霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二一章 軍議(ぐんぎ)〔一三八四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第4篇 神愛遍満 よみ(新仮名遣い):しんあいへんまん
章:第21章 軍議 よみ(新仮名遣い):ぐんぎ 通し章番号:1384
口述日:1923(大正12)年02月14日(旧12月29日) 口述場所:竜宮館 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
刹帝利、タルマン、左守キュービット、新任右守エクス、左守の息子ハルナは、王の居間に集まってバラモン軍の急な退却について憶測談にふけっていた。
一同は、ヒルナ姫とカルナ姫が、両将軍を操って、ビク国に永遠に害が及ばないようにバラモン軍を別の場所に移動させたのだろうと考えた。そしてビク国からバラモン軍を退却させた以上、二女はもう国に戻ってくることはないだろうと推察した。
一同は二女の忠義に感じ入り、刹帝利もハルナも、もう二度と彼女たち以外に妻を持つことはないだろうと決意を新たにした。
そこへ牢番が、逆臣シエールが脱獄したと報告しに来た。一同は、シエールがベルツと合流したら、またしても反逆を企てるに違いないと心配し、右守エクスはベルツ・シエールの動向を探るために密偵を放った。
ベルツは山奥に譜代の家来を集めて立て籠もり、機をうかがっていた。そこへバラモン軍が退却したとの報を聞き、道々農民を徴発して三千人ものにわか軍隊を集め、ビク国の王城に迫ってきた。
ビクの王城には、先のバラモン軍侵攻の敗戦から、代々右守に仕えた武士たちがわずか八百名残っているだけであった。刹帝利をはじめ、この状況に苦慮していた。
ハルナは厳然として立ち上がり、自分は夜な夜な乞食や平民に身をやつして兵営を見回っていたが、今王城を守っている武士たちはみな忠義一途の者たちばかりで、ベルツの悪業を憎んでおり、裏切るものは一人もないだろうと報告した。
そのため兵力を考慮して籠城を選択することを進言し、自ら指揮官に任じてほしいと刹帝利に申し出た。
父の左守はハルナの申し出を退け、未来ある若者は王を守って将来に備え、自分と右守が軍を率いて敵に当たるべきだと進言した。刹帝利も一度は左守の策を取ったが、ハルナは自分の策を取らなければ国が危ういとして、刹帝利に人払いを願い出た。
刹帝利が願いを容れて人払いすると、ハルナは、実は自分は昨夜神王の森に参拝して国家安泰を祈っていたところ、盤古神王ではなく神素盞嗚尊が現れ給い、籠城して敵に当たれば不思議の援軍が現れ、またヒルナ姫・カルナ姫も戻って背後から助けるだろう、と策を授けたことを明かした。
刹帝利はハルナの言に偽り無きことを見てとり、また神素盞嗚尊が授けたもうた籠城策に感じ、ハルナに臨時兵馬権の全権を委任した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2024-03-24 08:33:34 OBC :rm5321
愛善世界社版:257頁 八幡書店版:第9輯 598頁 修補版: 校定版:265頁 普及版:127頁 初版: ページ備考:
001 刹帝利(せつていり)(はじ)め、002タルマン、003左守(さもり)のキユービツトや新任(しんにん)右守(うもり)なるヱクスはハルナと(とも)に、004(わう)居間(ゐま)(くび)(あつ)めてバラモン(ぐん)退却(たいきやく)(たい)し、005いろいろ臆測談(おくそくだん)(ふけ)つてゐる。
006左守(さもり)『エエ、007タルマン殿(どの)神勅(しんちよく)(うかが)つて(もら)へば(わか)るでせうが、008あれ(だけ)立派(りつぱ)陣営(ぢんえい)()てビクトリヤ(じやう)威圧(ゐあつ)(いた)して()りました両将軍(りやうしやうぐん)全軍(ぜんぐん)(ひき)ゐて(にはか)退却(たいきやく)(いた)したのは、009どうも合点(がてん)()かぬ(こと)(ござ)いますが、010貴方(あなた)()()(かんが)へなさいますか』
