霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 ヨブの入信(にふしん)〔八三七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻 篇:第3篇 神鬼一転 よみ(新仮名遣い):しんきいってん
章:第15章 ヨブの入信 よみ(新仮名遣い):よぶのにゅうしん 通し章番号:837
口述日:1922(大正11)年08月12日(旧06月20日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
高姫に対して憤っていた船客の一人は、ヨブという名前で、去年船中で鷹依姫一行が海中に没したのを見て、高姫に対して非常な怒りを覚えたことを明かした。そして、今高姫の高潔な姿を見て、弟子になりたいと申し出た。
高姫は一度断るが、ヨブは熱心に頼み込んだ。常彦と春彦も賛成し、ヨブは高姫に同道することになった。それにあたって高姫は、執着心を去るために必要最低限の路銀のみ携帯するように言い渡した。
ヨブは、船中に居た同郷の島の知人に手持ちの路銀のほとんどを与え、貧しい人たちに施すようにと頼んだ。知人たちは後に故郷に戻ると、ヨブから預かった金を島の貧しい人たちに残らず与えた。
高姫たちは、ヨブの無欲に感心し、常彦はヨブの入信を祝う歌を歌った。そこにはかつての高姫の所業も歌いこまれていたが、船中の人々はそれを聞いて、かえって高姫一行の公平無私な態度に感歎した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:ニユージランド(ニュージーランド) データ凡例: データ最終更新日:2022-01-02 18:19:15 文字数:4812 OBC :rm2915
愛善世界社版:216頁 八幡書店版:第5輯 545頁 修補版: 校定版:222頁 普及版:101頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)の偽(いつは)らざる告白(こくはく)に船客(せんきやく)の一人(ひとり)は、002今迄(いままで)の憤怒(ふんぬ)の情(じやう)は何処(どこ)へやら消(き)え失(う)せ、003今度(こんど)は全(まつた)く高姫(たかひめ)に対(たい)する同情者(どうじやうしや)となつて了(しま)つた。004丙(へい)は高姫(たかひめ)に向(むか)ひ、
005丙(ヨブ)『私(わたし)はカーリン島(じま)(今(いま)のフオークランド)のヨブと云(い)ふ者(もの)で御座(ござ)います。006去年(きよねん)の此(この)頃(ごろ)、007此(この)カーリン丸(まる)に乗(の)り、008ゼムの港(みなと)に往来(ゆきき)する途中(とちう)、009最前(さいぜん)話(はな)しました様(やう)な、010親子(おやこ)主従(しゆじゆう)の溺死(できし)を目撃(もくげき)し、011夫(それ)から何(なん)となく憐(あは)れを催(もよほ)し、012能(よ)く探(さぐ)つて見(み)れば、013自転倒(おのころ)島(じま)の高姫(たかひめ)さまから追(お)ひ出(だ)されて、014ここまで遥々(はるばる)やつて来(き)た憐(あは)れな人(ひと)だと聞(き)いてから、015おのれ高姫(たかひめ)見(み)つけ次第(しだい)素首(そつくび)抜(ぬ)かずにおくものかと、016親(おや)の仇敵(かたき)ででもあるかの様(やう)に、017力瘤(ちからこぶ)を入(い)れて憤怒(ふんぬ)の情(じやう)に堪(た)へ兼(か)ねてゐましたが、018今(いま)御(ご)本人(ほんにん)の高姫(たかひめ)さまに出会(であ)ひ、019聞(き)くと見(み)るとは大変(たいへん)な違(ちが)ひ、020あなたの潔白(けつぱく)なる御(ご)精神(せいしん)には、021此(この)ヨブも感嘆(かんたん)致(いた)しました。