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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
第1章 逆艪
第2章 歌垣
第3章 蜜議
第4章 陰使
第5章 有升
第2篇 厄気悋々
第6章 雲隠
第7章 焚付
第8章 暗傷
第9章 暗内
第10章 変金
第11章 黒白
第12章 狐穴
第3篇 地底の歓声
第13章 案知
第14章 舗照
第15章 和歌意
第16章 開窟
第17章 倉明
第4篇 六根猩々
第18章 手苦番
第19章 猩々舟
第20章 海竜王
第21章 客々舟
第22章 五葉松
第23章 鳩首
第24章 隆光
第25章 歓呼
余白歌
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第59巻(戌の巻)
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<<< 猩々舟
(B)
(N)
客々舟 >>>
第二〇章
海竜王
(
さあがらりうわう
)
〔一五二〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第4篇 六根猩々
よみ(新仮名遣い):
ろっこんしょうじょう
章:
第20章 海竜王
よみ(新仮名遣い):
さあがらりゅうおう
通し章番号:
1520
口述日:
1923(大正12)年04月03日(旧02月18日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
伊太彦たちは船団を出航させた。アキス、アンチーは舟歌に述懐を乗せて歌った。一行の舟は自然に猩々ヶ島に向かった。早くも正午ごろには船団は島に着いた。
見れば、島の中心に屹立する岩山に大蛇が取り巻き、猩々の群れを飲み喰らおうとしていた。これはキヨメの湖の底深く潜んでいる海竜でサァガラ竜王という。三年に一度この島に現れて、あらゆる生き物を食い尽くそうとする恐ろしい悪竜である。
今までは猩々女王が控えていたためにサァガラ竜王も島に上陸することができなかったが、女王が死んだ今、眷属たちを飲みこもうと上がってきたのであった。猩々たちは磯端に集まって、ヤッコス、ハール、サボールたちに救いを求めていた。
ヤッコスたちは自分たちもどうせ食われるならできる限り抵抗しようと覚悟を決め、磯端の石を拾って竜神に投げつけた。三百余匹の猩々たちも三人にならって石つぶてを投げ始めた。
さすがの竜王も辟易し、まず人間を倒そうと鎌首を上げて目を怒らし、隙を狙っている。伊太彦はこの様子を見ると船の先に立ちあがり天の数歌を奏上した。すると竜王の身体の各部より煙を吐きだし、鱗の間から火焔が立ち上った。
竜王はついに熱さに堪えかねて岩山から転げ落ち、湖水中深くに沈んでしまった。あたりの水は湯のように熱くなり、たくさんの魚が浮いてきた。伊太彦は魚族を助けるために天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱えた。水は冷え、魚は動きだし、幾十万とも知れず磯端の泳ぎ来て伊太彦に感謝の意を表すごとく首を上下に振りながら、一斉に姿を水中に隠した。
ヤッコスたちは伊太彦に感謝の意を表した。伊太彦が酒樽の栓を抜かせると、猩々たちは集まってきて舟に乗り込んだ。ヤッコスたち三人も舟に乗せると、天の数歌と祝詞を唱え、船首を転じて帰路に就いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
サァガラ竜王(サーガラ竜王)
データ凡例:
データ最終更新日:
2019-05-15 04:00:17
OBC :
rm5920
愛善世界社版:
259頁
八幡書店版:
第10輯 576頁
修補版:
校定版:
274頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
猩々
(
しやうじやう
)
の
島
(
しま
)
へ
渡
(
わた
)
るべく
002
使命
(
しめい
)
を
受
(
う
)
けし
伊太彦
(
いたひこ
)
は
003
アキスやカールやアンチーを
004
左右
(
さいう
)
の
柱
(
はしら
)
と
定
(
さだ
)
めつつ
005
二十
(
にじふ
)
の
舟
(
ふね
)
に
酒樽
(
さかだる
)
を
006
半
(
なかば
)
つめこみ
四十
(
しじふ
)
人
(
にん
)
007
船頭
(
せんどう
)
を
選
(
えら
)
み
朝
(
あさ
)
まだき
008
大海原
(
おほうなばら
)
を
勇
(
いさ
)
ましく
009
波
(
なみ
)
に
鼓
(
つづみ
)
をうたせつつ
010
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
辷
(
すべ
)
りゆく
011
折柄
(
をりから
)
吹
(
ふき
)
来
(
く
)
る
南風
(
なんぷう
)
に
012
真帆
(
まほ
)
を
掲
(
かか
)
げて
驀地
(
まつしぐら
)
013
一瀉
(
いつしや
)
千里
(
せんり
)
の
勢
(
いきほひ
)
は
014
見
(
