霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 開窟(かいくつ)〔一五一六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第3篇 地底の歓声 よみ(新仮名遣い):ちていのかんせい
章:第16章 開窟 よみ(新仮名遣い):かいくつ 通し章番号:1516
口述日:1923(大正12)年04月02日(旧02月17日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
伊太彦が入り口に座っていると、今度はワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人が転がり落ちていた。またバラモン軍の兵士たちも十七八人落ち込んできた。伊太彦は相変わらず宿屋の受付気取りで応対する。
チルテルは、部下たちが全員落ち込んでしまったので、外から岩窟の出入り口を上げてくれる者がいなくなってしまったと心配する。三千彦は、玉国別たちが助けてくれるだろうと安堵するが、夜になって玉国別一行が落とし穴に落ち込んできた。
一行が岩窟に入ってみると、バラモン軍たちは、もうここから出る手段がないと嘆いている。玉国別は朗々と宣伝歌を歌って、改心して心静かに助けを待つようにと教えを示した。
一同が述懐の歌を歌い合っていると、スマートを先頭に初稚姫が燈火を捧げながらやってきた。初稚姫は関所の岩窟の入り口の錠を外して、石段を降って皆を助けに来てくれたのであった。
この初稚姫は白狐の化身ではなく、本物の初稚姫がイクとサールを従えて、落とし穴に落ちた人々を助けるためにやってきたのであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-01-13 18:57:42 文字数:4205 OBC :rm5916
愛善世界社版:211頁 八幡書店版:第10輯 560頁 修補版: 校定版:223頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 伊太彦(いたひこ)は依然(いぜん)として、002入口(いりぐち)に坐(すわ)つて居(ゐ)ると003ワックス、004エキス、005ヘルマン、006エルの四(よ)人(にん)が転(ころ)げ込(こ)むだ。007次(つぎ)に、0071忽(たちま)ちバラスをぶち開(あ)けたやうに、008ドサドサドサと十七八(じふしちはち)人(にん)のチュウリック姿(すがた)の若者(わかもの)折(を)り重(かさ)なつて落(お)ち込(こ)み来(きた)る。
009伊太(いた)『ヤア、010大勢(おほぜい)さま、011よく御(ご)下向(げかう)になりました、012サア此処(ここ)は坂(さか)の下(した)の小竹屋(こたけや)で厶(ござ)います。013大竹屋(おほたけや)のやうに決(けつ)してお客(きやく)さまを床(ゆか)の下(した)から手槍(てやり)でついて、014命(いのち)をとり着物(きもの)を剥(はぎ)取(と)つて樽(たる)に詰(つ)めて海(うみ)へ投(ほ)りに行(ゆ)くやうな事(こと)はありませぬ。015まア安心(あんしん)してお泊(とま)り下(くだ)さい。016せいぜい勉強(べんきやう)してお安(やす)く願(ねが)ひます。017昼飯(ひるめし)もこめまして、018お一人(ひとり)さまに三(さん)円(ゑん)づつで泊(とま)つて頂(いただ)きます。019あゝ、0191大繁昌(だいはんじやう)だ。020宿屋(やどや)もこれだけ客(きやく)があれば捨(す)てたものぢやないわい。021番頭(ばんとう)さまも随分(ずいぶん)忙(いそが)しい事(こと)だなア』
022 一同(いちどう)はムクムクと起(お)き上(あが)り、023互(たがひ)にがやがやと呟(つぶや)いて居(ゐ)る。
024甲(かふ)『オイ、025貴様(きさま)が俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)かないから、026たうとうこんな奈落(ならく)へ落(お)ちて仕舞(しま)つたのだ。027一体(いつたい)どうして呉(く)れるのだい』