022話(はなし)と云(い)ふものは両方(りやうはう)聞(き)かねば一方(いつぱう)計(ばか)り聞(き)いては分(わか)らぬものです。023どうぞ高姫(たかひめ)さま、024不思議(ふしぎ)な御縁(ごえん)で此(この)船(ふね)の中(なか)でお目(め)にかかりました。025これを機(しほ)に私(わたし)を貴女(あなた)の御(お)弟子(でし)にして下(くだ)さいませぬか。026私(わたし)は両親(りやうしん)もあり、027兄(あに)も妹(いもうと)も御座(ござ)いますが、028幸(さいは)ひ部屋住(へやずみ)の身(み)で何処(どこ)まで行(い)つても、029神(かみ)さまの為(ため)なら親兄妹(おやきやうだい)も何(なに)も申(まを)しませぬ。030どうぞ私(わたし)を何処(どこ)までもお供(とも)をさして下(くだ)さいませ。031又(また)路銀(ろぎん)に御(お)困(こま)りなら、032二(に)年(ねん)や三(さん)年(ねん)の路銀(ろぎん)は丁度(ちやうど)ここに携帯(けいたい)致(いた)して居(を)りますから、033どうぞお供(とも)にお願(ねがひ)致(いた)します』
034高姫(たかひめ)『それは誠(まこと)に結構(けつこう)な思召(おぼしめ)しで御座(ござ)いますが、035まだ貴方(あなた)には執着心(しふちやくしん)がありますから、036到底(たうてい)御(ご)辛抱(しんばう)は出来(でき)ますまい。037又(また)御縁(ごえん)がありましたら、038其(その)時(とき)に御(お)世話(せわ)になりませう。039併(しか)しどうぞ三五(あななひ)の道(みち)の信者(しんじや)におなり下(くだ)さいませ』
040ヨブ『私(わたし)は素(もと)より三五教(あななひけう)の信者(しんじや)で御座(ござ)いますよ。041別(べつ)に教会(けうくわい)とか、042教典(けうてん)とか又(また)は経文(きやうもん)とか、043形式(けいしき)的(てき)の道(みち)は踏(ふ)んで居(を)りませぬが、044誠(まこと)の宗教(しうけう)は決(けつ)して教会(けうくわい)や儀式(ぎしき)などから生(うま)れるものでは御座(ござ)りませぬ。045どうぞ左様(さやう)な結構(けつこう)なお道(みち)を世界(せかい)に宣伝(せんでん)し、046同(おな)じ人間(にんげん)と生(うま)れて、047一生(いつしやう)を暮(くら)すならば、048世界(せかい)の人民(じんみん)を助(たす)け、049喜(よろこ)ばれて此(この)世(よ)を過(す)ごし度(た)う御座(ござ)います。050どうぞお気(き)に入(い)りますまいが、051貴女(あなた)のお弟子(でし)にして下(くだ)さいませ』
052高姫(たかひめ)『一寸(ちよつと)御(ご)様子(やうす)を見(み)れば、053随分(ずゐぶん)あなたは新(あたら)しい学問(がくもん)をしてゐるお方(かた)のやうだ。054余程(よほど)お悧巧(りかう)な方(かた)とみえますから、055到底(たうてい)私(わたし)のやうな無学(むがく)文盲(もんまう)な昔人間(むかしにんげん)の云(い)ふことはお気(き)に入(い)りますまいから……』
056ヨブ『誠(まこと)の道(みち)は学問(がくもん)や智慧(ちゑ)で分(わか)るものではありませぬ。057私(わたし)は貴女(あなた)の言心行(げんしんかう)一致(いつち)の誠(まこと)に感心(かんしん)をしたので御座(ござ)います。058今(いま)の世(よ)の中(なか)は口(くち)と心(こころ)と行(おこな)ひと全然(すつかり)反対(はんたい)な者(もの)ばかり、059どうぞ誠(まこと)の人(ひと)を見(み)つけて、060世界(せかい)の為(ため)に尽(つく)し度(た)いと、061寝(ね)ても醒(さ)めても神(かみ)様(さま)に祈願(きぐわん)を籠(こ)めてゐました。