霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 白熱化(はくねつくわ)〔一三七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第2篇 貞烈亀鑑 よみ(新仮名遣い):ていれつきかん
章:第15章 白熱化 よみ(新仮名遣い):はくねつか 通し章番号:1378
口述日:1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所:竜宮館 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
鬼春別は、ヒルナ姫と上機嫌でくつろぎながら葡萄酒を傾けている。鬼春別は、ヒルナ姫が久米彦に秋波を送ったことを責めてからかった。ヒルナ姫は、自分が捨てられてはたまらないので、そうやって予防線を張っているのだと答えた。
ヒルナ姫は、鬼春別が自分にのろけきっているのを幸い、自分が鬼春別に非常に執着しているようなふりをして、つねったりたたいたりした。
そして、至善至愛のバラモン軍の将軍であれば、ビク国を破壊したり人々を苦しめるようなことはしないはずだと釘を刺し、そのような乱暴な所業は久米彦の指示だろうと吹き込んだ。そしてビク国の王や重臣たちを解放して実地を示すよう促した。
そこへ久米彦とカルナ姫がやってきた。鬼春別は、ヒルナ姫の手前、久米彦をいきなり怒鳴りつけてビク国侵略の乱暴を、彼のせいにしようとした。
久米彦はけげんな顔で、放火や捕囚はすべて鬼春別の命令でしたことだと答えて口論になった。ヒルナ姫は間に入り、カルナ姫は、久米彦がやってきたのは捕虜の解放についてだと話題を変えた。
鬼春別は言い遅れてはならないと、自分も同意見だと言って、副官たちとともに捕虜を解放するよう久米彦に命令した。久米彦はあきれながらも満足の意を表した。ヒルナ姫とカルナ姫は、すかさず二人を仁慈あふれる将軍だと持ち上げた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:6352 OBC :rm5315
愛善世界社版:170頁 八幡書店版:第9輯 566頁 修補版: 校定版:176頁 普及版:85頁 初版: ページ備考:
001 鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)はヒルナ姫(ひめ)と共(とも)に、002頗(すこぶ)る上機嫌(じやうきげん)で喋々(てふてふ)喃々(なんなん)と雲雀(ひばり)のやうに囀(さへづ)り乍(なが)ら、003葡萄酒(ぶだうしゆ)を傾(かたむ)け、004舌鼓(したつづみ)を打(う)つてゐる。
005鬼春別(おにはるわけ)『アイヤ、006ヒルナ姫殿(ひめどの)、007其方(そなた)は拙者(せつしや)を嫌(きら)ひだと申(まを)し、008非常(ひじやう)に恥(はぢ)をかかし、009久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)に非常(ひじやう)な秋波(しうは)を送(おく)つたぢやないか。010さう秋(あき)の空(そら)の様(やう)にクレクレと心(こころ)が変(かは)る女(をんな)は、011心(こころ)を許(ゆる)して信用(しんよう)する事(こと)が出来(でき)ないぢやないか。012本当(ほんたう)に飛切(とびき)り上等(じやうとう)のお侠(きやん)だね』
013ヒルナ姫(ひめ)『そらさうですとも さうですとも、014貴方(あなた)の御(お)心(こころ)が御(お)心(こころ)ですもの、015何時(いつ)何方(どちら)へ尻(しり)を向(む)けらるるか、016険難(けんのん)でたまりませぬから、017恥(はぢ)をかかされない内(うち)に一寸(ちよつと)予防線(よばうせん)を張(は)つて見(み)たのですよ。018妙齢(めうれい)のナイスがこんな処(ところ)へ出(で)て来(き)て男(をとこ)に恥(はぢ)をかかされては、019両親(りやうしん)の名折(なをれ)ですからね』
020鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、021お前(まへ)は中々(なかなか)隅(すみ)にはおけない代物(しろもの)だ。022男女(だんぢよ)の道(みち)にかけては徹底(てつてい)的(てき)に抜目(ぬけめ)のない姫(ひめ)様(さま)ぢやなア。023千変(せんぺん)万化(ばんくわ)秘術(ひじゆつ)を尽(つく)して戦陣(せんぢん)に臨(のぞ)む、024流石(さすが)の鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)も、025お前(まへ)の辣腕(らつわん)には舌(した)を巻(ま)いたよ。026本当(ほんたう)に偉(えら)いものだなア』
027ヒルナ姫(ひめ)『ホホホホホ、028一進(いつしん)一退(いつたい)秘術(ひじゆつ)を尽(つく)すのが恋愛戦(れんあいせん)の奥義(おくぎ)で厶(ござ)いますからね』
