霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第一章 逆艪(さかろ)〔一五〇一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第1篇 毀誉の雲翳 よみ(新仮名遣い):きよのうんえい
章:第1章 逆艪 よみ(新仮名遣い):さかろ 通し章番号:1501
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
(ワックス一味のストーリーとしては、第58巻第7章「神船」からの続きである)玉国別一行を湖上に亡き者にしようとしたワックスは、にわかに一変した天候に翻弄され、船頭を失い漂流していた。ワックスは大自在天に願いをかけ、改心して衆生済度のために比丘となり、ハルナの都に出て衆生済度に励むつもりだと無事を祈った。
不思議にも颶風はぴたりと止まった。ワックスはにわかに元気回復し、先ほどの殊勝な気持ちはどこへやら、またしても減らず口を叩きはじめた。仲間たちに自分の祈願の効験を自慢するが、エキスに嵐の中ふるえて神頼みしていた姿をからかわれてしまう。
ワックスたちは船に帆をかけて風の力を借り、三五教の宣伝使たちを追いかけることにした。ワックスは櫓を握ってこぎだし、下らぬ歌を歌って悦に入っている。小さな町にいてデビス姫をものにしようと気張って追いかけていたが、生まれて初めて船に乗って旅行く愉快さと引き比べて思えば馬鹿なことをしていたものだ、などと勝手な感慨にふけっている。
エキスが船漕ぎを変わり、ワックスのこれまでの悪行と失敗をからかう歌を歌った。ワックスは面白くなく、ヘルマンに代わるように命じた。ヘルマンは、三五教の方が女神がやってきて船を与えてくれたりして、よっぽど自分たちより気が利いている、と三五教への傾倒を吐露した。
ワックスはヘルマンの弱きをたしなめて、キヨの港に着きさえすれば、バラモン教の勢力範囲だから三五教徒たちは手もなく捕まえることができるだろうし、そうしてからハルナの都に行けばよい、と諭した。そしてまた自分が櫓を握って船をこぐ。
一行は交代で櫓をこぎ、順風に助けられて、三日目の夕方にキヨの港に安着した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-11-02 02:41:04 文字数:5209 OBC :rm5901
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第10輯 487頁 修補版: 校定版:7頁 普及版: 初版: ページ備考:
001広袤(くわうぼう)千里(せんり)のキヨの湖(うみ)
002俄(にはか)に天候(てんこう)一変(いつぺん)し
003逆巻(さかまく)浪(なみ)に船体(せんたい)を
004上下(じやうげ)左右(さいう)に奔弄(ほんろう)され
005悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)のワックスも
006肝腎要(かんじんかなめ)の機関手(きくわんしゆ)を
007逆巻(さかまく)波(なみ)に攫(さら)はれて
008進(すす)みもならず退(しりぞ)きも
009ならぬ海路(かいろ)の苦(くる)しさに
010気(き)を取直(とりなほ)し立上(たちあが)り
011無性(むしやう)矢鱈(やたら)に櫓(ろ)を漕(こ)いで
012何(いづ)れの岸(きし)にか辿(たど)らむと
013心(こころ)あせれど生(うま)れつき
014テルモン山(ざん)の片隅(かたすみ)に
015鳥(とり)なき里(さと)の蝙蝠(かうもり)を
016気取(きど)つて威張(ゐば)りちらしたる
017其(その)天罰(てんばつ)は忽(たちま)ちに
018報(むく)ゐ来(きた)りて湖(うみ)の上(へ)に
019心(こころ)焦(あせ)れば焦(あせ)る程(ほど)
020老朽船(らうきうせん)はキリキリと
