霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 カーリン(まる)〔八三六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻 篇:第3篇 神鬼一転 よみ(新仮名遣い):しんきいってん
章:第14章 カーリン丸 よみ(新仮名遣い):かーりんまる 通し章番号:836
口述日:1922(大正11)年08月12日(旧06月20日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫一行は湖のほとりで一夜を明かすと、湖水で顔を洗って禊をし、朝拝を行った。ふと路傍を見ると、石の神像が立っている。その像の裏を見ると、鷹依姫たちがここで改心した記念に彫ったものであることがわかった。
高姫はこの奇縁に驚き、また自分が鷹依姫たちを追い出したことで苦労をかけたと嘆き、自らの過去の行いを悔いた。そして罪滅ぼしのために、この神像を自転倒島まで背負って行こうと決心した。これが地蔵の石像の濫觴だという。
一行は湖水の中に、縦筋の入っためくら魚と、横筋の入っためくら魚が泳いでいるのを見た。そこへ、縦横十文字の立派な魚が泳いできた。これを見て高姫は、三五教の中でも経・緯それぞれもののわからない信者同士がいがみあっても御神業は成就しないということを思い、反省した。
一行は旅を続け、アルの海岸に着き、船に乗り込んだ。船客たちは、鷹依姫一行の噂をしており、高姫にも話が及んでいた。高姫は恥ずかしさに小さくなっている。
さらに船客たちは、去年この船に乗った鷹依姫が誤って海中に落ち、それを助けようとした竜国別、テーリスタン、カーリンスの三人も行方が知れなくなっていることを話し出した。
船客の一人は、鷹依姫一行が海中に落ちて悲惨な目にあったのも、元はといえば自転倒島を追い出した高姫のせいだと憤っている。高姫は自ら船客の前に名乗り出て懺悔をし、船客の気が済むように自分を処分してくれと真心から謝罪した。
憤っていた船客は高姫の真心に打たれて知らずのうちに高姫に尊敬の念を抱くようになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-12-31 17:23:39 OBC :rm2914
愛善世界社版:203頁 八幡書店版:第5輯 540頁 修補版: 校定版:209頁 普及版:94頁 初版: ページ備考:
001 (さん)(にん)湖水(こすゐ)(かたはら)なる椰子樹(やしじゆ)(もり)一夜(いちや)()かした。002(その)()比較(ひかく)(てき)(かぜ)(つよ)く、003湖水(こすゐ)(なみ)(おと)(らい)(ごと)時々(ときどき)ドンドンと(ひび)いて()た。004(この)湖水(こすゐ)()(たま)(うみ)()ふ。005東西(とうざい)五十(ごじふ)()006南北(なんぽく)三十五(さんじふご)()(ぐらゐ)大湖水(だいこすゐ)であつた。007そして(この)湖水(こすゐ)(かたち)瓢箪(へうたん)(たて)()つて半分(はんぶん)仰向(あふむ)けにしたやうな(かたち)をしてゐる。008地平線(ちへいせん)(じやう)より(あらた)(うま)()(たま)真紅(しんく)太陽(たいやう)はニコニコとして()(くる)(なが)ら、009刻々(こくこく)昇天(しようてん)(たま)ふ。010一同(いちどう)湖水(こすゐ)(かほ)(あら)ひ、011(くち)(すす)()(きよ)め、012拍手(はくしゆ)感謝(かんしや)(ことば)奏上(そうじやう)し、013蔓苺(つるいちご)(たなごころ)一杯(いつぱい)むしり()つて朝飯(あさめし)()へた。014()()()れば(かたはら)(かみ)姿(すがた)した(いし)()つて()る。015()不思議(ふしぎ)裏面(りめん)()れば、016(やはら)かき石像(せきざう)(うら)に、017鷹依姫(たかよりひめ)018竜国別(たつくにわけ)019テーリスタン、020カーリンスの一行(いつかう)()(にん)021改心(かいしん)記念(きねん)(ため)(この)(せき)(ざう)(きざ)()く……』と()()けてあつた。022常彦(つねひこ)(この)文面(ぶんめん)()()げて高姫(たかひめ)()かした。023高姫(たかひめ)(おどろ)いて、
