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霊界物語
真善美愛(第49~60巻)
第59巻(戌の巻)
序
総説歌
第1篇 毀誉の雲翳
第1章 逆艪
第2章 歌垣
第3章 蜜議
第4章 陰使
第5章 有升
第2篇 厄気悋々
第6章 雲隠
第7章 焚付
第8章 暗傷
第9章 暗内
第10章 変金
第11章 黒白
第12章 狐穴
第3篇 地底の歓声
第13章 案知
第14章 舗照
第15章 和歌意
第16章 開窟
第17章 倉明
第4篇 六根猩々
第18章 手苦番
第19章 猩々舟
第20章 海竜王
第21章 客々舟
第22章 五葉松
第23章 鳩首
第24章 隆光
第25章 歓呼
余白歌
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第59巻(戌の巻)
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<<< 暗内
(B)
(N)
黒白 >>>
第一〇章
変金
(
へんきん
)
〔一五一〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
篇:
第2篇 厄気悋々
よみ(新仮名遣い):
やっきりんりん
章:
第10章 変金
よみ(新仮名遣い):
へんきん
通し章番号:
1510
口述日:
1923(大正12)年04月02日(旧02月17日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年7月8日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚姫は、チルテルとチルナ姫夫婦の騒ぎを庭園を隔てて聞きながら、心静かに一弦琴を手にして歌っている。初稚姫が逗留しているのは、チルテルの心をただし、三千彦たちの安全を守るためだと述懐を歌う。
そこへヘールがやってきて、夫婦喧嘩の末にチルテルは負傷し、チルナ姫を縛って倉庫に閉じ込める騒ぎとなっているから、初稚姫に介抱を手伝ってほしいと願い出た。
実はヘールはチルテルに命じられて、初稚姫を呼びに来たのであった。初稚姫はそれと察知して、介抱は必要ないと踵を返し、元の居間に帰って行く。
その後ろ姿に見とれたヘールは初稚姫に惚れてしまった。こんな美人はキャプテンのチルテルであってもものにできないかもしれない、それならば自分みたいなヒョットコでもチャンスがあるかも知れないと勝手に思い込んでしまった。ヘールは初稚姫の居間に進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5910
愛善世界社版:
132頁
八幡書店版:
第10輯 532頁
修補版:
校定版:
139頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
キヨの
関守
(
せきもり
)
キャプテンのチルテルと
妻
(
つま
)
のチルナ
姫
(
ひめ
)
との
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎを
002
広
(
ひろ
)
き
庭園
(
ていゑん
)
を
隔
(
へだ
)
てて
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
吾不関
(
われくわんせず
)
焉
(
えん
)
といふ
態度
(
たいど
)
にて、
003
心
(
こころ
)
静
(
しづ
)
かに
一絃琴
(
いちげんきん
)
を
手
(
て
)
にし、
004
細
(
ほそ
)
き
美
(
うる
)
はしき
声
(
こゑ
)
にて
歌
(
うた
)
つてゐるのは
初稚姫
(
はつわかひめ
)
であつた。
005
初稚姫
(
はつわかひめ
)
『
花
(
はな
)
は
紅
(
くれなゐ
)
葉
(
は
)
は
緑
(
みどり
)
006
緑
(
みどり
)
したたる
黒髪
(
くろかみ
)
は
007
まだうら
若
(
わか
)
き
若草
(
わかぐさ
)
の
008
妻
(
つま
)
の
命
(
みこと
)
のチルナ
姫
(
ひめ
)
009
夫
(
をつと
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
気遣
(
きづか
)
ひて
010
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
真心
(
まごころ
)
を
011
尽
(
つく
)
して
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
りまし
012
妻
(
つま
)
の
務
(
つと
)
めを
委細
(
まつぶさ
)
に
013
包
(
つつ
)
むことなく
遂
(
と
)
げさせて
014
心
(
こころ
)
もキヨの
関守
(
せきもり
)
の
015
関
(
せき
)
とめかねしチルテルが
016
恋
(
こひ
)
に
狂
(
くる
)
ひし
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
を
017
追
(
お
)
ひ
払
(
はら
)
はむと
村肝
(
むらきも
)
の
018
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
かせ
玉
(
たま
)
ふこそ
019
実
(
げ
)
にも
憐
(
あは
)
れの
次第
(
しだい
)
なり
020
妻
(
つま
)
の
心
(
こころ
)
も
白浪
(
しらなみ
)
の
021
寄
(
よ
)
せては
返
(
かへ
)
す
磯
(
いそ
)
の
浪
(
なみ
)
022
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
と
駆
(
か
)
け
巡
(
めぐ
)
り
