爺婆
(
ぢいばば
)
の
姿
(
すがた
)
も
女神
(
めがみ
)
の
姿
(
すがた
)
もなく、
170
依然
(
いぜん
)
として、
171
河
(
かは
)
の
辺
(
ほとり
)
にウツラウツラと
昼船
(
ひるふね
)
を
漕
(
こ
)
いで
居
(
ゐ
)
た。
172
高姫
(
たかひめ
)
は
吐息
(
といき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら、
173
高姫
(
たかひめ
)
『あゝ
今
(
いま
)
のは
夢
(
ゆめ
)
であつたか、
174
大変
(
たいへん
)
な
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
神徳
(
かげ
)
を
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
で
頂
(
いただ
)
きました。
175
夢
(
ゆめ
)
なればこそ、
176
あんな
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たのだらう。
177
イヤイヤ
実際
(
じつさい
)
にあの
心
(
こころ
)
にならなくてはなりますまい。
178
あゝ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い』
179
と
切
(
しき
)
りに
独言
(
ひとりごと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
180
常彦
(
つねひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
181
私
(
わたし
)
も
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
ましたよ。
182
随分
(
ずゐぶん
)
虫
(
むし
)
のよい
夢
(
ゆめ
)
でした。
183
春彦
(
はるひこ
)
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
184
それはそれは
汚
(
きたな
)
い
病人
(
びやうにん
)
の
介抱
(
かいほう
)
をさせられ、
185
膿血
(
うみち
)
を
吸
(
す
)
はされましたが、
186
何
(
なん
)
ともかとも
知
(
し
)
れぬ
甘露
(
かんろ
)
の
様
(
やう
)
な
味
(
あぢ
)
がして、
187
夢中
(
むちう
)
になつて
吸
(
す
)
ひ
付
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
ると、
188
汚
(
きたな
)
い
爺
(
ぢい
)
だと
思
(
おも
)
つたら、
189
天教山
(
てんけうざん
)
の
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
様
(
さま
)
、
190
醜
(
しう
)
の
極端
(
きよくたん
)
から
美
(
び
)
の
極端
(
きよくたん
)
迄
(
まで
)
見
(
み
)
せて
頂
(
いただ
)
きました。
191
……
高姫
(
たかひめ
)
さま、
192
貴女
(
あなた
)
もさういふ
夢
(
ゆめ
)
でしたか、
193
……
春彦
(
はるひこ
)
、
194
お
前
(
まへ
)
の
夢
(
ゆめ
)
は
如何
(
どう
)
だつたい』
195
春彦
(
はるひこ
)
『イヤもうチツトも
違
(
ちが
)
ひはない。
196
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
三
(
さん
)
人
(
にん
)
乍
(
なが
)
ら
同様
(
どうやう
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たと
見
(
み
)
える。
197
不思議
(
ふしぎ
)
なこともあるものだなア。
198
あの
汚
(
きたな
)
い
病人
(
びやうにん
)
はキツと
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
心
(
こころ
)
の
映像
(
えいざう
)
かも
知
(
し
)
れないよ。
199
あの
如
(
や
)
うな
汚
(
きたな
)
いむさくるしい
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
を、
200
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
咲耶姫
(
さくやひめの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が、
201
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
病人
(
びやうにん
)
の
膿血
(
うみち
)
を
吸
(
す
)
うた
様
(
やう
)
に、
202
身魂
(
みたま
)
の
汚
(
けが
)
れを
吸
(
す
)
ひ
取
(
と
)
つて
下
(
くだ
)
さるに
違
(
ちが
)
ひないワ。
203
あゝ
実
(
じつ
)
に
畏
(
おそれおほ
)
いことだ。
204
コリヤキツと
人
(
ひと
)
のこつちやない、
205
吾々
(
われわれ
)
の
魂
(
みたま
)
を
見
(
み
)
せて
戴
(
いただ
)
いたのだらうよ。
206
なア
高姫
(
たかひめ
)
さま、
207
さうぢや
御座
(
ござ
)
いますまいか』
208
高姫
(
たかひめ
)
『それはさうに
間違
(
まちがひ
)
御座
(
ござ
)
いませぬワ。
