霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
×
設定
URL:
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
行間
ルビの表示


アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注[※]用語解説 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

脚注[*]編集用 [?][※]、[*]、[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。[※]は主に用語説明、[*]は編集用の脚注で、表示させたり消したりできます。[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]

外字の外周色 [?]一般のフォントに存在しない文字は専用の外字フォントを使用しています。目立つようにその文字の外周の色を変えます。[×閉じる]
現在のページには外字は使われていません

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。

第五章 有升(あります)〔一五〇五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻 篇:第1篇 毀誉の雲翳 よみ(新仮名遣い):きよのうんえい
章:第5章 有升 よみ(新仮名遣い):あります 通し章番号:1505
口述日:1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年7月8日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
テクは、チルテルが初稚姫の容色に惚れ込んでおり、出陣中のバーチルの館での酒宴に出席して欲しいと願っている旨を初稚姫に伝えた。初稚姫は、チルテルの申し出を迷惑に思っており、自ら進んで行くことはないとテクに答えた。
二人の問答を外で聞いていたチルナ姫は、夫がやはり初稚姫に恋慕していて別室に隠していることを知り、地団太を踏んだ。カンナとヘールはチルナ姫が来ていることに気が付いて声をかけた。
チルナ姫はカンナとヘールをけしかけて、強硬的に初稚姫を口説かせることにした。カンナとヘールは仕方なく、外から初稚姫に自分たちのどちらかと添うように口説く歌を歌いかけた。
テクは、初稚姫には頑として断られるなり、外からはカンナとヘールが邪魔をするなりで、チルテルの命を遂行することができなさそうな勢いに自棄になり、捨て台詞の歌を歌うと、腹立ちまぎれに四股を踏み鳴らし、帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-11-06 10:40:09 文字数:3987 OBC :rm5905
愛善世界社版:67頁 八幡書店版:第10輯 508頁 修補版: 校定版:71頁 普及版: 初版: ページ備考:
001初稚(はつわか)『もしテクさまとやら、002キャプテン様(さま)から妾(わらは)に御用(ごよう)とは如何(いか)なる事(こと)で厶(ござ)いますか。003何卒(どうぞ)速(すみやか)にお伝(つた)へを願(ねが)ひます』
004テク『私(わたし)はチツと酩酊(めいてい)致(いた)して居(を)りますから脱線(だつせん)するかも知(し)れませぬ。005前(まへ)以(もつ)てお断(ことわ)りして置(お)きます。006あの……外(ほか)でも厶(ござ)いませぬが……それそれ……さう短兵(たんぺい)急(きふ)に追撃(つゐげき)されては応戦(おうせん)の……余裕(よゆう)が厶(ござ)いませぬ。007先(ま)づ美人(びじん)砲台(はうだい)の……沈黙(ちんもく)を待(ま)つて徐(おもむろ)に攻勢(こうせい)に向(むか)ひませう』
