霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 女(をんな)の力(ちから)〔一三七七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻 篇:第2篇 貞烈亀鑑 よみ(新仮名遣い):ていれつきかん
章:第14章 女の力 よみ(新仮名遣い):おんなのちから 通し章番号:1377
口述日:1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所:教主殿 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年3月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
久米彦は、最初はカルナ姫がヒルナ姫の侍女ということで劣ったように思って鬼春別と争ったが、こういう経緯があって二人で自室に戻って話してみると、カルナ姫はどう劣っているようにも見えず、魅力のとりことなってしまった。
カルナ姫は久米彦を口説いて、平和の世を作るためのバラモン軍なら、戦が収まった以上は、捕虜にしたビク国の王や重臣たちを解放するべきだと吹き込んだ。
久米彦はカルナ姫の容色と弁舌に巻き込まれて、何事もカルナ姫の言とあれば利害得失を考えずに喜んで聴き従うようになってしまっていた。久米彦は、鬼春別にかけあって捕虜を解放することを約束した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-04-24 13:04:45 文字数:4902 OBC :rm5314
愛善世界社版:157頁 八幡書店版:第9輯 561頁 修補版: 校定版:163頁 普及版:79頁 初版: ページ備考:
001 久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は、002不性(ふしよう)不精(ぶしよう)ながらもカルナ姫(ひめ)を吾(わが)事務室(じむしつ)に引入(ひきい)れ、003葡萄酒(ぶだうしゆ)を出(だ)して互(たがひ)につぎ交(かは)し、004軍旅(ぐんりよ)の憂(う)さを慰(なぐさ)めて居(ゐ)る。005総(すべ)て陣中(ぢんちう)は女(をんな)の影(かげ)無(な)きをもつて、006如何(いか)なるお多福(かめ)と雖(いへど)も、007女(をんな)と云(い)へば軍人(ぐんじん)は喉(のど)を鳴(な)らし、008唯一(ゆゐいつ)の慰安(ゐあん)として尊重(そんちよう)するものである。009久米彦(くめひこ)はヒルナ姫(ひめ)と見較(みくら)べてこのカルナがどこともなく劣(おと)つて居(を)るやうに思(おも)ひ、010何(なん)だか鬼春別(おにはるわけ)に負(ひけ)を取(と)つたやうな心持(こころもち)がして、011女(をんな)の争奪(さうだつ)に抜剣(ばつけん)迄(まで)して大騒(おほさわ)ぎをやつて居(ゐ)たが、012事務室(じむしつ)に帰(かへ)つて来(き)て二人(ふたり)差向(さしむか)ひ、013互(たがひ)に意見(いけん)を語(かた)り合(あ)つて見(み)ると、014贔屓(ひいき)か知(し)らねども別(べつ)にヒルナ姫(ひめ)と何処(どこ)が一(ひと)つ劣(おと)つたやうにも見(み)えない、015否(いな)却(かへつ)て優(やさし)みがあり品格(ひんかく)が備(そな)はり、016どこともなく優(すぐ)れて居(ゐ)るやうに思(おも)はれて来(き)た。017久米彦(くめひこ)は現(うつつ)になつて穴(あな)のあく程(ほど)カルナの優(やさ)しき顔(かほ)を凝視(みつ)め笑壺(ゑつぼ)に入(い)つて居(ゐ)る。
