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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第53巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 毘丘取颪
第1章 春菜草
第2章 蜉蝣
第3章 軟文学
第4章 蜜語
第5章 愛縁
第6章 気縁
第7章 比翼
第8章 連理
第9章 蛙の腸
第2篇 貞烈亀鑑
第10章 女丈夫
第11章 艶兵
第12章 鬼の恋
第13章 醜嵐
第14章 女の力
第15章 白熱化
第3篇 兵権執着
第16章 暗示
第17章 奉還状
第18章 八当狸
第19章 刺客
第4篇 神愛遍満
第20章 背進
第21章 軍議
第22章 天祐
第23章 純潔
余白歌
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真善美愛(第49~60巻)
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第53巻(辰の巻)
> 第1篇 毘丘取颪 > 第9章 蛙の腸
<<< 連理
(B)
(N)
女丈夫 >>>
第九章
蛙
(
かへる
)
の
腸
(
はらわた
)
〔一三七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
篇:
第1篇 毘丘取颪
よみ(新仮名遣い):
びくとりおろし
章:
第9章 蛙の腸
よみ(新仮名遣い):
かえるのはらわた
通し章番号:
1372
口述日:
1923(大正12)年02月13日(旧12月28日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月8日
概要:
舞台:
ビクトリヤ城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ビクトリヤ王の奥殿には、王妃ヒルナ姫、内事の司兼宣伝使タルマン、左守キュービット、右守ベルツ、ハルナ、カルナ姫の七人が王に招かれて、和睦の祝宴に列席した。
ビクトリヤ王は刹帝利の権利を持って右守家に渡した兵馬の権をいったん取り上げ、左守家と右守家双方に渡し、文武両方の統治について、左守家と右守家が力を合わせて取り組むようにと言い渡した。
右守は気色ばんで、祖先から代々受け継いできた兵馬の権を返す理由はない、と刹帝利の前をも顧みずに傍若無人に言ってのけた。
タルマン、左守、ヒルナ姫も右守をなだめたが、右守は逆に左守に野心があって自分から兵馬の権を削り取ろうとするのだとわめいた。右守の妹・カルナ姫がいさめると、右守は妹に離縁を言い渡す始末であった。
そこへライオン川の関守長があわただしくやってきて、バラモンの大軍が攻め寄せてきたことを注進した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-06 22:02:18
OBC :
rm5309
愛善世界社版:
85頁
八幡書店版:
第9輯 534頁
修補版:
校定版:
90頁
普及版:
42頁
初版:
ページ備考:
001
ビクトリヤ
王
(
わう
)
の
奥殿
(
おくでん
)
には、
002
王
(
わう
)
を
始
(
はじ
)
めヒルナ
姫
(
ひめ
)
、
003
並
(
ならび
)
に
内事
(
ないじ
)
の
司
(
つかさ
)
兼
(
けん
)
宣伝使
(
せんでんし
)
たるタルマン
及
(
および
)
左守
(
さもり
)
のキユービツト、
004
右守
(
うもり
)
のベルツ、
005
ハルナ、
006
カルナ
姫
(
ひめ
)
の
七
(
しち
)
人
(
にん
)
が
列
(
れつ
)
を
正
(
ただ
)
し、
007
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
の
両家
(
りやうけ
)
が
結婚
(
けつこん
)
に
仍
(
よ
)
つて、
008
和睦
(
わぼく
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
めたる
祝意
(
しゆくい
)
を
表
(
へう
)
する
為
(
ため
)
、
009
王
(
わう
)
に
招
(
まね
)
かれて、
010
此
(
この
)
異数
(
いすう
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
に
列
(
れつ
)
したのである。
011
左守司
(
さもりのかみ
)
は
先
(
ま
)
づ
王
(
わう
)
に
一礼
(
いちれい
)
し、
012
順
(
じゆん
)
を
逐
(
お
)
うて
叮嚀
(
ていねい
)
な
挨拶
(
あいさつ
)
をした。
013
左守
(
さもり
)
『
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
始
(
はじ
)
め、
014
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
深厚
(
しんこう
)
なる
御
(
ご
)
仁慈
(
じんじ
)
に
仍
(
よ
)
りまして、
015
愚
(
おろか
)
なる
伜
(
せがれ
)
に
名声
(
めいせい
)
高
(
たか
)
き
右守殿
(
うもりどの
)
の
妹
(
いもうと
)
カルナ
姫
(
ひめ
)
を
めあは
し
下
(
くだ
)
さいまして、
016
実
(
じつ
)
に
左守
(
さもり
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず
伜
(
せがれ
)
に
取
(
と
)
つても
無上
(
むじやう
)
の
光栄
(
くわうえい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
017
それにも
拘
(
かか
)
はらず、
018
今日
(
こんにち
)
は
又
(
また
)
盛大
(
せいだい
)
なる
宴会
(
えんくわい
)
を
開
(
ひら
)
いて、
019
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
為
(
ため
)
にお
心
(
こころ
)
をお
尽
(
つく
)
し
下
(
くだ
)
さいまする、
020
其
(
その
)
御
(
ご
)