008と俄(にはか)に騙(だま)されて中尉(ちうゐ)の称号(しやうがう)を貰(もら)つた嬉(うれ)しさに009何(なん)でもかでも軍隊(ぐんたい)の用語(ようご)を使(つか)つて談判(だんぱん)をやらうと考(かんが)へて居(ゐ)る間抜(まぬ)け野良(のら)だ。
010初稚(はつわか)『砲台(はうだい)だの、011攻撃(こうげき)だの、012応戦(おうせん)だのと、0121随分(ずいぶん)殺伐(さつばつ)なお言葉(ことば)ですな。013どうか、014も少(すこ)しハンナリと仰有(おつしや)つて頂(いただ)き度(た)いもので厶(ござ)います』
015 テクは『気(き)を付(つ)け』の姿勢(しせい)をとり016一方(いつぱう)の手(て)を乳(ちち)の辺(あた)りに上向(うはむ)けに拡(ひろ)げて017弥宜(ねぎ)が笏板(しやくいた)を持(も)つた様(やう)なスタイルになつて、018稍(やや)反(そ)り乍(なが)ら、
019テク『私(わたし)は中尉(ちうゐ)であります。020今日(こんにち)大尉(たいゐ)殿(どの)の命(めい)により021伝令(でんれい)兼(けん)斥候(せきこう)として此(この)陣営(ぢんえい)へ特派(とくは)せられた者(もの)であります。022その使命(しめい)と申(まを)すのは外(ほか)でもありませぬ。023アヅモス山(さん)の南麓(なんろく)バーチルの陣営(ぢんえい)に於(おい)て024兵士(へいし)の凱旋(がいせん)祝賀会(しゆくがくわい)が挙行(きよかう)されました。025それに就(つ)いて大隊長(だいたいちやう)殿(どの)が私(わたし)を特使(とくし)として此(この)営所(えいしよ)へ御(ご)派遣(はけん)になつたのであります。026酒宴(しゆえん)の席(せき)には男(をとこ)ばかりでは、027どうも興味(きようみ)薄(うす)きを以(もつ)て、028天下(てんか)無双(むさう)のナイス初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)を召集(せうしふ)し来(きた)れとの命令(めいれい)であります。029言(い)はば此(この)テクはキャプテンの軍使(ぐんし)であります。030速(すみやか)に軍律(ぐんりつ)に従(したが)ひ、031否(いや)上官(じやうくわん)の命(めい)に従(したが)ひ、0311御(ご)出張(しゆつちやう)、032否(いや)御(ご)出陣(しゆつぢん)あり度(た)きものであります』
033初稚(はつわか)『オホヽヽヽ、034テクさま、035貴方(あなた)どうも硬(かた)い事(こと)を仰有(おつしや)いますな。036妾(わらは)はお酒(さけ)は嫌(きら)ひで厶(ござ)いますから037陣営(ぢんえい)等(など)には到底(たうてい)参(まゐ)る事(こと)は出来(でき)ませぬ。038又(また)陣中(ぢんちう)に女(をんな)が参(まゐ)りますと軍規(ぐんき)が乱(みだ)れますから、039之(これ)ばかりはお断(ことわ)り申(まを)します』
040テク『これは怪(け)しからぬ。041拙者(せつしや)を何(なん)と心得(こころえ)て厶(ござ)る。042拙者(せつしや)は憲兵(けんぺい)中尉(ちうゐ)で厶(ござ)るぞ。043チツと注意(ちうい)をして物(もの)を云(い)つて頂(いただ)かないと実(じつ)に困(こま)るのであります。044御(ご)命令(めいれい)に違背(ゐはい)なさると軍律(ぐんりつ)に照(てら)し、045銃殺(じうさつ)の刑(けい)に処(しよ)せらるるのであります。046ここは篤(とつくり)と御(ご)勘考(かんかう)なさらねばならぬ所(ところ)であります。047実(じつ)の所(ところ)はキャプテン様(さま)は貴女(あなた)の容色(ようしよく)に属魂(ぞつこん)打込(うちこ)み、048殆(ほとん)ど魂(たま)を抜(ぬ)かし、049矢(や)も楯(たて)も堪(たま)らないと云(い)ふ今日(こんにち)の戦況(せんきやう)であります。050どうしても落城(らくじやう)せなければ051臼砲(きうはう)なりと野砲(やはう)なりと発砲(はつぱう)して占領(せんりやう)して来(こ)いとの厳命(げんめい)であります。052さア早(はや)く軍門(ぐんもん)に御(ご)出頭(しゆつとう)あらむ事(こと)を願(ねが)ふあります』