024高姫(たかひめ)『あゝ矢張(やつぱり)鷹依姫(たかよりひめ)さまも竜国別(たつくにわけ)さまも、025テー、026カーも、027つまり(この)荒原(くわうげん)彷徨(さまよ)うて御座(ござ)つたと()える。028ホンにお()(どく)な、029あるにあられぬ苦労(くらう)をなさつたであらう。030(この)高姫(たかひめ)無慈悲(むじひ)にも、031黒姫(くろひめ)さまが黄金(こがね)(たま)紛失(ふんしつ)したと()つて、032鷹依姫(たかよりひめ)さまや、033(ほか)(さん)(にん)(かた)にまで難題(なんだい)()ひつのり、034聖地(せいち)()()したのは、035(なん)()気強(きづよ)いことをしたのであらう。036(いま)になつて過去(くわこ)(かへり)みれば、037(わたし)(をか)した(つみ)038(ひと)さまの(うら)みが(じつ)(おそ)ろしくなつて()た。039せめては鷹依姫(たかよりひめ)さま一同(いちどう)苦労(くらう)なさつて(とほ)られた(あと)を、040()うして修業(しうげふ)(ある)かして(もら)ふのも、041(わたし)罪亡(つみほろ)ぼし、042(また)因果(いんぐわ)(めぐ)(めぐ)りて(おな)(ところ)迂路(うろ)つき(まは)るやうになつたのだらう。043(ことわざ)にも……(ひと)(のろ)はば(あな)(ふた)つ……とやら、044(なさけ)(ひと)(ため)ならずとやら、045(ぜん)にもあれ、046(あく)にもあれ、047何事(なにごと)(みな)吾身(わがみ)(むく)うて()るものだ……と(くち)にはいつも立派(りつぱ)人様(ひとさま)(むか)つて、048(さと)しては()たものの、049()うして自分(じぶん)実地(じつち)(あた)つて()ると、050尚更(なほさら)(かみ)(さま)(をしへ)()沁々(しみじみ)()(わた)つて、051有難(ありがた)いやら(おそ)ろしいやら、052(なん)とも申上(まをしあ)げやうが御座(ござ)いませぬ。053……あゝ鷹依姫(たかよりひめ)(さま)054竜国別(たつくにわけ)(さま)055テー、056カーの両人(りやうにん)さま、057高姫(たかひめ)のあなた(がた)(くは)へた残虐(ざんぎやく)無道(ぶだう)(つみ)058どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ。059あなたがこんな遠国(ゑんごく)()種々(いろいろ)雑多(ざつた)苦労(くらう)をなさるのも、060(みな)(この)高姫(たかひめ)憑依(ひようい)してゐた、061金毛(きんまう)九尾(きうび)悪狐(あくこ)()せし(わざ)062どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ。063(この)石像(せきざう)は、064鷹依姫(たかよりひめ)(さま)065竜国別(たつくにわけ)(さま)(こころ)()められた記念物(きねんぶつ)066(これ)()るにつけても、067おいとしいやら、068()(どく)やら、069(なつ)かしいような()(いた)します。070何程(なにほど)(おも)たくても(つみ)(ほろ)ぼしの(ため)(この)石像(せきざう)を、071鷹依姫(たかよりひめ)(さま)072(ほか)()一同(いちどう)(おも)自転倒(おのころ)(じま)まで()うて(かへ)り、073(みや)()てて、074朝夕(あさゆふ)にお給仕(きふじ)(いた)し、075(わたし)(おも)(つみ)(ゆる)して(いただ)かねばなりませぬ』
076(ねん)(なが)ら、077四辺(あたり)蔓草(つるぐさ)()つて(なは)(つく)り、078背中(せなか)(くく)りつけ、079(その)(うへ)から(みの)(かぶ)り、080持重(もちおも)りのする石像(せきざう)背中(せなか)()うて、081たうとうアマゾン(がは)森林(しんりん)(まで)(かへ)つて(しま)つたのである。082これが家々(いへいへ)に、083(ちい)さき地蔵(ぢざう)(つく)り、084屋敷(やしき)(すみ)に、085(いし)(たた)み、086(その)(うへ)(まつ)ることとなつた濫觴(らんしやう)である。
