霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 花曇(はなぐもり)〔一八二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第3篇 開花落花 よみ(新仮名遣い):かいからっか
章:第14章 花曇 よみ(新仮名遣い):はなぐもり 通し章番号:1820
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:僧院ホテル あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-05-25 09:43:13 文字数:4670 OBC :rm64b14
愛善世界社版:188頁 八幡書店版:第11輯 565頁 修補版: 校定版:191頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 お花(はな)はヤクと共(とも)に、002次(つぎ)の間(ま)に端坐(たんざ)し乍(なが)ら、003守宮別(やもりわけ)の帰館(きくわん)を、004今(いま)やおそしと待(ま)ち構(かま)へ居(ゐ)たり。
005お花『これ、006ヤクさまエ、007旦那(だんな)さまは宗教(しうけう)独立(どくりつ)運動(うんどう)に行(ゆ)くと云(い)つて、008ここを出(で)られたきり、009今日(けふ)で三日目(みつかめ)になるのに、010まだお姿(すがた)が見(み)えないのは、011チト怪(あや)しいとは思(おも)ひませぬか。012もしやお寅(とら)さまの所(ところ)へでも、013あの金(かね)を握(にぎ)つたのを幸(さいは)ひ、014ズボリ込(こ)みてゐるのぢやなからうかな』
015ヤク『何(なに)おつしやいます。016旦那(だんな)さまに限(かぎ)つて、017ソンナバカなことなさいますか。018あれ程(ほど)お寅(とら)さまに愛憎(あいそ)をつかして、019ゲヂゲヂのやうに云(い)つてゐられましたもの』
020お花『それだつて、021あの旦那(だんな)さまはアーンと欠伸(あくび)をなさつたら険呑(けんのん)だよ。022それを境界線(きやうかいせん)として、023いつも心機(しんき)一転(いつてん)する癖(くせ)があるのだもの。024これから旦那(だんな)さまが外出(ぐわいしゆつ)される時(とき)は、025ヤクお前(まへ)は見(み)えかくれにでも、026ついて行(い)つて貰(もら)はねばならないよ』
027ヤク『それまで夫婦間(ふうふかん)で疑(うたが)つちや駄目(だめ)ですよ。028夫(をつと)は妻(つま)を信(しん)じ妻(つま)は夫(をつと)を信(しん)じなくちや本当(ほんたう)の夫婦(ふうふ)ぢやありませぬよ。029旦那(だんな)さまに限(かぎ)つて、030ソンナバカな事(こと)はなさりやしませぬ。031此(この)ヤクがキツト保証(ほしよう)しておきますわ』
032 かく案(あん)じてゐる所(ところ)へ、033ボーイの案内(あんない)につれてエルサレム署(しよ)の警官(けいくわん)が、
034警官『守宮別(やもりわけ)さまは居(ゐ)られますか』
035と尋(たづ)ね来(き)たりぬ。036お花(はな)は警官(けいくわん)の姿(すがた)を見(み)て、
037お花『ハハ守宮別(やもりわけ)の運動(うんどう)によつて教会(けうくわい)の独立(どくりつ)が許可(きよか)になるのだらう。038その報告(はうこく)のため上官庁(じやうくわんちやう)の内命(ないめい)をおびて調査(てうさ)に来(き)たのだな。039こりや此(この)際(さい)十分(じふぶん)高尚(かうしやう)に構(かま)へて居(を)らねばなるまい』
040と思案(しあん)を定(さだ)め、041俄(にはか)にオチヨボ口(ぐち)をし乍(なが)ら、