028乙(おつ)『馬鹿(ばか)云(い)ふない。029いつも目標(もくへう)の黒(くろ)い棒杭(ぼうぐひ)が立(た)つて居(ゐ)たぢやないか、030あの脇(わき)を通(とほ)ればよいのだ。031誰(たれ)かが、032棒杭(ぼうぐひ)の位置(ゐち)を変(か)へて置(お)きやがつたと見(み)えて033こんな失策(しつさく)をしたのだ』
034甲(かふ)『馬鹿(ばか)云(い)ふない。035ありや棒杭(ぼうぐひ)ぢやない、036様子(やうす)が違(ちが)つて居(ゐ)るから、037気(き)をつけと云(い)つたぢやないか、038然(しか)るに貴様(きさま)が「ナニ」と云(い)ふて我(が)を張(は)つたものだから、039こんな所(ところ)へ皆(みな)落(お)ちて仕舞(しま)つたのだよ。040誰(たれ)か様子(やうす)を知(し)つて居(ゐ)るものが救(すく)ひ出(だ)して呉(く)れるより外(ほか)に出(で)る道(みち)はない。041まア042ミイラになる所(とこ)まで辛抱(しんばう)するのだなア』
043伊太(いた)『お客様(きやくさま)044ようお出(いで)なさいました。045新規(しんき)開業(かいげふ)の宿屋(やどや)で厶(ござ)います。046お安(やす)く願(ねが)ひます』
047甲(かふ)『ヤア貴様(きさま)は三五教(あななひけう)の奴(やつ)ぢやないか、048どうして居(ゐ)るのだえ』
049伊太(いた)『エイ、050余(あま)り宣伝使(せんでんし)と云(い)ふ商売(しやうばい)も引(ひ)き合(あ)ひませぬので、051俄(にはか)に岩窟(がんくつ)ホテルを開(ひら)き、052商売替(しやうばいがへ)を致(いた)しました。053奥(おく)にチルテルのキャプテンも、054ヘールのユゥンケルもお出(いで)です。055サア御(ご)遠慮(ゑんりよ)なくお通(とほ)り下(くだ)さい、056毎度(まいど)御(ご)贔屓(ひいき)に有難(ありがた)う厶(ござ)います』
057乙(おつ)『何(なん)だ、058怪体(けたい)な事(こと)があるものだなア。059併(しか)し乍(なが)ら奥(おく)へ這入(はい)つてキャプテンに遇(あ)ひ060一(いち)時(じ)も早(はや)く助(たす)からねばならぬ』
061と委細(ゐさい)かまはずどやどやと奥(おく)へ進(すす)むで行(ゆ)く。
062チルテル『ヤアお前(まへ)達(たち)は大勢(おほぜい)一度(いちど)にこんな所(ところ)へ落(お)ち込(こ)むで来(き)たのか』
063甲(かふ)『ハイ、064旦那(だんな)のお行方(ゆくへ)を探(さが)しました所(ところ)、065何処(どこ)にもお姿(すがた)が見(み)えないので、066大方(おほかた)岩窟(がんくつ)ホテルに御(ご)投宿(とうしゆく)かと思(おも)ひまして、067部下(ぶか)を引(ひ)き率(つ)れ、068お迎(むか)ひに参(まゐ)りました』
069チルテル『ヤ、070それは御(ご)苦労(くらう)だ。071よく迎(むか)へに来(き)て呉(く)れた。072関所(せきしよ)の入口(いりぐち)は開(あ)けて置(お)いたらうなア。073其処(そこ)さへ開(あ)けてあれば出(で)るのは甘(うま)いものだ。074三千彦(みちひこ)さま、075デビスさま、076もう御(ご)安心(あんしん)なさい。077万古(まんご)末代(まつだい)出(で)られないかと思(おも)ひましたら078入口(いりぐち)を開(あ)けて部下(ぶか)が迎(むか)ひに来(き)てくれました』
079甲(かふ)『ヘエ、080折角(せつかく)乍(なが)ら其(その)入口(いりぐち)から、081開(あ)けてお迎(むか)ひに来(き)たのなら都合(つがふ)がよいのですが、082思(おも)はず知(し)らず落(お)ち込(こ)むで来(き)たので、083ヘエ、084誠(まこと)に困(こま)つて居(を)ります。085何処(どこ)かに抜穴(ぬけあな)は厶(ござ)いますまいかな』
086チルテル『あゝもう駄目(だめ)だ。087一人(ひとり)も残(のこ)らず、088此処(ここ)へ落(お)ち込(こ)むで仕舞(しま)つた。089誰一人(たれひとり)も助(たす)けに来(く)るものは無(な)いではないか。090残念(ざんねん)ながら俺(おれ)達(たち)一同(いちどう)は此処(ここ)でミイラになるより仕方(しかた)が無(な)いわ。091三千彦(みちひこ)様(さま)092貴方(あなた)は何(ど)うお考(かんが)へですか』
