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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
第1章 逆艪
第2章 歌垣
第3章 蜜議
第4章 陰使
第5章 有升
第2篇 厄気悋々
第6章 雲隠
第7章 焚付
第8章 暗傷
第9章 暗内
第10章 変金
第11章 黒白
第12章 狐穴
第3篇 地底の歓声
第13章 案知
第14章 舗照
第15章 和歌意
第16章 開窟
第17章 倉明
第4篇 六根猩々
第18章 手苦番
第19章 猩々舟
第20章 海竜王
第21章 客々舟
第22章 五葉松
第23章 鳩首
第24章 隆光
第25章 歓呼
余白歌
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霊界物語
>
真善美愛(第49~60巻)
>
第59巻(戌の巻)
> 第3篇 地底の歓声 > 第16章 開窟
<<< 和歌意
(B)
(N)
倉明 >>>
第一六章
開窟
(
かいくつ
)
〔一五一六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第3篇 地底の歓声
よみ(新仮名遣い):
ちていのかんせい
章:
第16章 開窟
よみ(新仮名遣い):
かいくつ
通し章番号:
1516
口述日:
1923(大正12)年04月02日(旧02月17日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
伊太彦が入り口に座っていると、今度はワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人が転がり落ちていた。またバラモン軍の兵士たちも十七八人落ち込んできた。伊太彦は相変わらず宿屋の受付気取りで応対する。
チルテルは、部下たちが全員落ち込んでしまったので、外から岩窟の出入り口を上げてくれる者がいなくなってしまったと心配する。三千彦は、玉国別たちが助けてくれるだろうと安堵するが、夜になって玉国別一行が落とし穴に落ち込んできた。
一行が岩窟に入ってみると、バラモン軍たちは、もうここから出る手段がないと嘆いている。玉国別は朗々と宣伝歌を歌って、改心して心静かに助けを待つようにと教えを示した。
一同が述懐の歌を歌い合っていると、スマートを先頭に初稚姫が燈火を捧げながらやってきた。初稚姫は関所の岩窟の入り口の錠を外して、石段を降って皆を助けに来てくれたのであった。
この初稚姫は白狐の化身ではなく、本物の初稚姫がイクとサールを従えて、落とし穴に落ちた人々を助けるためにやってきたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5916
愛善世界社版:
211頁
八幡書店版:
第10輯 560頁
修補版:
校定版:
223頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
伊太彦
(
いたひこ
)
は
依然
(
いぜん
)
として、
002
入口
(
いりぐち
)
に
坐
(
すわ
)
つて
居
(
ゐ
)
ると
003
ワックス、
004
エキス、
005
ヘルマン、
006
エルの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
むだ。
007
次
(
つぎ
)
に、
0071
忽
(
たちま
)
ちバラスをぶち
開
(
あ
)
けたやうに、
008
ドサドサドサと
十七八
(
じふしちはち
)
人
(
にん
)
のチュウリック
姿
(
すがた
)
の
若者
(
わかもの
)
折
(
を
)
り
重
(
かさ
)
なつて
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み
来
(
きた
)
る。
009
伊太
(
いた
)
『ヤア、
010
大勢
(
おほぜい
)
さま、
011
よく
御
(
ご
)
下向
(
げかう
)
になりました、
012
サア
此処
(
ここ
)
は
坂
(
さか
)
の
下
(
した
)
の
小竹屋
(
こたけや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
013
大竹屋
(
おほたけや
)
のやうに
決
(
けつ
)
してお
客
(
きやく
)
さまを
床
(
ゆか
)
の
下
(
した
)
から
手槍
(
てやり
)
でついて、
014
命
(
いのち
)
をとり
着物
(
きもの
)
を
剥
(
はぎ
)
取
(
と
)
つて
樽
(
たる
)
に
詰
(
つ
)
めて
海
(
うみ
)
へ
投
(
ほ
)
りに
行
(
ゆ
)
くやうな
事
(
こと
)
はありませぬ。
015
まア
安心
(
あんしん
)
してお
泊
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さい。
016
せいぜい
勉強
(
べんきやう
)
してお
安
(
やす
)
く
願
(
ねが
)
ひます。
017
昼飯
(
ひるめし
)
もこめまして、
018
お
一人
(
ひとり
)
さまに
三
(
さん
)
円
(
ゑん
)
づつで
泊
(
とま
)
つて
頂
(
いただ
)
きます。
019
あゝ、
0191
大繁昌
(
だいはんじやう
)
だ。
020
宿屋
(
やどや
)
もこれだけ
客
(
きやく
)
があれば
捨
(
す
)
てたものぢやないわい。
021
番頭
(
ばんとう
)
さまも
随分
(
ずいぶん
)
忙
(
いそが
)
しい
事
(
こと
)
だなア』
022
一同
(
いちどう
)
はムクムクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
023
互
(
たがひ
)
にがやがやと
呟
(
