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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第53巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 毘丘取颪
第1章 春菜草
第2章 蜉蝣
第3章 軟文学
第4章 蜜語
第5章 愛縁
第6章 気縁
第7章 比翼
第8章 連理
第9章 蛙の腸
第2篇 貞烈亀鑑
第10章 女丈夫
第11章 艶兵
第12章 鬼の恋
第13章 醜嵐
第14章 女の力
第15章 白熱化
第3篇 兵権執着
第16章 暗示
第17章 奉還状
第18章 八当狸
第19章 刺客
第4篇 神愛遍満
第20章 背進
第21章 軍議
第22章 天祐
第23章 純潔
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第53巻(辰の巻)
> 第2篇 貞烈亀鑑 > 第12章 鬼の恋
<<< 艶兵
(B)
(N)
醜嵐 >>>
第一二章
鬼
(
おに
)
の
恋
(
こひ
)
〔一三七五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
篇:
第2篇 貞烈亀鑑
よみ(新仮名遣い):
ていれつきかん
章:
第12章 鬼の恋
よみ(新仮名遣い):
おにのこい
通し章番号:
1375
口述日:
1923(大正12)年02月13日(旧12月28日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼春別は剣のつかを握って久米彦を叱責した。久米彦は、女を追い出せと言うなら辞職する、と売り言葉に買い言葉になった。
カルナ姫は、久米彦が軍籍にいるから自分は気に入ったのだが、辞職するなら鬼春別に仕えることにする、と発言した。鬼春別も、久米彦が辞職したら自分が一人で軍隊を統率しなければならなくなるから、利発なカルナ姫を副将軍にそればいい、と勝手な理屈をひねって、カルナ姫を自分のものにしようと野心を起こしだした。
久米彦はあわてて、行きがかり上そう言っただけで辞職するつもりはない、と言い改めた。鬼春別はむっとして、自分は上官の権利で久米彦を免職し、カルナ姫を副将軍にすると言い張った。
二人がにらみ合っていると、鬼春別の副官・スパールが一人の美人を連れて鬼春別に献上しに来た。女の顔を見ると、カルナ姫に勝る美人である。これはヒルナ姫が、やはりカルナ姫と同じ作戦でわざとバラモン軍に捕らえられたのであった。
鬼春別はこれを見て久米彦との矛を収め、ヒルナ姫を自分のテントに連れてこさせた。ヒルナ姫はわざと隣のテントに聞こえるように、自分はビク国の豪農の娘で、カルナ姫は侍女だということを歌ってきかせた。
鬼春別がヒルナ姫とのろけていると、久米彦がやってきた。久米彦は、カルナ姫がヒルナ姫の侍女だと聞いて、ヒルナ姫が鬼春別の妻となったら、自分はその侍女をめとったというkとおが面白くなく、談判に来たのであった。
ヒルナ姫はバラモン軍を内部から瓦解させようとという作戦だから、久米彦にも秋波を送り、気を持たせた。
ついに鬼春別と久米彦は言い争いになり、互いに刀を抜いて切り合いを始めた。様子を聞いて驚いたカルナ姫が鬼春別のテントに飛んできたが、ハルナ姫は目で合図をした。二人はわざと、恐そうにテントの隅で震えている。
副官たちはテントに戻ってくると二人の将軍が刀を抜いて切り合いをしているので驚いて中に割って入り、二人をいさめた。鬼春別と久米彦は潮時と剣をさやにおさめて腰を下ろした。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-09 17:14:34
OBC :
rm5312
愛善世界社版:
123頁
八幡書店版:
第9輯 548頁
修補版:
校定版:
128頁
普及版:
62頁
初版:
ページ備考:
001
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
厳然
(
げんぜん
)
として
姿勢
(
しせい
)
を
整
(
ととの
)
へ、
002
佩剣
(
はいけん
)
の
柄
(
つか
)
を
左手
(
ゆんで
)
に
握
(
にぎ
)
り、
003
蠑螈
(
いもり
)
が
立上
(
たちあが
)
つたやうなスタイルで、
004
鬼春別
『
久米彦
(
くめひこ
)
殿
(
どの
)
、
005
陣中
(
ぢんちう
)
に
女
(
をんな
)
を
引入
(
ひきい
)
れる
事
(
こと
)
は、
006
軍律
(
ぐんりつ
)
の
上
(
うへ
)
から
見
(
み
)
ても
許
(
ゆる
)
す
可
(
べか
)
らざる
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
007
何故
(
なにゆゑ
)
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
美人
(
びじん
)
を
陣中
(
ぢんちう
)
に
引
(
ひき
)
よせ、
008
軍務
(
ぐんむ
)
を
忘
(
わす
)
れ、
009
狂態
(
きやうたい
)
を
演
(
えん
)
じらるるか』
010
久米彦
(
くめひこ
)
『ハイ、
011
拙者
(
せつしや
)
が
軍律
(
ぐんりつ
)
に
反
(
そむ
)
き、
012
女
(
をんな
)
を
引入
(
ひきい
)
れたと
云
(
い
)
つてお
咎
(
とが
)
めになるならば、
013
是非
(
ぜひ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
014
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
責任
(
せきにん
)
を
帯
(
お
)
びて
辞職
(
じしよく
)
を
仕
(
つかまつ
)
ります』
015
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
に
今
(
いま
)
辞職
(
じしよく
)
されては
大変
(
たいへん
)
だと
心
(
こころ
)
に
驚
(
おどろ
)
き
乍
(
なが
)
らも、
016
平然
(
へいぜん
)
として、
017
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
貴殿
(
きでん
)
が
辞職
(
じしよく
)
が
望
(
のぞ
)
みとあらば、
018
辞職
(
じしよく
)
を
許
(
ゆる
)
してもやらう、
019
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
こんにち
)
は
許
(
ゆる
)
す
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りなりませぬ。
020
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
追出
(
おひだ
)
しめされ』
021
久米彦
(
くめひこ
)
『
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
追出
(
おひだ
)
す
位
(
くらゐ
)
ならば、
022
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りお
暇
(
ひま
)
を
頂
(
いただ
)
きませう』
023
カルナ
姫
(
ひめ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
葛藤
(
かつとう
)
を
起
(
おこ
)
さしめ、
024
バラモン
軍
(
ぐん
)
を
根底
(
こんてい
)
から
攪乱
(
かくらん
)
するは
此
(
この
)
時
(
とき
)
と、
025
心中
(
しんちう
)
に
画策
(
くわくさく
)
を
定
(
さだ
)
め、
026
カルナ
姫
(
ひめ
)
『これはこれは、
027
勇壮
(
ゆうさう
)
な
活溌
(
くわつぱつ
)
な、
028
凛々
(
りり
)
しき
男
(
をとこ
)
らしき、
029
最
(
もつとも
)
敬愛
(
けいあい
)
する、
030
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
き
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
、
031
其
(
その
)
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
は
日月
(
じつげつ
)
の
如
(
ごと
)
き
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
032
初
(
はじ
)
めて
御
(
お
)
目
(
め
)
にかかりまする。
033
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
陣中
(
ぢんちう
)
に
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
事
(
こと
)
は、
034
軍律
(
ぐんりつ
)
上
(
じやう
)
不都合
(
ふつがふ
)
かは
存
(
ぞん
)
じませぬが、
035
妾
(
わらは
)
は
決
(
けつ
)
して
自
(
みづか
)
ら
望
(
のぞ
)
んで
陣中
(
ぢんちう
)
を
御
(
ご
)
訪問
(
はうもん
)
申
(
まを
)
したのでは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
036
ビクトル
山
(
さん
)
の
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
せむと、
037
一人
(
ひとり
)
のお
友達
(
ともだち
)
と
共
(
とも
)
に
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
しも、
038
貴方
(
あなた
)
の
部下
(
ぶか
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
039
路傍
(
ろばう
)
に
蹴
(
け
)
り
倒
(
たふ
)
され、
040
目
(
め
)
を
眩
(
ま
)
かしてゐました。
041
実
(
じつ
)
に
無残
(
むざん
)
な
武士
(
ぶし
)
もあるもので
厶
(
ござ
)
います。
042
そこへエミシ、
043
マルタの
士官
(
しくわん
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
通
(
とほ
)
り
遊
(
あそ
)
ばし、
044
妾
(
わらは
)
を
助
(
たす
)
けて
此処
(
ここ
)
へ
送
(
おく
)
り
届
(
とどけ
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