093三千(みち)『何(なん)だか知(し)りませぬが、094私(わたし)は玉国別(たまくにわけ)の神司(かむづかさ)が、095きつと救(すく)ひに来(き)て呉(く)れるやうな気(き)がします。096それだから、097少(すこ)しも案(あん)じては居(を)りませぬ。098皆(みな)さま099気(き)を落(お)ちつけて御(ご)休息(きうそく)なさいませ』
100 一同(いちどう)はガサガサ云(い)ふ畳(たたみ)に横(よこ)になり、101ガヤガヤと囁(ささや)き乍(なが)ら、102救(すく)ひの人(ひと)の現(あら)はれ来(きた)るのを待(ま)つて居(ゐ)た。103三千彦(みちひこ)はデビス姫(ひめ)と共(とも)に拍手(かしはで)を打(う)つて一生(いつしやう)懸命(けんめい)―『三五教(あななひけう)の大神(おほかみ)、104バラモン教(けう)の大神(おほかみ)、105守(まも)りたまへ救(すく)ひたまへ』と祈願(きぐわん)し初(はじ)めた。106伊太彦(いたひこ)は口(くち)の間(ま)に依然(いぜん)として胡床(あぐら)をかいて居(ゐ)る。
107 日(ひ)は暮(く)れたと見(み)えて108又(また)もや燐光(りんくわう)キラキラと閃(ひらめ)き初(はじ)めた。
109伊太(いた)『何(なん)と夜(よる)になると綺麗(きれい)なものだな。110まるで不夜城(ふやじやう)のやうだ。111燈火(ともしび)を点(とも)す必要(ひつえう)も無(な)く油(あぶら)も入(い)らず、112実(じつ)に経済(けいざい)に出来(でき)て居(ゐ)るわい』
113と相変(あひかは)らず阿呆口(あはうぐち)を叩(たた)いて居(ゐ)る。114そこへドスン ドスン ドスンと雪崩(なだれ)の如(ごと)く落(お)ち込(こ)むだのは思(おも)ひがけなき、115玉国別(たまくにわけ)、116真純彦(ますみひこ)、117アンチー、118テクの四(よ)人(にん)であつた。119伊太彦(いたひこ)は又(また)バラモンの連中(れんちう)が落(お)ちて来(き)たと思(おも)ひ乍(なが)ら、120宿屋(やどや)の番頭(ばんとう)気分(きぶん)になり、
121伊太(いた)『お出(いで)やすお出(いで)やす。122これはこれはお客様(きやくさま)123毎度(まいど)御(ご)贔屓(ひいき)に有難(ありがた)う厶(ござ)います。124開業(かいげふ)間(ま)もなき岩窟(がんくつ)ホテル、125伊太屋(いたや)の番頭(ばんとう)です。126一名(いちめい)坂(さか)の下(した)小竹屋(こたけや)とも申(まを)します。127サア一(ひと)つ十分(じふぶん)勉強(べんきやう)を致(いた)しておきますから、128お泊(とま)り下(くだ)さいませ。129その代(かは)り木賃(もくちん)ホテルですから食物(しよくもつ)はさし上(あ)げませぬ。130エヘヽヽヽ』
131玉国(たまくに)『何(なん)だか妙(めう)な声(こゑ)がするぢやないか、132なア真純彦(ますみひこ)』
133真純(ますみ)『玉国別(たまくにわけ)様(さま)、134偉(えら)い所(ところ)へ落(お)ち込(こ)むだものですワ。135どこか出口(でぐち)がありさうなものですなア』
136 伊太彦(いたひこ)は此(この)言葉(ことば)を聞(き)いて玉国別(たまくにわけ)の一行(いつかう)と知(し)り嬉(うれ)しげに、137言葉(ことば)も元気(げんき)よく、
138伊太(いた)『あ、139先生(せんせい)で厶(ござ)いましたか。140私(わたし)は伊太彦(いたひこ)ですよ。141たうとう陥穽(おとしあな)へ落(お)ち込(こ)むで出(で)る所(ところ)がないので因果腰(いんぐわごし)を定(き)めて居(を)りましたが、142貴方(あなた)どうしてまア、143こんな所(ところ)へお出(いで)になつたのです』
144玉国(たまくに)『あゝお前(まへ)は伊太彦(いたひこ)であつたか、145妙(めう)な所(ところ)で遇(あ)ふたものだなア。146さうして三千彦(みちひこ)や、147デビス姫(ひめ)は此処(ここ)に居(ゐ)るのかなア』
148伊太(いた)『ヘエヘエ、149奥(おく)に居(ゐ)られます。150どうか早(はや)く御(ご)対面(たいめん)下(くだ)さい。151序(ついで)にチルテル、152ヘールを初(はじ)め153バラモン軍(ぐん)の兵士(へいし)がザツと二(に)ダース許(ばか)り詰(つ)め込(こ)むであります。154お蔭(かげ)で此(この)岩窟(がんくつ)ホテルも賑(にぎ)やかになりました』