み
)
るも
目覚
(
めざま
)
しき
次第
(
しだい
)
なり。
015
アンチーは
船頭頭
(
せんどうがしら
)
として、
016
旗艦
(
きかん
)
の
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
017
アンチー『ここは
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふキヨメの
湖
(
うみ
)
よ
018
波
(
なみ
)
に
浮
(
う
)
かべる
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
へ
019
やらるる
此
(
この
)
身
(
み
)
は
厭
(
いと
)
はねど
020
跡
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りしバーチルさまの
021
どうして
女房
(
にようばう
)
子
(
こ
)
が
永
(
なが
)
い
月日
(
つきひ
)
を
暮
(
くら
)
すやら。
022
なぜなれば
023
人
(
ひと
)
の
体
(
からだ
)
で
人
(
ひと
)
でなし
024
ぢやとて
神
(
かみ
)
ではない
程
(
ほど
)
に
025
さぞや
皆
(
みな
)
さまが
困
(
こま
)
るだろ
026
案
(
あん
)
じすごして
舟
(
ふね
)
を
待
(
ま
)
つ。
027
舟
(
ふね
)
を
待
(
ま
)
つ
間
(
ま
)
の
猩々
(
しやうじやう
)
の
姫
(
ひめ
)
は
028
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
でキヤツ キヤツ キヤツと
029
怪体
(
けたい
)
な
声
(
こゑ
)
を
張
(
はり
)
あげて
030
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
に
031
鎮魂
(
ちんこん
)
帰神
(
きしん
)
で
責
(
せ
)
められる
032
どうして
其
(
その
)
間
(
ま
)
が
暮
(
く
)
れるやら』
033
アキス『
内
(
うち
)
の
主人
(
しゆじん
)
は
偉
(
えら
)
い
人
(
ひと
)
034
三年
(
みとせ
)
三月
(
みつき
)
も
和田中
(
わだなか
)
の
035
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
に
現
(
あら
)
はれて
036
お
猿
(
さる
)
の
王
(
わう
)
をば
妻
(
つま
)
となし
037
三百
(
さんびやく
)
余
(
あま
)
りの
子
(
こ
)
を
持
(
も
)
つて
038
一
(
ひと
)
つの
島
(
しま
)
の
王
(
わう
)
となり
039
誰
(
たれ
)
憚
(
はばか
)
らず
悠々
(
いういう
)
と
040
暮
(
くら
)
し
玉
(
たま
)
ふた
猛者
(
つはもの
)
ぞ
041
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
042
迎
(
むか
)
ひの
舟
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せられて
043
アヅモス
山
(
さん
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
044
帰
(
かへ
)
らせ
玉
(
たま
)
ひし
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
は
045
スマの
神村
(
かみむら
)
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち
046
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
分
(
わか
)
ちなく
047
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよと
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
つ
048
たつた
一人
(
ひとり
)
のバーチルが
049
帰
(
かへ
)
つて
厶
(
ござ
)
つた
許
(
ばつか
)
りに
050
イヅミの
国
(
くに
)
のスマの
里
(
さと
)
051
湿
(
しめ
)
り
勝
(
がち
)
なる
草村
(
くさむら
)
も
052
俄
(
にはか
)
にかわきはしやいで
053
夜明
(
よあけ
)
の
如
(
ごと
)
くなつたぞや
054
サア
是
(
これ
)
からは
是
(
これ
)
からは
055
アヅモス
山
(
さん
)
の
古社
(
ふるやしろ
)
056
眷族
(
けんぞく
)
さまの
木像
(
もくざう
)
を
057
刻
(
きざ
)
み
直
(
なほ
)
して
古
(
いにしへ
)
の
058
健康体
(
けんかうたい
)
に
造
(
つく