011タルマン『どうも(わたし)には神懸(かむがかり)(ござ)いませぬので、012(くは)しい(こと)(ぞん)じませぬが、013(さつ)する(ところ)014忠勇(ちうゆう)義烈(ぎれつ)のヒルナ(ひめ)(さま)015カルナ(ひめ)(さま)が、016ビク(こく)絶対(ぜつたい)(てき)安全(あんぜん)(たも)たせむとして、017両将軍(りやうしやうぐん)をうまくチヨロまかし、018立去(たちさ)らしめ(たま)うたものと推察(すいさつ)(いた)しまする』
019刹帝利(せつていり)大方(おほかた)さうかも()れない。020()両女(りやうぢよ)本当(ほんたう)国家(こくか)柱石(ちうせき)だから、021一身(いつしん)犠牲(ぎせい)にして国家(こくか)(すく)うたかも()れないよ。022ああ天晴(あつぱ)れの女丈夫(ぢよぢやうぶ)だ、023(えら)(やつ)だなア』
024左守(さもり)(なん)ともハヤ、025ヒルナ(ひめ)(さま)()誠忠(せいちう)には、026左守(さもり)(はづ)かしう(ござ)います。027(しか)(なが)刹帝利(せつていり)(さま)()(だけ)老齢(らうれい)にお()(あそ)ばして、028万機(ばんき)政治(せいぢ)御覧(みそなは)(たま)ふに、029内助(ないじよ)(つか)ふべき(きさき)(きみ)がなくては(さぞ)()不便(ふべん)(ござ)いませう、030ヒルナ(ひめ)(さま)左様(さやう)決心(けつしん)()つておいでになつた以上(いじやう)は、031ヨモヤお(かへ)(あそ)ばすやうな(こと)(ござ)いますまい。032ついてはお后様(きさきさま)選定(せんてい)(いた)さなくては、033(わう)(さま)もさぞ()不便(ふべん)(ござ)いませう』
034刹帝利(せつていり)否々(いやいや)035(この)(はう)(けつ)して左様(さやう)(こと)(おも)うて()ない。036仮令(たとへ)少々(せうせう)不便(ふべん)でも、037ヒルナ(ひめ)貞節(ていせつ)(たい)し、038どうして後添(のちぞへ)()たれうものか、039(かれ)(こころ)もチツとは汲取(くみと)つてやらねばなるまいからのう』
040左守(さもり)()言葉(ことば)御尤(ごもつと)(ござ)いますが、041(なに)()つても(あらた)兵馬(へいば)(けん)()(もど)され、042一国(いつこく)主権者(しゆけんしや)として、043()独身(どくしん)では到底(たうてい)完全(くわんぜん)なる国政(こくせい)御覧(みそなは)(こと)(むつか)しう(ござ)いませう。044(なん)とか(ひと)()(かんが)へを(ねが)ひたいもので(ござ)います』
045左守(さもり)自分(じぶん)息子(むすこ)ハルナにも(よめ)()たせたい、046それに()いては刹帝利(せつていり)(さま)より(さき)(きさき)をきめておかねば、047臣下(しんか)()として(はばか)るといふ(かんが)へから(しき)りに(すす)めてゐるのである。048されど刹帝利(せつていり)はヒルナ(ひめ)(こころ)(さつ)し、049(なん)()つても承諾(しようだく)せなかつた。050タルマンは左守司(さもりのかみ)(こころ)()(はか)り、
051タルマン『(わが)(きみ)(なん)()つても()老齢(らうれい)052(また)数多(あまた)従臣(じゆうしん)もお(つか)(いた)して()り、053沢山(たくさん)侍女(じぢよ)()りますれば、054()聖慮(せいりよ)(まか)(まつ)るも是非(ぜひ)なき(こと)(なが)ら、055ハルナ殿(どの)はまだ(とし)(わか)()(かた)056カルナ(ひめ)最早(もはや)(かへ)られないものと(おも)はねばなりませぬ。057さすれば適当(てきたう)(えん)(えら)んでお(めと)りなさらなくては左守(さもり)(いへ)(たね)()れるぢやありませぬか。058(これ)(ひと)(わが)君様(きみさま)にお(ねがひ)(いた)して、059(なん)とかせなくてはなりますまい』