045
其
(
その
)
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
は
決
(
けつ
)
して
忘
(
わす
)
れは
致
(
いた
)
しませぬ。
046
之
(
これ
)
も
全
(
まつた
)
く
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
日頃
(
ひごろ
)
の
御
(
ご
)
訓練
(
くんれん
)
と
御
(
ご
)
統率
(
とうそつ
)
の
宜
(
よろ
)
しきを
得
(
え
)
たるが
為
(
ため
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
047
妾
(
わらは
)
が
救
(
すく
)
はれましたのは、
048
全
(
まつた
)
く
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
御
(
ご
)
余光
(
よくわう
)
と
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
049
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
仁慈
(
じんじ
)
の
御心
(
みこころ
)
を
以
(
もつ
)
て、
050
此
(
この
)
陣営
(
ぢんえい
)
に
静養
(
せいやう
)
さして
下
(
くだ
)
さいますれば、
051
お
肩
(
かた
)
も
揉
(
も
)
みまするし、
052
御飯
(
ごはん
)
も
焚
(
た
)
かして
貰
(
もら
)
ひます。
053
如何
(
いか
)
に
軍律
(
ぐんりつ
)
厳
(
きび
)
しき
陣中
(
ぢんちう
)
なればとて、
054
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
遊
(
あそ
)
ばす
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
に、
055
女
(
をんな
)
がなくては
不都合
(
ふつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
056
一兵卒
(
いつぺいそつ
)
ならばいざ
知
(
し
)
らず、
057
苟
(
いやしく
)
も
尊貴
(
そんき
)
の
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て、
058
仮令
(
たとへ
)
軍中
(
ぐんちう
)
とはいへ
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
とは
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
います』
059
鬼春別
(
おにはるわけ
)
はカルナ
姫
(
ひめ
)
の
阿諛
(
あゆ
)
諂侫
(
てんねい
)
の
言葉
(
ことば
)
を
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
けて、
060
俄
(
にはか
)
に
態度
(
たいど
)
を
一変
(
いつぺん
)
し、
061
閻魔顔
(
えんまがほ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
地蔵顔
(
ぢざうがほ
)
と
変
(
へん
)
じて
了
(
しま
)
つた。
062
そして
言葉
(
ことば
)
やさしく、
063
カルナに
向
(
むか
)
ひ、
064
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
065
其方
(
そなた
)
の
云
(
い
)
はるる
通
(
とほ
)
りだ。
066
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
辞職
(
じしよく
)
を
致
(
いた
)
すと
云
(
い
)
ふなり、
067
さすれば
拙者
(
せつしや
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
068
此
(
この
)
軍隊
(
ぐんたい
)
を
統率
(
とうそつ
)
するには、
069
最
(
もつとも
)
不便
(
ふべん
)
を
感
(
かん
)
ずる
次第
(
しだい
)
だ。
070
其方
(
そなた
)
は
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
、
071
高等
(
かうとう
)
教育
(
けういく
)
を
受
(
う
)
けてる
様
(
やう
)
だから、
072
女
(
をんな
)
だつて
将軍
(
しやうぐん
)
が
勤
(
つと
)
まらない
筈
(
はず
)
はあるまい。
073
只今
(
ただいま
)
より
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
後
(
あと
)
を
襲
(
おそ
)
はしめ、
074
女将軍
(
ぢよしやうぐん
)
として
任
(
にん
)
ずるであらう。
075
伊邪那岐
(
いざなぎの
)
大神
(
おほかみ
)
は
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
戦
(
たたか
)
ひに、
076
松
(
まつ
)
竹
(
たけ
)
梅
(
うめ
)
の
女将軍
(
ぢよしやうぐん
)
を
使
(
つか
)
はし、
077
大勝利
(
だいしようり
)
を
得
(
え
)
られた
例
(
ため
)
しもある。
078
女房
(
にようばう
)
としておくのは
軍律
(
ぐんりつ
)
に
反
(
そむ
)
くかは
知
(
し
)
らねども、
079
将軍
(
しやうぐん
)
として
相並
(
あひなら
)
び
軍機
(
ぐんき
)
に
尽
(
つく
)
すは
軍律
(
ぐんりつ
)
違反
(
ゐはん
)
でもない』
080
と
勝手
(
かつて
)
な
理窟
(
りくつ
)
を
捻
(
ひね
)
り
出
(
だ
)
し、
081
カルナ
姫
(
ひめ
)
を
自分
(
じぶん
)
のものにせむと
早
(
はや
)
くも
野心
(
やしん
)
を
起
(
おこ
)
し
出
(
だ
)
した。
082
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
083
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
084
妾
(
わらは
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
が、
085
軍籍
(
ぐんせき
)
に
将軍
(
しやうぐん
)
としてゐられるのが
大変
(
たいへん
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りましたので、
086
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
仮情約
(
かりじやうやく
)
を
締結
(
ていけつ
)
致
(
いた
)
しましたなれど、
087
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
088
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
場合
(
ばあひ
)
に、
089
将軍職
(
しやうぐんしよく
)
を
辞
(
じ
)
するといふやうな
腰
(
こし
)
の
弱
(
よわ
)
いハイカラ
男子
(
だんし
)
にはホトホト
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きまして
厶
(
ござ
)
います。
090
何卒
(
なにとぞ
)
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
091
憐
(
あは
)
れな
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
いますから
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
可愛
(
かあい
)
がつて
頂
(
いただ
)
きたう
厶
(
ござ
)
います。
092
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
妾
(
わらは
)
はあらむ
限
(
かぎ
)
りのベストを
尽
(
つく
)
し、
093
其
(
その
)
任務
(
にんむ
)
を
恥
(
はづか
)
しめない
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
います』
094
久米彦
(
くめひこ
)
は
慌
(
あわて
)
てカルナ
姫
(
ひめ
)
の
口
(
くち
)
に
手
(
て
)
をあてる
様
(
やう
)
な
風
(
ふう
)
で、
095
久米彦
(
くめひこ
)
『イヤイヤ、
096
カルナ
殿
(
どの
)
、
097
決
(
けつ
)
して
拙者
(
せつしや
)
は
辞職
(
じしよく
)
は
致
(
いた
)
さぬ。
098
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なされ、
099
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
が
余
(
あま
)
り
拙者
(
せつしや
)
の
恋愛
(
れんあい
)
を
干渉
(
かんせう
)
なさるものだから、
100
つひ
言
(
い
)
ひ
上
(
あが
)
りになつて、
101
辞職
(
じしよく
)
を
致
(
いた
)
すと
申
(
まを
)
したのだよ。
102
ここ
迄
(
まで
)
捏
(
こ
)
ね
上
(
あ
)
げた
地位
(
ちゐ
)
を、
103
さうムザムザと
捨
(
す
)
てる
馬鹿者
(
ばかもの
)
があるか、
104
よう
考
(
かんが
)
へてみよ。
105
吾々
(
われわれ
)
の
自由
(
じいう
)
意志
(
いし
)
を
束縛
(
そくばく
)
し、
106
圧迫
(
あつぱく
)
せむとする
者
(
もの
)
あらば、
107
仮令
(
たとへ
)
上官
(
じやうくわん
)
と
雖
(
いへど
)
も
自己
(
じこ
)
保護
(
ほご
)
の
為
(
ため
)
に
切
(
き
)
り
捨
(
す
)
ててみせる。
108
マアマア
安心
(
あんしん
)
を
致
(
いた
)
すがよい、
109
かう
見
(
み
)
えても
拙者
(
せつしや
)
は
沈勇
(
ちんゆう
)
だ。
110
ハツハハハ』
111
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ああさうで
