霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 醜嵐(しこあらし)〔一三七六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第2篇 貞烈亀鑑 よみ(新仮名遣い):ていれつきかん
章:第13章 醜嵐 よみ(新仮名遣い):しこあらし 通し章番号:1376
口述日:1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
副官のスパールとエミシは、軍を指揮統率する将軍職の二人が切り合いをしていることの重大さを説いてきかせて二人を諌めた。鬼春別は撃剣の稽古だとごまかしたが、久米彦は、鬼春別が軍律を乱そうとしたので斬ろうとしたと答えた。
久米彦の副官エミシは、それが本当であっても、上官に刃で向かうとことは許されないと憤慨した。スパールは、ヒルナ姫・カルナ姫の争奪戦が原因だと断じ、それぞれの副官が二人の女を助けたのだから、鬼春別はヒルナ姫、久米彦はカルナ姫を取るべきだとその場を裁定した。
久米彦は、仕方なくカルナ姫で辛抱しようと言った。これを聞いたカルナ姫は怒り、鬼春別に下女にでも使ってもらう方がましだとはねつけた。
久米彦はまたもや怒ってカルナ姫を斬りつけようとしたが、エミシに制止された。カルナ姫は久米彦を嘲弄して、鬼春別に取り入ろうとする。色男気取りになった鬼春別に、今度はヒルナ姫が愛想をつかしたふりをして、久米彦を持ち上げた。するとカルナ姫は、先ほどは久米彦の気を引こうとわざとあんなことを言ったのだ、とヒルナ姫に食ってかかった。
将軍たちは二人の女が自分を想っているとすっかり信用して骨抜きにされてしまい、鬼春別はヒルナ姫と、久米彦はカルナ姫を連れて、悦に入りながら自室に戻って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-03-31 06:40:51 文字数:4807 OBC :rm5313
愛善世界社版:145頁 八幡書店版:第9輯 557頁 修補版: 校定版:150頁 普及版:72頁 初版: ページ備考:
001 スパール、002エミシ両人(りやうにん)の仲裁(ちうさい)によつて鬼春別(おにはるわけ)、003久米彦(くめひこ)両将軍(りやうしやうぐん)の斬(き)り合(あひ)も漸(やうや)く治(をさ)まつた。004両将軍(りやうしやうぐん)は椅子(いす)にかかつてハートに波(なみ)を打(う)たせ乍(なが)ら汗(あせ)を拭(ぬぐ)うてゐる。005スパールは鬼春別(おにはるわけ)に向(むか)ひ恭(うやうや)しく、
006スパール『もし将軍(しやうぐん)様(さま)、007何故(なにゆゑ)のお争(あらそ)ひで厶(ござ)いますか。008三軍(さんぐん)を指揮(しき)し部下(ぶか)に模範(もはん)を示(しめ)すべき尊(たふと)き御(おん)身(み)を持(も)ち乍(なが)ら、009此(この)状態(じやうたい)は如何(どう)ですか。010之(これ)には何(なに)かの様子(やうす)ある事(こと)と思(おも)ひますが、011此(この)副官(ふくくわん)に包(つつ)まず隠(かく)さず御(お)打明(うちあ)かし下(くだ)さらば、012拙者(せつしや)は拙者(せつしや)として最善(さいぜん)の方法(はうはふ)を講(かう)ずる考(かんが)へで厶(ござ)います』
013 鬼春別(おにはるわけ)は赤面(せきめん)し乍(なが)ら言(い)ひ憎(にく)さうに、
014鬼春別(おにはるわけ)『いや、015別(べつ)に大(たい)した事(こと)はない。016あまり無聊(ぶれう)の余(あま)り久米彦(くめひこ)殿(どの)と撃剣(げきけん)の稽古(けいこ)を致(いた)して居(を)つたのだ。017アハハハハ』