060 左守(さもり)はタルマンの親切(しんせつ)言葉(ことば)()いて、061(ひそか)感涙(かんるゐ)(むせ)んでゐる。062ハルナは(すす)()で、
063ハルナ『タルマン殿(どの)064(けつ)して(けつ)して()心配(しんぱい)(くだ)さいますな、065刹帝利(せつていり)(さま)でさへも、066(たふと)(おん)()(もつ)て、067独身(どくしん)生活(せいくわつ)をしようと(おほ)せらるるので(ござ)います。068(かく)(ごと)()老齢(らうれい)(おん)()(もつ)独身(どくしん)()かうと思召(おぼしめ)すので(ござ)いますから、069拙者(せつしや)(ごと)(わか)(もの)は、070(けつ)して独身(どくしん)()つても(すこ)しも(くる)しくは(ござ)いませぬ。071(また)カルナ(ひめ)犠牲(ぎせい)(てき)活動(くわつどう)(おも)へば、072()うして第二(だいに)(つま)()たれませう。073拙者(せつしや)恋愛(れんあい)(じつ)神聖(しんせい)(ござ)います。074(この)()カルナに()(こと)がなく(とも)終世(しうせい)妻帯(さいたい)(いた)しませぬ』
075タルマン『(じつ)見上(みあ)げたお(こころざし)076感服(かんぷく)(いた)しました。077ああ(しか)(なが)ら、078左守家(さもりけ)(ため)子孫(しそん)(つた)へねばなりますまい、079独身(どくしん)では()()(こと)出来(でき)ますまい。080これは()げて承諾(しようだく)(ねが)ひたいもので(ござ)います』
081ハルナ『(なん)(おほ)せられましても、082(この)(こと)(ばか)りはお(ゆる)しを(ねが)ひます。083刹帝利(せつていり)(さま)嗣子(しし)がないぢやありませぬか、084(いは)んや左守家(さもりけ)嗣子(しし)なしとて、085()れを(うれ)ふるに(およ)びますまい。086何事(なにごと)(みな)(かみ)(さま)御心(みこころ)(まま)よりなるものぢやありませぬ。087左守家(さもりけ)はハルナの子孫(しそん)でなくてはならないといふ道理(だうり)もありますまい、088(げん)にヱクス殿(どの)(あらた)右守(うもり)になられた(れい)もあるぢやありませぬか』
089 タルマンは(しき)りに(くび)(かたむ)け、090(かん)()り、091(かへ)言葉(ことば)もなかつた。
092 ()(なか)には最愛(さいあい)(つま)(わか)れ、093今後(こんご)(けつ)して(つま)()たない、094(かれ)(たい)して()まないから、095(たれ)(なん)()つても独身(どくしん)生活(せいくわつ)をすると頑張(ぐわんば)つてゐる(をとこ)沢山(たくさん)あるものだ。096(あるひ)追悼(つゐたう)(うた)(つく)り、097(あるひ)追懐(つゐくわい)書籍(しよせき)(つく)り、098(これ)知己(ちき)友人(いうじん)配布(はいふ)し、099(あるひ)天下(てんか)(おほやけ)にして独身(どくしん)生活(せいくわつ)表白(へうはく)した(をとこ)が、100(その)宣言(せんげん)をケロリと(わす)れて、101(おそ)いのが二月(ふたつき)(あるひ)三月(みつき)102(はや)いのになると三日目(みつかめ)(くらゐ)に、103(はや)くも第二(だいに)候補者(こうほしや)をつかまへてゐる。104これが人間(にんげん)としての赤裸々(せきらら)心理(しんり)状態(じやうたい)である。105(しか)るに刹帝利(せつていり)(はじ)めハルナは()りふれた世間(せけん)(てき)偽人(ぎじん)ではない、106(しん)(その)(つま)(こころ)(あはれ)み、107一生(いつしやう)(かへ)つて()(のぞ)みのない女房(にようばう)(ため)に、108独身(どくしん)生活(せいくわつ)(つづ)けたのである。
