霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 逆襲(ぎやくしふ)〔一八〇八〕

インフォメーション
著者: 巻: 篇: よみ(新仮名遣い):
章: よみ(新仮名遣い): 通し章番号:
口述日: 口述場所: 筆録者: 校正日: 校正場所: 初版発行日:
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: 文字数: OBC :rm64b02
愛善世界社版: 八幡書店版: 修補版: 校定版: 普及版: 初版: ページ備考:
001 ブラバーサは僧院(そうゐん)ホテルの祝祭(しゆくさい)は無事(ぶじ)に済(す)んだが、002同(おな)じ日出島(ひのでじま)から出(で)て来(き)たお寅(とら)や守宮別(やもりわけ)が、003乱暴(らんばう)極(きは)まるアラブに掻攫(かつさら)はれ行衛(ゆくゑ)不明(ふめい)となつたので、004「人情(にんじやう)上(じやう)、005捨(す)ておく訳(わけ)にも行(ゆ)くまい。006あく迄(まで)彼(かれ)を探(さが)し出(だ)し救(たす)けねばなるまい」とマリヤと相談(さうだん)の上(うへ)、007十二(じふに)日(にち)の月光(げつくわう)を浴(あ)び乍(なが)ら、008夜(よ)の十二(じふに)時(じ)頃(ごろ)からエルサレムの町(まち)をうろつき初(はじ)めた。
009 市街(しがい)の十字路(じふじろ)、010キラキラと瓦斯灯(がすとう)のきらめく側(そば)に皺苦茶(しわくちや)の婆(ばば)が立(た)つて、
011お花『三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、012日出(ひので)の神(かみ)の生宮(いきみや)の所在(ありか)は何処(いづこ)ぞ、013亡(ほろ)びむとするエルサレムの民(たみ)よ、014早(はや)く目(め)を覚(さ)ませ。015天来(てんらい)の救世主(きうせいしゆ)の在処(ありか)を求(もと)めよ』
016と叫(さけ)んでゐる。017神都(しんと)の雑音(ざつおん)は愈(いよいよ)ふくれ広(ひろ)まつた。018荒々(あらあら)しい獣(けだもの)のやうに行人(かうじん)の目先(めさき)を掠(かす)めて、019夜分(やぶん)とは云(い)ひ乍(なが)ら左右(さいう)に黄色(きいろ)い砂塵(さぢん)に包(つつ)まれた電車(でんしや)や、020プーと不愉快(ふゆくわい)な警笛(けいてき)をならし、021最後屁(さいごへ)を放(ひ)り乍(なが)ら自動車(じどうしや)が入(い)り乱(みだ)れて走(はし)り交(ちが)ふ。022どうしたものかエルサレムの市中(しちう)は俄(にはか)に電燈(でんとう)が消(き)えて、023闇(やみ)の凝(かたまり)が天(てん)から落(お)ちて来(き)た。024ブラバーサもマリヤも街路(がいろ)に佇立(ちよりつ)し、025一心(いつしん)不乱(ふらん)に祈(いの)り初(はじ)めた。
026 電車(でんしや)も自動車(じどうしや)も馬車(ばしや)も一(いち)時(じ)に運転(うんてん)を中止(ちゆうし)し、027水(みづ)を打(う)つたる如(ごと)く俄(にはか)に静寂(せいじやく)となつた。028パツと一(いち)時(じ)に電燈(でんとう)がついた。029家々(いへいへ)の店(みせ)の大飾(おほかざ)り窓(まど)に火(ひ)がつくと、030ここに佇(たたず)んでゐた二人(ふたり)は俄(にはか)に見分(みわ)けのつかなかつた黒暗(くらやみ)の凝(かたまり)にとけて、031その面相(めんさう)が判然(はんぜん)として来(き)た。032よくよく見(み)れば一人(ひとり)の婆(ば)アさまはあやめのお花(はな)であつた。033お花(はな)は俯向(うつむ)いてシクシクと泣(な)いてゐる。034ブラバーサはツカツカと側(そば)により、
035ブラバーサ『ヤア、036貴女(あなた)はお花(はな)さまぢやありませぬか。037お寅(とら)さまは、038どこに行(ゆ)かれたか御存(ごぞん)じではありませぬか』
039お花『ハイ、040所在(ありか)が分(わか)るやうな事(こと)なら、041コンナ処(ところ)に誰(たれ)が阿呆(あはう)らしい、042立(た)つて居(を)りますか』