厶
(
ござ
)
いましたか、
112
それを
聞
(
き
)
いてヤツと
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しました、
113
然
(
しか
)
らば
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
たることを
予約
(
よやく
)
致
(
いた
)
しませう。
114
ねえ
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
』
115
鬼春別
(
おにはるわけ
)
はムツとした
顔
(
かほ
)
で
又
(
また
)
もや
怒
(
いか
)
り
出
(
だ
)
し、
116
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『いかに
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
が
軍職
(
ぐんしよく
)
に
止
(
とど
)
まらむと
致
(
いた
)
す
共
(
とも
)
、
117
総
(
そう
)
司令官
(
しれいくわん
)
たる
某
(
それがし
)
が
承諾
(
しようだく
)
致
(
いた
)
さぬ
限
(
かぎ
)
りは
駄目
(
だめ
)
だ。
118
一旦
(
いつたん
)
武士
(
ぶし
)
の
口
(
くち
)
から
辞職
(
じしよく
)
を
申出
(
まをしいで
)
た
以上
(
いじやう
)
は、
119
ヨモヤ
撤回
(
てつくわい
)
することは
出来
(
でき
)
まい、
120
それでは
男子
(
だんし
)
とは
申
(
まを
)
されぬ。
121
覆水
(
ふくすゐ
)
は
盆
(
ぼん
)
に
返
(
かへ
)
らず、
122
吐
(
は
)
いた
唾
(
つば
)
は
呑
(
の
)
めない
道理
(
だうり
)
、
123
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
断然
(
だんぜん
)
と
久米彦
(
くめひこ
)
が
職
(
しよく
)
を
解
(
と
)
き、
124
カルナ
姫
(
ひめ
)
を
以
(
もつ
)
て
副将軍
(
ふくしやうぐん
)
と
致
(
いた
)
すに
仍
(
よ
)
つて、
125
久米彦
(
くめひこ
)
殿
(
どの
)
、
126
剣
(
けん
)
を
投出
(
なげだ
)
し、
127
軍服
(
ぐんぷく
)
を
着替
(
きか
)
へて、
128
早々
(
さうさう
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
めされ』
129
久米彦
(
くめひこ
)
『これは
又
(
また
)
理不尽
(
りふじん
)
な、
130
何咎
(
なにとが
)
あつて、
131
大黒主
(
おほくろぬし
)
より
任命
(
にんめい
)
されたる
拙者
(
せつしや
)
の
将軍職
(
しやうぐんしよく
)
を
褫奪
(
ちだつ
)
せんとなさるるか、
132
チツとは
僣越
(
せんゑつ
)
で
厶
(
ござ
)
らうぞや。
133
そんな
乱暴
(
らんばう
)
な
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
には、
134
久米彦
(
くめひこ
)
断
(
だん
)
じて
服従
(
ふくじゆう
)
仕
(
つかまつ
)
りませぬ』
135
と
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし
抗弁
(
かうべん
)
した。
136
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
137
上官
(
じやうくわん
)
の
命令
(
めいれい
)
は
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命令
(
めいれい
)
だ。
138
グヅグヅ
言
(
い
)
はずに
退却
(
たいきやく
)
めされ。
139
カルナ
殿
(
どの
)
、
140
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
る。
141
拙者
(
せつしや
)
の
権威
(
けんゐ
)
は
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り、
142
仮令
(
たとへ
)
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
たり
共
(
とも
)
、
143
只
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
の
下
(
もと
)
に
左右
(
さいう
)
する
権能
(
けんのう
)
があるのだからなア、
144
ワツハハハハ』
145
カルナ
姫
(
ひめ
)
『
成程
(
なるほど
)
貴方
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
好
(
この
)
もしい
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
146
私
(
わたし
)
、
147
貴方
(
あなた
)
になれば
命
(
いのち
)
まで
差上
(
さしあ
)
げます、
148
本当
(
ほんたう
)
に
凛々
(
りり
)
しい
威厳
(
ゐげん
)
の
備
(
そな
)
はつた、
149
絶対
(
ぜつたい
)
無限
(
むげん
)
の
権力者
(
けんりよくしや
)
で
厶
(
ござ
)
いますな』
150
久米彦
(
くめひこ
)
は
形勢
(
けいせい
)
益々
(
ますます
)
不良
(
ふりやう
)
と
見
(
み
)
て、
151
焼糞
(
やけくそ
)
になり
鬼春別
(
おにはるわけ
)
を
睨
(
ねめ
)
つけ、
152
刀
(
かたな
)
の
柄
(
つか
)
に
手
(
て
)
をかけて、
153
只
(
ただ
)
一打
(
ひとうち
)
に
斬
(
き
)
り
倒
(
たふ
)
し、
154
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
155
自分
(
じぶん
)
が
総
(
そう
)
指揮官
(
しきくわん
)
とならむかと
決心
(
けつしん
)
して、
156
隙
(
すき
)
を
狙
(
ねら
)
つてゐる。
157
鬼春別
(
おにはるわけ
)
も
久米彦
(
くめひこ
)
の
様子
(
やうす
)
の
只
(
ただ
)
ならざるに
心
(
こころ
)
を
許
(
ゆる
)
さず、
158
寄
(
よ
)
らば
斬
(
き
)
らむと
柄
(
つか
)
に
手
(
て
)
をかけ、
159
互
(
たがひ
)
に
阿吽
(
あうん
)
の
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らして、
160
山門
(
さんもん
)
の
仁王
(
にわう
)
の
如
(
ごと
)
くつつ
立
(
た
)
つてゐる。
161
カルナは
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て、
162
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホ、
163
何
(
なん
)
とマア
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
様
(
さま
)
の
凛々
(
りり
)
しいお
姿
(
すがた
)
、
164
どちらを
見
(
み
)
ても、
165
花
(
はな
)
あやめ、
166
甲
(
かふ
)
を
取
(
と
)
らうか、
167
乙
(
おつ
)
を
取
(
と
)
らうか、
168
花
(
はな
)
と
花
(
はな
)
、
169
月
(
つき
)
と
月
(
つき
)
、
170
揃
(
そろ
)
ひも
揃
(
そろ
)
うた
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
だ
事
(
こと
)
、
171
あああ
体
(
からだ
)
が
二
(
ふた
)
つあつたなら、
172
一
(
ひと
)
つは
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
に
従
(
したが
)
ひ、
173
一
(
ひと
)
つは
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
に
仕
(
つか
)
へるのだに、
174
儘
(
まま
)
ならぬ
浮世
(
うきよ
)
だなア』
175
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
176
久米彦
(
くめひこ
)
はカルナの
美貌
(
びばう
)
にゾツコン
心
(
こころ
)
を
盪
(
とろ
)
かしてゐた。
177
カルナの
精神
(
せいしん
)
を
測
(
はか
)
りかね、
178
仁王立
(
にわうだち
)
になつた
儘
(
まま
)
、
179
眼
(
め
)
計
(
ばか
)
りキヨロつかせてゐる。
180
そこへワイワイとどよめき
乍
(
なが
)
ら
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
を
舁
(
か
)
いてやつて
来
(
き
)
たのは
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
副官
(
ふくくわん
)
スパールであつた。
181
スパール『モシ
鬼春別
(
おにはるわけ
)
様
(
さま
)
、
182
陣中
(
ぢんちう
)
に
於
(
おい
)
て
斯様
(
かやう
)
な
美人
(
びじん
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れました、
183
どうか
貴方
(
あなた
)
の
御用
(
ごよう
)
に
立
(
た
)
ちますればと
存
(
ぞん
)
じ、
184
ワザワザ
伴
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
りました。
185
城内
(
じやうない
)
の
戦
(
たたか
)
ひは
味方
(
みかた
)
の
大勝利
(
だいしようり
)
、
186
最早
(
もはや
)
後顧
(
こうこ
)
の
患
(
うれひ
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
187
何卒
(
どうぞ
)
此
(
この
)
女
(
をんな
)
をトツクリお
調
(
しら
)
べ
遊
(
あそ
)
ばして、
188
よきに
御
(
ご
)
処分
(
しよぶん
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
