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霊界物語
海洋万里(第25~36巻)
第29巻(辰の巻)
序
総説
端書
第1篇 玉石混来
第1章 アリナの滝
第2章 懸橋御殿
第3章 白楊樹
第4章 野辺の訓戒
第2篇 石心放告
第5章 引懸戻し
第6章 玉の行衛
第7章 牛童丸
第8章 高姫慴伏
第9章 俄狂言
第10章 国治の国
第3篇 神鬼一転
第11章 日出姫
第12章 悔悟の幕
第13章 愛流川
第14章 カーリン丸
第15章 ヨブの入信
第16章 波の響
第4篇 海から山へ
第17章 途上の邂逅
第18章 天祥山
第19章 生霊の頼
第20章 道すがら
余白歌
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霊界物語
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第29巻(辰の巻)
> 第1篇 玉石混来 > 第1章 アリナの滝
<<< 端書
(B)
(N)
懸橋御殿 >>>
第一章 アリナの
滝
(
たき
)
〔八二三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻
篇:
第1篇 玉石混来
よみ(新仮名遣い):
ぎょくせきこんらい
章:
第1章 アリナの滝
よみ(新仮名遣い):
ありなのたき
通し章番号:
823
口述日:
1922(大正11)年08月11日(旧06月19日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年9月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
黒姫が紛失した黄金の玉を探しに旅に出た鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスは、四人連れとなって南米の高砂島へやってきた。テルの港に着いた一行は、道を南にとり、その昔狭依彦が三五教を開いた旧跡・アリナの滝の上流にある鏡の池の岩窟にやってきた。
一行はそこに居を構え、鷹依姫は岩窟の奥に身を潜め、竜国別は岩窟の外に庵を結び、鏡の池の神勅だと偽って玉のありかを探る計画を立てた。
テーリスタンとカーリンスを巡礼姿となして周辺の国に遣わし、鏡の池に月照彦神が現れて、玉を献上すれば厚い神徳が得られると触れて廻った。高砂島の住民は二人の宣伝を信じて、玉を持って鏡の池に列をなした。
一年ほどで幾百もの玉が集まったが、一行が求める黄金の玉は見つからなかった。ヒルの国のアールという男は、先祖代々より秘蔵した黄金の玉を月照彦神に献上しようと、夜に日を継いでやってきた。
鷹依姫ら四人は、岩窟のほとりで苦労話にふけっている。そこへアールの一行が黄金の玉献上との旗を押し立ててやってきたのを見て、鷹依姫は慌てて岩窟の奥に姿を隠した。竜国別以下は威儀を正して鏡の池の前に端座平伏した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-12-18 19:32:14
OBC :
rm2901
愛善世界社版:
13頁
八幡書店版:
第5輯 469頁
修補版:
校定版:
13頁
普及版:
6頁
初版:
ページ備考:
001
千早
(
ちはや
)
振
(
ふ
)
る
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
002
支那
(
チヤイナ
)
、
西蔵
(
チベツト
)
、
印度
(
ツキ
)
の
国
(
くに
)
003
三国
(
みくに
)
に
跨
(
またが
)
る
青雲
(
せいうん
)
の
004
山
(
やま
)
に
鎮
(
しづ
)
まる
八王神
(
やつわうがみ
)
005
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
も
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
る
006
神澄彦
(
かむずみひこ
)
や
八頭
(
やつがしら
)
007
吾妻彦
(
あづまのひこ
)
[
※
青雲山の八頭神は「吾妻彦」であるが、この章では、御校正本・愛世版は「吾妻別」になっている。→「
青雲山の八頭神「吾妻彦」
」を見よ
]
の
神司
(
かむつかさ
)
008
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
黄金
(
わうごん
)
の
009
宮
(
みや
)
に
納
(
をさ
)
めて
玉守彦
(
たまもりひこ
)
の
010
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
に
守
(
まも
)
らせし
011
神世
(
かみよ
)
を
造
(
つく
)
る
珍宝
(
うづたから
)
012
ウラルの
彦
(
ひこ
)
に
狙
(
ねら
)
はれて
013
遂
(
つひ
)
に
危
(
あやふ
)
くなりければ
014
玉守彦
(
たまもりひこ
)
を
始
(
はじ
)
めとし
015
朝日
(
あさひ
)
輝
(
かがや
)
く
吾妻彦
(
あづまひこ
)
016
玉
(
たま
)
を
御輿
(
みこし
)
に
納
(
をさ
)
めつつ
017
黄金山
(
わうごんさん
)
下
(
か
)
に
現
(
あ
)
れませる
018
埴安彦
(
はにやすひこ
)
や
三葉彦
(
みつばひこ
)
019
埴安姫
(
はにやすひめ
)
の
御
(
おん
)
許
(
もと
)
に
020
送
(
おく
)
り
来
(
きた
)
りて
暫
(
しばら
)
くは
021
宝
(
たから
)
の
倉
(
くら
)
に
納
(
をさ
)
めつつ
022
時
(
とき
)
の
至
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つ
間
(
うち
)
に
023
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
は
何時
(
いつ
)
しかに
024
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
竜門
(
りうもん
)
の
025
玉
(
たま
)
と
釜
(
かま
)
とに
別
(
わか
)
れつつ
026
頻
(
しき
)
りに
不思議
(
ふしぎ
)
のありければ
027
埴安彦
(
はにやすひこ
)
は
神勅
(
しんちよく
)
を
028
伺
(
うかが
)
ひまつり
桶伏
(
をけぶせ
)
の
029
山
(
やま
)
に
再
(
ふたた
)
び
埋蔵
(
まいざう
)
し
030
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
村肝
(
むらきも
)
の
031
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
り
守
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
る
032
時
(
とき
)
しもあれやバラモンの
033