018カルナ姫(ひめ)『もし将軍(しやうぐん)様(さま)、019不思議(ふしぎ)な御縁(ごえん)で貴方(あなた)のお傍(そば)にお仕(つか)へするようになりましたのは、020全(まつた)く神(かみ)様(さま)のお引(ひ)き合(あは)せで厶(ござ)いませうねえ』
021久米彦(くめひこ)『ウン、022さうだなア、023お前(まへ)のやうな愛(あい)らしいナイスとこんな関係(くわんけい)になるとは、024遉(さすが)の俺(おれ)も夢(ゆめ)にも思(おも)はなかつたよ。025実(じつ)にお前(まへ)は平和(へいわ)の女神(めがみ)だ、026唯一(ゆゐいつ)の慰安者(ゐあんしや)だ。027否々(いないな)唯一(ゆゐいつ)の救世主(きうせいしゆ)だ。028益良雄(ますらを)の心(こころ)を生(い)かし輝(かがや)かし、029英雄(えいゆう)をして益々(ますます)英雄(えいゆう)ならしむるものは、030矢張(やつぱり)女性(ぢよせい)の力(ちから)だ』
031カルナ姫(ひめ)『何(なん)と云(い)つても女(をんな)は気(き)の弱(よわ)いもので厶(ござ)います。032どうしても男(をとこ)には隷属(れいぞく)すべきものですなア。033何程(なにほど)恋愛(れんあい)神聖論(しんせいろん)をまくし立(た)てて居(を)つても、034男(をとこ)の力(ちから)にはやつぱり女(をんな)は一歩(いつぽ)を譲(ゆづ)らなくてはなりませぬわ。035併(しか)し乍(なが)ら女(をんな)は男子(だんし)に服従(ふくじゆう)すべきものだと云(い)つても程度(ていど)の問題(もんだい)で厶(ござ)いまして、036理想(りさう)の合(あ)はない男(をとこ)に添(そ)ふのは生涯(しやうがい)の不幸(ふかう)で厶(ござ)いますからな、037どうかして自分(じぶん)の意志(いし)とピツタリ合(あ)つた男(をとこ)と添(そ)ひたいものと、038現代(げんだい)の女(をんな)は挙(こぞ)つて希望(きばう)致(いた)して居(を)ります』
039久米彦(くめひこ)『如何(いか)にも其方(そなた)の云(い)ふ通(とほ)りだ。040男(をとこ)のデヴアイン・イドムは女(をんな)のデヴアイン・ラブに和合(わがふ)し、041女(をんな)の聖愛(せいあい)は男(をとこ)の聖智(せいち)と和合(わがふ)した夫婦(ふうふ)でなければ、042真(しん)の夫婦(ふうふ)とは云(い)へないものだ』
043カルナ姫(ひめ)『左様(さやう)で厶(ござ)います。044意志(いし)投合(とうがふ)した夫婦(ふうふ)位(くらゐ)世(よ)の中(なか)に愉快(ゆくわい)なものは厶(ござ)いませぬなア。045時(とき)に将軍(しやうぐん)様(さま)は戦争(せんそう)がお好(す)きで厶(ござ)いますか』
046久米彦(くめひこ)『イヤ戦争(せんそう)の如(ごと)き殺伐(さつばつ)なものは心(こころ)の底(そこ)から好(す)かないのだ』
047カルナ姫(ひめ)『それならお尋(たづ)ね致(いた)しますが、048将軍(しやうぐん)様(さま)は何故(なぜ)心(こころ)にない軍人(ぐんじん)におなり遊(あそ)ばしたので厶(ござ)います。049其(その)点(てん)が妾(わらは)には些(ちつ)とも合点(がてん)が参(まゐ)りませぬわ』
050久米彦(くめひこ)『イヤ実(じつ)は拙者(せつしや)もバラモン教(けう)の宣伝(せんでん)将軍(しやうぐん)で、051神(かみ)の仁慈(じんじ)の教(をしへ)を説(と)くものだ。052此(この)度(たび)大黒主(おほくろぬし)様(さま)の命令(めいれい)によつて、053止(や)むを得(え)ず出陣(しゆつぢん)致(いた)したのだ。054実(じつ)に軍人(ぐんじん)なんぞはつまらないものだよ』