189
と
慇懃
(
いんぎん
)
に
述
(
の
)
べた。
190
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にハツとして、
191
女
(
をんな
)
の
面
(
つら
)
を
見
(
み
)
れば、
192
カルナ
姫
(
ひめ
)
に
優
(
まさ
)
る
数等
(
すうとう
)
の
美人
(
びじん
)
である。
193
そして
何
(
なん
)
とはなしに
気品
(
きひん
)
高
(
たか
)
く、
194
潤
(
うるほ
)
ひのある
黒
(
くろ
)
い
目
(
め
)
、
195
如何
(
いか
)
なる
男子
(
だんし
)
も
悩殺
(
なうさつ
)
する
程
(
てい
)
の
魅力
(
みりよく
)
が
備
(
そな
)
はつてゐた、
196
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
との
争
(
あらそ
)
ひをスツカリ
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
197
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『スパール、
198
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
愛
(
う
)
い
奴
(
やつ
)
だ、
199
ここは
久米彦
(
くめひこ
)
の
居間
(
ゐま
)
だ、
200
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
通
(
とほ
)
せ』
201
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
自分
(
じぶん
)
のテントに
帰
(
かへ
)
り、
202
胡座
(
あぐら
)
をかいてニコニコして
居
(
ゐ
)
る。
203
スパールは
美人
(
びじん
)
を
伴
(
とも
)
なひ、
204
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
前
(
まへ
)
に
手
(
て
)
を
仕
(
つか
)
へ、
205
スパール『
君
(
きみ
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
り、
206
城内
(
じやうない
)
を
指
(
さし
)
て
攻
(
せ
)
め
行
(
ゆ
)
く
折
(
をり
)
しも、
207
吾
(
わが
)
部下
(
ぶか
)
のシヤム、
208
某
(
それがし
)
が
計画
(
けいくわく
)
通
(
どほ
)
りよく
遵奉
(
じゆんぽう
)
して、
209
刹帝利
(
せつていり
)
を
始
(
はじ
)
め
左守司
(
さもりのかみ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
を
生捕
(
いけどり
)
に
致
(
いた
)
しました。
210
最早
(
もはや
)
戦
(
たたか
)
ひは
大勝利
(
だいしようり
)
、
211
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ。
212
然
(
しか
)
るに、
213
これなる
女
(
をんな
)
、
214
ビクトル
山
(
ざん
)
の
神王
(
しんわう
)
の
宮
(
みや
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
の
途中
(
とちう
)
、
215
癪気
(
しやくけ
)
を
起
(
おこ
)
し
路上
(
ろじやう
)
に
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
りました
故
(
ゆゑ
)
、
216
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げて
御前
(
ごぜん
)
へ
伴
(
ともな
)
ひ
参
(
まゐ
)
りました。
217
どうぞ
可愛
(
かあい
)
がつておやり
下
(
くだ
)
さいませ』
218
鬼春別
(
おにはるわけ
)
はニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
219
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『ウーン、
220
よく
伴
(
つ
)
れて
来
(
き
)
た、
221
褒美
(
はうび
)
は
後
(
あと
)
より
遣
(
つか
)
はす。
222
汝
(
なんぢ
)
は
之
(
これ
)
より
陣営
(
ぢんえい
)
に
向
(
むか
)
ひ、
223
十分
(
じふぶん
)
の
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つて、
224
違算
(
ゐさん
)
なき
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
すがよからう』
225
スパールは『ハイ』と
答
(
こた
)
へて、
226
後振返
(
あとふりかへ
)
り
振返
(
ふりかへ
)
り、
227
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く。
228
此
(
この
)
女
(
をんな
)
はヒルナ
姫
(
ひめ
)
である。
229
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『これはこれは
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
230
始
(
はじ
)
めてお
目
(
め
)
にかかりまする。
231
妾
(
わらは
)
はスパール
様
(
さま
)
の
仰
(
おほ
)
せの
如
(
ごと
)
く、
232
神王
(
しんわう
)
の
森
(
もり
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
の
途中
(
とちう
)
癪気
(
しやくけ
)
を
起
(
おこ
)
し、
233
命
(
いのち
)
危
(
あやふ
)
き
所
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けられた
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
います。
234
バラモンの
軍人
(
ぐんじん
)
といふものは
実
(
じつ
)
に
仁慈深
(
じんじぶか
)
い
方
(
かた
)
計
(
ばか
)
りですなア。
235
之
(
これ
)
も
全
(
まつた
)
く
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
訓練
(
くんれん
)
宜
(
よろ
)
しきの
致
(
いた
)
す
所
(
ところ
)
と
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
します。
236
要
(
えう
)
するに
妾
(
わらは
)
の
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さつたのは
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
います。
237
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
妾
(
わらは
)
の
為
(
ため
)
には
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
さま、
238
不束
(
ふつつか
)
な
者
(
もの
)
なれど、
239
どうぞ
何
(
なに
)
なりと
御用
(
ごよう
)
をさして
頂
(
いただ
)
ければ
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
240
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
241
ニコニコし
乍
(
なが
)
ら、
242
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『ウン、
243
ヨシヨシ、
244
汝
(
なんぢ
)
は
之
(
これ
)
から
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
仕
(
つか
)
へて、
245
某
(
それがし
)
が
顧問
(
こもん
)
となり、
246
内助
(
ないじよ
)
の
労
(
らう
)
を
執
(
と
)
つて
下
(
くだ
)
され』
247
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は、
248
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
249
と
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
手
(
て
)
をワザと
固
(
かた
)
く
握
(
にぎ
)
り、
250
鬚武者
(
ひげむしや
)
の
頬
(
ほほ
)
に、
251
白
(
しろ
)
き
柔
(
やはら
)
かき
頬
(
ほほ
)
をピタリとあてた。
252
鬼春別
(
おにはるわけ
)
はグデングデンになり、
253
背筋
(
せすぢ
)
の
骨
(
ほね
)
迄
(
まで
)
ぬかれたやうな
調子
(
てうし
)
で
姫
(
ひめ
)
の
膝
(
ひざ
)
を
枕
(
まくら
)
にし、
254
ゴロンと
横
(
よこ
)
たはり、
255
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
将軍
(
しやうぐん
)
は
256
神力
(
しんりき
)
無双
(
むさう
)
の
大勇士
(
だいゆうし
)
257
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
蒙
(
かうむ
)
りて
258
音
(
おと
)
に
名高
(
なだか
)
きエルサレム
259
黄金山
(
わうごんさん
)
へと
攻
(
せ
)
めのぼる
260
其
(
その
)
行
(
ゆき
)
がけの
副事業
(
ふくじげふ
)
261
ビクトリヤ
城
(
じやう
)
をば
占領
(
せんりやう
)
して
262
刹帝利
(
せつていり
)
始
(
はじ
)
め
其
(
その
)
后妃
(
きさき
)
263
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
264
百
(
もも
)
の
軍
(
いくさ
)
や
