霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 暗内(あんない)〔一五〇九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第2篇 厄気悋々 よみ(新仮名遣い):やっきりんりん
章:第9章 暗内 よみ(新仮名遣い):あんない 通し章番号:1509
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
玉国別と真純彦は、長途の旅路につかれて振る舞い酒に酔い、その夜は熟睡してしまった。翌朝、神殿で祝詞を奏上した後休んでいると、バーチルが急いでやってきた。そして三千彦、伊太彦、デビス姫がいなくなっており、どうやらバラモン軍に連れ去られたようだと告げた。
バーチルは、三人を取り戻すために村中から人を呼んで玉国別に加勢しようと申し出た。玉国別は村人に怪我人が出てはいけない、と真純彦と二人で乗り込むことに決めた。
二人が出立しようとしていると、テクがやってきた。テクはこれまで悪いことばかりしてきたが、玉国別からいただいた酒を飲んだらすっかり改心してしまったと話した。そして、チルテルの館にはあちこちに落とし穴があるから、自分が案内役として同行しようと申し出た。
バーチルは、アンチーが暇を申し出たから、代わりに本当に番頭になってくれとテクに申し出て、テクも承諾した。アンチーもと一緒にチルテル館に乗り込みたいと申し出たので、玉国別は承諾した。
四人は作戦会議を開いた。アンチーは、チルテルにはいろいろな企みがあるだろうから、できる限り事前に様子を探って、夕暮れ以降に忍び込んだ方がよいだろうと提案した。アンチーの案が採用され、テクが斥候となって館の様子を探ってくることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:0000-00-00 00:00:00 文字数:4615 OBC :rm5909
愛善世界社版:117頁 八幡書店版:第10輯 526頁 修補版: 校定版:123頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)、002真純彦(ますみひこ)は長途(ちやうと)の海路(うなぢ)に草臥(くたび)れきつた上(うへ)、003振舞酒(ふるまひざけ)にグツタリ酔(よ)ふて其(その)夜(よ)は潰(つぶ)れた様(やう)に熟睡(じゆくすゐ)して了(しま)つた。004先(ま)づ手洗(てうづ)を使(つか)ひ口(くち)をすすぎ、005東天(とうてん)を拝(はい)し、006次(つ)いで神殿(しんでん)に進(すす)み祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し、007暫(しば)らく休息(きうそく)して居(ゐ)る。008そこへバーチルは顔色(がんしよく)を変(か)へて出(い)で来(きた)り、
009バーチル『もし先生(せんせい)様(さま)、010大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました。011誠(まこと)に申訳(まをしわけ)のない事(こと)で厶(ござ)います』
012玉国(たまくに)『大変(たいへん)とは何事(なにごと)で厶(ござ)いますか』
013バーチル『はい、014私(わたし)もグツタリと草臥(くたび)れて、015よく寝込(ねこ)んで了(しま)ひましたので、016夜中(やちう)の出来事(できごと)は少(すこ)しも存(ぞん)じませぬが、017三千彦(みちひこ)様(さま)、018伊太彦(いたひこ)様(さま)、019デビス姫(ひめ)様(さま)のお三方(さんかた)が、020何程(なにほど)そこらを探(さが)しても行衛(ゆくゑ)が分(わか)りませぬ。021里人(さとびと)の話(はなし)によりますと022裏門口(うらもんぐち)を開(ひら)いてバラモンの軍人(ぐんじん)が三人(さんにん)様(さま)をフン縛(じば)り帰(かへ)つたとの事(こと)、023実(じつ)に申訳(まをしわけ)のない事(こと)を致(いた)しました』