109 ()(はな)(ところ)(あわ)ただしくやつて()たのは牢番(らうばん)のエルであつた。110エルは心配相(しんぱいさう)(かほ)をして、111(たたみ)(かしら)(すり)つけ、
112エル『申上(まをしあ)げます、113大切(たいせつ)咎人(とがにん)シエールが、114何時(いつ)()にか牢屋(ひとや)(やぶ)逃走(たうそう)(いた)しました。115(まこと)職務(しよくむ)怠慢(たいまん)(つみ)116(まを)(わけ)(ござ)いませぬ』
117()いてゐる。118右守(うもり)のヱクスは、
119エクス『ナニ、120シエールが脱獄(だつごく)(いた)したか、121ソリヤ大変(たいへん)だ、122左守殿(さもりどの)123如何(いかが)(いた)したら(よろ)しからうかな』
124左守(さもり)『ハテ、125(こま)つた(こと)(いた)したものだ。126(しか)(なが)(いま)となつて(くや)んだ(ところ)仕方(しかた)がない、127(かれ)脱獄(だつごく)(いた)したのは(あだか)(とら)()(はな)つが(ごと)きもの、128キツとベルツと(しめ)(あは)せ、129(また)何事(なにごと)謀反(むほん)(たく)むに相違(さうゐ)(ござ)らぬ、130()いては(かれ)行方(ゆくへ)捜索(そうさく)(いた)必要(ひつえう)(ござ)らう』
131刹帝利(せつていり)(すみやか)(ひと)(つか)はし、132(かれ)所在(ありか)(たづ)()し、133召捕(めしとり)(かへ)るべく取計(とりはか)らつてくれ、134右守殿(うもりどの)135万事(ばんじ)抜目(ぬけめ)のなき(やう)(たの)むぞよ』
136 右守(うもり)は『委細(ゐさい)承知(しようち)(つかまつ)りました』と(この)()立出(たちい)で、137河守(かはもり)(をさ)(つと)めたカント(およ)びエルに(めい)じ、138変装(へんさう)させて、139ベルツの(かく)れてゐるといふキールの(さと)()()ましむる(こと)とした。
140 (はなし)(かは)つて、141ベルツは三方(さんぱう)(やま)(つつ)まれ、142一方(いつぱう)大河(おほかは)(ひか)へたキールの山奥(やまおく)立籠(たてこも)譜代(ふだい)家来(けらい)(あつ)め、143()()り、144(とき)()つてゐた。145そこへバラモン(ぐん)一人(ひとり)(のこ)らず退却(たいきやく)したといふ報告(はうこく)(みみ)にし、146願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)(とき)こそ(きた)れり、147(いま)()いて何時(いつ)()(わが)目的(もくてき)(たつ)せむや……と無慮(むりよ)一千騎(いつせんき)引率(いんそつ)し、148道々(みちみち)農民(のうみん)徴発(ちようはつ)し、149同勢(どうぜい)三千(さんぜん)(にん)(もつ)て、150ヂリリヂリリと()()(きた)内報(ないはう)がカントより(とど)いて()た。151刹帝利(せつていり)(はじ)左守(さもり)(おどろ)きは一方(ひとかた)でない。152(れい)(ごと)秘密(ひみつ)会議(くわいぎ)(ひら)いて、153反軍(はんぐん)攻撃(こうげき)(そな)ふべく凝議(ぎようぎ)をこらした。154されど(いづ)れも右守(うもり)代々(だいだい)(つか)へたる武士(ぶし)のみ(わづか)八百余(はつぴやくよ)(めい)155兵営(へいえい)国防(こくばう)大機関(だいきくわん)として(たくは)へあるのみ、156万一(まんいち)ベルツ押寄(おしよ)(きた)ると()かば、157何時(いつ)反旗(はんき)(かか)げ、158(わう)逆襲(ぎやくしふ)するやも(はか)られ(がた)い、159(その)心痛(しんつう)一通(ひととほ)りでなかつた。160刹帝利(せつていり)(なみだ)をハラハラと(なが)し、