018スパール『撃剣(げきけん)の稽古(けいこ)ならば何故(なぜ)竹刀(しない)をお持(も)ちなさらぬ。019互(たがひ)に真剣(しんけん)を抜(ぬ)いて御(お)打合(うちあひ)とは険難(けんのん)千万(せんばん)、020拙者(せつしや)が駆(か)け付(つ)けるのが、021も少(すこ)し遅(おそ)かつたならば両将軍(りやうしやうぐん)共(とも)に如何(いか)なる運命(うんめい)に陥(おちい)り玉(たま)ふかも計(はか)られますまい。022万一(まんいち)之(これ)丈(だけ)の軍隊(ぐんたい)に重鎮(ぢうちん)を失(うしな)へば軍紀(ぐんき)は忽(たちま)ち乱(みだ)れ、023部下(ぶか)の士卒(しそつ)は支離(しり)滅裂(めつれつ)になつて了(しま)ひます。024何卒(どうぞ)戯(たはむ)れもいい加減(かげん)にして下(くだ)さいませ』
025鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、026えらい……もう気(き)を揉(も)ませました。027ツイ煽(おだ)てが真剣(しんけん)になつて、028埒(らつ)ちもない事(こと)だつたよ』
029 エミシは久米彦(くめひこ)に向(むか)ひ、
030エミシ『将軍(しやうぐん)様(さま)、031今(いま)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)の仰有(おつしや)つた通(とほ)り撃剣(げきけん)をなさいましたのですか』
032 久米彦(くめひこ)は言(い)ひ憎(にく)さうに、
033久米彦(くめひこ)『ウン、034撃剣(げきけん)と云(い)へば撃剣(げきけん)だが、035実(じつ)の所(ところ)は鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)は軍律(ぐんりつ)を乱(みだ)さむと致(いた)した故(ゆゑ)に一刀(いつたう)の許(もと)に斬(き)りつけむとしたのだ。036もう一息(ひといき)と云(い)ふ時(とき)に其方(そなた)がたがやつて来(き)て、037いかい邪魔(じやま)を致(いた)したな。038アハハハハ』
039エミシ『之(これ)は将軍(しやうぐん)のお言葉(ことば)とも覚(おぼ)えませぬ。040拙者(せつしや)は貴方(あなた)の副官(ふくくわん)として只今(ただいま)迄(まで)忠実(ちうじつ)に仕(つか)へて参(まゐ)りましたが、041仮令(たとへ)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)に如何(いか)なる非違(ひゐ)があるとも、042刃(やいば)を以(もつ)て向(むか)ふと云(い)ふ乱暴(らんばう)な事(こと)がありますか。043拙者(せつしや)は之(これ)より貴方(あなた)の部下(ぶか)を離(はな)れ、044鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)に同情(どうじやう)を致(いた)します。045その御(ご)面相(めんさう)は如何(どう)ですか。046顔部(がんぶ)一面(いちめん)に、047眼(め)は釣(つ)り、048色(いろ)は褪(あ)せ、049唇(くちびる)は紫(むらさき)に変(かは)つて居(を)りますぞ。050それに引替(ひきか)へ鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)は、051顔色(がんしよく)少(すこ)しも変(かは)らせ玉(たま)はず余裕(よゆう)綽々(しやくしやく)として存(そん)し、052英雄(えいゆう)の態度(たいど)を崩(くづ)さずに居(を)られます。053……何卒(なにとぞ)鬼春別(おにはるわけ)様(さま)、054一兵卒(いつぺいそつ)の末輩(はし)でも構(かま)ひませぬ。055何卒(どうぞ)貴方(あなた)の直轄(ちよくかつ)に使(つか)つて頂(いただ)き度(た)いもので厶(ござ)います』