053初稚(はつわか)『これは又(また)迷惑(めいわく)な事(こと)で厶(ござ)いますナ。054どうか左様(さやう)な事(こと)を仰有(おつしや)らずにお帰(かへ)り下(くだ)さいませ。055貴方(あなた)はお酒(さけ)を召(め)して居(ゐ)らつしやいますから、056左様(さやう)な事(こと)を申(まを)されるのです。057苟(いやし)くも人(ひと)の頭(かしら)とならるべきキャプテン様(さま)が、058妾(わらは)の如(ごと)き女風情(をんなふぜい)を陣中(ぢんちう)にお招(まね)き遊(あそ)ばす道理(だうり)が厶(ござ)いませうか』
059テク『これはしたり、060女(をんな)が陣中(ぢんちう)に行(ゆ)けないと云(い)ふ事(こと)がありますか。061上野(かみづけ)の形名(かたな)といふ軍人(ぐんじん)の女房(にようばう)は062陣中(ぢんちう)に入(い)つて夫(をつと)に酒(さけ)を勧(すす)め、063軍功(ぐんこう)を立(た)てさせたぢやありませぬか。064貴女(あなた)は第二(だいに)夫人(ふじん)様(さま)、065……否(いや)第一(だいいち)夫人(ふじん)の候補者(こうほしや)かも知(し)れませぬ。066さア何卒(どうぞ)早(はや)く私(わたし)に対(たい)し、067よき報告(はうこく)を願(ねが)ひます。068否(いや)私(わたし)と共(とも)に御(お)出陣(しゆつぢん)あらむ事(こと)を希望(きばう)する次第(しだい)であります』
069初稚(はつわか)『妾(わらは)は何(なん)と仰(おほ)せられましても陣中(ぢんちう)に足(あし)を入(い)れる事(こと)は、070どうしても心(こころ)が進(すす)まぬのであります。071何(なん)と仰(おほ)せられても行(ゆ)かないと云(い)つたら行(ゆ)かない覚悟(かくご)であります』
072テク『もし、073お姫(ひめ)さま、074私(わたし)のお株(かぶ)をとつちやいけませぬよ。075「アリマス」は軍人(ぐんじん)の専用語(せんようご)ですからな』
076 チルナ姫(ひめ)は今迄(いままで)木蔭(こかげ)に立(た)つて二人(ふたり)の問答(もんだふ)を聞(き)き、077自分(じぶん)の夫(をつと)が初稚姫(はつわかひめ)に恋慕(れんぼ)してると云(い)ふテクの報告(はうこく)を聞(き)いて殆(ほとん)ど狂乱(きやうらん)の如(ごと)くなり、078樹蔭(こかげ)に地団太(ぢだんだ)を踏(ふ)んで居(ゐ)る。079その足音(あしおと)にカンナ、080ヘールの両人(りやうにん)はハツと気(き)がつき、081擦(す)り寄(よ)つて見(み)れば、082何(なん)だかチルナ姫(ひめ)の様(やう)である。083カンナは小声(こごゑ)で、
084カンナ『もし、085奥(おく)さまぢや厶(ござ)いませぬか』
086チルナ『お前(まへ)、087今(いま)の話(はなし)を聞(き)いたか。088旦那(だんな)様(さま)があの女(をんな)に属魂(ぞつこん)惚(ほ)れて厶(ござ)ると云(い)ふ事(こと)だから、089私(わたし)の吩咐(いひつ)けたやうに何故(なぜ)早(はや)く要領(えうりやう)を得(え)て了(しま)はないのか』
090カンナ『ヘー、091要領(えうりやう)を得(え)たいのは山々(やまやま)で厶(ござ)いますが、092そうチヤク チヤクと空腹(ひだるばら)にお茶漬(ちやづけ)を食(く)つた様(やう)には行(ゆ)きませぬからな』
093チルナ『エー、094ぢれつたい。095グヅグヅして居(を)るとどんな事(こと)が出来(でき)るか知(し)れぬぢやないか。096荒男(あらをとこ)が二人(ふたり)も居(を)つて、097あんな阿魔女(あまつちよ)を、098どうする事(こと)も出来(でき)ぬとは腑甲斐(ふがひ)ないものだな。099さア早(はや)く肝玉(きもだま)を出(だ)して何(なん)とかなさらぬかいな』