021浪(なみ)の面(おもて)で目(め)を眩(まは)す
022ワックス初(はじ)め三(さん)人(にん)は
023舟(ふね)諸共(もろとも)に目(め)を眩(まは)し
024方角(はうがく)さへも見失(みうしな)ひ
025逆巻(さかまく)波(なみ)と闘(たたか)ひて
026運(うん)をば天(てん)に任(まか)しつつ
027ワックス『梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
028大国彦(おほくにひこ)の大御神(おほみかみ)
029守(まも)らせ玉(たま)へ吾々(われわれ)は
030この海上(かいじやう)の暴風(しけ)に会(あ)ひ
031神(かみ)の試練(しれん)と畏(かしこ)みて
032いよいよ改心(かいしん)仕(つかまつ)り
033サットヷ(衆生(しゆじやう))済度(さいど)のそのために
034此(この)長髪(ちやうはつ)を剃(そ)りおとし
035此(この)世(よ)を捨(す)てて比丘(びく)となり
036ニテヨーデユクタ(常精進)を励(はげ)みつつ
037至仁(しじん)至愛(しあい)の大神(おほかみ)の
038誠(まこと)の教(をしへ)に仕(つか)ふべし
039あゝ皇神(すめかみ)よ皇神(すめかみ)よ
040吾(われ)等(ら)四(よ)人(にん)の改心(かいしん)を
041憫(あは)れみ玉(たま)ひて此(この)颶風(しけ)を
042とめさせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
043赤心(まごころ)籠(こ)めて願(ね)ぎ奉(まつ)る
044悪魔(あくま)は如何(いか)に強(つよ)く共(とも)
045憑(つ)き物(もの)如何(いか)に多(おほ)くとも
046仮令(たとへ)スマートが来(きた)る共(とも)
047誠(まこと)一(ひと)つのバラモンの
048教(をしへ)の道(みち)は世(よ)を救(すく)ふ
049テルモン山(ざん)の山颪(やまおろし)
050早(はや)く治(をさ)まり吾々(われわれ)の
051行手(ゆくて)の幸(さち)を守(まも)りませ
052偏(ひとへ)に願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
053テルモン山(ざん)の聖地(せいち)をば
054痛(いた)い苔(しもと)を加(くは)へられ
055追放(つゐはう)された吾々(われわれ)は
056最早(もはや)詮(せん)なし月(つき)の国(くに)
057ハルナの都(みやこ)に立出(たちい)でて
058心(こころ)の底(そこ)より改良(かいりやう)し
059命(いのち)を惜(をし)まず魂(たましひ)を
060大黒主(おほくろぬし)に奉(たてまつ)り
061一心(いつしん)不乱(ふらん)に神(かみ)の旨(むね)を
062四方(よも)に開(ひら)かむ吾(わ)が覚悟(かくご)
063此(この)海(うみ)無事(ぶじ)にキヨ港(こう)の
064花(はな)咲(さ)く岸(きし)に安々(やすやす)と
065進(すす)ませ玉(たま)へ惟神(かむながら)
066神(かみ)かけ念(ねん)じ奉(たてまつ)る』
067と一生(いつしやう)懸命(けんめい)に歌(うた)ひ乍(なが)ら櫓(ろ)を操(あやつつ)てゐる。068バラモンの大神(おほかみ)がワックスの願(ねが)ひを聴許(ちやうきよ)遊(あそ)ばしたのか、069或(あるひ)は三五教(あななひけう)の大本(おほもと)大神(おほかみ)がお許(ゆる)し遊(あそ)ばしたのか、070不思議(ふしぎ)にも颶風(ぐふう)はピタリと止(と)まり、071見(み)るも恐(おそ)ろしき激浪(げきらう)怒濤(どたう)は漸(やうや)く凪(な)いで鏡面(きやうめん)の如(ごと)く鎮(しづ)まり、072浪(なみ)キラキラと日光(につくわう)に輝(かがや)き初(はじ)めた。