霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 焚付(たきつけ)〔一五〇七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第2篇 厄気悋々 よみ(新仮名遣い):やっきりんりん
章:第7章 焚付 よみ(新仮名遣い):たきつけ 通し章番号:1507
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
チルナ姫は、夫チルテルが初稚姫を自宅に逗留させていることに腹を立て、また部下を使って初稚姫を誘惑しようとした試みが失敗したので荒れている。そこへチルテルが酔って帰宅した。
カンナはチルテルを迎え出て、チルナ姫が荒れているのであまり近づかないようにと忠告した。チルテルは、チルナ姫を焚き付けて家出するように仕向けてくれたら、バーチルの館からさらってきた女を与えようと約束した。
チルテルは女房のチルナ姫の始末をカンナに任せて、自分はさっさと初稚姫の居間を訪ねて行った。初稚姫はチルナ姫を持ちあげて、チルテルをかわしている。
一方カンナは、チルテルが初稚姫以外にも美人を倉庫に隠しているとチルナ姫に告げ、またチルテルが陰でチルナ姫の悪口を行って女たちと笑っていたと焚き付けた。
チルナ姫は計略通り大いに怒りだした。カンナはもう家を出てせいせいしたらよいとチルナ姫をそそのかそうとするが、チルナ姫は逆に、こうなったらどこまでも家を出ず、女どもを全員叩き出さなければ気が済まないと覚悟を決めてしまった。
チルナ姫は暴れはじめ、障子を破り、火鉢を放り投げ、瀬戸物を割り出した。チルテルはこの物音を聞いて血相変えて走ってくると、チルナ姫を殴りつけた。チルナ姫は逆上してチルテルに武者ぶりつき、睾丸を力かぎりに引っ張った。チルテルは唸ってその場に倒れた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5907
愛善世界社版:91頁 八幡書店版:第10輯 517頁 修補版: 校定版:96頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 チルナ(ひめ)一間(ひとま)()つて悋気(りんき)(つの)()やしながら、002自分(じぶん)(かみ)をひきむしつたり、003(かうがい)()げたり、004鏡台(きやうだい)()つくり(かへ)したり、005室内(しつない)(にはか)二百十(にひやくとを)()(あらし)()いたやうになつて()る。006そこへ一杯(いつぱい)機嫌(きげん)(かへ)つて()たのは、007キャプテンのチルテルであつた。008チルテルは門口(かどぐち)から大声(おほごゑ)()げ、
009チルテル『オーイ女房(にようばう)010(いま)(もど)つたぞや、011(はや)()けないか。012(なん)(なか)から()突張(つつぱり)をこうて()やがると()えて、013()しても()いても()きやしないわ。014あゝこんな(こと)なら、015兵士(へいし)()れて(かへ)つたらよかつたに、016誰奴(どいつ)此奴(こいつ)(みな)(さけ)(くら)()つてドブさつて仕舞(しまひ)よつた。017今日(けふ)(やま)(かみ)面体(めんてい)低気圧(ていきあつ)襲来(しふらい)して()たと()(こと)予期(よき)して()たのだが、018これや(また)どうした(こと)だい。019オーイ()けぬか、020()けぬか』
021()一生(いつしやう)懸命(けんめい)(にぎ)(こぶし)(たた)いて()る。
022 カンナは(おどろ)(いそ)()()け、
023カンナ『あ、024旦那(だんな)(さま)ようお(かへ)りなさいませ』
025チルテル『ウン、026あまり軍務(ぐんむ)(いそが)しいので、027つい(おそ)くなつて、028(おく)()()ねたであらうなア』
029カンナ『ヘエ、030あの(おく)さまですか、031(おほ)きな(こゑ)では(まを)されませぬが、032どうも形勢(けいせい)険悪(けんあく)なので容易(ようい)(ちか)よる(こと)出来(でき)ませぬ。033貴方(あなた)がお(かへ)りになつたら、034一騒動(ひとさうどう)(はじ)まるであらうとビクビクもので()つて()ました。035何卒(どうぞ)(やかま)しう仰有(おつしや)らずに036ソツと寝間(ねま)這入(はい)つて(やす)んで(いただ)きたいものですなア』
