霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 日出姫(ひのでひめ)〔八三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第29巻 海洋万里 辰の巻 篇:第3篇 神鬼一転 よみ(新仮名遣い):しんきいってん
章:第11章 日出姫 よみ(新仮名遣い):ひのでひめ 通し章番号:833
口述日:1922(大正11)年08月12日(旧06月20日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年9月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
高姫が神殿に駆け上って扉に手をかけると、狭依彦命のご神体が現れて高姫を取ると、壇上から下に放り投げた。高姫はまたもや人事不省になって唸っている。
奉仕者たちが慌てて介抱しようとするが、常彦は、神様に戒めを受けたのだから、高姫の改心のためにもしばらくは放って置いてもらうように頼んだ。
一同が別間に入って神徳話に花を咲かせていると、突然神殿の間から高姫の金切り声が聞こえてきた。驚いて皆が駆けつけると、高姫が大男に持ち上げられて放り上げられていた。
一同が駆けつけると、大男は煙のように消えてしまった。高姫は真っ青な顔で懸橋御殿を飛び出してアリナ山の方に駆け上って行った。常彦と春彦は見失っては大変と、慌てて高姫を追いかけていく。国玉依別の命により、竜と玉も一緒に高姫を追いかけた。
高姫は鷹依姫一行が野宿した白楊樹の傍らまでたどり着いた。高姫は身体が非常に重たくなって草原に横たわり、寝てしまった。高姫は目を覚ますと自分がどこにいるかわからず、独り言を言っている。
突然大きな怪物が現れて、高姫を掴んで喰おうとした。高姫は恐ろしさに震えていたが、そこへ喨々と音楽の音が聞こえてきた。すると俄かに力ついた。怪物は高姫をぱっと放した。
高姫が目を開けると、梅の花を片手に持ち、もう片方の手に白扇を持った女神が厳然として現れていた。女神は高姫のこれまでの行いが神界の邪魔をしていたことを叱り、ここで改心すればまた神界の御用を務めることができると諭した。
高姫は女神の光輝に打たれて罪を謝し、改心を約束した。女神は鷹依姫らが持ち出した黄金の玉を白楊樹から下ろすと高姫に授け、後からやってくる懸橋御殿の竜と玉に返すようにと命じた。
女神は高姫に後戻りしないように諭し、先ほどの怪物は高姫の慢心を戒める鬼神であると戒めた。そしてアマゾン河をさかのぼって鷹依姫一行と合流し、そこで修行をなしてから自転倒島に戻って神業に参加するようにと示した。日の出姫神と名乗り、高姫に懸かっているのは金毛九尾であることを気を付けると、五色の雲に乗って天上に昇っていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-12-28 17:58:42 文字数:3289 OBC :rm2911
愛善世界社版:165頁 八幡書店版:第5輯 526頁 修補版: 校定版:169頁 普及版:77頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は矢庭(やには)に神前(しんぜん)に駆(か)け上(のぼ)り、002扉(とびら)に手(て)をかけた。003忽(たちま)ち頭(あたま)の光(ひか)つた脇立(わきだち)の狭依彦(さよりひこの)神(かみ)、004煙(けぶり)の如(ごと)く朦朧(まうろう)と現(あら)はれ、005高姫(たかひめ)の首筋(くびすぢ)をグツと握(にぎ)つて壇上(だんじやう)より、006蛇(へび)を大地(だいち)に投(な)げつけた様(やう)に、007ポイと撥(は)ね飛(と)ばした。008高姫(たかひめ)は暫(しばら)く虫(むし)の息(いき)にてそこに打倒(うちたふ)れ、009何事(なにごと)か切(しき)りに囈言(うさごと)を言(い)つてゐる。010国(くに)、011玉(たま)は驚(おどろ)いて『水(みづ)ぢや水(みづ)ぢや』と立騒(たちさわ)ぐを、012常彦(つねひこ)は制(せい)し止(とど)め、