042お花『妾(わらは)こそはシオンの娘(むすめ)、043木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)命(みこと)の精霊(せいれい)を宿(やど)した大(だい)救世主(きうせいしゆ)、044あやめのお花(はな)が肉宮(にくみや)で厶(ござ)るぞや。045警官(けいくわん)どの、046サアサア調(しら)べて下(くだ)され。047シオンの娘(むすめ)に間違(まちが)ひありませぬぞや。048これ、049ヤク殿(どの)、050守宮別(やもりわけ)が不在(ふざい)だによつて、051そなた代(かは)つて、052警官殿(けいくわんどの)のお相手(あひて)をなさつたが宜(よろ)しからうぞや』
053ヤク『これはこれは警官(けいくわん)様(さま)、054御(ご)苦労(くらう)で厶(ござ)います。055あの、056何(なん)で厶(ござ)いますか。057宗教(しうけう)独立(どくりつ)の許可(きよか)になつたので厶(ござ)いますかな。058小身者(せうしんもの)のヤクも鶴首(かくしゆ)して吉報(きつぱう)を待(ま)つて居(ゐ)ました』
059警官『いや、060左様(さやう)な事(こと)で来(き)たのぢやありませぬ。061実(じつ)は、062一昨日(おととひ)の夕方(ゆふがた)、063停車場(ステイシヨン)街道(かいだう)で此方(こちら)の主人(しゆじん)守宮別(やもりわけ)殿(どの)に出会(であ)ひ、064挙動(きよどう)不審(ふしん)と認(みと)めて、065警戒(けいかい)の巡査(じゆんさ)が取調(とりしら)べた所(ところ)、066別(べつ)に怪(あや)しき方(かた)でないと判明(はんめい)し、067直(ただち)に放免(はうめん)しました。068その後(あと)で、069大枚(たいまい)三千(さんぜん)円(ゑん)入(い)りの蟇口(がまぐち)が落(お)ちてゐるので、070本署(ほんしよ)へ届(とど)けて来(き)ました。071署長(しよちやう)と立会(たちあ)ひの上(うへ)調(しら)べて見(み)ると、072僧院(そうゐん)ホテル第一号(だいいちがう)、073二号(にがう)、074三号室(さんがうしつ)、075守宮別(やもりわけ)と書(か)いた名刺(めいし)が這入(はい)つてゐましたので、076篤(とく)と調(しら)べた上(うへ)お返(かへ)しに参(まゐ)りました。077どうか此(この)帳面(ちやうめん)に印(いん)をおして下(くだ)さい。078受取書(うけとりしよ)は、079ここに書(か)いて来(き)ましたから』
080 神(かみ)さまを装(よそほ)つてゐたお花(はな)は、081此(この)事(こと)を聞(き)いて俄(にはか)に神(かみ)様(さま)の形態(ぎやうてい)をくづして了(しま)ひ、082ツカツカと警官(けいくわん)の傍(そば)により、
083お花『これはこれは警官(けいくわん)さま、084よう、085マアおいで下(くだ)さいました。086守宮別(やもりわけ)さまとした事(こと)が、087大枚(たいまい)三千(さんぜん)円(ゑん)の金(かね)を落(おと)し、088言訳(いひわけ)がないと思(おも)つて、089どツかへ逐電(ちくでん)なさつたのだらう。090何(なん)と云(い)つても気(き)の良(よ)い人(ひと)だからな。091イヤ確(たしか)に受取(うけとり)ました。092どうぞ署長(しよちやう)さまに宜(よろ)しくお伝(つた)へ下(くだ)さい。093これ、094ヤク、095門口(かどぐち)までお見送(みおく)りせぬかいな』
096 警官(けいくわん)は受取書(うけとりしよ)に印(いん)を貰(もら)ひ、097ヤクの見送(みおく)りを拒絶(きよぜつ)し乍(なが)ら足早(あしばや)に帰(かへ)り行(ゆ)く。
098 お花(はな)はヤクをつかまへて積(つ)んだり、099くづしたり、100守宮別(やもりわけ)の身(み)の上(うへ)を案(あん)じてゐると、101そこへ守宮別(やもりわけ)はブラリブラリと帰(かへ)つて来(き)た。102流石(さすが)のお花(はな)も守宮別(やもりわけ)の姿(すがた)を見(み)て、103『どうも白粉(おしろひ)臭(くさ)ひ香(にほひ)がしてゐる、104此奴(こいつ)は腹(はら)を探(さぐ)つて見(み)ねばなるまい』と早(はや)くも覚悟(かくご)を極(き)めた。
105守宮別『女房(にようばう)、106今(いま)帰(かへ)つたぞや。107アーア、108酒(さけ)を一本(いつぽん)つけて呉(く)れないか』
