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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
第1章 逆艪
第2章 歌垣
第3章 蜜議
第4章 陰使
第5章 有升
第2篇 厄気悋々
第6章 雲隠
第7章 焚付
第8章 暗傷
第9章 暗内
第10章 変金
第11章 黒白
第12章 狐穴
第3篇 地底の歓声
第13章 案知
第14章 舗照
第15章 和歌意
第16章 開窟
第17章 倉明
第4篇 六根猩々
第18章 手苦番
第19章 猩々舟
第20章 海竜王
第21章 客々舟
第22章 五葉松
第23章 鳩首
第24章 隆光
第25章 歓呼
余白歌
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(B)
(N)
陰使 >>>
第三章
蜜議
(
みつぎ
)
〔一五〇三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第1篇 毀誉の雲翳
よみ(新仮名遣い):
きよのうんえい
章:
第3章 蜜議
よみ(新仮名遣い):
みつぎ
通し章番号:
1503
口述日:
1923(大正12)年04月01日(旧02月16日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三五教の宣伝使・初稚姫は、玉国別一行の危難を守ろうと、猛犬スマートを引き連れてキヨの湖を渡り、バラモン軍関守のチルテルの館に立ち寄っていた。そこの離れ家に落ち着き、一弦琴を弾じながら使命を果たそうと潜んでいた。
チルテルは初稚姫の美貌にうつつを抜かし、姫を屋敷の中に留め置いて、妻ある身でありながら恋の野望を遂げようと企んでいた。
チルテルの妻チルナ姫は、部下のカンナとヘールに初稚姫を口説かせて、夫の初稚姫に対する興味を失せさせようとした。初稚姫はやってきたカンナとヘールを自室に招き入れ、手ずから茶菓を供じて話を聞いている。
二人は美人の前でいいところを見せようと、それぞれ初稚姫の美しさを褒めたたえる即興の歌を歌って見せた。三人は互いに歌をもって心を探り合いつつ、夏の長い日を知らぬ間に暮らしてしまった。
チルナ姫は二人の成功を案じ煩いつつ、足音を忍ばせて窓の外に立ち寄り、息を潜めて中の様子を聞き入っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5903
愛善世界社版:
42頁
八幡書店版:
第10輯 499頁
修補版:
校定版:
44頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
三五教
(
あななひけう
)
の
生神
(
いきがみ
)
と
002
其
(
その
)
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
宣伝使
(
せんでんし
)
003
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむつかさ
)
004
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
が
005
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ひ
守
(
まも
)
らむと
006
猛犬
(
まうけん
)
スマート
引連
(
ひきつ
)
れて
007
キヨの
湖
(
みづうみ
)
打
(
う
)
ち
渡
(
わた
)
り
008
バラモン
軍
(
ぐん
)
の
関守
(
せきもり
)
の
009
チルテル
館
(
やかた
)
に
立
(
た
)
ちよりて
010
いと
麗
(
うるは
)
しき
離
(
はな
)
れ
家
(
や
)
に
011
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
弾
(
だん
)
じつつ
012
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしの
神業
(
かむわざ
)
に
013
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
し
身
(
み
)
を
砕
(
くだ
)
き
014
仕
(
つか
)
へ
給
(
たま
)
ふぞ
畏
(
かしこ
)
けれ
015
これの
関所
(
せきしよ
)
を
預
(
あづ
)
かりし
016
チルテル
司
(
つかさ
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
017
貴
(
うづ
)
の
容姿
(
ようし