087 さて高姫(たかひめ)石像(せきざう)()()ひ、088エチエチし(なが)草野(くさの)()けて湖畔(こはん)(ひがし)(ひがし)へと二人(ふたり)同行(どうぎやう)(とも)(すす)()く。
089 高姫(たかひめ)(たま)湖畔(こはん)(すす)(なが)ら、090湖中(こちう)溌溂(はつらつ)として(およ)げる、091(なん)とも()へぬ(うつく)しき五色(ごしき)の、092縦筋(たてすぢ)横筋(よこすぢ)(とほ)つた(うを)(なが)め、
093高姫(たかひめ)『コレコレ、094一寸(ちよつと)御覧(ごらん)なさい、095常彦(つねひこ)096不思議(ふしぎ)(さかな)()ります。097これが(うはさ)()いた、098(たま)(うみ)錦魚(にしきのうを)といふのでせう。099一名(いちめい)金魚(きんぎよ)とか()ふさうですが、100本当(ほんたう)綺麗(きれい)なものぢや御座(ござ)いませぬか』
101常彦(つねひこ)成程(なるほど)102(てん)(くわ)(すい)()(むすび)(あを)(あか)(むらさき)(しろ)()103順序(じゆんじよ)()縦筋(たてすぢ)がはいつて()りますな。104(これ)所謂(いはゆる)縦魚(たてうを)御座(ござ)いませう。105あゝ此処(ここ)にも(よこ)(また)(おな)()うな五色(ごしき)(もん)()いた(うを)(およ)いでゐます。106どちらが(をん)で、107どちらが(めん)でせうかなア』
108春彦(はるひこ)()まつた(こと)よ。109縦筋(たてすぢ)(はう)(をん)で、110横筋(よこすぢ)のはいつた(はう)(めん)だ。111(たて)(よこ)夫婦(ふうふ)(そろ)うて(にしき)(はた)()ると()ふのだから、112錦魚(にしきのうを)()ふのだ。113(この)(はた)()よ、114随分(ずゐぶん)立派(りつぱ)(はた)ぢやないか』
115常彦(つねひこ)(しか)(この)(うを)には()()いぢやないか。116此奴(こいつ)アどうも不思議(ふしぎ)ぢやないか』
117春彦(はるひこ)(この)縦筋(たてすぢ)のはいつた盲魚(めくらうを)一名(いちめい)高姫魚(たかひめうを)()ひ、118横筋(よこすぢ)のはいつたのは春彦魚(はるひこうを)()ふのだ。119どちらも(めくら)だから、120マタイものだ。121それ(この)(とほ)()げも(なに)もせぬぢやないか。122(しか)()()ると、123やつぱりピンピン()ねよるワ。124ヤア其処(そこ)本当(ほんたう)錦魚(にしきうを)がやつて()たぞ。125此奴(こいつ)縦横(たてよこ)十文字(じふもんじ)126素的(すてき)滅法界(めつぽふかい)127綺麗(きれい)(すぢ)がはいつて、128ピカピカ(ひか)つてゐる。129()(おほ)きな()があいてゐる。130……なア高姫(たかひめ)さま、131これを()ても(たて)(よこ)(そろ)はねば、132変性(へんじやう)男子(なんし)系統(ひつぽう)ばかりでも()えず、133女子(によし)行方(やりかた)ばかりでも後先(あとさき)()えぬと()(かみ)(さま)()教訓(けうくん)ですな』
134 高姫(たかひめ)(しき)りに(くび)()り、
135高姫(たかひめ)『ウーン、136なんとまア(かみ)(さま)()経綸(けいりん)()ふものは(おそ)()つたもので御座(ござ)います。137これを()改心(かいしん)せねばなりませぬワイ。138今迄(いままで)三五教(あななひけう)(やう)に、139経緯(たてよこ)(めくら)同士(どうし)盲縞(めくらじま)()つて()つては、140何時迄(いつまで)(にしき)(はた)()()がりませぬ。141(それ)()いては(わたし)第一(だいいち)(わる)かつた。142経糸(たていと)はヂツとさへして()れば()いのに、143緯糸(よこいと)以上(いじやう)藻掻(もが)くものだから、144薩張(さつぱり)ワヤになつて(しま)うたのぢや。145あゝ(なに)()ても(かみ)(さま)教訓(けうくん)(ばか)り、146何故(なにゆゑ)今迄(いままで)こんな見易(みやす)道理(だうり)(わか)らなんだのだらう。147ヤツパリ金毛(きんまう)九尾(きうび)(まなこ)(くら)まされてゐたのだ』