109お花『これはこれはよう帰(かへ)つて下(くだ)さつた、110大変(たいへん)に暇(ひま)が入(い)りましたな。111私(わたし)心配(しんぱい)してゐましたよ。112そして、113タゴール博士(はかせ)の方(はう)は、114どうなりましたか、115早(はや)く吉報(きつぱう)を聞(き)かして下(くだ)さいませな』
116守宮別『ウン、117大変(たいへん)好都合(かうつがふ)だつたよ、118あの三千(さんぜん)円(ゑん)の金(かね)は、119随分(ずゐぶん)働(はたら)いたものだ。120何(なん)と云(い)つても世界一(せかいいち)の、121シオン大学(だいがく)の教授(けうじゆ)を五(ご)人(にん)迄(まで)動(うご)かし、122愈(いよいよ)独立(どくりつ)運動(うんどう)の許可(きよか)が下(さが)る処(ところ)迄(まで)漕(こ)ぎつけて来(き)たのだから、123マアお花(はな)、124喜(よろこ)びてくれ』
125お花『これ守宮別(やもりわけ)さま、126女(をんな)たらしの後家倒(ごけたふ)しさま、127一体(いつたい)お前(まへ)は、128どこへ行(い)つてゐたのだい』
129守宮別『どこへ行(い)つたつて?大臣(だいじん)や博士(はかせ)の官宅(くわんたく)を歴訪(れきはう)して居(を)つたのだ。130三千(さんぜん)円(ゑん)位(ぐらゐ)費(つか)つたつて安(やす)いものだらう、131目的(もくてき)さへ達成(たつせい)したらいいのだから』
132お花『ヘン、133嘘(うそ)ばつかり云(い)つたつて、134ソンナ事(こと)に騙(だま)されるお花(はな)ぢやありませぬよ。135貴方(あなた)の頬辺(ほほべた)に白粉(おしろい)がついてるぢやありませぬか。136その白粉(おしろい)はどうしてつけたのですかい。137サアその因縁(いんねん)を聞(き)かして下(くだ)さいな。138私(わたし)も考(かんが)へが厶(ござ)いますから』
139守宮別『アーア、140おしろいへ気(き)をつけたり、141前(まへ)へ気(き)を付(つ)けたりして舎身(しやしん)活躍(くわつやく)をやつて、142今(いま)塗(ぬ)り立(た)ての大学(だいがく)の白壁(しろかべ)にブツつかつたものだから、143白(しろ)くついたのだよ。144お前(まへ)も罰(ばち)があたるぞや。145コンナ夫(をつと)を持(も)ち乍(なが)ら何(なに)をゴテゴテ云(い)ふのだい』
146お花『白壁(しろかべ)の香(にほひ)と、147白粉(おしろひ)の香(にほひ)と、148嗅分(かぎわ)けぬやうなお花(はな)ぢや厶(ござ)いませぬよ。149ソンナゴマかしは、150お寅(とら)さまには利(き)くかは知(し)れませぬが、151此(この)お花(はな)には駄目(だめ)ですよ。152サア、153キツパリ白状(はくじやう)しなさい』
154守宮別『これは御(ご)明察(めいさつ)恐(おそ)れ入(い)りました。155実(じつ)は、156博士(はかせ)や大臣(だいじん)をある料亭(れうてい)へ招待(せうたい)し、157目的(もくてき)貫徹(くわんてつ)の為(ため)、158心(こころ)にもない白首(しらくび)を招(よ)んでな、159杯盤(はいばん)の間(あひだ)を斡旋(あつせん)させたのだよ。160そしたら、161そそつかしいキーチャンの奴(やつ)、162大臣(だいじん)と俺(おれ)と間違(まちが)へて俺(おれ)の頬辺(ほほべた)に吸(す)ひつきよつたのだ。163大方(おほかた)、164その時(とき)、165ついたのだらう』
166お花『何(なに)、167キーチャンが頬辺(ほほべた)に吸(す)いついたと?』
168と早(はや)くもお花(はな)の顔(かほ)には低気圧(ていきあつ)が襲来(しふらい)したり。
169お花『これ、170守宮別(やもりわけ)さま、171旦那(だんな)さまと云(い)ひたいが、172今日(けふ)限(かぎ)り改(あらた)めますよ。173その積(つも)りでゐて下(くだ)さいよ。174色情(いろ)の道(みち)にかけては、175オーソリチーの私(わたし)をバカにしようと思(おも)つても、176その手(て)は喰(く)ひませぬぞや。177大方(おほかた)どつかのスベタ女(をんな)と、178くつついて来(き)たのでせう。179これは一体(いつたい)何(なん)ですか』