023
容貌
(
みめ
)
美
(
うる
)
はしき
女子
(
をみなご
)
と
024
見
(
み
)
れば
人妻
(
ひとづま
)
人娘
(
ひとむすめ
)
025
老
(
おい
)
と
若
(
わか
)
きの
隔
(
へだ
)
てなく
026
心
(
こころ
)
蕩
(
とろ
)
かす
狒々猿
(
ひひざる
)
の
027
掻
(
か
)
きまはすこそ
歎
(
うた
)
てけれ
028
妾
(
わらは
)
も
此処
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
りしゆ
029
心
(
こころ
)
に
染
(
そ
)
まぬ
事
(
こと
)
乍
(
なが
)
ら
030
これの
家内
(
やぬち
)
に
立騒
(
たちさわ
)
ぐ
031
荒
(
あら
)
き
波
(
なみ
)
をば
鎮
(
しづ
)
めむと
032
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひの
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
033
重
(
おも
)
き
使命
(
しめい
)
を
負
(
お
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
034
見捨
(
みす
)
てかねたる
義侠心
(
ぎけふしん
)
035
主人
(
あるじ
)
の
心
(
こころ
)
を
言霊
(
ことたま
)
の
036
厳
(
いづ
)
の
真水
(
まみづ
)
に
隈
(
くま
)
もなく
037
洗
(
あら
)
ひ
清
(
きよ
)
めて
惟神
(
かむながら
)
038
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
復
(
かへ
)
さむと
039
人目
(
ひとめ
)
を
忍
(
しの
)
び
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
040
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
つほの
浦凪
(
うらなぎ
)
に
041
立騒
(
たちさわ
)
ぐなる
群千鳥
(
むらちどり
)
042
早
(
はや
)
く
和鳥
(
なとり
)
になれかしと
043
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
044
心
(
こころ
)
の
限
(
かぎ
)
り
祈
(
いの
)
るなり
045
それに
付
(
つ
)
けても
三五
(
あななひ
)
の
046
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
047
聖
(
きよ
)
き
心
(
こころ
)
の
玉国別
(
たまくにわけ
)
や
048
鏡
(
かがみ
)
も
清
(
きよ
)
き
真純彦
(
ますみひこ
)
049
思
(
おも
)
ひは
胸
(
むね
)
に
三千彦
(
みちひこ
)
の
050
妻
(
つま
)
とあれますデビス
姫
(
ひめ
)
051
伊太彦
(
いたひこ
)
司
(
つかさ
)
の
一行
(
いつかう
)
が
052
月
(
つき
)
照
(
て
)
りわたるキヨの
湖
(
うみ
)
053
渡
(
わた
)
りて
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
ますなる
054
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
受
(
う
)
けてより
055
目無
(
めなし
)
堅間
(
かたま
)
の
舟
(
ふね
)
傭
(
やと
)
ひ
056
波路
(
なみぢ
)
を
安
(
やす
)
く
守
(
まも
)
りつつ
057
先
(
さき
)
へ
廻
(
まは
)
つて
此
(
この
)
館
(
やかた
)
058
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
危難
(
きなん
)
をば
059
救
(
すく
)
ひて
功績
(
いさを
)
をそれぞれに
060
挙
(
あ
)
げさせなむとの
村肝
(
むらきも
)
の
061
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
く
吾
(
われ
)
こそは
062
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
神柱
(
かむばしら
)
063
三千
(
さんぜん
)
年
(
ねん
)
に
一度
(
いちど
)
咲
(
さ
)
く
064
高天原
(
たかあまはら
)
の
最奥
(
さいあう
)
の
065
神
(
かみ
)
の
御苑
(
みその
)
の
桃林
(
たうりん
)
に
066
匂
(
にほ
)
ひ
初
(
そ
)
めたる
桃
(
もも
)
の
花
(
はな
)
067
只
(
ただ
)
一輪
(
いちりん
)
の
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
は
068
如何
(
いか
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
治
(
をさ
)
めむと
069
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
や
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
070
百八十
(
ももやそ
)
柱
(
ばしら
)
のエンゼルと
071
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