043ブラバーサ『大変(たいへん)な御(ご)立腹(りつぷく)ですな。044実(じつ)は私(わたくし)もマリヤさまと相談(さうだん)して、045同(おな)じ日出島(ひのでじま)の同胞(どうはう)でもあり、046打(うつ)ちやつておく訳(わけ)にも行(ゆ)かぬからウロウロと尋(たづ)ねて居(ゐ)るのですよ』
047お花『それはどうも御(ご)親切(しんせつ)ありがとう』
048と腮(あご)をつき出(だ)す、049その面憎(つらにく)さ。050電燈(でんとう)の火(ひ)に二(ふた)つの目(め)が異様(いやう)にぎらついて居(ゐ)る。
051マリヤ『誠(まこと)に思(おも)はぬ御(ご)災難(さいなん)で厶(ござ)いまして、052あのトンク、053テク、054ツーロと云(い)ふ奴(やつ)、055実(じつ)に仕方(しかた)のない、056アラブですよ。057妾(わたし)がいつぞや橄欖山(かんらんざん)に行(ゆ)きました際(さい)、058危(あぶ)なく手込(てご)めにしようとするのを、059このブラバーサさまに救(たす)けられたのですよ。060実(じつ)に険呑(けんのん)な人物(じんぶつ)ですから油断(ゆだん)はなりませぬワ』
061お花『ハイ、062御(ご)親切(しんせつ)に有難(ありがた)う。063その又(また)悪(わる)い奴(やつ)をお使(つか)ひ遊(あそ)ばす、064貴方(あなた)等(がた)の御(お)腕前(うでまへ)、065感(かん)じ入(い)りました。066ようマア企(たく)みたものですわい、067ウフヽヽヽ』
068と又(また)もや腮(あご)を二三寸(にさんずん)つき出(だ)して見(み)せる。
069ブラバーサ『お花(はな)さま、070貴女(あなた)は、071吾々(われわれ)に何(なに)か疑(うたがひ)をかけてゐらつしやるやうですが、072吾々(われわれ)は迷惑(めいわく)に存(ぞん)じます。073この通(とほ)り電車(でんしや)や自動車(じどうしや)の往来(わうらい)が多(おほ)いので険呑(けんのん)でもあり、074通行係(つうかうがかり)がやつて来(き)てゴタゴタ云(い)はれるのもつまりませぬし、075何処(どこ)かの座敷(ざしき)でも借(か)つてトツクリと御(ご)相談(さうだん)でもしませうか』
076 お花(はな)はブラバーサがアラブを予(あらかじ)め頼(たの)んでおいて、077お寅(とら)をさらへさしたに違(ちが)ひない、078何(いづ)れこの二人(ふたり)をとつちめて白状(はくじやう)させた方(はう)が近道(ちかみち)だと思(おも)つたか、079俄(にはか)に顔色(かほいろ)を和(やは)らげ、
080お花『ハイ、081さう願(ねが)へば結構(けつこう)で厶(ござ)いますな。082何(なん)と云(い)つても、083きつてもきれぬ同胞(どうはう)ですから、084海洋(かいやう)万里(ばんり)を渡(わた)つて異境(いきやう)の空(そら)に神(かみ)様(さま)のために働(はたら)いてゐるものですから、085かやうな時(とき)は常(つね)は常(つね)として、086親切(しんせつ)を尽(つく)すのが神(かみ)様(さま)に対(たい)して孝行(かうかう)と云(い)ふもの、087つきましては、088私(わたし)が常日頃(つねひごろ)心安(こころやす)くしてゐる茶屋(ちやや)がありますから、089それへ参(まゐ)りませう。090さア私(わたし)について来(き)て下(くだ)さいませ』
091と早(はや)くも南(みなみ)の方(はう)を指(さ)して二三丁(にさんちやう)許(ばか)り細(ほそ)い路地(ろぢ)を潜(くぐ)つてトルコ亭(てい)と云(い)ふ茶屋(ちやや)の裏座敷(うらざしき)へ案内(あんない)した。092ブラバーサとマリヤは黙(だま)つてお花(はな)の後(あと)について行(ゆ)くと、093ここはお寅(とら)が宣伝(せんでん)の巣窟(さうくつ)と見(み)えて大(おほ)きな看板(かんばん)がかかつてゐる。
094『三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、095大弥勒(おほみろく)の生宮(いきみや)、096日出(ひのでの)神(かみ)の御(ご)霊城(れいじやう)』
097と筆太(ふでぶと)に掲(かか)げてある。098さうして神殿(しんでん)には日(ひ)の丸(まる)の掛軸(かけじく)が只(ただ)一(ひと)つブラ下(さげ)てある。