029鬼春別(おにはるわけ)『何(なん)だか知(し)らないが、030お前(まへ)の天稟(てんぴん)の美貌(びばう)と云(い)ひ、031その優(やさ)しい声(こゑ)と云(い)ひ、032雨後(うご)の海棠(かいだう)か、033露(つゆ)を帯(お)びた白梅(しらうめ)の花(はな)か、034咲(さ)き誇(ほこ)つたダリヤか、035牡丹(ぼたん)か芍薬(しやくやく)か、036形容(けいよう)し難(がた)いそのスタイルには、037三軍(さんぐん)を叱咤(しつた)する勇将(ゆうしやう)も、038旗(はた)を巻(ま)き矛(ほこ)を逆(さか)しまにして降伏(かうふく)せなくちやならなくなつて来(く)るわ、039ハハハハハ』
040ヒルナ姫(ひめ)『ようマア、041ソンナ事(こと)を云(い)つて人(ひと)のわるい……若(わか)い女(をんな)を揶揄(からかひ)遊(あそ)ばすのですか。042ほんに憎(にく)らしい人(ひと)だわねー』
043と横目(よこめ)を使(つか)ひ乍(なが)ら、044将軍(しやうぐん)の手(て)の甲(かふ)を血(ち)の出(で)る程(ほど)抓(つめ)つた。045将軍(しやうぐん)は優(やさ)しい手(て)で血(ち)の出(で)る所(ところ)まで抓(つめ)られ、046益々(ますます)相好(さうがう)を崩(くづ)し、047声(こゑ)の調子(てうし)迄(まで)変(か)へて、
048鬼春別(おにはるわけ)『オイ、049ヒルナ、050馬鹿(ばか)にすない。051これでも一人前(いちにんまへ)の男(をとこ)だぞ』
052 ヒルナ姫(ひめ)は、
053ヒルナ姫(ひめ)『エー憎(にく)らしいお方(かた)、054ヨウそんな事(こと)を仰有(おつしや)いますワイ。055貴方(あなた)は三千人(さんぜんにん)前(まへ)の立派(りつぱ)な男(をとこ)さまぢやありませぬか。056三千(さんぜん)人(にん)の軍隊(ぐんたい)を引率(ひきつ)れ、057その総(そう)指揮官(しきくわん)となつて厶(ござ)るのでせう。058さうすれば貴方(あなた)一人(ひとり)の心(こころ)で三千(さんぜん)人(にん)の軍(ぐん)が、059廻(まは)れ右(みぎ)、060左(ひだり)へオイ、061と三寸(さんずん)の舌(した)に依(よ)つて、062自由(じいう)自在(じざい)にゼンマイ仕掛(じかけ)の人形(にんぎやう)の様(やう)に動(うご)くのぢや厶(ござ)いませぬか。063本当(ほんたう)に憎(にく)らしい将軍(しやうぐん)様(さま)だなア』
064と云(い)ひ乍(なが)ら、065優(やさ)しい手(て)で頬辺(ほほべた)を痺(しび)れる程(ほど)三(み)つ四(よ)つ続(つづ)け打(う)ちに打(う)つた。
066 鬼春別(おにはるわけ)は惚気切(のろけき)つてゐるので、067……ヒルナが仮令(たとへ)撲(なぐ)つても抓(つめ)つてもかまはぬ、068一遍(いつぺん)でも身体(からだ)に触(さは)つてくれたら、069それで満足(まんぞく)だ……と云(い)ふ気持(きもち)になつてゐる。070其(その)間(かん)の消息(せうそく)を見(み)ぬいてゐるヒルナ姫(ひめ)は、071一口(ひとくち)云(い)つては頬(ほほ)を叩(たた)き、072一口(ひとくち)云(い)つては腕(うで)を抓(つめ)り、073しまひには髭(ひげ)をひつぱり、074鼻(はな)を撮(つま)み、075両手(りやうて)に顔(かほ)をかかへて唾(つばき)を吐(は)きかけたり、076玩弄物(いらへもの)にしてゐる。077鬼春別(おにはるわけ)はただ、
078鬼春別(おにはるわけ)『エヘヘヘヘ、079無茶(むちや)すない。080誰(たれ)が見(み)てゐるか知(し)れないぞ。081俺(おれ)の面(つら)がそれ程(ほど)面白(おもしろ)いか』
082なぞと、083笑壺(ゑつぼ)に入(い)つてゐる。
084ヒルナ姫(ひめ)『古今(ここん)独歩(どつぽ)珍無類(ちんむるゐ)奇妙(きめう)奇天烈(きてれつ)、085世界(せかい)に類(るゐ)の無(な)い、086何処(どこ)ともなしに惚々(ほれぼれ)する男(をとこ)らしい面(かほ)だね。087妾(あたい)こんな面(かほ)を百(ひやく)年(ねん)も千(せん)年(ねん)も覗(のぞ)いてゐたいわ』
088鬼春別(おにはるわけ)『エヘヘヘヘ、089覗(のぞ)かしてやりたいのは山々(やまやま)なれど、090苟(いやし)くも身(み)軍籍(ぐんせき)にあるもの、091何時(いつ)馬腹(ばふく)に鞭(むち)を加(くは)へ、092砲煙(はうえん)弾雨(だんう)の中(なか)を疾駆(しつく)せなければならないかも知(し)れない職掌(しよくしやう)だからのー。093マア今(いま)の内(うち)に穴(あな)のあく程(ほど)楽(たの)しんで見(み)て置(お)くがよいわ』