180と三千(さんぜん)円(ゑん)の蟇口(がまぐち)を守宮別(やもりわけ)の前(まへ)に投(な)げ出(だ)して見(み)せる。
181守宮別『お花(はな)、182これや俺(おれ)の紙入(かみいれ)ぢやないか』
183お花『さうでせうとも、184中(なか)をあけて御覧(ごらん)なさい。185手(て)のきれるやうな、186百円札(ひやくゑんさつ)が三十(さんじふ)枚(まい)目(め)をむいて居(を)りますよ。187ヨウマア大臣(だいじん)や博士(はかせ)を招待(せうたい)したなぞと、188ソンナ嘘(うそ)が言(い)へたものですな。189ツヒ、190先刻(さつき)、191警察(けいさつ)から届(とど)けて来(き)てくれたのですよ、192お前(まへ)さま、193街路(がいろ)警戒(けいかい)の警官(けいくわん)につかまへられて身体(しんたい)検査(けんさ)までやられたぢやありませぬか、194これでも抗弁(かうべん)なさいますか、195これ守宮別(やもりわけ)さま、196お花(はな)の躰(からだ)にや息(いき)が通(かよ)つてゐますよ。197決(けつ)して人形(にんぎやう)ぢやありませぬからね。198お前(まへ)さまの玩弄(おもちや)になつて堪(た)まりますかい。199ヘン阿呆(あはう)らしい、200あまりの事(こと)で、201アフンが宙(ちう)に迷(まよ)ひますわ』
202守宮別『何(なに)、203お花(はな)、204確(たしか)に三千(さんぜん)円(ゑん)運動費(うんどうひ)に使(つか)つたのだ。205俺(おれ)がな子母仙(しぼせん)と云(い)つて仙人(せんにん)の使(つか)ふ法(はふ)を知(し)つてゐるのだよ。206此(この)三千(さんぜん)円(ゑん)に一寸(ちよつと)魔法(まはふ)をかけて使(つか)つたのだから、207もとの蟇口(がまぐち)を恋(こひ)しがつて、208帰(かへ)つて来(き)たのだよ。209床(ゆか)の下(した)に不思議(ふしぎ)な虫(むし)が親子(おやこ)棲(す)んでゐたのだ。210その親子(おやこ)の虫(むし)をな、211俺(おれ)が捕獲(ほくわく)して、212三十(さんじふ)枚(まい)の百円札(ひやくゑんさつ)には子(こ)の血(ち)を塗(ぬ)り、213蟇口(がまぐち)には親血(おやち)をぬつておいたのだ。214それだから、215子(こ)の血(ち)がついてゐる百円札(ひやくゑんさつ)には、216子(こ)の霊(れい)がかかつてゐるだらう。217それだから親(おや)の血(ち)や魂(たま)のかかつた蟇口(がまぐち)を慕(した)うて帰(かへ)つて来(き)たのだ、218つまり三千(さんぜん)円(ゑん)のお金(かね)を三千(さんぜん)円(ゑん)使(つか)つて、219あとに三千(さんぜん)円(ゑん)残(のこ)つてゐるのだから、220コンナ結構(けつこう)な仙術(せんじゆつ)はあるまい』
221お花『どこの床(ゆか)の下(した)に、222ソンナ虫(むし)が居(ゐ)たのですか』
223守宮別『ソンナ事(こと)ア秘密(ひみつ)だ。224子母虫(しぼちう)が、225……どうぞ貴方(あなた)限(かぎ)り、226秘密(ひみつ)にして下(くだ)さい……、227と願(ねが)ひよつたからの。228この秘密(ひみつ)を明(あ)かすと、229これからの仙術(せんじゆつ)が利(き)かないから、230発表(はつぺう)を見合(みあは)せておかう。231又(また)三千(さんぜん)円(ゑん)もうけねばならぬからのう』
232 お花(はな)は腮(あご)をつき出(だ)し乍(なが)ら、
233お花『子供(こども)か、234何(なん)ぞのやうに、235ソンナ嘘(うそ)は喰(く)ひませぬよ。236それが本当(ほんたう)なら、237蟇口(がまぐち)はお前(まへ)さまの懐中(ふところ)にありさうなものだのに、238それが警察(けいさつ)にあるとは不思議(ふしぎ)ぢやありませぬか』