209
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
御覧
(
ごらん
)
になつたら、
210
妾
(
わたし
)
の
身魂
(
みたま
)
は
汚
(
けが
)
れ
腐
(
くさ
)
り、
211
ズルケかけて
居
(
ゐ
)
るでせう。
212
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
。
213
諸々
(
もろもろ
)
の
罪穢
(
つみけが
)
れを
払
(
はら
)
ひ
玉
(
たま
)
ひ
清
(
きよ
)
め
玉
(
たま
)
へ』
214
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
俄
(
にはか
)
に
合掌
(
がつしやう
)
する。
215
常彦
(
つねひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
216
貴女
(
あなた
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
217
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
だから、
218
汚
(
けが
)
れたと
云
(
い
)
つても、
219
ホンの
一寸
(
ちよつと
)
したものですよ。
220
あの
汚
(
けが
)
れやうは
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
映写
(
えいしや
)
に
違
(
ちがひ
)
ありませぬ』
221
高姫
(
たかひめ
)
『モウ
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
などと
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるな。
222
妾
(
わたし
)
のやうな
者
(
もの
)
を
系統
(
ひつぽう
)
だなぞと
申
(
まを
)
さうものなら、
223
それこそ
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
傷
(
きず
)
つけます。
224
此
(
この
)
後
(
ご
)
は
決
(
けつ
)
して
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
なぞとは
申
(
まを
)
しませぬから、
225
あなたもどうぞ、
226
其
(
その
)
積
(
つも
)
りで
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
227
春彦
(
はるひこ
)
『それでも
事実
(
じじつ
)
はヤツパリ
事実
(
じじつ
)
だから
仕方
(
しかた
)
がありませぬワ』
228
高姫
(
たかひめ
)
『
系統
(
ひつぽう
)
なら
系統
(
ひつぽう
)
丈
(
だけ
)
の
行
(
おこな
)
ひが
出来
(
でき
)
なくては
恥
(
はづ
)
かしう
御座
(
ござ
)
います。
229
妾
(
わたし
)
が
天晴
(
あつぱ
)
れと
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
、
230
誠
(
まこと
)
が
天
(
てん
)
に
通
(
つう
)
じ、
231
大神
(
おほかみ
)
さまから、
232
系統
(
ひつぽう
)
丈
(
だけ
)
の
事
(
こと
)
あつて、
233
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
まで
行
(
おこな
)
ひが
違
(
ちが
)
ふ、
234
誠
(
まこと
)
の
鑑
(
かがみ
)
ぢや……と
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さるまでは、
235
妾
(
わたし
)
は
系統
(
ひつぽう
)
所
(
どころ
)
ぢやありませぬ。
236
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
徳
(
とく
)
を
傷
(
きず
)
つける
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
ですから、
237
どうぞ
暫
(
しばら
)
く
系統
(
ひつぽう
)
呼
(
よば
)
はりは
止
(
や
)
めて
下
(
くだ
)
さいませ』
238
春彦
(
はるひこ
)
『
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
るものですな。
239
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
系統
(
ひつぽう
)
々々
(
ひつぽう
)
の
連発
(
れんぱつ
)
を
御
(
お
)
やり
遊
(
あそ
)
ばしたが、
240
改心
(
かいしん
)
と
云
(
い
)
ふものは
恐
(
おそ
)
ろしいものだなア。
241
そんなら
私
(
わたし
)
も
是
(
これ
)
から
貴女
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
し、
242
態度
(
たいど
)
を
変
(
か
)
へませう』
243
高姫
(
たかひめ
)
『ハイ
妾
(
わたし
)
からも
変
(
か
)
へますから、
244
どうぞ
上下
(
うへした
)
なしに、
245
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
の
姉弟
(
けうだい
)