073テルモン山(ざん)は前方(ぜんぱう)に当(あた)つて、074雲表(うんぺう)に高(たか)く其(その)雄姿(ゆうし)を現(あら)はし、075中腹(ちうふく)に雲(くも)の帯(おび)を締(し)めて、076泰然(たいぜん)として此(この)湖面(こめん)を眺(なが)めてゐる。077ワックスは大旱(たいかん)の水田(すいでん)に喜雨(きう)を得(え)たるが如(ごと)く、078俄(にはか)に元気(げんき)恢復(くわいふく)し、079叶(かな)はぬ時(とき)の神頼(かみだの)み、080慄(ふる)ひ戦(をのの)いてゐた魂(たましひ)はどこへやら、081ソロソロ減(へ)らず口(ぐち)を叩(たた)き始(はじ)めたり。
082ワックス『オイ、083エキス、084ヘルマンの恐喝(きようかつ)先生(せんせい)、085六百(ろくぴやく)円(ゑん)の強奪者(がうだつしや)、086並(なら)びに睾丸潰(きんたまつぶ)しのエルの奴(やつ)、087何(なに)をグヅグヅしてゐやがるのだい。088いいかげんに頭(あたま)を上(あ)げぬかい。089仕方(しかた)のない代物(しろもの)だなア。090流石(さすが)の颶風(しけ)も怒濤(どたう)も、091此(この)ワックスさまの御(ご)祈願(きぐわん)に仍(よ)つて、092之(こ)れ見(み)ろ。093言下(げんか)に静(しづ)まり、094ケロリカンとして、095夢(ゆめ)をみたやうな面(つら)をさらしてゐるぢやないか。096本当(ほんたう)にワックスさまの御(ご)威勢(ゐせい)といふものは偉大(ゐだい)なものだらう』
097エキス『ヘン、098仰有(おつしや)いますわい。099恐怖心(きようふしん)に襲(おそ)はれ、100ガタガタ慄(ぶる)ひの大将(たいしやう)奴(め)、101憫(あは)れつぽい声(こゑ)を出(だ)して、102哀求(あいきう)歎願(たんぐわん)と出(で)かけた時(とき)の、103汝(きさま)の御(ご)面相(めんさう)つたら、104絵(ゑ)にもかけないやうだつたよ。105ああ云(い)ふ時(とき)に泰然(たいぜん)自若(じじやく)、106動(うご)かざること山岳(さんがく)の如(ごと)し、107態(てい)の、108吾々(われわれ)は態度(たいど)を以(もつ)て、109運命(うんめい)を天(てん)に任(まか)してゐたのだ。110汝(きさま)は生(せい)の執着(しふちやく)が人一倍(ひといちばい)濃厚(のうこう)だから、111こんな時(とき)になつて、112醜体(しうたい)を演(えん)ずるのだ。113何(なん)だ、114男(をとこ)らしうもない。115限(かぎり)ある狭(せま)い舟(ふね)の上(うへ)を右往(うわう)左往(さわう)に転(ころ)げ廻(まは)りよつて、116其(その)みつともなさ、117本当(ほんたう)に吾々(われわれ)男子(だんし)の面汚(つらよご)しだよ』
118ワックス『コリヤ、119汝(きさま)何(なん)と云(い)ふことをほざくのだ。120又(また)罰(ばち)が当(あた)つて、121今度(こんど)こそ舟(ふね)が転覆(てんぷく)して了(しま)ふぞ。122其(その)時(とき)になつて吠面(ほえづら)かわいても、123ワックスの救主(すくひぬし)は知(し)らぬぞよ。124早(はや)く改心(かいしん)したが其(その)方(はう)の得(とく)だぞよ。125改心(かいしん)致(いた)さねば、126目(め)に物(もの)みせてやらうぞよ……と大自在天(だいじざいてん)様(さま)の御(お)諭(さと)しにあるのを、127汝(きさま)知(し)つてゐるだらうなア』
128エキス『そんなことは、129とうの昔(むかし)に御存(ごぞん)じの此(この)方(はう)さまだ。130オイ、131ワックス、132肝腎要(かんじんかなめ)の魔法使(まはふつかひ)を取逃(とりに)がし、133どうする積(つもり)だい』
134ワックス『どうせ、135俺(おれ)達(たち)も此(この)海原(うなばら)を渡(わた)らねばならぬのだから、136又(また)途中(とちう)で追(お)ひついて、137十分(じふぶん)油(あぶら)を絞(しぼ)り、138往生(わうじやう)さしてやれば可(い)いのだ』