056鬼春別(おにはるわけ)『又(また)後(のち)ほど久米彦(くめひこ)殿(どの)とトツクリ協議(けふぎ)を致(いた)し、057その意見(いけん)を承(うけたま)はつた上(うへ)、058久米彦(くめひこ)殿(どの)に異議(いぎ)がなければ、059拙者(せつしや)の部下(ぶか)と致(いた)すであらう』
060スパール『私(わたくし)が愚考(ぐかう)する所(ところ)によれば、061此(この)争(あらそ)ひはここに厶(ござ)るヒルナ姫(ひめ)、062カルナ姫(ひめ)の争奪戦(さうだつせん)だと考(かんが)へますが、063ヒルナ姫(ひめ)様(さま)は拙者(せつしや)が途上(とじやう)にてお助(たす)け申(まを)し鬼春別(おにはるわけ)様(さま)に奉(たてまつ)つたもので厶(ござ)いますれば、064別(べつ)に争(あらそ)ひは厶(ござ)いますまい。065又(また)カルナ姫(ひめ)はエミシがお助(たす)け申(まを)し、066久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)に奉(たてまつ)つたものなれば、067初(はじ)めからきまりきつた話(はなし)で厶(ござ)いまする。068どうか両将軍(りやうしやうぐん)とも如何(いか)なる御(ご)意見(いけん)の衝突(しようとつ)か知(し)りませぬが、069天(てん)から与(あた)へられた此(この)ナイス、070さうなさつたら如何(どう)ですか』
071 鬼春別(おにはるわけ)はニコニコとし乍(なが)ら、
072鬼春別(おにはるわけ)『如何(いか)にも、073スパールの申(まを)す通(とほ)り、074さう致(いた)せば問題(もんだい)はないのだ。075久米彦(くめひこ)殿(どの)、076如何(いかが)で厶(ござ)る。077之(これ)に異存(いぞん)は厶(ござ)らうまいがな』
078久米彦(くめひこ)『はい、079是非(ぜひ)に及(およ)びませぬ。080然(しか)らばカルナにて辛抱(しんばう)致(いた)しませう。081当座(たうざ)の鼻塞(はなふさ)ぎに』
082と云(い)ふのを聞(き)いてカルナ姫(ひめ)は故意(わざ)とに柳眉(りうび)を逆立(さかだ)て、
083カルナ姫(ひめ)『これ、084久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)、085妾(わらは)は一人前(いちにんまへ)の女(をんな)、086当座(たうざ)の鼻塞(はなふさ)ぎだとか、087カルナ姫(ひめ)でも……とか、088左様(さやう)な条件(でうけん)のもとには身(み)を任(まか)す事(こと)は出来(でき)ませぬ。089貴方(あなた)はラブ・イズ・ベストと云(い)ふ事(こと)を御存(ごぞん)じのないお方(かた)と見(み)えまする。090心(こころ)の多(おほ)い、091女(をんな)を玩弄物(ぐわんろうぶつ)扱(あつか)ひになさる悪性(あくしやう)男(をとこ)の性質(せいしつ)を遺憾(ゐかん)なく暴露(ばくろ)遊(あそ)ばしたぢやありませぬか。092貴方(あなた)は萍草(うきぐさ)の様(やう)な、093フィランダラーで厶(ござ)いますな。094妾(わらは)の方(はう)からキツパリお断(ことわ)りを申(まを)し、095フオーム・ウエーゼン・デヤ・リーベを弁(わきま)へた鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)の仮令(たとへ)下女(げぢよ)になりとも使(つか)つて頂(いただ)く考(かんが)へで厶(ござ)います。096何卒(どうぞ)これ迄(まで)の御縁(ごえん)と諦(あきら)めて下(くだ)さいませ。097左様(さやう)な無情(むじやう)なお方(かた)に身(み)を任(まか)すよりも、098妾(わらは)は寧(むし)ろセリバシー生活(せいくわつ)を営(いとな)む方(はう)が何程(なにほど)楽(たのし)いか知(し)れませぬ。099貴方(あなた)の恋愛(れんあい)は所謂(いはゆる)虚偽(きよぎ)の恋愛(れんあい)です』