仁慈
(
じんじ
)
、
021
終生
(
しうせい
)
忘
(
わす
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ。
022
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
身命
(
しんめい
)
を
抛
(
なげう
)
つても、
023
君国
(
くんこく
)
の
為
(
ため
)
に
赤心
(
せきしん
)
を
尽
(
つく
)
し、
024
万分一
(
まんぶいち
)
の
御恩
(
ごおん
)
に
酬
(
むく
)
い
奉
(
たてまつ
)
る
所存
(
しよぞん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
025
刹帝利
(
せつていり
)
『いかにも、
026
汝
(
なんぢ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り、
027
今回
(
こんくわい
)
は
実
(
じつ
)
に
奇縁
(
きえん
)
であつた。
028
之
(
これ
)
といふのも
全
(
まつた
)
く
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
、
029
神
(
かみ
)
は
未
(
ま
)
だビクの
国
(
くに
)
を
始
(
はじ
)
め、
030
ビクトリヤ
家
(
け
)
を
見捨
(
みす
)
て
玉
(
たま
)
はざる
御
(
おん
)
証拠
(
しるし
)
、
031
此
(
この
)
方
(
はう
)
も
実
(
じつ
)
に
満足
(
まんぞく
)
であるぞよ。
032
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
は
左守家
(
さもりけ
)
右守家
(
うもりけ
)
は
犬猿
(
けんゑん
)
啻
(
ただ
)
ならず、
033
常
(
つね
)
に
暗闘
(
あんとう
)
を
続
(
つづ
)
けて
来
(
き
)
た。
034
之
(
これ
)
に
就
(
つ
)
いては
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
頭
(
あたま
)
を
悩
(
なや
)
ませてゐたのだ。
035
かくなる
上
(
うへ
)
は
文武
(
ぶんぶ
)
一途
(
いつと
)
に
出
(
い
)
で、
036
協心
(
けふしん
)
戮力
(
りくりよく
)
上下
(
しやうか
)
一致
(
いつち
)
して
以
(
もつ
)
て、
037
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
り、
038
民
(
たみ
)
を
安
(
やす
)
からしめ、
039
五六七
(
みろく
)
の
神政
(
しんせい
)
を
招来
(
せうらい
)
することが
出来
(
でき
)
るであらう』
040
と
非常
(
ひじやう
)
に
喜
(
よろこ
)
んで
挨拶
(
あいさつ
)
を
返
(
かへ
)
した。
041
左守
(
さもり
)
はハツと
許
(
ばか
)
りに
差俯
(
さしうつむ
)
き、
042
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
043
右守司
(
うもりのかみ
)
は
威丈高
(
ゐたけだか
)
になり、
044
右守
(
うもり
)
『
只今
(
ただいま
)
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
の
仰
(
おほ
)
せには、
045
「
文武
(
ぶんぶ
)
一途
(
いつと
)
に
出
(
いで
)
よ」と
仰
(
おほ
)
せられたやうで
厶
(
ござ
)
いますが、
046
左守家
(
さもりけ
)
は
文学
(
ぶんがく
)
の
家
(
いへ
)
、
047
右守家
(
うもりけ
)
は
武術
(
ぶじゆつ
)
の
家
(
いへ
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
048
其
(
その
)
根底
(
こんてい
)
に
於
(
おい
)
て
職掌
(
しよくしやう
)
を
異
(
こと
)
に
致
(
いた
)
し、
049
到底
(
たうてい
)
氷炭
(
ひようたん
)
相容
(
あひい
)
れざる
家柄
(
いへがら
)
で
厶
(
ござ
)
いまする。
050
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私的
(
してき
)
交際
(
かうさい
)
に
於
(
おい
)
ては、
051
切
(
き
)
つても
切
(
き
)
れぬ
親戚
(
しんせき
)
の
間柄
(
あひだがら
)
、
052
従前
(
じゆうぜん
)
に
増
(
ま
)
して
親密
(
しんみつ
)
の
度
(
ど
)
を
加
(
くは
)
へ、
053
両家
(
りやうけ
)
和合
(
わがふ
)
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
らう。
054
抑
(
そもそ
)
も
武
(
ぶ
)
は
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
る
必要
(
ひつえう
)
の
機関
(
きくわん
)
にして、
055
武備
(
ぶび
)
なき
国家
(
こくか
)
は、
056
翼
(
つばさ
)
なき
鳥
(
とり
)
も
同様
(
どうやう
)
、
057
到底
(
たうてい
)
国
(
くに
)
としての
存立
(
そんりつ
)
は
望
(
のぞ
)
まれませぬ。
058
故
(
ゆゑ
)
に
武
(
ぶ
)
は
非常
(
ひじやう
)
の
時
(
とき
)
に
必要
(
ひつえう
)
のもの、
059
文学
(
ぶんがく
)
は
平時
(
へいじ
)
に
民
(
たみ
)
を
導
(
みちび
)
き、
060
世
(
よ
)
を
治
(
をさ
)
むる
上
(
うへ
)
に
於
(
おい
)
て
必要
(
ひつえう
)
なものたる
事
(
こと
)
は、
061
賢明
(
けんめい
)
なる
刹帝利
(
せつていり
)
の
御
(
ご
)
熟知
(
じゆくち
)
さるる
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