161刹帝利(せつていり)『ああ一難(いちなん)()つて一難(いちなん)(きた)る。162どうしてこれ(だけ)心配(しんぱい)()えないのであらう』
163悲歎(ひたん)(しづ)む。164タルマンも左守司(さもりのかみ)一向(いつこう)名案(めいあん)(うか)んで()ない、165(いづ)れも青息(あをいき)吐息(といき)為体(ていたらく)であつた。166ハルナは儼然(げんぜん)として立上(たちあが)り、
167ハルナ『(かなら)(かなら)ず、168()心配(しんぱい)なさいますな、169城内(じやうない)八百(はつぴやく)(へい)(いづ)れも誠忠(せいちう)無比(むひ)人物(じんぶつ)(ばか)りで(ござ)いますれば、170メツタに裏返(うらがへ)気遣(きづか)ひはありませぬ。171(この)ハルナはまだ兵士(へいし)(かほ)()られてゐないのを(さいはひ)172種々(しゆじゆ)雑多(ざつた)()(やつ)し、173兵営(へいえい)乞食(こじき)となつて、174()()なめぐり、175(かれ)()(はなし)(かんが)へて()りまするが、176一人(ひとり)として(わう)(ため)(いのち)()つる(こと)(いな)(もの)はありませぬ。177そしてベルツの悪業(あくごふ)非常(ひじやう)(にく)()りますれば、178何程(なにほど)譜代(ふだい)家来(けらい)なりとて、179大義(たいぎ)名分(めいぶん)(じやう)180左様(さやう)不義(ふぎ)(こと)(だん)じてないと(しん)じます。181拙者(せつしや)(この)軍隊(ぐんたい)をお(まか)(くだ)さらば、182みん(ごと)(てき)打破(うちやぶ)り、183(ふたたび)野心(やしん)(おこ)さぬやうに(いた)してみせませう。184そしてキツとベルツ、185シエールの両兇(りやうきよう)生捕(いけどり)(いた)し、186()にかけませう、187(これ)()いては拙者(せつしや)成案(せいあん)(ござ)います』
188左守(さもり)『コレ(せがれ)189左様(さやう)(こと)(まを)して、190万一(まんいち)敗軍(はいぐん)(いた)したら、191()うして(わが)君様(きみさま)言訳(いひわけ)(いた)すのだ。192其方(そなた)(とし)(わか)いから、193左様(さやう)楽観(らくくわん)(いた)して()るが、194あのベルツといふ(やつ)卑怯者(ひけふもの)なれど、195シエールは軍略(ぐんりやく)達人(たつじん)196シエールあつて(のち)ベルツの(ひかり)()るやうなものだ。197(なんぢ)(ごと)きうら(わか)弱輩(じやくはい)()(ところ)ではない。198(およ)ばず(なが)ら、199(とし)(おい)たりと(いへど)も、200(ちち)キユービツトが(きみ)(おん)(ため)201(くに)(ため)202右守殿(うもりどの)全軍(ぜんぐん)指揮(しき)矢面(やおもて)()つて奮戦(ふんせん)激闘(げきとう)してみよう(ほど)に、203(ちち)余命(よめい)幾何(いくばく)もなき老齢(らうれい)204(すて)ても(をし)うない(いのち)205其方(そなた)行先(ゆくさき)(なが)未来(みらい)のある男子(だんし)206(わが)(きみ)のお(そば)(つか)へ、207安全(あんぜん)地位(ちゐ)()をおいて、208(われ)()(あと)(きみ)(ため)209(くに)(ため)210十分(じふぶん)忠勤(ちうきん)(はげ)んで(もら)はねばならぬ。211(わが)君様(きみさま)212何卒(なにとぞ)(この)防戦(ばうせん)は、213左守(さもり)214右守(うもり)にお(まか)せを(ねが)ひます』