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
034
いろいろ
雑多
(
ざつた
)
と
計略
(
はかりごと
)
035
めぐらし
遂
(
つひ
)
に
黄金
(
わうごん
)
の
036
珍
(
うづ
)
の
宝
(
たから
)
を
盗
(
ぬす
)
み
出
(
だ
)
し
037
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
038
納
(
をさ
)
めゐたるを
三五
(
あななひ
)
の
039
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
や
040
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
に
041
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
嗅出
(
かぎだ
)
され
042
再
(
ふたた
)
び
玉
(
たま
)
は
桶伏
(
をけぶせ
)
の
043
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
千木
(
ちぎ
)
高
(
たか
)
く
044
築
(
きづ
)
きあがりし
綾錦
(
あやにしき
)
045
貴
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
に
納
(
をさ
)
まりて
046
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
047
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
妻
(
つま
)
として
048
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
りし
黒姫
(
くろひめ
)
に
049
玉
(
たま
)
の
保管
(
ほくわん
)
を
命
(
めい
)
じつつ
050
言依別
(
ことよりわけ
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
051
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
遠近
(
をちこち
)
に
052
伝
(
つた
)
へゐませる
時
(
とき
)
もあれ
053
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
054
自
(
みづか
)
ら
名乗
(
なの
)
る
高姫
(
たかひめ
)
や
055
黒姫
(
くろひめ
)
達
(
たち
)
の
心意気
(
こころいき
)
056
甚
(
はなは
)
だ
怪
(
あや
)
しくなりければ
057
言依別
(
ことよりわけ
)
は
神前
(
しんぜん
)
に
058
進
(
すす
)
みて
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
059
玉照彦
(
たまてるひこ
)
や
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
060
珍
(
うづ
)
の
命
(
みこと
)
の
手
(
て
)
を
通
(
と
)
ふし
061
国治立
(
くにはるたち
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
062
請
(
こ
)
ひのみまつり
伺
(
うかが
)
へば
063
『
高姫
(
たかひめ
)
、
黒姫
(
くろひめ
)
両人
(
りやうにん
)
の
064
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
は
定
(
さだ
)
まらず
065
又
(
また
)
もや
玉
(
たま
)
を
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
みて
066
ウラナイ
教
(
けう
)
を
恢復
(
くわいふく
)
し
067
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
紊
(
みだ
)
す
虞
(
おそれ
)
あり
068
言依別
(
ことよりわけ
)
は
今
(
いま
)
の
間
(
ま
)
に
069
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
070
紫色
(
むらさきいろ
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
や
071
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
取出
(
とりいだ
)
し
072
私
(
ひそ
)
かに
隠
(
かく
)
しおくべし』と
073
いと
厳
(
おごそ
)
かに
宣
(
の
)
り
玉
(
たま
)
ふ。
074
言依別
(
ことよりわけ
)
は
意
(
い
)
を
決
(
けつ
)
し
075
高姫
(
たかひめ
)
、
黒姫
(
くろひめ
)
両人
(
りやうにん
)
が
076
生命
(
いのち
)
の
綱
(
つな
)
と
朝夕
(
あさゆふ
)
に
077
頼
(
たの
)
みて
守
(
まも
)
る
神宝
(
しんぱう
)
を
078
神
(
かみ
)
の
神言
(
みこと
)
に
従
(
したが
)
ひて
079
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にかは
取出
(
とりいだ
)
し
080
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
奥深
(
おくふか
)
く
081
納
(
をさ
)
めおきしと
知
(
し
)
らずして
082
松
(
まつ
)
の
根元
(
ねもと
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
は
083
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
通
(
かよ
)
ひて
玉
(
たま
)
の
番
(
ばん
)
084
隠
(
かく
)
せし
場所
(
ばしよ
)
の
何
(
なん
)
となく
085
心
(
こころ
)
にかかり
黒姫
(
くろひめ
)
は
086
ソツと
唐櫃
(
からと
)
を
押開
(
おしあ
)
けて
087
中
(
なか
)
をつくづく
眺
(
なが
)
むれば
088
金光
(
きんくわう
)
眩
(
まばゆ
)
き
宝玉
(
ほうぎよく
)
は
089
空
(
むな
)
しく
消
(
き
)
えて
玉
(
たま
)
無
(
な
)
しの
090
唐櫃
(
からと
)
の
姿
(
すがた
)
に
仰天
(
ぎやうてん
)
し
091
四尾
(
よつを
)
の
峰
(
みね
)
の
山麓
(
さんろく
)
に
092
薄
(
うす
)
き
氷
(
こほり
)
の
張
(
は