つぶや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
024
甲
(
かふ
)
『オイ、
025
貴様
(
きさま
)
が
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かないから、
026
たうとうこんな
奈落
(
ならく
)
へ
落
(
お
)
ちて
仕舞
(
しま
)
つたのだ。
027
一体
(
いつたい
)
どうして
呉
(
く
)
れるのだい』
028
乙
(
おつ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない。
029
いつも
目標
(
もくへう
)
の
黒
(
くろ
)
い
棒杭
(
ぼうぐひ
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
たぢやないか、
030
あの
脇
(
わき
)
を
通
(
とほ
)
ればよいのだ。
031
誰
(
たれ
)
かが、
032
棒杭
(
ぼうぐひ
)
の
位置
(
ゐち
)
を
変
(
か
)
へて
置
(
お
)
きやがつたと
見
(
み
)
えて
033
こんな
失策
(
しつさく
)
をしたのだ』
034
甲
(
かふ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない。
035
ありや
棒杭
(
ぼうぐひ
)
ぢやない、
036
様子
(
やうす
)
が
違
(
ちが
)
つて
居
(
ゐ
)
るから、
037
気
(
き
)
をつけと
云
(
い
)
つたぢやないか、
038
然
(
しか
)
るに
貴様
(
きさま
)
が「ナニ」と
云
(
い
)
ふて
我
(
が
)
を
張
(
は
)
つたものだから、
039
こんな
所
(
ところ
)
へ
皆
(
みな
)
落
(
お
)
ちて
仕舞
(
しま
)
つたのだよ。
040
誰
(
たれ
)
か
様子
(
やうす
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るものが
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れるより
外
(
ほか
)
に
出
(
で
)
る
道
(
みち
)
はない。
041
まア
042
ミイラになる
所
(
とこ
)
まで
辛抱
(
しんばう
)
するのだなア』
043
伊太
(
いた
)
『お
客様
(
きやくさま
)
044
ようお
出
(
いで
)
なさいました。
045
新規
(
しんき
)
開業
(
かいげふ
)
の
宿屋
(
やどや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
046
お
安
(
やす
)
く
願
(
ねが
)
ひます』
047
甲
(
かふ
)
『ヤア
貴様
(
きさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
ぢやないか、
048
どうして
居
(
ゐ
)
るのだえ』
049
伊太
(
いた
)
『エイ、
050
余
(
あま
)
り
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふ
商売
(
しやうばい
)
も
引
(
ひ
)
き
合
(
あ
)
ひませぬので、
051
俄
(
にはか
)
に
岩窟
(
がんくつ
)
ホテルを
開
(
ひら
)
き、
052
商売替
(
しやうばいがへ
)
を
致
(
いた
)
しました。
053
奥
(
おく
)
にチルテルのキャプテンも、
054
ヘールのユゥンケルもお
出
(
いで
)
です。
055
サア
御
(
ご
)
遠慮
(
ゑんりよ
)
なくお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さい、
056
毎度
(
まいど
)
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
057
乙
(
おつ
)
『
何
(
なん
)
だ、
058
怪体
(
けたい
)
な
事
(
こと
)
があるものだなア。
059
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
奥
(
おく
)
へ
這入
(
はい
)
つてキャプテンに
遇
(
あ
)
ひ
060
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
助
(
たす
)
からねばならぬ』
061
と
委細
(
ゐさい
)
かまはずどやどやと
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
むで
行
(
ゆ
)
く。
062
チルテル『ヤアお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
大勢
(
おほぜい
)
一度
(
いちど
)
にこんな
所
(
ところ
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むで
来
(
き
)
たのか』
063
甲
(
かふ
)
『ハイ、
064
旦那
(
だんな
)
のお
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
さが
)
しました
所
(
ところ
)
、
065
何処
(
どこ
)
にもお
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えないので、
066
大方
(
おほかた
)
岩窟
(
がんくつ
)
ホテルに
御
(
ご
)
投宿
(
とうしゆく
)
かと
思
(
おも
)
ひまして、
067
部下
(
ぶか
)
を
引
(
ひ
)
き
率
(
つ
)
れ、
068
お
迎
(
むか