215刹帝利(せつていり)左守(さもり)言葉(ことば)216(じつ)(わが)肯綮(こうけい)(あた)つてゐる。217(しか)らば全軍(ぜんぐん)指揮(しき)を、218左守(さもり)219右守(うもり)一任(いちにん)する』
220左守(さもり)『ハイ、221()懇命(こんめい)(かたじけ)なうし、222有難(ありがた)(ぞん)じます、223(いのち)(まと)にあく(まで)奮戦(ふんせん)(いた)して、224王家(わうけ)(および)国家(こくか)守護(しゆご)(いた)しませう』
225右守(うもり)(およ)ばず(なが)ら、226左守司(さもりのかみ)指揮(しき)(したが)ひ、227(いのち)鴻毛(こうまう)(かろ)んじて奮戦(ふんせん)激闘(げきとう)(つかまつ)りますれば、228(かなら)()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
229タルマン『左守(さもり)230右守殿(うもりどの)231(いのち)()つるは匹夫(ひつぷ)のなす(ところ)232両将(りやうしやう)()安全(あんぜん)地帯(ちたい)におき、233全軍(ぜんぐん)指揮(しき)終局(しうきよく)までなさらねばなりませぬ。234軽挙(けいきよ)妄動(もうどう)(つつし)み、235最後(さいご)(いち)(にん)(まで)ながらへるお覚悟(かくご)でなくては(この)(たたか)ひは駄目(だめ)(ござ)います』
236左守(さもり)『なる(ほど)237タルマン殿(どの)(おほせ)(とほ)り、238委細(ゐさい)承知(しようち)(つかまつ)つて(ござ)る』
239右守(うもり)『タルマン殿(どの)(おほせ)には(けつ)して(そむ)きませぬ、240()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
241ハルナ『お父上(ちちうへ)全軍(ぜんぐん)(そう)指揮官(しきくわん)となられた以上(いじやう)は、242何卒(どうぞ)(わたし)参謀長(さんぼうちやう)としてお使(つか)(くだ)さいます(やう)に、243たつてお(ねが)(いた)します』
244左守(さもり)『イヤイヤ其方(そなた)最前(さいぜん)(まを)した(とほ)り、245(けつ)して危険(きけん)(ところ)()つてはならない。246(わう)(さま)のお(そば)忠実(ちうじつ)(つか)へ、247()身辺(しんぺん)(まも)るが其方(そなた)役目(やくめ)だ』
248(おや)(なさけ)(わが)()戦場(せんぢやう)()討死(うちじに)させまいと(しき)りに(こころ)(なや)ましてゐる。
249ハルナ『父上(ちちうへ)(おん)指揮(しき)なれば、250今度(こんど)(たたか)ひは零敗(ゼロはい)(ござ)います。251これに()いては吾々(われわれ)深遠(しんゑん)なる計画(けいくわく)(ござ)いますから、252何卒(なにとぞ)253刹帝利(せつていり)(さま)254拙者(せつしや)にお(まか)(くだ)さいませぬか、255キツと手柄(てがら)(あら)はしてお()にかけます』
256刹帝利(せつていり)『ハテ心得(こころえ)(なんぢ)言葉(ことば)257(その)計画(けいくわく)とは如何(いか)なる(こと)か、258()(まへ)()つてみよ』
259ハルナ『(おそ)(なが)ら、260すべてのお人払(ひとばらひ)(ねが)います。261拙者(せつしや)(まを)()ぐる(こと)()()不承知(ふしようち)なれば()採用(さいよう)(くだ)されずとも、262(うら)みは(いた)しませぬ』
263刹帝利(せつていり)若輩(じやくはい)(げん)にも(また)()るべき(こと)があらう、264(しか)らば()いて(つか)はす……ア、265イヤ、266一同(いちどう)(もの)267(しばら)(せき)(とほ)ざかつたがよからう』