099ブラバーサ『ヤアこれはこれは大弥勒(おほみろく)様(さま)の御(ご)霊城(れいじやう)で厶(ござ)いますか。100私(わたし)も永(なが)らくエルサレムに居(を)りますが、101こんな霊城(れいじやう)が出来(でき)て居(ゐ)ると云(い)ふ事(こと)は今日(けふ)初(はじ)めて覚(さと)りました』
102お花『ホヽヽヽヽ、103貴方(あなた)も比較(ひかく)的(てき)ウツカリしてゐられますね。104ポーランド人(じん)、105トルコ人(じん)、106ユダヤ人(じん)等(など)が日々(にちにち)沢山(たくさん)に大弥勒(おほみろく)さまの教(をしへ)を聞(き)きに参(まゐ)りますよ。107貴方(あなた)は一体(いつたい)信者(しんじや)が幾人(いくにん)許(ばか)り出来(でき)ましたか、108到底(たうてい)大弥勒(おほみろく)さまには叶(かな)ひますまいがな』
109ブラバーサ『ナル程(ほど)私(わたし)如(ごと)きは到底(たうてい)お側(そば)へも寄(よ)れませぬ。110然(しか)し乍(なが)らあまり、111さうエルサレムの町(まち)では評判(ひやうばん)になつてゐないやうですが』
112お花『そらさうでせうとも、113……灯台下(とうだいもと)は真暗(まつくら)がり。114遠国(ゑんごく)から分(わか)つて来(く)る……と神(かみ)様(さま)が仰有(おつしや)つたでせう。115遠(とほ)く海(うみ)を隔(へだ)て、116エジプト、117フランス、118トルコ、119伊太利(イタリー)等(とう)から日々(にちにち)数珠(じゆず)つなぎに昼(ひる)は参拝者(さんぱいしや)が厶(ござ)いますよ。120何(なん)と云(い)つても大弥勒(おほみろく)さまの御(おん)名(な)は世界(せかい)に響(ひび)いて居(を)りますからな』
121ブラバーサ『ヘー、122そりや感心(かんしん)だ。123水(みづ)清(きよ)うして魚(うを)すまずとか云(い)つて、124ヤツパリ濁(にご)つて居(を)らねばいかぬのかいな。125私(わたし)も一(ひと)つ方針(はうしん)をかへようかな。126今迄(いままで)の私(わたし)の方針(やりかた)はあまり清(きよ)らかで効果(かうくわ)が却(かへつ)てうすいのだらう、127なあマリヤさま』
128マリヤ『さうで厶(ござ)いますな。129あまり清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)な誠(まこと)許(ばか)りをお説(と)きになるものだから、130魚鱗(うろくづ)が寄(よ)つて来(こ)ないのでせう、131貴方(あなた)も之(これ)から少(すこ)し許(ばか)り方針(はうしん)をお変(か)へなさるが宜(よろ)しいでせう。132アメリカンコロニーでも、133あまり教(をしへ)が清(きよ)いものだから、134却(かへつ)て発展(はつてん)して居(を)りませぬわ。135四十(しじふ)年(ねん)もかかつてまだ百(ひやく)人(にん)位(ぐらゐ)ほか出来(でき)ないのですからな』
136お花『マアマアおかけなさいませ、137立話(たちばなし)は足(あし)がしびれます』
138と籐(とう)の椅子(いす)をあてがい、139丸(まる)い机(つくゑ)を真中(まんなか)において三(さん)人(にん)は鼎座(ていざ)となつた。140お花(はな)は二人(ふたり)に茶(ちや)を汲(く)み乍(なが)ら、
141お花『今(いま)ブラバーサさまの仰有(おつしや)る事(こと)を聞(き)けば、142濁(にご)つて居(ゐ)るから人(ひと)が寄(よ)ると仰有(おつしや)つたが、143日出(ひのでの)神(かみ)のお寅(とら)さまは、144清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)ですよ。145水晶(すいしやう)身魂(みたま)ですから、146何処(どこ)から何処(どこ)迄(まで)澄(す)んで居(を)りますよ。147世(よ)の中(なか)が濁(にご)つてゐるから清(きよ)めに来(こ)られたのですよ。148貴方(あなた)も、149ソレ橄欖山(かんらんさん)上(じやう)でマリヤさまと云々(うんぬん)されるやうな事(こと)で、150どうして神業(しんげふ)が発展(はつてん)しますか。151よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさいよ、152国許(くにもと)には奥(おく)さまや娘(むすめ)さまもあるぢやありませぬか。