055カルナ姫(ひめ)『貴方(あなた)は今(いま)宣伝使(せんでんし)だつたと仰(おほ)せられましたねえ』
056久米彦(くめひこ)『ウン其(その)通(とほ)りだ』
057カルナ姫(ひめ)『それなら貴方(あなた)は人(ひと)を助(たす)けるのをもつて唯一(ゆゐいつ)の天職(てんしよく)と遊(あそ)ばすのでせうねえ』
058久米彦(くめひこ)『それや其(その)通(とほ)りだ。059斯(か)うして戦争(せんそう)を致(いた)すのも決(けつ)して民(たみ)を苦(くる)しむるためではない、060天国(てんごく)浄土(じやうど)を地上(ちじやう)に建設(けんせつ)せむためだ』
061カルナ姫(ひめ)『それでも貴方(あなた)の率(ひき)ゆる軍隊(ぐんたい)は民家(みんか)を焼(や)き人(ひと)を殺戮(さつりく)し、062ビクトリヤ城(じやう)迄(まで)も滅(ほろぼ)し、063王(わう)様(さま)を虜(とりこ)となさつたではありませぬか。064ミロクの世(よ)を建設(けんせつ)する所(どころ)か、065妾(わらは)の浅(あさ)き考(かんが)へより見(み)れば貴方(あなた)は破壊者(はくわいしや)としか見(み)えませぬがなア』
066久米彦(くめひこ)『アハハハ、067建設(けんせつ)のための破壊(はくわい)だ。068破壊(はくわい)のための破壊(はくわい)ではない。069そこをよく考(かんが)へねば英雄(えいゆう)の心事(しんじ)は分(わか)らないよ』
070カルナ姫(ひめ)『貴方(あなた)のお言葉(ことば)が果(はた)して真(しん)ならば、071ビクトリヤ城(じやう)を一旦(いつたん)破壊(はくわい)されたる上(うへ)は又(また)建設(けんせつ)なさるのでせうなア』
072久米彦(くめひこ)『尤(もつと)もだ、073直様(すぐさま)建設(けんせつ)を試(こころ)み、074国民(こくみん)を塗炭(とたん)の苦(くる)しみより救(すく)ひ、075至治(しち)泰平(たいへい)の世(よ)を来(き)たす考(かんが)へだ』
076カルナ姫(ひめ)『そんなら貴方(あなた)は、077ビクトリヤ城(じやう)の刹帝利(せつていり)や従臣(じうしん)などを捕虜(ほりよ)になさつたさうですが、078戦(たたか)ひが治(をさ)まつた以上(いじやう)は屹度(きつと)解放(かいはう)なさるでせうなア』
079久米彦(くめひこ)『勿論(もちろん)の事(こと)だ。080併(しか)し乍(なが)ら刹帝利(せつていり)其(その)他(ほか)の従臣(じゆうしん)を生(い)かして置(お)けば、081又(また)もや何時(いつ)復讐戦(ふくしうせん)を致(いた)すやら知(し)れないから、082気(き)の毒(どく)乍(なが)ら王(わう)を遠島(ゑんたう)に送(おく)るか、083末代(まつだい)牢獄(らうごく)に放(ほ)り込(こ)むか致(いた)さねばなるまい、084これも天下(てんか)万民(ばんみん)の為(ため)だ』
085 カルナ姫(ひめ)はハツと驚(おどろ)いたやうな振(ふ)りをしてウンと仰向(あふむ)けに倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。086久米彦(くめひこ)は驚(おどろ)いて抱(だ)き起(おこ)し顔(かほ)に水(みづ)を注(そそ)いだり、087耳許(みみもと)に口(くち)をよせて、088オーイ オーイと呼(よ)びかけて居(ゐ)る。089カルナ姫(ひめ)は故意(わざ)と息(いき)の止(と)まつて居(ゐ)るやうな振(ふり)を装(よそほ)ひ、090暫(しばら)くして目(め)を開(ひら)き四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し乍(なが)ら、