)
に
魂
(
たま
)
抜
(
ぬ
)
かれ
018
妻
(
つま
)
ある
身
(
み
)
をも
省
(
かへりみ
)
ず
019
家敷
(
やしき
)
の
中
(
うち
)
に
留
(
とど
)
め
置
(
お
)
き
020
時
(
とき
)
を
伺
(
うかが
)
ひ
此
(
この
)
姫
(
ひめ
)
の
021
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
慕
(
した
)
ふ
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
ち
022
恋
(
こひ
)
の
野望
(
やばう
)
を
達
(
たつ
)
せむと
023
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
与
(
あた
)
へおき
024
静
(
しづか
)
に
一室
(
ひとま
)
に
隠
(
かく
)
しけり
025
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
026
チルテル
司
(
つかさ
)
の
乞
(
こ
)
ふがまま
027
離
(
はな
)
れの
一間
(
ひとま
)
に
立
(
た
)
て
籠
(
こも
)
り
028
心
(
こころ
)
密
(
ひそか
)
に
神言
(
かみごと
)
を
029
称
(
とな
)
へ
上
(
あ
)
げつつコードをば
030
弾
(
だん
)
じて
憂
(
うさ
)
を
慰
(
なぐさ
)
めつ
031
時
(
とき
)
の
至
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
ち
給
(
たま
)
ふ
032
チルナの
姫
(
ひめ
)
は
吾
(
わが
)
夫
(
つま
)
の
033
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
をはかり
兼
(
か
)
ね
034
悋気
(
りんき
)
の
焔
(
ほのほ
)
を
燃
(
も
)
やしつつ
035
カンナ、ヘールの
両人
(
りやうにん
)
を
036
私
(
ひそ
)
かに
近
(
ちか
)
く
呼
(
よ
)
びつけて
037
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
打
(
う
)
ち
明
(
あか
)
し
038
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
に
謀計
(
はかりごと
)
039
授
(
さづ
)
けて
姫
(
ひめ
)
を
館
(
やかた
)
より
040
放逐
(
はうちく
)
せむと
企
(
たく
)
らみつ
041
心
(
こころ
)
を
配
(
くば
)
るぞいぢらしき
042
カンナ、ヘールの
両人
(
りやうにん
)
は
043
恋
(
こひ
)
の
奴
(
やつこ
)
となり
果
(
は
)
てて
044
姫
(
ひめ
)
の
館
(
やかた
)
の
傍
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
045
進
(
すす
)
みて
怪
(
あや
)
しき
歌
(
うた
)
歌
(
うた
)
ひ
046
踊
(
をど
)
りつ
舞
(
ま
)
ひつ
恋衣
(
こひぎぬ
)
を
047
青葉
(
あをば
)
の
風
(
かぜ
)
に
翻
(
ひるがへ
)
し
048
茲
(
ここ
)
を
先途
(
せんど
)
と
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふ
049
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
窓
(
まど
)
の
戸
(
と
)
を
050
サツと
開
(
ひら
)
きて
庭
(
には
)
の
面
(
おも
)
051
眺
(
なが
)
め
給
(
たま
)
へば
訝
(
いぶ
)
かしや
052
チュウリック
姿
(
すがた
)
の
両人
(
りやうにん
)
が
053
恋
(
こひ
)
に
狂
(
くる
)
うた
破
(
やぶ
)
れ
歌
(
うた
)
054
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
歌
(
うた
)
ひつつ
055
顔
(
かほ
)
赤
(
あか
)
らめて
眺
(
なが
)
め
入
(
い
)
る
056
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
声
(
こゑ
)
をかけ
057