062
文武
(
ぶんぶ
)
両家
(
りやうけ
)
の
職
(
しよく
)
を
混同
(
こんどう
)
して、
063
内事
(
ないじ
)
外交
(
ぐわいかう
)
に
臨
(
のぞ
)
む
時
(
とき
)
は、
064
却
(
かへつ
)
て
殺伐
(
さつばつ
)
の
気
(
き
)
、
065
天下
(
てんか
)
に
充
(
み
)
ち
国家
(
こくか
)
の
擾乱
(
ぜうらん
)
を
来
(
きた
)
すで
厶
(
ござ
)
らう』
066
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
右守殿
(
うもりどの
)
の
御
(
ご
)
意見
(
いけん
)
、
067
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
も
乍
(
なが
)
ら、
068
今日
(
こんにち
)
の
如
(
ごと
)
き
内憂
(
ないいう
)
外患
(
ぐわいくわん
)
の
頻到
(
ひんたう
)
する
時
(
とき
)
に
際
(
さい
)
し、
069
文武
(
ぶんぶ
)
両家
(
りやうけ
)
が
力
(
ちから
)
を
併
(
あは
)
せ、
070
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
り、
071
民
(
たみ
)
を
安
(
やす
)
むるは
時宜
(
じぎ
)
に
適
(
てき
)
したる
行
(
や
)
り
方
(
かた
)
と
考
(
かんが
)
へます。
072
右守殿
(
うもりどの
)
、
073
御
(
ご
)
熟考
(
じゆくかう
)
を
願
(
ねが
)
ひませう』
074
右守
(
うもり
)
『これはしたり、
075
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
076
左守家
(
さもりけ
)
が
万一
(
まんいち
)
武術
(
ぶじゆつ
)
の
権
(
けん
)
を
握
(
にぎ
)
らば、
077
軍学
(
ぐんがく
)
に
経験
(
けいけん
)
なき
御
(
おん
)
身
(
み
)
なれば
軍隊
(
ぐんたい
)
の
統制
(
とうせい
)
は
宜
(
よろ
)
しきを
得
(
え
)
ず、
078
却
(
かへつ
)
て
内乱
(
ないらん
)
の
種
(
たね
)
を
播
(
ま
)
くやうなものでは
厶
(
ござ
)
らぬか。
079
大工
(
だいく
)
は
家
(
いへ
)
を
建
(
た
)
て、
080
左官
(
さくわん
)
は
壁
(
かべ
)
を
塗
(
ぬ
)
り、
081
傘屋
(
かさや
)
は
傘
(
かさ
)
を
作
(
つく
)
る、
082
すべて
各
(
おのおの
)
の
職
(
しよく
)
に
応
(
おう
)
じて
特色
(
とくしよく
)
を
持
(
も
)
つてゐるもので
厶
(
ござ
)
る。
083
左官
(
さくわん
)
は
家
(
いへ
)
を
造
(
つく
)
る
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らず、
084
大工
(
だいく
)
は
又
(
また
)
壁
(
かべ
)
を
塗
(
ぬ
)
る
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らない、
085
同様
(
どうやう
)
に
文官
(
ぶんくわん
)
は
武術
(
ぶじゆつ
)
を
弁
(
わきま
)
へず、
086
况
(
ま
)
してや
三軍
(
さんぐん
)
を
統率
(
とうそつ
)
するの
権威
(
けんゐ
)
は
俄
(
にはか
)
に
備
(
そな
)
はるものでは
厶
(
ござ
)
いますまい。
087
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
して
武門
(
ぶもん
)
の
右守
(
うもり
)
、
088
如何
(
いか
)
に
文学
(
ぶんがく
)
方面
(
はうめん
)
に
心
(
こころ
)
を
注
(
そそ
)
ぐとも、
089
到底
(
たうてい
)
完全
(
くわんぜん
)
なる
結果
(
けつくわ
)
は
得
(
え
)
られますまい。
090
文武
(
ぶんぶ
)
両道
(
りやうだう
)
相並
(
あひなら
)
んでこそ
国家
(
こくか
)
の
安全
(
あんぜん
)
は
保持
(
ほぢ
)
されるのでせう』
091
刹帝利
(
せつていり
)
『アイヤ
右守殿
(
うもりどの
)
、
092
左様
(
さやう
)
な
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
り
申
(
まを
)
さぬ。
093
吾
(
われ
)
は
之
(
これ
)
より
刹帝利
(
せつていり
)
として、
094
吾
(
わが
)
祖先
(
そせん
)
が
汝
(
なんぢ
)
の
祖先
(
そせん
)
に
預
(
あづ
)
けておいたる
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
改
(
あらた
)
めて
受取
(
うけと
)
り、
095
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
をして、
096
文武
(
ぶんぶ
)
の
両道
(
りやうだう
)
を
管掌
(
くわんしやう
)
せしむる
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へだ。
097
ヨモヤ
違背
(
ゐはい
)
は
厶
(
ござ
)
るまいなア』
098
右守
(
うもり
)
『
祖先
(
そせん
)
が
預
(
あづ
)
かりましたか、
099
或
(
あるひ
)
は
祖先
(
そせん
)
が
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
を
擁立
(
ようりつ
)
して
此
(
この
)
国家
(
こくか
)
を
造
(
つく
)
つたか、
100
記録
(
きろく
)
もなければ、
101
遠
(
とほ
)
き
昔
(
むかし
)
の
事
(
こと
)
、
102
私
(
わたくし
)
には
少
(
すこ
)
しも
分
(
わか
)
りませぬ。
103
私
(
わたくし
