霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一二章 狐穴(こけつ)〔一五一二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第2篇 厄気悋々 よみ(新仮名遣い):やっきりんりん
章:第12章 狐穴 よみ(新仮名遣い):こけつ 通し章番号:1512
口述日:1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
チルテルは、ヘールに命じて初稚姫を呼びにやらせたが、いつまでたっても戻ってこない。耳をすましてみれば、ヘールは初稚姫を横領しようとあからさまに口説いている。怒ってやってきてみれば、ヘールは初稚姫に押さえつけられて苦しんでいる。
その有様を見たチルテルはヘールの有様に吹き出してしまった。チルテルは、妻とはもう別れたから初稚姫を後妻に入れようと言い、横恋慕したヘールを首にすると言い渡した。
初稚姫はヘールを押さえつけながら、この男はあまり憎いとは思わないが、力をためそうとこのようにしているのだと答え、どことなしに益荒男の息が通っているとヘールを誉めた。
いぶかるチルテルに対し、初稚姫は妻を縛って蔵の中へ投げ込むような恐ろしい男にはけっして靡かないと歌で答えた。
初稚姫はぱっとヘールを放した。チルテルとヘールは初稚姫を巡って角突き合わせている。初稚姫は、自分は階級などには頓着しない、ただ男らしい男であればよく、器量が悪くても力の強い夫を持ちたいと二人に答えた。
初稚姫に乗せられた二人は、庭で相撲を取って勝負を決めることになった。二人は落とし穴の側で四股を踏んでいる。そこへテクが走ってやって来た。テクはいぶかったが、二人の行司を買って出た。
初稚姫は、自分が行司をするから、三人で誰が自分の夫になるか力比べをするのがよいと言いだした。さっそくヘールがチルテルに組みついて勝負が始まった。
二人はしばらく闘っていたが、チルテルが勝り、ヘールは押し倒されて深い落とし穴へ投げ込まれてしまった。次いでテクがチルテルに突っかかる。半時ばかりの勝負の後、テクがチルテルを落とし穴に投げ込んだ。
相撲の間に、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音が聞こえるので中へ入ってきた。見れば、二人の男が相撲を取っているのでそばに来て勝負を眺めていた。
勝者のテクは起き上がり、自分が初稚姫の夫となってキャプテンの座もいただくのだ、と悦に入っている。ワックス他三人は、初稚姫の美貌に見とれてポカンとしている。
初稚姫は、勝利のお祝いに、やってきた四人のバラモン信者に酒でも振る舞ったらどうか、とテクに勧めた。テクはすっかりキャプテン気取りになって、四人を酒宴に誘う。
初稚姫はテクに手を差し出した。テクは手を伸ばして初稚姫の手を握った。たちまち姫の手から白い毛がモジャモジャと生えだした。驚いてみると、姫は驢馬のような大きな白狐となってしまった。
テクとワックスたちは驚いて逃げ出そうとするとたん、ワックスたち四人は落とし穴に落ち込んでしまった。初稚姫に変化していたのは、三五教を守護する白狐・旭であった。旭は庭園の茂みを潜って、どこともなく姿を隠した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2017-05-06 15:26:02 文字数:4385 OBC :rm5912
愛善世界社版:158頁 八幡書店版:第10輯 541頁 修補版: 校定版:167頁 普及版: 初版: ページ備考:
001妻(つま)のチルナに茶袋(ちやぶくろ)を
002力(ちから)限(かぎ)りに締(し)められて
003ウンと許(ばか)りに気絶(きぜつ)した
004館(やかた)の主人(あるじ)チルテルは
005漸(やうや)く痛(いた)みも回復(くわいふく)し