語
(
かた
)
らひて
072
漸
(
やうや
)
く
神
(
かみ
)
の
御心
(
みこころ
)
を
073
現
(
あら
)
はす
時
(
とき
)
となりにけり
074
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
075
恩頼
(
みたまのふゆ
)
を
謹
(
つつし
)
みて
076
厚
(
あつ
)
く
感謝
(
かんしや
)
し
奉
(
たてまつ
)
る
077
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
る
共
(
とも
)
曇
(
くも
)
る
共
(
とも
)
078
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
079
悪魔
(
あくま
)
はいかに
猛
(
たけ
)
くとも
080
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
三五
(
あななひ
)
の
081
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
へし
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
は
082
いかで
撓
(
たゆ
)
まむ
梓弓
(
あづさゆみ
)
083
引
(
ひ
)
きて
返
(
かへ
)
らぬ
魂
(
たましひ
)
の
084
巌
(
いはほ
)
を
射抜
(
いぬ
)
く
吾
(
わが
)
思
(
おも
)
ひ
085
遂
(
と
)
げさせ
玉
(
たま
)
へと
願
(
ね
)
ぎまつる
086
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
087
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
088
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ、
089
ヘールはスタスタと
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
090
慌
(
あわ
)
ただしくつつ
立
(
た
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
091
体
(
からだ
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
揺
(
ゆす
)
り、
092
足
(
あし
)
をヂタヂタ
踏
(
ふ
)
んで、
093
ヘール『モシモシ、
094
お
姫
(
ひめ
)
さま、
095
そんな
陽気
(
やうき
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますか、
096
あれ
丈
(
だけ
)
の
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎが、
097
貴女
(
あなた
)
はお
耳
(
みみ
)
に
這入
(
はい
)
りませぬか』
098
初稚
(
はつわか
)
『ハイ、
099
何
(
なに
)
かモメ
事
(
ごと
)
が
出来
(
でき
)
たので
厶
(
ござ
)
いますか。
100
妾
(
わらは
)
は
一絃琴
(
いちげんきん
)
に
魂
(
たま
)
を
奪
(
うば
)
はれ、
101
平和
(
へいわ
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
貪
(
むさぼ
)
つて
居
(
を
)
りましたから、
102
何
(
なん
)
にも
存
(
ぞん
)
じませぬ。
103
何
(
なん
)
だかお
館
(
やかた
)
の
方
(
はう
)
に
104
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
がお
酒
(
さけ
)
の
上
(
うへ
)
でダンスでもやつて
厶
(
ござ
)
つたやうですなア。
105
モウお
休
(
やす
)
みになりましたか』
106
ヘール『エ、
107
姫
(
ひめ
)
さま、
108
そんな
暢気
(
のんき
)
な
事
(
こと
)
ですかいな、
109
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
起
(
おこ
)
つたのですよ。
110
急性
(
きふせい
)
チルテル・ヘールニヤが
勃発
(
ぼつぱつ
)
し、
111
医者
(
いしや
)
よ
薬
(
くすり
)
よと
大騒
(
おほさわ
)
ぎで
厶
(
ござ
)
います』
112
初稚
(
はつわか
)
『アヽ
左様
(
さやう
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
113
万金丹
(
まんきんたん
)
でもあげなさいましたら、
114
御
(
ご
)
気分
(
きぶん
)
が
良
(
よ
)
くなるでせう』
115
ヘール『
肝心
(
かんじん
)
な
万金丹
(
まんきんたん
)
をチルテルの
大将
(
たいしやう
)
、
116
チルナ
姫
(
ひめ
)
さまに、
117
引張
(
ひつぱ
)
られたものですから、
118
忽
(
たちま
)
ちクルクルと
白目
(
しろめ
)
を
剥
(
む
)
いて、
119
ピリピリピリ、
120
キヤー、
121
ウーン、
122
ドタンバタン、
123
ガチヤ ガチヤ ガチヤ、
124
ガラガラと
人造
(
じんざう
)
地震
(
ぢしん
)
が
突発
(
とつぱつ
)
致
(
いた
)
しました。
125
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