100と手厳(てきび)しく刎(は)ねつけられ、101又(また)もや久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は柄(つか)に手(て)をかけ憤然(ふんぜん)として、102カルナ姫(ひめ)を一刀(いつたう)の下(もと)に斬(き)りつけむとした。103此(この)様子(やうす)を見(み)るよりエミシは久米彦(くめひこ)の手(て)をグツと握(にぎ)り、
104エミシ『将軍殿(しやうぐんどの)、105相手(あひて)は女(をんな)で厶(ござ)るぞ。106チツトおたしなみなさい』
107 久米彦(くめひこ)は『ウーン』と気(き)の乗(の)らぬ返事(へんじ)をして椅子(いす)に腰(こし)をおろした。
108カルナ姫(ひめ)『ホホホホホ、109あのまア男(をとこ)らしうもない、110見(み)さげ果(は)てたる久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)、111繊弱(かよわ)き女(をんな)一人(ひとり)を相手(あひて)に刃(やいば)を抜(ぬ)かうとなさる其(その)卑怯(ひけふ)さ、112未練(みれん)さ、113妾(わらは)はゾツコン嫌(いや)になつてしまひました。114ホホホホホ、115もし鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)、116下女(げぢよ)になつと使(つか)つて下(くだ)さいと申(まを)したのは表向(おもてむ)き、117何卒(どうぞ)妾(わらは)を宿(やど)の妻(つま)としてイターナルに愛(あい)して下(くだ)さいませ』
118 鬼春別(おにはるわけ)は色男(いろをとこ)気取(きどり)になり、
119鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、120ても扨(さ)ても可愛(かあい)いものだな。121然(しか)し乍(なが)ら拙者(せつしや)にはヒルナ姫(ひめ)と云(い)ふ尤物(いうぶつ)が已(すで)に予約済(よやくずみ)なれば、122折角(せつかく)の願(ねがひ)なれどもお断(ことわ)り申(まを)すより道(みち)はない。123ヒルナ姫(ひめ)の許(ゆる)しさへあれば、124其方(そなた)も第二(だいに)夫人(ふじん)として連(つ)れてやらぬ事(こと)もないがな』
125と云(い)ひ乍(なが)ら、126ヒルナ姫(ひめ)の顔(かほ)を一寸(ちよつと)覗(のぞ)いた。127ヒルナ姫(ひめ)は故意(わざ)と柳眉(りうび)を逆立(さかだ)て声(こゑ)を尖(とが)らし、
128ヒルナ姫(ひめ)『これ将軍(しやうぐん)様(さま)、129貴方(あなた)は何(なん)とした薄情(はくじやう)なお方(かた)です。130妾(わらは)に仰有(おつしや)つた事(こと)は皆(みな)虚偽(きよぎ)で厶(ござ)いましたな。131貴方(あなた)の性質(せいしつ)はアマンジヤクだから甲(かふ)の女(をんな)にも乙(おつ)の女(をんな)にも手(て)をおかけ遊(あそ)ばすのでせう。132真(しん)の恋愛(れんあい)は一人(いちにん)対(たい)一人(いちにん)のもので厶(ござ)いますよ。133斯(か)う見(み)えても妾(わらは)は決(けつ)して娼婦(しやうふ)ぢや厶(ござ)いませぬから、134カニパニズムの様(やう)な醜行(しうかう)は御免(ごめん)蒙(かうむ)りまする。135貴方(あなた)は婦人(ふじん)に対(たい)し沈痛(ちんつう)なる侮辱(ぶじよく)を加(くは)へましたね』
136鬼春別(おにはるわけ)『ア、137いやいや、138さう怒(おこ)つて貰(もら)つちや堪(たま)らない。139あれはホンの冗談(じようだん)だよ。140お前(まへ)の側(そば)であの様(やう)な事(こと)が云(い)へるか、141よく考(かんが)へて見(み)よ。142流石(さすが)は女(をんな)だな』