062今日(けふ)も今日(けふ)とて大悪人(だいあくにん)と思(おも)ひつめてゐた、063貴女(あなた)の言心行(げんしんかう)一致(いつち)の執着心(しふちやくしん)のない信仰心(しんかうしん)の強(つよ)いのを実地(じつち)拝見(はいけん)致(いた)しまして、064何(なん)とも愉快(ゆくわい)でたまりませぬ。065貴女(あなた)の弟子(でし)になることが出来(でき)ませねば、066せめて荷持(にもち)になりと連(つ)れて行(い)つて下(くだ)さいませ。067此(この)宇都(うづ)の国(くに)から巴留(はる)の国(くに)(現今(げんこん)のブラジル)の海岸(かいがん)は、068私(わたし)は詳(くは)しく存(ぞん)じてゐますから、069どうぞ道案内(みちあんない)旁(かたがた)御(お)供(とも)をさして下(くだ)さる様(やう)に御(お)願(ねがひ)致(いた)します』
070高姫(たかひめ)『私(わたし)一量見(いちれうけん)では参(まゐ)りませぬ。071ここに同行(どうかう)致(いた)してをります常彦(つねひこ)、072春彦(はるひこ)の御(ご)意見(いけん)を伺(うかが)ひまして、073其(その)上(うへ)で御(ご)返事(へんじ)を致(いた)しませう。074……なア常彦(つねひこ)、075春彦(はるひこ)、076あなたも今(いま)お聞(き)きの通(とほ)り、077此(この)方(かた)の仰有(おつしや)ること如何(どう)思(おも)はれますか。078どうぞ御(ご)意見(いけん)を腹蔵(ふくざう)なく今(いま)此処(ここ)で仰(おつしや)つて下(くだ)さいませ』
079常彦(つねひこ)『それは誠(まこと)に結構(けつこう)だと思(おも)ひます。080……なア春彦(はるひこ)、081お前(まへ)も賛成(さんせい)だらう』
082春彦(はるひこ)『私(わたし)もズツト賛成(さんせい)です。083ヨブさまがここへ加(くは)はつて下(くだ)されば、084丁度(ちやうど)神(かみ)様(さま)を一霊(いちれい)とし、085吾々(われわれ)が四魂(しこん)となつて、086御用(ごよう)を致(いた)しますのに、087大変(たいへん)な好都合(かうつがふ)で御座(ござ)います』
088高姫(たかひめ)『あゝ御(お)二人(ふたり)共(とも)御(ご)同意(どうい)下(くだ)さいましたか、089それは誠(まこと)に喜(よろこ)ばしいこつて御座(ござ)います。090……モシモシ ヨブ様(さま)、091お聞(きき)の通(とほ)りで御座(ござ)いますから、092どうぞ宜(よろ)しくお願(ねが)ひ致(いた)します』
093ヨブ『ハイ早速(さつそく)の御(お)聞済(ききず)み、094これに越(こ)したる悦(よろこび)は御座(ござ)いませぬ。095どうぞ末永(すえなが)く御(お)使(つか)ひの程(ほど)御(お)願(ねがひ)致(いた)します』
096高姫(たかひめ)『併(しか)し乍(なが)らあなた最前(さいぜん)路銀(ろぎん)を沢山(たくさん)持(も)つてると仰(あふ)せられましたが、097吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)は余(あま)り沢山(たくさん)の路銀(ろぎん)は必要(ひつえう)が御座(ござ)いませぬ。098どうぞ夫(それ)を難儀(なんぎ)な人(ひと)に、099ゼムの港(みなと)へ御(ご)上陸(じやうりく)になつたら分(わ)けてお上(あ)げ下(くだ)さい。100さうでないと誠(まこと)の御(ご)神徳(しんとく)を頂(いただ)けもせず、101本当(ほんたう)の御用(ごよう)も勤(つと)まりませぬ。