148長大(ちやうだい)嘆息(たんそく)をしてゐる。149()れより一行(いつかう)()()()ぎ、150(やうや)くにしてアルの海岸(かいがん)()いた。151(さいは)(ふね)はゼムの(みなと)(むか)つて出帆(しゆつぱん)せむとする間際(まぎは)であつた。152高姫(たかひめ)(あわただ)しく『オーイオーイ』と呼止(よびと)めた。153船頭(せんどう)(いま)(ともづな)()いて(みなと)(すこ)しばかり(はな)れた(ふね)引返(ひきかへ)し、154(さん)(にん)()らしめ、155(をり)からの南風(なんぷう)()(はら)ませ、156ゼムの(みなと)()して波上(はじやう)ゆるやかに(すべ)()く。
157 (なが)海上(かいじやう)退屈(たいくつ)(まぎ)れに船客(せんきやく)(あひだ)にあちらこちらと雑談(ざつだん)(はじ)まつた。158高姫(たかひめ)一行(いつかう)(ふね)片隅(かたすみ)(ちい)さくなつて(ひか)へてゐる。
159甲『去年(きよねん)(こと)だつたか、160(この)(ふね)()つてゼムの(みなと)(わた)(とき)船客(せんきやく)(はな)しに、161テルの(くに)のアリナの(たき)とやらに大変(たいへん)玉取神(たまとりがみ)さまが(あら)はれ、162彼方(あちら)からも此方(こちら)からも、163種々雑多(たくさん)(たま)をお(そな)へに()つて、164いろいろの願事(ねがひごと)(かな)へて(もら)はうと、165(よく)連中(れんぢう)(ひき)()らず参拝(さんぱい)してゐたさうぢや。166さうすると(なん)でもヒルとか(よる)とか()(くに)(えら)いお(かた)黄金(こがね)(たま)をお(そな)へになつた。167玉取神(たまとりがみ)さまはその黄金(こがね)(たま)()()つたと()えて、168()さりの(あひだ)(たま)()(かつ)ぎ、169何処(どつか)()()し、170ウヅの(くに)(くぬぎ)(はら)とかで、171折角(せつかく)持出(もちだ)した(たま)を、172天狗(てんぐ)取上(とりあ)げられ、173這々(はうはう)(てい)でウヅの(くに)(アルゼンチン)の大原野(だいげんや)横断(わうだん)し、174アルの(みなと)から(ふね)()つて、175アマゾン(がは)河上(かはかみ)まで()つたと()(こと)だ。176(しか)(かみ)さまの(なか)にもいろいろあつて、177(よく)(かみ)さまもあればあるものぢやなア。178(その)玉取神(たまとりがみ)さまの大将(たいしやう)は、179(なん)でも自転倒(おのころ)(じま)(たか)とか(とび)とか(からす)(やう)()のつく、180矢釜(やかま)しい女神(をんながみ)があつて、181大切(たいせつ)(まも)つて()つた(たま)玉取神(たまとりがみ)(うしな)うたので(おこ)つて(たた)()し、182(その)(たま)()()れる(まで)183(かへ)つて()な……と(この)(ひろ)()(なか)(たま)(ひと)(ぐらゐ)184何程(なんぼ)(さが)したつて、185(わか)りさうなことがないのに、186無茶(むちや)()うて、187いぢり(たふ)したと()(はなし)()いたが、188随分(ずゐぶん)(わる)(かみ)もあればあるものだなア。189屹度(きつと)其奴(そいつ)には八岐(やまた)大蛇(をろち)やら、190金毛(きんまう)九尾(きうび)(きつね)()いてをつて、191そんな無茶(むちや)なことを()はしたり、192さしたりすると()(はな)しだ。193本当(ほんたう)(かみ)さまだと()つても、194無茶(むちや)苦茶(くちや)信神(しんじん)出来(でき)ぬものだ。195鷹鳶姫(たかとびひめ)とか玉取姫(たまとりひめ)とか()ふケチな(かみ)もある()(なか)だからなア』
196乙『玉取姫(たまとりひめ)(くらゐ)なら()どろいこつちやが、197世間(せけん)には沢山(たくさん)198嬶取彦(かかとりひこ)爺取姫(おやぢとりひめ)(あら)はれて、199随分(ずゐぶん)社会(しやくわい)秩序(ちつじよ)(みだ)し、200(この)()(なか)(あく)(たね)()(かみ)も、201(この)(ごろ)大分(だいぶん)出来(でき)()たぞよ。202アハヽヽヽ』