239守宮別『きまつた事(こと)よ。240三千(さんぜん)円(ゑん)の運動費(うんどうひ)を使(つか)つた後(あと)、241俺(おれ)の懐(ふところ)にある母虫(ぼちう)の霊(れい)が呼(よ)んだので、242仔虫(しちう)の霊(れい)のかかつた金(かね)が、243帰(かへ)つて来(き)たのだ。244それをお前(まへ)、245警官(けいくわん)に真裸(まつぱだか)になつて身体(しんたい)検査(けんさ)をされた時(とき)、246ツヒ落(おと)して了(しま)ひ、247警官(けいくわん)に拾(ひろ)はれたのだ』
248お花『そのお金(かね)は、249いつ落(おと)したのですか』
250守宮別『さうだな、251エー、252昨日(きのふ)、253一昨日(おととひ)と昨夜(ゆふべ)と大臣(だいじん)博士(はかせ)を招待(せうたい)して費(つか)つて了(しま)ひ、254朝(あさ)になると俺(おれ)の懐中(ふところ)の蟇口(がまぐち)へお金(かね)が帰(かへ)つて来(き)てゐたのだ。255それを落(おと)したのだよ』
256お花『嘘(うそ)許(ばか)り云(い)ひなさるな、257警官(けいくわん)に調(しら)べられたのは、258一昨日(おととひ)の夕方(ゆふがた)ぢやありませぬか。259ここを立出(たちで)て、260ステーション街道(かいだう)の方(はう)へ行(ゆ)きなさつたでせう』
261守宮別『アーア、262もうたまらぬ たまらぬ』
263お花『これこれ守宮別(やもりわけ)さま、264その、265アーアはまだ早(はや)いぢやありませぬか。266本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)つて下(くだ)さい。267何(なん)と云(い)つても、268お金(かね)がここへ帰(かへ)つて来(き)て居(ゐ)るのだから、269少々(せうせう)の欠点(けつてん)位(ぐらゐ)あつたつて、270不足(ふそく)は申(まを)しませぬわ』
271守宮別『ア、272さう追撃(つゐげき)されては落城(らくじやう)せざるを得(え)ないわ。273実(じつ)はブチ明(あ)けて云(い)ふがな、274お花(はな)、275タゴールさまのお宅(たく)を訪(たづ)ねようと思(おも)つてホテルを出(で)たものの何(なん)と云(い)つても、276秘密(ひみつ)運動(うんどう)だから、277お邸(やしき)の方(はう)へ足(あし)を向(む)けては秘密(ひみつ)が曝露(ばくろ)すると思(おも)ひ、278廻(まは)り道(みち)して、279ステーションの方(はう)へ行(い)つた所(ところ)、280警官(けいくわん)に調(しら)べられ、281そこで落(おと)したのだ。282博士(はかせ)に運動(うんどう)したと云(い)つたのは皆(みな)嘘(うそ)だよ。283お前(まへ)に申訳(まをしわけ)ないからヨルダン川(がは)に身(み)を投(な)げようかと思(おも)つたが、284水(みづ)が冷(つめ)たいし、285樹(き)に首(くび)を吊(つ)らうかと思(おも)つて枝振(えだぶり)のよい木(き)を探(さが)したがよい松(まつ)の木(き)が無(な)く、286一層(いつそう)、287鉄道(てつだう)往生(わうじやう)しようかとレールを枕(まくら)に待(ま)つてゐると、288一(いち)里(り)も二(に)里(り)も先(さき)からレールがドンドンと響(ひび)くので、289刻一刻(こくいつこく)、290死(し)に近(ちか)づくと思(おも)へば恐(おそ)ろしくなり、291エー、292死(し)ぬのなら何時(いつ)でも死(し)ねる、293一辺(いつぺん)恋(こひ)しいお前(まへ)の顔(かほ)を見(み)てから死(し)んでやらうと、294このやうに思(おも)つて帰(かへ)つて来(き)たのだ。295これが誠(まこと)の告白(こくはく)だ。296どうか、297さう、298苛(いぢ)めずにおいて呉(く)れよ、299頼(たの)みだからな』
300お花『ア、301さうでしたか、302それ聞(き)いてチツト許(ばか)り安心(あんしん)しました。303も一(ひと)つ合点(がつてん)の行(ゆ)かぬ事(こと)がある、304それを聞(き)かして貰(もら)ひませう』
305守宮別『合点(がつてん)が行(ゆ)かぬ事(こと)とは何(なん)だい』
306お花『お前(まへ)さまの頬辺(ほほべた)についてゐた白粉(おしろい)の因縁(いんねん)から聞(き)かして下(くだ)さいな』