)
り
替
(
か
)
へ
059
手
(
て
)
が
折
(
を
)
れ
足
(
あし
)
は
虫
(
むし
)
が
喰
(
く
)
ひ
060
首
(
くび
)
までぬけた
負傷者
(
ふしやうしや
)
を
061
一
(
ひと
)
つも
残
(
のこ
)
らずアヅモスの
062
衛獣
(
ゑいじう
)
病院
(
びやうゐん
)
に
担
(
かつ
)
ぎこみ
063
彫刻
(
てうこく
)
医者
(
いしや
)
をば
招
(
よ
)
んで
来
(
き
)
て
064
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
に
修繕
(
しうぜん
)
し
065
新旧
(
しんきう
)
両派
(
りやうは
)
が
睦
(
むつ
)
まじく
066
一
(
ひと
)
つの
宮
(
みや
)
に
集
(
あつ
)
まつて
067
真善
(
しんぜん
)
美愛
(
びあい
)
の
実況
(
じつきやう
)
を
068
現
(
あら
)
はし
玉
(
たま
)
ふ
世
(
よ
)
となつた
069
其
(
その
)
魁
(
さきが
)
けと
吾々
(
われわれ
)
は
070
肝心要
(
かんじんかなめ
)
の
眷族
(
けんぞく
)
を
071
伊太彦
(
いたひこ
)
さまに
従
(
したが
)
ひて
072
迎
(
むか
)
へむ
為
(
ため
)
に
二十艘
(
にじつそう
)
の
073
舟
(
ふね
)
を
拵
(
こしら
)
へ
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
074
真帆
(
まほ
)
を
上
(
あ
)
げつつ
進
(
すす
)
むのだ
075
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
076
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
くして
077
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
のお
客
(
きやく
)
さま
078
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
さず
此
(
この
)
舟
(
ふね
)
に
079
収容
(
しうよう
)
なして
恙
(
つつが
)
なく
080
アヅモス
山
(
さん
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
081
帰
(
かへ
)
らせ
玉
(
たま
)
へと
願
(
ね
)
ぎまつる
082
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
083
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
084
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
む
共
(
とも
)
085
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
に
預
(
あづ
)
けたる
086
バラモン
教
(
けう
)
のヤッコスや
087
ハール、サボール
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
088
助
(
たす
)
けてやらない
積
(
つもり
)
だが
089
伊太彦
(
いたひこ
)
さまの
御
(
お
)
心
(
こころ
)
は
090
私
(
わたし
)
は
計
(
はか
)
りかねてゐる
091
もしもあんな
者
(
もの
)
舟
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せ
092
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
らうものなれば
093
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
と
治
(
をさ
)
まつた
094
イヅミの
国
(
くに
)
のスマ
里
(
さと
)
は
095
再
(
ふたたび
)
修羅
(
しゆら
)
の
八衢
(
やちまた
)
と
096
なるかも
知
(
し
)
らぬ
恐
(
おそ
)
ろしや
097
鬼
(
おに
)
や
大蛇
(
をろち
)
や
狼
(
おほかみ
)
を
098
野原
(
のはら
)
に
放
(
はな
)
ちし
如
(
ごと
)
くだと
099
里人
(
さとびと
)
たちが
案
(
あん
)
じてる
100
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
吾々
(
われわれ
)
の
101
考
(
かんが
)
へ
通
(
どほ
)
りにやゆきませぬ
102
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御心
(
みこころ
)
を
103
奉戴
(
ほうたい
)