司人
(
つかさびと
)
265
皆
(
みな
)
悉
(
ことごと
)
く
斬
(
き
)
りなびけ
266
戦
(
いくさ
)
は
予定
(
よてい
)
の
大勝利
(
だいしようり
)
267
帷幕
(
ゐばく
)
の
中
(
うち
)
に
画策
(
くわくさく
)
を
268
めぐらしゐたる
折
(
をり
)
もあれ
269
木花姫
(
このはなひめ
)
か
棚機
(
たなばた
)
の
270
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
にまがふなる
271
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
の
美人
(
びじん
)
の
其方
(
そなた
)
272
媚
(
こ
)
びを
呈
(
てい
)
してやつて
来
(
く
)
る
273
仁義
(
じんぎ
)
の
軍
(
いくさ
)
に
敵
(
てき
)
はない
274
吾
(
わが
)
名声
(
めいせい
)
に
憬
(
あこが
)
れて
275
やつて
来
(
き
)
たのはバラモンの
276
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御
(
み
)
たまもの
277
ホンに
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
だなア
278
隣
(
となり
)
に
陣取
(
ぢんど
)
る
久米彦
(
くめひこ
)
は
279
カルナの
姫
(
ひめ
)
とか
云
(
い
)
ふナイス
280
側
(
そば
)
に
近付
(
ちかづ
)
け
脂
(
やに
)
さがり
281
現
(
うつつ
)
をぬかす
不態
(
ぶざま
)
さよ
282
軍律
(
ぐんりつ
)
厳
(
きび
)
しき
中
(
なか
)
なれど
283
女
(
をんな
)
に
目
(
め
)
のない
久米彦
(
くめひこ
)
は
284
ドン
栗眼
(
ぐりまなこ
)
を
細
(
ほそ
)
うして
285
此上
(
こよ
)
なき
者
(
もの
)
と
慈
(
いつくし
)
み
286
恥
(
はづか
)
しげもなくデレてゐる
287
カルナの
姫
(
ひめ
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
288
天
(
あめ
)
と
地
(
つち
)
との
相違
(
さうゐ
)
ある
289
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
のヒルナ
姫
(
ひめ
)
290
どこの
娘
(
むすめ
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
291
気品
(
きひん
)
の
高
(
たか
)
い
此
(
この
)
ナイス
292
鬼春別
(
おにはるわけ
)
が
枕辺
(
まくらべ
)
に
293
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
侍
(
はべ
)
らして
294
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
に
見
(
み
)
せたいものだ
295
ああ
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
296
男
(
をとこ
)
と
生
(
うま
)
れた
其
(
その
)
甲斐
(
かひ
)
にや
297
こんなナイスを
一夜
(
いちや
)
でも
298
宿
(
やど
)
の
妻
(
つま
)
よと
愛
(
あい
)
しつつ
299
楽
(
たの
)
しく
嬉
(
うれ
)
しく
此
(
この
)
世
(
よ
)
をば
300
渡
(
わた
)
つて
見
(
み
)
たいものだなア
301
アハハハハ、アハハハハ
302
コリヤコリヤ
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
よ
303
俺
(
おれ
)
の
腕前
(
うでまへ
)
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
304
女房
(
にようばう
)
の
容貌
(
きりやう
)
を
比
(
くら
)
べようか
305
霊相応
(
みたまさうおう
)
といふ
事
(
こと
)
は
306
ヤツパリこんな
時
(
とき
)
に
現
(
あら
)
はれる
307
烏
(
からす
)
は
烏
(
からす
)
鷺
(
さぎ
)
は
鷺
(
さぎ
)
308
権威
(
けんゐ
)
の
強
(
つよ
)
い
男
(
をとこ
)
には
309
格別
(
かくべつ
)
綺麗
(
きれい
)
な
女房
(
にようばう
)
がつき
添
(
そ
)
ふものだ
310
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
にウソはない
311
ホンに
愉快
(
ゆくわい
)
な
事
(
こと
)
だなア
312
ヒルナの
姫
(
ひめ
)
の
膝枕
(
ひざまくら
)
313
こんな
所
(
ところ
)
を
久米彦
(
くめひこ
)
が
314
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
たならさぞや
嘸
(
さぞ
)
315
妙
(
めう
)
な
面
(
つら
)
してさがるだろ
316
イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒ』
317
と
止
(
と
)
め
度
(
ど
)
もなく
涎
(
よだれ
)
を
流
(
なが
)
し、
318
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
小袖
(
こそで
)
を
通
(
とほ
)
して、
319
柔
(
やはら
)
かい
太腿
(
ふともも
)
をぬらした。
320
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は、
321
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『アレまあ、
322
何
(
なん
)
だか
温
(
あつ
)
たかいと
思
(
おも
)
つたら、
323
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
涎
(
よだれ
)
だわ、
324
ホホホホ』
325
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『オイ、
326
ヒルナ、
327
貴様
(
きさま
)
も
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
つたら
何
(
ど
)
うだ。
328
戦争
(
せんそう
)
も
大方
(
おほかた
)
カタがついたなり、
329
最早
(
もはや
)
殺伐
(
さつばつ
)
の
空気
(
くうき
)
も
一掃
(
いつさう
)
されるに
間
(
ま
)
もなからうから、
330
其方
(
そなた
)
と
楽
(
たの
)
しく
仮
(
かり
)
のホームを
造
(
つく
)
つて、
331
陣中
(
ぢんちう
)
の
花
(
はな
)
と
謡
(
うた
)
はれる
気
(
き
)
はないか』
332
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
333
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
334
不束
(
ふつつか
)
な
妾
(
わらは
)
、
335
どうぞ
可愛
(
かあい
)
がつてやつて
下
(
くだ
)
さいませ、
336
左様
(
さやう
)
ならば
不調法
(
ぶてうはふ
)
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
はして
頂
(
いただ
)
きませう』
337
と
鈴
(
すず
)
のやうな
声
(
こゑ
)
で、
338
隣
(
となり
)
の
久米彦
(
くめひこ
)
やカルナ
姫
(
ひめ
)
に
聞
(
きこ
)
えよがしに、
339
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
透
(
す
)
き
通
(
とほ
)
る
声
(
こゑ
)
で
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
340
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
私
(
わたし
)
の
生
(
うま
)
れはビクの
国
(
くに
)
341
キールの
里
(
さと
)
の
豪農
(
がうのう
)
で
342
骨姓
(
かばね
)
は
賤
(
いや
)
しき
首陀
(
しゆだ
)
の
家
(
いへ
)
343
数多
(
あまた
)
の
下僕
(
しもべ
)
にかしづかれ
344
今日
(
けふ
)
は
花見
(
はなみ
)
よ
明日
(
あす
)
は
又
(
また
)
345
月見
(
つきみ
)
の
酒
(
さけ
)
と
四方
(
よも
)
八方
(
やも
)
の
346
山野
(
さんや
)
に
遊
(
あそ
)
び
贅沢
(
ぜいたく
)
の
347
限
(
かぎ
)
りを
尽
(
つく
)
しゐたりしが
348
妾
(
わらは
)
の
侍女
(
ぢぢよ
)
のカルナ
姫
(
ひめ
)
349
引伴
(
ひきつ
)
れまして
神王
(
しんわう
)
の
350
森
(
もり
)
に
参拝
(
さんぱい
)
せむものと
351
スタスタ
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
352
殺風景
(
さつぷうけい
)
な
軍人
(
いくさびと
)
353
槍
(
やり
)
や
剣
(
つるぎ
)
を
抜
(
ぬ
)
きかざし
354
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
く
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
355
其
(
その
)
権幕
(
けんまく
)
の
恐
(
おそろ
)
しさ
356
身
(
み
)
を
逃
(
のが
)
れむといら
立
(
だ
)
ちて
357
侍女
(
じぢよ
)
に
別
(
わか
)
れてマチマチに
358
逍
(
さまよ
)
ひゐたる
折
(
をり
)
もあれ
359
俄
(
にはか
)
に
起
(
おこ
)
る
癪病
(
しやくやまひ
)
360
命
(
いのち
)
たえむとする
時
(
とき
)
に
361
情
(
なさけ
)
も
深
(
ふか
)
きスパールさま
362
妾
(
わらは
)
を
助
(
たす
)
け
親切
(
しんせつ
)
に
363
労
(
いた
)
はり
乍
(
なが
)
ら
将軍
(