013常彦『モシモシ皆(みな)さま、014構立(かまへだて)をせずに、015少時(しばらく)放(ほ)つといて下(くだ)さいませ。016御存(ごぞん)じの通(とほり)御(ご)神前(しんぜん)の脇(わき)に朦朧(もうろう)として御(ご)神体(しんたい)が現(あら)はれ、017こらしめの為(ため)に高姫(たかひめ)を取(と)つて投(な)げられたのですから、018余(あま)り高姫(たかひめ)を構(かま)うと、019又(また)へらず口(ぐち)を叩(たた)き慢心(まんしん)を致(いた)しますから、020十分(じふぶん)改心(かいしん)する所(ところ)迄(まで)放(ほ)つといてやつて下(くだ)さいませ。021高姫(たかひめ)の身(み)の為(ため)ですから……一人前(いちにんまへ)の誠(まこと)の宣伝使(せんでんし)にしてやらうと思召(おぼしめ)さば、022十分(じふぶん)に苦(くるし)ましておく方(はう)が高姫(たかひめ)に対(たい)する慈悲(じひ)になりまする』
023と真心(まごころ)から語(かた)り出(だ)したるを、024一同(いちどう)は常彦(つねひこ)の言(ことば)に従(したが)ひ、025高姫(たかひめ)が自然(しぜん)正気(しやうき)に復(かへ)る迄(まで)、026そこに放任(はうにん)しておき、027各自(めいめい)別間(べつま)に入(い)つて、028神徳(しんとく)を戴(いただ)き、029昼飯(ちうはん)などを喫(きつ)し、030悠々(いういう)として世間話(せけんばなし)に耽(ふけ)つてゐた。031暫(しばら)くすると神殿(しんでん)に於(おい)て、032高姫(たかひめ)の金切声(かなきりごゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。033常彦(つねひこ)、034春彦(はるひこ)、035国(くに)、036玉(たま)等(ら)一同(いちどう)は此(この)声(こゑ)に驚(おどろ)いて、037神殿(しんでん)に駆(か)けつけ見(み)れば、038高姫(たかひめ)は何(なん)とも知(し)れぬ大(おほ)きな男(をとこ)に、039毬(まり)つく様(やう)に、040放(はう)り上(あ)げられたり、041おとされたり、042なぶりものに会(あ)はされ、043悲鳴(ひめい)を上(あ)げゐたりける。
044 常彦(つねひこ)、045春彦(はるひこ)の姿(すがた)を見(み)るより、046大(だい)の男(をとこ)は煙(けぶり)の如(ごと)くに消(き)えて了(しま)つた。047此(この)大(だい)の男(をとこ)と見(み)えしは、048鏡(かがみ)の池(いけ)に現(あら)はれました月照彦(つきてるひこの)命(みこと)の出現(しゆつげん)であつたとの事(こと)なり。
049 高姫(たかひめ)は真青(まつさを)な顔(かほ)をし乍(なが)ら、050懸橋(かけはし)の御殿(ごてん)を表(おもて)に駆(か)け出(だ)し、051一生(いつしやう)懸命(けんめい)にアリナの山(やま)を指(さ)して登(のぼ)つて行(ゆ)く。052常彦(つねひこ)、053春彦(はるひこ)は見失(みうしな)うては大変(たいへん)と、054高姫(たかひめ)の後(あと)を一生(いつしやう)懸命(けんめい)に追(お)つかけて行(ゆ)く。055国玉依別(くにたまよりわけの)命(みこと)の命令(めいれい)によつて、056竜(たつ)、057玉(たま)の両人(りやうにん)は常彦(つねひこ)、058春彦(はるひこ)の後(うしろ)より、059『オーイ オーイ』と呼(よ)ばはり乍(なが)ら、060アリナの峰(みね)を駆(か)け登(のぼ)り行(ゆ)く。