155真純(ますみ)『オイ伊太彦(いたひこ)、156気楽(きらく)な事(こと)を云(い)つて居(ゐ)る時(とき)ぢやない。157何(なん)とかして此処(ここ)を逃(のが)れ出(で)る工夫(くふう)をせなくてはならないぢやないか』
158伊太(いた)『お前(まへ)は真純彦(ますみひこ)だな、159ようまアおつき合(あひ)に落(お)ち込(こ)むで呉(く)れたな。160併(しか)しもうかうなれば万事(ばんじ)窮(きう)す矣だ。161焦(あせ)つた所(ところ)で仕方(しかた)がない。162万事(ばんじ)天(てん)に任(まか)せて、163騒(さわ)がず、164焦(あせ)らず、165従容(しようよう)として死期(しき)の至(いた)るを待(ま)つのだな』
166テク『あゝもう、167斯(か)うなりや仕方(しかた)がない、168因果腰(いんぐわごし)を定(き)めるのだな。169助(たす)かるものなら皆(みな)一度(いちど)に救(たす)かり、170死(し)ぬものなら皆(みな)一同(いちどう)に死(し)ぬのだ。171最早(もはや)肉体(にくたい)は完全(くわんぜん)に保(たも)つ事(こと)は出来(でき)まい。172此処(ここ)へ落(お)ちれば食料(しよくれう)はなし、173誰人(たれ)も投(ほ)り込(こ)むでは呉(く)れまいし、174あゝ困(こま)つた事(こと)になつたものだなア』
175 玉国別(たまくにわけ)は三(さん)人(にん)を従(したが)へ、176伊太彦(いたひこ)と共(とも)に奥(おく)へ進(すす)むで行(ゆ)く。177大勢(おほぜい)が種々(いろいろ)と半泣(はんな)き声(ごゑ)を出(だ)して呟(つぶや)いて居(ゐ)る。178玉国別(たまくにわけ)は声(こゑ)高(たか)らかに歌(うた)ひ初(はじ)めた。
179玉国別(たまくにわけ)『人(ひと)は神(かみ)の子(こ)神(かみ)の宮(みや)
180天地(てんち)に神(かみ)の在(ま)す限(かぎ)り
181救(すく)はせたまはぬ事(こと)やある
182三千彦(みちひこ)司(つかさ)を初(はじ)めとし
183チルテル、ヘール其(その)外(ほか)の
184天(あめ)の益人(ますひと)村肝(むらきも)の
185心(こころ)を安(やす)く平(たひら)けく
186持(も)たせたまへよ惟神(かむながら)
187神(かみ)の恵(めぐみ)は草(くさ)や木(き)の
188片葉(かきは)の露(つゆ)に至(いた)る迄(まで)
189宿(やど)らせたまふものなるぞ
190如何(いか)に地底(ちてい)の岩窟(がんくつ)に
191落(お)ち込(こ)み日蔭(ひかげ)を見(み)ぬとても
192三五教(あななひけう)を守(まも)ります
193尊(たふと)き清(きよ)き皇神(すめかみ)は
194必(かなら)ず救(すく)ひたまふべし
195朝日(あさひ)は照(て)るとも曇(くも)るとも
196月(つき)は盈(み)つとも虧(か)くるとも
197仮令(たとへ)大地(だいち)は沈(しづ)むとも
198誠(まこと)の力(ちから)は世(よ)を救(すく)ふ
199此(この)岩窟(がんくつ)に集(あつ)まりし
200吾(われ)等(ら)一同(いちどう)心(こころ)をば
201一(ひと)つになして皇神(すめかみ)の
202其(その)大恩(だいおん)を讃(ほ)め称(たた)へ
203心(こころ)の底(そこ)から改良(かいりやう)して
204誠(まこと)の道(みち)に叶(かな)ひなば
205必(かなら)ず救(すく)ひたまふべし
206心(こころ)を労(らう)する事(こと)勿(なか)れ
207勇(いさ)めよ勇(いさ)めよ皆(みな)の人(ひと)
208勇(いさ)めば勇(いさ)む事(こと)が来(く)る
209悔(く)やめば悔(く)やむ事(こと)が来(く)る
210仮令(たとへ)千尋(ちひろ)の海底(うなぞこ)に
211身(み)は沈(しづ)むとも何(なに)かあらむ
212神(かみ)の守(まも)りのある中(うち)は
213死(し)なむと思(おも)へど死(し)に切(き)れず
214これに反(はん)して大神(おほかみ)が
215吾(われ)等(ら)を見放(みはな)したまひなば
