霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
設定
|
ヘルプ
ホーム
霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第53巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 毘丘取颪
第1章 春菜草
第2章 蜉蝣
第3章 軟文学
第4章 蜜語
第5章 愛縁
第6章 気縁
第7章 比翼
第8章 連理
第9章 蛙の腸
第2篇 貞烈亀鑑
第10章 女丈夫
第11章 艶兵
第12章 鬼の恋
第13章 醜嵐
第14章 女の力
第15章 白熱化
第3篇 兵権執着
第16章 暗示
第17章 奉還状
第18章 八当狸
第19章 刺客
第4篇 神愛遍満
第20章 背進
第21章 軍議
第22章 天祐
第23章 純潔
余白歌
×
設定
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
文字サイズ
S
【標準】
M
L
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側だけに表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注[※]用語解説
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
【標準】
脚注マークを表示しない
脚注[*]編集用
[?]
[※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
脚注マークを表示する
脚注マークを表示しない
【標準】
外字の外周色
[?]
一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。
[×閉じる]
無色
【標準】
赤色
現在のページには外字は使われていません
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
サブスク完了しました
。どうもありがとうございます。
|
サイトをリニューアルしました。不具合がある場合は
従来バージョン
をお使い下さい
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第53巻(辰の巻)
> 第2篇 貞烈亀鑑 > 第11章 艶兵
<<< 女丈夫
(B)
(N)
鬼の恋 >>>
第一一章
艶兵
(
えんぺい
)
〔一三七四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
篇:
第2篇 貞烈亀鑑
よみ(新仮名遣い):
ていれつきかん
章:
第11章 艶兵
よみ(新仮名遣い):
えんぺい
通し章番号:
1374
口述日:
1923(大正12)年02月13日(旧12月28日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年3月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
バラモンの鬼春別軍は、ハルナの指揮する城内の防衛軍を襲い、なぎ倒した。ビクトリヤ軍は敗走して武器を捨てて散乱し始めた。ハルナは槍を持って敵の陣中に入り縦横無尽に戦ったが、身に数多の傷を受けて倒れ、捕縛されてしまった。
城内に押し入ったバラモン軍は、ビクトリヤ王、左守、右守も難なく捕縛し、ハルナと共に牢獄に投げ入れてしまった。
カルナ姫は味方の勢力ではとうてい敵し難しと見て、にわかに武装を解いて美々しく装い蓑笠をつけて旅人に扮し、バラモン軍が進軍してくる路傍に倒れて気を引いた。敵の主将を美貌と弁舌で切腹しようとの試みであった。
バラモン軍の副将たちはカルナ姫の美貌を見てさっそく、大将に差し出して手柄にしようとした。カルナ姫は、自分はビク国の女で多くの軍隊を見て肝をつぶして動けなくなったのだと身の上を語った。副将たちは久米彦将軍の配下であったので、久米彦にカルナ姫を送り届けた。
久米彦は、隣のテントに上官である総司令官の鬼春別将軍が陣取っているので、あからさまに喜ぶわけにもいかず、表面は陣中に女を入れるなどけしからんと怒鳴りたてたが、内心は喜んで、さっそくあたりの幕僚に用を言いつけて遠ざけ、カルナ姫を口説きだした。
久米彦はすっかりカルナの手玉となって心をとろかせ、作戦計画も地図もほったらかしてしまった。カルナは両親にかけあった上で結婚の段取りをしようと婚約をほのめかした。
鬼春別は、隣の久米彦のテンドで女の声がし、どうやら久米彦が女の承諾を得たような気配がするので嫉妬し、顔を真っ赤にして久米彦の室に入ってきて怒鳴りつけた。久米彦は上官に対してこの場を取り繕うと焦っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-03-08 18:01:21
OBC :
rm5311
愛善世界社版:
108頁
八幡書店版:
第9輯 543頁
修補版:
校定版:
112頁
普及版:
54頁
初版:
ページ備考:
001
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
股肱
(
ここう
)
と
頼
(
たの
)
む、
002
シヤムは
驀地
(
まつしぐら
)
に
城内
(
じやうない
)
を
襲
(
おそ
)
ひ、
003
ハルナの
指揮
(
しき
)
する
軍隊
(
ぐんたい
)
を
片
(
かた
)
ツ
端
(
ぱし
)
から
斬
(
き
)
りちらし、
004
薙倒
(
なぎたふ
)
した。
005
城内
(
じやうない
)
の
味方
(
みかた
)
は
周章
(
しうしやう
)
狼狽
(
らうばい
)
し、
006
武器
(
ぶき
)
を
捨
(
す
)
て、
007
卑怯
(
ひけふ
)
にも
一目散
(
いちもくさん
)
に
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
に
散乱
(
さんらん
)
した。
008
ハルナは
槍
(
やり
)
を
提
(
ひつさ
)
げて
敵
(
てき
)
の
陣中
(
ぢんちう
)
に
入
(
い
)
り、
009
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
戦
(
たたか
)
へども、
010
敵
(
てき
)
は
目
(
め
)
に
余
(
あま
)
る
大軍
(
たいぐん
)
、
011
遂
(
つひ
)
に
力
(
ちから
)
尽
(
つ
)
き、
012
身
(
み
)
に
十数創
(
じふすうさう
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
013
無念
(
むねん
)
の
歯
(
は
)
を
食
(
く
)
ひしばり
乍
(
なが
)
ら、
014
ドツと
倒
(
たふ
)
れた。
015
シヤムは
部下
(
ぶか
)
に
命
(
めい
)
じ、
016
高手
(
たかて
)
小手
(
こて
)
に
縛
(
しば
)
つて
捕虜
(
ほりよ
)
となし、
017
城内
(
じやうない
)
の
庫
(
くら
)
に
投込
(
なげこ
)
み
繋
(
つな
)
いでおいた。
018
夫
(
そ
)
れより
王
(
わう
)
の
殿中
(
でんちう
)
に
阿修羅
(
あしゆら
)
王
(
わう
)
の
如
(
ごと
)
き
勢
(
いきほひ
)
にて
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
019
右守
(
うもり
)
のベルツを
苦
(
く
)
もなく
捕縛
(
ほばく
)
し、
020
之
(
こ
)
れ
又
(
また
)
ハルナを
投込
(
なげこ
)
んだ
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
に
繋
(
つな
)
いでおいた。
021
ビクトリヤ
王
(
わう
)
、
022
キユービツトは
弓
(
ゆみ
)
に
矢
(
や
)
をつがへ、
023
よせ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
七八
(
しちはち
)
人
(
にん
)
倒
(
たふ
)
した。
024
王
(
わう
)
の
弓弦
(
ゆづる
)
はプツツと
切
(
き
)
れた、
025
最早
(
もはや
)
運命
(
うんめい
)
之
(
こ
)
れ
迄
(
まで
)
なりと、
026
短刀
(
たんたう
)
を
引
(
ひき
)
ぬき
自殺
(
じさつ
)
せむとする
一刹那
(