したる
伊太彦
(
いたひこ
)
の
104
艦長
(
かんちやう
)
さまの
思召
(
おぼしめし
)
105
只
(
ただ
)
吾々
(
われわれ
)
は
只管
(
ひたすら
)
に
106
従
(
したが
)
ひまつる
許
(
ばか
)
りなり
107
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
108
バラモン
教
(
けう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
109
何卒
(
なにとぞ
)
スマの
聖場
(
せいぢやう
)
へ
110
帰
(
かへ
)
らぬ
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
みます』
111
伊太彦
(
いたひこ
)
の
乗
(
の
)
つた
舟
(
ふね
)
は
一艘
(
いつそう
)
目立
(
めだ
)
つて
新
(
あたら
)
しく
大
(
おほ
)
きい。
112
さうしてアキス、
113
カールの
両人
(
りやうにん
)
が
左守
(
さもり
)
右守
(
うもり
)
然
(
ぜん
)
と
控
(
ひか
)
へてゐる。
114
十九艘
(
じふくそう
)
の
船
(
ふね
)
を
指揮
(
しき
)
してゐるのはアンチーであつた。
115
各船
(
かくせん
)
は
雁列
(
がんれつ
)
の
陣
(
ぢん
)
を
張
(
は
)
つて、
116
旭
(
あさひ
)
の
照
(
て
)
り
輝
(
かがや
)
く
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
を、
117
各
(
おのおの
)
舷
(
ふなばた
)
を
叩
(
たた
)
き、
118
唄
(
うた
)
を
唄
(
うた
)
ひ、
119
鉦
(
しやう
)
をすり、
120
豆太鼓
(
まめだいこ
)
を
打
(
うち
)
鳴
(
な
)
らし、
121
海若
(
かいじやく
)
を
驚
(
おどろ
)
かしつつ
辷
(
すべ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
122
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りか
猩々姫
(
しやうじやうひめ
)
の
精霊
(
せいれい
)
の
守護
(
しゆご
)
か、
123
二十
(
にじふ
)
哩
(
マイル
)
以上
(
いじやう
)
の
速力
(
そくりよく
)
にて
124
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
く
自然
(
しぜん
)
に
船
(
ふね
)
は
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
に
向
(
むか
)
つて
125
船頭
(
せんどう
)
の
櫓櫂
(
ろかい
)
も、
1251
帆
(
ほ
)
の
力
(
ちから
)
も
何
(
なん
)
の
者
(
もの
)
かはと
言
(
い
)
はぬ
許
(
ばか
)
りに、
126
帆
(
ほ
)
を
逆様
(
さかさま
)
に
膨
(
ふく
)
らせ
乍
(
なが
)
ら
走
(
はし
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
127
風
(
かぜ
)
は
南
(
みなみ
)
から
吹
(
ふ
)
いてゐる。
128
どうしても
帆
(
ほ
)
は
北
(
きた
)
の
方
(
はう
)
へ
膨
(
ふく
)
れねばならぬ。
129
それにも
拘
(
かかは
)
らず、
130
帆
(
ほ
)
は
風
(
かぜ
)
の
方向
(
はうかう
)
へ
膨
(
ふく
)
れてるのを
見
(
み
)
ても、
131
其
(
その
)
速力
(
そくりよく
)
の
早
(
はや
)
きを
伺
(
うかが
)
ひ
知
(
し
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
る。
132
七八十
(
しちはちじふ
)
里
(
り
)
の
湖路
(
うなぢ
)
を
133
早
(
はや
)
くも
正午頃
(
まひるごろ
)
には、
1331
猩々
(
しやうじやう
)
ケ
島
(
しま
)
の
岸
(
きし
)
に、
134
一艘
(
いつそう
)
の
落伍船
(
らくごせん
)
もなく
横着
(
よこづけ
)
になつた。
135
よくよく
見
(
み
)
れば、
136
幾丈
(
いくぢやう
)
とも
知
(
し
)
れぬ
大蛇
(
をろち
)
が
猩々島
(
しやうじやうじま
)
の
中心
(
ちうしん
)
に
屹立
(
きつりつ
)
せる
岩山
(
いはやま
)
を
取巻
(
とりま
)
き、
137
岩
(
いは
)
の
上
(
うへ
)
から
大口
(
おほぐち
)
をあけ、
1371
舌
(
した
)
をペロペロ
出
(
だ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
138
猩々
(
しやうじやう