037チルテル『(なに)038(おく)(おこ)つて()るのか。039イヤ、040そいつは面白(おもしろ)い。041(ひと)(おこ)らして自分(じぶん)(はう)から()()()れるやうにと()つて()たのだ。042オイ、043カンナ、044貴様(きさま)によい土産(みやげ)()つて(かへ)つた。045第一号(だいいちがう)倉庫(さうこ)()れてある、046(すこぶ)(てき)のナイスだよ。047(ひと)貴様(きさま)女房(かない)焚付(たきつ)048自分(じぶん)から()()すやうにして()れたら、049あのナイスをお(まへ)女房(にようばう)にしてやらうと050ソツと掠奪(りやくだつ)して()たのだ。051随分(ずいぶん)立派(りつぱ)なものだぞ』
052カンナ『(さすが)はキャプテン(さま)053種々(いろいろ)とお()をつけ(くだ)さいまして有難(ありがた)(ござ)います。054到底(たうてい)(うら)のナイスは(わたし)(たち)(てこ)には()ひませぬからな』
055チルテル『(なに)0551(うら)のナイスにお(まへ)056(もの)()つたのか』
057 カンナは(あたま)をガシガシと()(なが)ら、058()(にく)さうに、
059カンナ『ハイ、060一寸(ちよつと)(ついで)にナイスの意向(いかう)(さぐ)つて()ました(ところ)061仲々(なかなか)(えら)いものですな。062テクの(やつ)063(にはか)中尉(ちうゐ)だと威張(ゐば)つて()()ましたが、064一耐(ひとたま)りもなく()()められて、065不減口(へらずぐち)(たた)いて遁走(とんそう)しました。066本当(ほんたう)に、067人間(にんげん)(てこ)()ふナイスでは(ござ)いませぬわ。068そして「キャプテン(さま)にお()にかかつて(くは)しいお(はなし)(うけたま)はりませう」と()まし()んで()るのですもの、069(よろこ)びなさいませ。070屹度(きつと)(みやく)がありますよ』
071チルテル『ナイスの(こと)はお(まへ)(たち)(ちから)ではどうする(こと)出来(でき)ぬ。072(かま)ふて()れるな、073いらいだてをすると074(かへつ)(いち)()らず()()らずになつて仕舞(しま)ふ。075ああして(おれ)(うち)二三(にさん)(にち)()いて()れと()ふのだから、076(おれ)思召(おぼしめし)()るのに(ちが)ひない。077(しか)(おれ)には女房(にようばう)があるから、078あのナイスも遠慮(ゑんりよ)して()るのだ。079其処(そこ)それ080()()かさなければ駄目(だめ)だからなア。081女房(にようばう)さへ()ければ、082()つて()いても(おれ)(なび)いて()るのは既定(きてい)事実(じじつ)だ、083ウフヽヽヽ』
084カンナ『(ひと)つそれでは奮闘(ふんとう)して()ませう。085(おく)さまを(おこ)らせうと(おも)へば、086(ちつ)とは旦那(だんな)悪口(わるくち)()ひますから(あらかじ)()承知(しようち)(ねが)ひます』
087チルテル『よし、088目的(もくてき)さへ(たつ)すればよいのだ、089手段(しゆだん)(えら)ばない。090そこはお(まへ)(まか)して()く。091(うま)くやつて()れ。092(しか)(あま)(おこ)らして自害(じがい)でもやつて()れると(こま)るよ。093其処(そこ)見計(みはか)らつて、094(いへ)()()程度(ていど)(はか)らつて()れ』
095カンナ『よろしい、096(なん)(むつかし)(こと)(たの)まれたものだが、097(ひと)(はか)らつて()ませう……(おく)さまのお(こころ)がお可憐(いとし)いわい』
098チルテル『オイ、099そんな()(よわ)(こと)でどうしてこの大任(たいにん)(はた)せるか。100もつと(こころ)(おに)にして()かないと駄目(だめ)だぞ』
101カンナ『ハイ、102()(どく)だと()つたのは社交(しやかう)(じやう)辞令(じれい)ですよ。103()(どく)ながら、104おつ()()るやうに尽力(じんりよく)して()ませう、105貴方(あなた)離家(はなれ)()つて(ゆつく)りお(たの)しみなさいませ。106さうして(おく)さまの部屋(へや)から障子(しやうじ)(かげ)()えるやうに仕組(しぐ)んで(もら)はなくては駄目(だめ)ですよ。107成可(なるべ)くは抱擁(はうよう)キッス握手(あくしゆ)などの光景(くわうけい)()えるやうに仕組(しぐ)んで(もら)()いものですな。108(わたし)オホン(おほ)きな咳払(せきばら)ひをしたら握手(あくしゆ)するのですよ。109そうして(うま)(うつ)して(もら)ふのですよ』