268(つる)一声(ひとこゑ)に、269タルマン(はじ)左守(さもり)270右守(うもり)不性(ふしよう)不精(ぶしよう)(せき)(とほ)ざかつた。271ハルナは(わう)(そば)(ちか)(すす)み、272(こゑ)(ひそ)めて、
273ハルナ『(じつ)(ところ)昨夜(さくや)神王(しんのう)(もり)参拝(さんぱい)(いた)し、274真心(まごころ)(こめ)国家(こくか)安泰(あんたい)(いの)(をり)しも、275盤古(ばんこ)神王(しんわう)(おも)ひきや、276(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(あら)はれ(たま)ひ、277(おほ)せらるるやう、278……(その)(はう)国家(こくか)(おも)忠良(ちうりやう)(しん)だ、279(じつ)にビクの(くに)(はしら)だ。280(いま)やベルツは反旗(はんき)(かか)げ、281一千騎(いつせんき)軍隊(ぐんたい)引率(ひきつ)れ、282数多(あまた)農民(のうみん)(ども)(したが)へて、283無慮(むりよ)三千(さんぜん)(にん)284()ならず押寄(おしよ)(きた)るであらう、285あ、286(その)(とき)(けつ)して手向(てむか)ひを(いた)すでない、287城内(じやうない)(かた)(とざ)籠城(ろうじやう)(いた)せよ。288さすれば八百(はつぴやく)味方(みかた)一人(ひとり)裏返(うらがへ)(もの)はない。289もしも城外(じやうぐわい)()でて(たたか)はむか、290裏切(うらぎ)りするものが(あら)はれて、291味方(みかた)不利益(ふりえき)であるぞよ。292()(かく)籠城(ろうじやう)心持(こころもち)にて、293四方(しはう)入口(いりぐち)(かた)()れば不思議(ふしぎ)援軍(ゑんぐん)(あら)はれて(てき)()()らすであらう。294(また)ヒルナ(ひめ)295カルナ(ひめ)(かへ)(きた)つて、296(てき)背後(うしろ)より、297奇兵(きへい)(はな)ち、298叛軍(はんぐん)をして、299一人(ひとり)(のこ)らず降伏(かうふく)せしむることが出来(でき)るであらう……とアリアリとお(しめ)しになりました。300何卒(どうぞ)301(ゆめ)とは()へ、302(けつ)して虚妄(きよまう)(げん)では(ござ)いませぬ。303賢明(けんめい)(わが)(きみ)(かなら)ずや、304(わが)進言(しんげん)()嘉納(かなふ)(くだ)さる(こと)(かた)(しん)じて()りまする』
305刹帝利(せつていり)『いかにも、306(なんぢ)言葉(ことば)には一理(いちり)ある。307到底(たうてい)人間(にんげん)(ちから)では(およ)ぶものでない、308素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)のお(しめ)しになつた戦略(せんりやく)は、309(じつ)完全(くわんぜん)戦法(せんぱふ)だ。310(しか)らば全部(ぜんぶ)311(なんぢ)臨時(りんじ)兵馬(へいば)(けん)委任(ゐにん)する』
312 ハルナは(うれ)(なみだ)をハラハラとながし(なが)ら、
313ハルナ『若年者(じやくねんもの)言葉(ことば)314()()(とど)(くだ)さいまして、315有難(ありがた)(ござ)います。316キツと()神力(しんりき)()りて、317国家(こくか)大難(だいなん)(すく)はして(いただ)きませう。318()安心(あんしん)(くだ)さいませ。319ああ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
320合掌(がつしやう)した。321(わう)はさも(たの)もしげに、322ニコニコとして面色(かほいろ)とみに(かがや)()したり。
323大正一二・二・一四 旧一一・一二・二九 於竜宮館 松村真澄録)
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