100ヘール『奥様(おくさま)、101もしも、102やり損(そこ)なつたら、103貴女(あなた)後(あと)引受(ひきう)けて下(くだ)さるかな』
104チルナ『そんな心配(しんぱい)は要(い)りませぬ。105何(なん)でもかでも強(つよ)く行(ゆ)きさへすれば106何(ど)んな事(こと)でも成功(せいこう)しますよ。107グヅグヅしてると108あの女(をんな)を連(つ)れて行(い)つて旦那(だんな)様(さま)につき合(あは)すかも知(し)れないわ。109エー、110悔(くや)しや、111残念(ざんねん)や、112口惜(くちを)しやな。113男(をとこ)が二人(ふたり)も居(を)つて114あれ位(くらゐ)な女(をんな)を如何(どう)する事(こと)も出来(でき)ぬのかいな』
115カンナ『奥(おく)さま、116そこ迄(まで)仰有(おつしや)るのなら一(ひと)つやつて見(み)ませう。117然(しか)し一寸(ちよつと)手荒(てあら)い事(こと)をして同情心(どうじやうしん)を失(うしな)つては駄目(だめ)ですから、118ここで一(ひと)つ歌(うた)でも歌(うた)つて心(こころ)を動(うご)かし目的(もくてき)を達(たつ)して見(み)ませう。119もし奥(おく)さま、120貴女(あなた)も一(ひと)つ作(つく)り声(ごゑ)をして応援(おうゑん)して下(くだ)さい』
121チルナ『さア早(はや)くやつて御覧(ごらん)、122いかなかつたら妾(わたし)が応援(おうゑん)するから』
123カンナ『バラモンの軍(いくさ)の司(つかさ)ここにあり
124いざ言問(ことと)はむ初稚姫(はつわかひめ)に』
125ヘール『姫(ひめ)様(さま)よ汝(なれ)に迷(まよ)ひて忍(しの)び来(く)る
126男心(をとこごころ)を見捨(みす)て玉(たま)ふな』
127チルナ『チルテルの心(こころ)汚(きたな)き武士(もののふ)に
128身(み)を任(まか)しなば世(よ)に笑(わら)はれむ。
129チルテルの軍(いくさ)の君(きみ)は世(よ)に稀(まれ)な
130チルナの姫(ひめ)が控(ひか)へますぞや。
131吾(わが)恋(こひ)は大海原(おほうなばら)を渡(わた)る舟(ふね)
132浪(なみ)を凌(しの)ぎて神島(かみじま)へ行(ゆ)く。
133初稚(はつわか)の姫(ひめ)の命(みこと)よ逸早(いちはや)く
134館(やかた)を立(た)ちて月(つき)へ出(い)でませ』
135 初稚姫(はつわかひめ)は中(なか)より、
136初稚姫(はつわかひめ)『月(つき)の国(くに)ハルナの都(みやこ)に神(かみ)在(ま)すと
137慕(した)ひて進(すす)む吾(われ)なりにけり。
138さり乍(なが)らイヅミの国(くに)に今(いま)暫(しば)し
139足(あし)を留(とど)めて身(み)をや休(やす)めむ』
140チルナ『此(この)里(さと)に足(あし)を留(とど)めて居(ゐ)ますなら
141カンナ、ヘールに身(み)を任(まか)しませ』
142初稚姫(はつわかひめ)『身(み)は一(ひと)つ如何(いか)で二人(ふたり)に仕(つか)ふべき
143妾(わらは)は神(かみ)にのみぞ仕(つか)ふる
144チルテルの軍(いくさ)の君(きみ)は賢(かしこ)しと
145聞(き)けども如何(いか)で身(み)を任(まか)すべき。
146若草(わかぐさ)の妻(つま)を持(も)たせるチルテルの
147君(きみ)に仕(つか)へて堪(たま)るべきかは。
148チルテルの厚(あつ)き情(なさけ)に絆(ほだ)されて
149暫(しば)し息(いき)をば休(やす)め居(ゐ)るのみ』
150テク『初稚姫(はつわかひめ)神(かみ)の命(みこと)はキャプテンの
151第二(だいに)夫人(ふじん)と定(きま)つてあります。
152どうしても嫌(いや)と云(い)ふなら引張(ひつぱ)つて
153陣屋(ぢんや)に進(すす)む覚悟(かくご)あります。
154さア早(はや)う行(ゆ)かねば酒(さけ)が冷(さ)めまする
155酒(さけ)の肴(さかな)に使(つか)ふあります。
156キャプテンの清(きよ)き男子(おのこ)を振棄(ふりす)てて
157カンナにつけば身(み)を削(けづ)られむ。