いつせつな
)
、
027
左守
(
さもり
)
は
弓
(
ゆみ
)
の
手
(
て
)
をやめて、
028
王
(
わう
)
の
手
(
て
)
に
縋
(
すが
)
りつき、
029
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
自殺
(
じさつ
)
を
思
(
おも
)
ひ
止
(
と
)
まらむ
事
(
こと
)
を
諫
(
いさ
)
めた。
030
左守
(
さもり
)
『モシ
吾
(
わが
)
君様
(
きみさま
)
、
031
短気
(
たんき
)
をお
出
(
だ
)
しなされますな。
032
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
守
(
まも
)
りある
以上
(
いじやう
)
は、
033
屹度
(
きつと
)
此
(
この
)
戦
(
たたか
)
ひは
恢復
(
くわいふく
)
が
出来
(
でき
)
まする。
034
貴方
(
あなた
)
がお
崩御
(
かくれ
)
になれば、
035
どうして
三軍
(
さんぐん
)
の
指揮
(
しき
)
が
出来
(
でき
)
ませう。
036
国家
(
こくか
)
の
為
(
ため
)
に
死
(
し
)
を
思
(
おも
)
ひ
止
(
と
)
まつて
下
(
くだ
)
さいませ』
037
と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
止
(
と
)
めようとする、
038
王
(
わう
)
は
決心
(
けつしん
)
の
色
(
いろ
)
を
浮
(
うか
)
べ、
039
刹帝利
(
せつていり
)
『
此
(
この
)
期
(
ご
)
に
及
(
およ
)
んで、
040
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
に
命
(
いのち
)
を
存
(
なが
)
らへむとし、
041
却
(
かへつ
)
て
名
(
な
)
もなき
雑兵
(
ざふひやう
)
に
首
(
くび
)
を
渡
(
わた
)
せば
王家
(
わうけ
)
の
恥辱
(
ちじよく
)
、
042
其
(
その
)
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
せ』
043
左守
(
さもり
)
『イヤ
放
(
はな
)
しませぬ』
044
と
争
(
あらそ
)
ふ
所
(
ところ
)
へ
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
るシヤムは、
045
有無
(
うむ
)
を
言
(
い
)
はせず、
046
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
雑兵
(
ざふひやう
)
と
共
(
とも
)
に
二人
(
ふたり
)
を
捕縛
(
ほばく
)
し、
047
猿轡
(
さるぐつわ
)
をはめて、
048
同
(
おな
)
じ
庫
(
くら
)
の
中
(
なか
)
に
繋
(
つな
)
ぎ、
049
バラモン
軍
(
ぐん
)
の
万歳
(
ばんざい
)
を
三唱
(
さんしやう
)
した。
050
カルナ
姫
(
ひめ
)
は
到底
(
たうてい
)
味方
(
みかた
)
の
勢力
(
せいりよく
)
にては
敵
(
てき
)
し
難
(
がた
)
しと
見
(
み
)
て
取
(
と
)
り、
051
俄
(
にはか
)
に
武装
(
ぶさう
)
を
解
(
と
)
き、
052
美々
(
びび
)
しき
身
(
み
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
053
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
つ
)
け、
054
旅人
(
たびびと
)
と
扮
(
ふん
)
し、
055
軍隊
(
ぐんたい
)
の
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る
路傍
(
ろばう
)
に
呻
(
うめ
)
き
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
056
ワザと
倒
(
たふ
)
れてゐた。
057
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
副官
(
ふくくわん
)
エミシは
百
(
ひやく
)
余
(
よ
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
を
引率
(
いんそつ
)
して、
058
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る
路傍
(
ろばう
)
に
何者
(
なにもの
)
か
倒
(
たふ
)
れてゐるのを
見
(
み
)
て、
059
部下
(
ぶか
)
のマルタに
命
(
めい
)
じ、
060
調査
(
てうさ
)
せしめた。
061
マルタ『コレヤ、
062
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
吾々
(
われわれ
)
が
進軍
(
しんぐん
)
の
路傍
(
ろばう
)
に
横
(
よこ
)
たはり、
063
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
、
064
何者
(
なにもの
)
だ』
065
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
蓑笠
(
みのかさ
)
を
無雑作
(
むざふさ
)
に
引
(
ひき
)
むし
つた、
066
みれば
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
が
苦
(
くる
)
し
相
(
さう
)
にウンウンと
呻
(
うめ
)
いてゐる。
067
マルタ『モシ、
068
エミシ
様
(
さま
)
、
069
ステキ
滅法界
(
めつぱふかい
)
の
美人
(
びじん
)
で
厶
(
ござ
)
いますぞ。
070
これは
旅人
(
たびびと
)
と
見
(
み
)
えますが、
071
余
(
あま
)
り
沢山
(
たくさん
)
な
軍隊
(
ぐんたい
)
の
勢
(
いきほひ
)
に
恐
(
おそ
)
れ、
072
女
(
をんな
)
の
小
(
ちひ
)
さき
心
(
こころ
)
より
吃驚
(
びつくり
)
を
致
(
いた
)
して、
073
目
(
め
)
を
廻
(
まは
)
したので
厶
(
ござ
)
いませう、
074
何
(
なん
)
と
美
(
うつく
)
しい
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア』
075
エミシ『
成程
(
なるほど
)
、
076
立派
(
りつぱ
)
な
女
(
をんな
)
だ。
077
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
078
久米彦
(
くめひこ
)
様
(
さま
)
の
御前
(
ごぜん
)
に
連
(
つ
)
れ
参
(
まゐ
)
り、
079
将軍
(
しやうぐん
)
のお
慰
(
なぐさ
)
みに
供
(
きよう
)
したならば
如何
(
いかが
)
であらうか』
080
マルタ『
如何
(
いか
)
にも
将軍
(
しやうぐん
)
は
定
(
さだ
)
めて
満足
(
まんぞく
)
さるるでせう。
081
然
(
しか
)
らば
之
(
これ
)
より
拙者
(
せつしや
)
がお
届
(
とど
)
け
申
(
まを
)
しませう』
082
エミシ『マルタ、
083
決
(
けつ
)
して
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
手柄
(
てがら
)
に
致
(
いた
)
しちやならぬぞ、
084
……エミシが
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
にお
届
(
とど
)
け
申
(
まを
)
せ……と
云
(
い
)
つたと
伝
(
つた
)
へるのだぞ』
085
マルタ『ヘヘヘ、
086
決
(
けつ
)
して
如才
(
じよさい
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ、
087
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