110チルテル『(まる)幻燈屋(げんとうや)()たやうな(こと)をするのだなア』
111カンナ『そこで現当(げんとう)利益(りやく)(あら)はれるのですもの、112エヘヽヽヽ』
113 チルテルはヒヨロヒヨロと千鳥足(ちどりあし)にて初稚姫(はつわかひめ)居間(ゐま)(すす)()く。
114チルテル『あゝ(ひめ)(さま)115随分(ずいぶん)退屈(たいくつ)(ござ)いませうなア。116(はや)(かへ)つてお(はなし)相手(あいて)にならねば()まないと(おも)ふて()ましたが、117何分(なにぶん)軍務(ぐんむ)(いそが)しいのでつい(おそ)くなつて()みませぬ』
118初稚(はつわか)『どうも、119いかい()厄介(やつかい)になりまして申訳(まをしわけ)(ござ)いませぬ。120大変(たいへん)()機嫌(きげん)(ござ)います。121随分(ずいぶん)(さけ)(あが)つたと()えますな』
122チルテル『イヤ一寸(ちよつと)九一升(くいつしよう)ばかり()つかけたものだから123(ちつ)とばかり酩酊(めいてい)(いた)しました。124どうも()みませぬがお(ちや)なりと一杯(いつぱい)(くだ)さいませぬか、125貴女(あなた)(やはら)かいお手々(てて)()んで(いただ)けば一層(いつそう)美味(おい)しいでせう』
126初稚(はつわか)『オホヽヽヽ。127(なに)()冗談(じやうだん)仰有(おつしや)います、128貴方(あなた)129奥様(おくさま)()挨拶(あいさつ)なさいましたか。130大変(たいへん)にお()(かね)()様子(やうす)(ござ)いましたよ』
131チルテル『(おく)さまと()へば(おく)にすつ()んで()ればよいものです。
132あなた()てから(いへ)(かか)()れば
133(せん)()奥山(おくやま)古狸(ふるだぬき)
134アハヽヽヽ、135いやもう()()はない女房(にようばう)ですよ。136(ふた)()には悋気(りんき)(つの)(はや)し、137喉笛(のどぶえ)(くら)()くのですもの、138あんな女房(にようばう)()つた(をつと)(ほど)不幸(ふかう)なものは()りませぬわい。139アハヽヽヽ』
140初稚(はつわか)(なに)仰有(おつしや)います。141あんな貞淑(ていしゆく)奥様(おくさま)何処(どこ)(ござ)いませうか、142悋気(りんき)をなさらないやうな奥様(おくさま)だつたら駄目(だめ)ですよ。143きつと(ほか)(こころ)(うつ)して()るのです。144(てん)にも()にも貴方(あなた)一人(ひとり)思召(おぼしめ)すからこそ145(たま)には悋気(りんき)もなさるのですからな。146サア(はや)奥様(おくさま)のお()(やす)まるやうにお言葉(ことば)をおかけなさいませ。147(その)(うへ)にて(わらは)(そば)にお(いで)(くだ)されば、148(わらは)奥様(おくさま)(たい)大変(たいへん)()(らく)(ござ)いますからな』
149チルテル『()(かく)(あし)()ちませぬ、150(しばら)此処(ここ)(ゆつく)りさして(くだ)さい。151あゝ(くる)しい(くる)しい、152(たれ)(むね)(さす)つて()れるものは()からうかな。153あゝ(くる)しい(くる)しい。154(ひめ)さま(まこと)()みませぬが、155一寸(ちよつと)(わたし)(むね)(さす)つて(いただ)けませぬか』
156初稚(はつわか)『そんなら、157(せな)(さす)らして(いただ)きませう』
158故意(わざ)とに(あと)(まは)(せな)(さす)つて()る。159一方(いつぱう)カンナはチルナ(ひめ)居間(ゐま)(あわ)ただしく()()り、
160カンナ『もし、161奥様(おくさま)
162小声(こごゑ)になつて、