061 高姫(たかひめ)は漸(やうや)くにして、062鷹依姫(たかよりひめ)一行(いつかう)が野宿(のじゆく)したる白楊樹(はくようじゆ)の傍(かたはら)まで駆(か)け着(つ)いた。063何(なん)とはなしに身体(しんたい)非常(ひじやう)に重(おも)たくなり、064疲労(ひらう)を感(かん)じ、065グタリと横(よこ)になつて、066大蜥蜴(おほとかげ)の沢山(たくさん)に爬行(はかう)して居(ゐ)る草原(くさはら)に横(よこ)たはり、067他愛(たあい)もなく寝(ね)て了(しま)つた。
068 夜半(やはん)に目(め)を醒(さ)まし、069そこらあたりをキヨロキヨロと見廻(みまは)し、
070高姫(たかひめ)『ハテナア、071ここは何処(どこ)だつたいなア。072鏡(かがみ)の池(いけ)の懸橋(かけはし)御殿(ごてん)の中(なか)だと思(おも)つてゐたのに、073そこら中(ぢう)が萱野原(かやのはら)、074人(ひと)の子(こ)一匹(いつぴき)居(を)りはせぬ。075アハー、076やつぱり鏡(かがみ)の池(いけ)のスツポン奴(め)、077此(この)野原(のはら)を、078あんな立派(りつぱ)な御殿(ごてん)と見(み)せて、079騙(だま)しよつたのだな。080悪神(あくがみ)と云(い)ふものは油断(ゆだん)のならぬものだ。081禿頭(はげあたま)の神(かみ)が出(で)て来(き)て、082取(と)つて放(ほ)かしたり、083大(おほ)きな男(をとこ)が現(あら)はれて、084此(この)高姫(たかひめ)を毬(まり)つくやうにさいなめよつたと思(おも)つたが、085ヤツパリ騙(だま)されて居(ゐ)たのかなア。086昔(むかし)常世(とこよ)会議(くわいぎ)の時(とき)にも、087八百(はつぴやく)八十八(はちじふや)柱(はしら)の立派(りつぱ)な国魂神(くにたまがみ)が、088泥田(どろた)の中(なか)で狐(きつね)に魅(つま)まれ、089末代(まつだい)の恥(はぢ)をかいたと云(い)ふことだが、090ヤツパリ此(この)高砂島(たかさごじま)も常世(とこよ)の国(くに)の陸(おか)つづきだから、091居(を)ると見(み)えるワイ。092アヽドレドレ眉毛(まゆげ)に唾(つばき)でも付(つ)けて、093しつかり致(いた)しませう。094……時(とき)に常(つね)や春(はる)の周章者(あわてもの)は、095どこへ沈没(ちんぼつ)しよつたのか、096テンで影(かげ)も形(かたち)も見(み)えなくなつて了(しま)つた』
097と独語(ひとりごと)を云(い)つて居(ゐ)る。
098 俄(にはか)に大粒(おほつぶ)の雨(あめ)パラパラパラと降(ふ)り出(だ)して来(き)た。099満天(まんてん)黒雲(こくうん)に包(つつ)まれ、100次第(しだい)々々(しだい)に足許(あしもと)さへ見(み)えなくなつて来(き)た。101獅子(しし)、102虎(とら)、103狼(おほかみ)の吼(ほ)えたける様(やう)な怪(あや)しき唸(うな)り声(ごゑ)は、104暴風(ばうふう)の如(ごと)く耳(みみ)をつんざく。105寂寥(せきれう)刻々(こくこく)に加(くは)はり、106流石(さすが)の高姫(たかひめ)も茫々(ばうばう)として際限(さいげん)もなき原野(げんや)の中(なか)に只一人(ただひとり)投(な)げ出(だ)され、107足許(あしもと)さへ見(み)えなくなり、108心細(こころぼそ)さに目(め)を塞(ふさ)ぎ、109腕(うで)を組(く)み、110大地(だいち)に胡坐(あぐら)をかき思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。
111 パツと雷光(いなづま)の如(ごと)き光(ひかり)が現(あら)はれたと思(おも)ふ途端(とたん)に、112雲突(くもつ)く計(ばか)りの白髪(はくはつ)の怪物(くわいぶつ)、113耳(みみ)迄(まで)引裂(ひきさ)けた口(くち)から、114血(ち)をタラタラと垂(た)らし乍(なが)ら、115高姫(たかひめ)の前(まへ)にのそりのそりと浮(う)いた様(やう)に進(すす)み来(きた)り、