088
と
三四
(
さんよ
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
に
担
(
かつ
)
がせ、
089
マルタは
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて、
090
将軍
(
しやうぐん
)
の
仮陣営
(
かりじんえい
)
へ
送
(
おく
)
り
行
(
ゆ
)
く。
091
エミシは
城内
(
じやうない
)
を
指
(
さ
)
して、
092
四辺
(
あたり
)
の
民家
(
みんか
)
に
火
(
ひ
)
をつけ
乍
(
なが
)
ら、
093
猛虎
(
まうこ
)
の
勢
(
いきほひ
)
、
094
勝
(
かち
)
に
乗
(
じやう
)
じて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
095
一方
(
いつぱう
)
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
は
到底
(
たうてい
)
戦
(
たたかひ
)
利
(
り
)
あらずと
見
(
み
)
て
取
(
と
)
り、
096
同
(
おな
)
じく
旅人
(
たびびと
)
の
風
(
ふう
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
097
軍隊
(
ぐんたい
)
の
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
る
路上
(
ろじやう
)
に
横
(
よこ
)
たはり、
098
黄泉
(
よもつ
)
比良坂
(
ひらさか
)
の
戦
(
たたか
)
ひに、
099
大神
(
おほかみ
)
が
桃
(
もも
)
の
実
(
み
)
の
紅裙隊
(
こうくんたい
)
を
用
(
もち
)
ひ
玉
(
たま
)
ひし
故智
(
こち
)
に
倣
(
なら
)
ひ、
100
敵
(
てき
)
の
主将
(
しゆしやう
)
を
吾
(
わが
)
美貌
(
びばう
)
と
弁舌
(
べんぜつ
)
を
以
(
もつ
)
て
説服
(
せつぷく
)
せしめむと
忠義
(
ちうぎ
)
一途
(
いちづ
)
の
心
(
こころ
)
より
危険
(
きけん
)
を
冒
(
をか
)
して
待
(
ま
)
つてゐる。
101
此処
(
ここ
)
へ
隊伍
(
たいご
)
を
整
(
ととの
)
へ
堂々
(
だうだう
)
とやつて
来
(
き
)
たのは、
102
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
股肱
(
ここう
)
と
頼
(
たの
)
むスパールであつた。
103
スパールは
目敏
(
めざと
)
く、
104
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
を
見
(
み
)
て、
105
其
(
その
)
美貌
(
びばう
)
に
肝
(
きも
)
をつぶし、
106
軍隊
(
ぐんたい
)
の
進行
(
しんかう
)
を
止
(
と
)
め、
107
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
みよつて、
108
スパール『
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
進軍
(
しんぐん
)
の
途上
(
とじやう
)
に
何
(
なに
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るか、
109
早
(
はや
)
く
立去
(
たちさ
)
らないか』
110
とワザと
声高
(
こわだか
)
に
罵
(
ののし
)
りける。
111
ヒルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
112
妾
(
わらは
)
は
旅
(
たび
)
の
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
います。
113
ビクトル
山上
(
さんじやう
)
の
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
様
(
さま
)
の
祠
(
ほこら
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
の
為
(
ため
)
、
114
遥々
(
はるばる
)
参
(
まゐ
)
りました
所
(
ところ
)
、
115
余
(
あま
)
り
沢山
(
たくさん
)
のお
武家
(
ぶけ
)
様
(
さま
)
で
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
116
腰
(
こし
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
117
一歩
(
ひとあし
)
も
歩
(
あゆ
)
めなくなりました、
118
何卒
(
どうぞ
)
お
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ。
119
決
(
けつ
)
して
身
(
み
)
に
寸鉄
(
すんてつ
)
も
帯
(
お
)
びない
女
(
をんな
)
なれば、
120
お
手向
(
てむか
)
ひは
致
(
いた
)
しませぬ』
121
と
涙
(
なみだ
)
含
(
ぐ
)
みつつ
言
(
い
)
ふ。
122
スパールはヒルナ
姫
(
ひめ
)
の
美貌
(
びばう
)
を
熟視
(
じゆくし
)
し、
123
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
舌
(
した
)
をまき
乍
(
なが
)
ら、
124
ウツトリとして
見
(
み
)
とれてゐる。
125
暫
(
しばら
)
くあつてスパールは
顔色
(
かほいろ
)
を
和
(
やは
)
らげ、
126
スパール『イヤ、
127
旅
(
たび
)
のお
女中
(
ぢよちう
)
、
128
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさるな、
129
拙者
(
せつしや
)
が
貴女
(
あなた
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
安全
(
あんぜん
)
に
守
(
まも
)
つて
上
(
あ
)
げませう。
130
……
従卒
(
じゆうそつ
)
共
(
ども
)
、
131
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に、
132
スパールが
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
宜
(
よろ
)
しくお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
したと
云
(
い
)
つて
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
けて
来
(
こ
)
い』
133
『ハイ』と
答
(
こた
)
へて、
134
前列
(
ぜんれつ
)
の
兵卒
(
へいそつ
)
二
(
に
)
名
(
めい
)
、
135
従卒
(
じゆうそつ
)
二
(
に
)
名
(
めい
)
と
共
(
とも
)
にヒルナ
姫
(
ひめ
)
を
大事
(
だいじ
)
相
(
さう
)
に
担
(
かつ
)
いで、
136
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
に
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
けたり。
137
鬼春別
(
おにはるわけ
)
、
138
久米彦
(
くめひこ
)
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
の
陣営
(
ぢんえい
)
はテントを
張
(
は
)
りまはし、
139
若草
(
わかぐさ
)
の
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
臨時
(
りんじ
)
に
造
(
つく
)
られてあつた。
140
そして
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