卑怯
(
ひけふ
)
な
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
り、
126
皆
(
みな
)
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
へ
避難
(
ひなん
)
したと
見
(
み
)
え、
127
此
(
この
)
ヘール
一人
(
ひとり
)
が、
128
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
看護卒
(
かんごそつ
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
め、
129
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
奔走
(
ほんそう
)
して
居
(
を
)
ります。
130
何卒
(
どうぞ
)
病人
(
びやうにん
)
の
看護
(
かんご
)
を
手伝
(
てつだ
)
つて
頂
(
いただ
)
きたいものですなア。
131
男
(
をとこ
)
の
荒
(
あら
)
くたい
手
(
て
)
で
看病
(
かんびやう
)
するより、
132
女
(
をんな
)
の
優
(
やさ
)
しい
柔
(
やはら
)
かい
手々
(
てて
)
で
看護
(
かんご
)
して
貰
(
もら
)
ふ
方
(
はう
)
が、
133
何程
(
なにほど
)
病人
(
びやうにん
)
の
慰安
(
ゐあん
)
になつて
可
(
い
)
いかも
知
(
し
)
れませぬ。
134
サア
何卒
(
どうぞ
)
御
(
お
)
願
(
ねがひ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
135
早
(
はや
)
くお
世話
(
せわ
)
を
願
(
ねが
)
ひませう。
136
貴方
(
あなた
)
だつて、
137
見
(
み
)
ず
知
(
し
)
らずの
家
(
うち
)
へ
来
(
き
)
て、
138
かう
鄭重
(
ていちよう
)
にお
世話
(
せわ
)
になつて
厶
(
ござ
)
るのだから、
139
チツとは
義理
(
ぎり
)
人情
(
にんじやう
)
もお
弁
(
わきま
)
へで
厶
(
ござ
)
いませう』
140
初稚
(
はつわか
)
『それはお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
141
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
女
(
をんな
)
といふものは
嫉妬深
(
しつとぶか
)
いもので
厶
(
ござ
)
いますから、
142
奥様
(
おくさま
)
の
許
(
ゆる
)
しがなくては、
143
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
丈
(
だけ
)
の
許
(
ゆる
)
しでは
看病
(
かんびやう
)
をさして
頂
(
いただ
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
144
夫
(
をつと
)
の
病気
(
びやうき
)
は
奥様
(
おくさま
)
が
御
(
ご
)
看護
(
かんご
)
なさるのが
当然
(
たうぜん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
145
何卒
(
どうぞ
)
奥様
(
おくさま
)
のお
許
(
ゆる
)
しがあれば
看護
(
かんご
)
さして
頂
(
いただ
)
きますから、
146
一寸
(
ちよつと
)
奥様
(
おくさま
)
に
伺
(
うかが
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
147
ヘール『あの
奥
(
おく
)
ですか、
148
彼奴
(
あいつ
)
ア
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
睾丸
(
きんたま
)
狙
(
ねら
)
つて、
149
謀殺
(
ぼうさつ
)
未遂
(
みすゐ
)
犯人
(
はんにん
)
としてふん
縛
(
じば
)
り、
150
暗室
(
あんしつ
)
へ
監禁
(
かんきん
)
しておきました。
151
あんな
奴
(
やつ
)
ア、
152
死
(
し
)
なうが
何
(
ど
)
うならうが、
153
チツとも
構
(
かま
)
うこたア
厶
(
ござ
)
いませぬ。
154
随分
(
ずいぶん
)
悋気
(
りんき
)
の
強
(
つよ
)
い
奥様
(
おくさま
)
で、
155
お
前
(
まへ
)
さまもお
困
(
こま
)
りでしたらうが、
156
モウ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ。
157
旦那
(
だんな
)
さまと
何
(
ど
)
れ
丈
(
だけ
)
おいちやつき
遊
(
あそ
)
ばさうが、
158
ゴテゴテいふものは
厶
(
ござ
)
いませぬよ。
159
早
(
はや
)
く
斯
(
か
)
ういふ
時
(
とき
)
に
親切
(
しんせつ
)
を
尽
(
つく
)
しておきなさると、
160
後
(
あと
)
のお
為
(
ため
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
161
初稚
(
はつわか
)
『
妾
(
わらは
)
はその
様
(
やう
)
な
惨酷
(
ざんこく
)
なお
方
(
かた
)
は
人間
(
にんげん
)
だとは
思
(
おも
)
ひませぬワ。
162
チルテル
様
(
さま
)
には
何
(
なに
)
か
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