116怪物(くわいぶつ)『アハヽヽヽ、117人肉(じんにく)の温(あたた)かいのが一度(いちど)食(く)つて見(み)たいと、118常(つね)がね希望(きばう)して居(ゐ)たが、119アヽ時節(じせつ)は待(ま)たねばならぬものだ。120少(すこ)し古(ふる)うて皺(しわ)がより、121肉(にく)が固(かた)くなり、122骨(ほね)も余(あま)り軟(やわら)かくないが、123これでもひだるい時(とき)にまづい物(もの)なし、124辛抱(しんばう)して食(く)つてやらうかな。125イヒヽヽヽ、126ウフヽヽヽ、127エハヽヽヽ、128オホヽヽヽ。129甘(うま)いぞ甘(うま)いぞ』
130とニコニコし乍(なが)ら、131高姫(たかひめ)の髻(たぶさ)をグツと握(にぎ)つた。132高姫(たかひめ)は猫(ねこ)に掴(つか)まつた鼠(ねずみ)の如(や)うに、133五体(ごたい)萎縮(ゐしゆく)し、134ビリビリと震(ふる)ひ戦(おのの)いて居(ゐ)る。135此(この)時(とき)何処(どこ)ともなく、136嚠喨(りうりやう)たる音楽(おんがく)の音(ね)が聞(きこ)えて来(き)た。137此(この)声(こゑ)の耳(みみ)に入(い)ると共(とも)に、138高姫(たかひめ)は俄(にはか)に心(こころ)晴(は)れ晴(ば)れしくなり、139強力(きやうりよく)なる味方(みかた)を得(え)たやうな気分(きぶん)に充(みた)された。140怪物(くわいぶつ)は高姫(たかひめ)の髻(たぶさ)を握(にぎ)つた手(て)をパツと放(はな)した。141目(め)をあけて見(み)れば、142容色(ようしよく)花(はな)の如(ごと)く、143水(みづ)のしたたる様(やう)な黒髪(くろかみ)を背後(はいご)に垂(た)らし、144梅(うめ)の花(はな)を片手(かたて)に持(も)ち、145片手(かたて)に白扇(はくせん)を拡(ひろ)げて持(も)つた女神(めがみ)、146厳然(げんぜん)として現(あら)はれ、147言葉(ことば)静(しづ)かに宣(の)り玉(たま)ふやう、
148女神(めがみ)『其(その)方(はう)は高姫(たかひめ)であらうがな。149今迄(いままで)我情(がじやう)我欲(がよく)の雲(くも)に包(つつ)まれ、150少(すこ)しも反省(はんせい)の念(ねん)なく、151日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)を標榜(へうぼう)し、152随分(ずゐぶん)大神(おほかみ)の御(ご)神業(しんげふ)に対(たい)し妨害(ばうがい)を加(くは)へ来(きた)りし事(こと)を悟(さと)つて居(ゐ)るか。153其(その)方(はう)は力(ちから)一杯(いつぱい)神界(しんかい)の御用(ごよう)を努(つと)めた積(つも)りで、154極力(きよくりよく)神界(しんかい)の妨害(ばうがい)を致(いた)し、155神(かみ)の依(よ)さしの教主(けうしゆ)言依別(ことよりわけの)命(みこと)に対(たい)し、156悪言(あくげん)暴語(ぼうご)を以(もつ)て向(むか)ひ奉(たてまつ)り、157黒姫(くろひめ)を頤使(いし)して今迄(いままで)聖地(せいち)を混乱(こんらん)致(いた)した其(その)方(はう)の罪(つみ)、158山(やま)よりも高(たか)く、159海(うみ)よりも深(ふか)し。160さり乍(なが)ら、161汝(なんぢ)今(いま)茲(ここ)にて悔(く)い改(あらた)めなば、162今(いま)一度(いちど)其(その)罪(つみ)を赦(ゆる)し、163身魂(みたま)研(みが)きし上(うへ)、164神界(しんかい)の御用(ごよう)に使(つか)うてやらう。165高姫(たかひめ)、166返答(へんたふ)は如何(いかが)であるか』