163()用心(ようじん)なさいませ。164タヽ大変(たいへん)(ござ)いますよ。165貴方(あなた)()主人(しゆじん)今日(けふ)二人(ふたり)美人(びじん)()()かれ、166()(ほそ)うしてゐらつしやいました。167さうして(その)(うた)()()はないのです。168(わたし)成可(なるべ)(いへ)(なか)浪風(なみかぜ)()たないやうに、169旦那(だんな)(さま)(こと)奥様(おくさま)(みみ)()らないやうにして(いま)(まで)何度(なんど)(つつ)んで()ましたが、170もう(つつ)んで()られぬやうになりました。171奥様(おくさま)がお可哀(かあい)さうで(たま)らないやうになりました。172旦那(だんな)(さま)(ばか)りの部下(ぶか)ではない。173奥様(おくさま)(ため)にも部下(ぶか)ですからなア。174奥様(おくさま)から()意見(いけん)(あそ)ばすやう、175そつとお()らせ(いた)します』
176チルナ『(なに)177あの(うら)初稚姫(はつわかひめ)とか()(をんな)(ほか)にまだよい(をんな)出来(でき)()るのかい』
178カンナ『ヘエヘエ、179奥様(おくさま)はお()(どく)ですな。180ほんたうに、181可哀(かあい)さうだわい。182()旦那(だんな)(さま)(うた)()紹介(せうかい)(いた)しませう。183(けつ)して、184(はら)()てて(くだ)さいますなよ。
185(うち)(かか)()れば()(ほど)(はら)()
186(たこ)のお(ばけ)古狸(ふるだぬき)
187()ふやうな(うた)(うた)つていらつしやるのですよ。188貴方(あなた)のやうな美人(びじん)を、189(たこ)のお(ばけ)だの古狸(ふるだぬき)だのと仰有(おつしや)るのですからな。190(をんな)(はう)けると、191蜥蜴(とかげ)のやうな(かほ)した(をんな)でも天女(てんによ)のやうに()えると()えますな』
192 チルナは()(ふる)はし(なが)ら、193キリキリキリと()()み、194(かみ)をパツと逆立(さかだ)てた。
195カンナ『まだまだ奥様(おくさま)こんな(こと)(おこ)つてはいけませぬ。196もつと(すご)文句(もんく)がありますよ。197(なん)でも(をんな)()(わす)れましたが、198彼女(あいつ)はキーチャンの(はて)かも()れませぬが、199旦那(だんな)(さま)(つか)まへて(うた)ひやがつたのが()()はぬのです。200(わたし)はその(うた)()くと()がガチガチ()()しました。
201(かか)(たた)()()は○○○○○
202(あと)女房(にようばう)にや(わし)()く。
203てな(こと)(ぬか)しやがるのですよ。204(ごふ)()くの()かぬのと、205(わたし)奥様(おくさま)だつたら矢庭(やには)胸倉(むなぐら)をグツと()り、206(たぶさ)(つか)むで(ひき)ずり(まは)してやるのですけれどな。207(それ)旦那(だんな)(さま)は、208エヘヽヽ、209オホヽヽ、210(かほ)相好(さうがう)(くづ)して(わら)つていらつしやるのですもの。
211(うち)(かか)白粉(おしろい)おとした素顔(すがほ)()たら
212(むね)がむかむか嘔吐(へど)()る。
213214ヘヽヽヽ。215こんな(こと)仰有(おつしや)るのですよ。
216どうしても()げて(かへ)らにや女房(にようばう)(やつ)
217(たけ)(ふん)つけ()いて()す。
218あた(きたな)い、219奥様(おくさま)220(たけ)(さき)(ふん)つけて()()してやらうと旦那(だんな)(さま)(うた)つていらつしやいましたよ。221(じつ)(わたし)()いてもフンガイ(いた)りですワ』
222チルナ『アヽ口惜(くちをし)い、223残念(ざんねん)残念(ざんねん)や、224どうしてこの(うらみ)()らしてよからうかなア。225旦那(だんな)(さま)はそんな(なさ)けない(こと)仰有(おつしや)(ひと)ぢやない、226(をんな)(わる)いのだ。227(その)(をんな)何処(どこ)()る。228(その)(をんな)(さが)()(かたき)()つてやらねばなりませぬ』
229血相(けつさう)()へて()(あが)る。230カンナは大手(おほで)(ひろ)げて()(ふさ)がり、
231カンナ『まアまアお()ちなさいませ。232血相(けつさう)かへて()んの(こと)ですか。233(かたき)なら(わたし)()つて()げます。234そして貴女(あなた)はまだお目出度(めでた)いですな。235旦那(だんな)(さま)贔屓(ひいき)して()らつしやるが、236旦那(だんな)(さま)(この)(あひだ)(わたし)()んで、237「あんな(かかあ)()るのも(いや)だ。238(なん)とかして()()分別(ふんべつ)()からうか」と仰有(おつしや)いましたが、239「これはしたり、240こんな(こと)をなさつては人道(じんだう)(はづ)れます」とお(いさ)(まを)したら、241旦那(だんな)(さま)はプリンと(おこ)つてハツキリ(わたし)には(もの)()うて(くだ)さらぬのですもの、242ホントに(こま)つて(しま)ひますワ。