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
を
呼
(
よ
)
び
入
(
い
)
れて
058
手
(
て
)
づから
茶菓
(
さくわ
)
を
取
(
と
)
り
出
(
いだ
)
し
059
いと
懇
(
ねもごろ
)
にあしらへば
060
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
両人
(
りやうにん
)
は
061
眦
(
めじり
)
をさげて
涎
(
よだれ
)
繰
(
く
)
り
062
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
時
(
とき
)
来
(
き
)
ぬと
063
胸
(
むね
)
轟
(
とどろ
)
かす
可笑
(
をか
)
しさよ
064
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神司
(
かむつかさ
)
065
心
(
こころ
)
の
玉
(
たま
)
もピカピカと
066
輝
(
かがや
)
き
給
(
たま
)
へば
両人
(
りやうにん
)
は
067
云
(
い
)
ひ
寄
(
よ
)
る
術
(
すべ
)
も
荒男
(
あらをとこ
)
068
ビリビリ
体
(
からだ
)
を
慄
(
ふる
)
はせて
069
他人
(
たにん
)
の
家
(
いへ
)
から
借
(
か
)
つて
来
(
き
)
た
070
狆
(
ちん
)
か
猫
(
ねこ
)
かと
云
(
い
)
ふやうな
071
塩梅
(
あんばい
)
式
(
しき
)
で
畏
(
かしこ
)
まり
072
顔
(
かほ
)
を
赤
(
あか
)
らめ
控
(
ひか
)
へ
居
(
を
)
る。
073
初稚
(
はつわか
)
『
貴方
(
あなた
)
のチュウリックを
伺
(
うかが
)
ひますれば
074
リュウチナントさまにユゥンケル
様
(
さま
)
のやうで
厶
(
ござ
)
いますが、
075
何
(
なん
)
と
凛々
(
りり
)
しい、
076
男
(
をとこ
)
らしいお
姿
(
すがた
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア。
077
男子
(
だんし
)
はどうしても
軍人
(
ぐんじん
)
に
限
(
かぎ
)
ります。
078
花
(
はな
)
も
実
(
み
)
もある
武士
(
もののふ
)
は、
079
文学
(
ぶんがく
)
にも
通達
(
つうだつ
)
して
居
(
ゐ
)
るもので
厶
(
ござ
)
いますが、
080
唯今
(
ただいま
)
承
(
うけたま
)
はれば、
081
貴方
(
あなた
)
方
(
がた
)
は
文武
(
ぶんぶ
)
両道
(
りやうだう
)
の
達人
(
たつじん
)
、
082
誠
(
まこと
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました』
083
カンナ『ヘエ、
084
滅相
(
めつさう
)
な。
085
さうお
褒
(
ほ
)
めを
頂
(
いただ
)
きましては
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
ります。
086
私
(
わたし
)
は
一介
(
いつかい
)
の
武弁
(
ぶべん
)
、
087
文学
(
ぶんがく
)
趣味
(
しゆみ
)
は
一向
(
いつかう
)
持
(
も
)
ちませぬ。
088
無味
(
むみ
)
乾燥
(
かんさう
)
な
代物
(
しろもの
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
089
初稚
(
はつわか
)
『イヤどうしてどうして、
090
あれだけのお
歌
(
うた
)
を
即席
(
そくせき
)
にお
詠
(
よ
)
めになるのは、
091
余程
(
よほど
)
文学
(
ぶんがく
)
の
素養
(
そやう
)
がなくては
出来
(
でき
)
る
業
(
わざ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬ。
092
貴方
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
は
軍人
(
ぐんじん
)
になつていらつしやいますが、
093
文科
(
ぶんくわ
)
大学
(
だいがく
)
でも
優等
(
いうとう
)
で
卒業
(
そつげふ
)
なさつたお
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
いませうねえ』
094
カンナ『イヤ