203他愛(たあい)なく(わら)ふ。204高姫(たかひめ)真赤(まつか)(かほ)して(ちい)さくなつて、205甲乙(かふおつ)(はなし)()いて()た。
206 常彦(つねひこ)高姫(たかひめ)(みみ)(くち)()せ、
207常彦高姫(たかひめ)さま、208どうも世間(せけん)(ひろ)いやうで(せま)いものですな。209海洋(かいやう)万里(ばんり)()んな(ところ)まで、210自転倒(おのころ)(じま)出来事(できごと)が、211仮令(たとへ)間違(まちが)ひにもせよ、212大体(だいたい)行渡(ゆきわた)つて()るとは(じつ)(おどろ)きましたねえ。213玉野原(たまのはら)(たま)(うみ)椰子樹(やしじゆ)(した)に、214竜国別(たつくにわけ)さまが(きざ)んでおいた()(にん)石像(せきざう)215仮令(たとへ)何万(なんまん)(ねん)()つたつて、216貴女(あなた)(わたし)(たち)()にとまる(はず)がないのに、217何百(なんびやく)()とも際限(さいげん)のない()(なか)に、218こんな()つぽけな(もの)(ただ)(ひと)つ、219それが()うして貴女(あなた)(せな)()はれる(やう)になると()ふも、220不思議(ふしぎ)ぢやありませぬか。221(これ)(おも)うと人間(にんげん)余程(よほど)心得(こころえ)なくてはなりませぬなア』
222高姫(たかひめ)『サアそれについて、223(わたし)(むね)(なに)引裂(ひきさ)けるやうになつて()ました。224(わたし)変性(へんじやう)男子(なんし)(さま)系統(ひつぽう)々々(ひつぽう)()つて、225それを(はな)にかけ、226金毛(きんまう)九尾(きうび)誑惑(きやうわく)されて、227今迄(いままで)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(いづ)御霊(みたま)()(とく)()とすこと(ばか)りやつて()たかと(おも)へば、228如何(どう)して(この)(つみ)(あがな)へやうかと、229(まこと)(おそ)ろしく、230(かな)しくなつて()ました』
231(なみだ)ぐむ。232船客(せんきやく)(また)もや(さか)んに(しやべ)()した。
233(ヨブ)『オイお(まへ)()うて()つた鷹鳶姫(たかとびひめ)()ふのは、234ソリヤ高姫(たかひめ)間違(まちが)ひだらう。235そして玉取姫(たまとりひめ)()ふのは鷹依姫(たかよりひめ)間違(まちが)ひだらう。236高姫(たかひめ)()(やつ)はなア、237徹底(てつてい)(てき)我慢(がまん)(つよ)(やつ)で、238変性(へんじやう)男子(なんし)とか()立派(りつぱ)なお(かた)(はら)から(うま)れて、239それはそれは意地(いぢ)(わる)頑固者(ぐわんこもの)の、240利己主義(われよし)口達者(くちたつしや)の、241(ろん)にも(くひ)にも(かか)らぬ化物(ばけもの)ださうな。242そして金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)とか()ふお宝物(ほうもつ)(はら)()んだり、243()したり、244(まる)手品師(てじなし)のやうなことをやる、245悪神(あくがみ)容物(いれもの)だと()(こと)だ。246(うはさ)()いて(にく)らしうなつて()る。247どうで(とほ)自転倒(おのころ)(じま)(はな)しだから、248到底(たうてい)吾々(われわれ)には一代(いちだい)()ふことは出来(でき)まいが、249()しも出会(であ)うたが最後(さいご)250世界(せかい)(ため)(おれ)素首(そつくび)引抜(ひきぬ)いてやらうと(おも)つてゐるのだ。251(なん)だか高姫(たかひめ)(はな)しが()ると、252(はら)(そこ)からむかついて()(たま)らないワ。253去年(きよねん)今頃(いまごろ)だつた。