として
交際
(
つきあ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
246
今迄
(
いままで
)
のやうに
弟子
(
でし
)
扱
(
あつかひ
)
をしたり、
247
家来
(
けらい
)
扱
(
あつかひ
)
は
決
(
けつ
)
して
致
(
いた
)
しませぬ』
248
常彦
(
つねひこ
)
『
私
(
わたし
)
も
其
(
その
)
積
(
つも
)
りで
交際
(
かうさい
)
さして
頂
(
いただ
)
きます。
249
併
(
しか
)
し
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
件
(
けん
)
は
如何
(
どう
)
なさいましたか』
250
高姫
(
たかひめ
)
『モウどうぞそんな
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さいますな。
251
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さま
所
(
どころ
)
か、
252
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
が、
253
妾
(
わたし
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
憑
(
つ
)
いてをつて、
254
あんな
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
はしたり、
255
慢心
(
まんしん
)
をさしたのですよ。
256
櫟
(
くぬぎ
)
ケ
原
(
はら
)
の
白楊樹
(
はくようじゆ
)
の
下
(
した
)
で、
257
スツカリ
妾
(
わたし
)
の
肉体
(
にくたい
)
から
正体
(
しやうたい
)
を
現
(
あら
)
はして
脱
(
ぬ
)
けて
出
(
で
)
ました。
258
それ
故
(
ゆゑ
)
、
259
今日
(
こんにち
)
の
妾
(
わたし
)
は
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
でもなければ、
260
悪神
(
あくがみ
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
でも
御座
(
ござ
)
いませぬ。
261
これから、
262
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
にしつかりして
頂
(
いただ
)
いて、
263
天晴
(
あつぱ
)
れ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
たねばなりませぬ』
264
常彦
(
つねひこ
)
『あゝそれは
結構
(
けつこう
)
ですな。
265
私
(
わたし
)
がアリナ
山
(
ざん
)
の
頂
(
いただ
)
きから
東
(
ひがし
)
の
方
(
はう
)
を
眺
(
なが
)
めて
居
(
を
)
りましたら、
266
櫟
(
くぬぎ
)
ケ
原
(
はら
)
から、
267
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
が、
268
黒雲
(
くろくも
)
に
乗
(
の
)
り、
269
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
方
(
はう
)
を
目蒐
(
めが
)
けて、
270
エライ
勢
(
いきほひ
)
で
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
きました。
271
大方
(
おほかた
)
あの
時
(
とき
)
に
貴女
(
あなた
)
の
肉体
(
にくたい
)
から
退散
(
たいさん
)
したのでせう』
272
高姫
(
たかひめ
)
『あゝさうでしたか。
273
恐
(
おそ
)
ろしいものですなア。
274
妾
(
わたし
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
離
(
はな
)
れる
時
(
とき
)
にチラツと
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せましたが、
275
それはそれは
立派
(
りつぱ
)
な
八畳
(
はちじやう
)
の
間
(
ま
)
一杯
(
いつぱい
)
になる
様
(
やう
)
な
長
(
なが
)
い
裲襠
(
うちかけ
)
を
着
(
き
)
て
真白
(
まつしろ
)
な
顔
(
かほ
)
を
致
(
いた
)
し、
276
ヌツと
妾
(
わたし
)
の
前
(
まへ
)
に
立
(
た
)
ちましたから、
277
……おのれ
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
の
悪狐
(
あくこ
)
奴
(
め
)
と
睨
(
にら
)
みますと、
278
忽
(
たちま
)
ち
金毛
(
きんまう
)
九尾
(
きうび
)
となり、
279
尾
(
を
)
の
先
(
さき
)
に
孔雀
(
くじやく
)
の
尾
(
を
)
の
玉
(
たま
)
のやうな
光
(
ひか
)
つた
物
(
もの
)
を
沢山
(
たくさん
)
につけて
天
(
てん
)
へ
舞上
(
まひのぼ
)
り、
280
北
(
きた
)
の
空
(
そら
)
目蒐
(
めが
)
けて
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
きました。
281
大方
(
おほかた
)