094ヒルナ姫(ひめ)『オホホホホ、095本当(ほんたう)に縦(たて)から見(み)ても横(よこ)から見(み)ても申分(まをしぶん)のない好(い)い男(をとこ)だわ。096丸(まる)で神(かみ)さまの様(やう)な御(お)面付(かほつき)、097あんまり可愛(かあい)くて此(この)ふつくらとした頬辺(ほほべた)の肉(にく)を一口(ひとくち)食(た)べたい様(やう)だわ』
098鬼春別(おにはるわけ)『エヘヘヘヘ、099何程(なにほど)可愛(かあい)うても頬辺(ほほべた)に噛(か)みつかれちや困(こま)るよ』
100ヒルナ姫(ひめ)『それでも貴方(あなた)、101よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさいませ。102愛熱(あいねつ)の極点(きよくてん)に達(たつ)した時(とき)には屹度(きつと)噛(か)ぶり付(つ)くものですよ。103猫(ねこ)が子(こ)を生(う)んで直様(すぐさま)其(その)子(こ)を嘗(な)めてやつて居(を)りますが、104余(あま)り可愛(かあい)くなつて終(しまひ)には皆(みんな)喰(く)つて了(しま)ひませうがなア。105妾(あたい)貴方(あなた)の身体(からだ)を頭(あたま)の先(さき)から爪(つめ)の先(さき)まで、106スツカリ食(く)つて見(み)たい様(やう)な気(き)がいたしますわ』
107鬼春別(おにはるわけ)『可愛(かあい)がつてくれるのも程度(ていど)があるからなア、108鬼娘(おにむすめ)かなんぞのやうに食(く)はれて耐(たま)るものか。109さうでなくても既(すで)に既(すで)に精神(せいしん)的(てき)にはお前(まへ)に肉体(にくたい)も魂(たましひ)もスツカリ食(く)はれて居(ゐ)るぢやないか。110何(なん)と猛烈(まうれつ)な恋(こひ)だなア』
111ヒルナ姫(ひめ)『さうですとも、112あの蟷螂(かまきり)や螽斯(ばつた)を御覧(ごらん)なさいませ。113雌雄(しゆう)が交尾(かうび)した後(あと)で、114その雌(めす)は夫(をつと)が可愛(かあい)くなつて皆(みな)頭(あたま)から食(く)つて了(しま)ふぢやありませぬか。115妾(あたい)貴方(あなた)が食(く)つて見(み)たいと云(い)ふのは、116押(おさ)へ切(き)れない情熱(じやうねつ)が燃(も)えさかつて居(ゐ)るからですよ』
117鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、118エヘヘヘヘ、119ここ迄(まで)女(をんな)にラブされるのは男(をとこ)としては余(あま)り悪(わる)い気持(きもち)ぢやないが、120一面(いちめん)から考(かんが)へると恐(おそ)ろしい様(やう)な気分(きぶん)になつて来(き)たワイ。121イヒヒヒヒ』
122ヒルナ姫(ひめ)『コレ将軍(しやうぐん)様(さま)、123貴方(あなた)は妾(あたい)の恋愛(れんあい)の程度(ていど)が何処(どこ)迄(まで)深(ふか)いか分(わか)りましただらうね』
124鬼春別(おにはるわけ)『ウーン、125オコツク海(かい)の底(そこ)よりも未(ま)だ深(ふか)い様(やう)だなア。126到底(たうてい)測定(そくてい)は出来(でき)ないわ』
127ヒルナ姫(ひめ)『さうでせう。128妾(わらは)の恋(こひ)は真剣(しんけん)ですよ。129オコツク海(かい)の底(そこ)は未(ま)だ愚(おろ)か、130竜宮海(りうぐうかい)のドン底(ぞこ)迄(まで)届(とど)いてゐますよ。131貴方(あなた)の恋(こひ)は汀(なぎさ)の恋(こひ)で、132満潮(まんてう)の時(とき)には浅(あさ)い水(みづ)が漂(ただよ)うてゐますが、133干潮(かんてう)になつた時(とき)には本当(ほんたう)に殺風景(さつぷうけい)な砂原(すなはら)の様(やう)なものですわ。134本当(ほんたう)にそんな事(こと)思(おも)うと貴方(あなた)が憎(にく)らしうなつて来(き)ました』
135と云(い)ひ乍(なが)ら、136グツト鼻(はな)を捻(ねぢ)る。137鬼春別(おにはるわけ)は鼻声(はなごゑ)になり、
138鬼春別(おにはるわけ)『コラコラ放(はな)せ放(はな)せ、139そう無暗(むやみ)に鼻(はな)をいぢつてもらつちや、140やりきれぬぢやないか。141可愛(かあい)がるのも好(よ)い加減(かげん)にして止(や)めて置(お)いてくれ、142有難(ありがた)迷惑(めいわく)だから。143お前(まへ)の猛烈(まうれつ)なラブには鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)も本当(ほんたう)に三舎(さんしや)を避(さ)けざるを得(え)ないわ』
144ヒルナ姫(ひめ)『さうでせう。145それ見(み)なさい、146白状(はくじやう)なさいました。147妾(わらは)がうるさくなつて御(お)逃(に)げ遊(あそ)ばす考(かんが)へでせう。148ソンならそれで宜(よろ)しう厶(ござ)います。149妾(わらは)をこんな辛(つら)い思(おも)ひをさせて焦(じら)すよりも、150態(てい)よう貴方(あなた)の軍刀(ぐんたう)で一思(ひとおも)ひに殺(ころ)して下(くだ)さいませ。151それが妾(わらは)の無上(むじやう)の望(のぞ)みで厶(ござ)います』