153その奥(おく)さまや娘(むすめ)さまは朝晩(あさばん)水(みづ)をかぶつて無事(ぶじ)に神業(しんげふ)をつとめて過失(あやまち)のないやうにと祈(いの)つてゐるのに、154処(ところ)もあらうに橄欖山(かんらんざん)で天消(てんせう)地滅(ちめつ)の乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎを遊(あそ)ばすのだから、155イヤモウ、156その凄(すご)い腕前(うでまへ)には、157いかな守宮別(やもりわけ)さまだつて舌(した)をまいてゐられますわい。158オホヽヽヽ、159イヤ之(これ)は失礼(しつれい)、160どうかお気(き)にさへて下(くだ)さいますなや』
161マリヤ『お花(はな)さま、162人(ひと)の事(こと)を云(い)はうと思(おも)へば、163吾(わが)頭(あたま)の蜂(はち)から払(はら)うてかからねばなりますまい。164お寅(とら)さまだつて国(くに)には大将軍(だいしやうぐん)と云(い)ふ立派(りつぱ)な立派(りつぱ)な夫(をつと)があり、165お子(こ)達(たち)も沢山(たくさん)あるぢやありませぬか。166それに何(なん)ぞや守宮別(やもりわけ)さまとエルサレム三界(さんがい)迄(まで)手(て)に手(て)をとつてお越(こ)しになり、167人(ひと)の目(め)がだるいやうな事(こと)迄(まで)チヨイチヨイなさいますではありませぬか。168この事(こと)はエルサレムで誰一人(たれひとり)知(し)らぬものは厶(ござ)いませぬよ』
169お花『ホヽヽヽヽ、170神界(しんかい)の分(わか)らぬ人(ひと)はそれだから困(こま)ると云(い)ふのだ。171お寅(とら)さまと守宮別(やもりわけ)さまは切(き)るに切(き)られぬ神界(しんかい)の御(ご)因縁(いんねん)があつて、172ああしてゐられるのですよ。173俗人(ぞくじん)の身(み)として、174どうして深遠(しんゑん)微妙(びめう)なる神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)が分(わか)りますか。175アレとコレとはてんで根本(こんぽん)の問題(もんだい)が違(ちが)つてゐますよ。176その理由(りいう)は、177到底(たうてい)一朝(いつてう)一夕(いつせき)にはお前(まへ)さまの腹(はら)には入(い)りますまいが、178せめて三(さん)週間(しうかん)なりと、179弁当持(べんたうもち)でお通(かよ)ひなさい。180先(ま)づ此(この)問題(もんだい)から解決(かいけつ)せねば貴方(あなた)等(がた)の得心(とくしん)が行(ゆ)きますまい。181その代(かは)りこの因縁(いんねん)が分(わか)つたら、182いかなる鬼(おに)大蛇(をろち)でも、183改心(かいしん)してアフンとして開(あ)いた口(くち)がすぼまりませぬぞよ、184ビツクリして暈(めまい)の来(く)る大問題(だいもんだい)ですよ。185それはそれは深(ふか)い深(ふか)い広(ひろ)い、186先(さき)の分(わか)らぬ三千(さんぜん)世界(せかい)のお経綸(しぐみ)ですもの』
187と得意気(とくいげ)に云(い)ふ。
188ブラバーサ『それは又(また)ユツクリ承(うけたま)はる事(こと)としまして、189ブラバーサとしては焦眉(せうび)の問題(もんだい)としてお寅(とら)さまの所在(ありか)を探(さが)さねばなりますまい。190お花(はな)さま、191何(なに)か心当(こころあた)りが厶(ござ)いませうかな』
192お花『ヘンよう仰有(おつしや)いますわい。193それは私(わたし)の方(はう)からお尋(たづ)ねしたいと思(おも)つてゐましたよ。194同(おな)じ日出島(ひのでじま)の同胞(どうはう)ぢやありませぬか、195そんな腹(はら)の悪(わる)い白々(しらじら)しい、196トボケ面(づら)せずに、197アアした、198コウしたとアツサリ仰有(おつしや)つたらどうですか、199あまり罪(つみ)が深(ふか)う厶(ござ)いますよ』
200ブラバーサ『之(これ)は近頃(ちかごろ)迷惑(めいわく)千万(せんばん)、201貴女(あなた)のお口(くち)からかやうなお言葉(ことば)を聞(き)かうとは夢想(むさう)だに致(いた)しませぬでした』