216地上(ちじやう)に安(やす)く住(す)むとても
217命(いのち)を召(め)させたまふべし
218唯(ただ)何事(なにごと)も惟神(かむながら)
219神(かみ)に任(まか)して赤心(まごころ)を
220皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
221現(あら)はしまつるに如(し)くはなし
222祝(いは)へよ祝(いは)へよ神(かみ)の徳(とく)
223あがめよ あがめよ 神(かみ)のいづ
224此(この)世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)
225心(こころ)も広(ひろ)き大直日(おほなほひ)
226唯(ただ)何事(なにごと)も人(ひと)の世(よ)は
227直日(なほひ)に見直(みなほ)せ聞直(ききなほ)せ
228身(み)の過(あやまち)は宣(の)り直(なほ)せ
229三五教(あななひけう)の吾々(われわれ)は
230如何(いか)なる難(なやみ)に遇(あ)ふとても
231些(すこ)しも恐(おそ)れぬ大和魂(やまとだま)
232生言霊(いくことたま)を打(う)ち出(だ)して
233これの岩窟(いはや)を委曲(まつぶさ)に
234開(ひら)きて救(すく)ひ助(たす)くべし
235心(こころ)安(やす)かれ諸人(もろびと)よ
236皇(すめ)大神(おほかみ)の御(おん)前(まへ)に
237玉国別(たまくにわけ)が赤心(まごころ)を
238現(あら)はし祈(いの)り奉(たてまつ)る
239あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
240御霊(みたま)幸(さち)倍(はへ)ましませよ』
241真純彦(ますみひこ)『いや深(ふか)き神(かみ)の仕組(しぐみ)に操(あやつ)られ
242千尋(ちひろ)の底(そこ)に天下(あまくだ)りけり。
243黄昏(たそがれ)て地上(ちじやう)の世界(せかい)は暗(くら)けれど
244此(この)岩窟(いはやど)の光(ひか)る怪(あや)しさ』
245伊太彦(いたひこ)『光明(くわうみやう)の世界(せかい)に神(かみ)は導(みちび)きて
246心(こころ)の岩戸(いはと)開(ひら)きたまひぬ』
247玉国別(たまくにわけ)『摩訶(まか)不思議(ふしぎ)暗(くら)き筈(はず)なる岩窟(いはやど)に
248キラキラ光(ひか)るものは何(なん)ぞや』
249伊太彦(いたひこ)『此(この)岩窟(いはや)みな燐砿(りんくわう)で固(かた)めあり
250神(かみ)のまにまに光(ひか)るのみなり』
251テク『テクテクと闇(やみ)の道(みち)をば歩(あゆ)みつつ
252土(つち)の底(そこ)にと落(お)ち込(こ)みにけり。
253初稚姫(はつわかひめ)神(かみ)の命(みこと)を娶(めと)らむと
254争(あらそ)ひし身(み)の恥(はづ)かしきかな』
255アンチー『案内(あんない)を引(ひ)き受(う)け乍(なが)ら地(ち)の底(そこ)の
256岩窟(いはや)に落(おち)し吾(われ)ぞ悔(く)やしき。
257師(し)の君(きみ)を知(し)らず知(し)らずに根(ね)の国(くに)へ
258導(みちび)きし吾(われ)の罪(つみ)の重(おも)さよ。
259如何(いか)にして此(この)過(あやまち)を詫(わ)びむかと
260思(おも)ふも詮(せん)なき胸(むね)の闇(やみ)かな』
261玉国別(たまくにわけ)『アンチーよテクの司(つかさ)よ村肝(むらきも)の
262心(こころ)悩(なや)めな神(かみ)の御業(みわざ)ぞ。
263打(う)ち揃(そろ)ひ神(かみ)の御(おん)名(な)を宣(の)り上(あ)げて
264吾(われ)人(ひと)共(とも)に世(よ)に暉(かが)やかむ』
265三千彦(みちひこ)『岩窟(いはやど)に皇(すめ)大神(おほかみ)も暫(しばら)くは
266隠(かく)れましたるためしありけり。
267尻込(しりく)めの縄(なは)をおろして吾々(われわれ)を
268救(すく)ひ助(たす)くる人(ひと)の来(こ)よかし。
269三五(あななひ)の皇(すめ)大神(おほかみ)は吾々(われわれ)が
270今(いま)の難(なやみ)を知(し)ろし召(め)すらむ』
271チルテル『吾(わが)守(まも)る屋敷(やしき)の中(なか)の陥穽(おちあな)へ