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
ります。
095
実
(
じつ
)
は
赤門出
(
あかもんで
)
で
厶
(
ござ
)
いますが、
096
お
蔭
(
かげ
)
で
銀時計
(
ぎんどけい
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しま……せなんだ。
097
アハヽヽヽ』
098
ヘール『
拙者
(
せつしや
)
こそ、
099
文科
(
ぶんくわ
)
大学
(
だいがく
)
出身
(
しゆつしん
)
のチヤキチヤキで
厶
(
ござ
)
います。
100
随分
(
ずいぶん
)
私
(
わたくし
)
の
経歴
(
けいれき
)
は
波瀾
(
はらん
)
重畳
(
ちようでう
)
、
101
実
(
じつ
)
に
惨澹
(
さんたん
)
たる
歴史
(
れきし
)
に
富
(
と
)
むで
居
(
を
)
ります。
102
到底
(
たうてい
)
カンナ
君
(
くん
)
如
(
ごと
)
きは
傍
(
そば
)
へも
寄
(
よ
)
れないでせう』
103
初稚
(
はつわか
)
『どうか
一
(
ひと
)
つ
貴方
(
あなた
)
の
面白
(
おもしろ
)
き
来歴
(
らいれき
)
や、
104
又
(
また
)
今後
(
こんご
)
の
御
(
ご
)
方針
(
はうしん
)
を
篤
(
とつく
)
り
聞
(
き
)
かして
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますな』
105
ヘールは
茲
(
ここ
)
ぞと
云
(
い
)
はぬ
計
(
ばか
)
り、
106
一歩
(
ひとあし
)
二歩
(
ふたあし
)
蹂寄
(
にじりよ
)
り、
107
自分
(
じぶん
)
は
文科
(
ぶんくわ
)
大学
(
だいがく
)
出身
(
しゆつしん
)
だと
此
(
この
)
ナイスの
前
(
まへ
)
で
云
(
い
)
つたのだから、
108
茲
(
ここ
)
でこそ
文学者
(
ぶんがくしや
)
振
(
ぶ
)
りを
発揮
(
はつき
)
し、
109
流暢
(
りうちよう
)
な
詩
(
し
)
によりて
自分
(
じぶん
)
の
来歴
(
らいれき
)
を
述
(
の
)
べ、
110
姫
(
ひめ
)
の
心
(
こころ
)
を
感動
(
かんどう
)
させ、
111
自分
(
じぶん
)
の
文才
(
ぶんさい
)
を
敬慕
(
けいぼ
)
せしむるが
第一
(
だいいち
)
の
上手段
(
じやうしゆだん
)
と
心得
(
こころえ
)
、
112
目
(
め
)
を
白黒
(
しろくろ
)
させ
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
を
以
(
もつ
)
て
吾
(
わ
)
が
来歴
(
らいれき
)
を
述
(
の
)
べ
初
(
はじ
)
めた。
113
ヘール『
太陽
(
たいやう
)
は
天地
(
てんち
)
開闢
(
かいびやく
)
の
昔
(
むかし
)
より
114
東天
(
とうてん
)
を
掠
(
かす
)
めて
登
(
のぼ
)
り
115
日々
(
ひび
)
西天
(
せいてん
)
に
入
(
い
)
る
116
日
(
ひ
)
西天
(
せいてん
)
に
没
(
ぼつ
)
して
117
忽
(
たちま
)
ち
暗黒
(
あんこく
)
の
闇
(
やみ
)
は
来
(
きた
)
る
118
月
(
つき
)
は
忽
(
たちま
)
ち
西天
(
せいてん
)
に
姿
(
すがた
)
を
現
(
あら
)
はし
119
照々
(
せうせう
)
として
天
(
てん
)
に
沖
(
ちう
)
す
120
月
(
つき
)
落
(
お
)
ち
烏
(
からす
)
啼
(
な
)
いて
又
(
また
)
太陽
(
たいやう
)
東天
(
とうてん
)
に
現
(
あら
)
はる
121
満天
(
まんてん
)
の
星光
(
せいくわう
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
し
122
銀河
(
ぎんが
)
東西
(
とうざい
)
に
現
(
あら
)
はれ
或
(
あるひ
)
は
南北
(
なんぼく
)
に
流
(
なが
)
る
123
天
(
てん
)
は
蒼々
(
さうさう
)
として
際限
(
さいげん
)
なく
124
地
(
ち
)
は
浩々
(
こうこう
)
として
窮極
(
きうきよく
)
する
所
(
ところ
)
なし
125
吾
(
われ
)
は
天地
(
てんち
)
の
精気
(
せいき
)
を
受
(
う
)
けて
126
満目
(
まんもく
)
湘々
(
しやうしやう
)
たる
世界