091カルナ姫(ひめ)『アア偉(えら)い夢(ゆめ)を見(み)て居(を)りました。092貴方(あなた)は久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)様(さま)、093ようマア無事(ぶじ)で居(ゐ)て下(くだ)さいました。094妾(わらは)は本当(ほんたう)に怖(こは)い夢(ゆめ)を見(み)たのですよ』
095 久米彦(くめひこ)はこの言葉(ことば)が何(なん)だか気(き)にかかり、096言葉(ことば)急(せ)はしくカルナに向(むか)ひ、
097久米彦(くめひこ)『ああカルナ姫(ひめ)、098お前(まへ)は気絶(きぜつ)して居(ゐ)たのだよ。099まアまア結構(けつこう)々々(けつこう)、100併(しか)し乍(なが)ら怖(こは)い夢(ゆめ)を見(み)たとはどんな夢(ゆめ)だつた、101一(ひと)つ聞(き)かして呉(く)れないか』
102カルナ姫(ひめ)『ハイ、103申上(まをしあ)げ度(た)きは山々(やまやま)なれど、104夢(ゆめ)の事(こと)で厶(ござ)いますから、105お気(き)を悪(わる)くしてはなりませぬから、106これ計(ばか)りは申上(まをしあ)げますまい』
107久米彦(くめひこ)『これカルナ姫(ひめ)、108さうじらすものではない。109何(なん)でも構(かま)はないから云(い)つて見(み)よ』
110カルナ姫(ひめ)『キツトお気(き)にさへて下(くだ)さいますなや、111夢(ゆめ)で厶(ござ)いますからな』
112久米彦(くめひこ)『エエどうしてどうして夢(ゆめ)なんかを気(き)にさへるやうな馬鹿(ばか)があるか、113早(はや)く云(い)つて見(み)よ』
114カルナ姫(ひめ)『そんなら申上(まをしあ)げます、115妾(わらは)が気絶(きぜつ)致(いた)しましてから随分(ずいぶん)時間(じかん)が経(た)つたでせうなア』
116久米彦(くめひこ)『何(なに)、117今(いま)お前(まへ)が卒倒(そつたう)したので直様(すぐさま)、118水(みづ)をかけて介抱(かいほう)したのだ。119先(ま)づ二分(にふん)か三(さん)分間(ぷんかん)位(くらゐ)のものだよ』
120カルナ姫(ひめ)『そんな道理(だうり)は厶(ござ)いますまい、121妾(わらは)は少(すくな)くとも、122五六(ごろく)時間(じかん)はかかつたやうに思(おも)ひます』
123久米彦(くめひこ)『それやお前(まへ)、124気絶(きぜつ)してお前(まへ)の精霊(せいれい)が霊界(れいかい)に行(い)つたのだらう。125霊界(れいかい)は想念(さうねん)の世界(せかい)だから、126延長(えんちやう)の作用(さよう)によつて五六(ごろく)時間(じかん)だつたと思(おも)うたのだらう。127実際(じつさい)は二三(にさん)分間(ぷんかん)だ。128サア早(はや)う云(い)つて見(み)やれ』
129カルナ姫(ひめ)『妾(わらは)は何処(どこ)ともなく雑草(ざつさう)の原野(げんや)を唯(ただ)一人(ひとり)トボトボ参(まゐ)りました。130さうすると天(あめ)の八衢(やちまた)と云(い)ふ関所(せきしよ)が厶(ござ)いまして、131そこには白(しろ)い顔(かほ)をした守衛(しゆゑい)と、132赤(あか)い顔(かほ)をした守衛(しゆゑい)とが厳然(げんぜん)として目(め)を光(ひか)らして居(を)りました。133そこへ不思議(ふしぎ)な事(こと)には鬼春別(おにはるわけ)様(さま)、134貴方(あなた)様(さま)の御(ご)両人(りやうにん)が軍服(ぐんぷく)厳(いか)めしくお越(こ)しになり、135八衢(やちまた)の門(もん)を潜(くぐ)らうとなさつた時(とき)に、136赤(あか)の守衛(しゆゑい)は「暫(しばら)く待(ま)て」と呼止(よびと)めました。