102身魂(みたま)の因縁(いんねん)性来(しやうらい)で、103神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)が出来(でき)るので御座(ござ)いますから、104宣伝使(せんでんし)として決(けつ)してお金(かね)なんか必要(ひつえう)が御座(ござ)いませぬ、105野(の)に寝(ね)たり、106山(やま)に臥(ね)たり、107辻堂(つじだう)に寝(ね)たり、108種々(いろいろ)修業(しうげふ)致(いた)して、109世界(せかい)の人民(じんみん)に安心(あんしん)立命(りつめい)を与(あた)へ、110天下(てんか)泰平(たいへい)の祈願(きぐわん)を致(いた)すのが宣伝使(せんでんし)の職責(しよくせき)で御座(ござ)いますから……夫(それ)とも綾(あや)の聖地(せいち)とか、111波斯(フサ)の国(くに)斎苑(いそ)の館(やかた)の御(ご)普請(ふしん)とかにお献(ささ)げ下(くだ)さるのなら結構(けつこう)で御座(ござ)いますが、112併(しか)し其(その)お金(かね)は如何(どう)して御(お)手(て)にお入(い)れ遊(あそ)ばしたのですか。113まだお年(とし)も若(わか)いし、114お金(かね)の儲(まう)かる塩梅(あんばい)も御座(ござ)いませぬが、115大方(おほかた)両親(りやうしん)の財産(ざいさん)でも分(わ)けてお頂(いただ)きになつたのでせう』
116ヨブ『ハイ、117御(お)察(さつ)しの通(とほ)り、118両親(りやうしん)から各自(かくじ)に財産(ざいさん)の分配(ぶんぱい)を受(うけ)て居(を)りまする。119夫(それ)だから決(けつ)して怪(あや)しき金(かね)でも、120盗(ぬす)んだ物(もの)でも御座(ござ)いませぬから、121そんならどうか神(かみ)様(さま)の御(ご)普請(ふしん)にお使(つか)ひ下(くだ)さいませぬか』
122高姫(たかひめ)『あなたが汗脂(あせあぶら)を絞(しぼ)つて苦労(くらう)の塊(かたまり)で蓄(た)めたお金(かね)なら、123神(かみ)様(さま)もお喜(よろこ)びでせうが、124親譲(おやゆづ)りの財産(ざいさん)で、125自分(じぶん)の手(て)も汚(よご)さず、126懐(ふところ)にしたお金(かね)は苦労(くらう)がしゆんでゐませぬから、127神(かみ)様(さま)にお上(あ)げしても御(お)喜(よろこ)びにはなりませぬ。128どうぞそれは慈善(じぜん)的(てき)に、129難儀(なんぎ)な人(ひと)にお与(あた)へ下(くだ)さいませ。130世界(せかい)の人民(じんみん)は皆(みな)神(かみ)様(さま)の尊(たふと)い霊(れい)の宿(やど)つたお子様(こさま)で御座(ござ)いますから、131言(い)はば人民(じんみん)同志(どうし)は兄弟(けうだい)も同様(どうやう)、132兄弟(けうだい)を大切(たいせつ)にするのは、133親神(おやがみ)様(さま)は大変(たいへん)お喜(よろこ)びで御座(ござ)いますからなア』
134ヨブ『イヤ能(よ)く分(わか)りました。135左様(さやう)ならば其(その)考(かんが)へに致(いた)します。136金銭(きんせん)などは実(じつ)のところ煩(うるさ)くて堪(たま)らないのですが、137これが無(な)くては旅(たび)も出来(でき)ませぬので、138せう事(こと)なしに重(おも)たいものを腹(はら)に巻(ま)いて歩(ある)いて居(を)ります』
139 船客(せんきやく)の一人(ひとり)甲(かふ)は此(この)話(はな)しを聞(き)いて側(そば)に寄(よ)り来(きた)り、
140甲『モシモシ ヨブさま、141あなたは愈(いよいよ)此(この)方(かた)のお弟子(でし)になる積(つも)りですか』
142ヨブ『お察(さつ)しの通(とほ)りです。143どうぞ国(くに)へお帰(かへ)りになつた時(とき)には、144私(わたし)の両親(りやうしん)始(はじ)め兄弟(けうだい)親類(しんるゐ)、145村中(むらぢう)の方々(かたがた)に宜(よろ)しく云(い)つて下(くだ)さいませ』