(
せかい
)
に
生
(
せい
)
を
稟
(
う
)
く
127
嗚呼
(
ああ
)
人
(
ひと
)
は
万物
(
ばんぶつ
)
の
霊長
(
れいちやう
)
天地
(
てんち
)
の
花
(
はな
)
128
忽
(
たちま
)
ち
長
(
ちやう
)
じて
人
(
ひと
)
となり
129
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
笈
(
きふ
)
を
負
(
お
)
ひて
登
(
のぼ
)
り
130
文明
(
ぶんめい
)
開化
(
かいくわ
)
の
空気
(
くうき
)
を
呼吸
(
こきふ
)
し
131
文科
(
ぶんくわ
)
大学
(
だいがく
)
の
門
(
もん
)
を
出入
(
しゆつにふ
)
し
132
優秀
(
いうしう
)
の
誉
(
ほまれ
)
を
担
(
にな
)
ふて
郷関
(
きやうくわん
)
に
錦
(
にしき
)
を
飾
(
かざ
)
る
133
時
(
とき
)
しもあれバラモン
軍
(
ぐん
)
の
大元帥
(
だいげんすゐ
)
134
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
の
神意
(
しんい
)
によつて
135
人生
(
じんせい
)
最勝
(
さいしよう
)
最貴
(
さいき
)
の
軍人
(
ぐんじん
)
となり
136
晨
(
あした
)
に
月
(
つき
)
を
踏
(
ふ
)
み
夕
(
ゆふべ
)
に
星
(
ほし
)
を
頂
(
いただ
)
きて
軍務
(
ぐんむ
)
に
鞅掌
(
おうしやう
)
す
137
或
(
あるひ
)
は
河海
(
かかい
)
を
渡
(
わた
)
り
浩然
(
こうぜん
)
の
気
(
き
)
を
養
(
やしな
)
ふて
神軍
(
しんぐん
)
に
従
(
したが
)
ふ
138
長駆
(
ちやうく
)
千里
(
せんり
)
イヅミの
国
(
くに
)
139
漸
(
やうや
)
くつきしキヨの
港
(
みなと
)
140
云
(
い
)
ふ
勿
(
なか
)
れ
下級
(
かきふ
)
武官
(
ぶくわん
)
の
端
(
はし
)
と
141
前途
(
ぜんと
)
洋々
(
やうやう
)
として
極
(
きは
)
まりなく
142
登竜
(
とうりう
)
の
望
(
のぞ
)
みあり
143
吾
(
われ
)
今
(
いま
)
茲
(
ここ
)
に
蹕
(
ひつ
)
を
留
(
とど
)
めて
生霊
(
せいれい
)
を
愛護
(
あいご
)
す
144
窈窕
(
ようてう
)
嬋妍
(
せんけん
)
たる
美人
(
びじん
)
天
(
てん
)
より
下
(
くだ
)
つて
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
在
(
あ
)
り
145
何
(
いづく
)
んぞ
知
(
し
)
らむ
意中
(
いちう
)
の
人
(
ひと
)
146
吾
(
わが
)
眼前
(
がんぜん
)
に
顕現
(
けんげん
)
す
147
人間
(
にんげん
)
万事
(
ばんじ
)
塞翁
(
さいおう
)
の
馬
(
うま
)
148
小官
(
せうくわん
)
豈
(
あに
)
軽
(
かろ
)
んずべけむや
149
願
(
ねが
)
はくは
吾
(
わが
)
肚裡
(
とり
)
に
包
(
つつ
)
める
150
雄図
(
ゆうと
)
を
看取
(
かんしゆ
)
したまひて
151
鴛鴦
(
ゑんあう
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
ばせたまはむ
事
(
こと
)
を
152
バラモン
神明
(
しんめい
)
の
前
(
まへ
)
に
拝跪
(
はいき
)
して
153
帰命
(
きめう
)
頂礼
(
ちやうらい
)
祈願
(
きぐわん
)
し
奉
(
たてまつ
)
る』
154
初稚
(
はつわか
)
『オホヽヽヽ。
155
遉
(
さすが
)
文科
(
ぶんくわ
)
大学
(
だいがく
)
出身
(
しゆつしん
)
丈
(
だけ
)
あつて、
156
どこともなしに
余韻
(
よゐん
)
嫋々
(
じやうじやう
)
たる
詩歌
(
しか
)
で
厶
(
ござ
)
います。
157
妾
(
わらは
)
も
文学
(
ぶんがく
)
が
大変
(
たいへん
)
好
(
す
)
きで
厶
(
ござ
)
います。
158
本当
(
ほんたう
)
に
春陽
(
しゆんやう
)
の
気
(
き
)
が
漂
(
ただよ
)
ひますなア』
159
ヘール『エヘヽヽヽ。
160
イヤもうお
恥
(
はづ
)
かしう
厶
(
ござ
)
います。
161
イヤ、
162
カンナ
君
(
くん
)
、
163
リュウチナント