139エキス『ヘン、140往生(わうじやう)させられるのだらう、141何(なん)と云(い)つても、142弱(よわ)きを挫(くじ)き、143強(つよ)きに従(したが)ふといふ悪酔会(あくすゐくわい)前会長(ぜんくわいちやう)だからな』
144ワックス『汝(きさま)等(ら)145可(い)いかげんに起(お)きて此(この)櫓(ろ)を操縦(さうじう)せないか。146放(ほ)つておいたら、147どんな所(とこ)へ漂着(へうちやく)するか知(し)れぬぢやないか』
148エキス『漂着(へうちやく)を待(ま)つてゐるのだ。149一時(いつとき)も早(はや)く陸地(りくち)へ着(つ)いて、150そこからテクつた方(ほう)が何程(なにほど)安心(あんしん)だか分(わか)らぬワ。151メツタに山(やま)で溺死(できし)する気遣(きづかひ)はないからのう』
152ワックス『先方(むかふ)は舟(ふね)で一直線(いつちよくせん)に走(はし)つて行(ゆ)きよるなり、153こつちや山(やま)を越(こ)え谷(たに)を越(こ)え、154難路(なんろ)を辿(たど)つて居(を)らうものなら、155何時(いつ)キヨの港(みなと)迄(まで)つくか分(わか)らないワ。156何(なん)とかして此(この)水路(すゐろ)を進(すす)むことにしたら如何(どう)だ』
157エキス『何(なん)としても法(はふ)がつかぬぢやないか、158何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も舟(ふね)を操縦(さうじう)する事(こと)に妙(めう)を得(え)て居(ゐ)ない阿呆(あはう)人種(じんしゆ)計(ばか)りだからのう』
159エル『オイ、160其(その)アホを此(この)北風(きたかぜ)にかけて、161一直線(いつちよくせん)に駆(か)けて進(すす)んだら可(い)いぢやないか、162さうすりや骨(ほね)を折(を)つて櫓(ろ)を操(あやつ)る必要(ひつえう)もなし、163風(かぜ)の神(かみ)が自然(しぜん)に先方(むかふ)へ渡(わた)してくれるワ』
164ワックス『成程(なるほど)、165よい考(かんが)へがついた』
166とガラガラと綱(つな)を引張(ひつぱり)上(あ)げ、167茶色(ちやいろ)になつた帆(ほ)を巻上(まきあ)げた。168忽(たちま)ち帆(ほ)は弓(ゆみ)の如(ごと)く風(かぜ)を孕(はら)むでサア サア サア サアと音(おと)を立(た)て乍(なが)ら、169勢(いきほひ)よく辷(すべ)り出(だ)した。170エルは櫓(ろ)を手(て)に握(にぎ)り覚束(おぼつか)なげに、171舟(ふね)の舵(かぢ)をとり乍(なが)ら、172欵乃(ふなうた)を唄(うた)い出(だ)した。
173エル『(追分(おひわけ))虎(とら)は千(せん)里(り)の藪(やぶ)さへ越(こ)すに
174 これの湖水(こすゐ)がなぜ越(こ)えられぬ。
175(安来節(やすきぶし)調(てう))神(かみ)の館(やかた)の宝珠(ほつしゆ)の玉(たま)を
176 盗(ぬす)みそこねた人(ひと)がある。
177月(つき)は御空(みそら)にテルモン館(やかた)
178 デビスの姿(すがた)は花(はな)か雪(ゆき)。
179花(はな)の香(かを)りを慕(した)うて来(き)たる
180 蝶(てふ)かあらぬか蛆虫(うじむし)か。
181劫(ごふ)をワックス家令(かれい)の悴(せがれ)
182 今(いま)は湖上(こじやう)で泣(な)いてゐる。
183泣(な)いて明志(あかし)のテルモン館(やかた)
184 これが此(この)世(よ)の見(み)をさめか。
185(琉球節(りうきうぶし)調(てう))風(かぜ)は北(きた)からみ舟(ふね)を送(おく)る
186 送(おく)る風(かぜ)こそケリナの息(いき)よ。
187薬鑵爺(やくくわんおやぢ)に先(ま)づ生(い)き別(わか)れ