146甲『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。147併(しか)し乍(なが)ら今(いま)承(うけたま)はれば、148あなたは所持金(しよぢきん)を一切(いつさい)慈善(じぜん)的(てき)に難儀(なんぎ)なものに施(ほどこ)すと云(い)はれましたなア。149同(おな)じ人(ひと)を助(たす)けるのならば、150カーリン島(たう)にも沢山(たくさん)な難儀(なんぎ)な人民(じんみん)が居(を)りますから、151国(くに)を立(た)つたお土産(みやげ)に島人(しまびと)の難渋(なんじふ)なものにお与(あた)へになつては如何(どう)です』
152ヨブ『あゝさう願(ねが)ひませうか』
153甲『オイ、154ヤコブ、155お前(まへ)も一緒(いつしよ)にヨブさまから今(いま)お金(かね)を受取(うけと)つたら証人(しようにん)になつて呉(く)れ、156若(も)し間違(まちが)うと困(こま)るからなア』
157ヨブ『タールさまの正直(しやうぢき)正道(しやうだう)のあなた、158決(けつ)して間違(まちが)ひはありますまい。159最早(もはや)あなたのお手(て)に渡(わた)した以上(いじやう)は、160私(わたし)のお金(かね)ではありませぬ、161あなたの御(ご)自由(じいう)になさつたらいいのです。162別(べつ)にヤコブさまを、163七(しち)むづかしい、164証人(しようにん)なんかに立(た)てる必要(ひつえう)はありますまい。165併(しか)しヤコブさまが同意(どうい)して下(くだ)さらば、166お二人(ふたり)に分(わ)けて預(あづか)つて貰(もら)ひませう』
167ヤコブ『どちらなりと、168あなたの御意(ぎよい)に従(したが)ひます』
169 ヨブは懐(ふところ)より沢山(たくさん)の小判(こばん)を取出(とりだ)し、170其(その)一部分(いちぶぶん)はまさかの用意(ようい)と後(あと)に残(のこ)し、171九分(くぶ)迄(まで)両人(りやうにん)に托(たく)し、
172ヨブ『どうぞ難渋(なんじふ)な人(ひと)に、173お前(まへ)さまから与(あた)へて下(くだ)さい。174決(けつ)してヨブの金(かね)だとは言(い)つて下(くだ)さいますな。175人(ひと)に施(ほどこ)す時(とき)は、176右(みぎ)の手(て)にて施(ほどこ)すのを、177左(ひだり)の手(て)に知(し)れない様(やう)にせよ……との神(かみ)様(さま)の御(お)示(しめ)しも御座(ござ)いますから、178どうぞ其(その)お積(つも)りでお願(ねが)ひ致(いた)します』
179 両人(りやうにん)は感心(かんしん)し乍(なが)ら、180其(その)金(かね)を受取(うけと)り帰国(きこく)の後(のち)、181ヨブの依頼(たより)の如(ごと)く、182数多(あまた)の貧(まづ)しき人々(ひとびと)に、183一文(いちもん)も残(のこ)らず正直(しやうぢき)に与(あた)へて了(しま)つた。
184 高姫(たかひめ)、185常彦(つねひこ)、186春彦(はるひこ)もヨブの恬淡(てんたん)無欲(むよく)なるに感(かん)じ入(い)り、187大(おほい)に其(その)行為(かうゐ)を賞揚(しやうやう)した。188常彦(つねひこ)は立(た)ち上(あが)り、189歌(うた)を謡(うた)つてヨブの入信(にふしん)を祝(しゆく)した。
190常彦(つねひこ)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
191善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわ)ける
192此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