006再(ふたた)び恋(こひ)の炎(ほのほ)をば
007燃(も)やしてヘールのユゥンケルに
008命(めい)じて姫(ひめ)を介抱(かいはう)に
009迎(むか)へ来(きた)れと命(めい)じおき
010仮病(けびやう)を使(つか)つて奥(おく)の間(ま)に
011ウンウンウンウンと呻(うめき)つつ
012待(ま)てど暮(くら)せどユゥンケルは
013何(なん)の音沙汰(おとさた)無(な)きのみか
014耳(みみ)を済(す)まして窺(うかが)へば
015肝腎要(かんじんかなめ)のナイスをば
016横領(わうりやう)せむと種々(いろいろ)に
017ベストを尽(つく)すと見(み)るよりも
018羅刹(らせつ)の如(ごと)くに怒(いか)り立(た)ち
019髪(かみ)逆(さか)だててチガチガと
020片手(かたて)に茶袋(ちやぶくろ)押(おさ)へつつ
021姫(ひめ)の住所(すみか)に来(き)て見(み)れば
022豈(あに)計(はか)らむやユゥンケルは
023初稚姫(はつわかひめ)の細腕(ほそうで)に
024取挫(とりひし)がれてハアハアと
025苦(くる)しみ居(ゐ)たる可笑(をか)しさよ
026チルテル思(おも)はず吹(ふ)き出(いだ)し
027嫉妬(しつと)の念(ねん)もどこへやら
028チルテル『アハヽヽヽお姫(ひめ)様(さま)
029実(げ)に天晴(あつぱれ)な御(ご)神力(しんりき)
030キャプテン感(かん)じ入(い)りました
031かく勇(いさ)ましき女丈夫(ぢよぢやうぶ)が
032これの館(やかた)に来(き)ませしは
033全(まつた)く神(かみ)の賜物(たまもの)ぞ
034女房(にようばう)に離(はな)れしキャプテンの
035身(み)を憐(あは)れみて二世(にせ)の妻(つま)
036共(とも)に千歳(ちとせ)を契(ちぎ)れよと
037梵天(ぼんてん)帝釈(たいしやく)自在天(じざいてん)
038大国彦(おほくにひこ)の御(おん)示(しめ)し
039実(げ)に有難(ありがた)き次第(しだい)なり
040おのれユゥンケル姫(ひめ)様(さま)の
041前(まへ)をも恐(おそ)れ憚(はばか)らず
042軍(いくさ)の司(つかさ)の身(み)を以(もつ)て
043無体(むたい)の恋慕(れんぼ)を致(いた)すとは
044乱暴(らんばう)至極(しごく)の痴漢(しれもの)だ
045もう是(これ)からはキャプテンが
046汝(なんぢ)に暇(いとま)を出(だ)す程(ほど)に
047早(はや)く此(この)場(ば)を立(た)ち退(の)いて
048風(かぜ)吹(ふ)く野辺(のべ)を彷徨(さまよ)ひつ
049其(その)身(み)の果(は)ては物貰(ものもら)ひ
050袖乞奴(そでごひやつこ)となり下(さが)り
051天女(てんによ)のやうな姫(ひめ)様(さま)を
052苦(くる)しめまつりし罪咎(つみとが)を
053天地(てんち)に謝罪(しやざい)するがよい
054サアサア早(はや)く立(た)ち去(さ)れよ
055これの館(やかた)はキャプテンが
056千代(ちよ)の住家(すみか)である程(ほど)に
057心(こころ)汚(けが)れし汝(なんぢ)等(ら)の
058身魂(みたま)の住(す)まふ場所(ばしよ)でない
059伊吹戸主(いぶきどぬしの)大御神(おほみかみ)
060これの館(やかた)を汚(けが)したる
061製糞(せいふん)機械(きかい)を一時(ひととき)も
062疾(と)く速(すむや)けく科戸辺(しなどべ)の
063風(かぜ)に払(はら)はせたまへかし
064嗚呼(ああ)惟神(かむながら)々々(かむながら)
065神(かみ)の使(つかひ)の姫(ひめ)様(さま)に
066かはりて願(ねが)ひ奉(たてまつ)る
067アハヽヽハツハ、アハヽヽヽ
068実(げ)にも浅(あさ)ましい態(ざま)ぢやなア
069身(み)の程(ほど)知(し)らぬユゥンケルが
070身(み)の成(な)り果(は)てはこの通(とほ)り