とも
一
(
ひと
)
つのテントを
隔
(
へだ
)
つるのみにて、
141
二間
(
にけん
)
許
(
ばか
)
りの
距離
(
きより
)
を
有
(
いう
)
するのみであつた。
142
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
味方
(
みかた
)
の
勇士
(
ゆうし
)
の
戦報
(
せんぱう
)
を
聞
(
き
)
きつつ、
143
ビクトリヤ
城
(
じやう
)
内外
(
ないぐわい
)
の
地図
(
ちづ
)
を
披
(
ひら
)
いて、
144
敵味方
(
てきみかた
)
の
配置
(
はいち
)
を
調
(
しら
)
べてゐた。
145
そこへマルタは
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
兵卒
(
へいそつ
)
に
美人
(
びじん
)
を
舁
(
か
)
かせて
入来
(
いりきた
)
り、
146
マルタ『エー、
147
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます、
148
城内
(
じやうない
)
の
敵
(
てき
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
殲滅
(
せんめつ
)
致
(
いた
)
しました
様子
(
やうす
)
で
厶
(
ござ
)
いますれば、
149
先
(
ま
)
づ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
遊
(
あそ
)
ばせ。
150
就
(
つ
)
きましては
何処
(
どこ
)
の
者
(
もの
)
とも
知
(
し
)
らず、
151
吾々
(
われわれ
)
軍隊
(
ぐんたい
)
の
威勢
(
ゐせい
)
に
恐
(
おそ
)
れ、
152
路傍
(
ろばう
)
に
倒
(
たふ
)
れ
目
(
め
)
を
眩
(
ま
)
かしてゐる
女
(
をんな
)
が
厶
(
ござ
)
いますので、
153
強
(
つよ
)
い
計
(
ばか
)
りが
武士
(
ぶし
)
の
情
(
なさけ
)
でないと、
154
近寄
(
ちかよ
)
つてみれば、
155
かくの
如
(
ごと
)
き
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
、
156
やうやう
介抱
(
かいほう
)
を
致
(
いた
)
し、
157
息
(
いき
)
を
吹返
(
ふきかへ
)
させました。
158
所
(
ところ
)
が
貴方
(
あなた
)
の
副官
(
ふくくわん
)
エミシ
殿
(
どの
)
が
一目
(
ひとめ
)
みるより
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くし、
159
涎
(
よだれ
)
をくらせ
玉
(
たま
)
ひ……
惜
(
をし
)
いものだなア、
160
此
(
この
)
女
(
をんな
)
を
陣中
(
ぢんちう
)
の
無聊
(
むれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
むる
為
(
ため
)
、
161
吾
(
わが
)
女房
(
にようばう
)
にしたいものだ……などと
虫
(
むし
)
のよい
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
します。
162
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
163
此
(
この
)
女
(
をんな
)
をみつけたのも、
164
介抱
(
かいほう
)
致
(
いた
)
したのも、
165
拾
(
ひろ
)
つたのも
此
(
この
)
マルタで
厶
(
ござ
)
います。
166
言
(
い
)
はば
戦利品
(
せんりひん
)
同様
(
どうやう
)
、
167
中々
(
なかなか
)
エミシの
自由
(
じいう
)
には
致
(
いた
)
させませぬ、
168
之
(
これ
)
は
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
に
献上
(
けんじやう
)
し、
169
陣中
(
ぢんちう
)
のお
慰
(
なぐさ
)
みに
供
(
きよう
)
したいと
思
(
おも
)
ひ、
170
ワザワザ
送
(
おく
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
171
何卒
(
どうぞ
)
首実検
(
くびじつけん
)
の
上
(
うへ
)
、
172
お
受
(
う
)
け
取
(
と
)
り
下
(
くだ
)
さいますれば
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
173
と
追従
(
つゐしよう
)
を
並
(
なら
)
べて
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てた。
174
久米彦
(
くめひこ
)
は
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
るより
恍惚
(
くわうこつ
)
として、
175
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くし、
176
涎
(
よだれ
)
の
滴
(
したた
)
るのも
知
(
し
)
らなかつた。
177
されど
隣
(
となり
)
のテントには
上官
(
じやうくわん
)
の
鬼春別
(
おにはるわけ
)
が
陣取
(
ぢんど
)
つてゐる
事
(
こと
)
とてワザと
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし、
178
久米彦
(
くめひこ
)
『
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
な、
179
此
(
この
)
陣中
(
ぢんちう
)
に
女
(
をんな
)
を
持
(
も
)
ち
運
(
はこ
)
ぶとは、
180
武士
(
ぶし
)
にあるまじき
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
所業
(
しよげふ
)
、
181
汚
(
けが
)
らはしい、
182
トツトと
持
(
も
)
ち
帰
(
かへ
)
れ』
183
マルタ『ヘー、
184
貴方
(
あなた
)
は
日頃
(
ひごろ
)
の
御
(
ご
)
性質
(
せいしつ
)
にも
似
(
に
)
ず、
185
斯様
(
かやう
)
な
美人
(
びじん
)
がお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りませぬか。
186
左様
(
さやう
)
なれば
是非
(
ぜひ
)
には
及
(
およ
)
びませぬ、
187
此
(
この
)
戦争
(
せんそう
)
がすむ
迄
(
まで
)
どつかにしまひおき、
188
私
(
わたし
)
の
女房
(
にようばう
)
に
致
(
いた
)
し、
189
軍隊
(
ぐんたい
)
を
辞
(
じ
)
して、
190
楽
(
たの
)
しき
一生
(
いつしやう
)
を
此
(
この
)
ナイスと
共
(
とも
)
に
送
(
おく
)
ることに
致
(
いた
)
しませう。
191
何程
(
なにほど
)
軍人
(
ぐんじん
)
なればとて、
192
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
を
見
(
み
)
すてるは
武士
(
ぶし
)
の
取
(
と
)
るべき
道
(
みち
)
では
厶
(
ござ
)
いますまい。
193
お
気
(
き
)
にいらねばどつかへ
連
(
つ
)
れて
参
(
まゐ
)
ります』
194
と
四
(
よ
)
人
(
にん
)
に
目配
(
めくば
)
せして
伴
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
らうとする。
195
久米彦
(
くめひこ
)
は、
196
慌
(
あわ
)
てて、
197
手
(
て
)
を
頻
(
しき
)
りに
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
198
久米彦
(
くめひこ
)
『アア、
199
イヤイヤ、
200
汚
(
けが
)
らはしいと
云
(
い