137さうすると両将軍(りやうしやうぐん)は立(た)ち止(ど)まり、138「拙者(せつしや)はバラモン軍(ぐん)の統率者(とうそつしや)、139鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)だ、140久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)だ」と、141夫(それ)は夫(それ)は偉(えら)い元気(げんき)で仰(おほ)せになりました。142さうする中(うち)に牛頭(ごづ)馬頭(めづ)の沢山(たくさん)の冥官(めいくわん)が現(あら)はれ来(きた)り、143貴方(あなた)方(がた)を高手(たかて)小手(こて)に縛(いまし)め一々(いちいち)罪悪(ざいあく)の調(しらべ)を致(いた)しました。144妾(わらは)は其(その)傍(そば)で慄(ふる)ひ慄(ふる)ひ聞(き)いて居(ゐ)ると、145先(ま)づ貴方(あなた)様(さま)から訊問(じんもん)が始(はじ)まりました。146貴方(あなた)も随分(ずいぶん)女(をんな)を弄(もてあそ)びなさいましたなア。147さうして斎苑(いそ)の館(やかた)へ進軍(しんぐん)なさつた事(こと)や、148ビクトリヤ王(わう)を軍隊(ぐんたい)を向(む)けて捕虜(ほりよ)となし苦(くるし)めたことや、149数多(あまた)の従臣(じゆうしん)を縛(しば)り上(あ)げ苦(くる)しめた事(こと)や、150民家(みんか)を焼(や)き、151且(か)つ人(ひと)を殺(ころ)しなさつた事(こと)が調(しら)べ上(あ)げられましたよ。152貴方(あなた)は一々(いちいち)「其(その)通(とほ)りで厶(ござ)います」と、153大地(だいち)に頭(かしら)を下(さ)げ詫(わ)び入(い)つて居(を)られました。154怖(おそ)ろしい顔(かほ)をした冥官(めいくわん)は、155節(ふし)だらけの鞭(むち)をもつて頭部(とうぶ)、156面部(めんぶ)、157臀部(でんぶ)の嫌(きら)ひなく、158打(う)ち据(す)ゑます、159貴方(あなた)は、160悲鳴(ひめい)をあげて叫(さけ)んで居(を)られます。161それはそれは何(なん)とも云(い)はれない惨酷(むごたらし)い目(め)に遇(あ)はされて居(ゐ)ましたよ。162それから衡(はかり)にかけられ、163愈(いよいよ)地獄行(ぢごくゆき)と定(きま)つた時(とき)の貴方(あなた)の失望(しつばう)したお顔(かほ)、164私(わたし)は見(み)るも御(お)気(き)の毒(どく)に存(ぞん)じました。165さうすると白(しろ)の守衛(しゆゑい)が仲(なか)に入(はい)つて、166「この男(をとこ)は今(いま)迄(まで)罪悪(ざいあく)を犯(おか)して来(き)たけれど、167肉体(にくたい)はまだ現界(げんかい)に居(ゐ)るのだから、168今(いま)地獄(ぢごく)に堕(おと)す訳(わけ)には往(ゆ)かぬ。169命数(めいすう)つきて霊界(れいかい)に来(く)るまで待(ま)つがよい」との事(こと)で厶(ござ)いました。170そこで貴方(あなた)は非常(ひじやう)に冥官(めいかん)に向(むか)つてお詫(わび)なさいました。