188 デビスのお姫(ひめ)さまにや泣(な)き別(わか)れ』
189ワックス『コラコラ エルの奴(やつ)、190何(なに)を吐(ぬか)すのだ、191せうもない。192汝(きさま)、193チツと休(やす)むだらよからう。194俺(おれ)がこれから、195櫓(ろ)を握(にぎ)つて一(ひと)つ唄(うた)つてやるのだ』
196エル『(琉球節(りうきうぶし)調(てう))素破(すつぱ)ぬかれたワックスさまは
197 肚(はら)が立(た)つなり波(なみ)が立(た)つ』
198と唄(うた)ひ乍(なが)ら櫓(ろ)をパツと放(はな)した。199ワックスは手早(てばや)く櫓(ろ)を握(にぎ)り、
200ワックス『コラ、201スツテのことで櫓(ろ)を波(なみ)に取(と)られるとこだつた。202チツと気(き)をつけぬかい。203此奴(こいつ)を取(と)られた以上(いじやう)、204思(おも)ふ所(とこ)へ舟(ふね)が向(む)けられぬぢやないか。205馬鹿(ばか)だなア』
206エル『ヘン、207マア馬鹿(ばか)になつておかうかい、208悧口(りこう)の者(もの)や賢(かしこ)い者(もの)や器用(きよう)な者(もの)になると、209皆(みな)阿呆(あはう)共(ども)の道具(だうぐ)に使(つか)はれるからなア。210少(すこ)し書(しよ)でも甘(うま)いと、211あのエルさまに看板(かんばん)を書(か)いて貰(もら)はうとか、212橋(はし)の名(な)を書(か)いて貰(もら)はうとか、213大福帳(だいふくちやう)の表紙(へうし)を認(したた)めて貰(もら)はうとかぬかしよつて、214阿呆(あはう)共(ども)の弄物(おもちや)にしられるのだ。215学者(がくしや)や智者(ちしや)になるものぢやないワ。216ワックスさま、217宜(よろ)しく頼(たの)みます。218随分(ずいぶん)お前(まへ)さまが櫓(ろ)を握(にぎ)つた時(とき)は立派(りつぱ)なものだ。219足(あし)の爪先(つまさき)迄(まで)力(ちから)が入(はい)つてるやうだ。220最前(さいぜん)の船頭(せんどう)のやうに、221自分(じぶん)の握(にぎ)つた櫓(ろ)の柄(つか)に撥(は)ね飛(と)ばされぬやうになさいませや』
222と鼻(はな)の頭(あたま)を三(み)つ四(よ)つかき乍(なが)ら、223船底(ふなぞこ)にゴロリと横(よこた)はる。224ワックスは櫓(ろ)を握(にぎ)り、225広(ひろ)き湖面(こめん)を眺(なが)めて、
226ワックス『旭(あさひ)輝(かがや)く鏡(かがみ)の湖(うみ)に
227 悪(あく)の鏡(かがみ)を乗(の)せて行(ゆ)く。
228清(きよ)き真水(まみづ)の漂(ただよ)ふ湖(うみ)を
229 悪酔(あくすゐ)カイが舟(ふね)を漕(こ)ぐ。
230悪(あく)に強(つよ)けりや善(ぜん)にも強(つよ)い
231 善(ぜん)と悪(あく)との海(うみ)を行(ゆ)く。
232波(なみ)は立(た)つ共(とも)心(こころ)は立(た)たぬ
233 腰(こし)のぬけたる阿呆舟(あはうぶね)。
234舟(ふね)は舟(ふね)だが白河(しらかは)夜舟(よぶね)
235 夢(ゆめ)か現(うつつ)で世(よ)を送(おく)る。
236牛(うし)に睾丸(きんたま)踏(ふ)まれた奴(やつ)は
237 とても乗(の)られぬ玉(たま)の舟(ふね)。
238死(し)なぬ前(さき)からあわてた奴(やつ)が
239 十字(じふじ)街頭(がいとう)に踏(ふ)み迷(まよ)ふ。
240迷(まよ)うた亡者(まうじや)の睾丸(きんたま)潰(つぶ)し
241 阿呆(あはう)の帆(ほ)(呆(はう))かけ此(この)湖(うみ)渡(わた)る。
242傷(きず)はヅキヅキ膿(うみ)ボトボトと
243 涙(なみだ)流(なが)して波(なみ)の上(うへ)。
244上(うへ)にや青雲(あをぐも)下(した)には藻草(もぐさ)
245 中(なか)を乗(の)り行(ゆ)く阿呆(あはう)のエル。