143ヒルナ姫(ひめ)『仮(かり)にも三軍(さんぐん)を指揮(しき)する御(おん)身(み)を以(もつ)て冗談(じようだん)を仰有(おつしや)ると云(い)ふ事(こと)がありますか。144左様(さやう)な御(ご)戯談(ぜうだん)を仰有(おつしや)ると軍隊(ぐんたい)のコンテネンスが保(たも)たれますまい。145どうして部下(ぶか)をコントロールする事(こと)が出来(でき)ませうか。146よくお考(かんが)へなさいませ。147妾(わらは)は仮(かり)にも将軍(しやうぐん)様(さま)と夫婦(ふうふ)にならうと言挙(ことあ)げ致(いた)しました上(うへ)は将軍(しやうぐん)様(さま)に対(たい)し、148十分(じふぶん)の御(ご)注意(ちうい)を申上(まをしあ)げる権能(けんのう)が具備(ぐび)して居(を)りますよ』
149鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、150賢明(けんめい)なるヒルナ姫(ひめ)の諫言(かんげん)により、151いやもう鬼春別(おにはるわけ)、152目(め)が覚(さ)めた様(やう)だ。153何(なん)と其方(そなた)は悧巧(りかう)な女(をんな)だな』
154ヒルナ姫(ひめ)『カルナを貴方(あなた)は如何(どう)してもお使(つか)ひなさるお考(かんが)へですか』
155鬼春別(おにはるわけ)『さうだ。156頼(たの)まれた以上(いじやう)は無下(むげ)に断(ことわ)る訳(わけ)にも行(ゆ)くまい。157下女(げぢよ)になつと使(つか)つてやらうかな。158其方(そなた)も腰元(こしもと)がなければ不便(ふべん)だらうからな』
159ヒルナ姫(ひめ)『将軍(しやうぐん)様(さま)、160腰元(こしもと)なんか要(い)りませぬ。161下女(げぢよ)の仕事(しごと)も皆(みな)妾(わらは)が致(いた)します。162女(をんな)と云(い)つたら牝猫(めんねこ)一匹(いつぴき)でもお側(そば)へ置(お)きなさつたら此(この)ヒルナが承知(しようち)致(いた)しませぬぞや』
163鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、164何(なん)と嫉妬深(しつとぶか)い女(をんな)だな。165女(をんな)は嫉妬(しつと)に大事(だいじ)を洩(も)らすとやら。166チツトは心得(こころえ)たが宜(よ)からうぞや。167嫉妬(しつと)程(ほど)女(をんな)の徳(とく)を傷(きず)つけるものはないからのう』
168ヒルナ姫(ひめ)『嫉妬(しつと)のない様(やう)な夫婦(ふうふ)関係(くわんけい)ならば真正(しんせい)の愛(あい)では厶(ござ)いませぬ。169嫉妬(しつと)せない女(をんな)は屹度(きつと)外(ほか)に何(なに)かがあるのですよ。170三角(さんかく)生活(せいくわつ)を営(いとな)んでゐる不貞腐(ふてくさ)れのやる事(こと)です。171嫉妬(しつと)は恋愛(れんあい)の神聖(しんせい)を表(あら)はすものです』
172鬼春別(おにはるわけ)『アハハハハ、173お面(めん)、174お小手(こて)、175お胴(どう)、176お突(つき)、177と手厳(てきび)しく打込(うちこ)まれては如何(いか)なる英雄(えいゆう)も退却(たいきやく)せざるを得(え)ないわ。178何(なん)と好男子(かうだんし)に生(うま)れて来(く)ると気(き)の揉(も)めるものだな。179エヘヘヘヘ』
180カルナ姫(ひめ)『鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)、181貴方(あなた)が何(なん)と仰有(おつしや)いましても妾(わらは)はお後(あと)を慕(した)ひます。182何卒(どうぞ)お妾(めかけ)でも宜(よろ)しいから使(つか)つて下(くだ)さいませ』