殿
(
どの
)
、
164
君
(
きみ
)
も
一
(
ひと
)
つ
脳髄
(
なうずゐ
)
の
底
(
そこ
)
をたたいて、
165
茲
(
ここ
)
で
一
(
ひと
)
つ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
清聴
(
せいちやう
)
を
煩
(
わづら
)
はしたらどうだ』
166
カンナ『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
167
これから
私
(
わたくし
)
が、
168
些
(
すこ
)
し
計
(
ばか
)
り
詩吟
(
しぎん
)
をやります。
169
何卒
(
どうぞ
)
審判
(
しんぱん
)
は
貴女
(
あなた
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
170
初稚
(
はつわか
)
『ハイ、
171
左様
(
さやう
)
ならば、
172
私
(
わたくし
)
が
臨時
(
りんじ
)
審判長
(
しんぱんちやう
)
となつて
伺
(
うかが
)
ひませう。
173
定
(
さだ
)
めて
優秀
(
いうしう
)
な
詩歌
(
しか
)
が
聞
(
き
)
かれる
事
(
こと
)
だと、
174
今
(
いま
)
から
期待
(
きたい
)
して
居
(
を
)
ります』
175
カンナ『
然
(
しか
)
らば
御免
(
ごめん
)
を
蒙
(
かうむ
)
つて
一首
(
いつしゆ
)
吟
(
ぎん
)
じて
見
(
み
)
ませう。
176
オイ、
177
ヘールさま、
178
確
(
しつか
)
り
聞
(
き
)
いて
呉
(
く
)
れたまへ』
179
カンナ『
日
(
ひ
)
は
照
(
て
)
る
曇
(
くも
)
る
雨
(
あめ
)
は
降
(
ふ
)
る
180
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
ち
照
(
て
)
り
虧
(
か
)
け
光
(
ひか
)
る
181
大空
(
おほぞら
)
渡
(
わた
)
る
日
(
ひ
)
の
影
(
かげ
)
も
182
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
も
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
183
現
(
あ
)
れます
姫
(
ひめ
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
184
比例
(
たとへ
)
にならぬ
心地
(
ここち
)
する
185
此
(
この
)
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
顔色
(
かんばせ
)
は
186
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
姿
(
すがた
)
187
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
は
瑞御霊
(
みづみたま
)
188
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
と
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
189
御
(
お
)
頭
(
かしら
)
見
(
み
)
ればキラキラと
190
星
(
ほし
)
の
如
(
ごと
)
くに
宝玉
(
はうぎよく
)
が
191
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
る
鮮
(
あざや
)
かさ
192
人
(
ひと
)
は
天地
(
てんち
)
の
御霊物
(
みたまもの
)
193
宇宙
(
うちう
)
の
縮図
(
しゆくづ
)
と
聞
(
き
)
きつれど
194
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
名実
(
めいじつ
)
相叶
(
あひかな
)
ふ
195
縮図
(
しゆくづ
)
を
眺
(
なが
)
めた
事
(
こと
)
はない
196
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
御
(
おん
)
姿
(
すがた
)
197
天津
(
あまつ
)
御国
(
みくに
)
の
天人
(
てんにん
)
か
198
但
(
ただ
)
しは
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