202お花『私(わたし)もアヤメのお花(はな)と云(い)つて難波(なには)の里(さと)に於(おい)ては海千(うみせん)山千(やません)河千(かはせん)と云(い)はれた女(をんな)弁護士(べんごし)ですよ。203チヤンと顔色(かほいろ)を一目(ひとめ)見(み)たら、204お前(まへ)さまの腹(はら)の中(なか)が皆(みな)分(わか)るのだから、205サア、206キツパリと白状(はくじやう)しなさい。207お寅(とら)さまが演説(えんぜつ)の邪魔(じやま)したら、208かつさらへて、209どつかへつれて行(い)つてくれと金(かね)の百(ひやく)両(りやう)もアラブに与(あた)へて置(お)いて生捕(いけど)つたのでせう。210そんな事(こと)ア、211チヤンとこのお花(はな)の天眼通(てんがんつう)に映(えい)じて居(を)りますわいな』
212 マリヤは息(いき)をはずませ乍(なが)ら、
213マリヤ『お花(はな)さま、214そら、215あまりぢや厶(ござ)いませぬか。216聖師(せいし)さまは、217そんな腹(はら)の悪(わる)い方(かた)ぢやありませぬよ』
218お花『おだまりなさい。219好(す)きな男(をとこ)の御(ご)贔屓(ひいき)をなさつても私(わたし)の前(まへ)では通用(つうよう)しませぬよ。220二人(ふたり)がコツソリと心(こころ)を合(あは)し、221大(だい)それた大陰謀(だいいんぼう)を企(たく)らみ乍(なが)ら、222知(し)らぬ顔(かほ)の半兵衛(はんべゑ)で私(わたし)の処(ところ)で狐(きつね)の七化(ななば)け、223狸(たぬき)の八化式(やばけしき)に親切(しんせつ)ごかしに人(ひと)の腹(はら)を探(さぐ)らうとヤツて来(き)ても、224尻尾(しつぽ)が直(すぐ)に見(み)えますから駄目(だめ)ですよ。225あのマア迷惑(めいわく)さうな顔(かほ)わいのう』
226ブラバーサ『マリヤさま、227もう帰(かへ)りませう。228到底(たうてい)このお花(はな)さまには、229話(はなし)が出来(でき)ませぬわい』
230お花『コリヤコリヤ、231マリヤ、232ブランコ両人(りやうにん)、233尻(しり)こそばゆくなつて逃(に)げ出(だ)すつもりか知(し)らぬが、234さうはさせませぬぞや。235チヤンと警察署(けいさつしよ)へ届(とど)けておいたから、236待(ま)つて下(くだ)さい。237今(いま)に高等係(かうとうがかり)がやつて来(き)て、238お前(まへ)を拘引(こういん)するだらう。239さうすりや否(いや)でも応(おう)でも白状(はくじやう)せねばなりますまい。240そんな処(ところ)で恥(はぢ)をかくよりも、241ソツとアツサリ私(わたし)の前(まへ)で白状(はくじやう)しなさい。242さうすりや警察(けいさつ)へは私(わたし)の方(はう)から間違(まちが)ひだつたと、243願(ねが)ひ下(さ)げをしてやるから、244どうせ嫌疑(けんぎ)のかかつたお前(まへ)さまだから、245逃(のが)れつこはありませぬよ。246フツフヽヽヽヽ。247身(み)から出(で)た錆(さび)、248己(おの)が刀(かたな)で己(おの)が首(くび)、249自縄(じじよう)自縛(じばく)とはお前(まへ)さま等(たち)の今日(けふ)の場合(ばあひ)だ。250ようマアそんな心(こころ)になれたものだと思(おも)へば可愛相(かはいさう)になつて来(き)たわいのう、251オーンオーンオーン』
252と泣(な)き真似(まね)し乍(なが)ら、253ソツと目(め)に唾(つばき)をつける。254その、255狡猾(ずる)さ。256酢(す)でも、257蒟蒻(こんにやく)でも挺(てこ)にも棒(ぼう)にも大砲(たいはう)でも行(ゆ)かぬ代物(しろもの)である。258ブラバーサは『此方(こちら)の方(はう)から誣告(ぶこく)を訴(うつた)へる』と云(い)ひ乍(なが)ら、259憤然(ふんぜん)として立上(たちあが)り、260細(ほそ)い路地(ろぢ)を潜(くぐ)つてマリヤと共(とも)に大道(だいだう)をまつしぐらに己(おの)が草庵(さうあん)さして帰(かへ)り行(ゆ)く。
261(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良海岸 北村隆光録)
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