183ヒルナ姫(ひめ)『これカルナさま、184お前(まへ)さま、185それ丈(だ)け鬼春別(おにはるわけ)様(さま)にラブしてゐるならば主人(しゆじん)の妾(わらは)が貴女(あなた)の恋(こひ)を横取(よこど)りしたと云(い)はれては片腹痛(かたはらいた)いから、186何卒(どうぞ)鬼春別(おにはるわけ)様(さま)の正妻(せいさい)になつて下(くだ)さい。187妾(わらは)は寧(むし)ろ久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)の正妻(せいさい)にして頂(いただ)きまする』
188と両人(りやうにん)が交互(たがひちがひ)に腹(はら)を合(あは)せて両将軍(りやうしやうぐん)を操(あやつ)る腕(うで)の凄(すご)さ。189両将軍(りやうしやうぐん)は恋(こひ)の虜(とりこ)となり了(をは)り眼(まなこ)を血走(ちばし)らしてナイスの争奪戦(さうだつせん)に固唾(かたづ)を呑(の)んでゐる。190久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は侍女(じぢよ)のカルナ姫(ひめ)に迄(まで)肱鉄(ひぢてつ)を噛(か)まされ、191男(をとこ)をさげ自棄(やけ)気味(ぎみ)になつてゐた所(ところ)へ、192ヒルナ姫(ひめ)が久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)の正妻(せいさい)にして頂(いただ)きませうと云(い)つた言葉(ことば)に、193百万(ひやくまん)の援軍(ゑんぐん)を得(え)た様(やう)な強味(つよみ)を感(かん)じ、194直(ただち)に得意(とくい)の色(いろ)を満面(まんめん)に漲(みなぎ)らし、
195久米彦(くめひこ)『エツヘヘヘヘ、196ヒルナ姫殿(ひめどの)、197拙者(せつしや)も将軍(しやうぐん)の一人(ひとり)、198所望(しよまう)とならば御(ご)請求(せいきう)に応(おう)じませう。199人(ひと)には添(そ)うて見(み)よ、200馬(うま)には乗(の)つて見(み)よと云(い)ふ諺(ことわざ)も厶(ござ)れば、201鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)の如(ごと)き箒木(はうき)さまに身(み)を任(まか)すよりも、202何程(なにほど)貴方(あなた)は幸福(かうふく)かも知(し)れませぬぞ』
203ヒルナ姫(ひめ)『はい、204有難(ありがた)う厶(ござ)います。205さう願(ねが)へれば誠(まこと)に幸福(かうふく)で厶(ござ)います。206マリド・ラブの真味(しんみ)は、207互(たがひ)に意気(いき)の疎通(そつう)した間柄(あひだがら)でなくては、208完全(くわんぜん)と云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬからね』
209 鬼春別(おにはるわけ)はヒルナ姫(ひめ)の形勢(けいせい)が何(なん)となく変(へん)になつたので又(また)もや顔(かほ)を顰(しか)め出(だ)した。210カルナ姫(ひめ)は故意(わざ)とに怒(おこ)つた様(やう)な顔(かほ)をして、
211カルナ姫(ひめ)『もし、212ヒルナ様(さま)、213貴女(あなた)は主人(しゆじん)だと云(い)つても妾(わらは)のラブを横領(わうりやう)する事(こと)は出来(でき)ますまい。214妾(わらは)は久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)にあの様(やう)な事(こと)を申(まを)しましたのは決(けつ)して真(しん)から云(い)つたのぢや厶(ござ)いませぬ。215一寸(ちよつと)悋気(りんき)をして拗(すね)て見(み)たのですよ。216もし将軍(しやうぐん)様(さま)、217妾(わらは)と貴方(あなた)は先約(せんやく)が厶(ござ)いますから、218何卒(どうぞ)ヒルナさまの様(やう)な方(かた)に相手(あひて)にならない様(やう)にして下(くだ)さいませ』