193心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
194只(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
195直日(なほひ)に見直(みなほ)し聞直(ききなほ)し
196過(あやま)りあれば宣(の)り直(なほ)す
197三五教(あななひけう)の神(かみ)の道(みち)
198高姫司(たかひめつかさ)が今迄(いままで)は
199正邪(せいじや)の道(みち)に踏(ふ)み迷(まよ)ひ
200我情(がじやう)我欲(がよく)を立通(たてとほ)し
201下(しも)を虐(しひた)げ上(かみ)押(おさ)へ
202変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)と
203日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)を
204真向(まつかう)上段(じやうだん)に振翳(ふりかざ)し
205三五教(あななひけう)の人々(ひとびと)を
206朝(あさ)な夕(ゆふ)なに威喝(ゐかつ)して
207鳥(とり)なき里(さと)の蝙蝠(かうもり)と
208成(な)りすましたる愚(おろか)さよ
209心(こころ)の暗(やみ)はいや深(ふか)く
210黒白(あやめ)も分(わ)かぬ黒姫(くろひめ)が
211黄金(こがね)の玉(たま)を紛失(ふんしつ)し
212心(こころ)痛(いた)むる折柄(をりから)に
213高姫司(たかひめつかさ)が嗅(か)ぎつけて
214悪鬼(あくき)のやうな顔色(がんしよく)で
215小言(こごと)八百(はつぴやく)並(なら)べ立(た)て
216黒姫(くろひめ)さまを始(はじ)めとし
217鷹依姫(たかよりひめ)や竜国別(たつくにわけ)の
218教(のり)の司(つかさ)やテー、カーの
219五(ご)人(にん)の司(つかさ)を無残(むざん)にも
220綾(あや)の聖地(せいち)を追(お)ひ出(いだ)し
221海洋(かいやう)万里(ばんり)の竜宮島(りうぐうじま)
222高砂島(たかさごじま)迄(まで)追(お)ひ出(いだ)し
223自分(じぶん)も玉(たま)を紛失(ふんしつ)し
224再(ふたた)び心(こころ)の暗雲(やみくも)に
225包(つつ)まれ聖地(せいち)を後(あと)にして
226南洋(なんやう)諸島(しよたう)や高砂(たかさご)の
227島(しま)に又(また)もや渡(わた)り来(き)て
228金剛(こんがう)不壊(ふゑ)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)
229紫玉(むらさきだま)や黄金(わうごん)の
230珍(うづ)の宝玉(ほうぎよく)麻邇(まに)の玉(たま)
231言依別(ことよりわけ)の教主(けうしゆ)等(ら)が
232着服(ちやくふく)なして海外(かいぐわい)へ
233姿(すがた)を隠(かく)し三五(あななひ)の
234神(かみ)の元(もと)なる厳御魂(いづみたま)
235変性(へんじやう)男子(なんし)に楯(たて)をつき
236謀叛(むほん)を企(たく)むに違(ちが)ひない
237こりや斯(こ)うしては居(を)られぬと
238夜叉(やしや)のやうなる勢(いきほひ)で
239霊界(あのよ)現世(このよ)の瀬戸(せと)の海(うみ)
240馬関(ばくわん)海峡(かいけふ)アンボイナ
241ニユージランドやオセアニヤ
242高砂島(たかさごじま)の奥(おく)までも
243探(さぐ)り探(さぐ)りて鏡池(かがみいけ)
244懸橋(かけはし)御殿(ごてん)に侵入(しんにふ)し
245又(また)もうるさい玉騒(たまさわ)ぎ
246月照彦(つきてるひこ)の化身(けしん)等(ら)に
247散々(さんざん)脂(あぶら)を絞(しぼ)られて
248命(いのち)からがら逃(に)げ出(いだ)し