246アハヽヽヽ、247面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、248生(うま)れてから始(はじ)めて舟(ふね)に乗(の)つたが、249何(なん)と愉快(ゆくわい)なものだな。250デビスの暗(くら)がり船(ぶね)に乗(の)りたい乗(の)りたいと思(おも)つて、251今(いま)迄(まで)どれ丈(だけ)マストを立(た)てたり、252白帆(しらほ)をあげて、253きばつたか知(し)れないが、254今(いま)となつて考(かんが)へてみると、255本当(ほんたう)に馬鹿臭(ばかくさ)い様(やう)だ。256矢張(やつぱり)、257人間(にんげん)は広(ひろ)い所(ところ)へ出(で)て来(こ)ねば駄目(だめ)だな』
258エキス『オイ、259ワックス先生(せんせい)、260チツと一服(いつぷく)したら何(ど)うだ。261俺(おれ)も一(ひと)つ練習(れんしふ)の為(ため)に、262此(この)静(しづ)かな湖(うみ)で、263櫓(ろ)の稽古(けいこ)をやつておかぬと、264マサカの時(とき)に栃麺棒(とちめんぼう)を振(ふ)るからのう』
265ワックス『長(なが)い海路(かいろ)だから、266俺(おれ)も今(いま)から精力(せいりよく)を消耗(せうまう)さしてはつまらぬから、267汝(きさま)に櫓権(ろけん)を暫(しばら)く掌握(しやうあく)させてやらう。268サア早(はや)く握(にぎ)つたり握(にぎ)つたり』
269エキス『ヤ、270有難(ありがた)い、271それなら、272新内閣(しんないかく)の総理(そうり)大臣(だいじん)だ。273官海(くわんかい)游泳術(いうえいじゆつ)に慣(な)れた此(この)方(はう)だから、274マア見(み)てゐ玉(たま)へ、275随分(ずいぶん)素晴(すばら)しい技能(ぎのう)を発揮(はつき)してお目(め)にかけるから……』
276ワックス『ヘン、277官海(くわんかい)なんて、278馬鹿(ばか)にするない、279汝(きさま)は渡海(とかい)否(いや)盗界(たうかい)の覇者(はしや)だ。280盗界節(たうかいぶし)でも唄(うた)うて、281追手(おつて)の目(め)を韜晦(とうくわい)する方(はう)が余程(よほど)性(しやう)に合(あ)うてるだらうよ』
282エキス『どうどうと握(にぎ)る天下(てんか)の大権(たいけん)よりも
283 櫓櫂(ろかい)つかんだ面白(おもしろ)さ。
284面白(おもしろ)い悪(あく)と悪(あく)との身魂(みたま)を乗(の)せて
285 キヨの海(うみ)をば汚(けが)し行(ゆ)く。
286犬(いぬ)に乗(の)りたる以前(いぜん)のナイス
287 今(いま)は何処(いづこ)の波(なみ)の上(うへ)。
288三百(さんびやく)の金(かね)は何時(いつ)しか吾(わが)懐(ふところ)を
289 辷(すべ)り出(い)でたる海(うみ)の上(うへ)。
290金(かね)が仇(かたき)の浮世(うきよ)と聞(き)けど
291 金(かね)が無(な)ければ渡(わた)れない。
292さり乍(なが)ら海(うみ)を渡(わた)るにや金(かね)ではゆかぬ
293 舟(ふね)が命(いのち)の守神(まもりがみ)。
294神(かみ)の館(やかた)を放逐(ほうちく)されて
295 尻(しり)の据場(すゑば)に困(こま)る奴(やつ)。
296金盥(かなだらひ)尻(しり)に当(あて)られカンカンと
297 照(て)らす夏日(なつひ)の其(その)暑(あつ)さ。
298面(つら)の皮(かは)あつい許(ばか)りか尻(しり)迄(まで)が
299 あつい男(をとこ)とほめられた。
300ワックスは色(いろ)と欲(よく)との二(ふた)つに離(はな)れ
301 泣(な)いて彷徨(さまよ)ふ海(うみ)の上(うへ)。
302エキスさま甘(うま)いエキスふ新(あたら)し男(をとこ)
303 蛸(たこ)のお化(ば)けと人(ひと)が云(い)ふ。
304吸(す)いついて鼠泣(ねずみな)きせうと夢(ゆめ)みた男(をとこ)