)
り
詰
(
つ
)
めし
093
小池
(
おいけ
)
にザンブと
飛込
(
とびこ
)
みて
094
生命
(
いのち
)
を
棄
(
す
)
てむとなしけるが
095
窺
(
うかが
)
ひ
寄
(
よ
)
つたる
従僕
(
じゆうぼく
)
の
096
テーリスタンやカーリンス
097
バサリと
聞
(
きこ
)
えた
水音
(
みなおと
)
に
098
コリヤ
大変
(
たいへん
)
と
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
099
生命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
厳寒
(
げんかん
)
の
100
空
(
そら
)
をも
厭
(
いと
)
はず
池中
(
いけなか
)
に
101
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み
水底
(
みなそこ
)
かひくぐり
102
黒姫司
(
くろひめつかさ
)
を
救
(
すく
)
ひあげ
103
やうやう
館
(
やかた
)
に
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り
104
生命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けた
黒姫
(
くろひめ
)
に
105
無理
(
むり
)
難題
(
なんだい
)
を
浴
(
あ
)
びせられ
106
困
(
こま
)
り
入
(
い
)
つたる
折柄
(
をりから
)
に
107
高姫司
(
たかひめつかさ
)
の
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
り
108
竜国別
(
たつくにわけ
)
や
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
109
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
を
始
(
はじ
)
めとし
110
テーリスタンやカーリンス
111
黒姫
(
くろひめ
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
に
打向
(
うちむか
)
ひ
112
『
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
をば
113
どこどこまでも
捜
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し
114
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
に
持帰
(
もちかへ
)
り
115
其
(
その
)
責任
(
せきにん
)
を
果
(
はた
)
す
迄
(
まで
)
116
再
(
ふたた
)
び
聖地
(
せいち
)
に
帰
(
かへ
)
るな』と
117
いとも
厳
(
きび
)
しき
命令
(
めいれい
)
に
118
涙
(
なみだ
)
を
呑
(
の
)
んで
五人
(
ごにん
)
連
(
づ
)
れ
119
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
は
120
大海原
(
おほうなばら
)
に
漂
(
ただよ
)
へる
121
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
なる
竜宮
(
りうぐう
)
へ
122
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
123
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
く
後
(
あと
)
に
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
124
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
は
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
125
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
やテー、カーの
126
三人
(
みたり
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
高砂
(
たかさご
)
の
127
テルの
港
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
し
128
南
(
みなみ
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
129
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
130
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
131
黒姫
(
くろひめ
)
は
私
(
ひそ
)
かに
高山彦
(
たかやまひこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
132
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
に
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
らむと、
133
聖地
(
せいち
)
を
後
(
あと
)
に
出
(
い
)
で
行
(
ゆ
)
きたることは、
134
既
(
すで
)
に
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
(
酉
(
とり
)
の
巻
(
まき
)
)に
述
(
の
)
べた
通
(
とほ
)
りである。
135
又
(
また
)
テーリスタンやカーリンスは
亜弗利加
(
アフリカ
)
の
筑紫洲
(
つくしじま
)
へ、
136
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
すべく
決心
(
けつしん
)
して、
137
聖地
(
せいち
)
を
出発
(
しゆつぱつ
)
したるが、
138
途中
(
とちう
)
にてつくづく
考
(
かんが
)
ふるに、
139
広袤
(
くわうぼう
)
数千
(
すうせん
)
里
(
り
)
の
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
に、
140
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
出
(
で
)
かけた
所
(
ところ
)
で、
141
雲
(
くも
)
を
掴
(
つか
)
むよりも
便
(
たよ
)
りなき
話
(
はなし
)
と
俄
(
にはか
)
に
心機
(
しんき
)
一転
(
いつてん
)
し、
142