024玉国(たまくに)『何(なに)、025三(さん)人(にん)がバラモン軍(ぐん)に誘(さそ)はれたと、026やア、027それは大変(たいへん)だ。028真純彦(ますみひこ)、029こりやかうしては居(を)られまい。030之(これ)から両人(りやうにん)がバラモンの関所(せきしよ)に押掛(おしか)けて行(い)つて様子(やうす)を探(さぐ)つて見(み)ようぢやないか』
031真純(ますみ)『如何(いか)にも大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました。032さア参(まゐ)りませう』
033バーチル『もし先生(せんせい)様(さま)、034一寸(ちよつと)お待(ま)ち下(くだ)さいませ。035バラモンの関所(せきしよ)には一中隊(いつちうたい)の勇猛(ゆうまう)なる兵士(へいし)が抱(かか)へて厶(ござ)いますから、036お二人(ふたり)様(さま)では険難(けんのん)で厶(ござ)いませう。037幸(さいは)ひ斯(か)うして村中(むらぢう)の者(もの)が昼夜(ひるよる)の別(べつ)なく、038祝(いはひ)に来(き)て居(を)りますから039此(この)中(うち)から強(つよ)い者(もの)を選(えら)むで数十(すうじふ)人(にん)お連(つ)れになつてはどうでせう。040私(わたし)も命(いのち)を助(たす)けて貰(もら)つた御(ご)恩返(おんがへ)しに今度(こんど)は命(いのち)を捨(す)てます。041何卒(どうぞ)さうなすつて下(くだ)さいませぬか』
042玉国(たまくに)『いや、043決(けつ)して御(ご)心配(しんぱい)下(くだ)さいますな。044又(また)宣伝使(せんでんし)が貴方(あなた)等(がた)の助力(じよりよく)によつて多数(たすう)を恃(たの)むで押掛(おしか)けたと云(い)はれては済(す)みませぬ。045又(また)一方(いつぱう)は武器(ぶき)を持(も)つたもの、046里人(さとびと)に怪我(けが)でもあつては済(す)みませぬから047吾々(われわれ)両人(りやうにん)が直接(ちよくせつ)に出掛(でか)けませう』
048バーチル『さう仰有(おつしや)れば是非(ぜひ)が厶(ござ)いませぬ。049代(かは)りに私(わたし)がお伴(とも)を致(いた)しませう』
050玉国(たまくに)『いや、051それには及(およ)びませぬ。052然(しか)し乍(なが)ら僅(わづ)かに二人(ふたり)、053敵(てき)の中(なか)へ参(まゐ)るので厶(ござ)いますから054之(これ)がお顔(かほ)の見納(みをさ)めになるかも知(し)れませぬ。055何卒(どうぞ)貴方(あなた)は神(かみ)様(さま)の御心(みこころ)をよくお覚(さと)りなさつて、056此(この)里人(さとびと)を導(みちび)き可愛(かあい)がつておやりなさいませ』
057 かかる所(ところ)へサーベル姫(ひめ)は襖(ふすま)をソツと押開(おしひら)き058涙(なみだ)と共(とも)に転(ころ)げる様(やう)にして入(い)り来(きた)り、
059サーベル『玉国別(たまくにわけ)様(さま)、060真純彦(ますみひこ)様(さま)、061大変(たいへん)な事(こと)が出来(しゆつたい)致(いた)しました。062何卒(どうぞ)神(かみ)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)によつて御(お)三方(さんかた)を救(すく)ひ出(だ)し、063無事(ぶじ)にお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。064妾(わらは)は神(かみ)様(さま)を念(ねん)じ無事(ぶじ)の成功(せいこう)を祈(いの)ります』
065玉国別(たまくにわけ)『有難(ありがた)し君(きみ)が情(なさけ)の厚衣(あつごろも)
066身(み)に纒(まと)ひつつ進(すす)み行(ゆ)くべし。
067真心(まごころ)を深(ふか)く包(つつ)みし衣手(ころもで)に
068薙(な)ぎて屠(ほふ)らむ醜(しこ)の輩(たぶれ)を』
069真純彦(ますみひこ)『曲神(まがかみ)に苦(くる)しめられし吾(わが)友(とも)を