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました』
069
チルテル『ヤ、
070
それは
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だ。
071
よく
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
072
関所
(
せきしよ
)
の
入口
(
いりぐち
)
は
開
(
あ
)
けて
置
(
お
)
いたらうなア。
073
其処
(
そこ
)
さへ
開
(
あ
)
けてあれば
出
(
で
)
るのは
甘
(
うま
)
いものだ。
074
三千彦
(
みちひこ
)
さま、
075
デビスさま、
076
もう
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさい。
077
万古
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
出
(
で
)
られないかと
思
(
おも
)
ひましたら
078
入口
(
いりぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
部下
(
ぶか
)
が
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
てくれました』
079
甲
(
かふ
)
『ヘエ、
080
折角
(
せつかく
)
乍
(
なが
)
ら
其
(
その
)
入口
(
いりぐち
)
から、
081
開
(
あ
)
けてお
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
たのなら
都合
(
つがふ
)
がよいのですが、
082
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むで
来
(
き
)
たので、
083
ヘエ、
084
誠
(
まこと
)
に
困
(
こま
)
つて
居
(
を
)
ります。
085
何処
(
どこ
)
かに
抜穴
(
ぬけあな
)
は
厶
(
ござ
)
いますまいかな』
086
チルテル『あゝもう
駄目
(
だめ
)
だ。
087
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず、
088
此処
(
ここ
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むで
仕舞
(
しま
)
つた。
089
誰一人
(
たれひとり
)
も
助
(
たす
)
けに
来
(
く
)
るものは
無
(
な
)
いではないか。
090
残念
(
ざんねん
)
ながら
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
一同
(
いちどう
)
は
此処
(
ここ
)
でミイラになるより
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いわ。
091
三千彦
(
みちひこ
)
様
(
さま
)
092
貴方
(
あなた
)
は
何
(
ど
)
うお
考
(
かんが
)
へですか』
093
三千
(
みち
)
『
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
りませぬが、
094
私
(
わたし
)
は
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
が、
095
きつと
救
(
すく
)
ひに
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れるやうな
気
(
き
)
がします。
096
それだから、
097
少
(
すこ
)
しも
案
(
あん
)
じては
居
(
を
)
りませぬ。
098
皆
(
みな
)
さま
099
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ちつけて
御
(
ご
)
休息
(
きうそく
)
なさいませ』
100
一同
(
いちどう
)
はガサガサ
云
(
い
)
ふ
畳
(
たたみ
)
に
横
(
よこ
)
になり、
101
ガヤガヤと
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
102
救
(
すく
)
ひの
人
(
ひと
)
の
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るのを
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
103
三千彦
(
みちひこ
)
はデビス
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
に
拍手
(
かしはで
)
を
打
(
う
)
つて
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
―『
三五教
(
あななひけう
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
104
バラモン
教
(
けう
)
の
大神
(
おほかみ
)
、
105
守
(
まも
)
りたまへ
救
(
すく
)
ひたまへ』と
祈願
(
きぐわん
)
し
初
(
はじ
)
めた。
106
伊太彦
(
いたひこ
)
は
口
(
くち
)
の
間
(
ま
)
に
依然
(
いぜん
)
として
胡床
(
あぐら
)
をかいて
居
(
ゐ
)
る。
107
日
(
ひ
)
は
暮
(
く
)
れたと
見
(
み
)
えて
108
又
(
また
)
もや
燐光
(
りんくわう
)
キラキラと
閃
(
ひらめ
)