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
、
143
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
144
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
、
145
運
(
うん
)
を
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
して、
146
南米
(
なんべい
)
(
高砂島
(
たかさごじま
)
)へ
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
らむと、
147
数百
(
すうひやく
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
、
148
海上
(
かいじやう
)
をさまよひ、
149
大小
(
だいせう
)
無数
(
むすう
)
の
島々
(
しまじま
)
を、
150
残
(
のこ
)
る
隈
(
くま
)
なく
探索
(
たんさく
)
し、
151
漸
(
やうや
)
くにしてテルの
港
(
みなと
)
に
安着
(
あんちやく
)
し、
152
夫
(
それ
)
より
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
路
(
みち
)
を
南
(
みなみ
)
に
取
(
と
)
り、
153
昔
(
むかし
)
猿世彦
(
さるよひこ
)
が
狭依彦
(
さよりひこの
)
神
(
かみ
)
となりて、
154
三五教
(
あななひけう
)
を
開
(
ひら
)
きたる
旧跡
(
きうせき
)
、
155
蛸取村
(
たことりむら
)
の
山奥
(
やまおく
)
、
156
アリナの
滝
(
たき
)
の
上流
(
じやうりう
)
、
157
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
巣
(
す
)
を
構
(
かま
)
へ、
158
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
に
深
(
ふか
)
く
潜
(
ひそ
)
みて
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
159
竜国別
(
たつくにわけ
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
の
外
(
そと
)
に
庵
(
いほり
)
を
結
(
むす
)
び、
160
日夜
(
にちや
)
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
神勅
(
しんちよく
)
を
請
(
こ
)
うと
称
(
しよう
)
し、
161
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
居乍
(
ゐなが
)
らにして
探
(
さぐ
)
るべく
計画
(
けいくわく
)
を
立
(
た
)
てたりける。
162
其
(
その
)
方法
(
はうはふ
)
はテーリスタンやカーリンスをテルの
国
(
くに
)
や
珍
(
うづ
)
の
国
(
くに
)
、
163
ヒルの
国
(
くに
)
、
164
ハルまでも
巡礼姿
(
じゆんれいすがた
)
となつて
巡回
(
じゆんくわい
)
せしめ、
165
……
此
(
この
)
度
(
たび
)
テルの
国
(
くに
)
の
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
月照彦
(
つきてるひこの
)
神
(
かみ
)
現
(
あら
)
はれ
給
(
たま
)
ひ、
166
如何
(
いか
)
なる
玉
(
たま
)
にても
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
献上
(
けんじやう
)
する
者
(
もの
)
は、
167
富貴
(
ふうき
)
を
与
(
あた
)
へ
長寿
(
ちやうじゆ
)
を
守
(
まも
)
り、
168
盗難
(
たうなん
)
、
169
風難
(
ふうなん
)
、
170
水難
(
すゐなん
)
、
171
火難
(
くわなん
)
、
172
剣
(
つるぎ
)
の
難
(
なん
)
まで
免
(
のが
)
れしめ
玉
(
たま
)
ふ。
173
何人
(
なにびと
)
に
依
(
よ
)
らず、
174
玉
(
たま
)
を
所持
(
しよぢ
)
する
人
(
ひと
)
は
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く、
175
アリナの
滝
(
たき
)
の
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
持参
(
ぢさん
)
せば、
176
福徳
(
ふくとく
)
円満
(
ゑんまん
)
、
177
子孫
(
しそん
)
長久
(
ちやうきう
)
の
基
(
もとゐ
)
を
開
(
ひら
)
き、
178
遂
(
つひ
)
には
天下
(
てんか
)
の
覇権
(
はけん
)
を
握
(
にぎ
)
る
神徳
(
しんとく
)
を
与
(
あた
)
へらるべし。
179
特
(
とく
)
に
黄金色
(
こがねいろ
)
の
玉
(
たま
)
は、
180
最
(
もつと
)
も
大神
(
おほかみ
)
の
喜
(
よろこ
)
び
給
(
たま
)
ふ
所
(
ところ
)
なり……と
両人
(
りやうにん
)
は
東西
(
とうざい
)
南北
(
なんぽく
)
に
手分
(
てわ
)
けして
宣伝
(
せんでん
)
に
廻
(
まは
)
つた。
181
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
質朴
(
しつぼく
)
なる
高砂島
(
たかさごじま
)
の
人間
(
にんげん
)
は、
182
テー、
183
カーの
宣伝
(
せんでん
)
を
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
け、
184
玉
(
たま
)
らしき
物
(
もの
)
は、
185
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて、
186
遠
(
とほ
)
き
山坂
(
やまさか
)
を
越
(
こ
)
え、
187
遥々
(
はるばる
)
とアリナの
滝
(
たき
)
の
上流
(
じやうりう
)
、
188
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
持参
(
ぢさん
)
し、
189
神徳
(
しんとく
)
を
蒙
(
かうむ
)
らむと
参来集
(
まゐきつど
)
ふ
者
(
もの
)
踵
(
きびす
)
を
接
(
せつ
)
した。
190
幾百
(
いくひやく
)
とも
知
(
し
)
れぬ
玉
(
たま
)
は
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