219 久米彦(くめひこ)は二人(ふたり)の女(をんな)に揶揄(からかは)れてゐるのを恋(こひ)に逆上(のぼ)せた目(め)からは少(すこ)しも気付(きづ)かず、220得意(とくい)になつて、
221久米彦(くめひこ)『ヘツヘヘヘヘ、222アーア、223困(こま)つた事(こと)だ。224……此方(こちら)立(た)てれば彼方(あちら)が立(た)たぬ、225彼方(あちら)立(た)てれば此方(こちら)が立(た)たぬ、226両方(りやうはう)立(た)つれば身(み)が立(た)たぬ。227……好男子(かうだんし)と云(い)ふものは辛(つら)いものだなあ。228もし鬼春別(おにはるわけ)殿(どの)、229お粗末(そまつ)乍(なが)ら、230一旦(いつたん)約束(やくそく)を覆行(りかう)し、231拙者(せつしや)の妻(つま)とカルナをした上(うへ)、232お古(ふる)を閣下(かくか)に進上(しんじやう)しませうから霊相応(みたまさうおう)と喜(よろこ)んでお受(う)け召(め)され。233エヘヘヘヘ、234之(これ)も全(まつた)く上官(じやうくわん)に対(たい)する拙者(せつしや)の懇切(こんせつ)と申(まを)すもの、235よもや不足(ふそく)は厶(ござ)るまいな』
236 鬼春別(おにはるわけ)は閻魔(えんま)が煙草(たばこ)の脂(ず)を飲(の)んだ様(やう)な顔(かほ)して、237巨眼(きよがん)を瞠(みひら)き、238身慄(みぶる)ひし乍(なが)ら、239剣(つるぎ)の柄(つか)に手(て)をかけ、240顔(かほ)を真赤(まつか)に染(そ)めて殺気(さつき)を漲(みなぎ)らしてゐる。
241ヒルナ姫(ひめ)『久米彦(くめひこ)さま、242自惚(うぬぼれ)もいい加減(かげん)になさいませ。243貴方(あなた)は腰元(こしもと)のカルナで結構(けつこう)ですよ、244妾(わらは)も一寸(ちよつと)鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)様(さま)の恋愛(れんあい)の程度(ていど)を試(ため)す為(ため)に斯様(かやう)の事(こと)を申(まを)しました。245決(けつ)して心中(しんちう)より、246誰(たれ)が貴方(あなた)の様(やう)なお方(かた)に秋波(しうは)を送(おく)りませうか。247お生憎(あいにく)様(さま)、248チツと御(ご)面相(めんさう)と御(ご)相談(さうだん)なさいませ。249ねえ鬼春別(おにはるわけ)様(さま)、250貴方(あなた)と久米彦(くめひこ)様(さま)とを比(くら)ぶれば月(つき)と鼈(すつぽん)、251雲(くも)と泥(どろ)と位(ぐらゐ)、252其(その)人格(じんかく)が違(ちが)つてゐますわね』
253 鬼春別(おにはるわけ)は忽(たちま)ち顔(かほ)の紐(ひも)を解(と)き、254ニコニコ顔(がほ)に変(かは)つて了(しま)つた。255両将軍(りやうしやうぐん)の面相(めんさう)は二人(ふたり)の女(をんな)に自由(じいう)自在(じざい)に翻弄(ほんろう)されて秋(あき)の空(そら)の如(ごと)く忽(たちま)ち晴(はれ)となり、256忽(たちま)ち時雨(しぐれ)となり、257その変転(へんてん)の速(すみや)かさ、258恰(あだか)も走馬灯(そうまとう)を見(み)る様(やう)であつた。
259鬼春別(おにはるわけ)『おい、260ヒルナ姫(ひめ)、261随分(ずいぶん)其方(そなた)も人(ひと)が悪(わる)いぢやないか。262当時(たうじ)の教育(けういく)を受(う)けた女(をんな)は到底(たうてい)一筋縄(ひとすぢなは)や二筋縄(ふたすぢなは)ではおへないと聞(き)いてはゐたが、263実(じつ)に感心(かんしん)なものだな』