071天罰(てんばつ)忽(たちま)ち廻(めぐ)り来(き)て
072赤恥(あかはぢ)さらす憐(あは)れさよ
073イヒヽヽヒツヒ イヒヽヽヽ』
074初稚姫(はつわかひめ)『此(この)男(をとこ)余(あま)り憎(にく)しと思(おも)はねど
075力(ちから)ためさむために斯(か)くしぬ。
076さりながらどことはなしに益良夫(ますらを)の
077息(いき)かようこそ嬉(うれ)しかりけり』
078チルテルは此(この)歌(うた)を聞(き)いて意外(いぐわい)の面持(おももち)しながら、
079チルテル『これはしたり曲津(まがつ)の神(かみ)の容器(いれもの)を
080憐(あは)れみ給(たま)ふか心(こころ)もとなや』
081初稚姫(はつわかひめ)『二世(にせ)の妻(つま)縛(しば)りて暗(くら)き倉(くら)の内(うち)へ
082投(な)げ込(こ)みたりし人(ひと)ぞ憎(にく)らし。
083吾(われ)も亦(また)女房(にようばう)となりて倉(くら)の中(なか)へ
084繋(つな)がれむかと怖(おそ)ろしくなりぬ。
085心(こころ)荒(あら)き男子(をのこ)に身(み)をば任(まか)すより
086心(こころ)やさしき人(ひと)を求(もと)めむ』
087 ヘールは初稚姫(はつわかひめ)がパツと放(はな)した手(て)の下(した)から漸(やうや)う顔(かほ)を上(あ)げ、
088ヘール『これはしたり初稚姫(はつわかひめ)の御(おん)心(こころ)
089知(し)らず恨(うら)みし事(こと)のくやしさ。
090ユゥンケルの軍(いくさ)の司(つかさ)を棒(ぼう)にふり
091親(した)しく添(そ)はむ姫(ひめ)の御傍(みそば)に』
092初稚姫(はつわかひめ)『ユゥンケルよりも尊(たふと)きキャプテンを
093いとなつかしく慕(した)ひけるかな』
094チルテル『初稚姫(はつわかひめ)神(かみ)の心(こころ)を今(いま)ぞ知(し)る
095恨(うら)み歎(かこ)ちし事(こと)の悔(くや)しさ。
096ユゥンケル今(いま)のお言葉(ことば)何(なん)と聞(き)く
097とても及(およ)ばぬ恋(こひ)とあきらめよ』
098ヘール『口先(くちさき)でかく宣(の)らすとも村肝(むらきも)の
099心(こころ)の奥(おく)にヘール通(かよ)へる。
100キャプテンが鬼(おに)の念仏(ねんぶつ)如何(いか)程(ほど)に
101巧(たくみ)なりとも誰(たれ)か聞(き)くべき。
102こと更(さら)に神(かみ)に等(ひと)しき姫君(ひめぎみ)は
103汝(なれ)が心(こころ)の汚(きたな)きを知(し)る』
104初稚姫(はつわかひめ)『妾(わらは)はキャプテンだのユゥンケルだのと、105そんな人為(じんゐ)的(てき)階級(かいきふ)には少(すこ)しも望(のぞみ)を嘱(しよく)して居(を)りませぬ。106唯(ただ)男(をとこ)らしい男(をとこ)を望(のぞ)むで居(ゐ)ます。107女(をんな)と云(い)ふものは繊弱(かよわ)いもので厶(ござ)いますから、108仮令(たとへ)色(いろ)は黒(くろ)うても109跛(ちんば)でも片目(めつかち)でも110出歯(でば)でも鳩胸(はとむね)でも111構(かま)ひませぬ、112力(ちから)の強(つよ)いお方(かた)を夫(をつと)に持(も)ちたう厶(ござ)います』
113ヘール『イヤ、114それで分(わか)りました。115私(わたし)は此(この)関所(せきしよ)の中(なか)でも仁王(にわう)のヘールと云(い)はれた位(くらゐ)ですから、116腕力(わんりよく)にかけたら私(わたし)に勝(まさ)るものはありませぬ。117成程(なるほど)姫(ひめ)様(さま)も先見(せんけん)の明(めい)が厶(ござ)いますワイ。118鬼(おに)や大蛇(をろち)の猛(たけ)り狂(くる)ふ世(よ)の中(なか)、119矢張(やつぱり)強(つよ)いものでなくては世(よ)に立(た)つ事(こと)が出来(でき)ませぬからなア』