)
ふは
表
(
おもて
)
、
201
ソツと
其
(
その
)
女
(
をんな
)
をここへおツ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
202
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
戦陣
(
せんぢん
)
に
向
(
むか
)
つたがよからう』
203
マルタ『ヘツヘヘヘ、
204
ヤツパリお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りましたかな。
205
猫
(
ねこ
)
に
松魚
(
かつをぶし
)
、
206
男
(
をとこ
)
に
女
(
をんな
)
、
207
何程
(
なにほど
)
軍人
(
ぐんじん
)
だとて、
208
女
(
をんな
)
の
嫌
(
きら
)
ひな
男
(
をとこ
)
は
厶
(
ござ
)
いますまい。
209
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
喉
(
のど
)
をならして
欲
(
ほ
)
しがつてゐる
男
(
をとこ
)
も
沢山
(
たくさん
)
厶
(
ござ
)
いますから、
210
余
(
あま
)
り、
211
お
気
(
き
)
に
進
(
すす
)
まぬものを
無理
(
むり
)
につきつけようとは
申
(
まを
)
しませぬ。
212
これ
程
(
ほど
)
の
美人
(
びじん
)
を
貴方
(
あなた
)
に
献
(
たてまつ
)
るのに、
213
苦虫
(
にがむし
)
を
噛
(
か
)
んだやうな
面
(
つら
)
をして
居
(
を
)
られちや、
214
根
(
ね
)
つから
張合
(
はりあひ
)
も
骨折
(
ほねをり
)
甲斐
(
がひ
)
も
厶
(
ござ
)
いませぬワ』
215
久米彦
(
くめひこ
)
『
軍人
(
ぐんじん
)
は
戦争
(
せんそう
)
さへすれば
可
(
い
)
いのだ。
216
ゴテゴテ
申
(
まを
)
さず、
217
早
(
はや
)
く
立去
(
たちさ
)
つて
戦陣
(
せんぢん
)
に
向
(
むか
)
へ、
218
怪
(
け
)
しからぬ
代物
(
しろもの
)
だ』
219
とワザとに
隣室
(
りんしつ
)
に
聞
(
きこ
)
えるやう、
220
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てた。
221
マルタは
面
(
つら
)
をふくらし、
222
ブツブツ
小言
(
こごと
)
を
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
223
シヨゲシヨゲとして
再
(
ふたた
)
び
陣中
(
ぢんちう
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
224
久米彦
(
くめひこ
)
は
四辺
(
あたり
)
の
幕僚
(
ばくれう
)
を
種々
(
いろいろ
)
の
用
(
よう
)
を
言
(
い
)
ひつけ、
225
遠
(
とほ
)
ざけおき、
226
女
(
をんな
)
の
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
寄
(
よ
)
り、
227
背
(
せな
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
228
猫撫
(
ねこな
)
で
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
し、
229
久米彦
(
くめひこ
)
『
其方
(
そち
)
は
何処
(
いづく
)
の
者
(
もの
)
だ。
230
殺気立
(
さつきだ
)
つた
軍隊
(
ぐんたい
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
231
嘸
(
さぞ
)
驚
(
おどろ
)
いたであらうのう。
232
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
と
云
(
い
)
つて
全軍
(
ぜんぐん
)
の
指揮官
(
しきくわん
)
だ。
233
最早
(
もはや
)
吾
(
わが
)
懐
(
ふところ
)
に
入
(
い
)
る
上
(
うへ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
234
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
せよ』
235
女
(
をんな
)
『ハイ、
236
妾
(
わらは
)
はカルナと
申
(
まを
)
しまして、
237
此
(
この
)
国
(
くに
)
の
生
(
うま
)
れで
厶
(
ござ
)
います。
238
日頃
(
ひごろ
)
信仰
(
しんかう
)
致
(
いた
)
します
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんのう
)
様
(
さま
)
に
参拝
(
さんぱい
)
せむと、
239
一人
(
ひとり
)
の
伴
(
つ
)
れと
共
(
とも
)
に
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
りました
途中
(
とちう
)
に、
240
沢山
(
たくさん
)
なお
武家
(
ぶけ
)
様
(
さま
)
に
出会
(
であ
)
ひ、
241
ビツクリ
致
(
いた
)
し、
242
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
み
路傍
(
ろばう
)
に
倒
(
たふ
)
れて
居
(
を
)
りました。
243
所
(
ところ
)
がお
情深
(
なさけぶか
)
いお
武家
(
ぶけ
)
様
(
さま
)
に
助
(
たす
)
けられて、
244
斯様
(
かやう
)
な
嬉
(
うれ
)
しい
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬ。
245
モウ
帰
(
かへ
)
りましても
気遣
(
きづか
)
ひは
厶
(
ござ
)
いますまいかな、
246
何
(
なん
)
ならば
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
印
(
しるし
)
を
頂
(
いただ
)
き、
247
それを
以
(
もつ
)
て
軍隊内
(
ぐんたいない
)
を
通過
(
つうくわ
)
し、
248
帰国
(
きこく
)
さして
貰
(
もら
)
へますまいかな』
249
久米彦
(
くめひこ
)
は
折角
(
せつかく
)
手
(
て
)
に
入
(
い
)
つた
此
(
この
)
美人
(
びじん
)
を
帰
(
かへ
)
しては
大変
(
たいへん
)
だと
直
(
ただち
)
に
言葉
(
ことば
)
を
設
(
まう
)
け、
250
久米彦
(
くめひこ
)
『
武士
(
ぶし
)
は
情
(
なさけ
)
を
見知
(
みし
)
るを
以
(
もつ
)
て
第一
(
だいいち
)
とする、
251
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らここ
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
はいろいろ
雑多
(
ざつた
)
のよからぬ
軍人
(
ぐんじん
)
も
交
(
まじ
)
つて
居
(
を
)
れば、
252
実
(
じつ
)
に
険難
(
けんのん
)
千万
(
せんばん
)
だ。
253
此
(
この
)
戦
(
いくさ
)
が
片
(
かた
)
づく
迄
(
まで
)
、
254
吾
(
わが
)
陣営
(
ぢんえい
)
に
居
(
を
)
つたらどうだ。
255
それの
方
(
はう
)
が
其方
(
そち
)
の
身
(
み
)
の
為
(
ため
)
には
安全策
(
あんぜんさく
)
だと
思
(
おも
)
ふ。
256
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
親
(
おや
)
の
懐
(
ふところ
)
に
入
(
はい
)
つた
心算
(
つもり
)
で、
257
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
けてゆつくり
致
(
いた
)
すがよからうぞ』
258