)
は
右守
(
うもり
)
の
武家
(
ぶけ
)
に
生
(
うま
)
れ、
104
父
(
ちち
)
より
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
譲渡
(
ゆづりわた
)
された
者
(
もの
)
、
105
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
にお
還
(
かへ
)
し
申
(
まを
)
す
理由
(
りいう
)
はチツとも
認
(
みと
)
め
申
(
まを
)
さぬ』
106
と
気色
(
けしき
)
ばんで
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ、
107
刹帝利
(
せつていり
)
の
前
(
まへ
)
をも
省
(
かへり
)
みず、
108
傍若
(
ばうじやく
)
無人
(
ぶじん
)
に
言
(
い
)
つてのけた。
109
流石
(
さすが
)
のヒルナ
姫
(
ひめ
)
も、
110
タルマンも
呆気
(
あつけ
)
に
取
(
と
)
られ、
111
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
両人
(
りやうにん
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
つめゐたり。
112
タルマンは
宣伝使
(
せんでんし
)
兼
(
けん
)
内事
(
ないじ
)
の
司
(
つかさ
)
として、
113
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
の
上
(
うへ
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
むる
特別
(
とくべつ
)
の
地位
(
ちゐ
)
であつた。
114
彼
(
かれ
)
は
始
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
115
タルマン『ビクの
国
(
くに
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
ビクトリヤ
王
(
わう
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
は
所謂
(
いはゆる
)
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
で
厶
(
ござ
)
る。
116
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
は
右守家
(
うもりけ
)
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
奪
(
うば
)
ひ、
117
上
(
かみ
)
はビクトリヤ
家
(
け
)
を
悩
(
なや
)
ましまつり、
118
下
(
しも
)
国民
(
こくみん
)
の
膏血
(
かうけつ
)
を
搾
(
しぼ
)
り、
119
それが
為
(
ため
)
に
国内
(
こくない
)
には
紛擾
(
ふんぜう
)
の
絶
(
た
)
え
間
(
ま
)
なく、
120
革命
(
かくめい
)
の
機運
(
きうん
)
は
国内
(
こくない
)
に
漂
(
ただよ
)
うてゐる。
121
今
(
いま
)
にして
吾
(
わが
)
君
(
きみ
)
の
仰
(
おほ
)
せを
承
(
うけたま
)
はり、
122
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
御
(
お
)
返
(
かへ
)
し
申
(
まを
)
さざるに
於
(
おい
)
ては、
123
民
(
たみ
)
の
怨府
(
ゑんぷ
)
となりし
右守家
(
うもりけ
)
は
直
(
ただ
)
ちに
覆滅
(
ふくめつ
)
の
悲運
(
ひうん
)
に
接
(
せつ
)
し、
124
延
(
ひ
)
いて
害
(
がい
)
を
王家
(
わうけ
)
に
及
(
およ
)
ぼすは、
125
火
(
ひ
)
を
見
(
み
)
るより
明
(
あきら
)
かで
厶
(
ござ
)
る。
126
右守殿
(
うもりどの
)
、
127
よく
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あ
)
て、
128
時代
(
じだい
)
の
趨勢
(
すうせい
)
に
鑑
(
かんが
)
み、
129
其
(
その
)
方
(
はう
)
が
聰明
(
そうめい
)
なる
頭脳
(
づなう
)
に
仍
(
よ
)
つて、
130
最善
(
さいぜん
)
の
方法
(
はうはふ
)
を
取
(
と
)
られむ
事
(
こと
)
を
忠告
(
ちうこく
)
致
(
いた
)
します。
131
之
(
これ
)
は
決
(
けつ
)
してタルマンが
私言
(
しげん
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ、
132
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
塩長彦
(
しほながひこの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
託宣
(
たくせん
)
の
伝達
(
でんたつ
)
で
厶
(
ござ
)
るぞや』
133
と
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
宣示
(
せんじ
)
した。
134
右守
(
うもり
)
はタルマンをハツタと
睨
(
にら
)
み、
135
右守
『
名
(
な
)
のみあつて
実力
(
じつりよく
)
なき
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
言葉
(
ことば
)
を
耳
(
みみ
)
に
挟
(
はさ
)
むやうな
右守
(
うもり
)
では
厶
(
ござ
)
らぬぞ。
136
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
137
汝
(
なんぢ
)
は
左守司
(
さもりのかみ
)
に
抱
(
だ
)
き
込
(
こ
)
まれ、
138
或
(
あるひ
)