き
初
(
はじ
)
めた。
109
伊太
(
いた
)
『
何
(
なん
)
と
夜
(
よる
)
になると
綺麗
(
きれい
)
なものだな。
110
まるで
不夜城
(
ふやじやう
)
のやうだ。
111
燈火
(
ともしび
)
を
点
(
とも
)
す
必要
(
ひつえう
)
も
無
(
な
)
く
油
(
あぶら
)
も
入
(
い
)
らず、
112
実
(
じつ
)
に
経済
(
けいざい
)
に
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
るわい』
113
と
相変
(
あひかは
)
らず
阿呆口
(
あはうぐち
)
を
叩
(
たた
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
114
そこへドスン ドスン ドスンと
雪崩
(
なだれ
)
の
如
(
ごと
)
く
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むだのは
思
(
おも
)
ひがけなき、
115
玉国別
(
たまくにわけ
)
、
116
真純彦
(
ますみひこ
)
、
117
アンチー、
118
テクの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
であつた。
119
伊太彦
(
いたひこ
)
は
又
(
また
)
バラモンの
連中
(
れんちう
)
が
落
(
お
)
ちて
来
(
き
)
たと
思
(
おも
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
120
宿屋
(
やどや
)
の
番頭
(
ばんとう
)
気分
(
きぶん
)
になり、
121
伊太
(
いた
)
『お
出
(
いで
)
やすお
出
(
いで
)
やす。
122
これはこれはお
客様
(
きやくさま
)
123
毎度
(
まいど
)
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
124
開業
(
かいげふ
)
間
(
ま
)
もなき
岩窟
(
がんくつ
)
ホテル、
125
伊太屋
(
いたや
)
の
番頭
(
ばんとう
)
です。
126
一名
(
いちめい
)
坂
(
さか
)
の
下
(
した
)
小竹屋
(
こたけや
)
とも
申
(
まを
)
します。
127
サア
一
(
ひと
)
つ
十分
(
じふぶん
)
勉強
(
べんきやう
)
を
致
(
いた
)
しておきますから、
128
お
泊
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
129
その
代
(
かは
)
り
木賃
(
もくちん
)
ホテルですから
食物
(
しよくもつ
)
はさし
上
(
あ
)
げませぬ。
130
エヘヽヽヽ』
131
玉国
(
たまくに
)
『
何
(
なん
)
だか
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
がするぢやないか、
132
なア
真純彦
(
ますみひこ
)
』
133
真純
(
ますみ
)
『
玉国別
(
たまくにわけ
)
様
(
さま
)
、
134
偉
(
えら
)
い
所
(
ところ
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むだものですワ。
135
どこか
出口
(
でぐち
)
がありさうなものですなア』
136
伊太彦
(
いたひこ
)
は
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
と
知
(
し
)
り
嬉
(
うれ
)
しげに、
137
言葉
(
ことば
)
も
元気
(
げんき
)
よく、
138
伊太
(
いた
)
『あ、
139
先生
(
せんせい
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
140
私
(
わたし
)
は
伊太彦
(
いたひこ
)
ですよ。
141
たうとう
陥穽
(
おとしあな
)
へ
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むで
出
(
で
)
る
所
(
ところ
)
がないので
因果腰
(
いんぐわごし
)
を
定
(
き
)
めて
居
(
を
)
りましたが、
142
貴方
(
あなた
)
どうしてまア、
143
こんな
所
(
ところ
)
へお
出
(
いで
)
になつたのです』
144
玉国
(
たまくに
)
『あゝお
前
(
まへ
)
は
伊太彦
(
いたひこ
)
であつたか、
145
妙
(
めう
)
な
所
(
ところ
)
で
遇
(
あ
)
ふたものだなア。
146
さうして
三千彦
(
みちひこ
)
や、
147
デビス
姫
(
ひめ
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
るのかなア』
148
伊太
(
いた
)
『ヘエヘエ、
149
奥
(
おく
)
に
居
(
ゐ
)
られます。
150
どうか
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
対面
(
たいめん
)
下
(
くだ
)
さい。
151
序
(
ついで
)
にチルテル、
152
ヘールを
初
(
はじ
)
め
153
バラモン
軍
(
ぐん
)
の
兵士
(
へいし
)
がザツと
二
(
に
)
ダース
許
(
ばか
)
り
詰
(
つ
)
め
込
(
こ
)
むであります。
154
お
蔭
(
かげ
)
で
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
ホテルも
賑
(
にぎ
)
やかになりました』
155
真純
(
ますみ
)
『オイ
伊太彦
(