)
の
群
(
むれ
)
を
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
さず
呑
(
の
)
み
喰
(
くら
)
はむとしてゐる
最中
(
さいちう
)
である。
139
これはキヨメの
湖
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
深
(
ふか
)
く
潜
(
ひそ
)
んでゐる
海竜
(
かいりう
)
で、
140
サァガラ
竜王
(
りうわう
)
と
称
(
とな
)
へられ、
141
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
位
(
ぐらゐ
)
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
現
(
あら
)
はれて、
142
所在
(
あらゆる
)
生物
(
いきもの
)
を
食
(
く
)
ひ
尽
(
つく
)
さむとする
怖
(
おそ
)
ろしき
悪竜
(
あくりう
)
である。
143
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
猩々王
(
しやうじやうわう
)
が
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
厳然
(
げんぜん
)
として
控
(
ひか
)
へてゐた
為
(
ため
)
、
144
流石
(
さすが
)
のサァガラ
竜王
(
りうわう
)
も
上陸
(
じやうりく
)
する
事
(
こと
)
を
恐
(
おそ
)
れてゐたが、
145
王
(
わう
)
が
亡
(
な
)
くなつたのを
幸
(
さいはひ
)
、
146
其
(
その
)
死骸
(
しがい
)
を
只
(
ただ
)
一口
(
ひとくち
)
に
呑
(
の
)
んで
了
(
しま
)
ひ
147
勢
(
いきほひ
)
に
乗
(
じやう
)
じて
上陸
(
じやうりく
)
し、
148
岩山
(
いはやま
)
を
長大
(
ちやうだい
)
なる
体
(
からだ
)
にて
巻
(
ま
)
きつけ、
149
一匹
(
いつぴき
)
も
残
(
のこ
)
らず
食
(
く
)
ひ
絶
(
たや
)
さむとしてゐる
真最中
(
まつさいちう
)
なりける。
150
猩々
(
しやうじやう
)
はキヤツキヤツと
泣
(
なき
)
叫
(
さけ
)
び、
151
磯端
(
いそばた
)
に
集
(
あつ
)
まり、
152
ヤッコス、
153
ハール、
154
サボールの
側
(
そば
)
に
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
つて、
155
かの
悪竜
(
あくりう
)
を
退治
(
たいぢ
)
し、
1551
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
へと、
156
形容
(
けいよう
)
を
以
(
もつ
)
て
歎願
(
たんぐわん
)
した。
157
ヤッコス
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
も
猩々
(
しやうじやう
)
のみか、
158
グヅグヅしてゐては、
159
自分
(
じぶん
)
等
(
たち
)
も
共
(
とも
)
に
呑
(
の
)
まれて
了
(
しま
)
ふのだ。
160
同
(
おな
)
じ
食
(
く
)
はれるのなら、
161
与
(
あた
)
ふ
限
(
かぎ
)
りの
抵抗
(
ていかう
)
をやつてみようと
覚悟
(
かくご
)
を
定
(
き
)
め、
162
何一
(
なにひと
)
つ
武器
(
ぶき
)
がないので、
163
磯端
(
いそばた
)
の
手頃
(
てごろ
)
の
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ、
164
竜神
(
りうじん
)
の
急所
(
きふしよ
)
を
狙
(
ねら
)
つて
石礫
(
いしつぶて
)
を
投
(
な
)
げつける。
165
三百
(
さんびやく
)
有余
(
いうよ
)
の
猩々
(
しやうじやう
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
倣
(
なら
)
つて、
166
各
(
おのおの
)
石
(
いし
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ、
167
雨霰
(
あめあられ
)
と
打
(
う
)
ちつけてゐる。
168
遉
(
さすが
)
の
竜王
(
りうわう
)
も
石礫
(
いしつぶて
)
に
辟易
(
へきえき
)
し、
169
岩山
(
いはやま
)
を
力
(
ちから
)
にグツと
尻尾
(
しつぽ
)
を
以
(
もつ
)
て
巻
(
ま
)
きかかへ
乍
(
なが
)
ら、
170
鎌首
(
かまくび
)
を
立
(
た
)
て、
171
先
(
ま
)
づ
人間
(
にんげん
)
より
呑
(
の
)
み
喰
(
くら
)
はむと