070助(たす)けに行(ゆ)かむ神(かみ)のまにまに。
071大神(おほかみ)の御前(みまへ)に額(ぬかづ)き願(ね)ぎ申(まを)す
072此(この)首途(かどいで)を真幸(まさき)くあれよと』
073バーチル『真心(まごころ)を籠(こ)めて打出(うちだ)す言霊(ことたま)に
074刃向(はむか)ふ仇(あだ)の如何(いか)であるべき。
075さり乍(なが)ら心(こころ)配(くば)りて出(い)でませよ
076企(たく)みも深(ふか)き陥穽(おとしあな)あれば』
077サーベル姫(ひめ)『玉国別(たまくにわけ)神(かみ)の命(みこと)よ真純彦(ますみひこ)よ
078仇(あだ)の館(やかた)に気(き)を配(くば)りませ』
079玉国別(たまくにわけ)『有難(ありがた)し神(かみ)に捧(ささ)げし吾(わが)命(いのち)
080よし捨(す)つるとも如何(いか)で恐(おそ)れむ』
081真純彦(ますみひこ)『皇神(すめかみ)の縁(えにし)の糸(いと)に結(むす)ばれし
082身(み)ながら今(いま)は解(と)けむとぞする』
083バーチル『吾(わが)僕(しもべ)アンチー連(つ)れて出(い)でませよ
084彼(かれ)は力(ちから)の強(つよ)き益良夫(ますらを)』
085玉国別(たまくにわけ)『吾(わが)道(みち)は人(ひと)を頼(たよ)らず杖(つゑ)につかず
086只(ただ)真心(まごころ)に進(すす)むのみなり。
087折角(せつかく)の思召(おぼしめし)をば無(な)みするは
088心(こころ)済(す)まねど許(ゆる)し玉(たま)はれ。
089三千彦(みちひこ)は嘸(さぞ)今頃(いまごろ)は仇人(あだびと)と
090厳(いづ)の言霊(ことたま)打(う)ち合(あ)ひ居(ゐ)るらむ』
091真純彦(ますみひこ)『言霊(ことたま)の戦(たたか)ひなれば恐(おそ)れまじ
092兇器(きようき)を持(も)ちし敵(てき)の陣中(ぢんちう)も。
093曲神(まがかみ)の憑(うつ)りきつたる仇人(あだびと)を
094言向(ことむけ)和(やは)す日(ひ)とはなりぬる』
095アンチー『神司(かむづかさ)吾(わ)れを召(め)し連(つ)れ出(い)でまして
096真心(まごころ)の限(かぎ)りを尽(つく)させ玉(たま)へ。
097よしやよし命(いのち)を敵(てき)に渡(わた)すとも
098いかで悔(く)いなむ捨(す)てし此(この)身(み)は』
099玉国別(たまくにわけ)『玉(たま)の緒(を)の命(いのち)に代(か)へて嬉(うれ)しきは
100汝(なれ)が心(こころ)の誠(まこと)なりけり』
101 斯(か)く互(たがひ)に歌(うた)を取交(とりかは)し、102玉国別(たまくにわけ)、103真純彦(ますみひこ)は今(いま)や宣伝使(せんでんし)の服(ふく)を脱(ぬ)ぎ、104バーチルの与(あた)へたる衣服(いふく)と着替(きか)へ乍(なが)ら立出(たちい)でむとする所(ところ)へ、105泥酔者(よひどれ)のテクはツカツカと現(あら)はれ来(きた)り、
106テク『ヘー、107御免(ごめん)なさいませ。108私(わたし)は今日(けふ)迄(まで)はバラモン教(けう)の目付役(めつけやく)の下(した)を働(はたら)くスパイで厶(ござ)いました。109一方(いつぱう)には海賊(かいぞく)の張本人(ちやうほんにん)ヤッコスと兄弟分(きやうだいぶん)となり、110種々(いろいろ)雑多(ざつた)と、111よくない事(こと)許(ばか)りやつて居(ゐ)ましたが、112玉国別(たまくにわけ)様(さま)に何(なん)とも知(し)れぬ般若湯(はんにやたう)を頂(いただ)き、113それから心(こころ)に潜(ひそ)む鬼(おに)が私(わたし)の身内(しんない)から逐転(ちくてん)しまして、114今(いま)は全(まつた)く人間心(にんげんごころ)に立帰(たちかへ)りました。115就(つ)きましてはチルテルの邸(やしき)には沢山(たくさん)の陥穽(おとしあな)が厶(ござ)いますれば116此(この)テクが御(ご)案内(あんない)を致(いた)しませう。117うつかり行(ゆ)かうものなら118えらい目(め)に会(あ)ひます。119その秘密(ひみつ)を知(し)つてるのは外(ほか)には厶(ござ)いませぬ。120関所(せきしよ)を守(まも)つてる軍人(ぐんじん)の外(ほか)は誰(たれ)も知(し)りませぬから121お危(あぶな)う厶(ござ)います』