120チルテル『姫(ひめ)様(さま)、121この男(をとこ)は口(くち)許(ばか)り強(つよ)いのですよ。122一束(いちわ)の藁(わら)なら力持(ちからもち)、123三升(さんじよう)の飯(めし)なら一度饌(ひとかたげ)、124その癖(くせ)夏瘠(なつや)せ寒細(かんぼそ)り、125偶々(たまたま)肥満(こえ)たら脹(は)れ病(やまひ)、126一(いち)里(り)の道(みち)なら泊(とま)りがけ、127雪隠行(せつちんゆき)なら腰弁当(こしべんたう)と云(い)ふ厄介者(やくかいもの)です。128口(くち)は何(なに)程(ほど)達者(たつしや)でも実力(じつりよく)でなければ駄目(だめ)ですよ』
129初稚(はつわか)『そりやさうで厶(ござ)います。130妾(わらは)は実際(じつさい)のお力(ちから)を存(ぞん)じませぬから、131何卒(どうぞ)あの陥穽(おとしあな)の傍(そば)で角力(すまふ)を取(と)つて見(み)て下(くだ)さい。132そして強(つよ)いお方(かた)の御(お)世話(せわ)になりますから、133夫(それ)が一番(いちばん)不公平(ふこうへい)が無(な)くて宜(い)いでせう』
134チルテル『イヤ至極(しごく)名案(めいあん)だ、135サ、136ヘール一(ひと)つ勝負(しようぶ)だ、137赤裸々(せきらら)となつての勝負(しようぶ)ぢや。138一文(いちもん)の掛(か)け引(ひ)きもない。139初稚姫(はつわかひめ)様(さま)に検査(けんさ)を願(ねが)つて140勝(か)つたものが姫(ひめ)様(さま)の夫(をつと)になるのだから、141その覚悟(かくご)で貴様(きさま)も十分(じふぶん)の力(ちから)を出(だ)したらよからうぞ』
142ヘール『アハヽヽヽ、143面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し、144天王山(てんのうざん)の晴軍(はれいくさ)、145勝敗(しようはい)の決(けつ)、146瞬間(しゆんかん)に迫(せま)れり。147姫(ひめ)様(さま)、148天晴(あつぱれ)某(それがし)の力(ちから)を御覧(ごらん)下(くだ)さいませ』
149初稚(はつわか)『面白(おもしろ)う厶(ござ)いませう。150勝(か)つたお方(かた)の女房(にようばう)にして頂(いただ)きます。151何卒(どうぞ)何方(どちら)も負(まけ)ぬやうにして下(くだ)されや』
152 二人(ふたり)は真裸(まつぱだか)となり、153ドンドンと四股(しこ)踏(ふみ)ならし、154陥穽(おとしあな)の傍(そば)で今(いま)や勝負(しようぶ)を初(はじ)めむとする時(とき)、155慌(あわただ)しく走(はし)つて来(き)たのは、156スパイのテクであつた。157テクは此(この)態(てい)を見(み)て合点(がつてん)ゆかず、158直立(ちよくりつ)不動(ふどう)の姿勢(しせい)を取(と)つて、
159テク『僕(ぼく)はバラモン軍(ぐん)のリゥチナント、160テクであります。161キャプテン様(さま)、162ユゥンケルの御(ご)両人(りやうにん)、163奉納(ほうなう)角力(ずもふ)を取(と)り組(く)まれると見(み)えますが、164行司(ぎやうじ)がなくてはかなはぬ事(こと)、165サア拙者(せつしや)が行司(ぎやうじ)を致(いた)しませう』
166チルテル『ヨウ、167お前(まへ)はテクか、168好(い)い所(ところ)へ来(き)て呉(く)れた、169一(ひと)つ行司(ぎやうじ)を願(ねが)はう』
170テク『ヘエ、171よろしやす、172宜敷(よろし)うあります。173なるべくはキャプテンが負(まけ)るといいのだがなア、174イヒヽヽヽ』
175初稚(はつわか)『其方(そなた)は夜前(やぜん)妾(わらは)の居間(ゐま)へお使(つかひ)に見(み)えた、176リゥチナントさまぢやありませぬか。177何(なん)とまあ、178四角(しかく)いスタイルだこと、179ホヽヽヽヽ』