158カンナてふ奴(やつ)は人(ひと)をば削(けづ)り喰(く)ふ
159鬼(おに)の様(やう)なる男(をとこ)あります。
160ヘールとはカンナをかけて削(けづ)る様(やう)に
161一(いち)枚(まい)一(いち)枚(まい)ヘール恋衣(こひぎぬ)』
162カンナ『もう自暴自棄(やけ)だ勇猛心(ゆうまうしん)を発揮(はつき)して
163乗(の)るか反(そ)るかをやつて見(み)ませう。
164おい、そこだ、テクの奴(やつ)めがやつて来(き)て
165恋(こひ)の邪魔(じやま)する面(つら)の憎(にく)さよ。
166此(この)上(うへ)は直接(ちよくせつ)行動(かうどう)腕(うで)づくだ
167初稚姫(はつわかひめ)を担(かた)げて退(の)かむ。
168肱鉄(ひぢてつ)をうまい辞令(じれい)で誤魔化(ごまくわ)され
169男(をとこ)の顔(かほ)が何処(どこ)で立(た)たうか』
170初稚(はつわか)『テクさま、171何卒(どうぞ)あの通(とほ)り外(そと)に皆様(みなさま)が種々(いろいろ)と仰有(おつしや)つて居(ゐ)ますから172妾(わらは)は大変(たいへん)迷惑(めいわく)致(いた)します。173何卒(どうぞ)帰(かへ)つて下(くだ)さい。174そしてキャプテン様(さま)に御用(ごよう)がおありなさるのなら175帰(かへ)つて悠(ゆつく)りお会(あ)ひしませう。176又(また)酒(さけ)の相手(あひて)も及(およ)ばず乍(なが)ら勤(つと)めさして頂(いただ)きますと、177何卒(どうぞ)そこは宜(よろ)しく云(い)つて下(くだ)さいませ』
178テク『それでも旦那(だんな)様(さま)が大変(たいへん)に惚(ほ)れて居(ゐ)らつしやるのだもの、179私(わたし)だつて貴女(あなた)に来(き)て頂(いただ)かなくては中尉(ちうゐ)もゼロになりますからな。180私(わたし)を中尉(ちうゐ)にして下(くだ)さるのなら181何卒(どうぞ)早(はや)く来(き)て下(くだ)さい。182之(これ)が私(わたし)の一生(いつしやう)のお願(ねが)ひであります』
183 テクは自暴自棄(やけ)糞(くそ)になり大(おほ)きな声(こゑ)で歌(うた)ひ出(だ)した。
184テク『駄目(だめ)だ駄目(だめ)だ皆(みな)駄目(だめ)だ
185こんな綺麗(きれい)な面(つら)をして
186バラモン軍(ぐん)のキャプテンが
187お言葉(ことば)さへも刎(は)ねつける
188容色(きりやう)がよいとて自慢(じまん)すな
189お前(まへ)の様(やう)な阿魔女(あまつちよ)は
190世界(せかい)にや沢山(たくさん)ある程(ほど)に
191慢心(まんしん)するのも程(ほど)がある
192青瓢箪(あをべうたん)に目(め)と鼻(はな)を
193つけたる様(やう)なスタイルで
194猪口才(ちよこざい)千万(せんばん)美人面(びじんづら)
195愛想(あいそ)も欲得(こそ)もつき果(は)てた
196外(そと)に厶(ござ)るはカンナさま
197恋(こひ)に狂(くる)ふたヘールさま
198思(おも)ひ切(き)つたが宜(よろ)しかろ
199こんな分(わか)らぬスベタ女郎(めろ)
200何程(なにほど)口説(くど)いて見(み)た所(とこ)で
201テツキリ駄目(だめ)で厶(ござ)るぞや
202俺(おれ)も折角(せつかく)キャプテンに
203憲兵(けんぺい)中尉(ちうゐ)の職名(しよくめい)を
204頂(いただ)き乍(なが)らムザムザと
205返(かへ)さにやならぬ破目(はめ)となり
206むかついてむかついて堪(たま)らぬが
207さうかと云(い)つて此(この)阿魔(あま)を
208どうする訳(わけ)にも行(ゆ)きはせぬ
209あれ程(ほど)チルテル・キャプテンが
210現(うつつ)を抜(ぬ)かし目尻(めじり)下(さ)げ
211寝(ね)ても覚(さ)めても姫々(ひめひめ)と
212大切(だいじ)の大切(だいじ)の奥(おく)さまを
213邪魔者(じやまもの)扱(あつかひ)になし乍(なが)ら
214酒(さけ)の場席(ばせき)へ引張(ひつぱ)つて