か
199
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
ピカピカと
200
内部
(
ないぶ
)
外部
(
ぐわいぶ
)
の
隔
(
へだ
)
てなく
201
輝
(
かがや
)
きたまふ
水晶玉
(
すゐしやうだま
)
202
金銀
(
きんぎん
)
瑪瑙
(
めなう
)
玻璃
(
はり
)
珊瑚
(
さんご
)
203
瑠璃
(
るり
)
の
色
(
いろ
)
なす
御
(
おん
)
頭
(
つむり
)
204
硨磲
(
しやこ
)
の
笄
(
かふがひ
)
かざしつつ
205
イヅミの
国
(
くに
)
に
現
(
あら
)
はれて
206
これの
館
(
やかた
)
に
下
(
くだ
)
りまし
207
衆生
(
しゆじやう
)
済度
(
さいど
)
の
御
(
おん
)
誓
(
ちか
)
ひ
208
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
備
(
そな
)
はりし
209
観音
(
くわんおん
)
勢至
(
せいし
)
妙音
(
めうおん
)
菩薩
(
ぼさつ
)
210
今
(
いま
)
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
伏
(
ふ
)
し
拝
(
をが
)
み
211
心
(
こころ
)
の
闇
(
やみ
)
もスクスクと
212
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
りたる
尊
(
たふと
)
さよ
213
恋路
(
こひぢ
)
に
迷
(
まよ
)
ふヘールさま
214
得意
(
とくい
)
の
文学
(
ぶんがく
)
捻
(
ひね
)
り
出
(
だ
)
し
215
七
(
しち
)
難
(
むつかし
)
き
歌
(
うた
)
をよみ
216
アツと
云
(
い
)
はせて
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
217
御心
(
みこころ
)
動
(
うご
)
かし
奉
(
たてまつ
)
り
218
望
(
のぞ
)
みを
遂
(
と
)
げむと
焦
(
いら
)
てども
219
如何
(
いか
)
で
動
(
うご
)
かむ
千引岩
(
ちびきいは
)
220
押
(
お
)
せども
引
(
ひ
)
けども
吾々
(
われわれ
)
が
221
弱
(
よわ
)
き
力
(
ちから
)
の
及
(
およ
)
ぶべき
222
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
223
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さち
)
はいて
224
もしも
縁
(
えにし
)
のあるなれば
225
これのナイスと
永久
(
とこしへ
)
に
226
鴛鴦
(
をし
)
の
契
(
ちぎり
)
を
結
(
むす
)
ばせて
227
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
に
228
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
四方
(
よも
)
の
国
(
くに
)
229
開
(
ひら
)
かせ
給
(
たま
)
へ
自在天
(
じざいてん
)
230
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
231
リュウチナントと
仕
(
つか
)
へたる
232
カンナの
司
(
つかさ
)
が
村肝
(
むらきも
)
の
233
心
(
こころ
)
を
清
(
きよ
)
めて
願
(
ね
)
ぎまつる
234
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
235
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はへましませよ
236
此処
(
ここ
)
は
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふバラモンの
237
キヨの
関守
(
せきもり
)
神司
(
かむつかさ
)
238
いや
永久
(
とこしへ
)
に
鎮
(
しづ
)
まりて
239
三五教
(
あななひけう
)
やウラル
教
(
けう
)
240
其
(
その
)
外
(
ほか
)
百
(
もも
)
の
醜道
(
しこみち
)
を
241
世
(
よ
)
に
布
(
し
)
き
伝
(
つた
)
へ
人々
(
ひとびと
)
の
242