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
事
(
こと
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつたのでせう。
282
あゝ
恐
(
おそ
)
ろしい、
283
ゾツとして
来
(
き
)
ました。
284
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
285
常彦
(
つねひこ
)
『
時
(
とき
)
に
高姫
(
たかひめ
)
さま、
286
此
(
この
)
大河
(
おほかは
)
を
如何
(
どう
)
して
渡
(
わた
)
りませうか。
287
橋
(
はし
)
もなし
仕方
(
しかた
)
がないぢやありませぬか。
288
翼
(
つばさ
)
があれば
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
けますが、
289
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
深
(
ふか
)
い
流川
(
ながれがは
)
、
290
而
(
しか
)
も
急流
(
きふりう
)
と
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのだから、
291
泳
(
およ
)
ぐ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
292
困
(
こま
)
つたものですワ。
293
如何
(
どう
)
しませう』
294
高姫
(
たかひめ
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
するより
途
(
みち
)
はありませぬ。
295
これも
一
(
ひと
)
つは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
試
(
ため
)
しに
会
(
あ
)
うとるのですよ。
296
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
神
(
かみ
)
を
力
(
ちから
)
に
誠
(
まこと
)
を
杖
(
つゑ
)
に、
297
渡
(
わた
)
つて
見
(
み
)
ませう。
298
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
299
と
高姫
(
たかひめ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
川
(
かは
)
の
面
(
おも
)
に
向
(
むか
)
つて
祈願
(
きぐわん
)
をこらした。
300
不思議
(
ふしぎ
)
や
幾丈
(
いくぢやう
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
大
(
だい
)
の
鰐
(
わに
)
数多
(
あまた
)
重
(
かさ
)
なり
来
(
きた
)
り、
301
見
(
み
)
る
見
(
み
)
る
間
(
うち
)
に
鰐橋
(
わにばし
)
を
架
(
か
)
けた。
302
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へと
雀躍
(
こをどり
)
し『
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』を
一心
(
いつしん
)
に
唱
(
とな
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
303
鰐
(
わに
)
の
背
(
せ
)
を
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
え
踏
(
ふ
)
み
越
(
こ
)
え、
304
漸
(
やうや
)
くにして
向
(
むか
)
うの
岸
(
きし
)
に
達
(
たつ
)
した。
305
常彦
(
つねひこ
)
『あゝ
有難
(
ありがた
)
い、
306
おかげで
楽
(
らく
)
に
渡
(
わた
)
して
貰
(
もら
)
うた。
307
斯
(
か
)
うなつて
見
(
み
)
ると、
308
余
(
あま
)
り
鰐
(
わに
)
さまの
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
も
言
(
い
)
へませぬな』
309
高姫
(
たかひめ
)
『ホヽヽヽヽ』
310
春彦
(
はるひこ
)
『
祝部
(
はふりべ
)
の
神
(
かみ
)
さまが、
311
どこやらの
海
(
うみ
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
に
仰有
(
おつしや
)
つたぢやないか。
312
鰐
(
わに
)
が
無
(
な
)
[
※
御校正本・愛世版では「無(む)」だが、校定版・八幡版では「悪(わる)」に直している。
]
けりや、
313
甘鯛鱒
(
あまだいます
)
から
蟹
(
かに
)
して
下
(
くだ
)
さい、
314
ギニシイラねばドブ
貝
(
がひ
)
なとしなさい……とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて、
315
魚尽
(
うをづく
)
しを
唄
(
うた
)
はれたといふ
事
(
こと
)
が、
316
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
に
書
(
か
)
いてあつただらう
[
※
第5巻第38章参照
]
』
317
常彦
(
つねひこ
)
『ソリヤお
前
(
まへ
)
違
(
ちが
)
ふぢやないか、
318
鰐
(
わに