いたひこ
)
、
156
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
ぢやない。
157
何
(
なん
)
とかして
此処
(
ここ
)
を
逃
(
のが
)
れ
出
(
で
)
る
工夫
(
くふう
)
をせなくてはならないぢやないか』
158
伊太
(
いた
)
『お
前
(
まへ
)
は
真純彦
(
ますみひこ
)
だな、
159
ようまア
おつき
合
(
あひ
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
むで
呉
(
く
)
れたな。
160
併
(
しか
)
しもうかうなれば
万事
(
ばんじ
)
窮
(
きう
)
す矣だ。
161
焦
(
あせ
)
つた
所
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
がない。
162
万事
(
ばんじ
)
天
(
てん
)
に
任
(
まか
)
せて、
163
騒
(
さわ
)
がず、
164
焦
(
あせ
)
らず、
165
従容
(
しようよう
)
として
死期
(
しき
)
の
至
(
いた
)
るを
待
(
ま
)
つのだな』
166
テク『あゝもう、
167
斯
(
か
)
うなりや
仕方
(
しかた
)
がない、
168
因果腰
(
いんぐわごし
)
を
定
(
き
)
めるのだな。
169
助
(
たす
)
かるものなら
皆
(
みな
)
一度
(
いちど
)
に
救
(
たす
)
かり、
170
死
(
し
)
ぬものなら
皆
(
みな
)
一同
(
いちどう
)
に
死
(
し
)
ぬのだ。
171
最早
(
もはや
)
肉体
(
にくたい
)
は
完全
(
くわんぜん
)
に
保
(
たも
)
つ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
まい。
172
此処
(
ここ
)
へ
落
(
お
)
ちれば
食料
(
しよくれう
)
はなし、
173
誰人
(
たれ
)
も
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
むでは
呉
(
く
)
れまいし、
174
あゝ
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になつたものだなア』
175
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
従
(
したが
)
へ、
176
伊太彦
(
いたひこ
)
と
共
(
とも
)
に
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
むで
行
(
ゆ
)
く。
177
大勢
(
おほぜい
)
が
種々
(
いろいろ
)
と
半泣
(
はんな
)
き
声
(
ごゑ
)
を
出
(
だ
)
して
呟
(
つぶや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
178
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
声
(
こゑ
)
高
(
たか
)
らかに
歌
(
うた
)
ひ
初
(
はじ
)
めた。
179
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
180
天地
(
てんち
)
に
神
(
かみ
)
の
在
(
ま
)
す
限
(
かぎ
)
り
181
救
(
すく
)
はせたまはぬ
事
(
こと
)
やある
182
三千彦
(
みちひこ
)
司
(
つかさ
)
を
初
(
はじ
)
めとし
183
チルテル、ヘール
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
184
天
(
あめ
)
の
益人
(
ますひと
)
村肝
(
むらきも
)
の
185
心
(
こころ
)
を
安
(
やす
)
く
平
(
たひら
)
けく
186
持
(
も
)
たせたまへよ
惟神
(
かむながら
)
187
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
は
草
(
くさ
)
や
木
(
き
)
の
188
片葉
(
かきは
)
の
露
(
つゆ
)
に
至
(
いた
)
る
迄
(
まで
)
189
宿
(
やど
)
らせたまふものなるぞ
190
如何
(
いか
)
に
地底
(
ちてい
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
191
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
み
日蔭
(
ひかげ
)
を
見
(
み
)
ぬとても
192
三五教
(
あななひけう
)
を
守
(
まも
)
ります
193
尊
(
たふと
)
き
清
(
きよ
)
き
皇神
(
すめかみ
)
は
194
必
(
かなら
)
ず
救
(
すく
)
ひたまふべし
195
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
196
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
197
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
198
誠
(
まこと
)
の
力
(
ちから
)
は
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ふ
199
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
に
集
(
あつ
)
まりし
200