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
259
左様
(
さやう
)
なればお
言葉
(
ことば
)
に
甘
(
あま
)
え、
260
お
世話
(
せわ
)
に
与
(
あづか
)
りませう』
261
久米彦
(
くめひこ
)
『ヨシヨシ、
262
それで
俺
(
おれ
)
もヤツと
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
した』
263
カルナ
姫
(
ひめ
)
『
何
(
なん
)
といい
陽気
(
やうき
)
になつたもので
厶
(
ござ
)
いますな。
264
此
(
この
)
青
(
あを
)
い
芝
(
しば
)
の
上
(
うへ
)
にテントをめぐらし、
265
陣営
(
ぢんえい
)
を
構
(
かま
)
へて、
266
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
勇姿
(
ゆうし
)
は、
267
実
(
じつ
)
に
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
へぬ
崇高
(
すうかう
)
な
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られます。
268
妾
(
わらは
)
も
女
(
をんな
)
と
生
(
うま
)
れた
上
(
うへ
)
は、
269
どうかして
軍人
(
ぐんじん
)
の
妻
(
つま
)
になりたいもので
厶
(
ござ
)
います、
270
ホホホ』
271
久米彦
(
くめひこ
)
『
其方
(
そち
)
はまだ
未婚者
(
みこんしや
)
と
見
(
み
)
えるなア』
272
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
273
現代
(
げんだい
)
の
男子
(
だんし
)
は
総
(
すべ
)
て
恋愛
(
れんあい
)
神聖論
(
しんせいろん
)
だとか、
274
デモクラチツクだとか、
275
耽美
(
たんび
)
生活
(
せいかつ
)
だとか
言
(
い
)
つて、
276
実
(
じつ
)
は
女
(
をんな
)
の
腐
(
くさ
)
つたやうな
男
(
をとこ
)
計
(
ばか
)
りで
厶
(
ござ
)
いますから、
277
妾
(
わらは
)
の
夫
(
をつと
)
として
定
(
さだ
)
むる
男子
(
だんし
)
が
見当
(
みあた
)
りませぬので、
278
未
(
ま
)
だ
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
を
)
ります』
279
久米彦
(
くめひこ
)
『
其方
(
そち
)
の
理想
(
りさう
)
とする
夫
(
をつと
)
は、
280
さうすると
軍人
(
ぐんじん
)
だと
言
(
い
)
ふのかな、
281
軍人
(
ぐんじん
)
位
(
くらゐ
)
単純
(
たんじゆん
)
な
潔白
(
けつぱく
)
な
勇
(
いさ
)
ましいものはない。
282
夫
(
をつと
)
に
持
(
も
)
つのならば
軍人
(
ぐんじん
)
に
限
(
かぎ
)
るなア、
283
アハハハハ』
284
カルナ
姫
(
ひめ
)
『
何程
(
なにほど
)
妾
(
わらは
)
の
如
(
ごと
)
き
者
(
もの
)
が、
285
軍人
(
ぐんじん
)
の
夫
(
をつと
)
を
持
(
も
)
たうと
思
(
おも
)
ひましても、
286
駄目
(
だめ
)
で
厶
(
ござ
)
いますワ。
287
軍人
(
ぐんじん
)
にもいろいろ
厶
(
ござ
)
いまして、
288
上
(
かみ
)
は
将軍
(
しやうぐん
)
より
下
(
しも
)
は
一兵卒
(
いつぺいそつ
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
、
289
ヤツパリ
軍人
(
ぐんじん
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
290
靴磨
(
くつみが
)
きや
馬
(
うま
)
の
掃除
(
さうぢ
)
をするやうな
軍人
(
ぐんじん
)
なら、
291
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
です。
292
どうかしてせめて、
293
士官
(
しくわん
)
位
(
ぐらゐ
)
な
夫
(
をつと
)
が
持
(
も
)
ちたいと
希望
(
きばう
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります』
294
久米彦
(
くめひこ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
鼻
(
はな
)
を
抑
(
おさ
)
へて、
295
久米彦
(
くめひこ
)
『
拙者
(
せつしや
)
はお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
さぬかな』
296
カルナ
姫
(
ひめ
)
『あれマア
何
(
なに
)
仰有
(
おつしや
)
います、
297
御
(
ご
)
勿体
(
もつたい
)
ない、
298
妾
(
わらは
)
は
士官級
(
しくわんきふ
)
で
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
299
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
は
将官級
(
しやうくわんきふ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか。
300
そんな
事
(
こと
)
は
夢
(
ゆめ
)
に
思
(
おも
)
うても
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
ります、
301
ホホホホホ、
302
御
(
ご
)
冗談
(
じようだん
)
仰有
(
おつしや
)
らないやうにして
下
(
くだ
)
さいませ。
303
ねエ
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
』
304
久米彦
(
くめひこ
)
は
策戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
も
地図
(
ちづ
)
も
何
(
なに
)
も
放
(
ほ
)
つたらかして、
305
隣
(
となり
)
のテントに
鬼春別
(
おにはるわけ
)
が
控
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
る
事
(
こと
)
も
忘
(
わす
)
れて
了
(
しま
)
ひ、
306
ソロソロ、
307
ド
拍手
(
びやうし
)
のぬけた、
308
惚気声
(
のろけごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
309
カルナを
膝元
(
ひざもと
)
に
引
(
ひき
)
よせ、
310
カルナの
肩
(
かた
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
311
久米彦
(
くめひこ
)
『オイ、
312
カルナ、
313
さう
男
(
をとこ
)
に
恥
(
はぢ
)
をかかすものだない。
314
どうだ、
315
キツパリと
将軍
(
しやうぐん
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
すと
云
(
い
)
つたらどうだい』
316
カルナ
姫
(
ひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
最早
(
もはや
)
奥
(
おく
)
さまもあり、
317
お
子様
(
こさま
)
も
大
(
おほ
)
きくなつてゐらつしやるでせう。
318
何程
(
なにほど
)
顕要
(
けんえう
)
な
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
たれる
貴方
(
あなた
)
だとて、
319
妾
(
めかけ
)
になつて
女
(
をんな
)
の
貞操
(
ていさう
)
を
弄
(
もてあそ
)
ばれるのはつまりませぬからなア、
320
そんな
御
(
ご
)
冗談
(
じやうだん
)
はやめて
下
(
くだ
)