152鬼春別(おにはるわけ)『コレハ怪(け)しからぬ。153そこ迄(まで)深(ふか)はまりをしちや駄目(だめ)だよ。154コレ、155ヒルナ、156お前(まへ)は俺(おれ)の美貌(びばう)に恋着(れんちやく)の余(あま)り、157眼(まなこ)が眩(くら)んでゐるのぢやないか。158頭脳(づなう)がどうかなつて居(ゐ)るのぢやあるまいかなア』
159ヒルナ姫(ひめ)『ソラさうですとも、160些(ちつ)とは頭(あたま)が変(へん)にもなりませう。161摂氏(せつし)の百度(ひやくど)以上(いじやう)にも逆上(のぼ)せあがつてゐるのですもの』
162鬼春別(おにはるわけ)『ヤー、163それも結構(けつこう)だが、164俺(おれ)もさう両方(りやうはう)の手(て)で頬(ほほ)を抱(かか)へられてゐると首(くび)も廻(まは)らないから、165マア一寸(ちよつと)一服(いつぷく)さしてくれ、166肩(かた)が凝(こ)るからなア』
167ヒルナ姫(ひめ)『エー憎(にく)らしい此(この)人(ひと)、168髯(ひげ)むしつて上(あ)げませうか。169肩(かた)が凝(こ)るなんて、170そら、171さうでせう。172カルナさまだつたら御(お)気(き)に入(い)るのでせうけれど、173妾(あたい)の様(やう)な土堤(どて)南瓜(かぼちや)の七(しち)お多福(たふく)では御(お)気(き)には召(め)しますまい』
174と頤(あご)の髯(ひげ)をグツと握(にぎ)つてチヨイチヨイとしやくつた。
175鬼春別(おにはるわけ)『アイツタタタタ、176マア待(ま)つてくれ、177さう熱愛(ねつあい)されては、178イツカナ好色(かうしよく)男子(だんし)も往生(わうじやう)だ。179何(なん)とマア猛烈(まうれつ)な恋慕者(れんぼしや)が出来(でき)たものだなア。180ヘヘヘヘヘ』
181 ヒルナ姫(ひめ)は鬼春別(おにはるわけ)の息(いき)が臭(くさ)くて堪(たま)らなかつたけれども、182態(わざ)と惚(ほれ)た様(やう)な面(かほ)をして一秒(いちべう)時間(じかん)も早(はや)く離(はな)れたいのを辛抱(しんばう)し、183わざと鬼春別(おにはるわけ)が困(こま)る所(ところ)迄(まで)根比(こんくら)べをしてゐたのである。
184鬼春別(おにはるわけ)『オイ、185ヒルナ姫(ひめ)、186男(をとこ)が手(て)を合(あは)して頼(たの)むからチツト許(ばか)り放(はな)れて居(を)つてくれ。187斯(か)う云(い)つたつて決(けつ)してお前(まへ)を嫌(きら)ふのぢやないから、188悪(わる)うは思(おも)はぬやうにして呉(く)れ』
189 ヒルナはわざと不足(ふそく)相(さう)な面(かほ)をして、
190ヒルナ姫(ひめ)『ハイ、191お気(き)に入(い)りませぬからねー』
192と云(い)ひ乍(なが)ら、193左(ひだり)の手(て)で目(め)と目(め)の間(あひだ)を平手(ひらて)でグツト突(つ)いた。
194鬼春別(おにはるわけ)『アーアー、195山(やま)の神(かみ)さまのエライ御(ご)剣幕(けんまく)、196イヤもう、197恐(おそ)れ入谷(いりや)の鬼子(きし)母神(もじん)だ。198俺(おれ)は又(また)どうしてこんな女(をんな)に好(す)かれる男(をとこ)に生(うま)れて来(き)たのだらう。199何故(なぜ)モツト俺(おれ)の両親(りやうしん)は不細工(ぶさいく)に生(う)みつけなかつただらう。200今(いま)となつては却(かへつ)て恨(うら)めしいわ。201女(をんな)に嫌(きら)はれるのも余(あま)り気(き)の好(い)いものぢやないが、202斯(か)う好(す)かれるのも余(あんま)り有難(ありがた)迷惑(めいわく)ではない、203嬉(うれ)しいわ』
204ヒルナ姫(ひめ)『ソラさうでせうとも、205迷惑(めいわく)でせうとも、206カルナさまの様(やう)な気(き)の利(き)いたお方(かた)だとねー、207お気(き)に召(め)すんですけれどねー、208何(なん)と云(い)つても頓馬(とんま)ですから、209将軍(しやうぐん)の御(お)気(き)には入(い)りますまい。210さうだと云(い)つて、211何(なん)だか知(し)らぬが妾(あたい)は此(この)人(ひと)が可愛(かあい)くて堪(たま)らないのだもの。212何程(なんぼ)嫌(きら)はれたつて、213仮令(たとへ)仮情約(かりじやうやく)にもせよ、214結(むす)んだ仲(なか)だもの、215モツト モツト耳(みみ)を抓(つめ)つたり、216髭(ひげ)を引(ひ)いたり、217鼻(はな)を撮(つま)まして貰(もら)ひますわ』