180テク『これはこれは姫(ひめ)様(さま)、181久(ひさ)し振(ぶり)にお目(め)に懸(かか)ります。182先(ま)づ御(ご)壮健(さうけん)でお目出度(めでた)うあります』
183初稚(はつわか)『昨日(きのふ)御(お)目(め)に掛(かか)つた斗(ばか)り、184久(ひさ)し振(ぶり)とは可笑(をか)しいワ。185そして行司(ぎやうじ)は妾(わらは)が致(いた)します、186貴方(あなた)も勝負(しようぶ)をして下(くだ)さい。187勝(かつ)たお方(かた)の妾(わらは)は女房(にようばう)になる決心(けつしん)で厶(ござ)いますから、188先(ま)づ第一(だいいち)にチルテル様(さま)とヘール様(さま)との勝負(しようぶ)のついた上(うへ)、189勝(か)つた方(かた)と貴方(あなた)と勝負(しようぶ)をして頂(いただ)き、190もしもお勝(かち)なれば妾(わらは)は貴方(あなた)の女房(にようばう)にして貰(もら)ひます。191オヽ恥(は)づかしやのう、192オホヽヽヽ』
193テク『これはよい所(ところ)へやつて来(き)て、194お仲間入(なかまいり)をさして頂(いただ)くとは何(なん)と云(い)ふ仕合(しあは)せの事(こと)だらう。195力(ちから)にかけたら滅多(めつた)に後(あと)へはひかぬこのテクさまだ。196きつと勝(か)つてお目(め)にかけませう』
197チルテル『初稚(はつわか)さま、198さう新手(あらて)が殖(ふ)へては困(こま)るぢやありませぬか。199お約束(やくそく)が違(ちが)ふでせう』
200ヘール『何(なに)、201何人(なんにん)なりと新手(あらて)が現(あら)はれた方(はう)が面白(おもしろ)い、202負(ま)けさへせねばよいのだ。203サア三(さん)人(にん)消(け)しがかりだ』
204と矢庭(やには)にチルテルに喰(くら)ひつく。205チルテルは『何(なに)猪口才(ちよこざい)な』と忽(たちま)ち四(よ)つに組(く)むで揉(も)み合(あ)ひ蹴(け)り合(あ)ふ。206二人(ふたり)の裸体(はだか)は滝(たき)の如(ごと)く汗(あせ)が滲(にじ)み出(だ)し、207ヌルリヌルリと体辷(たいすべ)りがして、208二人(ふたり)はパツと左右(さいう)に別(わか)れた。209押(お)す、210突(つ)く、211突張(つつぱ)る、212必死(ひつし)の活動(くわつどう)、213此処(ここ)を先途(せんど)と挑(いど)み戦(たたか)ふ其(その)勢(いきほ)ひ214竜虎(りうこ)の争(あらそ)ふ如(ごと)く見(み)えたるが、215チルテルの力(ちから)や勝(まさ)りけむ、216ヘールはたうとう押(お)し倒(たふ)されて、217深(ふか)い陥穽(おとしあな)へ投(な)げ込(こ)まれて仕舞(しま)つた。218忽(たちま)ちテクは真裸体(まつぱだか)となりチルテルに突(つ)つかかる。219チルテルは『何(なに)猪口才(ちよこざい)な木(こ)つ端武者(ぱむしや)』と高(たか)を括(くく)つて組(く)みついた。220大地(だいち)をドンドンと威喝(ゐかつ)させ乍(なが)ら、221土佐犬(とさいぬ)の噛(か)み合(あ)ひの如(ごと)く、222但馬牛(たじまうし)の突(つ)き合(あひ)の如(ごと)く、223千変(せんぺん)万化(ばんくわ)の秘術(ひじゆつ)を尽(つく)して汗塗(あせみどろ)となり、224半時(はんとき)許(ばか)り、225命辛々(いのちからがら)、226いがみ合(あ)うた。227初稚姫(はつわかひめ)は『オホヽヽヽ。228オホヽヽヽ』と愉快気(ゆくわいげ)に二人(ふたり)の勝負(しようぶ)を眺(なが)めて笑(わら)つて居(ゐ)る。229たうとうチルテルはテクに捩伏(ねぢふ)せられ230陥穽(おとしあな)の中(なか)へ無残(むざん)にも投(な)げ込(こ)まれて仕舞(しま)つた。