243チルナ(ひめ)()るな()るなと(いま)(まで)
244可愛(かあい)がつたが馬鹿(ばか)らしや。
245(はや)()(はな)桜木(さくらぎ)(ひと)武士(ぶし)
246(はや)()()れチルナ(ひめ)
247(うち)(かか)なぜにあれ(ほど)強太(しぶと)いか
248(わし)(きら)ふのが(わか)らないか
249 ()てもうるさいボテ(かか)よ。
250奥山(おくやま)(たぬき)(きつね)()けたやうな
251(かほ)()るたびゾツとする。
252(それ)よりも(うら)(はな)れの初稚姫(はつわかひめ)
253(わし)女房(にようばう)にやよく似合(にあ)ふ。
254とか(なん)とか()つて、255それはそれは(えら)権幕(けんまく)ですよ。256(おく)さまよく(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。257貴方(あなた)のやうな容色(きりやう)をして258(いや)がられる(ところ)()らなくても()いぢやありませぬか、259オツホン260あれあれ261あの障子(しやうじ)(かげ)御覧(ごらん)なさい。262(せな)(さす)つて()るのは(をんな)でせう。263あんな(ところ)()せつけられて264貴女(あなた)ノメノメとよくこんな(ところ)()られますな』
265チルナ『(わたし)(この)(うち)をどこ(まで)()ませぬよ。266(をつと)(をんな)()れて(わたし)()()さうとすれば尚更(なほさら)のこと、267此処(ここ)頑張(ぐわんば)つて()つて邪魔(じやま)してやるのです。268それが(をんな)意地(いぢ)ですもの。269(この)()()るや(いな)夫婦(ふうふ)気取(きど)りになつて(くら)されては(つま)らないもの。270エヽ()かない阿魔(あま)(ちよ)だな。271(ひと)大事(だいじ)主人(しゆじん)(なん)(おも)つて大胆(だいたん)至極(しごく)にもあんな(こと)をするのだらう。272これお(まへ)273(すこ)退()いてお()れ。274ちと(あば)れますから怪我(けが)をしても()らないよ』
275と、276障子(しやうじ)をバリバリ、277火鉢(ひばち)(まど)(そと)へカンカラカラ。278瀬戸物(せともの)()れる(おと)ケンケラケン、279ガチヤ ガチヤ ガチヤ ガタガタガタ、280四股(しこ)()(おと)ドンドンドン、281ドスンドスンドスン。
282カンナ『もしもし奥様(おくさま)283そんなお乱暴(らんばう)(こと)をして(もら)つては、284(あと)(おく)さまが(ござ)るぢや(ござ)いませぬか』
285チルナ『エヽ(かま)ふてお()れな、286(この)部屋(へや)(わたし)自由(じいう)だ、287(たた)(こは)さうと、2871どうならうと、288(みな)さまのお世話(せわ)にはなりませぬよ』
289 ガタガタ、290ドスンドスン、291バリバリバリ。
292 (この)物音(ものおと)(おどろ)いてチルテルは、
293チルテル『コラ(なに)をさらす』
294血相(けつさう)()へて(はし)(きた)り、295チルナの(たぶさ)をグイと鷲掴(わしづか)み、296(みぎ)()拳骨(げんこつ)(かた)めて(みつ)()(なぐ)りつけた。297チルナは一生(いつしやう)懸命(けんめい)逆上(のぼせ)あがり、298金切声(きんきりごゑ)()して、
299チルナ『エヽ悪性爺(あくしやうおやぢ)()300チルナが臨終(いまわ)(わか)れ、301死物狂(しにものぐる)ひだ』
302武者(むしや)()りつき、303睾丸(きんたま)をグツと(にぎ)(ちから)(かぎ)りに()()つた。304チルテルはウンと(その)()(たふ)れける。
305大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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