218鬼春別(おにはるわけ)『オイ、219ヒルナ、220さう御(お)面(めん)、221御(お)小手(こて)、222御(お)胴(どう)、223御(お)突(つき)と来(こ)られちや将軍(しやうぐん)だつて怺(こら)へ切(き)れないわ。224何程(なにほど)三千(さんぜん)人(にん)の代表者(だいへうしや)だと云(い)つても軍服(ぐんぷく)を脱(ぬ)いで裸(はだか)になれば、225只(ただ)の人間(にんげん)だからなア』
226ヒルナ姫(ひめ)『妾(あたい)今(いま)の御(お)言葉(ことば)が大変(たいへん)気(き)に入(い)つてよ。227正直(しやうぢき)な告白(こくはく)ですわ。228男(をとこ)は裸百貫(はだかひやくくわん)と云(い)ひましてね、229軍服(ぐんぷく)だの位階(ゐかい)だの、230爵位(しやくゐ)だのと云(い)ふ人工(じんこう)的(てき)の保護色(ほごしよく)に包(つつ)まれてゐる人(ひと)は、231本当(ほんたう)の人間味(にんげんみ)の分(わか)らない人(ひと)ですわ。232貴方(あなた)はこれ丈(だ)け立派(りつぱ)な地位(ちゐ)に身(み)を置(お)き乍(なが)ら、233平民(へいみん)主義(しゆぎ)だから、234本当(ほんたう)に好(す)きですわ。235平民(へいみん)主義(しゆぎ)の人(ひと)は些(ちつと)も女房(にようばう)にだつて又(また)世間(せけん)の人(ひと)にだつて圧迫(あつぱく)を加(くは)へたり、236苦(くる)しめたりしませぬからね』
237鬼春別(おにはるわけ)『ウン、238そらさうだ。239俺(おれ)は平民(へいみん)主義(しゆぎ)だよ。240人間(にんげん)の作為(さくゐ)したレツテルなんか、241抑(そもそも)末(すゑ)だからね。242人間(にんげん)は神(かみ)様(さま)の御子(みこ)だから、243何処(どこ)迄(まで)も博愛(はくあい)と仁義(じんぎ)とを以(もつ)て世(よ)に立(た)たねばならぬ。244殺伐(さつばつ)な利己主義(われよし)の悪行(あくぎやう)は人間(にんげん)の為(な)す可(べ)き事(こと)ぢやない。245俺(おれ)はさう云(い)ふ人間(にんげん)を見(み)ると忽(たちま)ち嘔吐(おうど)を催(もよほ)す様(やう)な気(き)になるのだ』
246ヒルナ姫(ひめ)『本当(ほんたう)に賢明(けんめい)な仁慈(じんじ)の深(ふか)い将軍(しやうぐん)様(さま)ですな、247妾(あたい)それが大好(だいす)きですよ。248久米彦(くめひこ)さまは一寸(ちよつと)見(み)た所(ところ)では男前(をとこまへ)は貴方(あなた)さまより、249少(すこ)し立派(りつぱ)なやうですが、250何(なん)と云(い)つても殺伐(さつばつ)な御(お)方(かた)だから、251妾(あたい)御存(ごぞん)じの通(とほ)り思想(しさう)が合(あ)ひませぬので肘鉄(ひじてつ)をかまして辱(はづか)しめてやつたのですよ。252貴方(あなた)は仁慈(じんじ)の将軍(しやうぐん)様(さま)だから決(けつ)してビクトリヤ王(わう)を攻(せ)めたり、253城(しろ)を破(やぶ)つたり数多(あまた)の従臣(じゆうしん)を捕虜(ほりよ)にしたり、254民家(みんか)を焼(や)いたり、255そんな惨酷(ざんこく)な事(こと)はしませぬわねえ。256道(みち)行(ゆ)く人(ひと)の話(はなし)を聞(き)いても、257兵隊(へいたい)さんの話(はなし)を聞(き)いても鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)は本当(ほんたう)に聖人(せいじん)君子(くんし)のやうな将軍(しやうぐん)様(さま)だ。258それに引(ひき)かへ久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は気(き)の荒(あら)い情知(なさけし)らずだから、259ビクの国(くに)のビクトリヤ城(じやう)を攻(せ)めたり、260刹帝利(せつていり)様(さま)を捕虜(ほりよ)にしたり、261城内(じやうない)の従臣(じゆうしん)を酷(むご)い目(め)に合(あは)すのだ。262これは決(けつ)して鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)の御(お)心(こころ)ではあるまい、263久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)の軍(ぐん)が頑張(ぐわんば)つて、264アンナ事(こと)をするのだらう。265鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)が之(これ)を御(お)聞(き)きになつたならば、266屹度(きつと)久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)を叱(しか)りとばし、267性来(しやうらい)の御(ご)仁慈(じんじ)を以(もつ)てビクトリヤ王(わう)を救(すく)ひ出(だ)し、268其(その)他(た)の従臣(じゆうしん)をお助(たす)け遊(あそ)ばすに違(ちが)ひないと、269十(じふ)人(にん)が十(じふ)人(にん)迄(まで)噂(うはさ)をしてゐましたよ。270貴方(あなた)の人望(じんばう)は本当(ほんたう)に大変(たいへん)なものですから、271将軍(しやうぐん)様(さま)の後姿(うしろすがた)なりと一目(ひとめ)拝(をが)まして頂(いただ)き度(た)いと思(おも)ひ、272一年前(いちねんぜん)から神(かみ)様(さま)に願(ねが)つてゐたのですよ。273本当(ほんたう)に貴方(あなた)の御(お)心(こころ)は神(かみ)様(さま)見(み)たやうですね』