は
牒
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せ、
139
右守
(
うもり
)
が
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
横奪
(
わうだつ
)
し、
140
遂
(
つひ
)
には
軍隊
(
ぐんたい
)
の
力
(
ちから
)
を
以
(
もつ
)
て、
141
国民
(
こくみん
)
を
威圧
(
ゐあつ
)
し、
142
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つてビクトリヤ
家
(
け
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼし、
143
左守
(
さもり
)
と
汝
(
なんぢ
)
が
取
(
と
)
つて
代
(
かは
)
らむとの
野心
(
やしん
)
を
包蔵
(
はうざう
)
することは、
144
此
(
この
)
慧眼
(
けいがん
)
なる
右守
(
うもり
)
の
前知
(
ぜんち
)
する
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
145
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
の
災
(
わざはひ
)
を
招
(
まね
)
かむとする
曲者
(
くせもの
)
奴
(
め
)
、
146
下
(
さが
)
りおらう』
147
と
反対
(
あべこべ
)
に
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
148
左守司
(
さもりのかみ
)
は
之
(
これ
)
を
聞
(
き
)
くより
奮然
(
ふんぜん
)
として
立上
(
たちあが
)
り、
149
左守
(
さもり
)
『こは
心得
(
こころえ
)
ぬ
右守
(
うもり
)
の
言葉
(
ことば
)
、
150
何
(
なに
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
左様
(
さやう
)
な
無体
(
むたい
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
おほ
)
せらるるや、
151
証拠
(
しようこ
)
があらば
承
(
うけたま
)
はりたい』
152
右守
(
うもり
)
『アハハハハハ、
153
悪人
(
あくにん
)
威々
(
たけだけ
)
しいとは
其
(
その
)
方
(
はう
)
のこと、
154
証拠
(
しようこ
)
は
心
(
こころ
)
にお
尋
(
たづ
)
ねなされ。
155
人
(
ひと
)
問
(
と
)
はば
鬼
(
おに
)
はゐぬとも
答
(
こた
)
ふべし
156
心
(
こころ
)
の
問
(
と
)
はばいかに
答
(
こた
)
へむ
157
とは、
158
左守司
(
さもりのかみ
)
及
(
および
)
タルマン
輩
(
はい
)
の
心
(
こころ
)
の
情態
(
じやうたい
)
で
厶
(
ござ
)
る。
159
いかに
隠
(
かく
)
さるる
共
(
とも
)
、
160
其
(
その
)
面貌
(
めんばう
)
及
(
および
)
言語
(
げんご
)
に
表
(
あら
)
はれて
居
(
を
)
りますぞ』
161
左守
(
さもり
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ、
162
右守
(
うもり
)
こそ
野心
(
やしん
)
を
包蔵
(
はうざう
)
せりと
云
(
い
)
はれても
弁解
(
べんかい
)
の
辞
(
じ
)
はありますまい。
163
何
(
なん
)
となれば
君命
(
くんめい
)
に
反
(
そむ
)
き、
164
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
私
(
わたくし
)
するは、
165
之
(
こ
)
れ
全
(
まつた
)
く
王家
(
わうけ
)
を
脅
(
おびや
)
かすもの、
166
右守
(
うもり
)
にして
一点
(
いつてん
)
の、
167
王家
(
わうけ
)
を
思
(
おも
)
ひ
国家
(
こくか
)
を
思
(
おも
)
ふ
赤心
(
まごころ
)
あらば、
168
国家
(
こくか
)
の
主権者
(
しゆけんしや
)
たるビクトリヤ
王
(
わう
)
様
(
さま
)
になぜ
奉還
(
ほうくわん
)
なさらぬか』
169
右守
(
うもり
)
『お
構
(
かま
)
ひ
御
(
ご
)
無用
(
むよう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
170
王家
(
わうけ
)
はビクの
国
(
くに
)
の
飾
(
かざ
)
り
物
(
もの
)
、
171
其
(
その
)
実権
(
じつけん
)
はすべて
右守家
(
うもりけ
)
に
握
(
にぎ
)
つてゐるのは
避
(
さ
)
く
可
(
べか
)
らざる
事実
(
じじつ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
172
いかに
王家
(
わうけ
)
と
雖
(
いへど
)
も、
173
左守家
(
さもりけ
)
と
雖
(
いへど
)
も、
174
右守家
(
うもりけ
)
に
対
(
たい
)
し
地位
(
ちゐ
)
こそ
高
(
たか
)
けれ、
175
国家
(
こくか
)
の
実権
(
じつけん
)
を
握
(
にぎ
)
るは、
176
軍隊
(
ぐんたい
)
を
統率
(
とうそつ
)
する
者
(
もの
)
の
手裡
(
しゆり
)
にあるは
当然
(
たうぜん
)
で
厶
(
ござ
)
る。
177
右守
(
うもり
)
に
一片
(
いつぺん
)
の
野心
(
やしん
)
あらば、
178
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず、
179
吾
(
わが
)
軍隊
(
ぐんたい
)
を
指揮
(
しき
)
して、
180
恐
(
おそ
)
れ
乍
(
なが
)
ら
王家
(
わうけ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼし、
181