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一同
(
いちどう
)
心
(
こころ
)
をば
201
一
(
ひと
)
つになして
皇神
(
すめかみ
)
の
202
其
(
その
)
大恩
(
だいおん
)
を
讃
(
ほ
)
め
称
(
たた
)
へ
203
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
改良
(
かいりやう
)
して
204
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
叶
(
かな
)
ひなば
205
必
(
かなら
)
ず
救
(
すく
)
ひたまふべし
206
心
(
こころ
)
を
労
(
らう
)
する
事
(
こと
)
勿
(
なか
)
れ
207
勇
(
いさ
)
めよ
勇
(
いさ
)
めよ
皆
(
みな
)
の
人
(
ひと
)
208
勇
(
いさ
)
めば
勇
(
いさ
)
む
事
(
こと
)
が
来
(
く
)
る
209
悔
(
く
)
やめば
悔
(
く
)
やむ
事
(
こと
)
が
来
(
く
)
る
210
仮令
(
たとへ
)
千尋
(
ちひろ
)
の
海底
(
うなぞこ
)
に
211
身
(
み
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
何
(
なに
)
かあらむ
212
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りのある
中
(
うち
)
は
213
死
(
し
)
なむと
思
(
おも
)
へど
死
(
し
)
に
切
(
き
)
れず
214
これに
反
(
はん
)
して
大神
(
おほかみ
)
が
215
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
見放
(
みはな
)
したまひなば
216
地上
(
ちじやう
)
に
安
(
やす
)
く
住
(
す
)
むとても
217
命
(
いのち
)
を
召
(
め
)
させたまふべし
218
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
惟神
(
かむながら
)
219
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
して
赤心
(
まごころ
)
を
220
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
221
現
(
あら
)
はしまつるに
如
(
し
)
くはなし
222
祝
(
いは
)
へよ
祝
(
いは
)
へよ
神
(
かみ
)
の
徳
(
とく
)
223
あがめよ あがめよ
神
(
かみ
)
のいづ
224
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
225
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
226
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
227
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
228
身
(
み
)
の
過
(
あやまち
)
は
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
229
三五教
(
あななひけう
)
の
吾々
(
われわれ
)
は
230
如何
(
いか
)
なる
難
(
なやみ
)
に
遇
(
あ
)
ふとても
231
些
(
すこ
)
しも
恐
(
おそ
)
れぬ
大和魂
(
やまとだま
)
232
生言霊
(
いくことたま
)
を
打
(
う
)
ち
出
(
だ
)
して
233
これの
岩窟
(
いはや
)
を
委曲
(
まつぶさ
)
に
234
開
(
ひら
)
きて
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
くべし
235
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
かれ
諸人
(
もろびと
)
よ
236
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
237
玉国別
(
たまくにわけ
)
が
赤心
(
まごころ
)
を
238
現
(
あら
)
はし
祈
(
いの
)
り
奉
(
たてまつ
)
る
239
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
240
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
倍
(
はへ
)
ましませよ』
241
真純彦
(
ますみひこ
)
『いや
深
(
ふか
)
き
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
に
操
(
あやつ
)
られ
242
千尋
(
ちひろ
)
の
底
(
そこ
)
に
天下
(
あまくだ
)
りけり。
243
黄昏
(
たそがれ
)
て
地上
(
ちじやう
)
の
世界
(
せかい
)
は
暗
(
くら
)
けれど
244
此
(
この
)
岩窟
(
いはやど
)
の
光
(
ひか
)
る
怪
(
あや
)
しさ』
245
伊太彦
(
いたひこ
)
『
光明
(
くわうみやう
)
の
世界
(
せかい
)
に
神
(
かみ
)
は
導
(
みちび
)
きて
246
心
(
こころ
)
の
岩戸
(
いはと
)
開
(
ひら
)
きたまひぬ』
247
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