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らし、
172
隙
(
すき
)
を
狙
(
ねら
)
つてゐる、
173
其
(
その
)
光景
(
くわうけい
)
の
凄
(
すさま
)
じさ。
174
伊太彦
(
いたひこ
)
は
見
(
み
)
るより
船
(
ふね
)
の
舳
(
へ
)
に
立
(
たち
)
上
(
あが
)
りつつ、
175
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
奏上
(
そうじやう
)
した。
176
竜王
(
りうわう
)
は
俄
(
にはか
)
に
身体
(
しんたい
)
の
各部
(
かくぶ
)
より
煙
(
けぶり
)
を
吐
(
はき
)
出
(
だ
)
し、
177
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
々々
(
いちまい
)
鱗
(
うろこ
)
の
間
(
あひだ
)
から
火焔
(
くわえん
)
立
(
た
)
ちのぼり、
178
熱
(
あつ
)
さ
苦
(
くる
)
しさに
堪
(
た
)
へかねてや、
179
矢庭
(
やには
)
に
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして、
180
岩山
(
いはやま
)
を
転
(
ころ
)
げ
落
(
お
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
181
バサリと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
てて
海中
(
かいちう
)
に
飛込
(
とびこ
)
むで
了
(
しま
)
つた。
182
四辺
(
あたり
)
一
(
いち
)
里
(
り
)
許
(
ばか
)
りは
忽
(
たちま
)
ち
海水
(
かいすい
)
は
湯
(
ゆ
)
の
如
(
ごと
)
く
熱
(
あつ
)
くなり、
183
沢山
(
たくさん
)
の
魚
(
うを
)
が
白
(
しろ
)
、
184
青
(
あを
)
いろいろの
腹
(
はら
)
を
水面
(
すいめん
)
に
現
(
あら
)
はし、
185
ブカブカと
浮
(
う
)
き
来
(
き
)
たる。
186
伊太彦
(
いたひこ
)
は
又
(
また
)
もや
魚族
(
ぎよぞく
)
を
助
(
たす
)
けむと
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
187
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
称
(
とな
)
へた。
188
漸
(
やうや
)
くにして
水
(
みづ
)
は
熱
(
ねつ
)
冷
(
ひ
)
え、
189
魚
(
うを
)
は
溌溂
(
はつらつ
)
として
動
(
うご
)
き
出
(
だ
)
し、
190
幾十万
(
いくじふまん
)
とも
知
(
し
)
れず
磯端
(
いそばた
)
に
泳
(
およ
)
ぎ
来
(
きた
)
り、
191
伊太彦
(
いたひこ
)
に
向
(
むか
)
つて
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
あら
)
はすものの
如
(
ごと
)
く、
192
何
(
いづ
)
れも
一斉
(
いつせい
)
に
首
(
くび
)
を
上下
(
じやうげ
)
に
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら
大小
(
だいせう
)
無数
(
むすう
)
の
魚族
(
ぎよぞく
)
は
一斉
(
いつせい
)
に
水中
(
すいちう
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しけり。
193
ヤッコス
始
(
はじ
)
め
猩々
(
しやうじやう
)
の
群
(
むれ
)
は
磯端
(
いそばた
)
に
立
(
た
)
つて
列
(
れつ
)
を
造
(
つく
)
り、
194
伊太彦
(
いたひこ
)
の
船
(
ふね
)
に
向
(
むか
)
つて
掌
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ、
195
感謝
(
かんしや
)
の
意
(
い
)
を
表
(
へう
)
してゐる。
196
伊太彦
(
いたひこ
)
は
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
つて
酒樽
(
さかだる
)
の
鏡
(
かがみ
)
をぬく
事
(
こと
)
を
命
(
めい
)
じた。
197
忽
(
たちま
)
ち
酒
(
さけ
)
の
匂
(
にほ
)
ひは
四辺
(
あたり
)
に
漂
(
ただよ
)
うた。
198
猩々
(
しやうじやう
)
の
群
(
むれ
)
は
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて、
199