171そして其(その)条件(でうけん)は「ビクトリヤ王(わう)をお助(たす)け申(まを)し、172其(その)他(た)の従臣(じゆうしん)を解放(かいはう)し、173刹帝利(せつていり)様(さま)を元(もと)の王位(わうゐ)に据(す)ゑ、174自分(じぶん)はビクトリヤ王(わう)の忠良(ちうりやう)なる臣下(しんか)として仕(つか)へますから」と仰有(おつしや)いましたら、175冥官(めいくわん)は忽(たちま)ち顔(かほ)を柔(やはら)げ、176「汝(なんぢ)果(はた)して改心(かいしん)致(いた)すならば、177今度(こんど)来(く)る時(とき)地獄往(ぢごくゆ)きを赦(ゆる)して、178花(はな)咲(さ)き実(みの)る天国(てんごく)に遣(つか)はす程(ほど)に、179もしこの約(やく)に背(そむ)いたならば剣(つるぎ)の地獄(ぢごく)に落(おと)すぞよ」と、180夫(それ)は夫(それ)は厳(きび)しい云(い)ひ渡(わた)しで厶(ござ)いました。181私(わたし)は身(み)も世(よ)もあられぬ思(おも)ひで慄(ふる)ひ戦(をのの)いて居(ゐ)ると、182どこともなしに貴方(あなた)の声(こゑ)が遠(とほ)い遠(とほ)い方(はう)から聞(きこ)えて来(き)たと思(おも)つたら目(め)が醒(さ)めました。183やつぱり夢(ゆめ)で厶(ござ)いました。184何(なん)と不思議(ふしぎ)な夢(ゆめ)では厶(ござ)いませぬか』
185久米彦(くめひこ)『何(なん)と不思議(ふしぎ)な事(こと)を云(い)ふぢやないか、186自分(じぶん)の精霊(せいれい)は何時(いつ)の間(ま)にか八衢(やちまた)に往(い)つて居(ゐ)たと見(み)える。187いやそれが事実(じじつ)かも知(し)れない、188困(こま)つた事(こと)ぢやなア』
189カルナ姫(ひめ)『どうぞ気(き)にして下(くだ)さいますな、190夢(ゆめ)の事(こと)で厶(ござ)いますからな、191併(しか)しあんな事(こと)が本当(ほんたう)なら最愛(さいあい)の夫(をつと)の身(み)の上(うへ)、192悲(かな)しい事(こと)で厶(ござ)います』
193と目(め)に袖(そで)を当(あ)て差俯向(さしうつむ)いて泣(な)き出(だ)した。194久米彦(くめひこ)は双手(もろて)を組(く)み深(ふか)い息(いき)を洩(も)らし思案(しあん)に暮(く)れて居(ゐ)る。195カルナは心中(しんちう)に仕(し)済(す)ましたりと喜(よろこ)びながら左(さ)あらぬ態(てい)に、
196カルナ姫(ひめ)『もし将軍(しやうぐん)様(さま)、197貴方(あなた)は大層(たいそう)お顔(かほ)の色(いろ)が悪(わる)くなつたぢや厶(ござ)いませぬか、198妾(わらは)の夢(ゆめ)の中(なか)で見(み)たお顔(かほ)とそつくりで厶(ござ)います。199仕様(しやう)もない夢(ゆめ)の事(こと)を申上(まをしあげ)まして、200御(ご)気分(きぶん)を悪(わる)くしてどうも相済(あひす)みませぬ。201お許(ゆる)し下(くだ)さいませ』
202と又(また)もや泣声(なきごゑ)になる。
203久米彦(くめひこ)『イヤ俺(おれ)も些(ちつ)と考(かんが)へなくちやならぬ。204お前(まへ)の夢(ゆめ)はきつと正夢(まさゆめ)だ。205あまり勢(いきほひ)に乗(じやう)じて、206部下(ぶか)の奴(やつ)が余(あま)り乱暴(らんばう)をやり過(す)ぎたと見(み)える。207併(しか)し部下(ぶか)の罪悪(ざいあく)は将軍(しやうぐん)の責任(せきにん)だ。208罪(つみ)は将軍(しやうぐん)が負(お)はねばならぬ。209困(こま)つた事(こと)ぢやなア』
210 カルナはどこ迄(まで)も気(き)を引(ひ)くつもりで、
211カルナ姫(ひめ)『もし将軍(しやうぐん)様(さま)、212貴方(あなた)は堂々(だうだう)たる三軍(さんぐん)の指揮者(しきしや)、213かやうな夢問題(ゆめもんだい)に御(ご)心配(しんぱい)なさるには及(およ)びますまい、214将軍(しやうぐん)は職責(しよくせき)として或(ある)場合(ばあひ)には民家(みんか)を焼(や)き、215人(ひと)を殺(ころ)し、216城(しろ)を屠(ほふ)るのは止(や)むを得(え)ないぢや厶(ござ)いませぬか。217こんな事(こと)に心配(しんぱい)しておいでなさつては、218将軍(しやうぐん)として役目(やくめ)が勤(つと)まりますまい』