274 鬼春別(おにはるわけ)は最愛(さいあい)のヒルナに斯(か)う云(い)はれては言葉(ことば)を返(かへ)す勇気(ゆうき)もなかつた。275俄(にはか)に顔色(かほいろ)を和(やは)らげて、
276鬼春別(おにはるわけ)『ウーン、277お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)りだ。278あの久米彦(くめひこ)と云(い)ふ奴(やつ)、279獣性(じうせい)を帯(お)びてるから仁慈(じんじ)も道徳(だうとく)も何(なに)も弁(わきま)へてゐないのだ。280併(しか)し乍(なが)ら大黒主(おほくろぬし)様(さま)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)つて将軍(しやうぐん)になつたのだから、281俺(おれ)が何程(なにほど)総(そう)司令官(しれいくわん)だと云(い)つて無暗(むやみ)に免職(めんしよく)さす訳(わけ)には行(ゆ)かず、282困(こま)つたものだ。283俺(おれ)は一歩(いつぽ)も外(そと)へ出(で)ないのだから、284久米彦(くめひこ)の奴(やつ)、285何(なに)をして居(ゐ)るかわかつたものぢやない。286抑(そもそ)も兵(へい)を動(うご)かすのは内乱(ないらん)を鎮定(ちんてい)したり、287又(また)外敵(ぐわいてき)を防(ふせ)いだりする時(とき)用(もち)ゆるもので、288無名(むめい)の戦(いくさ)を起(おこ)すのは軍人(ぐんじん)として最(もつと)も恥(は)づべき所(ところ)だからなア』
289ヒルナ姫(ひめ)『承(うけたま)はれば承(うけたま)はる程(ほど)、290将軍(しやうぐん)様(さま)は何(なん)とした至仁(しじん)、291至愛(しあい)、292至善(しぜん)、293至美(しび)、294至真(ししん)な御(お)方(かた)で厶(ござ)いませう。295斯様(かやう)な勇将(ゆうしやう)に仮令(たとへ)半時(はんとき)なりとも可愛(かあい)がられる妾(あたい)は、296世界(せかい)第一(だいいち)の幸福者(しあはせもの)で厶(ござ)いますわ。297どうぞ将軍(しやうぐん)様(さま)、298何処(どこ)迄(まで)も可愛(かあい)がつて下(くだ)さいませねえ』
299鬼春別(おにはるわけ)『ウーン、300お前(まへ)の事(こと)なら何(なん)でも聞(き)いてやる』
301ヒルナ姫(ひめ)『妾(あたい)それ聞(き)いて益々(ますます)貴方(あなた)が好(す)きになりますわ。302将軍(しやうぐん)様(さま)の御(ご)名誉(めいよ)の為(ため)、303久米彦(くめひこ)の向(むか)ふを張(は)つて一(ひと)つ刹帝利(せつていり)以下(いか)の従臣(じゆうしん)を御(お)救(たす)けなさつたらどうで厶(ござ)いませう。304さうすれば天下(てんか)は翕然(きふぜん)として将軍(しやうぐん)に信用(しんよう)が集(あつ)まり、305大黒主(おほくろぬし)様(さま)以上(いじやう)の大将軍(だいしやうぐん)と仰(あふ)がれます様(やう)に御(お)成(な)り遊(あそ)ばすでせう。306将軍(しやうぐん)が御(ご)出世(しゆつせ)をして下(くだ)さらば女房(にようばう)の妾(わらは)も出世(しゆつせ)をさして頂(いただ)くのですからね。307謂(い)はば将軍(しやうぐん)の御(ご)出世(しゆつせ)は妾(わらは)の出世(しゆつせ)、308貴方(あなた)の身体(からだ)は妾(わらは)の身体(からだ)、309貴方(あなた)の悲(かなし)みは妾(わらは)の悲(かなし)み、310貴方(あなた)の喜(よろこ)びは妾(わらは)の喜(よろこ)び、311密着(みつちやく)不離(ふり)の切(き)つても切(き)れぬ関係(くわんけい)が結(むす)ばれてゐるのですからね。312此処(ここ)で一(ひと)つ男(をとこ)を売(う)つて下(くだ)さる気(き)はありますまいか』
313鬼春別(おにはるわけ)『成程(なるほど)、314素(もと)より仁慈(じんじ)の某(それがし)、315お前(まへ)が云(い)はなくても刹帝利(せつていり)様(さま)に対(たい)し左様(さやう)な事(こと)を致(いた)したとすれば、316聞捨(ききず)てにはならぬ。317左様(さやう)な不都合(ふつがふ)な事(こと)を致(いた)せば、318一(いち)日(にち)も早(はや)く部下(ぶか)に命(めい)じ助(たす)けてやるであらう』