しやうぐん
)
の
364
御前
(
みまへ
)
に
送
(
おく
)
らせ
玉
(
たま
)
ひける
365
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
366
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
自在天
(
じざいてん
)
367
神々
(
かみがみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
おん
)
恵
(
めぐみ
)
368
惜
(
をし
)
き
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けられ
369
今
(
いま
)
又
(
また
)
名望
(
めいばう
)
いや
高
(
たか
)
き
370
バラモン
軍
(
ぐん
)
の
総
(
そう
)
指揮官
(
しきくわん
)
371
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
将軍
(
しやうぐん
)
が
372
尊
(
たふと
)
き
陣営
(
ぢんえい
)
に
運
(
はこ
)
ばれて
373
思
(
おも
)
ひもよらぬ
御
(
ご
)
寵愛
(
ちようあい
)
374
蒙
(
かうむ
)
る
妾
(
わらは
)
の
身
(
み
)
の
冥加
(
みやうが
)
375
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
376
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
377
仮令
(
たとへ
)
天地
(
てんち
)
はかへる
共
(
とも
)
378
月
(
つき
)
おち
星
(
ほし
)
は
失
(
う
)
するとも
379
此
(
この
)
大恩
(
たいおん
)
はいつの
世
(
よ
)
か
380
忘
(
わす
)
れませうぞバラモンの
381
軍
(
いくさ
)
の
君
(
きみ
)
よ
妾
(
わらは
)
をば
382
いや
永久
(
とこしへ
)
に
慈
(
いつく
)
しみ
383
汝
(
なれ
)
が
御側
(
みそば
)
に
朝夕
(
あさゆふ
)
に
384
使
(
つか
)
はせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
385
神
(
かみ
)
かけ
念
(
ねん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
る
386
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
387
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
388
と
歌
(
うた
)
ひ
了
(
を
)
はり、
389
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
390
何分
(
なにぶん
)
無教育
(
むけういく
)
の
妾
(
わらは
)
、
391
歌
(
うた
)
なんか
詠
(
よ
)
めませぬ、
392
何卒
(
どうぞ
)
これでこらへて
下
(
くだ
)
さい』
393
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『アハハハハ、
394
てもさても
立派
(
りつぱ
)
なものだ。
395
久米彦
(
くめひこ
)
が
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
と
頼
(
たの
)
んでゐるカルナに
比
(
くら
)
ぶれば、
396
器量
(
きりやう
)
と
云
(
い
)
ひ、
397
学識
(
がくしき
)
の
程度
(
ていど
)
と
云
(
い
)
ひ、
398
犯
(
おか
)
す
可
(
べか
)
らざる
気品
(
きひん
)
と
云
(
い
)
ひ、
399
年頃
(
としごろ
)
と
云
(
い
)
ひ、
400
着物
(
きもの
)
の
着
(
き
)
こなしと
云
(
い
)
ひ、
401
肌
(
はだ
)
の
艶
(
つや
)
、
402
可愛
(
かあい
)
らしい
手足
(
てあし
)
、
403
瑪瑙
(
めなう
)
のやうな
爪
(
つめ
)
の
色
(
いろ
)
、
404
どこに
点
(
てん
)
のうつ
所
(
ところ
)
のない、
405
最奥
(
さいあう
)
天国
(
てんごく
)
の
天人
(
てんにん
)
も
跣
(
はだし
)
で
逃
(
に
)
げるやうな
天下
(
てんか
)
無二
(
むに
)
のナイスだ、
406
アハハハハ』
407
とワザと
高声
(
たかごゑ
)
にて
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
にヘケラかしてやらうと
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
ててゐる。
408
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ、
409
妾
(
わらは
)
のやうな
醜女
(
しこめ
)
を、
410
さうお
賞
(
ほ
)
め
下
(
くだ
)
さいますと
何
(
なん
)
だかクスぐつたいやうな
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
しますワ。
411
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
412
貴方
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
妾
(
わらは
)
をその
様
(
やう
)
に
寵愛
(
ちようあい
)
して
下
(
くだ
)
さいますが、
413
又
(
また
)
外
(
ほか
)
の
美
(
うつく
)
しき
美人
(
びじん
)
が
現
(
あら
)
はれた
時
(
とき
)
には、
414
キツと
妾
(
わらは
)
をお
捨
(
す
)
て
遊
(
あそ
)
ばすので
厶
(
ござ
)
いませう。
415
それを
思
(
おも
)
ふと
何
(
なん
)
だか
恨
(
うら
)
めしうなつて
参
(
まゐ
)
りましたワ』
416
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『ハハハハ、
417
さすがは
女
(
をんな
)
だ。
418
何
(
なん
)
でもない
事
(
こと
)
に
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
を
致
(
いた
)
すものでない、
419
其方
(
そなた
)
の
為
(
ため
)
なら
命
(
いのち
)
でもやらうといふ
決心
(
けつしん
)
だ』
420
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ
何
(
なん
)
とマア
辞令
(
じれい
)
のお
上手
(
じやうず
)
なお
方
(
かた
)
、
421
もし
妾
(
わらは
)
が
今
(
いま
)
命
(
いのち
)
を
下
(
くだ
)
さいと
言
(
い
)
つたら、
422
すぐに
臂鉄
(
ひぢてつ
)
をくはすクセに、
423
貴方
(
あなた
)
は
男
(
をとこ
)
に
似合
(
にあは
)
ず
愛嬌
(
あいけう
)
のよい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますね。
424
流石
(
さすが
)
は
敏腕
(
びんわん
)
なる
外交家
(
ぐわいかうか
)
丈
(
だけ
)
あつて、
425
仰有
(
おつしや
)
ることが
垢抜
(
あかぬけ
)
が
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますよ、
426
ホホホホ』
427
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『アハハハハハ』
428
と
悦
(
えつ
)
に
入
(
い
)
つてゐる。
429
そこへ
久米彦
(
くめひこ
)
はヌツと
顔
(
かほ
)
を
出
(
だ
)
し、
430
久米彦
(
くめひこ
)
『
将軍殿
(
しやうぐんどの
)
、
431
其
(
その
)
狂態
(
きやうたい
)
は
何
(
なん
)
のザマで
厶
(
ござ
)
るか、
432
軍紀
(
ぐんき
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
めさる。
433
拙者
(
せつしや
)
の
目
(
め
)
にとまつた
以上
(
いじやう
)
は、
434
最早
(
もはや
)
了簡
(
れうけん
)
は
致
(
いた
)
しませぬぞや』
435
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『アハハハハ、
436
オイ
久米彦
(
くめひこ
)
、
437
何
(
なん
)
だ
其
(
その
)
スタイルは、
438
肩
(
かた
)
まで
四角
(
しかく
)
にして、
439
何
(
なに
)
を
気張
(
きば
)
つてるのだ、
440
陣中
(
ぢんちう
)
は
相身互
(
あひみたがひ
)
だ、
441
チツと
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かさぬかい』
442
久米彦
(
くめひこ
)
『
将軍
(
しやうぐん
)
に
一寸
(
ちよつと
)
談判
(
だんぱん
)
があつて
伺
(
うかが
)
ひました。
443
確
(
しつか
)
り
聞
(
き
)
いて
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
い』
444
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『アハハハハ、
445
戦
(
いくさ
)
も
大方
(
おほかた
)
済
(
す
)
んだのだから、
446
さう
固
(
かた
)
くなるものだない。
447
それより
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて、
448
カルナ
姫
(
ひめ
)
に
肩
(
かた
)
でも
揉
(
も
)
んで
貰
(
もら
)
うたがよからうぞ』
449
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
面体
(
めんてい
)
をツラツラ
眺
(
なが
)
めて、
450
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
451
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