)
が
悪
(
わる
)
けりや……だない、
319
鰐
(
わに
)
に
悪
(
わる
)
けりや、
320
甘鯛鱒
(
あまだいます
)
からと
云
(
い
)
ふのだ。
321
甘鯛鱒
(
あまだいます
)
とは
魚
(
さかな
)
の
名
(
な
)
だが、
322
実際
(
じつさい
)
は
謝罪
(
あやま
)
りますと
云
(
い
)
ふことを、
323
魚
(
さかな
)
に
もぢ
つたのだよ。
324
アハヽヽヽ』
325
高姫
(
たかひめ
)
『サア
皆
(
みな
)
さま、
326
行
(
ゆ
)
きませう』
327
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて、
328
青草
(
あをくさ
)
の
茂
(
しげ
)
れる
野
(
の
)
を
東
(
ひがし
)
へ
東
(
ひがし
)
へと
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
329
今迄
(
いままで
)
執着心
(
しふちやくしん
)
に
捉
(
とら
)
はれて
居
(
ゐ
)
た
高姫
(
たかひめ
)
の
眼
(
め
)
には、
330
森羅
(
しんら
)
万象
(
ばんしやう
)
一切
(
いつさい
)
悪
(
あく
)
に
映
(
えい
)
じてゐたが、
331
悔悟
(
くわいご
)
の
花
(
はな
)
が
心
(
こころ
)
に
開
(
ひら
)
いてから
見
(
み
)
る
天地間
(
てんちかん
)
は、
332
何
(
なに
)
もかも
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
花
(
はな
)
ならざるはなく、
333
恵
(
めぐみ
)
ならざるはなく、
334
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
も
音楽
(
おんがく
)
に
聞
(
きこ
)
え、
335
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
も
神
(
かみ
)
の
慈言
(
じげん
)
の
如
(
ごと
)
く
響
(
ひび
)
き、
336
野辺
(
のべ
)
に
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れた
花
(
はな
)
の
色
(
いろ
)
は
一層
(
いつそう
)
麗
(
うるは
)
しく、
337
楽
(
たの
)
しく
且
(
か
)
つ
有難
(
ありがた
)
く、
338
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
残
(
のこ
)
らず
自分
(
じぶん
)
の
為
(
ため
)
に
現
(
あら
)
はれて
呉
(
く
)
れたかの
如
(
ごと
)
くに、
339
嬉
(
うれ
)
しく
楽
(
たの
)
しく
感
(
かん
)
じられた。
340
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
341
焼
(
や
)
きつくような
空
(
そら
)
を、
342
草
(
くさ
)
を
分
(
わ
)
けつつ
苺
(
いちご
)
の
実
(
み
)
を
むし
り
喰
(
く
)
ひ、
343
神
(
かみ
)
に
感謝
(
かんしや
)
し、
344
殆
(
ほとん
)
ど
七八
(
しちはち
)
里
(
り
)
計
(
ばか
)
り、
345
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
面白
(
おもしろ
)
く
楽
(
たの
)
しく
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
た。
346
ハタと
行詰
(
ゆきつま
)
つた
原野
(
げんや
)
の
中
(
なか
)
の
大湖水
(
だいこすゐ
)
、
347
人
(
ひと
)
も
居
(
を
)
らねば
舟
(
ふね
)
もない。
348
又
(
また
)
もや
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
茲
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
をせなくてはならなくなつた。
349
紺碧
(
こんぺき
)
の
水
(
みづ
)
を
湛
(
たた
)
へた
此
(
この
)
湖
(
みづうみ
)
は
幾丈
(
いくぢやう
)
とも
計
(
はか
)
り
知
(
し
)
られぬ
底無
(
そこな
)
し
湖
(
うみ
)
の
如
(
ごと
)
くに
感
(
かん
)
ぜられた。
350
常彦
(
つねひこ
)
『
一
(
ひと
)
つ
逃
(
のが
)
れて
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つとは
此
(
この
)
事
(
こと
)
だ。
351
此
(
この
)
前
(
まへ
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
352
向
(
むか
)
う
岸
(
ぎし
)
の
見
(
み
)
えた
河
(
かは
)
なり、
353
そこへ
沢山
(
たくさん
)
の
鰐
(
わに
)
さまが
現
(
あら
)
はれて
橋
(
はし
)
を
架
(
か
)
けて
下
(
くだ
)
さつたので、
354
無事
(
ぶじ
)
に
此処
(
ここ
)
まで
面白
(
おもしろ
)
く
楽
(
たの
)
しく
旅行
(
りよかう
)
を
続
(
つづ
)
けて
来
(
き
)
たが、
355
此奴
(
こいつ
)
ア
又
(
また
)
際限
(
さいげん
)
のない