ならずして
集
(
あつ
)
まつた。
191
され
共
(
ども
)
何
(
いづ
)
れも
珍
(
めづ
)
らしき
石
(
いし
)
の
玉
(
たま
)
や、
192
丸
(
まる
)
き
団子
(
だんご
)
石玉
(
いしだま
)
にて
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
や
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
尋
(
たづ
)
ね
求
(
もと
)
むる
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
は
一
(
ひと
)
つも
集
(
あつ
)
まらざりける。
193
時
(
とき
)
にヒルの
国
(
くに
)
のアールと
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
、
194
先祖
(
せんぞ
)
代々
(
だいだい
)
より、
195
神宝
(
しんぱう
)
として
秘蔵
(
ひざう
)
したる
黄金色
(
こがねいろ
)
の
玉
(
たま
)
を
取出
(
とりだ
)
し、
196
恭
(
うやうや
)
しく
柳筥
(
やなぎばこ
)
に
納
(
をさ
)
め、
197
美
(
うる
)
はしき
御輿
(
みこし
)
を
造
(
つく
)
り、
198
里人
(
さとびと
)
に
担
(
かつ
)
がせ
乍
(
なが
)
ら、
199
数十旒
(
すうじふりう
)
の
旗
(
はた
)
を
押立
(
おした
)
て、
200
法螺貝
(
ほらがひ
)
を
吹
(
ふ
)
き、
201
磬盤
(
けいばん
)
を
叩
(
たた
)
き、
202
横笛
(
よこぶえ
)
、
203
縦笛
(
たてぶえ
)
等
(
とう
)
にて、
204
長
(
なが
)
き
道中
(
だうちう
)
をねり
歩
(
あゆ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
205
アリナの
滝
(
たき
)
の
月照彦
(
つきてるひこの
)
神
(
かみ
)
に
献上
(
けんじやう
)
せむと、
206
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
についで
長途
(
ちやうと
)
の
旅
(
たび
)
をつづけ、
207
漸
(
やうや
)
く
蛸取村
(
たことりむら
)
に
安着
(
あんちやく
)
し、
208
茲
(
ここ
)
に
暫
(
しば
)
し
止
(
とど
)
まつて、
209
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななよ
)
の
御禊
(
みそぎ
)
をなし、
210
改
(
あらた
)
めて
祭服
(
さいふく
)
を
着
(
ちやく
)
し、
211
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
に
献上
(
けんじやう
)
することとなりける。
212
テーリスタン、
213
カーリンスは
一
(
ひと
)
わたり、
214
高砂島
(
たかさごじま
)
の
目星
(
めぼし
)
き
地点
(
ちてん
)
を
宣伝
(
せんでん
)
し
終
(
をは
)
り、
215
漸
(
やうや
)
くアリナの
滝
(
たき
)
に
帰
(
かへ
)
つて、
216
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
217
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
と
共
(
とも
)
に、
218
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
の
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
ることを、
219
指折
(
ゆびを
)
り
数
(
かぞ
)
へて
待
(
ま
)
ちつつありき。
220
又
(
また
)
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は
岩窟
(
がんくつ
)
の
奥深
(
おくふか
)
く
身
(
み
)
を
忍
(
しの
)
び、
221
竹筒
(
たけづつ
)
を
口
(
くち
)
に
当
(
あ
)
て、
222
ド
拍子
(
びやうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
声
(
こゑ
)
にて
神示
(
しんじ
)
を
伝
(
つた
)
へる
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
となり、
223
竜国別
(
たつくにわけ
)
は
神勅
(
しんちよく
)
を
伺
(
うかが
)
ふ
審神者
(
さには
)
の
職
(
しよく
)
を
勤
(
つと
)
め、
224
国人
(
くにびと
)
をうまく
誤魔化
(
ごまくわ
)
し、
225
玉
(
たま
)
の
収集
(
しうしふ
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
してゐたり。
226
今日
(
けふ
)
は
朝
(
あさ
)
から
何人
(
たれ
)
も
来
(
き
)
さうにないので、
227
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
も
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
し、
228
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
229
テーリスタン、
230
カーリンスと
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
傍
(
かたはら
)
の
庵
(
いほり
)
に
集
(
あつ
)
まり、
231
懇談会
(
こんだんくわい
)
を
開
(
ひら
)
きゐたり。
232
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
『わしも
年
(
とし
)
がよつてから
聖地
(
せいち
)
を
離
(
はな
)
れ、
233
はるばるとこんな
遠
(
とほ
)
いテルの
国
(
くに
)
までやつて
来
(
き
)
て、
234
窮屈
(
きうくつ
)
な
岩窟
(
がんくつ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
をかくし、
235
虫
(
むし
)
には
咬
(
か
)
まれ、
236
蟹
(
かに
)
には
脛
(
すね
)
を
挟
(
はさ
)
まれ、
237
いろいろと
辛抱
(
しんぼう
)
して、
238
歯
(
は
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