はバラモン
軍中
(
ぐんちう
)
に
於
(
おい
)
て
驍名
(
げうめい
)
かくれなき
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか、
452
これはこれは
失礼
(
しつれい
)
を
致
(
いた
)
しました。
453
妾
(
わらは
)
の
侍女
(
じぢよ
)
が
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になつた
相
(
さう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
454
有難
(
ありがた
)
う、
455
御
(
ご
)
懇情
(
こんじやう
)
の
程
(
ほど
)
侍女
(
じぢよ
)
に
代
(
かは
)
つて、
456
主人
(
しゆじん
)
の
妾
(
わらは
)
が
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申上
(
まをしあ
)
げます』
457
久米彦
(
くめひこ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
折角
(
せつかく
)
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れたカルナ
姫
(
ひめ
)
が、
458
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
に
比
(
ひ
)
して
美人
(
びじん
)
ではあるが、
459
どこともなしに
劣
(
おと
)
つてゐること、
460
及
(
および
)
第一
(
だいいち
)
癪
(
しやく
)
に
障
(
さは
)
るのは、
461
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
が
妻
(
つま
)
となさむとするヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
侍女
(
じぢよ
)
だといふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いたので、
462
何
(
なん
)
だか
自分
(
じぶん
)
の
声望
(
せいばう
)
を
傷
(
きず
)
つけられたやうな
気分
(
きぶん
)
が
仕出
(
しだ
)
し、
463
且
(
かつ
)
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
妻
(
つま
)
の
侍女
(
じぢよ
)
を
女房
(
にようばう
)
にしたとあつては、
464
世間
(
せけん
)
の
聞
(
きこ
)
えも
面白
(
おもしろ
)
くない、
465
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
なら、
466
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて
理窟
(
りくつ
)
をつけ、
467
とつ
換
(
か
)
へつこをしてやらうと、
468
虫
(
むし
)
のよい
考
(
かんが
)
へでやつて
来
(
き
)
たのである。
469
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
明敏
(
めいびん
)
な
頭脳
(
づなう
)
に
早
(
はや
)
くも、
470
久米彦
(
くめひこ
)
の
心中
(
しんちう
)
を
洞察
(
どうさつ
)
した。
471
何
(
なん
)
とかして
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
の
間
(
あひだ
)
に
隙
(
すき
)
を
生
(
しやう
)
ぜしめ、
472
バラモン
軍
(
ぐん
)
を
内部
(
ないぶ
)
から
破壊
(
はくわい
)
せむと
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
はカルナ
姫
(
ひめ
)
同様
(
どうやう
)
である。
473
ヒルナはワザと
体
(
からだ
)
をシヨナ シヨナさせ
乍
(
なが
)
ら、
474
久米彦
(
くめひこ
)
の
側
(
そば
)
にツツと
寄
(
よ
)
り、
475
固
(
かた
)
い
手
(
て
)
を
餅
(
もち
)
のやうな
手
(
て
)
でグツと
握
(
にぎ
)
り、
476
二三遍
(
にさんぺん
)
揺
(
ゆす
)
つて、
477
妙
(
めう
)
な
視線
(
しせん
)
を
向
(
む
)
け
乍
(
なが
)
ら、
478
ワザとに
頬
(
ほほ
)
を
赤
(
あか
)
らめ、
479
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ああお
恥
(
はづか
)
しう
厶
(
ござ
)
います』
480
と
意味
(
いみ
)
ありげに
顔
(
かほ
)
をかくす。
481
久米彦
(
くめひこ
)
は
益々
(
ますます
)
悦
(
えつ
)
に
入
(
い
)
り、
482
顔
(
かほ
)
の
相好
(
さうがう
)
を
崩
(
くづ
)
して、
483
久米彦
(
くめひこ
)
『エヘヘヘヘ、
484
これはこれはヒルナ
姫
(
ひめ
)
どの、
485
貴女
(
あなた
)
は
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
と、
486
既
(
すで
)
に
業
(
すで
)
に
情約
(
じやうやく
)
を
締結
(
ていけつ
)
なさつた
事
(
こと
)
は、
487
隣室
(
りんしつ
)
に
於
(
おい
)
て、
488
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
の
御
(
お
)
歌
(
うた
)
に
仍
(
よ
)
つて
確
(
たしか
)
め
得
(
え
)
ました。
489
どうぞ
肚
(
はら
)
の
悪
(
わる
)
い、
490
おだてないやうにして
下
(
くだ
)
さいな』
491
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ
仰
(
おほせ
)
の
如
(
ごと
)
く、
492
恥
(
はづ
)
かし
乍
(
なが
)
ら
情約
(
じやうやく
)
は
結
(
むす
)
びましたが、
493
まだ
予定
(
よてい
)
で
厶
(
ござ
)
います。
494
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
は
内定
(
ないてい
)
、
495
次
(
つぎ
)
に
確定
(
かくてい
)
と、
496
順序
(
じゆんじよ
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
497
予定
(
よてい
)
内定
(
ないてい
)
の
間
(
あひだ
)
は
何
(
ど
)
うとも
融通
(
ゆうづう
)
のつくもので
厶
(
ござ
)
います。
498
ラブは
神聖
(
しんせい
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
499
到底
(
たうてい
)
権力
(
けんりよく
)
や
美貌
(
びばう
)
や、
500
金銭
(
きんせん
)
や
圧迫
(
あつぱく
)
、
501
又
(
また
)
法律
(
はふりつ
)
などで
定
(
き
)
めらるべきものでは
厶
(
ござ
)
いませぬ。
502
さうでなくつてはコンヂーニアル・ラブが
完全
(
くわんぜん
)
に
成立
(
なりたち
)
ませぬからねえ。
503
結婚
(
けつこん
)
問題
(
もんだい
)
は
人生
(
じんせい
)
一代
(
いちだい
)
の
大切
(
たいせつ
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
504
本当
(
ほんたう
)
のディヴァイン・ラブでなければ、
505
末
(
すゑ
)
が
遂
(
と
)
げられませぬから、
506
夫
(
をつと
)
を
定
(
さだ
)
むるのは
互
(
たがひ
)
の
自由
(
じいう
)
で
厶
(
ござ
)
いますからねえ』
507
久米彦
(
くめひこ
)
は
既
(
すで
)
にヒルナ
姫
(
ひめ
)
が
自分
(
じぶん
)
に
秋波
(
しうは
)
をよせたものと
早合点
(
はやがつてん
)
し、
508
色男
(
いろをとこ
)
気取
(
きどり
)
になつて
面
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
迄
(
まで
)
解
(
ほど
)
いてゐる、
509
之
(
これ
)
に
反
(
はん
)
して
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
顔面
(
がんめん
)
忽
(
たちま
)
ち
緊張
(
きんちやう
)
し、
510
眉
(
まゆ
)
をつり
上
(
あ
)
げ、
511
顔
(
かほ
)
に
殺気
(
さつき
)
を
帯
(
お
)
びて
来
(
き
)
た。
512
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
久米彦
(
くめひこ
)
殿
(
どの
)
、
513
ここは
拙者
(
せつしや
)
の
居間
(
ゐま
)
で
厶
(
ござ
)
る。
514
貴方
(
あなた
)
は
自分
(
じぶん
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
軍務
(
ぐんむ
)
に
鞅掌
(
おうしやう
)
なされ、
515
不都合
(
ふつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
るぞツ』
516
久米彦
(
くめひこ
)
『ヘヘヘヘ、
517
拙者
(
せつしや
)
が
参
(
まゐ
)
りますと、
518
定
(
さだ
)
めて
不都合
(
ふつがふ
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
519
然
(
しか
)
らば
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
へさがりませう。
520
アイヤ、
521
ヒルナ
殿
(
どの
)
、
522
拙者
(
せつしや
)
に
跟
(
つ
)
いてお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばせ、
523
貴女
(
あなた
)
の
侍女
(
じぢよ
)
が
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
りますよ』
524