が
憑依
(
ひようい
)
してゐるのでせう、
163
さうでなければ
神
(
かみ
)
から
許
(
ゆる
)
された
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
、
164
そんな
酷
(
むご
)
たらしい
事
(
こと
)
をなさる
筈
(
はず
)
がありますまい。
165
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
のチルテル
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
ならば、
166
どこ
迄
(
まで
)
も
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
に
倣
(
な
)
らひ、
167
身
(
み
)
を
粉
(
こ
)
にしても
介抱
(
かいはう
)
さして
頂
(
いただ
)
きますが、
168
悪魔
(
あくま
)
の
擒
(
とりこ
)
となり
169
身
(
み
)
も
魂
(
たましひ
)
も
獣化
(
じうくわ
)
して
厶
(
ござ
)
る
妖怪
(
えうくわい
)
的
(
てき
)
な
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
には、
170
平
(
ひら
)
にお
断
(
ことわ
)
りを
申
(
まを
)
します。
171
ヘールさま、
172
貴方
(
あなた
)
も
確
(
しつか
)
りなさいませ。
173
妙
(
めう
)
な
者
(
もの
)
が
憑依
(
ひようい
)
して
居
(
を
)
りますよ』
174
ヘール『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
175
ウブな
身魂
(
みたま
)
ですから、
176
私
(
わたし
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
目当
(
めあて
)
に、
177
イロイロの
厄雑霊
(
やくざみたま
)
が
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うてヘールかも
知
(
し
)
れませぬ。
178
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らフエル
事
(
こと
)
もあり、
179
又
(
また
)
曲津
(
まがつ
)
のヘール
事
(
こと
)
もあります。
180
丁度
(
ちやうど
)
キヨの
湖
(
うみ
)
の
波
(
なみ
)
を
見
(
み
)
てゐるやうなものです。
181
高
(
たか
)
くなつたり
低
(
ひく
)
くなつたり、
182
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
荒
(
すさ
)
むだり、
183
或
(
ある
)
時
(
とき
)
は
平静
(
へいせい
)
になつたり、
184
これが
所謂
(
いはゆる
)
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
勇士
(
ゆうし
)
の
本能
(
ほんのう
)
、
185
円転
(
ゑんてん
)
滑脱
(
くわつだつ
)
、
186
あく
迄
(
まで
)
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
く、
187
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ですからなア。
188
其
(
その
)
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
たるチルテル
様
(
さま
)
は
一層
(
いつそう
)
偉
(
えら
)
い
者
(
もの
)
ですよ。
189
さう
貴女
(
あなた
)
のやうに
単純
(
たんじゆん
)
な
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へでは、
190
到底
(
たうてい
)
英雄
(
えいゆう
)
の
心事
(
しんじ
)
は
分
(
わか
)
りませぬ。
191
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
がウツツの
様
(
やう
)
になつて、
192
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
々々
(
ひめさま
)
と
連呼
(
れんこ
)
してゐらつしやいます。
193
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
194
一足
(
ひとあし
)
お
運
(
はこ
)
び
下
(
くだ
)
さつたらどうですか。
195
女
(
をんな
)
といふ
者
(
もの
)
はさう
剛情
(
がうじやう
)
を
張
(
は
)
るものぢやありませぬよ、
196
従順
(
じうじゆん
)
と
親切
(
しんせつ
)
なのが
女
(
をんな
)
の
美徳
(
びとく
)
ですからなア』
197
初稚
(
はつわか
)
『さう、
198
たつて
仰
(
おほ
)
せられますのなれば、
199
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
伺
(
うかが
)
ひませう』
200
ヘール『ヤ、
201
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
202
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
も
嘸