口
(
くち
)
を
無理
(
むり
)
に
すぼめ
て、
239
こんな
重
(
おも
)
たい
竹筒
(
たけづつ
)
を
吹
(
ふ
)
かされ、
240
丸
(
まる
)
つきり
野師
(
やし
)
の
様
(
やう
)
な
所作
(
しよさ
)
をして、
241
玉集
(
たまあつ
)
めをせなきやならぬと
思
(
おも
)
へば、
242
いくら
神界
(
しんかい
)
の
為
(
ため
)
、
243
世界
(
せかい
)
の
為
(
ため
)
とは
言
(
い
)
へ、
244
情無
(
なさけな
)
うなつてきた。
245
玉
(
たま
)
は
山
(
やま
)
の
如
(
ごと
)
くに
集
(
あつ
)
まつたけれども、
246
一
(
ひと
)
つも
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
は
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ず、
247
団子石
(
だんごいし
)
に
毛
(
け
)
の
生
(
は
)
えた
様
(
やう
)
な、
248
ヤクザ
石
(
いし
)
ばつかりで、
249
目的
(
もくてき
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
は
一
(
ひと
)
つも
集
(
あつ
)
まらず、
250
……あゝヤツパリ
此
(
この
)
島
(
しま
)
には、
251
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
は
来
(
き
)
て
居
(
を
)
らぬと
見
(
み
)
えまするワイ。
252
わしも
何時迄
(
いつまで
)
もこんな
窮屈
(
きうくつ
)
な
真似
(
まね
)
は
叶
(
かな
)
ひませぬから、
253
一
(
ひと
)
つ
代
(
かは
)
つて
貰
(
もら
)
つて、
254
わしは
外
(
そと
)
へ
出
(
で
)
て
働
(
はたら
)
かして
貰
(
もら
)
はう。
255
モ
一度
(
いちど
)
宣伝
(
せんでん
)
して
見
(
み
)
たら、
256
集
(
あつ
)
まつて
来
(
く
)
るかも
知
(
し
)
れぬ。
257
人間
(
にんげん
)
は
欲
(
よく
)
の
皮
(
かは
)
が
厚
(
あつ
)
いから、
258
黄金
(
きん
)
の
登
(
のぼ
)
り
竜
(
りう
)
、
259
下
(
くだ
)
り
竜
(
りう
)
の
現
(
あら
)
はれた、
260
あのお
宝
(
たから
)
は、
261
有
(
あ
)
つても
容易
(
ようい
)
に
手放
(
てばな
)
しするものではない。
262
それには
一
(
ひと
)
つ
宣伝
(
せんでん
)
の
方法
(
はうはふ
)
を
替
(
か
)
へて、
263
出
(
だ
)
す
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
さねばなりますまい。
264
中
(
なか
)
には
随分
(
ずゐぶん
)
珍
(
めづら
)
しい
玉
(
たま
)
も
集
(
よ
)
つてゐるが、
265
どうも
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
のお
宝
(
たから
)
に
比
(
くら
)
べては
雲泥
(
うんでい
)
の
相違
(
さうゐ
)
だ。
266
アヽすまじきものは
宮仕
(
みやづか
)
へだ』
267
と
太
(
ふと
)
い
息
(
いき
)
を
漏
(
もら
)
して
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け、
268
グニヤリとなる。
269
竜国別
(
たつくにわけ
)
『お
母
(
か
)
アさま、
270
お
歎
(
なげ
)
きは
御尤
(
ごもつと
)
もなれど、
271
これ
丈
(
だけ
)
玉
(
たま
)
の
多
(
おほ
)
い
高砂島
(
たかさごじま
)
、
272
初
(
はじ
)
まりは
団子石
(
だんごいし
)
の
様
(
やう
)
な
玉
(
たま
)
計
(
ばか
)
り
集
(
あつ
)
まつて
居
(
を
)
つたが、
273
段々
(
だんだん
)
と
数
(
かず
)
は
減
(
へ
)
つて
来
(
き
)
た
代
(
かは
)
りに、
274
一日
(
いちにち
)
々々
(
いちにち
)
立派
(
りつぱ
)
な
玉
(
たま
)
が
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
集
(
あつ
)
まつて
来
(
く
)
ることを
思
(
おも
)
へば、
275
モウ
暫
(
しばら
)
く
此処
(
ここ
)
で
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
下
(
くだ
)
さいませ。
276
私
(
わたくし
)
が
中
(
なか
)
へ
這入
(
はい
)
つて、
277
あなたは
外
(
そと
)
で
審神者
(
さには
)
の
役
(
やく
)
をして
貰
(
もら
)
ふのは
易
(
やす
)
いことですが、
278
何程
(
なんぼ
)
竹筒
(
たけづつ
)
を
通
(
とほ
)
して
物
(
もの
)
を
言
(
い
)
つても、
279
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
声
(
こゑ
)
は
熱心
(
ねつしん
)
な
信者
(
しんじや
)
が
能
(
よ
)
く
聞分
(
ききわ
)
けるであらうし、
280
又
(
また
)
今迄
(
いままで
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せた
事
(
こと
)
のない、
281
年寄
(
としよ
)
りのお
前
(
まへ
)
さまが
審神者
(
さには
)
となり、
282
此
(
この
)
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えなくなつたら、
283
それこそ
疑
(
うたがひ
)
の
種
(
たね
)
を
播
(
ま
)
き、
284
千仭
(
せんじん
)
の
功
(
こう
)
を
一簣
(
いつき
)
に
虧
(
か
)
く
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ても
詰
(
つま
)
りませぬから、
285
モウ
暫
(
しばら
)
くの
所
(
ところ
)
、
286
何程
(
なんぼ
)
御
(
ご
)
窮屈
(
きうくつ
)
でも
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
下
(
くだ
)
さいませ。
287
大蛇
(
をろち
)
や
猛獣
(
まうじう
)
の
猛
(
たけ
)
び
狂
(
くる
)
ふ
此
(
この
)
山国
(
やまぐに
)
や、
288
大沙漠
(
だいさばく
)
を
渡
(
わた
)
る