大湖水
(
だいこすゐ
)
、
356
湖水
(
こすゐ
)
の
周囲
(
しうゐ
)
を
廻
(
まは
)
つて
行
(
ゆ
)
くより
仕方
(
しかた
)
がありますまい。
357
高姫
(
たかひめ
)
さま、
358
如何
(
どう
)
致
(
いた
)
しませう。
359
此
(
この
)
湖
(
みづうみ
)
を
真直
(
まつすぐ
)
に
渡
(
わた
)
れば
余程
(
よほど
)
近
(
ちか
)
いのですが、
360
さうだと
云
(
い
)
つて、
361
湖上
(
こじやう
)
を
渡
(
わた
)
ることは
出来
(
でき
)
ますまい。
362
急
(
いそ
)
がば
廻
(
まは
)
れと
云
(
い
)
ふ
諺
(
ことわざ
)
もありますから、
363
廻
(
まは
)
ることに
致
(
いた
)
しませうか』
364
高姫
(
たかひめ
)
『さう
致
(
いた
)
しませう。
365
無理
(
むり
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねがひ
)
をして
最前
(
さいぜん
)
の
様
(
やう
)
に
橋
(
はし
)
を
架
(
か
)
けて
貰
(
もら
)
ひ、
366
御
(
お
)
眷属
(
けんぞく
)
さまに
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
をかけてはなりませぬ。
367
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
自分
(
じぶん
)
で
埒
(
らち
)
を
能
(
よ
)
うつけぬような
事
(
こと
)
で、
368
到底
(
たうてい
)
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
うと
云
(
い
)
ふ
神聖
(
しんせい
)
な
御用
(
ごよう
)
は
勤
(
つと
)
まりませぬからなア』
369
春彦
(
はるひこ
)
『そんなら、
370
右
(
みぎ
)
へ
行
(
ゆ
)
きませうか、
371
左
(
ひだり
)
へ
行
(
ゆ
)
きませうか』
372
高姫
(
たかひめ
)
『
進左
(
しんさ
)
退右
(
たいう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がありますから、
373
左
(
ひだり
)
へ
廻
(
まは
)
つて
行
(
ゆ
)
くことに
致
(
いた
)
しませう。
374
警察
(
けいさつ
)
の
交通
(
かうつう
)
宣伝
(
せんでん
)
だつて、
375
左側
(
さそく
)
通行
(
つうかう
)
を
喧
(
やかま
)
しく
云
(
い
)
つて
奨励
(
しやうれい
)
しとるぢやありませぬか。
376
サア
斯
(
か
)
うおいでなさいませ』
377
と
高姫
(
たかひめ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
378
草野
(
くさの
)
を
分
(
わ
)
けて
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
379
それより
殆
(
ほとん
)
ど
一
(
いち
)
里
(
り
)
計
(
ばか
)
り
前進
(
ぜんしん
)
すると、
380
天
(
てん
)
を
封
(
ふう
)
じた
椰子樹
(
やしじゆ
)
の
森
(
もり
)
があつた。
381
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
暮
(
くれ
)
近
(
ちか
)
くなつた。
382
此処
(
ここ
)
で
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
足
(
あし
)
を
伸
(
の
)
ばし、
383
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
き、
384
ゴロリと
横
(
よこ
)
たはつて
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あ
)
かす
事
(
こと
)
としたりける。
385
執着心
(
しふちやくしん
)
の
権化
(
ごんげ
)
とも
386
人
(
ひと
)
に
言
(
い
)
はれた
高姫
(
たかひめ
)
が
387
転迷
(
てんめい
)
開悟
(
かいご
)
の
花
(
はな
)
開
(
ひら
)
き
388
天教山
(
てんけうざん
)
の
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
389
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
隠
(
かく
)
し
御名
(
みな
)
390
日
(
ひ
)
の
出姫
(
でのひめ
)
の
訓戒
(
くんかい
)
に
391
心
(
こころ
)
の
駒
(
こま
)
を
立直
(
たてなほ
)
し
392
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
乗替
(
のりか
)
へて
393
草野
(
くさの
)
ケ
原
(
はら
)
を
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
394
森羅
(
しんら
)
万象
(
ばんしやう
)
悉
(
ことごと
)
く
395
濁
(
にご
)
り
汚
(
けが
)
れて
吾
(
わ
)
れ
一人
(
ひとり
)
396
天地
(
てんち
)
の
中
(
なか
)
に
澄
(
す
)
めりとて
397
鼻高々
(
はなたかだか
)
と
誇
(
ほこ