264ヒルナ姫(ひめ)『ホホホホホ、265今時(いまどき)の女(をんな)は、266こんな事(こと)は宵(よひ)の口(くち)で厶(ござ)います。267妾(わらは)は高竹寺(かうちくじ)女学校(ぢよがくかう)に於(おい)ても最(もつと)も品行(ひんかう)方正(はうせい)と謳(うた)はれた淑女(しゆくぢよ)で厶(ござ)いますよ。268嘘(うそ)と思召(おぼしめ)すならば学校(がくかう)へ行(い)つて妾(わらは)のメモアルを調(しら)べて来(き)て下(くだ)さいませ。269行状録(ぎやうじやうろく)には……品行(ひんかう)方正(はうせい)にして優美(いうび)なり、270柔順(じうじゆん)にして克(よ)く友(とも)を愛(あい)し、271人(ひと)と親(した)しみ、272智慧(ちゑ)晃々(くわうくわう)として日月(じつげつ)の如(ごと)く輝(かがや)き渡(わた)り、273目(め)は玲瓏(れいろう)玉(たま)の如(ごと)く、274瞳孔(どうこう)より一種(いつしゆ)人(ひと)を圧(あつ)するの光(ひかり)を放(はな)ち、275色(いろ)飽迄(あくまで)白(しろ)く、276耳(みみ)尋常(じんじやう)に、277鼻(はな)は顔(かほ)の中央(まんなか)に正(ただ)しく位置(ゐち)を保(たも)ち、278紅(くれなゐ)の唇(くちびる)、279瑪瑙(めなう)の歯並(はなみ)、280背(せ)は高(たか)からず低(ひく)からず、281皮膚(ひふ)軟(やは)らかく肉体(にくたい)の曲線美(きよくせんび)は天下(てんか)にその比(ひ)を見(み)ざるべし……とキツパリ記(しる)してありますよ。282ホホホホホ』
283鬼春別(おにはるわけ)『そら、284さうだらう。285教育者(けういくしや)も偉(えら)いものだな。286よく調(しら)べてゐるワイ。287いや、288もう何(なに)も弁解(べんかい)は要(い)らぬ、289百聞(ひやくぶん)は一見(いつけん)に如(し)かずだ。290実物(じつぶつ)を見(み)た以上(いじやう)は何(なん)にも文句(もんく)はない。291いざ之(これ)より其方(そなた)と将来(しやうらい)の相談(さうだん)を致(いた)さう。292久米彦(くめひこ)殿(どの)、293ここは拙者(せつしや)の事務室(じむしつ)、294どうか貴方(あなた)の室(しつ)へお帰(かへ)り下(くだ)さい』
295カルナ姫(ひめ)『最(もつと)も愛(あい)する久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)、296さア帰(かへ)りませう。297何程(なにほど)ヒルナ様(さま)が妾(わらは)の主人(しゆじん)だつて、298容貌(きれう)が佳(よ)いといつても、299あまり羨(うらや)むには及(およ)びませぬ。300本当(ほんたう)の心(こころ)と心(こころ)との夫婦(ふうふ)でなければ駄目(だめ)ですからね』
301としなだれかかる。302久米彦(くめひこ)は、
303久米彦(くめひこ)『ウン、304よし、305そんなら帰(かへ)らう』
306カルナ姫(ひめ)『さアおじや』
307と睦(むつま)じげに手(て)を洩(ひ)いて吾(わが)事務室(じむしつ)に帰(かへ)り行(ゆ)く。308スパール、309エミシの二人(ふたり)は逸早(いちはや)く軍務(ぐんむ)監督(かんとく)の為(た)めに、310此(この)悶錯(もんさく)の一段落(いちだんらく)を告(つ)げたのを見(み)て出(い)でて行(ゆ)く。
311(大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於竜宮館 北村隆光録)
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