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
へば、
289
何程
(
なんぼ
)
窮屈
(
きうくつ
)
でも、
290
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
で
涼
(
すず
)
しい
目
(
め
)
をして、
291
辛抱
(
しんぼう
)
して
下
(
くだ
)
さる
方
(
はう
)
が
何程
(
なんぼ
)
能
(
よ
)
いか
分
(
わか
)
りませぬ』
292
鷹依
(
たかより
)
『アヽそんなら、
293
お
前
(
まへ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
294
モウ
暫
(
しばら
)
く
辛抱
(
しんぼう
)
致
(
いた
)
して
見
(
み
)
ようかなア』
295
竜国
(
たつくに
)
『どうぞ
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
ですが、
296
暫
(
しばら
)
く、
297
さうして
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
298
キツト
前途
(
ぜんと
)
有望
(
いうばう
)
だと
信
(
しん
)
じますから……。
299
オイ、
300
テーリスタン、
301
お
前
(
まへ
)
も
永々
(
ながなが
)
と
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつたが、
302
随分
(
ずいぶん
)
宣伝
(
せんでん
)
に
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れただらうなア。
303
……カーリンス、
304
お
前
(
まへ
)
も
中々
(
なかなか
)
の
骨折
(
ほねをり
)
だつた。
305
お
前
(
まへ
)
の
往
(
い
)
つた
方
(
はう
)
も、
306
テーの
行
(
い
)
つた
方
(
はう
)
も、
307
余程
(
よほど
)
よく
宣伝
(
せんでん
)
が
行
(
ゆ
)
き
渡
(
わた
)
つたと
見
(
み
)
えて
随分
(
ずゐぶん
)
、
308
珍
(
ウヅ
)
の
国
(
くに
)
や、
309
ヒルの
国
(
くに
)
、
310
カルの
国
(
くに
)
あたりから、
311
種々
(
いろいろ
)
の
玉
(
たま
)
を
供
(
そな
)
へに
来
(
き
)
たよ。
312
まだ
一人
(
ひとり
)
も
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬのは、
313
ハルの
国
(
くに
)
だ。
314
ヒヨツとしたらハルの
国
(
くに
)
にあるかも
知
(
し
)
れない。
315
併
(
しか
)
しあの
国
(
くに
)
はブラジル
山
(
やま
)
と
云
(
い
)
ふ
大
(
おほ
)
きな
山
(
やま
)
があり、
316
アマゾン
河
(
がは
)
と
云
(
い
)
ふ
広大
(
くわうだい
)
な
流
(
なが
)
れがあつたり、
317
大沙漠
(
だいさばく
)
もあるから、
318
何程
(
なんぼ
)
熱心
(
ねつしん
)
な
者
(
もの
)
だとて、
319
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
までワザワザ
玉
(
たま
)
を
納
(
をさ
)
めに
来
(
く
)
るものはなからう、
320
モウ
一寸
(
ちよつと
)
辛抱
(
しんぼう
)
しても
来
(
こ
)
なかつたら、
321
ハルの
国
(
くに
)
へ
宿替
(
やどが
)
へして、
322
モウ
一芝居
(
ひとしばゐ
)
打
(
う
)
たうぢやないか』
323
テー『さうですな、
324
随分
(
ずゐぶん
)
山
(
やま
)
の
如
(
ごと
)
く
玉
(
たま
)
が
集
(
よ
)
つて
来
(
き
)
ましたが、
325
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
には
欲呆
(
よくぼ
)
けや、
326
迷信家
(
めいしんか
)
が
沢山
(
たくさん
)
あると
見
(
み
)
えますわい。
327
アハヽヽヽ』
328
カー『
身魂
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
の
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
ると
見
(
み
)
えて、
329
随分
(
ずゐぶん
)
ヤクザ
玉
(
たま
)
ばかり
集
(
よ
)
つたものだ。
330
高姫玉
(
たかひめだま
)
や
黒姫玉
(
くろひめだま
)
、
331
高山玉
(
たかやまだま
)
に
杓子
(
しやくし
)
のお
玉
(
たま
)
、
332
狸
(
たぬき
)
の
睾丸
(
きんたま
)
、
333
瓢六玉
(
へうろくだま
)
、
334
団子玉
(
だんごだま
)
などは
沢山
(
たくさん
)
集
(
あつ
)
まつて
来
(
き
)
たが、
335
肝腎
(
かんじん
)
の
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
はまだ
根
(
ね
)
つからお
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばさぬ。
336
何程
(
なんぼ
)
毎日
(
まいにち
)
、
337
あゝ
惟神
(
かむながら
)
御玉幸
(
みたまさち
)
はひましませ……とか、
338
玉
(
たま
)
ちはひませ……とか
云
(
い
)
つて
拝
(
をが
)
んでも、
339
根
(
ね
)
つから
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
肝腎
(
かんじん
)
の
御
(
ご
)
性念玉
(
しやうねんだま
)
を
集
(
あつ
)
めては
下
(
くだ
)
さらず、
340
わしも
肝玉
(
きもだま
)
がひしげる
様
(
やう
)
な
恐
(
こわ
)
い
目
(
め
)
にあうたり、
341
睾丸
(
きんたま
)
が
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あ
)
がる
様
(
やう
)
な
苦労
(
くらう
)
をして、
342
随分
(
ずゐぶん
)
頭
(
あたま
)
の
脳味噌
(
なうみそ
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
見
(
み
)
たが、
343
タマ
で
目的
(
もくてき
)
の
黄金玉
(
わうごんだま
)
は
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
らず、
344
玉々
(
たまたま
)
黄色
(
きいろ
)
い
色
(
いろ
)
がして
居
(
ゐ
)
ると
思