摩訶
(
まか
)
不思議
(
ふしぎ
)
暗
(
くら
)
き
筈
(
はず
)
なる
岩窟
(
いはやど
)
に
248
キラキラ
光
(
ひか
)
るものは
何
(
なん
)
ぞや』
249
伊太彦
(
いたひこ
)
『
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
みな
燐砿
(
りんくわう
)
で
固
(
かた
)
めあり
250
神
(
かみ
)
のまにまに
光
(
ひか
)
るのみなり』
251
テク『テクテクと
闇
(
やみ
)
の
道
(
みち
)
をば
歩
(
あゆ
)
みつつ
252
土
(
つち
)
の
底
(
そこ
)
にと
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みにけり。
253
初稚姫
(
はつわかひめ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
を
娶
(
めと
)
らむと
254
争
(
あらそ
)
ひし
身
(
み
)
の
恥
(
はづ
)
かしきかな』
255
アンチー『
案内
(
あんない
)
を
引
(
ひ
)
き
受
(
う
)
け
乍
(
なが
)
ら
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
の
256
岩窟
(
いはや
)
に
落
(
おち
)
し
吾
(
われ
)
ぞ
悔
(
く
)
やしき。
257
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
を
知
(
し
)
らず
知
(
し
)
らずに
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
へ
258
導
(
みちび
)
きし
吾
(
われ
)
の
罪
(
つみ
)
の
重
(
おも
)
さよ。
259
如何
(
いか
)
にして
此
(
この
)
過
(
あやまち
)
を
詫
(
わ
)
びむかと
260
思
(
おも
)
ふも
詮
(
せん
)
なき
胸
(
むね
)
の
闇
(
やみ
)
かな』
261
玉国別
(
たまくにわけ
)
『アンチーよテクの
司
(
つかさ
)
よ
村肝
(
むらきも
)
の
262
心
(
こころ
)
悩
(
なや
)
めな
神
(
かみ
)
の
御業
(
みわざ
)
ぞ。
263
打
(
う
)
ち
揃
(
そろ
)
ひ
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
宣
(
の
)
り
上
(
あ
)
げて
264
吾
(
われ
)
人
(
ひと
)
共
(
とも
)
に
世
(
よ
)
に
暉
(
かが
)
やかむ』
265
三千彦
(
みちひこ
)
『
岩窟
(
いはやど
)
に
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
も
暫
(
しばら
)
くは
266
隠
(
かく
)
れましたるためしありけり。
267
尻込
(
しりく
)
めの
縄
(
なは
)
をおろして
吾々
(
われわれ
)
を
268
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
くる
人
(
ひと
)
の
来
(
こ
)
よかし。
269
三五
(
あななひ
)
の
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
は
吾々
(
われわれ
)
が
270
今
(
いま
)
の
難
(
なやみ
)
を
知
(
し
)
ろし
召
(
め
)
すらむ』
271
チルテル『
吾
(
わが
)
守
(
まも
)
る
屋敷
(
やしき
)
の
中
(
なか
)
の
陥穽
(
おちあな
)
へ
272
自
(
みづか
)
ら
落
(
お
)
ちし
事
(
こと
)
のうたてさ。
273
兵士
(
つはもの
)
が
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
陥穽
(
おちあな
)
へ
274
転
(
ころ
)
げ
込
(
こ
)
みしも
不思議
(
ふしぎ
)
なるかな。
275
浅
(
あさ
)
からぬ
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
のある
事
(
こと
)
と
276
首
(
くび
)
を
傾
(
かた
)
げて
訝
(
いぶ
)
かり
居
(
ゐ
)
るも』
277
ヘール『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
司
(
つかさ
)
の
恋
(
こひ
)
を
争
(
あらそ
)
ひし
278
人
(
ひと
)
の
仕組
(
しぐみ
)
の
如何
(
いか
)
であるべき。
279
唯
(
ただ
)
卑
(
いや
)
し
心
(
こころ
)
の
雲
(
くも
)
に
目
(
め
)
を
被
(
お
)
はれ
280
奈落
(
ならく
)
に
落
(
おち
)
し
身
(
み
)
の
終
(
をは
)
りかも』
281
テク『
何事
(
なにごと
)
の
在
(
おは
)
しますかは
知
(
し
)
らねども
282
苦
(
くる
)
しさ
痛
(
いた
)
さに
涙
(
なみだ
)
こぼるる。
283
此
(
この
)
穴
(
あな
)
に
落
(
お
)
ちたる
人
(
ひと
)
の
間
(
あひだ
)
には
284
妻
(
つま
)
もあるべし
御子
(
みこ
)
もあるべし。
285
妻
(
つま
)
や
子
(
こ
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
なり
垂乳根
(
たらちね
)
の
286
御親
(
みおや
)
はさこそ
嘆
(