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホ、
525
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますね、
526
侍女
(
じぢよ
)
を
主人
(
しゆじん
)
から
訪問
(
はうもん
)
するといふ
道理
(
だうり
)
がどこに
厶
(
ござ
)
いませう。
527
カルナ
姫
(
ひめ
)
の
方
(
はう
)
から
妾
(
わらは
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
伺
(
うかが
)
ひに
来
(
く
)
る
筈
(
はず
)
だ
厶
(
ござ
)
いませぬか。
528
どうぞカルナにさう
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
529
久米彦
(
くめひこ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
530
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
には
条理
(
でうり
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
ります。
531
然
(
しか
)
らばカルナ
姫
(
ひめ
)
を
伺
(
うかが
)
はせます、
532
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい』
533
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
汚
(
けが
)
らはしい、
534
カルナの
如
(
ごと
)
き
女
(
をんな
)
を
拙者
(
せつしや
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
伴
(
つ
)
れ
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
り
成
(
な
)
らぬ……ヒルナ
其方
(
そなた
)
は
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
ふか』
535
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
仰
(
おほせ
)
の
通
(
とほ
)
り、
536
斯様
(
かやう
)
な
尊
(
たふと
)
きお
居間
(
ゐま
)
へ、
537
侍女
(
じぢよ
)
などを
侍
(
はべ
)
らすは
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
う
厶
(
ござ
)
います』
538
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
顔色
(
かほいろ
)
を
和
(
やはら
)
げ、
539
稍
(
やや
)
得意
(
とくい
)
となつて、
540
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『ああさうだらう、
541
ヒルナの
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ、
542
流石
(
さすが
)
は
才媛
(
さいえん
)
だ。
543
そして
侍女
(
じぢよ
)
と
情約
(
じやうやく
)
を
締結
(
ていけつ
)
する
如
(
ごと
)
き
下劣
(
げれつ
)
な
人格者
(
じんかくしや
)
は
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
来
(
きた
)
るべきものではない、
544
トツトと
帰
(
かへ
)
つたがよからう
久米彦
(
くめひこ
)
、
545
これに
違背
(
ゐはい
)
はあるまいな、
546
アハハハハ』
547
久米彦
(
くめひこ
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ。
548
貴方
(
あなた
)
のお
説
(
せつ
)
では
公私
(
こうし
)
混淆
(
こんかう
)
といふもの、
549
貴方
(
あなた
)
も
将軍
(
しやうぐん
)
ならば
拙者
(
せつしや
)
も
将軍
(
しやうぐん
)
、
550
軍務
(
ぐんむ
)
上
(
じやう
)
の
打
(
う
)
ち
合
(
あは
)
せも
時々
(
ときどき
)
致
(
いた
)
さねばならず、
551
又
(
また
)
吾々
(
われわれ
)
は
将軍
(
しやうぐん
)
としてお
居間
(
ゐま
)
をお
訪
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
したもの、
552
決
(
けつ
)
して
一個人
(
いちこじん
)
の
資格
(
しかく
)
だ
厶
(
ござ
)
らぬぞ』
553
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
弁舌
(
べんぜつ
)
を
以
(
もつ
)
て、
554
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
糊塗
(
こと
)
せむと
致
(
いた
)
せ
共
(
ども
)
、
555
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
に
巻込
(
まきこ
)
まれるやうな
迂愚者
(
うぐしや
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
556
サ、
557
速
(
すみやか
)
にお
立
(
た
)
ちめされ、
558
拙者
(
せつしや
)
のラブの
妨害
(
ばうがい
)
になり
申
(
まを
)
す』
559
久米彦
(
くめひこ
)
は
軍刀
(
ぐんたう
)
をヒラリと
抜
(
ぬ
)
いて、
560
矢庭
(
やには
)
に
鬼春別
(
おにはるわけ
)
に
斬
(
き
)
りつけた。
561
鬼春別
(
おにはるわけ
)
はヒラリと
体
(
たい
)
をかはし
傍
(
かたはら
)
の
軍刀
(
ぐんたう
)
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く
又
(
また
)
もやスラリと
引抜
(
ひきぬ
)
き、
562
カチヤカチヤと
刃
(
やいば
)
を
合
(
あは
)
せ
火花
(
ひばな
)
を
散
(
ち
)
らし、
563
数十合
(
すうじふがふ
)
に
及
(
およ
)
んだ。
564
されど
何
(
いづ
)
れも
手利
(
てき
)
きと
手利
(
てき
)
き、
565
竜虎
(
りうこ
)
の
争
(
あらそ
)
ひ、
566
何時
(
いつ
)
果
(
は
)
つべしとも
見
(
み
)
えなかつた。
567
此
(
この
)
物音
(
ものおと
)
に
驚
(
おどろ
)
いて、
568
カルナ
姫
(
ひめ
)
はヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
を
気
(
き
)
づかひ、
569
慌
(
あわ
)
ただしく
飛
(
と
)
んで
来
(
き
)
た。
570
ヒルナはカルナの
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
るより、
571
目
(
め
)
を
以
(
もつ
)
て
合図
(
あひづ
)
をし、
572
……キツと
仲
(
なか
)
に
這入
(
はい
)
るな……といふ
意味
(
いみ
)
を
牒
(
しめ
)
した、
573
そして
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
はワザと
怖
(
こは
)
相
(
さう
)
に
室
(
へや
)
の
隅
(
すみ
)
に
机
(
つくゑ
)
をかぶつて
慄
(
ふる
)
うてゐる、
574
そして……
何方
(
どちら
)
か
一人
(
ひとり
)
が……
早
(
はや
)
くやられたら
都合
(
つがふ
)
が
好
(
よ
)
いがと、
575
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に
念
(
ねん
)
じてゐた。
576
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
577
スパール、
578
エミシの
両人
(
りやうにん
)
は
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
579
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
驚
(
おどろ
)
き、
580
二人
(
ふたり
)
は
中
(
なか
)
にわつて
入
(
い
)
り、
581
スパール『モシ
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
、
582
少時
(
しばらく
)
お
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
583
エミシ『
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
暫
(
しばら
)
く
暫
(
しばら
)
く』
584
と
大手
(
おほて
)
を
拡
(
ひろ
)
げてつつ
立
(
た
)
つた。
585
これ
幸
(
さいはひ
)
と
両人
(
りやうにん
)
は
剣
(
つるぎ
)
を
鞘
(
さや
)
にをさめ、
586
ハアハアと
息
(
いき
)
を
凝
(
こ
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
587
俄作
(
にはかづく
)
りの
椅子
(
いす
)
に
腰
(
こし
)
をおろした。
588
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
、
589
カルナ
姫
(
ひめ
)
はヤツと
安心
(
あんしん
)
したものの
如
(
ごと
)
く、
590
ワザと
不安
(
ふあん
)
な
面
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
591
ハアハアハアと
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ、
592
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし
居
(
ゐ
)
たりける。
593
(
大正一二・二・一三
旧一一・一二・二八
於竜宮館
松村真澄
録)
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