さいませ』
321
とワザとにプリンと
尻
(
しり
)
をふつてみせた。
322
久米彦
(
くめひこ
)
はたまりかね、
323
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くし
乍
(
なが
)
ら、
324
久米彦
(
くめひこ
)
『イヤ、
325
御説
(
ごせつ
)
御尤
(
ごもつと
)
も、
326
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
拙者
(
せつしや
)
も
理想
(
りさう
)
の
女
(
をんな
)
がないので、
327
恥
(
はづか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
328
今日
(
こんにち
)
迄
(
まで
)
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けてゐるのだ』
329
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ホホホホホ、
330
四十
(
しじふ
)
の
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
えてゐ
乍
(
なが
)
ら、
331
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けてると
仰有
(
おつしや
)
るのは、
332
どこか
御
(
お
)
身体
(
からだ
)
の
一局部
(
いちきよくぶ
)
に
欠点
(
けつてん
)
がお
有
(
あ
)
りなさるので
厶
(
ござ
)
いませぬか。
333
貴方
(
あなた
)
は
男
(
をとこ
)
らしい
立派
(
りつぱ
)
な
男
(
をとこ
)
、
334
況
(
ま
)
して
顕要
(
けんえう
)
の
地位
(
ちゐ
)
にあらせらるる
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
ですから、
335
沢山
(
たくさん
)
の
女
(
をんな
)
にチヤホヤされ
包囲
(
はうゐ
)
攻撃
(
こうげき
)
をくつて、
336
遂
(
つひ
)
には
肝心
(
かんじん
)
の
機械
(
きかい
)
を
毀損
(
きそん
)
し、
337
六〇六
(
ろつぴやくろく
)
号
(
がう
)
の
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
にお
預
(
あづか
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたのでは
厶
(
ござ
)
いますまいか。
338
そんな
事
(
こと
)
であつたならば
折角
(
せつかく
)
無垢
(
むく
)
の
妾
(
わらは
)
の
体
(
からだ
)
に
病毒
(
びやうどく
)
が
感染
(
かんせん
)
し、
339
一生
(
いつしやう
)
不幸
(
ふかう
)
に
陥
(
おちい
)
らねばなりませぬ、
340
併
(
しか
)
し
失礼
(
しつれい
)
の
段
(
だん
)
はお
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
341
と
早
(
はや
)
くもカルナは
久米彦
(
くめひこ
)
の
自分
(
じぶん
)
に
惚
(
のろ
)
け
切
(
き
)
つてゐるのを
看破
(
かんぱ
)
したので、
342
ソロソロ
厭味
(
いやみ
)
半分
(
はんぶん
)
に
揶揄
(
からか
)
ひ、
343
ヂラさうと
考
(
かんが
)
へてゐる
剛胆
(
がうたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
女
(
をんな
)
である。
344
久米彦
(
くめひこ
)
は
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし、
345
声
(
こゑ
)
の
調子
(
てうし
)
迄
(
まで
)
狂
(
くる
)
はせて、
346
久米彦
(
くめひこ
)
『コレヤ、
347
ナイス、
348
余
(
あま
)
り
男
(
をとこ
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするものでないぞ、
349
エエー。
350
お
前
(
まへ
)
は
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
にも
似
(
に
)
ず、
351
随分
(
ずいぶん
)
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つた
事
(
こと
)
をいふ
女
(
をんな
)
だな。
352
大抵
(
たいてい
)
の
女
(
をんな
)
ならば、
353
かやうな
男
(
をとこ
)
計
(
ばか
)
りの
殺風景
(
さつぷうけい
)
な
陣中
(
ぢんちう
)
へ
送
(
おく
)
られて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
は、
354
ブルブル
慄
(
ふる
)
うて、
355
一言
(
ひとこと
)
もよう
言
(
い
)
はないものだが、
356
お
前
(
まへ
)
の
言葉
(
ことば
)
から
考
(
かんが
)
へても、
357
どうやら
女子
(
ぢよし
)
大学
(
だいがく
)
を
卒業
(
そつげふ
)
した
才媛
(
さいえん
)
とみえる。
358
どこともなしに、
359
お
前
(
まへ
)
のいふ
事
(
こと
)
は
垢抜
(
あかぬ
)
けがしてゐるよ。
360
此
(
この
)
夫
(
をつと
)
にして
此
(
この
)
妻
(
つま
)
ありだ。
361
軍人
(
ぐんじん
)
の
妻
(
つま
)
たる
者
(
もの
)
は
軍隊
(
ぐんたい
)
を
恐
(
おそ
)
るるやうな
事
(
こと
)
では
勤
(
つと
)
まらない、
362
今時
(
いまどき
)
の
女性
(
ぢよせい
)
は
活気
(
くわつき
)
がないから
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
つたものだ。
363
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
は
新教育
(
しんけういく
)
を
受
(
う
)
けた
丈
(
だけ
)
あつて、
364
実
(
じつ
)
に
明敏
(
めいびん
)
な
快活
(
くわいくわつ
)
な
頭脳
(
づなう
)
を
持
(
も
)
つてゐる。
365
イヤそれが
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
にはズツと
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた。
366
どうだ
俺
(
おれ
)
の
奥様
(
おくさま
)
になる
気
(
き
)
はないか』
367
カルナ
姫
(
ひめ
)
『ハイ、
368
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
369
願
(
ねが
)
うても
無
(
な
)
い
御縁
(
ごえん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
370
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何程
(
なにほど
)
新
(
あたら
)
しい
女
(
をんな
)
だと
云
(
い
)
うても、
371
妾
(
わらは
)
には
両親
(
りやうしん
)
が
厶
(
ござ
)
いますから、
372
此
(
この
)
戦
(
たたか
)
ひの
終局
(
しうきよく
)
次第
(
しだい
)
、
373
両親
(
りやうしん
)
の
許
(
ゆる
)
しを
受
(
う
)
けてお
世話
(
せわ
)
に
預
(
あづか
)
りませう。
374
貴方
(
あなた
)
も
今
(
いま
)
やビクトリヤ
城
(
じやう
)
攻撃
(
こうげき
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
に
於
(
おい
)
て、
375
女
(
をんな
)
を
相手
(
あひて
)
となさる
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