(
さぞ
)
お
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
203
サア、
204
お
手々
(
てて
)
を
執
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げませう』
205
と
毛
(
け
)
だらけの
黒
(
くろ
)
い
固
(
かた
)
い
松
(
まつ
)
の
木
(
き
)
の
荒皮
(
あらかは
)
の
様
(
やう
)
なガンザをニユツと
突出
(
つきだ
)
した。
206
初稚姫
(
はつわかひめ
)
はゾツとし
乍
(
なが
)
ら、
207
初稚
(
はつわか
)
『
有難
(
ありがた
)
う、
208
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らお
蔭
(
かげ
)
で
足
(
あし
)
は
壮健
(
たつしや
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
209
お
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
参
(
まゐ
)
ります』
210
ヘール『イヤイヤ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
211
此
(
この
)
屋敷
(
やしき
)
の
中
(
なか
)
は、
212
彼方
(
あちら
)
にも
此方
(
こちら
)
にも
陥穽
(
おとしあな
)
が
拵
(
こしら
)
へてありますから、
213
私
(
わたし
)
がお
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
上
(
あ
)
げませぬと
危険
(
きけん
)
です。
214
それだからお
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
上
(
あ
)
げやうと
申
(
まを
)
すのです』
215
初稚
(
はつわか
)
『
貴方
(
あなた
)
に
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
つて
頂
(
いただ
)
きますと、
216
又
(
また
)
チルテルさまと
睾丸
(
きんたま
)
圧搾戦
(
あつさくせん
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
しますと、
217
お
互
(
たがひ
)
の
迷惑
(
めいわく
)
ですワ。
218
決
(
けつ
)
して
陥穽
(
おとしあな
)
なんかはまるやうな
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しませぬ。
219
何卒
(
どうぞ
)
お
先
(
さき
)
へお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいませ』
220
ヘール『ハイ、
221
駄目
(
だめ
)
ですかなア、
222
どうも
私
(
わたし
)
の
説
(
せつ
)
を
握手
(
あくしゆ
)
喝采
(
かつさい
)
して
下
(
くだ
)
さらぬと
見
(
み
)
えますワイ』
223
初稚
(
はつわか
)
『ホヽヽヽヽ、
224
御
(
ご
)
冗談
(
じようだん
)
許
(
ばか
)
り
仰有
(
おつしや
)
いますな。
225
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
苦
(
くるし
)
みになつてゐられるぢやありませぬか』
226
ヘール『ヘー、
227
お
苦
(
くるし
)
みはお
苦
(
くるし
)
みです。
228
最早
(
もはや
)
チルテル・ヘールニヤも
殆
(
ほと
)
んど
全快
(
ぜんくわい
)
して
何
(
なん
)
ともないのでせうが、
229
苦
(
くる
)
しいといふのは……ヘン、
230
……どこやらの
人
(
ひと
)
に
身
(
み
)
も
魂
(
たま
)
も
奪
(
うば
)
はれ、
231
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
病
(
びやう
)
が
起
(
おこ
)
つて
苦
(
くる
)
しいのですから、
232
一寸
(
ちよつと
)
お
腹
(
なか
)
の
辺
(
あた
)
りをマッサージでもやつて
貰
(
もら
)
へば、
233
忽
(
たちま
)
ちケロリと
本復
(
ほんぷく
)
疑
(
うたがひ
)
なし、
234
此
(
この
)
病気
(
びやうき
)
を
直
(
なほ
)
すのは
女神
(
めがみ
)
でなくては
到底
(
たうてい
)
御
(
ご
)
利益
(
りやく
)
は
現
(
あら
)
はれませぬワイ、
235
ウツフヽヽヽ』
236
初稚
(
はつわか
)
『あれまア、
237
そんな
事
(
こと
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
りました。
238
それならモウ
安心
(
あんしん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
239
何卒
(
どうぞ
)
チルテル
様
(
さま
)
に
宜
(
よろ
)
しう
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
240
そして
妾
(
わらは
)
の
居間
(
ゐま
)
へお
遊
(
あそ
)
びにお
出
(
いで
)
下
(
くだ
)
さるやうお
伝
(
つた
)
へ
願
(
ねが
)
います。
241
左様
(
さやう
)
なら』
242
と
踵
(
きびす
)
を
返
(
かへ
)
し
243
元