215男前(をとこまへ)をば誇(ほこ)らむと
216なさつて厶(ござ)るがお憐(いと)しい
217あんな夫(をつと)を持(も)つ女房(にようばう)
218嘸(さぞ)や心(こころ)が揉(も)めるだろ
219チルナの姫(ひめ)のお心(こころ)が
220気(き)の毒(どく)さまになつて来(き)た
221女(をんな)は魔物(まもの)と云(い)ふ事(こと)は
222予(かね)て人(ひと)から聞(き)いて居(ゐ)た
223女(をんな)の涼(すず)しい円(まる)い目(め)で
224一目(ひとめ)睨(にら)めば鉄城(てつじやう)も
225ガタガタガタと覆(くつが)へし
226山(やま)も田地(でんぢ)も家倉(いへくら)も
227メチヤ メチヤ メチヤにして了(しま)ふ
228こんな女(をんな)が出(で)て来(き)たら
229バラモン教(けう)のキャプテンも
230酒(さけ)で殺(ころ)した鰌(どぢやう)の様(やう)に
231グニヤ グニヤ グニヤと相好(さうがう)を
232崩(くづ)して腰(こし)を抜(ぬ)かしつつ
233肝腎要(かんじんかなめ)の軍務(ぐんむ)をば
234忘(わす)れて遂(つひ)には免職(めんしよく)の
235悲運(ひうん)に落(お)ちねばならうまい
236思(おも)へば思(おも)へばお気(き)の毒(どく)
237此(この)テクさまも此(この)使命(しめい)
238スツカリ思(おも)ひ切(き)つたぞや
239序(ついで)にスパイの職掌(しよくしやう)も
240返上(へんじやう)致(いた)してバーチルの
241家(いへ)の番頭(ばんとう)となり済(す)まし
242朝(あさ)から晩(ばん)まで甘酒(うまざけ)を
243思(おも)ふがままに飲(の)み倒(たふ)し
244短(みじか)い浮世(うきよ)を面白(おもしろ)く
245飲(の)めよ騒(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)や暗(やみ)と
246踊(をど)り狂(くる)ふて暮(くら)しませう
247何(なに)よりかより酒(さけ)の味(あぢ)
248美人(びじん)の如(ごと)きは吾々(われわれ)は
249決(けつ)して物(もの)の数(かず)でない
250あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
251燗(かん)して飲(の)んだ酒(さけ)の味(あぢ)
252冷酒(れいしゆ)鯛汁(たいじう)の吾(わが)身(み)には
253これに勝(まさ)つた楽(たのし)みは
254三千(さんぜん)世界(せかい)にありませぬ
255初稚姫(はつわかひめ)の阿魔女(あまつちよ)さま
256左様(さやう)なら御免(ごめん)を蒙(かうむ)つて
257キャプテン様(さま)に何事(なにごと)も
258笠(かさ)に笠(かさ)をばかけ乍(なが)ら
259悪(わる)く注進(ちうしん)仕(つかまつ)る
260カンナ、ヘールの両人(りやうにん)に
261現(うつつ)をぬかして脂(やに)下(さが)り
262どうしてもこしてもキャプテンの
263側(そば)には死(し)んでも行(ゆ)かないと
264駄々(だだ)をば捏(こ)ねて出(で)て来(こ)ない
265尻太(しぶと)い女(をんな)と詳細(まつぶさ)に
266注進(ちうしん)するが宜(よろ)しいか
267よくよく思案(しあん)するがよい
268もうかうなれば自暴自棄(やけ)酒(ざけ)だ
269さア燗酒(かんざけ)だ燗酒(かんざけ)だ
270そろそろ酔(よひ)が覚(さ)めかけた
271一刻(いつこく)も早(はや)く帰(かへ)つて酒(さけ)を飲(の)もう
272皆(みな)さまお酒(さけ)へ左様(さやう)なら』
273と畳(たたみ)障(ざは)りも荒々(あらあら)しく腹立(はらた)ち紛(まぎ)れに四股(しこ)を踏(ふ)みならし、274暗(やみ)に紛(まぎ)れて帰(かへ)り行(ゆ)く。
275(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス】
合言葉「みろく」を入力して下さい→