254高姫(たかひめ)(つか)へて()つた鷹依姫(たかよりひめ)255(その)息子(むすこ)(はな)素的(すてき)滅法界(めつぽふかい)(たか)竜国別(たつくにわけ)256それに一寸(ちよつと)人種(じんしゆ)(かは)つた、257(はな)(たか)細長(ほそなが)い、258(いろ)(すこ)(しろ)いテーリスタンとかカーリンスとか()四人(よにん)()れが、259アリナの(たき)の……(なん)でも近所(きんじよ)(かがみ)(いけ)とか()不思議(ふしぎ)(いけ)があつて、260そこに(なが)らく()つた(ところ)261(にはか)にどんな事情(じじやう)()らぬが、262()れなくなつて、263たうとうアリナ山脈(さんみやく)()えて、264ウヅの(くに)(くぬぎ)(はら)横断(わうだん)し、265アルの(みなと)からヒルへ()途中(とちう)266(あやま)つて(ばば)アはデツキの(うへ)から海中(かいちう)陥没(かんぼつ)し、267皆目(かいもく)姿(すがた)がなくなつて(しま)つた。268そこで息子(むすこ)竜国別(たつくにわけ)が、269()アさまを(たす)けようとドブンと(ばか)飛込(とびこ)んだが、270これも(また)(なみ)()かれて()(がた)()れず、271テ、272カの二人(ふたり)(つづ)いてドブンとやつたが、273此奴(こいつ)もテンで行方(ゆくへ)()れなくなつて(しま)つた。274彼奴(あいつ)悪人(あくにん)(なに)()らぬが随分(ずゐぶん)親孝行(おやかうかう)(もの)だ。275母親(ははおや)(はま)つたのを(たす)けようと(おも)うて、276(せがれ)竜国別(たつくにわけ)飛込(とびこ)んで殉死(じゆんし)し、277(また)弟子(でし)二人(ふたり)(たす)けようと(おも)つたか、278殉死(じゆんし)覚悟(かくご)だつたか()らぬが、279(とも)水泡(みなわ)()えて(しま)つた。280随分(ずゐぶん)(この)航路(かうろ)では有名(いうめい)(はな)しだ。281(まへ)まだ(みみ)にして()らぬのか』
282乙『成程(なるほど)283親子(おやこ)主従(しゆじゆう)心中(しんちう)とか()つて、284随分(ずゐぶん)有名(いうめい)(はなし)だが、285(その)……(なん)だなア、286宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)のことか、287(おれ)(また)どつかの親子(おやこ)主従(しゆじゆう)心中(しんちう)かと(おも)つてゐた。288ホンに可哀相(かあいさう)なこつたナア』
289(ヨブ)『それと()ふのも(もと)(ただ)せば、290ヤツパリ高姫(たかひめ)()(やつ)(わる)いからだ。291彼奴(あいつ)無理(むり)難題(なんだい)()ひかけて、292自転倒(おのころ)(じま)から高砂島(たかさごじま)南米(なんべい)三界(さんがい)(まで)()()したものだから、293たうとうあんなことになつて(しま)つたのだ。294()(にん)宣伝使(せんでんし)可哀相(かあいさう)でたまらぬ。295(おれ)やモウ(その)(はな)しを()いてから、296(そら)()つてる(たか)()ても(しやく)(さは)つて(たま)らぬのだ。297人間(にんげん)にでも(たか)()()()いてる(やつ)()うと、298其奴(そいつ)(にく)らしくなつて()て、299(なぐ)りつけたいやうな()がするのだよ。300(あか)他人(たにん)(おれ)が、301何故(なぜ)鷹依姫(たかよりひめ)竜国別(たつくにわけ)の、302それ(だけ)贔屓(ひいき)をせにやならぬかと(おも)うと、303不思議(ふしぎ)でたまらないワ。304大方(おほかた)あの(はま)(とき)に、305アヽ可哀相(かあいさう)だと(おも)うて()てゐたものだから、306(その)亡魂(ばうこん)でも憑依(ひようい)したのか……。307今日(けふ)(なん)だか(その)タカと()()のついた(やつ)()つて()やせぬかなア。308(なん)だかむかついてむかついて仕方(しかた)がないのだ』
309()真赤(まつか)にし、310歯噛(はが)みし、311(こぶし)(にぎ)り、312形相(ぎやうさう)(すさま)じく(いき)(はづ)ませてゐる。
313甲『ハヽヽヽヽ、314他人(たにん)疝気(せんき)頭痛(づつう)()むと()ふのはお(まへ)のことだ。315そんなことはイヽ加減(かげん)にしておけ。316何程(なにほど)(りき)んでみた(ところ)で、317肝腎(かんじん)本人(ほんにん)海洋(かいやう)万里(ばんり)自転倒(おのころ)(じま)()るのだから駄目(だめ)だよ』