左守家
(
さもりけ
)
を
粉砕
(
ふんさい
)
し、
182
自
(
みづか
)
ら
取
(
と
)
つて
刹帝利
(
せつていり
)
と
成
(
な
)
るは
朝飯前
(
あさめしまへ
)
の
事
(
こと
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
183
斯
(
か
)
かる
実力
(
じつりよく
)
権威
(
けんゐ
)
を
具備
(
ぐび
)
する
某
(
それがし
)
が
汝
(
なんぢ
)
如
(
ごと
)
き
老耄
(
おいぼれ
)
の
下位
(
かゐ
)
に
甘
(
あま
)
んじ、
184
忠実
(
ちうじつ
)
に
勤
(
つと
)
めてゐるのは、
185
野心
(
やしん
)
のなき
証
(
しるし
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
186
左守
(
さもり
)
如
(
ごと
)
き
頑迷
(
ぐわんめい
)
不霊
(
ふれい
)
の
宰相
(
さいしやう
)
に
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
握
(
にぎ
)
らせようものならそれこそ
気違
(
きちが
)
ひに
松明
(
たいまつ
)
を
持
(
も
)
たせたも
同様
(
どうやう
)
、
187
危険
(
きけん
)
千万
(
せんばん
)
で
厶
(
ござ
)
る。
188
餅
(
もち
)
は
餅屋
(
もちや
)
、
189
傘
(
かさ
)
は
傘屋
(
かさや
)
、
190
下駄
(
げた
)
は
下駄屋
(
げたや
)
で
厶
(
ござ
)
る。
191
及
(
およ
)
ばぬ
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
すよりも、
192
左守家
(
さもりけ
)
相当
(
さうたう
)
の
職
(
しよく
)
を
守
(
まも
)
り、
193
君国
(
くんこく
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
されたがよからう』
194
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
右守殿
(
うもりどの
)
、
195
左守司
(
さもりのかみ
)
は
決
(
けつ
)
して
左様
(
さやう
)
な
野心
(
やしん
)
は
毛頭
(
まうとう
)
厶
(
ござ
)
らぬ。
196
何事
(
なにごと
)
も
善意
(
ぜんい
)
に
解
(
かい
)
し、
197
両家
(
りやうけ
)
和衷
(
わちう
)
協同
(
けふどう
)
して、
198
君国
(
くんこく
)
の
為
(
ため
)
に、
199
国家
(
こくか
)
危急
(
ききふ
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
200
下
(
くだ
)
らぬ
争
(
あらそ
)
ひを
止
(
や
)
め、
201
共
(
とも
)
に
共
(
とも
)
に
力
(
ちから
)
を
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
して
下
(
くだ
)
さい。
202
況
(
ま
)
して
親密
(
しんみつ
)
なる
親戚
(
しんせき
)
の
間柄
(
あひだがら
)
、
203
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
争
(
あらそ
)
ひをハルナ、
204
カルナ
姫殿
(
ひめどの
)
が
聞
(
き
)
かれたならば、
205
さぞ
苦
(
くる
)
しい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
206
そこは
賢明
(
けんめい
)
なる
右守殿
(
うもりどの
)
、
207
平静
(
へいせい
)
に
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へを
願
(
ねが
)
ひたう
厶
(
ござ
)
いますなア』
208
右守
(
うもり
)
『ハルナ、
209
カルナの
両人
(
りやうにん
)
は
恋愛
(
れんあい
)
至上
(
しじやう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
振
(
ふ
)
り
翳
(
かざ
)
し、
210
結婚
(
けつこん
)
を
致
(
いた
)
した
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
る。
211
云
(
い
)
はば
私的
(
してき
)
関係
(
くわんけい
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
212
軍職
(
ぐんしよく
)
は
所謂
(
いはゆる
)
天下
(
てんか
)
の
公機
(
こうき
)
、
213
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
私的
(
してき
)
関係
(
くわんけい
)
を
以
(
もつ
)
て
公職
(
こうしよく
)
を
混同
(
こんどう
)
するは
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
に
背反
(
はいはん
)
したる
大罪悪
(
だいざいあく
)
では
厶
(
ござ
)
らぬか。
214
此
(
この
)
右守
(
うもり
)
暗愚
(
あんぐ
)
なりと
雖
(
いへど
)
も、
215
斯様
(
かやう
)
な
道理
(
だうり
)
の
分
(
わか
)
らぬ
男
(
をとこ
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
216
親戚
(
しんせき
)
は
親戚
(
しんせき
)
、
217
国家
(
こくか
)
は
国家
(
こくか
)
、
218
職務
(
しよくむ
)
は
職務
(
しよくむ
)
、
219
区劃
(
くくわく
)
整然
(
せいぜん
)
として
自
(
おのづか
)
ら
法則
(
はふそく
)
あり。
220
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
221