219久米彦(くめひこ)『お前(まへ)は夢(ゆめ)を見(み)てから俄(にはか)に鼻息(はないき)が荒(あら)くなつたぢやないか、220妙(めう)だなア。221俺(おれ)はお前(まへ)の話(はなし)を聞(き)いて俄(にはか)に未来(みらい)が怖(おそ)ろしくなつた。222これや一(ひと)つ考(かんが)へねばなるまい、223併(しか)し乍(なが)ら吾(わが)頭(あたま)の上(うへ)には鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)が控(ひか)へて居(ゐ)る。224何程(なにほど)久米彦(くめひこ)が善(ぜん)に立(た)ちかへり、225刹帝利(せつていり)を助(たす)けむと致(いた)しても、226上官(じやうくわん)が首(くび)を横(よこ)に振(ふ)つたが最後(さいご)、227到底(たうてい)駄目(だめ)だ。228ああ引(ひ)くに引(ひ)かれぬ板挟(いたばさ)みとなつた。229どうしたら此(この)解決(かいけつ)がつくだらうかなア』
230と又(また)もや思案(しあん)に沈(しづ)む。
231カルナ姫(ひめ)『貴方(あなた)さう御(ご)心配(しんぱい)には及(およ)ばぬぢや厶(ござ)いませぬか、232御(ご)決心(けつしん)さへ定(き)まればその位(くらゐ)の事(こと)は何(なん)でも厶(ござ)いますまい。233鬼春別(おにはるわけ)様(さま)は妾(わらは)の主人(しゆじん)を妻(つま)に持(も)つて居(を)られますから、234妾(わらは)よりヒルナ様(さま)に申上(まをしあ)げ、235ヒルナ様(さま)より将軍(しやうぐん)様(さま)に申上(まをしあ)げるようにすれば、236比較(ひかく)的(てき)この問題(もんだい)は解決(かいけつ)が早(はや)いでせう。237それより外(ほか)方法(はうはふ)は厶(ござ)いますまいなア』
238と心配(しんぱい)さうに故意(わざ)と首(くび)を傾(かたむ)ける。
239久米彦(くめひこ)『遉(さすが)はカルナ姫(ひめ)だ。240よい所(ところ)に気(き)がついた。241そんならこの問題(もんだい)は其方(そなた)に一任(いちにん)する事(こと)にしようかなア。242併(しか)し乍(なが)ら拙者(せつしや)は鬼春別(おにはるわけ)将軍(しやうぐん)と何処(どこ)ともなしに意志(いし)が疎隔(そかく)して居(を)る最中(さいちう)だから、243何程(なにほど)ヒルナ様(さま)の諫言(かんげん)と雖(いへど)も容易(ようい)に聞(き)くまい。244ああ心配(しんぱい)な事(こと)が出来(でき)て来(き)たものだなア』
245 カルナは久米彦(くめひこ)の顔(かほ)を見(み)て、246稍(やや)嬉(うれ)し気(げ)に打笑(うちわら)ひ、
247カルナ姫(ひめ)『アア貴方(あなた)のお顔(かほ)は俄(にはか)に輝(かがや)いて来(き)ました。248何(なん)とまアよいお顔(かほ)だこと、249やつぱり貴方(あなた)の霊(みたま)に光(ひかり)が顕(あらは)れて来(き)たので厶(ござ)いますなア。250人間(にんげん)の顔(かほ)は心(こころ)の索引(さくいん)だと云(い)ひますから、251心(こころ)に悪心(あくしん)あれば悪相(あくさう)を生(しやう)じ、252善心(ぜんしん)あれば、253善美(ぜんび)の相(さう)を現(げん)ずるものだと聞(き)きましたが、254今(いま)貴方(あなた)のお顔(かほ)の変相(へんさう)によつて、255的確(てきかく)に聖哲(せいてつ)の言葉(ことば)を認識(にんしき)致(いた)しました。