231この陥穽(おとしあな)は四五間(しごけん)許(ばか)りの深(ふか)さで、232底(そこ)には深(ふか)い地下室(ちかしつ)が築(きづ)かれてあつた、233さうして落(お)ちても怪我(けが)をしないやうの装置(さうち)がしてあつた。234テクはやれ安心(あんしん)と張(は)り詰(つ)めし心(こころ)もグツタリと緩(ゆる)み、235ヘトヘトになつて其(その)場(ば)に倒(たふ)れた。236これより先(さき)、237ワックス、238ヘルマン、239エキス、240エルの四(よ)人(にん)は関所(せきしよ)の門(もん)を潜(くぐ)り、241裏庭(うらには)に妙(めう)な音(おと)がするので走(はし)り来(き)て見(み)れば、242二人(ふたり)の男(をとこ)が真裸体(まつぱだか)で角力(すまふ)を取(と)つて居(ゐ)るので、243チクチク傍(そば)により勝負(しようぶ)如何(いか)にと眺(なが)めて居(ゐ)た。244テクは漸(やうや)くにして起(お)き上(あが)り、245さも嬉(うれ)しさうな顔付(かほつき)にて、
246テク『サア姫(ひめ)様(さま)247お約束通(やくそくどほ)り、248リゥチナントのテクが女房(にようばう)になつて頂(いただ)きませう。249もはやキャプテンはかくの如(ごと)く失脚(しつきやく)致(いた)しました以上(いじやう)は、250リゥチナントが此(この)関守(せきもり)を勤(つと)めるのは当然(たうぜん)、251余(あま)り憎(にく)うは厶(ござ)いますまいな、252エヘヽヽヽ』
253 ワックス外(ほか)三(さん)人(にん)は初稚姫(はつわかひめ)の美貌(びばう)に見惚(みと)れて、254首(くび)を傾(かた)げ、255食指(しよくし)を咬(くわ)へて、256ポカンとして居(ゐ)る。
257初稚(はつわか)『テクさま、258本当(ほんたう)に貴方(あなた)、259力(ちから)の強(つよ)い方(かた)ですな。260お約束通(やくそくどほ)り女房(にようばう)にして頂(いただ)きませう。261併(しか)し乍(なが)らあの通(とほ)りバラモン信者(しんじや)のワックスさま外(ほか)三(さん)人(にん)が、262テルモン山(ざん)の神館(かむやかた)から叩(たた)き払(はら)ひに遇(あ)ふて263玉国別(たまくにわけ)様(さま)一行(いつかう)の後(あと)をつけ狙(ねら)ひ此処(ここ)に見(み)えて居(を)りますから、264貴方(あなた)の勝負(しようぶ)にお勝(か)ちなさつたお祝(いはひ)に、265此(この)方々(かたがた)をお招(まね)き申(まをし)てお神酒(みき)なとお上(あ)げなさいませ。266乞食(こじき)も身(み)の祝(いは)ひと云(い)ふ事(こと)が厶(ござ)いますからな』
267テク『ウン ヨシ、268女房(にようばう)の云(い)ふ事(こと)なら、269何(なん)でも聞(き)いてやる。270女房(にようばう)に対(たい)して忠実(ちうじつ)な、271親切(しんせつ)な、272慇懃(いんぎん)な、273それはそれは柔(やさ)しい、274同情(どうじやう)の深(ふか)い、275誠(まこと)に結構(けつこう)なテクさまだ。276こんな亭主(おやぢ)をもつた女房(にようばう)も世界一(せかいいち)の幸福(しあわせ)ものだ。277お前(まへ)は幸運(かううん)の神(かみ)に見舞(みま)はれたものだ。278俺(おれ)も亦(また)其(その)通(とほ)りだ。279「よい嬶(かか)持(も)つたら一生(いつしやう)の徳(とく)だよ、280近所(きんじよ)も喜(よろこ)ぶ、281テクさまも喜(よろこ)ぶ、282テクさま所(どころ)か悴(せがれ)も喜(よろこ)ぶ」。283オイ、284バラモン信者(しんじや)のワックス以下(いか)外(ほか)三(さん)人(にん)、285恋(こひ)の勝利者(しようりしや)のテクさまが此(この)館(やかた)の関守(せきもり)だ。286さうして此(この)ナイスが内事(ないじ)一切(いつさい)を構(かま)ふのだ。287貴様(きさま)もよい所(ところ)へ来(き)て呉(く)れた。288今日(けふ)から俺(おれ)の家来(けらい)にしてやらう、289サア此方(こちら)へ来(き)て一杯(いつぱい)飲(の)め』