319ヒルナ姫(ひめ)『さうなさいませ。320将軍(しやうぐん)様(さま)の御(ご)名誉(めいよ)の為(ため)ですから、321従(したが)つて妾(わらは)の名誉(めいよ)ですからね』
322 斯(か)く話(はな)す処(ところ)へ、323久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)はカルナと共(とも)にほろ酔機嫌(よひきげん)になつてやつて来(き)た。
324久米彦(くめひこ)『これはこれは鬼春別(おにはるわけ)の将軍殿(しやうぐんどの)、325エライ御(ご)機嫌(きげん)で厶(ござ)るなア。326拙者(せつしや)は一(ひと)つ貴殿(きでん)に御(ご)相談(さうだん)があつて参(まゐ)りましたが、327拙者(せつしや)の申(まを)す事(こと)を、328何(なん)と聞(き)いては下(くだ)さいますまいかなア』
329鬼春別(おにはるわけ)『何事(なにごと)か知(し)らねども、330其(その)方(はう)事(こと)、331上官(じやうくわん)の命令(めいれい)もきかず、332無性(むしやう)矢鱈(やたら)に民家(みんか)を焼(や)き、333敵人(てきじん)を傷(きず)つけ、334畏(おそれおほ)くもビクトリヤ王(わう)を辱(はづか)しめ、335左守(さもり)右守(うもり)の重臣(ぢうしん)を始(はじ)め其(その)他(た)の役人(やくにん)共(ども)を縛(しば)り、336或(あるひ)は傷(きず)つけ、337乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)を致(いた)したな。338左様(さやう)な命令(めいれい)を一体(いつたい)誰(たれ)が下(くだ)した』
339 ヒルナ姫(ひめ)の手前(てまへ)わざと呶鳴(どな)りつけた。340久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は怪訝(けげん)な面(かほ)をして、
341久米彦(くめひこ)『将軍(しやうぐん)は狂気(きやうき)召(め)されたか。342但(ただ)しは御酒(ごしゆ)の機嫌(きげん)か、343心得(こころえ)ぬ貴殿(きでん)の御(お)言葉(ことば)、344拙者(せつしや)は今回(こんくわい)の戦争(せんそう)は一切(いつさい)閣下(かくか)の指揮(しき)命令(めいれい)の通(とほ)り、345遺憾(ゐかん)なく致(いた)したので厶(ござ)る。346民家(みんか)を焼(や)き城内(じやうない)に侵入(しんにふ)したのも、347刹帝利(せつていり)以下(いか)を捕虜(ほりよ)と致(いた)し獄内(ごくない)に打(う)ち込(こ)んだのも、348皆(みな)閣下(かくか)の御(ご)命令(めいれい)に依(よ)つて致(いた)したので、349実(じつ)に将軍(しやうぐん)は仁慈(じんじ)を弁(わきま)へぬ虎狼(こらう)にひとしき御(ご)性格(せいかく)だから、350部下(ぶか)は大(おほい)に其(その)惨酷(ざんこく)さを嫌忌(けんき)して居(を)ります』
351とカルナ姫(ひめ)の手前(てまへ)、352自分(じぶん)の聖人(せいじん)たる事(こと)を示(しめ)さむと横車(よこぐるま)を頻(しきり)に押(お)してゐる。353鬼春別(おにはるわけ)は、
354鬼春別(おにはるわけ)『以(もつて)の外(ほか)の其(その)方(はう)の雑言(ざふごん)無礼(ぶれい)、355拙者(せつしや)に限(かぎ)つて左様(さやう)な事(こと)を命令(めいれい)いたす筈(はず)がないぢやないか。356一例(いちれい)を挙(あ)ぐれば其(その)方(はう)は斎苑(いそ)の館(やかた)へ軍隊(ぐんたい)を引率(ひきつ)れ、357片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)と共(とも)に神(かみ)の館(やかた)に攻寄(せめよ)せむといたし、358河鹿(かじか)峠(たうげ)に於(おい)て屁古垂(へこた)れ、359逃(に)げ帰(かへ)つたであらうがなア。360某(それがし)はランチ将軍(しやうぐん)と共(とも)に浮木(うきき)の陣営(ぢんえい)に碁(ご)を囲(かこ)み、361殺伐(さつばつ)な戦争(せんそう)に与(あづか)らなかつたのを見(み)ても、362拙者(せつしや)が如何(いか)に仁慈(じんじ)の武士(ぶし)たる事(こと)は証明(しようめい)さるるであらう』
363久米彦(くめひこ)『ナント理窟(りくつ)は無茶(むちや)で通(とほ)せば通(とほ)るものですなア。364ヘヘヘヘヘ、365余(あま)りの事(こと)で開(あ)いた口(くち)が閉(すぼま)りませぬわ』
366 ヒルナ姫(ひめ)は二人(ふたり)の仲(なか)に割(わ)つて入(い)り、
367ヒルナ姫(ひめ)『仁慈(じんじ)深(ふか)き両将軍(りやうしやうぐん)様(さま)、368どうか左様(さやう)な内輪(うちわ)喧嘩(げんくわ)は止(よ)して下(くだ)さいませ。369妾(あたい)悲(かな)しう厶(ござ)いますわ』