305 猫(ねこ)に逐(お)はれて逃(に)げ出(だ)した。
306猫(ねこ)かぶり薬鑵爺(やくくわんおやぢ)の機嫌(きげん)をとりて
307 居(を)つた甲斐(かひ)なく馬鹿(ばか)にされ。
308肝腎(かんじん)の金(かね)は他人(たにん)にぼつたくられて
309 尻(しり)にお金(かね)の叩(たた)き払(ばら)ひ。
310天葬式(てんさうしき)泣(な)いて笑(わら)うて悔(くや)んで踊(をど)る
311 義理泣(ぎりな)き女(をんな)のホクソ笑(ゑみ)』
312ワックス『コラ、313エキス、314湖上(こじやう)で死(し)ぬだの死(し)なぬのと、315ナニ不吉(ふきつ)なことをほざくのだ。316又(また)、3161颶風(しけ)が襲来(しふらい)するぞ。317チツと言霊(ことたま)を慎(つつし)まぬか』
318エキス『手(て)がだるい、腹(はら)が立(た)つ、極道(ごくだう)息子(むすこ)と湖上(こじやう)を越(こ)せば
319 あちら此方(こちら)に信天翁(あはうどり)。
320信天翁(あはうどり)、運上(うんじやう)取(と)らうとワックス目(め)がけ
321 バタバタ翼(つばさ)を打(う)つてゐる。
322ゆすられて、泣(な)き泣(な)き放(ほ)り出(だ)す惜(を)しい金(かね)
323 首(くび)をつなぐと泣(な)く涙(なみだ)』
324ワックス『オイ、325ヘルマン、326エキスの奴(やつ)、327仕方(しかた)がないから、328汝(きさま)一(ひと)つ目出度(めでた)い唄(うた)を唄(うた)つて宣(の)り直(なほ)してくれないか』
329ヘルマン『さうだなア、330のり直(なほ)さうと云(い)つたつて、331外(ほか)に空舟(あきぶね)もなし、332矢張(やつぱり)乗続(のりつづ)けるより仕方(しかた)がないぢやないか。333玉国別(たまくにわけ)は甘(うま)く乗直(のりなほ)して、334サツサとお先(さき)へやつて行(ゆ)きよつたが、335俺(おれ)達(たち)は一体(いつたい)行末(ゆくすゑ)が案(あん)じられて仕方(しかた)がないワ。336最前(さいぜん)から、337実(じつ)は前途(ぜんと)を案(あん)じ、338チツと許(ばか)り憂愁(いうしう)の涙(なみだ)に沈(しづ)みてゐた所(ところ)だ。339あーあ。340仕方(しかた)がない、341……寄辺渚(よるべなぎさ)の捨小舟(すてをぶね)、342どこへ取(とり)つく島(しま)もなしか……ぢやと云(い)つて、343湖水(こすゐ)に投身(とうしん)して魚腹(ぎよふく)に葬(はうむ)られるのも、344何(なん)だか気(き)が利(き)かないやうだし、345あゝ何(ど)うしたら可(よ)からうかなア。346俺(おれ)やモウ世(よ)の中(なか)が厭(いや)になつたのだ。347何(なん)とかして三五教(あななひけう)のムニヤ ムニヤ ムニヤ』
348ワックス『ヤ、349何(なん)と申(まを)す、350汝(きさま)は三五教(あななひけう)の弟子(でし)になりたいといふのだな』
351ヘルマン『ナアニ、352三五教(あななひけう)の向(むか)うを張(は)つて一(ひと)つ男(をとこ)を立(た)てねば世間(せけん)に顔出(かほだ)しが出来(でき)ないといふのだ。353玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)には俺(おれ)達(たち)があこ迄(まで)仕組(しぐ)みて、354既(すで)に仇(あだ)を報(むく)ゐむと、355九分(くぶ)九厘(くりん)迄(まで)行(い)つた所(ところ)へ、356マンヂューシリ菩薩(ぼさつ)か、357アバローキテー・358シュヷラのやうな女神(めがみ)様(さま)が立派(りつぱ)な船(ふね)を以(もつ)て迎(むか)へに来(き)たり、359自分(じぶん)は犬(いぬ)に乗(の)つて海上(かいじやう)を渡(わた)つて行(ゆ)くといふ様(やう)な離(はな)れ業(わざ)が出来(でき)るのだからなア。360何(なん)と云(い)つても敵(てき)乍(なが)ら大(たい)したものだよ』