122玉国(たまくに)『おう、123お前(まへ)はテクさまだつたな。124や、125有難(ありがた)う、126それ程(ほど)沢山(たくさん)に陥穽(おとしあな)が拵(こしら)へてあるかな』
127テク『ヘーヘー、128彼方(あちら)にも此方(こちら)にも陥穽(おとしあな)許(ばか)りで厶(ござ)います。129あんな所(ところ)へ落(お)ちたが最後(さいご)、130上(あが)る事(こと)は出来(でき)ませぬ。131さうして此頃(このごろ)は何(なん)とも知(し)れぬ美(うつく)しい女(をんな)の方(かた)が離家(はなれ)に只(ただ)一人(ひとり)居(を)られます。132さうして其(その)お名(な)は初稚姫(はつわかひめ)様(さま)だとか云(い)ふ事(こと)で厶(ござ)います。133関守(せきもり)のキャプテンがその女(をんな)に現(うつつ)を抜(ぬ)かし、134それが為(ため)に夫婦(ふうふ)喧嘩(げんくわ)がおつ初(ぱじ)まり、135いや、1351もう136内部(ないぶ)の醜態(しうたい)と云(い)つたら話(はなし)になりませぬ』
137玉国(たまくに)『なに、138初稚姫(はつわかひめ)様(さま)が厶(ござ)ると云(い)ふのか。139どんな年格好(としかつかう)なお方(かた)だ』
140テク『はい、141明瞭(はつきり)は分(わか)りませぬが142一寸(ちよつと)見(み)た所(ところ)では十七八(じふしちはつ)才(さい)かと思(おも)ひます。143然(しか)し何処(どこ)ともなく十五六(じふごろく)才(さい)の幼(をさな)い所(ところ)も厶(ござ)いますし、144体中(からだぢう)宝石(はうせき)を以(もつ)て飾(かざ)つて居(を)られます。145それはそれは綺麗(きれい)なお方(かた)ですよ』
146玉国(たまくに)『はてな、147初稚姫(はつわかひめ)様(さま)は、148そんな宝石(はうせき)等(など)を身(み)に飾(かざ)る様(やう)なお方(かた)ぢやないと聞(き)いて居(ゐ)る。149大方(おほかた)同名(どうめい)異人(いじん)だらう。150なア真純彦(ますみひこ)』
151真純(ますみ)『そら、152さうで厶(ござ)いませう。153世間(せけん)に同(おな)じ名(な)は何程(いくら)も厶(ござ)いますからな』
154玉国(たまくに)『あ、155そんなら屋敷(やしき)の案内(あんない)をお願(ねが)ひしようかな』
156テク『いや早速(さつそく)の御(ご)承知(しようち)、157有難(ありがた)う厶(ござ)います。158大抵(たいてい)の所(とこ)は皆(みな)私(わたし)が知(し)つて居(を)りますから、159私(わたし)の後(あと)に跟(つ)いて来(き)て下(くだ)さいますれば160メツタに不調法(ぶてうはふ)はさせませぬ。161そして彼(あ)の女(をんな)に一度(いちど)お会(あ)ひになれば真偽(しんぎ)が分(わか)るでせう。162大方(おほかた)貴方(あなた)のお弟子(でし)は陥穽(おとしあな)に落(お)ち込(こ)みなさつたかも知(し)れませぬ。163うつかりして居(ゐ)ると命(いのち)が怪(あや)しう厶(ござ)います。164沢山(たくさん)な兵士(へいし)が寄(よ)つて上(うへ)から石(いし)を投(な)げ込(こ)むのですから、165堪(たま)つたものぢやありませぬわ』
166バーチル『テクさま、167お前(まへ)さまはアキスから聞(き)けば宅(うち)の番頭(ばんとう)になつたと云(い)つて居(ゐ)られたさうだが168本当(ほんたう)に番頭(ばんとう)になつて呉(く)れますか。169アンチーも暫(しばら)く休(やす)まして下(くだ)さいと云(い)つてるから、170お前(まへ)さまが番頭頭(ばんとうがしら)になつて下(くだ)さらば大変(たいへん)都合(つがふ)が宜(よろ)しいがな』