318(ヨブ)(なん)だか(にはか)(からだ)(ふる)()した。319(なん)でも(この)(ふね)高姫(たかひめ)()(やつ)320()つてゐるのぢやあるまいかな。321オイ一寸(ちよつと)女客(をんなきやく)()を、322()苦労(くらう)だが、323一々(いちいち)(たづ)ねて()()れぬか』
324甲『馬鹿(ばか)()ふない、325おれが(たづ)ねなくても、326船長(せんちやう)さまに()けば、327チヤンと帳面(ちやうめん)()けてあるワ』
328(ヨブ)『それもさうだ、329そんなら(たづ)ねて()やうかな』
330立上(たちあ)がらうとする。331高姫(たかひめ)は、332(へい)(そで)(ひか)へて、
333高姫(たかひめ)『モシモシ何処(どこ)(かた)かは()りませぬが、334鷹依姫(たかよりひめ)335竜国別(たつくにわけ)一行(いつかう)(ため)に、336()うそこ(まで)一心(いつしん)(おも)うてやつて(くだ)さいます。337(さだ)めて()(にん)(もの)冥土(めいど)から(よろこ)んで()ることで御座(ござ)いませう。338あなたは最前(さいぜん)から(うけたま)はれば、339()(にん)(うみ)()ちたのを()()なさつたさうですが、340(あと)(なに)(のこ)つてゐませなんだか。341(わたし)があなたの(にく)いと思召(おぼしめ)自転倒(おのころ)(じま)から()高姫(たかひめ)御座(ござ)いますよ。342(つみ)(ふか)(わたし)343サアどうぞ貴方(あなた)存分(ぞんぶん)にして(くだ)さいませ。344さうすれば、345()(にん)(もの)(さだ)めし()かぶことで御座(ござ)いませう。346(いま)(わたし)()うて()ります(いし)には、347(みぎ)()(にん)姿(すがた)()()んで御座(ござ)います。348かやうなことがあらうとて(むし)()らしたのか、349チヤンと自分(じぶん)から石碑(せきひ)(こしら)へて(のこ)しておいたと()えます。350あゝ因縁(いんねん)()ふものは(おそ)ろしいものだ。351天網(てんまう)恢々(くわいくわい)()にして()らさず、352こんなことと()つたら、353あんな(むご)いことを()ふのぢやなかつたに』
354()(なが)ら、355背中(せなか)石像(せきざう)(まへ)()ゑ、356()(あは)せ、
357高姫(たかひめ)『コレコレ()(にん)()(かた)358どうぞ(こら)へて(くだ)さい。359三千(さんぜん)世界(せかい)()神業(しんげふ)参加(さんか)せなくてはならぬ大切(たいせつ)(からだ)なれど、360(わたし)(いま)(この)()(かた)生首(なまくび)引抜(ひきぬ)かれて国替(くにがへ)(いた)し、361(まへ)さまの(そば)()つて、362(あらた)めてお(わび)(いた)します。363あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)364鷹依姫(たかよりひめ)365竜国別(たつくにわけ)366テーリスタンにカーリンス、367頓生(とんしやう)菩提(ぼだい)368あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
369一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ねん)じてゐる。370(へい)高姫(たかひめ)真心(まごころ)より悔悟(くわいご)した(その)言葉(ことば)挙動(きよどう)とに、371今迄(いままで)()()つた(いきほひ)もどこへか()け、372(いま)(かへつ)て、373高姫(たかひめ)崇拝者(すうはいしや)(こころ)(なか)()らず()らずの(あひだ)になつてしまつてゐた。
374大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)
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