249アリナの峰(みね)を乗(の)り越(こ)えて
250アルゼンチンの大野原(おほのはら)
251櫟(くぬぎ)ケ原(はら)の真中(まんなか)に
252ポプラの茂(しげ)みを宿(やど)となし
253一夜(いちや)を明(あ)かす其(その)中(うち)に
254木(こ)の花姫(はなひめ)の化身(けしん)なる
255日(ひ)の出姫(でのひめ)の深遠(しんゑん)な
256神示(しんじ)を受(う)けて改心(かいしん)し
257執着心(しふちやくしん)を払拭(ふつしき)し
258生(うま)れ赤子(あかご)になりければ
259隙(すき)を覘(ねら)つて憑(つ)いてゐた
260金毛(きんまう)九尾(きうび)の悪狐(あくこ)奴(め)が
261ゐたたまらずに肉体(にくたい)を
262後(あと)に残(のこ)して雲(くも)に乗(の)り
263常世(とこよ)の空(そら)に逃(に)げて行(ゆ)く
264それから後(のち)の高姫(たかひめ)は
265日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)か
266木(こ)の花姫(はなひめ)の再来(さいらい)か
267たとへ方(がた)なき善良(ぜんりやう)の
268忽(たちま)ち身魂(みたま)となり変(かは)り
269昨日(きのふ)の鬼(おに)は今日(けふ)の神(かみ)
270実(げ)にも尊(たつと)き神柱(かむばしら)
271心(こころ)の空(そら)につき固(かた)め
272アイルの激(はげ)しき荒河(あらかは)を
273神(かみ)の造(つく)りし鰐(わに)の橋(はし)
274易々(やすやす)渡(わた)りて玉(たま)の湖(こ)の
275畔(ほとり)に漸(やうや)く辿(たど)りつき
276高姫司(たかひめつかさ)を始(はじ)めとし
277常彦(つねひこ)、春彦(はるひこ)諸共(もろとも)に
278椰子樹(やしじゆ)の森(もり)に横(よこ)たはり
279一夜(いちや)を明(あ)かし目(め)を醒(さ)まし
280あたりキヨロキヨロ見廻(みまは)せば
281鷹依姫(たかよりひめ)や竜国別(たつくにわけ)の
282教(のり)の司(つかさ)やテー、カーの
283四(よ)人(にん)の姿(すがた)を刻(きざ)みたる
284石(いし)を眺(なが)めて拝礼(はいれい)し
285悔悟(くわいご)の涙(なみだ)せきあへず
286ここに全(まつた)く改心(かいしん)の
287開悟(かいご)の花(はな)は満開(まんかい)し
288森羅(しんら)万象(ばんしやう)悉(ことごと)く
289至善(しぜん)至楽(しらく)の光景(くわうけい)と
290変(かは)りたるこそ面白(おもしろ)き
291吾(われ)等(ら)三人(みたり)は玉(たま)の湖(こ)の
292錦(にしき)の魚(うを)に教(をし)へられ
293経(たて)と緯(よこ)との経綸(けいりん)を
294隈(くま)なく悟(さと)りやうやうに
295アルの港(みなと)に来(き)て見(み)れば
296折(をり)よく船(ふね)は出帆(しゆつぱん)の
297間際(まぎは)なりしを幸(さいは)ひに
298嬉(うれ)しく乗(の)りて今(いま)此処(ここ)に
299胸(むね)凪(な)ぎ渡(わた)る海(うみ)の上(うへ)
300タールや、ヤコブ、ヨブさまの
301世間話(せけんばなし)に花(はな)が咲(さ)き
302聞(き)くともなしに聞(き)き居(を)れば
303鷹依姫(たかよりひめ)や竜国別(たつくにわけ)の
304教(のり)の司(つかさ)の一行(いつかう)が
305大和田中(おほわだなか)に落(お)ち入(い)りて
306みまかり玉(たま)ひし物語(ものがたり)
307吾(われ)等(ら)の胸(むね)に轟(とどろ)きつ
308涙(なみだ)を抑(おさ)へて聞(き)く中(うち)に
309高姫(たかひめ)さまの物語(ものがたり)
310鷹依姫(たかよりひめ)が一行(いつかう)の