171テク『承知(しようち)致(いた)しやした。172貴方(あなた)からお言葉(ことば)のかからぬ中(うち)から已(すで)に番頭(ばんとう)と一人(ひとり)で定(きめ)て居(を)りますから173何(なん)の異議(いぎ)が厶(ござ)いませう。174もとは悪人(あくにん)で厶(ござ)りましたが175神(かみ)様(さま)の光(ひかり)に照(て)らされて最早(もはや)悪(あく)が恐(おそろ)しくなり、176その罪亡(つみほろぼ)しに一(ひと)つでも善事(ぜんじ)を行(おこな)ひ度(た)いと決心(けつしん)をして居(を)りますから177何卒(どうぞ)宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します。178サア玉国別(たまくにわけ)様(さま)、179真純彦(ますみひこ)様(さま)、180参(まゐ)りませう』
181アンチー『是非(ぜひ)とも私(わたし)をお伴(とも)に願(ねが)ひます』
182玉国(たまくに)『それ程(ほど)仰(おほ)せらるるなれば御(ご)同行(どうかう)を願(ねが)ひませう』
183とバーチル夫婦(ふうふ)に暇(いとま)を告(つ)げ、184裏口(うらぐち)より一行(いつかう)四(よ)人(にん)キヨの関守(せきもり)チルテルが館(やかた)を指(さ)して進(すす)み行(ゆ)く。185テクは先頭(せんとう)に立(た)ちヤッコス踊(をどり)をし乍(なが)ら186心(こころ)イソイソ歌(うた)ひ初(はじ)めた。
187テク『バラモン教(けう)のキャプテンが
188部下(ぶか)に使(つか)はれ犬(いぬ)となり
189彼方(かなた)此方(こなた)と湖辺(うみべ)をば
190尋(たづ)ねまはりて三五(あななひ)の
191神(かみ)の司(つかさ)や信徒(まめひと)を
192一人(ひとり)も残(のこ)さずフン縛(じば)り
193キヨの関所(せきしよ)へ連(つ)れ行(ゆ)きて
194褒美(はうび)の金(かね)を沢山(どつさり)と
195頂(いただ)き好(す)きなお酒(さけ)をば
196飲(の)んで浮世(うきよ)を面白(おもしろ)く
197暮(くら)さむものと心(こころ)をば
198鬼(おに)や大蛇(をろち)と変化(へんげ)させ
199悪(あく)の道(みち)のみ辿(たど)りたる
200悪党(あくたう)無頼(ぶらい)の此(この)テクも
201玉国別(たまくにわけ)の神(かみ)様(さま)の
202厚(あつ)き心(こころ)に感服(かんぷく)し
203迷(まよ)ひの夢(ゆめ)も覚(さ)め果(は)てて
204バーチルさまの家(いへ)の子(こ)と
205仕(つか)ふる身(み)とはなりにけり
206バラモン教(けう)の関守(せきもり)が
207如何(いか)程(ほど)神力(しんりき)あるとても
208如何(いか)で及(およ)ばむ三五(あななひ)の
209誠(まこと)一(ひと)つの言霊(ことたま)に
210敵(てき)する事(こと)は出来(でき)よまい
211屋敷(やしき)の中(なか)に沢山(たくさん)の
212陥穽(おとしあな)をば穿(うが)ちつつ
213三五教(あななひけう)やウラル教(けう)
214道(みち)の教(をしへ)のピュリタンを
215否応(いやおう)云(い)はさずフン縛(じば)り
216皆(みな)悉(ことごと)く陥穽(かんせい)に
217落(おと)して喜(よろこ)ぶ悪神(あくがみ)の
218醜(しこ)の器(うつは)となり果(は)てし
219チルテル司(つかさ)は魔(ま)か鬼(おに)か
220思(おも)ひ廻(まは)せば恐(おそろ)しや
221かかる悪魔(あくま)を逸早(いちはや)く
222亡(ほろ)ぼし尽(つく)し世(よ)の人(ひと)の
223災難(なやみ)を早(はや)く救(すく)はねば
224イヅミの国(くに)の人々(ひとびと)は
225枕(まくら)も高(たか)く眠(ねむ)れない
226吾(われ)も元(もと)より悪人(あくにん)の
227種(たね)ではなけれど止(や)むを得(え)ず
228バラモン教(けう)の勢力(せいりよく)に
229刃向(はむか)ひ其(その)身(み)の不幸(ふかう)をば
230招(まね)かむ事(こと)を恐(おそ)れてゆ
231心(こころ)にもなき間諜(いぬ)となり
232吾(わが)良心(りやうしん)に責(せめ)られて