なげ
)
きますらむ』
287
斯
(
か
)
く
互
(
たが
)
ひに
述懐
(
じゆつくわい
)
を
述
(
の
)
べ、
288
胸
(
むね
)
の
苦
(
くる
)
しみを
紛
(
まぎ
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
289
忽
(
たちま
)
ち
何処
(
いづく
)
ともなく、
290
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
から、
291
『ウーウ、
292
ウーウ、
293
ワウワウワウ』
294
と
猛犬
(
まうけん
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
295
三千彦
(
みちひこ
)
は
雀躍
(
こをど
)
りし
乍
(
なが
)
ら、
296
三千彦
(
みちひこ
)
『
有難
(
ありがた
)
や
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
伴
(
ともな
)
ひし
297
スマートの
声
(
こゑ
)
聞
(
きこ
)
え
来
(
き
)
にけり。
298
スマートが
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれたる
上
(
うへ
)
は
299
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
近
(
ちか
)
く
来
(
き
)
まさむ』
300
デビス
姫
(
ひめ
)
『
初稚姫
(
はつわかひめ
)
君
(
きみ
)
の
命
(
みこと
)
の
神人
(
かみびと
)
が
301
現
(
あれ
)
ます
上
(
うへ
)
は
何
(
なに
)
か
怖
(
おそ
)
れむ。
302
人々
(
ひとびと
)
の
早
(
はや
)
救
(
すく
)
はるる
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
ぬ
303
彼
(
か
)
の
吠声
(
なきごゑ
)
は
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
声
(
こゑ
)
』
304
かく
歌
(
うた
)
ひ
居
(
を
)
る
時
(
とき
)
しも、
305
スマートを
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
てて
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
関所
(
せきしよ
)
の
庭
(
には
)
の
錠
(
ぢやう
)
を
外
(
はづ
)
し
306
石段
(
いしだん
)
を
下
(
くだ
)
つて
燈火
(
あかり
)
を
左手
(
ゆんで
)
に
捧
(
ささげ
)
ながら
307
莞爾
(
くわんじ
)
として
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る。
308
玉国別
(
たまくにわけ
)
外
(
ほか
)
一同
(
いちどう
)
は
欣喜
(
きんき
)
雀躍
(
じやくやく
)
の
余
(
あま
)
り
309
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
傍
(
そば
)
近
(
ちか
)
くよつて
声
(
こゑ
)
を
放
(
はな
)
つて
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
しぬ。
310
一同
(
いちどう
)
期
(
き
)
せずして
両手
(
りやうて
)
を
合
(
あは
)
せ、
311
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
つて
312
漸
(
やうや
)
く
岩窟
(
いはや
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
抜
(
ぬ
)
け
出
(
だ
)
す
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
た。
313
此
(
この
)
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
決
(
けつ
)
して
白狐
(
びやくこ
)
の
化身
(
けしん
)
では
無
(
な
)
かつた。
314
神
(
かみ
)
の
命
(
めい
)
を
受
(
う
)
け
玉国別
(
たまくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
が
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
ふべく
向
(
むか
)
はせたまふたのである。
315
一同
(
いちどう
)
は
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
316
スマートの
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
317
入口
(
いりぐち
)
迄
(
まで
)
還
(
かへ
)
つて
見
(
み
)
れば、
318
イク、
319
サールの
両人
(
りやうにん
)
が
厳然
(
げんぜん
)
として
警固
(
けいご
)
して
居
(
ゐ
)
た。
320
(
大正一二・四・二
旧二・一七
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
321
(昭和九・一一・三〇 王仁校正)
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