(
もと
)
の
居間
(
ゐま
)
へサツサと
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
244
ヘールは
口
(
くち
)
をポカンとあけたまま、
245
姫
(
ひめ
)
の
後姿
(
うしろすがた
)
を
見送
(
みおく
)
り、
246
『あゝ
何
(
なん
)
と
可
(
い
)
いスタイルだなア。
247
牡丹
(
ぼたん
)
か
芍薬
(
しやくやく
)
か
蓮華
(
れんげ
)
の
花
(
はな
)
か。
248
あの
なんぞり
とした
肩
(
かた
)
の
具合
(
ぐあひ
)
から、
249
頭
(
あたま
)
の
格好
(
かつかう
)
、
250
首筋
(
くびすぢ
)
の
様子
(
やうす
)
、
251
背
(
せ
)
のスウツとした
所
(
ところ
)
、
252
おいどの
小
(
ちひ
)
さい、
253
足
(
あし
)
の
歩
(
ある
)
き
様
(
やう
)
から、
254
お
手々
(
てて
)
の
振方
(
ふりかた
)
、
255
何
(
なん
)
とマア
可
(
い
)
いナイスだらう。
256
チルテルさまが
女房
(
にようばう
)
を
叩
(
たた
)
き
出
(
だ
)
して
本妻
(
ほんさい
)
に
入
(
い
)
れやうとなさつたのも、
257
決
(
けつ
)
して
無理
(
むり
)
ではないワイ。
258
あゝ
何
(
なん
)
だか
精神
(
せいしん
)
恍惚
(
くわうこつ
)
として
夢路
(
ゆめぢ
)
を
辿
(
たど
)
るが
如
(
ごと
)
しだ。
259
あゝ
胸
(
むね
)
が
苦
(
くる
)
しうなつて
来
(
き
)
た。
260
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
にも
恋愛
(
れんあい
)
嫉妬病
(
しつとびやう
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
しさうだ。
261
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
到底
(
たうてい
)
俺
(
おれ
)
の
力
(
ちから
)
では
側
(
そば
)
へもよりつくこたア
出来
(
でき
)
やしないワ。
262
キャプテンだつて、
263
此奴
(
こいつ
)
ア
駄目
(
だめ
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ。
264
何
(
なん
)
とマア
崇高
(
けだか
)
い
姿
(
すがた
)
だらう。
265
温和
(
をんわ
)
にして
威厳
(
ゐげん
)
あり、
266
恰
(
あたか
)
も
天女
(
てんによ
)
の
如
(
ごと
)
し。
267
あゝ
男子
(
だんし
)
現世
(
げんせい
)
に
生
(
しやう
)
を
稟
(
う
)
けて、
268
斯
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
き
美人
(
びじん
)
と
婚
(
こん
)
すること
能
(
あた
)
はずば、
269
寧
(
むし
)
ろ
首
(
くび
)
を
吊
(
つ
)
つて
其
(
その
)
命
(
めい
)
を
断
(
た
)
たむのみだ。
270
エヘヽヽヽ、
271
何
(
なん
)
だか
体中
(
からだぢう
)
に
波
(
なみ
)
が
打
(
う
)
つて
来
(
き
)
よつたやうだ。
272
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
を
鋭利
(
えいり
)
な
刃物
(
はもの
)
で
一寸
(
いつすん
)
刻
(
きざ
)
みにザクザクと
何者
(
なにもの
)
かが
刻
(
きざ
)
み
出
(
だ
)
したやうだ。
273
ても
扨
(
さ
)
ても
苦
(
くる
)
しいものだなア。
274
あゝあ キャプテンに
報告
(
はうこく
)
もならず、
275
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
伺
(
うかが
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
276
ホンに
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
だワイ。
277
……
278
鷺
(
さぎ
)
を
烏
(
からす
)
と
言
(
い
)
うたが
無理
(
むり
)
か
279
一羽
(
いちは
)
の
鳥
(
とり
)
も
鶏
(
にはとり
)
だ
280
葵
(
あふひ
)
の
花
(
はな
)
でも
赤
(
あか
)
く
咲
(
さ
)
く
281
雪
(
ゆき
)
といふ
字
(
じ
)
を
墨
(
すみ
)
で
書
(
か
)
く。
282
ヤ、
283
可
(
い
)
い
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
した。
284
何程
(
なにほど
)
俺
(
おれ
)
がヒヨツトコでも、
285
雪
(
ゆき
)
といふ
字
(
じ
)
を
墨
(
すみ
)
で
書
(
か
)
く
以上
(
いじやう
)
は、
286
あのナイスをウンと
言
(
い
)
はせない
道理
(
だうり
)
があらうか。
287
あんな
青
(
あを
)
い
幹
(
みき
)
や
葉
(
は
)
をした
葵
(
あふひ
)
からも
288
真赤
(
まつか
)
な
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
く
例
(
ためし
)
もある。
289
碁
(
ご
)
を
打
(
う
)
つても、
290