233苦(くる)しき月日(つきひ)を送(おく)りつつ
234せつなき思(おも)ひを消(け)さむとて
235朝(あさ)から晩(ばん)まで酒(さけ)を飲(の)み
236浮世(うきよ)の中(なか)を夢現(ゆめうつつ)
237三分(さんぶ)五厘(ごりん)に暮(くら)さむと
238金(かね)さへあれば自棄酒(やけざけ)を
239呻(あふ)つて過(すご)す浅間(あさま)しさ
240あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
241神(かみ)の恵(めぐ)みの幸(さちは)ひて
242愈(いよいよ)今日(けふ)は三五(あななひ)の
243貴(うず)の司(つかさ)の先走(さきばし)り
244今(いま)迄(まで)犯(をか)せし罪科(つみとが)を
245償(つぐな)ひまつる今(いま)や時(とき)
246皇(すめ)大神(おほかみ)よ大神(おほかみ)よ
247テクの心(こころ)を憐(あは)れみて
248今度(こんど)の御用(ごよう)を恙(つつが)なく
249遂(と)げさせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
250仮令(たとへ)天地(てんち)は変(かは)るとも
251一旦(いつたん)神(かみ)の御(おん)前(まへ)に
252罪(つみ)を悔(く)いたる此(この)テクは
253汚(きたな)き心(こころ)を露(つゆ)持(も)たじ
254敵(てき)は如何(いか)なる謀計(ぼうけい)を
255廻(めぐ)らし吾(われ)等(ら)を攻(せ)むるとも
256何(なに)か恐(おそ)れむ神心(かみごころ)
257振(ふる)ひ起(おこ)して何処(どこ)迄(まで)も
258神(かみ)の御(おん)為(ため)世(よ)の為(ため)に
259悪魔(あくま)の棲(すぐ)ひしチルテルの
260醜(しこ)の司(つかさ)を懲(こら)しめて
261世人(よびと)の為(ため)に災(わざはい)を
262除(のぞ)かせ玉(たま)へ惟神(かむながら)
263御伴(みとも)に仕(つか)へし此(この)テクが
264真心(まごころ)捧(ささ)げて願(ね)ぎ奉(まつ)る
265あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
266御霊(みたま)幸(さちは)ひましませよ』
267 アンチーは又(また)歌(うた)ふ。
268アンチー『三(さん)年(ねん)振(ぶ)りに吾(わが)主人(あるじ)
269バーチルさまに廻(めぐ)り会(あ)ひ
270喜(よろこ)び勇(いさ)む間(ま)もあらず
271命(いのち)の親(おや)の神司(かむづかさ)
272危(あやふ)き敵(てき)の館(やかた)へと
273出(い)でます君(きみ)を案(あん)じつつ
274主人(あるじ)の君(きみ)の許(ゆる)し受(う)け
275お伴(とも)に仕(つか)へ進(すす)む身(み)は
276如何(いか)なる曲(まが)の企(たく)みをも
277如何(いか)で恐(おそ)れむ敷島(しきしま)の
278大和(やまと)男子(をのこ)の魂(たましひ)を
279現(あら)はしまつりて高恩(かうおん)の
280万分一(まんぶんいち)に報(むく)ふべし
281キヨの港(みなと)は遠(とほ)けれど
282勝手(かつて)覚(おぼ)えし抜(ぬ)け道(みち)を
283進(すす)むで行(ゆ)けば一時(ひととき)の
284間(うち)には容易(たやす)く達(たつ)すべし
285さはさり乍(なが)ら真昼中(まひるなか)
286敵(てき)の館(やかた)へ進(すす)み行(ゆ)く
287これが第一(だいいち)険難(けんのん)だ
288日暮(ひぐ)れを待(ま)つてボツボツと
289隅(すみ)から隅(すみ)まで探索(たんさく)し
290三千彦(みちひこ)さまの所在(ありか)をば
291探(さが)し求(もと)めた其(その)上(うへ)で
292あらむ限(かぎ)りのベストをば
293尽(つく)すもあまり遅(おそ)からじ
294玉国別(たまくにわけ)の宣伝使(せんでんし)
295真純(ますみ)の彦(ひこ)の神司(かむづかさ)
296新番頭(しんばんとう)のテクさまよ
297貴方(あなた)の御(ご)意見(いけん)詳細(まつぶ)さに