370カルナ姫(ひめ)『ヒルナ様(さま)、371久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)は本当(ほんたう)にお情深(なさけぶか)いお方(かた)で厶(ござ)いますよ。372あの刹帝利(せつていり)様(さま)以下(いか)の捕(と)らはれ人(びと)を御(お)助(たす)け申(まを)したいが、373上官(じやうくわん)の御(ご)意見(いけん)を伺(うかが)はねばならないと云(い)つて、374今(いま)此処(ここ)へお越(こ)しになつた所(ところ)ですよ』
375 鬼春別(おにはるわけ)は云(い)ひ遅(おく)れては一大事(いちだいじ)と気(き)を焦(いら)ち、376わざと空惚(そらとぼ)け、
377鬼春別(おにはるわけ)『ヤア久米彦(くめひこ)、378貴殿(きでん)も其処(そこ)迄(まで)改心(かいしん)致(いた)したか、379天晴(あつぱれ)々々(あつぱれ)、380然(しか)らば拙者(せつしや)の意見(いけん)に御(ご)同意(どうい)と見(み)えるな。381ヤア満足(まんぞく)々々(まんぞく)、382サ一時(いつとき)も早(はや)くスパール、383エミシ、384シヤム、385マルタの属僚(ぞくれう)に命(めい)じ、386刹帝利(せつていり)以下(いか)を救(すく)ふ可(べ)く厳命(げんめい)をなさるがよからう』
387久米彦(くめひこ)『ナント、388マア将軍(しやうぐん)様(さま)、389貴方(あなた)は霊界(れいかい)へ行(い)つた夢(ゆめ)を見(み)たと見(み)えますね。390何(なに)は兎(と)もあれお互(たがひ)に満足(まんぞく)で厶(ござ)る。391然(しか)らば一時(いつとき)も早(はや)く其(その)運(はこ)びにかかるで厶(ござ)いませう』
392鬼春別(おにはるわけ)『早速(さつそく)の承知(しようち)、393鬼春別(おにはるわけ)満足(まんぞく)に思(おも)ふぞや。394サ早(はや)く其(その)準備(じゆんび)におかかりめされ』
395ヒルナ姫(ひめ)『流石(さすが)は妾(わらは)の夫(をつと)、396鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)、397何(なん)と見上(みあ)げた御(ご)人格(じんかく)だなア』
398カルナ姫(ひめ)『妾(あたい)の夫(をつと)、399久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)は、400何故(なぜ)マア斯(こ)んなにお情深(なさけぶか)い武士(もののふ)だらう』
401と云(い)ひ乍(なが)ら、402ヒルナの面(かほ)を一寸(ちよつと)覗(のぞ)き、403『願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)御(お)目出度(めでた)し』と目(め)にもの言(い)はせ乍(なが)ら、404久米彦(くめひこ)に従(したが)ひ、405其(その)室(しつ)にかへつた。
406 夫(それ)より久米彦(くめひこ)は、407スパール、408エミシ、409シヤム、410マルタの属僚(ぞくれう)に命(めい)じ、411ビクトリヤ王(わう)始(はじ)め左守司(さもりのかみ)のキユービツト、412右守司(うもりのかみ)のベルツ、413及(およ)びハルナ、414カント、415エム、416ヱクス、417シエール、418タルマン、419其(その)外(ほか)一兵卒(いつぺいそつ)に到(いた)る迄(まで)悉(ことごと)く捕縄(ほじよう)を解(と)き放免(はうめん)した。420而(しか)してビクトリヤ王(わう)は、421無事(ぶじ)に城内(じやうない)に、422左守(さもり)、423右守(うもり)を従(したが)へて立帰(たちかへ)り、424大神(おほかみ)の祭壇(さいだん)の前(まへ)に端坐(たんざ)し、425涙(なみだ)と共(とも)に神恩(しんおん)を感謝(かんしや)した。426鬼春別(おにはるわけ)、427久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)は、428和睦(わぼく)の祝宴(しゆくえん)に刹帝利(せつていり)より招(まね)かれて、429ヒルナ姫(ひめ)、430カルナ姫(ひめ)を伴(ともな)ひ、431意気(いき)揚々(やうやう)として城内(じやうない)に進(すす)み入(い)り、432刹帝利(せつていり)より手厚(てあつ)き饗応(きやうおう)を受(う)くる事(こと)となつた。
433 アア今後(こんご)の成行(なりゆき)は如何(いか)に展開(てんかい)するであらうか。
434(大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於竜宮館 外山豊二録)
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