167と宣(の)らせ玉(たま)ひ、168高姫(たかひめ)の顔(かほ)を熟視(じゆくし)し給(たま)ふ。169高姫(たかひめ)は女神(めがみ)のどこともなく身体(しんたい)より発(はつ)する光輝(くわうき)に打(う)たれ、
170高姫『ハイハイ、171今日(こんにち)限(かぎ)り改心(かいしん)致(いた)しまする。172どうぞ今迄(いままで)の罪(つみ)はお赦(ゆる)し下(くだ)さいませ。173如何(いか)なる事(こと)でも、174神(かみ)様(さま)の仰(あふ)せとあらば承(うけた)まはりませう』
175女神(めがみ)『然(しか)らば汝(なんぢ)に申(まを)し付(つ)くる事(こと)がある。176此(この)白楊樹(はくようじゆ)の空(そら)に、177錦(にしき)の袋(ふくろ)止(と)まりあり、178其(その)中(なか)には、179テーナの里(さと)の酋長(しうちやう)が鏡(かがみ)の池(いけ)に献(たてまつ)りたる黄金(こがね)の宝玉(ほうぎよく)あり。180今(いま)これを汝(なんぢ)の手(て)に相渡(あひわた)す。181汝(なんぢ)が手(て)より明朝(みやうてう)茲(ここ)に現(あら)はれ来(きた)る懸橋(かけはし)御殿(ごてん)の神司(かむづかさ)、182玉(たま)、183竜(たつ)の両人(りやうにん)に相渡(あひわた)し、184持帰(もちかへ)らしめよ。185金色(きんしよく)燦爛(さんらん)たる此(この)玉(たま)を眺(なが)めて、186再(ふたた)び執着心(しふちやくしん)を起(おこ)す如(ごと)きことあらば、187最早(もはや)汝(なんぢ)は神界(しんかい)の御用(ごよう)には立(た)つ可(べか)らず。188能(よ)く余(よ)が言葉(ことば)を胸(むね)に畳(たた)みて忘(わす)るるな』
189高姫(たかひめ)『ハイ、190決(けつ)して決(けつ)して忘(わす)れは致(いた)しませぬ。191今日(こんにち)限(かぎ)り、192玉(たま)に対(たい)する執着心(しふちやくしん)は放棄(はうき)致(いた)します』
193 女神(めがみ)は白楊樹(はくようじゆ)に向(むか)ひ、
194女神『来(きた)れ来(きた)れ』
195と招(まね)き玉(たま)へば、196不思議(ふしぎ)や、197白楊樹(はくようじゆ)は暗(やみ)の中(なか)に輪廓(りんくわく)明(あか)く現(あら)はれ、198錦(にしき)の袋(ふくろ)はフワリフワリと女神(めがみ)の前(まへ)に降(くだ)り来(き)たりぬ。
199女神(めがみ)『高姫(たかひめ)、200此(この)錦(にしき)の袋(ふくろ)の中(なか)には黄金(こがね)の如意(によい)宝珠(ほつしゆ)が包(つつ)まれあり。201披見(ひけん)を許(ゆる)す。202早(はや)く撿(あらた)め見(み)よ』
203 高姫(たかひめ)は、
204高姫『ハイ』
205と云(い)ひ乍(なが)ら、206袋(ふくろ)の紐(ひも)を解(と)き、207中(なか)を覗(のぞ)き見(み)てハツと計(ばか)り、208其(その)光(ひかり)に打(う)たれ居(ゐ)る。
209女神(めがみ)『どうぢや、210其(その)玉(たま)は欲(ほ)しくはないか』
211高姫(たかひめ)『イエもう決(けつ)して、212何程(なにほど)立派(りつぱ)な玉(たま)でも、213形(かたち)ある宝(たから)には少(すこ)しの未練(みれん)も御座(ござ)いませぬ。214無形(むけい)の心(こころ)の玉(たま)こそ、215最(もつと)も大切(たいせつ)だと御(お)神徳(かげ)をとらして頂(いただ)きました。216決(けつ)して決(けつ)して今後(こんご)は、217玉(たま)に対(たい)して、218心(こころ)を悩(なや)ます様(やう)なことは致(いた)しませぬ』