272自(みづか)ら落(お)ちし事(こと)のうたてさ。
273兵士(つはもの)が一人(ひとり)も残(のこ)らず陥穽(おちあな)へ
274転(ころ)げ込(こ)みしも不思議(ふしぎ)なるかな。
275浅(あさ)からぬ神(かみ)の仕組(しぐみ)のある事(こと)と
276首(くび)を傾(かた)げて訝(いぶ)かり居(ゐ)るも』
277ヘール『初稚姫(はつわかひめ)司(つかさ)の恋(こひ)を争(あらそ)ひし
278人(ひと)の仕組(しぐみ)の如何(いか)であるべき。
279唯(ただ)卑(いや)し心(こころ)の雲(くも)に目(め)を被(お)はれ
280奈落(ならく)に落(おち)し身(み)の終(をは)りかも』
281テク『何事(なにごと)の在(おは)しますかは知(し)らねども
282苦(くる)しさ痛(いた)さに涙(なみだ)こぼるる。
283此(この)穴(あな)に落(お)ちたる人(ひと)の間(あひだ)には
284妻(つま)もあるべし御子(みこ)もあるべし。
285妻(つま)や子(こ)は云(い)ふも更(さら)なり垂乳根(たらちね)の
286御親(みおや)はさこそ[※「さこそ」は「さぞ」「どんなにか」という意味。]嘆(なげ)きますらむ』
287 斯(か)く互(たが)ひに述懐(じゆつくわい)を述(の)べ、288胸(むね)の苦(くる)しみを紛(まぎ)らして居(ゐ)る。289忽(たちま)ち何処(いづく)ともなく、290頭(あたま)の上(うへ)から、
291『ウーウ、292ウーウ、293ワウワウワウ』
294と猛犬(まうけん)の声(こゑ)が聞(きこ)えて来(き)た。295三千彦(みちひこ)は雀躍(こをど)りし乍(なが)ら、
296三千彦(みちひこ)『有難(ありがた)や初稚姫(はつわかひめ)の伴(ともな)ひし
297スマートの声(こゑ)聞(きこ)え来(き)にけり。
298スマートが此処(ここ)に現(あら)はれたる上(うへ)は
299初稚姫(はつわかひめ)は近(ちか)く来(き)まさむ』
300デビス姫(ひめ)『初稚姫(はつわかひめ)君(きみ)の命(みこと)の神人(かみびと)が
301現(あれ)ます上(うへ)は何(なに)か怖(おそ)れむ。
302人々(ひとびと)の早(はや)救(すく)はるる時(とき)は来(き)ぬ
303彼(か)の吠声(なきごゑ)は神(かみ)の御(おん)声(こゑ)』
304 かく歌(うた)ひ居(を)る時(とき)しも、305スマートを先(さき)に立(た)てて初稚姫(はつわかひめ)は関所(せきしよ)の庭(には)の錠(ぢやう)を外(はづ)し306石段(いしだん)を下(くだ)つて燈火(あかり)を左手(ゆんで)に捧(ささげ)ながら307莞爾(くわんじ)として現(あら)はれ来(きた)る。308玉国別(たまくにわけ)外(ほか)一同(いちどう)は欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)の余(あま)り309初稚姫(はつわかひめ)の傍(そば)近(ちか)くよつて声(こゑ)を放(はな)つて泣(な)き伏(ふ)しぬ。310一同(いちどう)期(き)せずして両手(りやうて)を合(あは)せ、311初稚姫(はつわかひめ)の後(あと)に従(したが)つて312漸(やうや)く岩窟(いはや)を無事(ぶじ)に抜(ぬ)け出(だ)す事(こと)を得(え)た。313此(この)初稚姫(はつわかひめ)は決(けつ)して白狐(びやくこ)の化身(けしん)では無(な)かつた。314神(かみ)の命(めい)を受(う)け玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)が危難(きなん)を救(すく)ふべく向(むか)はせたまふたのである。315一同(いちどう)は初稚姫(はつわかひめ)、316スマートの後(あと)に従(したが)ひ、317入口(いりぐち)迄(まで)還(かへ)つて見(み)れば、318イク、319サールの両人(りやうにん)が厳然(げんぜん)として警固(けいご)して居(ゐ)た。
320(大正一二・四・二 旧二・一七 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
321(昭和九・一一・三〇 王仁校正)
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