左守司
(
さもりのかみ
)
やタルマンの
野心
(
やしん
)
より
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
右守
(
うもり
)
から
掠奪
(
りやくだつ
)
せむとする
計略
(
けいりやく
)
に
出
(
い
)
でたる
事
(
こと
)
はよく
見
(
み
)
え
透
(
す
)
いて
居
(
を
)
ります。
222
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
223
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばすな。
224
此
(
この
)
右守
(
うもり
)
は
左守
(
さもり
)
やタルマンの
杞憂
(
きいう
)
する
如
(
ごと
)
き
反逆人
(
はんぎやくにん
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
225
手
(
て
)
なづけておいたる
軍隊
(
ぐんたい
)
を
以
(
もつ
)
て
王家
(
わうけ
)
を
守
(
まも
)
り、
226
国家
(
こくか
)
を
保護
(
ほご
)
致
(
いた
)
しますれば、
227
今日
(
こんにち
)
の
提案
(
ていあん
)
は
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
を
以
(
もつ
)
て、
228
速
(
すみや
)
かに
御
(
ご
)
撤回
(
てつくわい
)
あらむことを
希望
(
きばう
)
致
(
いた
)
します』
229
といつかな
動
(
うご
)
かぬ
磐石心
(
ばんじやくしん
)
、
230
流石
(
さすが
)
の
刹帝利
(
せつていり
)
も
手
(
て
)
を
下
(
くだ
)
すべき
余地
(
よち
)
がなかつた。
231
右守
(
うもり
)
の
妹
(
いもうと
)
カルナは
右守
(
うもり
)
に
向
(
むか
)
ひ、
232
カルナ姫
『
兄上
(
あにうへ
)
様
(
さま
)
、
233
貴方
(
あなた
)
は
何時
(
いつ
)
も
武術
(
ぶじゆつ
)
の
家
(
いへ
)
に
生
(
うま
)
れながら、
234
兵
(
へい
)
は
凶器
(
きやうき
)
だとか、
235
殺伐
(
さつばつ
)
だとか
言
(
い
)
つて、
236
蛇蝎
(
だかつ
)
の
如
(
ごと
)
く
忌
(
い
)
み
嫌
(
きら
)
つて
居
(
を
)
られるではありませぬか。
237
文化
(
ぶんくわ
)
生活
(
せいくわつ
)
といふものは、
238
武備
(
ぶび
)
撤廃
(
てつぱい
)
迄
(
まで
)
行
(
ゆ
)
かねば
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だといつも
仰有
(
おつしや
)
つたでせう。
239
それ
程
(
ほど
)
御
(
お
)
嫌
(
きら
)
ひな
軍隊
(
ぐんたい
)
なら、
240
左守殿
(
さもりどの
)
の
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
241
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
に
速
(
すみやか
)
に
奉還
(
ほうくわん
)
なさつたら
如何
(
どう
)
です』
242
右守
(
うもり
)
『
女童
(
をんなわらべ
)
の
容喙
(
ようかい
)
する
所
(
ところ
)
でない、
243
スツ
込
(
こ
)
み
居
(
を
)
らう。
244
某
(
それがし
)
の
理想
(
りさう
)
が
出現
(
しゆつげん
)
する
迄
(
まで
)
は
軍隊
(
ぐんたい
)
の
必要
(
ひつえう
)
がある。
245
理想
(
りさう
)
世界
(
せかい
)
が
現
(
あら
)
はれた
以上
(
いじやう
)
は、
246
軍備
(
ぐんび
)
全廃
(
ぜんぱい
)
を
誓
(
ちか
)
つて
致
(
いた
)
す
拙者
(
せつしや
)
の
考
(
かんが
)
へだ。
247
汝
(
なんぢ
)
の
如
(
ごと
)
き
半可通
(
はんかつう
)
のナマ・ハイカラが
何
(
なに
)
を
知
(
し
)
つてゐるか。
248
ハルナの
美貌
(
びばう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
249
生家
(
せいか
)
を
忘
(
わす
)
れ、
250
兄
(
あに
)
に
楯
(
たて
)
つくとは
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
、
251
今日
(
こんにち
)
より
兄妹
(
きやうだい
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
る。
252
さう
覚悟
(
かくご
)
を
致
(
いた
)
せ』
253
カルナ
姫
(
ひめ
)
『それは
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
になさいませ。
254
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
兄上
(
あにうへ
)
の
世話
(
せわ
)
になる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
255
妾
(
わらは
)
は
最早
(
もはや
)
夫
(
をつと
)
の
家
(
うち
)
が
大切
(
たいせつ
)
で
厶
(
ござ
)
います』
256
右守
(
うもり
)
『ヨシツ、
257
よう
言
(
い
)
つた、
258
其
(
その
)
言葉
(
ことば
)
を
待
(
ま
)
つてゐたのだ。
259
今日
(
こんにち
)
より
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
両家
(
りやうけ
)
は
親戚
(
しんせき
)
でない
程
(
ほど
)
に、
260
汝
(
なんぢ
)
一人
(
ひとり
)
の
為
(
ため
)
に
吾
(
わが
)
目的
(
もくてき
)
……
否々
(
いないな
)
……