(
おも
)
へば、
345
土玉
(
つちだま
)
で、
346
少
(
すこ
)
しひねくつてをると
砕
(
くだ
)
けて
了
(
しま
)
ふ
様
(
やう
)
なフヌケ
玉
(
だま
)
許
(
ばか
)
り、
347
これ
丈
(
だけ
)
苦労
(
くらう
)
艱難
(
かんなん
)
しても
玉
(
たま
)
の
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りより
集
(
よ
)
つて
来
(
こ
)
ぬかと
思
(
おも
)
へば、
348
わしも
癇癪玉
(
かんしやくだま
)
が
破裂
(
はれつ
)
しさうだ。
349
本当
(
ほんたう
)
に
遠
(
とほ
)
い
山坂
(
やまさか
)
や
谷川
(
たにがは
)
を
駆
(
か
)
けめぐり、
350
こんな
張合
(
はりあひ
)
のない
事
(
こと
)
では、
351
たま
らぬぢやありませぬか。
352
なア
竜国別
(
たつくにわけ
)
さま』
353
竜国
(
たつくに
)
『さう
気投
(
きな
)
げをせずに、
354
モウちつと
辛抱
(
しんばう
)
して
呉
(
く
)
れ。
355
チツとは
結構
(
けつこう
)
なことが
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るよ。
356
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れるが
最後
(
さいご
)
、
357
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
358
高姫
(
たかひめ
)
の
頑固者
(
ぐわんこもの
)
に
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げさせ、
359
アツと
云
(
い
)
はして、
360
天晴
(
あつぱれ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
柱石
(
ちうせき
)
となり、
361
巾
(
はば
)
を
利
(
き
)
かして
大神業
(
だいしんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
するのを
楽
(
たのし
)
みに、
362
モウ
暫
(
しばら
)
く
忍耐
(
にんたい
)
して、
363
モウ
一働
(
ひとはたら
)
き
働
(
はたら
)
いて
呉
(
く
)
れ』
364
カー『
忍耐
(
にんたい
)
は
幸福
(
かうふく
)
の
母
(
はは
)
、
365
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
母
(
はは
)
、
366
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
は
世界
(
せかい
)
の
母
(
はは
)
だ。
367
……
母
(
はは
)
に
別
(
わか
)
れて
幼子
(
をさなご
)
が、
368
遠
(
とほ
)
き
山路
(
やまぢ
)
を
打渉
(
うちわた
)
り、
369
艱難
(
かんなん
)
して
此処
(
ここ
)
まで
尋
(
たづ
)
ね
来
(
き
)
たものを、
370
聞
(
きこ
)
えませぬと
取
(
と
)
り
付
(
つ
)
いて、
371
涙
(
なみだ
)
先立
(
さきだ
)
つ
恨
(
うら
)
み
声
(
ごゑ
)
、
372
チンチリチンぢや』
373
テー『コリヤコリヤ、
374
そんな
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
所
(
どころ
)
かい。
375
チツと
確
(
しつか
)
りと
智慧
(
ちゑ
)
をめぐらし、
376
モウ
一活動
(
ひとくわつどう
)
やらねばならぬ、
377
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
性念場
(
しやうねんば
)
だぞ』
378
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
ふ
折
(
をり
)
しも、
379
俄
(
にはか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
縦笛
(
たてぶえ
)
、
380
横笛
(
よこぶえ
)
、
381
法螺貝
(
ほらがい
)
、
382
磬盤
(
けいばん
)
を
叩
(
たた
)
く
音
(
おと
)
頻
(
しき
)
りに
聞
(
きこ
)
え、
383
『
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
献上
(
けんじやう
)
』と
云
(
い
)
ふ
旗
(
はた
)
幾十
(
いくじふ
)
となく
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
に
見
(
み
)
えつ
隠
(
かく
)
れつ、
384
翩翻
(
へんぽん
)
として
谷風
(
たにかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
乍
(
なが
)
ら
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る。
385
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は
竹筒
(
たけづつ
)
を
右手
(
みぎて
)
に
握
(
にぎ
)
つたまま、
386
慌
(
あわた
)
だしく
岩窟内
(
がんくつない
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
した。
387
竜国別
(
たつくにわけ
)
は
威儀
(
ゐぎ
)
を
正
(
ただ
)
して
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
の
前
(
まへ
)
に
端坐
(
たんざ
)
し、
388
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せて
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
してゐる。
389
テー、
390
カー
両人
(
りやうにん
)
は
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
竜国別
(
たつくにわけ
)
の
後
(
うしろ
)
に
平伏
(
へいふく
)
して
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
鏡
(
かがみ
)
の
池
(
いけ
)
を
拝
(
をが
)
み
居
(
ゐ
)
る。
391
(
大正一一・八・一一
旧六・一九
松村真澄
録)
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