256ああ益々(ますます)麗(うるは)しきお顔(かほ)になられますよ。257ああどうして妾(わらは)はかかる尊(たふと)い美(うつく)しい夫(をつと)に添(そ)うたのだらうか、258盤古(ばんこ)神王(しんのう)様(さま)、259大自在天(だいじざいてん)様(さま)、260有難(ありがた)う存(ぞん)じます。261何卒(なにとぞ)妾(わらは)等(ら)夫婦(ふうふ)を貴神(あなた)の鎮(しづ)まります高天原(たかあまはら)に、262霊肉(れいにく)共(とも)にお助(たす)け下(くだ)さいまして、263現世(げんせ)も未来(みらい)も、264久米彦(くめひこ)様(さま)と睦(むつま)じく暮(くら)せますやう偏(ひとへ)にお願(ねが)ひ申上(まをしあ)げます』
265と誠(まこと)しやかに祈願(きぐわん)する。266久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)はすつかりカルナ姫(ひめ)の容色(ようしよく)と弁舌(べんぜつ)に巻込(まきこ)まれ、267最早(もはや)何事(なにごと)もカルナ姫(ひめ)の言(げん)とあれば、268利害(りがい)得失(とくしつ)を考(かんが)へず、269正邪(せいじや)の区別(くべつ)も弁(わきま)へず、270喜(よろこ)んで聴従(ちやうじう)するやうになつて来(き)た。271実(じつ)に女(をんな)の魔力(まりよく)と云(い)ふものは怖(おそ)るべきものである。272武骨(ぶこつ)一片(いつぺん)のバラモンの名将軍(めいしやうぐん)も、273美人(びじん)の一瞥(いちべつ)に会(あ)つては実(じつ)に一耐(ひとたま)りもなく参(まゐ)つて仕舞(しま)うたのである。274ああ男子(だんし)たるものは心(こころ)を潜(ひそ)めて、275女(をんな)に注意(ちうい)せなくてはならぬものである。276女(をんな)は俗(ぞく)に魔物(まもの)と云(い)ふ、277金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)をただ片頬(かたほほ)の靨(ゑくぼ)に覆(くつが)へし、278柳(やなぎ)の眉(まゆ)、279鈴(すず)の眼(まなこ)に田畑(たはた)を呑(の)み、280家倉(いへくら)を跳(は)ね飛(と)ばし、281男(をとこ)の命(いのち)を取(と)り、282さしもに威儀(ゐぎ)堂々(だうだう)たる将軍(しやうぐん)を初(はじ)め、283数千(すうせん)の軍隊(ぐんたい)の必死(ひつし)の努力(どりよく)も、284容易(ようい)にメチヤメチヤに壊(こは)すものである。285世(よ)の青年(せいねん)諸氏(しよし)よ、286敬愛(けいあい)なる大本(おほもと)の信徒(しんと)よ、287此(この)物語(ものがたり)を読(よ)んでよく顧(かへり)み、288虚偽(きよぎ)的(てき)恋愛(れんあい)に身心(しんしん)を蘯(とろ)かし、289一生(いつしやう)を誤(あやま)る事(こと)なきやう注意(ちうい)されむ事(こと)を望(のぞ)む次第(しだい)である。290ああ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)。
291(大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於教主殿 加藤明子録)
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