きますまいからねエ。
376
本当
(
ほんたう
)
に
好
(
す
)
きな
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
だワ』
377
久米彦
(
くめひこ
)
『そんな
気
(
き
)
の
永
(
なが
)
い
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
待
(
ま
)
つてゐられるものだない。
378
俺
(
おれ
)
はモウ
情火
(
じやうくわ
)
燃
(
も
)
え
拡
(
ひろ
)
がり
殆
(
ほとん
)
ど
全身
(
ぜんしん
)
をやき
尽
(
つく
)
さん
許
(
ばか
)
りになつてゐる。
379
どうだ、
380
此処
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
情約
(
じやうやく
)
締結
(
ていけつ
)
をやらうではないか』
381
カルナ
姫
(
ひめ
)
『
左様
(
さやう
)
ならば、
382
互
(
たがひ
)
に
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
が
分
(
わか
)
つたので
厶
(
ござ
)
いますから、
383
予定
(
よてい
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
と
致
(
いた
)
しておきませう。
384
それから
相当
(
さうたう
)
の
仲介人
(
なかうど
)
を
頼
(
たの
)
んで、
385
両親
(
りやうしん
)
に
掛合
(
かけあ
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
386
そこで
内定
(
ないてい
)
といふ
順序
(
じゆんじよ
)
をふみ、
387
いよいよ
確定
(
かくてい
)
に
進
(
すす
)
むべきものですから、
388
マア
楽
(
たのし
)
んで、
389
互
(
たがひ
)
に
吉日
(
きちにち
)
良辰
(
りやうしん
)
の
来
(
きた
)
るを
待
(
ま
)
つ
事
(
こと
)
に
致
(
いた
)
しませうかねえ』
390
久米彦
(
くめひこ
)
『
成程
(
なるほど
)
、
391
予定
(
よてい
)
、
392
内定
(
ないてい
)
、
393
確定
(
かくてい
)
、
394
ヤア
面白
(
おもしろ
)
い。
395
いかにも
新教育
(
しんけういく
)
を
受
(
う
)
けた
丈
(
だけ
)
あつて、
396
お
前
(
まへ
)
のいふ
事
(
こと
)
は
条理
(
でうり
)
整然
(
せいぜん
)
たるものだ。
397
丸
(
まる
)
で
軍隊
(
ぐんたい
)
式
(
しき
)
だ、
398
ヤ、
399
益々
(
ますます
)
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた、
400
アハハハハ』
401
と
他愛
(
たあい
)
もなくド
拍子
(
びやうし
)
の
抜
(
ぬ
)
けた
声
(
こゑ
)
で
笑
(
わら
)
ふ。
402
カルナ
姫
(
ひめ
)
は
所在
(
あらゆる
)
媚
(
こび
)
を
呈
(
てい
)
し、
403
『ホホホホホ』と
何気
(
なにげ
)
なき
体
(
てい
)
で
笑
(
わら
)
つてゐる。
404
併
(
しか
)
し
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
では、
405
……
夫
(
をつと
)
のハルナさまはどうなつたであらうか、
406
もしや
討死
(
うちじに
)
をなさつたのではあるまいか、
407
但
(
ただし
)
は
捕虜
(
ほりよ
)
となつて、
408
敵
(
てき
)
に
捉
(
とら
)
はれて
厶
(
ござ
)
るのではあるまいか、
409
刹帝利
(
せつていり
)
様
(
さま
)
や
父上
(
ちちうへ
)
[
※
カルナ姫は右守ベルツの妹。父は先代の右守だがおそらくすでに故人で登場しない。この「父上」とは夫ハルナの父である左守キュービットのことか? 校定版・八幡版では「や父上」が削除されている。
]
は
如何
(
いかが
)
なり
行
(
ゆ
)
き
玉
(
たま
)
ひしか……と
気
(
き
)
も
気
(
き
)
でなかつた。
410
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大事
(
だいじ
)
の
前
(
まへ
)
の
一小事
(
いちせうじ
)
と、
411
胸底
(
むなそこ
)
深
(
ふか
)
く
包
(
つつ
)
んで
少
(
すこ
)
しも
色
(
いろ
)
に
現
(
あら
)
はさなかつたのは、
412
天晴
(
あつぱれ
)
な
女丈夫
(
ぢよぢやうぶ
)
である。
413
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
に
聞耳
(
ききみみ
)
を
立
(
た
)
て、
414
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
へば、
415
何
(
なん
)
だか
艶
(
なまめ
)
かしい
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
、
416
そしてどうやら
久米彦
(
くめひこ
)
と
情意
(
じやうい
)
投合
(
とうがふ
)
したやうな
気配
(
けはい
)
がするので、
417
嫉
(
や
)
けて
堪
(
たま
)
らず
顔
(
かほ
)
を
真赤
(
まつか
)
にしてテントを
出
(
い
)
で、
418
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
室
(
しつ
)
に
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
419
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らして、
420
鬼春別
(
おにはるわけ
)
『
久米彦
(
くめひこ
)
殿
(
どの
)
、
421
ここは
陣中
(
ぢんちう
)
で
厶
(
ござ
)
るぞ。
422
其
(
その
)
狂態
(
きやうたい
)
は
何事
(
なにごと
)
で
厶
(
ござ
)
る』
423
と
怒気
(
どき
)
を
含
(
ふく
)
んで
叱責
(
しつせき
)
した。
424
久米彦
(
くめひこ
)
は
頭
(
かしら
)
を
抑
(
おさ
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
425
久米彦
(
くめひこ
)
『ヘー、
426
エ、
427
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
います、
428
これには
一寸
(
ちよつと
)
様子
(
やうす
)
があつて……』
429
と
頻
(
しき
)
りに
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
430
手
(
て
)
を
揉
(
も
)
み、
431
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
糊塗
(
こと
)
せむと
焦
(
あせ
)
つてゐる
可笑
(
をか
)
しさ。
432
カルナ
姫
(
ひめ
)
は
思
(
おも
)
はず、
433
『フツフフフフ』
434
と
吹出
(
ふきだ
)
し、
435
俯
(
うつむ
)
いて
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へてゐる。
436
(
大正一二・二・一三
旧一一・一二・二八
於竜宮館
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 女丈夫
(B)
(N)
鬼の恋 >>>
霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第53巻(辰の巻)
> 第2篇 貞烈亀鑑 > 第11章 艶兵
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【第11章 艶兵|第53巻|真善美愛|霊界物語|/rm5311】
合言葉「みろく」を入力して下さい→