219女神(めがみ)『又(また)後戻(あともど)りを致(いた)さぬ様(やう)に気(き)をつけて置(お)く。220就(つ)いては、221汝(なんぢ)これより常彦(つねひこ)、222春彦(はるひこ)と共(とも)に此(この)原野(げんや)を東(ひがし)へ渉(わた)り、223種々(いろいろ)雑多(ざつた)の艱難(かんなん)を嘗(な)め、224アルの港(みなと)より海岸線(かいがんせん)を舟(ふね)にて北方(ほくぱう)に渡(わた)り、225ゼムの港(みなと)に立寄(たちよ)り、226そこに上陸(じやうりく)して、227神業(しんげふ)を修(しう)し、228再(ふたた)び船(ふね)に乗(の)り、229チンの港(みなと)より再(ふたた)び上陸(じやうりく)して、230アマゾン河(がは)の口(くち)に出(い)で、231船(ふね)にて河(かは)を遡(さかのぼ)り、232鷹依姫(たかよりひめ)、233竜国別(たつくにわけ)の一行(いつかう)に出会(であ)ひ、234そこにて再(ふたた)び大修業(だいしうげふ)をなし、235言依別(ことよりわけの)命(みこと)、236国依別(くによりわけの)命(みこと)の命(めい)に従(したが)ひ、237直様(すぐさま)自転倒(おのころ)島(じま)に立帰(たちかへ)り、238沓島(くつじま)、239冠島(かむりじま)に隠(かく)されてある、240青(あを)、241赤(あか)、242白(しろ)、243黄(き)の麻邇(まに)の珠(たま)を取出(とりいだ)し、244錦(にしき)の宮(みや)に納(をさ)めて、245生(うま)れ赤子(あかご)の心(こころ)となり、246神業(しんげふ)に参加(さんか)せよ。247少(すこ)しにても慢神心(まんしんごころ)あらば、248最前(さいぜん)の如(ごと)く、249鬼神(おにがみ)現(あら)はれて、250汝(なんぢ)が身魂(みたま)に戒(いまし)めを致(いた)すぞよ。251ゆめゆめ疑(うたが)ふ勿(なか)れ。252余(わ)れこそは言依別(ことよりわけの)命(みこと)を守護(しゆご)致(いた)す、253日(ひ)の出姫(でひめの)神(かみ)であるぞよ。254今日迄(こんにちまで)其(その)方(はう)日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)と申(まを)して居(ゐ)たが、255其(その)実(じつ)は金毛(きんまう)九尾(きうび)白面(はくめん)の悪狐(あくこ)の霊(れい)、256汝(なんぢ)の体内(たいない)に憑(かか)りて、257三五(あななひ)の神(かみ)の経綸(けいりん)を妨害(ばうがい)致(いた)さむと、258汝(なんぢ)の肉体(にくたい)を使用(しよう)してゐたのであるぞや』
259高姫(たかひめ)『ハイあなた様(さま)から、260さう承(うけたま)はりますと、261何(なん)だか、262其(その)様(やう)な心持(こころもち)が致(いた)して参(まゐ)りました。263それに間違(まちがひ)は御座(ござ)いますまい』
264女神(めがみ)『最早(もはや)夜明(よあ)けにも近(ちか)ければ、265妾(わらは)は天教山(てんけうざん)に立帰(たちかへ)り、266日(ひ)の出神(でのかみ)、267木花姫(このはなひめの)神(かみ)に汝(なんぢ)が改心(かいしん)の次第(しだい)を申(まを)し上(あ)げむ。268高姫(たかひめ)さらば……』
269と言(い)ふより早(はや)く、270五色(ごしき)の雲(くも)に乗(の)り、271天上(てんじやう)高(たか)く昇(のぼ)らせ玉(たま)うた。272高姫(たかひめ)はホツと一息(ひといき)し乍(なが)ら、273あたりを見(み)れば、274夜(よ)は既(すで)に明(あ)け放(はな)れ、275東(ひがし)の空(そら)は麗(うるは)しき五色(ごしき)の雲(くも)靉(たなび)き、276太陽(たいやう)は地平線(ちへいせん)を離(はな)れて、277清(きよ)き姿(すがた)を現(あら)はし給(たま)ふ間際(まぎわ)なりけり。
278(大正一一・八・一二 旧六・二〇 松村真澄録)
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