)
りたる
398
高姫司
(
たかひめつかさ
)
も
鼻
(
はな
)
折
(
を
)
れて
399
見直
(
みなほ
)
す
世界
(
せかい
)
は
天国
(
てんごく
)
か
400
浄土
(
じやうど
)
の
春
(
はる
)
と
早替
(
はやがわ
)
り
401
草木
(
くさき
)
の
色
(
いろ
)
も
美
(
うる
)
はしく
402
風
(
かぜ
)
の
声
(
こゑ
)
さへ
天人
(
てんにん
)
の
403
音楽
(
おんがく
)
かとも
感
(
かん
)
ぜられ
404
草野
(
くさの
)
にすだく
虫
(
むし
)
の
音
(
ね
)
も
405
神
(
かみ
)
の
慈音
(
じおん
)
となりにけり
406
高姫
(
たかひめ
)
常彦
(
つねひこ
)
春彦
(
はるひこ
)
は
407
草鞋
(
わらぢ
)
脚絆
(
きやはん
)
に
身
(
み
)
をかため
408
心
(
こころ
)
も
急
(
いそ
)
ぐ
膝栗毛
(
ひざくりげ
)
409
アイルの
河
(
かは
)
の
岸
(
きし
)
の
辺
(
べ
)
に
410
暫
(
しば
)
し
息
(
いき
)
をば
休
(
やす
)
めつつ
411
清
(
きよ
)
き
流
(
なが
)
れを
打眺
(
うちなが
)
め
412
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
御恵
(
みめぐみ
)
を
413
讃美
(
さんび
)
しゐたる
折柄
(
をりから
)
に
414
見
(
み
)
るも
汚
(
きた
)
なき
蓑笠
(
みのかさ
)
に
415
身
(
み
)
を
包
(
つつ
)
みたる
婆
(
ば
)
アさまが
416
忽
(
たちま
)
ち
茲
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれて
417
三人
(
みたり
)
の
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
を
伸
(
の
)
ばし
418
差招
(
さしまね
)
きつつ
川上
(
かはかみ
)
の
419
松
(
まつ
)
の
根元
(
ねもと
)
に
建
(
た
)
てられし
420
醜
(
しこ
)
けき
小屋
(
こや
)
に
入
(
い
)
りにける。
421
茲
(
ここ
)
に
高姫
(
たかひめ
)
一行
(
いつかう
)
は
422
老婆
(
らうば
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひて
423
賤
(
しづ
)
が
伏屋
(
ふせや
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
424
老婆
(
らうば
)
は
喜
(
よろこ
)
び
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
425
妾
(
わし
)
が
夫
(
をつと
)
は
八十
(
はちじふ
)
の
426
坂道
(
さかみち
)
七
(
なな
)
つ
越
(
こ
)
えました
427
人
(
ひと
)
の
厭
(
いや
)
がる
天刑
(
てんけい
)
の
428
病
(
やまひ
)
に
罹
(
かか
)
り
村外
(
むらはづ
)
れ
429
淋
(
さび
)
しき
河辺
(
かはべ
)
に
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
され
430
老
(
おい
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
の
憂
(
うき
)
苦労
(
くらう
)
431
天教山
(
てんけうざん
)
に
現
(
あ
)
れませる
432
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
夢枕
(
ゆめまくら
)
433
夜毎
(
よごと
)
々々
(
よごと
)
に
立
(
た
)
ち
玉
(
たま
)
ひ
434
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
435
日
(
ひ
)
ならず
此処
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
るらむ
436
汝
(
なんぢ
)
は
彼
(
かれ
)
を
呼
(
よ
)
び
寄
(
よ
)
せて
437
夫
(
をつと
)
の
悩
(
なや
)
む
膿汁
(
うみしる
)
を
438
吸
(
す
)
うて
貰
(
もら
)
へば
忽
(
たちま
)
ちに
439
本復
(
ほんぷく
)
するとの
神
(
かみ
)
の
告
(
つ
)
げ
440
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬこと
乍
(
なが
)
ら
441
老
(
おい
)
の
願
(
ねがひ
)
を
聞
(
き
)
いてよと
442
誠
(
まこと
)
しやかに
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る
443
高姫
(
たかひめ
)
、
常彦
(
つねひこ
)
、
春彦
(
はるひこ
)
は
444
何
(
なん
)
のためらふ
事
(
こと
)
もなく
445
膿
(
うみ
)
に
汚
(
けが
)
れし
老人
(
らうじん
)
の
446
身体
(
しんたい
)
全部
(
ぜんぶ
)
に
口
(
くち
)
をつけ
447
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
たち
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