290ワックス『有難(ありがた)う厶(ござ)います……エキス、291ヘルマン、292エルどうだ、293矢張(やは)り私(わし)の予言(よげん)は違(ちが)ふまいがな。294キヨの港(みなと)に着(つ)いたら意外(いぐわい)の喜(よろこ)びが湧(わ)いて来(く)ると云(い)つたらうがな』
295エル『そりやさうだ。296尻(しり)の千(せん)も叩(たた)かれて苦労(くらう)した苦労(くらう)の塊(かたまり)の花(はな)が咲(さ)いたのだからなア』[※ワックスは千回、他の3人は五百回の鞭打ち刑を受け、尻を叩かれている。第58巻第4章「銅盥」参照]
297ワックス『シー、298尻(しり)の話(はなし)はもうやめて呉(く)れ、299馬鹿(ばか)だな。300こんな所(ところ)まで来(き)て恥(はぢ)を曝(さら)す奴(やつ)があらうかい』
301テク『こりや こりや四(よ)人(にん)の家来(けらい)共(ども)、302何(なに)を云(い)つて居(ゐ)るのだ。303新夫婦(しんふうふ)のお祝(いは)ひ酒(ざけ)でも呑(の)まないか。304この館(やかた)には確(しつか)り仕込(しこ)むであるから305幾(いく)ら呑(の)みても大丈夫(だいぢやうぶ)だ。306十日(とをか)や二十日(はつか)飲(の)み続(つづ)けても少(すこ)しも構(かま)はぬのだ。307親方(おやかた)が大黒主(おほくろぬし)だから太(ふと)いものだぞ』
308ワックス『ヤ有難(ありがた)い、309お目出(めで)たう、310それなら御(お)言葉(ことば)に甘(あま)へて頂(いただ)きます』
311初稚(はつわか)『モシ、3111貴方(あなた)312こちの人(ひと)、313テクさま、314妾(あたい)のお手々(てて)を握(にぎ)つて頂戴(ちやうだい)、315握手(あくしゆ)しませうか』
316テク『ヨシ、317お出(いで)た。318握手(あくしゆ)だらうがキッスだらうが319些(ちつ)とも遠慮(ゑんりよ)は入(い)らぬ』
320と猿臂(ゑんぴ)を伸(の)ばして柔(やはら)かい初稚姫(はつわかひめ)の手(て)を握(にぎ)つた。321忽(たちま)ち其(その)手(て)から白(しろ)い毛(け)がモジャモジャと生(は)え出(だ)した。322ハツと驚(おどろ)いた途端(とたん)に323驢馬(ろば)のやうな大(おほ)きな白狐(びやくこ)となつて324竹箒(たけばうき)のやうな太(ふと)い尻尾(しつぽ)をブラリブラリと振(ふ)つて居(ゐ)る。325テクは「こいつは耐(たま)らぬ」と一生(いつしやう)懸命(けんめい)裏門(うらもん)より、326命(いのち)辛々(からがら)逃(に)げ出(だ)した。327ワックス外(ほか)三(さん)人(にん)は呆気(あつけ)に取(と)られ、328逃(に)げ行(ゆ)く途端(とたん)329以前(いぜん)の陥穽(おとしあな)に一蓮(いちれん)托生(たくしやう)、330四(よ)人(にん)ともにバサバサと落(お)ち込(こ)むで仕舞(しま)つた。
331 初稚姫(はつわかひめ)に変化(へんげ)て居(ゐ)た怪物(くわいぶつ)は、332三五教(あななひけう)を守護(しゆご)する、333旭(あさひ)の白狐(びやくこ)であつた。334旭(あさひ)はノソリノソリと庭園(ていゑん)の木(き)の茂(しげ)みを潜(くぐ)つて何処(いづこ)ともなく、335其(その)姿(すがた)をかくした。
336(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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