361ワックス『サア、362そこが魔法使(まはふつかひ)の魔法使(まはふつかひ)たる所以(ゆゑん)だ。363正法(しやうはふ)に不思議(ふしぎ)なし、364君子(くんし)は怪力(くわいりき)乱神(らんしん)を語(かた)らずといふぢやないか。365キツと邪法(じやはふ)だよ』
366ヘルマン『それでもお前(まへ)の様(やう)に微力(びりよく)乱心(らんしん)に比(くら)べてみたら、367余程(よほど)マシぢやないか。368俺(おれ)は何(なん)だか、369あの三五教(あななひけう)とやらが、370俄(にはか)に好(すき)に……なつて……は来(こ)ぬのだ。371本当(ほんたう)に三五教(あななひけう)の神(かみ)様(さま)とバラモン教(けう)の神(かみ)様(さま)とは、372正邪(せいじや)善悪(ぜんあく)の差別(けじめ)が非常(ひじやう)についてゐる様(やう)に思(おも)はれてならないのだ』
373ワックス『どちらが正(せい)で374どちらが邪(じや)といふのだ』
375ヘルマン『邪(じや)と申(まを)して、376俄(にはか)に判断(はんだん)がつかないワ。377マア行(ゆ)く所(ところ)迄(まで)行(ゆ)かねば分(わか)らない。378併(しか)し乍(なが)ら安心(あんしん)してくれ、379俺(おれ)は素(もと)よりバラモン教徒(けうと)だから、380メツタに外道(げだう)の教(をしへ)に溺没(できぼつ)するやうな無腸漢(むちやうかん)ぢやないからのう。381併(しか)し乍(なが)らよく考(かんが)へてみよ、382俺(おれ)達(たち)四(よ)人(にん)はバラモン教(けう)のピュリタンぢやないか。383それにも拘(かかは)らず、384バラモン館(やかた)を大勢(おほぜい)の前(まへ)で笞刑(ちけい)をうけて放逐(はうちく)されたのだから、385神(かみ)様(さま)から見放(みはな)されたのかも知(し)れないよ。386さすれば捨(す)てる神(かみ)もあれば拾(ひろ)ふ神(かみ)もありといふから、387実際(じつさい)捨(す)てられたとすれば、388人(ひと)は無宗教(むしうけう)で此(この)世(よ)に立(た)つてゆけないから、389何(なん)とか考(かんが)へねばなるまい』
390ワックス『ナニ、391心配(しんぱい)するな。392キヨの港(みなと)へついたら最後(さいご)、393どこもかも皆(みな)バラモン教(けう)の勢力(せいりよく)範囲(はんゐ)だから、394三五教(あななひけう)の魔法使(まはふつかひ)を巧(うま)く捕縛(ほばく)するか、395もしも力(ちから)に及(およ)ばねば関所(せきしよ)へ密告(みつこく)して手柄(てがら)を現(あら)はしさへすれば、396又(また)立派(りつぱ)なバラモン教(けう)のピュリタンとして、397安全(あんぜん)無事(ぶじ)に関所(せきしよ)の切手(きつて)を貰(もら)ひ、398ハルナの都(みやこ)へ安全(あんぜん)に行(ゆ)かうとままだ。399何(なん)とマア舟(ふね)の早(はや)いことだのう。400これも全(まつた)くバラモンの神(かみ)様(さま)のお蔭(かげ)だよ。401サア、402エル、403そこどけ、404俺(おれ)が一(ひと)つ櫓(ろ)を操(あやつ)つてやらう』
405と言(い)ひ乍(なが)ら、406代(かは)る代(がは)る櫓(ろ)を握(にぎ)り、407順風(じゆんぷう)に助(たす)けられて408都合(つがふ)好(よ)くキヨの港(みなと)へ三日目(みつかめ)の夕方(ゆふがた)安着(あんちやく)したりける。
409(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 松村真澄録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→