448
憐
(
あは
)
れ
至極
(
しごく
)
な
此
(
この
)
人
(
ひと
)
を
449
何卒
(
なにとぞ
)
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
へよと
450
心
(
こころ
)
に
祈願
(
きぐわん
)
をこめ
乍
(
なが
)
ら
451
力限
(
ちからかぎ
)
りに
吸
(
す
)
ひ
取
(
と
)
れば
452
豈
(
あに
)
計
(
はか
)
らむや
悪臭
(
あくしう
)
の
453
鼻
(
はな
)
さへ
落
(
おち
)
むと
思
(
おも
)
はれし
454
其
(
その
)
膿汁
(
うみしる
)
は
甘露
(
かんろ
)
の
455
露
(
つゆ
)
の
如
(
ごと
)
くに
香
(
かう
)
ばしく
456
麝香
(
じやかう
)
の
匂
(
にほ
)
ひ
馥郁
(
ふくいく
)
と
457
実
(
げ
)
に
心地
(
ここち
)
よくなりにける。
458
不思議
(
ふしぎ
)
と
頭
(
あたま
)
を
擡
(
もた
)
ぐれば
459
天刑病
(
てんけいびやう
)
と
思
(
おも
)
ひたる
460
爺
(
じじい
)
は
何時
(
いつ
)
しか
霊光
(
れいくわう
)
の
461
輝
(
かがや
)
き
亘
(
わた
)
る
神人
(
しんじん
)
と
462
姿
(
すがた
)
を
変
(
へん
)
じこまごまと
463
三五教
(
あななひけう
)
の
真髄
(
しんずゐ
)
を
464
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
しつつ
忽然
(
こつぜん
)
と
465
煙
(
けぶり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え
玉
(
たま
)
ふ
466
高姫
(
たかひめ
)
、
常彦
(
つねひこ
)
、
春彦
(
はるひこ
)
は
467
ハツと
驚
(
おどろ
)
き
目
(
め
)
をさまし
468
見
(
み
)
れば
以前
(
いぜん
)
の
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
に
469
眠
(
ねむ
)
り
居
(
ゐ
)
たるぞ
不思議
(
ふしぎ
)
なれ。
470
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
なる
教訓
(
けうくん
)
を
471
吾身
(
わがみ
)
に
省
(
かへり
)
み
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
472
アイルの
河
(
かは
)
を
如何
(
いか
)
にして
473
向
(
むか
)
うの
岸
(
きし
)
に
渡
(
わた
)
らむと
474
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
れる
折柄
(
をりから
)
に
475
祈
(
いの
)
りは
天
(
てん
)
に
通
(
つう
)
じけむ
476
八尋
(
やひろ
)
の
鰐
(
わに
)
は
幾百
(
いくつ
)
とも
477
限
(
かぎ
)
りなき
迄
(
まで
)
川
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
に
478
体
(
からだ
)
を
並
(
なら
)
べて
橋
(
はし
)
作
(
つく
)
り
479
三人
(
みたり
)
をここに
安々
(
やすやす
)
と
480
彼方
(
かなた
)
の
岸
(
きし
)
に
渡
(
わた
)
しける。
481
天地
(
てんち
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
咲出
(
さきい
)
でし
482
百花
(
ひやくくわ
)
千花
(
せんくわ
)
の
香
(
か
)
に
酔
(
よ
)
ひつ
483
足
(
あし
)
も
軽
(
かる
)
げに
七八
(
しちはち
)
里
(
り
)
484
進
(
すす
)
みて
来
(
きた
)
る
前方
(
ぜんぱう
)
に
485
紺青
(
こんぜう
)
の
波
(
なみ
)
を
湛
(
たた
)
へたる
486
思
(
おも
)
ひ
掛
(
がけ
)
なき
大湖水
(
だいこすゐ
)
487
茲
(
ここ
)
に
三人
(
みたり
)
は
立止
(
たちと
)
まり
488
協議
(
けふぎ
)
の
結果
(
けつくわ
)
高姫
(
たかひめ
)
の
489
差図
(
さしづ
)
に
従
(
したが
)
ひ
湖畔
(
こはん
)
をば
490
左
(
ひだり
)
に
取
(
と
)
りて
一里半
(
いちりはん
)
491
椰子樹
(
やしじゆ
)
の
蔭
(
かげ
)
に
身
(
み
)
を
休
(
やす
)
め
492
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
有難
(
ありがた
)
き
493
話
(
はなし
)
に
一夜
(
いちや
)
を
明
(
あか
)
しける
494
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
495
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
496
(
大正一一・八・一二
旧六・二〇
松村真澄
録)
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【第13章 愛流川|第29巻|海洋万里|霊界物語|/rm2913】
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