311奇禍(きくわ)にあひしも其(その)元(もと)を
312詳(くは)しく探(さぐ)れば高姫(たかひめ)が
313我情(がじやう)我慢(がまん)の結果(けつくわ)ぞと
314聞(き)いて吾(われ)等(ら)は胸(むね)痛(いた)め
315如何(いかが)ならむと思(おも)ふうち
316身魂(みたま)も清(きよ)き高姫(たかひめ)は
317打(う)つて変(かは)つて正直(しやうぢき)に
318おのが前非(ぜんぴ)を告白(こくはく)し
319捨身(しやしん)の覚悟(かくご)をなし玉(たま)ふ
320其(その)雄々(をを)しさにヨブさまも
321日頃(ひごろ)の怒(いか)りは氷解(ひようかい)し
322打(う)つて変(かは)つた機嫌顔(きげんがほ)
323不言(ふげん)実行(じつかう)の行動(かうどう)に
324感(かん)じ玉(たま)ひて高姫(たかひめ)が
325御弟子(みでし)にならむと請(こ)ひ玉(たま)ふ
326あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
327神(かみ)の御霊(みたま)の幸(さち)はひて
328高姫(たかひめ)さまの今日(けふ)の胸(むね)
329旭(あさひ)の如(ごと)く澄(す)みわたり
330照(て)り輝(かがや)くぞ雄々(をを)しけれ
331高姫(たかひめ)さまの改心(かいしん)が
332若(も)しや遅(おく)れてゐたならば
333カーリン丸(まる)の船中(せんちう)で
334ヨブに素首(そつくび)引抜(ひきぬ)かれ
335吾(われ)等(ら)は悲(かな)しき長旅(ながたび)の
336何(なん)と詮術(せんすべ)波(なみ)の上(うへ)
337泣(な)けど叫(さけ)べど甲斐(かひ)もなく
338悲(かな)しき別(わか)れせしならむ
339朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
340月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
341仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
342誠一(まことひと)つは身(み)を救(すく)ふ
343誠(まこと)の道(みち)の御教(みをしへ)を
344只一筋(ただひとすぢ)に是(こ)れからは
345脇目(わきめ)もふらず進(すす)みなむ
346神(かみ)は吾(われ)等(ら)を守(まも)ります
347神(かみ)の御旨(みむね)に叶(かな)ひなば
348如何(いか)なる事(こと)か恐(おそ)れむや
349茲(ここ)に常彦(つねひこ)謹(つつし)みて
350高姫(たかひめ)さまの御(ご)改心(かいしん)
351入信(にふしん)されたヨブさまの
352目出度(めでた)き今日(けふ)の生日(いくひ)をば
353喜(よろこ)び勇(いさ)み祝(ほ)ぎまつる
354あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
355御霊(みたま)幸(さち)はひましませよ』
356と歌(うた)ひ終(をは)り、357腰(こし)を下(おろ)した。358高姫(たかひめ)を始(はじ)め、359ヨブ其(その)他(た)の船中(せんちう)の人々(ひとびと)は常彦(つねひこ)が現在(げんざい)高姫(たかひめ)を前(まへ)におき、360露骨(ろこつ)に其(その)経路(けいろ)を語(かた)りたる公平(こうへい)無私(むし)の態度(たいど)に感嘆(かんたん)の舌(した)を巻(ま)くのであつた。
361(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)
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