298お知(し)らせなさつて下(くだ)されや
299敵(てき)にも深(ふか)い企(たく)みあり
300軽々(かるがる)しくも進(すす)みなば
301臍(ほぞ)を噛(か)むとも及(およ)ぶなき
302大失敗(だいしつぱい)を招(まね)くべし
303省(かへり)み玉(たま)へ神司(かむづかさ)
304此(この)アンチーは意外(いぐわい)にも
305卑怯(ひけふ)な男(をとこ)と皆(みな)さまは
306思召(おぼしめ)すかは知(し)らねども
307注意(ちうい)の上(うへ)に注意(ちうい)して
308行(ゆ)かねばならぬ敵(てき)の中(なか)
309あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
310何(いづ)れにしても大神(おほかみ)の
311力(ちから)に頼(たよ)り進(すす)むべし
312玉国別(たまくにわけ)の御(おん)前(まへ)に
313更(あらた)め伺(うかが)ひ奉(たてまつ)る』
314と歌(うた)ひ終(をは)り、315玉国別(たまくにわけ)の意見(いけん)を求(もと)めた。316玉国別(たまくにわけ)はアンチーの言葉(ことば)に一理(いちり)ありとなし、317途上(とじやう)に佇(たたず)みて暫(しば)し思案(しあん)を廻(めぐ)らして居(ゐ)る。318テクは無雑作(むざふさ)に口(くち)を開(ひら)いて、
319テク『もし、320皆様(みなさま)、321私(わたし)は幸(さいは)い種々(いろいろ)の関係(くわんけい)上(じやう)チルテルに接近(せつきん)せなくてはなりませぬ。322それについては色々(いろいろ)とチルテルの腹(はら)を探(さぐ)り、323又(また)敵(てき)の様子(やうす)や三千彦(みちひこ)様(さま)以下(いか)の所在(ありか)を探索(たんさく)するに余程(よほど)便宜(べんぎ)を持(も)つて居(を)りますから、324貴方(あなた)は暫(しば)らく此(この)密林(みつりん)に日(ひ)の暮(く)るる迄(まで)御(ご)休息(きうそく)を願(ねが)ひ、325私(わたし)が一応(いちおう)取調(とりしら)べた上(うへ)、326日(ひ)が暮(く)れてからお出掛(でか)けになつた方(はう)がよからうと在(ぞん)じますが327貴方(あなた)等(がた)のお考(かんがへ)は如何(いかが)で厶(ござ)いませうか』
328玉国(たまくに)『成程(なるほど)、329却(かへ)つて夜分(やぶん)の方(はう)が宜(よ)いかも知(し)れない。330御(ご)神諭(しんゆ)にも「今(いま)迄(まで)は日(ひ)の暮(くれ)が悪(わる)いと申(まを)したが331之(これ)からは日(ひ)の暮(くれ)に初(はじ)めた事(こと)は何事(なにごと)もよい」とお示(しめ)しになつて居(ゐ)る。332そんならテクさま、333御(ご)苦労(くらう)乍(なが)らチルテルの館(やかた)に罷(まかり)越(こ)し、334能(あた)ふ限(かぎ)りの偵察(ていさつ)をして下(くだ)さい。335それまで此(こ)の森蔭(もりかげ)に祈願(きぐわん)をして待(ま)つて居(を)りませう』
336テク『いや、337早速(さつそく)の御(ご)同意(どうい)、338有難(ありがた)う厶(ござ)います。339それなら此(この)テクがうまく様子(やうす)を探(さぐ)つて参(まゐ)ります。340何卒(どうぞ)此(この)森(もり)の奥(おく)で悠(ゆつく)りと休息(きうそく)をして待(ま)つて居(ゐ)て下(くだ)さい。341左様(さやう)なら』
342と云(い)ひ乍(なが)ら尻(しり)引紮(ひつから)げ343トントントンと夏草(なつくさ)茂(しげ)る細(ほそ)い野道(のみち)を駆(か)け出(だ)した。344三(さん)人(にん)は森(もり)の木蔭(こかげ)に腰(こし)を下(おろ)し、345時(とき)の至(いた)るを待(ま)つて居(ゐ)る。
346(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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