心
(
こころ
)
を
曇
(
くも
)
らす
曲神
(
まがかみ
)
を
243
捉
(
とら
)
へて
懲
(
こら
)
す
大聖場
(
だいせいぢやう
)
244
夫
(
それ
)
の
司
(
つかさ
)
と
任
(
ま
)
けられし
245
チルテル
大尉
(
たいゐ
)
の
副官
(
ふくくわん
)
と
246
仕
(
つか
)
へまつりし
此
(
この
)
カンナ
247
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
思
(
おも
)
ひ
248
遂
(
と
)
げさせ
給
(
たま
)
へと
願
(
ね
)
ぎまつる。
249
朝日子
(
あさひこ
)
の
笑
(
ゑ
)
み
栄
(
さか
)
えます
姫
(
ひめ
)
の
姿
(
すがた
)
250
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
に
優
(
まさ
)
りぬるかな。
251
如何
(
いか
)
にして
心
(
こころ
)
の
丈
(
たけ
)
を
語
(
かた
)
らむと
252
思
(
おも
)
へどひとり
口籠
(
くちごも
)
るかも』
253
ヘール『
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
のまにまに
進
(
すす
)
むべし
254
此
(
この
)
道
(
みち
)
のみは
詮術
(
せんすべ
)
もなければ』
255
初稚
(
はつわか
)
『
情
(
なさ
)
けある
武士
(
もののふ
)
達
(
たち
)
に
物申
(
ものまう
)
す
256
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
実
(
げ
)
にも
楽
(
たの
)
しかりけり。
257
願
(
ねが
)
はくば
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
に
258
心
(
こころ
)
あはせて
仕
(
つか
)
へむとぞ
思
(
おも
)
ふ』
259
カンナ『
何
(
なん
)
となくまだもの
足
(
た
)
らぬ
心地
(
ここち
)
すれ
260
姫
(
ひめ
)
の
御心
(
みこころ
)
量
(
はか
)
りかぬれば』
261
ヘール『
恋衣
(
こひごろも
)
着
(
き
)
むと
思
(
おも
)
はば
現身
(
うつそみ
)
の
262
垢
(
あか
)
を
洗
(
あら
)
ひて
清
(
きよ
)
くなれなれ。
263
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
を
神
(
かみ
)
に
研
(
みが
)
きなば
264
天津
(
あまつ
)
乙女
(
をとめ
)
も
如何
(
いか
)
で
嫌
(
きら
)
はむ』
265
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
陸奥
(
みちのく
)
の
蓬ケ原
(
よもぎがはら
)
をかきわけて
266
萎
(
しほ
)
れぬ
花
(
はな
)
を
手折
(
たを
)
りませ
君
(
きみ
)
』
267
カンナ『
手折
(
たを
)
らむと
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
の
切
(
せつ
)
なさを
268
汲
(
く
)
み
取
(
と
)
りたまへ
珍
(
うづ
)
の
淑人
(
よきひと
)
』
269
かく
互
(
たがひ
)
に
歌
(
うた
)
をもつて
心
(
こころ
)
を
探
(
さぐ
)
り
合
(
あ
)
ひつつ、
270
夏
(
なつ
)
の
長
(
なが
)
き
日
(
ひ
)
を
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
暮
(
くら
)
してしまつた。
271
チルナ
姫
(
ひめ
)
は
二人
(
ふたり
)
の
成功
(
せいこう
)
を
案
(
あん
)
じ
煩
(
わづら
)
ひつつ、
272
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせ
窓
(
まど
)
の
外
(
そと
)
に
立
(
た
)
ちよつて、
273
息
(
いき
)
を
潜
(
ひそ
)
めて
聞
(
き
)
き
居
(
ゐ
)
たり。
274
(
大正一二・四・一
旧二・一六
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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