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
危険
(
きけん
)
を
忘
(
わす
)
れ、
200
二十
(
にじふ
)
の
船
(
ふね
)
に
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひに
飛
(
とび
)
乗
(
の
)
つた。
201
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
も
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る、
2011
伊太彦
(
いたひこ
)
の
船
(
ふね
)
に
飛
(
と
)
び
乗
(
の
)
り、
202
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
して、
203
感謝
(
かんしや
)
の
誠
(
まこと
)
を
表
(
あら
)
はしゐる。
204
伊太
(
いた
)
『アンチーさま、
205
モウこれで
猩々
(
しやうじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
さまはスツカリ
乗船
(
じやうせん
)
なされただらうかなア。
206
一人
(
ひとり
)
でも
残
(
のこ
)
つてゐるやうな
事
(
こと
)
があつては、
207
帰
(
かへ
)
つて
申訳
(
まをしわけ
)
がないから、
208
能
(
よ
)
く
査
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さい』
209
アンチー『ハイ
大抵
(
たいてい
)
皆
(
みな
)
お
乗
(
のり
)
になつたと
思
(
おも
)
ひますが、
210
念
(
ねん
)
の
為
(
ため
)
モ
一度
(
いちど
)
査
(
しら
)
べてみませうか』
211
ヤッコス『お
査
(
しら
)
べには
及
(
およ
)
びませぬ。
212
此
(
この
)
島
(
しま
)
の
猩々
(
しやうじやう
)
は
決
(
けつ
)
して
一人
(
ひとり
)
離
(
はな
)
れて
遊
(
あそ
)
んだりは
致
(
いた
)
しませぬ。
213
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
に
吾々
(
われわれ
)
に
能
(
よ
)
くなづき、
214
一緒
(
いつしよ
)
に
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
りましたが、
215
本当
(
ほんたう
)
に
友誼
(
いうぎ
)
の
厚
(
あつ
)
い
動物
(
どうぶつ
)
で
親切
(
しんせつ
)
な
者
(
もの
)
です。
216
又
(
また
)
一匹
(
いつぴき
)
でもゐないやうな
事
(
こと
)
があれば、
217
キツと
猩々
(
しやうじやう
)
がどんな
場合
(
ばあひ
)
でも
探
(
さが
)
して
伴
(
つ
)
れて
参
(
まゐ
)
ります。
218
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
219
伊太
(
いた
)
『
島
(
しま
)
の
王
(
わう
)
が
言
(
い
)
ふ
言葉
(
ことば
)
にはヨモヤ
間違
(
まちが
)
ひはあるまい。
220
サア
是
(
これ
)
から
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
221
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げる
事
(
こと
)
とせう』
222
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
223
船首
(
せんしゆ
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
島
(
しま
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
む
)
け
直
(
なほ
)
し、
224
伊太彦
(
いたひこ
)
が
導師
(
だうし
)
の
下
(
もと
)
に
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
了
(
をは
)
つて、
225
再
(
ふたたび
)
船首
(
せんしゆ
)
を
転
(
てん
)
じ、
226
此
(
この
)
度
(
たび
)
は
帆
(
ほ
)
を
巻
(
ま
)
き
下
(
おろ
)
し、
227
波
(
なみ
)
のまにまに
海上
(
かいじやう
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
となつた。
228
(
大正一二・四・三
旧二・一八
於皆生温泉浜屋
松村真澄
録)
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