我国
(
わがくに
)
の
国力
(
こくりよく
)
発展
(
はつてん
)
の
目的
(
もくてき
)
を
妨害
(
ばうがい
)
するには
忍
(
しの
)
びない。
261
キツパリ
暇
(
ひま
)
をつかはすツ』
262
と
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
263
ハルナは
慌
(
あわ
)
てて
立上
(
たちあが
)
り、
264
ハルナ『お
兄
(
にい
)
様
(
さま
)
、
265
カルナ
姫
(
ひめ
)
の
申
(
まを
)
した
事
(
こと
)
、
266
お
気
(
き
)
に
障
(
さはり
)
ませうが、
267
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
女
(
をんな
)
の
申
(
まを
)
した
事
(
こと
)
、
268
又
(
また
)
兄妹
(
きやうだい
)
の
間柄
(
あひだがら
)
だと
思
(
おも
)
つて、
269
斯様
(
かやう
)
な
気儘
(
きまま
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
したので
厶
(
ござ
)
いませう。
270
折角
(
せつかく
)
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
、
271
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
に
仍
(
よ
)
つて、
272
両家
(
りやうけ
)
和合
(
わがふ
)
致
(
いた
)
し、
273
其
(
その
)
祝宴
(
しゆくえん
)
として、
274
勿体
(
もつたい
)
なくも
王
(
わう
)
様
(
さま
)
よりお
招
(
まね
)
きに
与
(
あづか
)
つた
此
(
この
)
宴席
(
えんせき
)
に
於
(
おい
)
て、
275
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
仰
(
おほ
)
せらるるとは、
276
君
(
きみ
)
に
対
(
たい
)
して
不忠
(
ふちう
)
と
申
(
まを
)
すもの、
277
何卒
(
なにとぞ
)
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
278
冷静
(
れいせい
)
にお
考
(
かんが
)
へを
願
(
ねが
)
ひたう
厶
(
ござ
)
います』
279
右守
(
うもり
)
『
黙
(
だま
)
れツ
青瓢箪
(
あをべうたん
)
、
280
汝
(
なんぢ
)
の
如
(
ごと
)
き
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
の
知
(
し
)
る
所
(
ところ
)
ではない』
281
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
282
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いて
見
(
み
)
た。
283
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
差俯
(
さしうつむ
)
き、
284
両眼
(
りやうがん
)
よりハラハラと
涙
(
なみだ
)
を
落
(
おと
)
し、
285
歯
(
は
)
をくひしばつてゐる。
286
かかる
処
(
ところ
)
へ
慌
(
あわ
)
ただしく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
るは、
287
ライオン
河
(
がは
)
の
関守
(
せきもり
)
の
長
(
ちやう
)
カントであつた。
288
カント『ハイ
申上
(
まをしあ
)
げます、
289
タタ
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
しゆつたい
)
致
(
いた
)
しました』
290
刹帝利
(
せつていり
)
『カント、
291
大変
(
たいへん
)
とは
何事
(
なにごと
)
だ、
292
詳細
(
つぶさ
)
に
言上
(
ごんじやう
)
せよ』
293
カントは
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
294
息苦
(
いきぐる
)
しき
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
295
カント『
只今
(
ただいま
)
ライオン
河
(
がは
)
の
彼方
(
かなた
)
より、
296
三葉葵
(
みつばあふひ
)
のしるされたる
旗
(
はた
)
、
297
数百旒
(
すうひやくりう
)
を
押立
(
おした
)
て、
298
数千
(
すうせん
)
のナイトは
単梯陣
(
たんていぢん
)
の
姿
(
すがた
)
勇
(
いさ
)
ましく、
299
暴虎
(
ばうこ
)
の
勢
(
いきほひ
)
を
以
(
もつ
)
て、
300
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
攻
(
せ
)
めよせ
来
(
きた
)
りまする。
301
如何
(
いかが
)
致
(
いた
)
せば
宜
(
よろ
)
しきや、
302
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
は
)
せ
参
(
さん
)
じ、
303
御
(
ご
)
注進
(
ちうしん
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
304
と
聞
(
き
)
くより
一同
(
いちどう
)
は
面色
(
かほいろ
)
を
変
(
か
)
へ、
305
暫
(
しば
)
し
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
各
(
おのおの
)
沈黙
(
ちんもく
)
に
入
(
い
)
る。
306
(
大正一二・二・一三
旧一一・一二・二八
於竜宮館
松村真澄
録)
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