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
い
奴
(
やつ
)
と
色
(
いろ
)
の
白
(
しろ
)
い
奴
(
やつ
)
とが
対抗
(
たいかう
)
するのだ。
291
白
(
しろ
)
い
石
(
いし
)
同士
(
どうし
)
は
到底
(
たうてい
)
物
(
もの
)
にならぬ。
292
ウンさうだ。
293
おかめに
美男
(
びなん
)
、
294
ヒヨツトコに
美女
(
びぢよ
)
といふ
例
(
ためし
)
もある。
295
ヒヨツトしたら
誂
(
あつら
)
へ
向
(
むき
)
かも
知
(
し
)
れぬぞ。
296
あのキャプテンは
面
(
つら
)
が
青白
(
あをじろ
)
い
上
(
うへ
)
に
背
(
せ
)
がスラリと
高
(
たか
)
くて、
297
どこ
共
(
とも
)
なしに
気障
(
きざ
)
な
男
(
をとこ
)
だ。
298
俺
(
おれ
)
のやうな
節
(
ふし
)
くれだつた
力瘤
(
ちからこぶ
)
だらけの
強者
(
きやうしや
)
は、
299
却
(
かへつ
)
て
優
(
やさ
)
しいナイスが
好
(
この
)
むものだ。
300
ヨーシ、
301
俺
(
おれ
)
も
恋
(
こひ
)
の
為
(
ため
)
にはユゥンケルの
職
(
しよく
)
を
棒
(
ぼう
)
にふつても
構
(
かま
)
はぬ、
302
ユゥンケルが
何
(
なん
)
だい。
303
仮令
(
たとへ
)
リューチナントになつた
所
(
ところ
)
が
知
(
し
)
れたものだ。
304
キャプテン、
305
カーネル、
306
ゼネラル、
307
そんな
物
(
もの
)
が
何
(
なん
)
になる。
308
ウン ヨシ、
309
之
(
これ
)
から
恋
(
こひ
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
となつて、
310
天下
(
てんか
)
の
男子
(
だんし
)
に
其
(
その
)
驍名
(
げうめい
)
を
誇
(
ほこ
)
つてやらう。
311
地獄
(
ぢごく
)
の
上
(
うへ
)
の
一足飛
(
いつそくとび
)
だ。
312
人間
(
にんげん
)
は
一生
(
いつしやう
)
に
一度
(
いちど
)
は
危
(
あぶ
)
ない
綱
(
つな
)
も
渡
(
わた
)
つてみなくちやならないワ。
313
男
(
をとこ
)
は
断
(
だん
)
の
一字
(
いちじ
)
が
肝心
(
かんじん
)
だと
聞
(
き
)
いてゐる。
314
エーエやつつけやうかな。
315
吾
(
わが
)
恋
(
こひ
)
は
細谷川
(
ほそたにがは
)
の
丸木橋
(
まるきばし
)
316
渡
(
わた
)
るにやこはし
渡
(
わた
)
らねば
317
好
(
す
)
いたお
方
(
かた
)
にや
会
(
あ
)
はれない。…………
318
とか
何
(
なん
)
とか、
319
誰
(
たれ
)
かが
仰有
(
おつしや
)
いましたかネだ。
320
サア、
321
ここで
一
(
ひと
)
つ
駒
(
こま
)
を
立直
(
たてなほ
)
し、
322
キャプテンに
叛旗
(
はんき
)
を
掲
(
かか
)
げ、
323
初稚
(
はつわか
)
砲台
(
ほうだい
)
に
向
(
むか
)
つて、
324
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
勇気
(
ゆうき
)
を
以
(
もつ
)
て、
325
短兵
(
たんぺい
)
急
(
きふ
)
に
攻
(
せ
)
めよせくれむ。
326
国家
(
こくか
)
の
興亡
(
こうばう
)
此
(
この
)
瞬間
(
しゆんかん
)
にあり、
327
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
兵員
(
へいゐん
)
一同
(
いちどう
)
328
夫
(
そ
)
れ、
3281
奮励
(
ふんれい
)
努力
(
どりよく
)
せよ。
329
否
(
いな
)
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
一統
(
いつとう
)
、
330
奮励
(
ふんれい
)
努力
(
どりよく
)
せよ。
331
超
(
てう
)
弩級艦
(
どきふかん
)
一隻
(
いつせき
)
、
332
正
(
まさ
)
に
此
(
この
)
港口
(
こうこう
)
にあり、
333
閉塞隊
(
へいそくたい
)
の
用意
(
ようい
)
あつて
然
(
しか
)
るべし』
334
と
独
(
ひと
)
り
喋
(
はしや
)
ぎ
乍
(
なが
)
ら、
335
肩肱
(
かたひぢ
)
怒
(
いか
)
らし、
336
一足
(
ひとあし
)
々々
(
ひとあし
)
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れ
大手
(
おほで
)
をふつて、
337
芝居
(
しばゐ
)
の
光秀
(
みつひで
)
が
花道
(
はなみち
)
から
現
(
あら
)
はれて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
のやうなスタイルで、
338
ヂリリ ヂリリと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
339
(
大正一二・四・二
旧二・一七
於皆生温泉浜屋
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
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(N)
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