307守宮別『何(なん)と六(む)つかしい事(こと)だな。308ソンナラ詳(つぶ)さに言上(ごんじやう)仕(つか)まつらう。309実(じつ)は、310鉄道(てつだう)往生(わうじやう)しようと思(おも)つて、311レールの上(うへ)をうろついてゐた時(とき)、312機関車(きくわんしや)にはね飛(と)ばされて、313傍(かたはら)の草原(くさはら)に気絶(きぜつ)して居(を)つた時(とき)、314どこの女中(ぢよちう)か知(し)らぬが通(とほ)り合(あは)して、315殆(ほとん)ど冷(ひえ)きつた俺(おれ)の身体(からだ)を肉体(にくたい)で温(ぬく)めて、316一旦(いつたん)甦生(よみがへ)らして下(くだ)さつたのだ。317それが本当(ほんたう)の告白(こくはく)だよ。318アー眠(ね)むたい眠(ね)むたい。319酒(さけ)も碌(ろく)に飲(の)まして貰(もら)へず、320お白洲(しらす)の訊問(じんもん)を受(う)けて居(を)つてもつまらぬわい』
321お花『その命(いのち)を助(たす)けて下(くだ)さつた御(ご)婦人(ふじん)は何(なん)と云(い)ふ名(な)ですか。322お礼(れい)に行(ゆ)かねばなりますまいからな』
323守宮別『ウン、324何(なん)でも、325あや子(こ)とか、326おや子(こ)とか云(い)ふ名(な)だつたよ』
327お花『お処(ところ)は聞(き)いておいたでせうね』
328守宮別『ウン、329処(ところ)か。330処(ところ)が、331その処(ところ)を聞(き)くのをスツクリ忘(わす)れて了(しま)つたのだ』
332ヤク『今(いま)、333旦那(だんな)さまに承(うけたま)はれば、334あや子(こ)とか仰有(おつしや)いましたね。335この広(ひろ)いエルサレムの町(まち)に、336あや子(こ)と云(い)ふ名(な)は、337私(わたし)の娘(むすめ)一人(ひとり)ほかありませぬがな。338何(なん)とマア、339神(かみ)さまの御(ご)因縁(いんねん)で旦那(だんな)さまの命(いのち)を助(たす)けさして頂(いただ)いたのでせう』
340お花『これ、341ヤクさま、342お前(まへ)は一人者(ひとりもの)だと思(おも)つてゐたのに娘(むすめ)があるのかいナ』
343ヤク『ヘーヘー、344お多福娘(たふくむすめ)が、345一人(ひとり)厶(ござ)いますが、346今(いま)では私(わたし)を親(おや)のやうに致(いた)しませぬので、347勘当(かんだう)同様(どうやう)の中(なか)になつて居(を)りますわい』
348守宮別『エーエもう、349いい加減(かげん)に寝(ね)たらどうだい、350ヤクの奴(やつ)、351やかましいわい。
352綾(あや)の高天(たかま)の聖場(せいじやう)で
353 天人(てんにん)天女(てんぢよ)が舞(まひ)を舞(ま)ふ。
354お花(はな)のやうなよい美人(びじん)
355 あや子(こ)も糞(くそ)もあるものか。
356あや子(こ)のあやはあやめのあやよ
357 あやと錦(にしき)の機織虫(はたおりむし)が
358やつて来(き)たのはエルサレム
359 何程(なにほど)世界(せかい)の美人(びじん)でも
360あやの名(な)のつくあやめさま
361 生宮(いきみや)さまには及(およ)ばない
362 ドツコイショ ドツコイショ
363あゝ今日(けふ)は頭(あたま)が痛(いた)いから皆(みな)揃(そろ)ふて寝(ね)たり寝(ね)たり』
364と布団(ふとん)を被(かぶ)つて空鼾(からいびき)をかき、365お花(はな)の形勢(けいせい)如何(いかん)と考(かんが)へてゐる。366お花(はな)は神前(しんぜん)に額(ぬかづ)き、367神籤(みくじ)をとつたり、368卦(け)を立(た)てたりし乍(なが)ら、369その夜(よ)はマンジリともせず、370コケコーの鳴(な)く迄(まで)起(お)きて居(ゐ)た。371アヽ此(この)結果(けつくわ)はどう治(をさ)まるだらうか。372暴風(ばうふう)怒濤(どたう)の襲来(しふらい)か、373地異(ちい)天変(てんぺん)か、374雷(かみなり)ユサユサ地震(ぢしん)ゴロゴロの大椿事(だいちんじ)の突発(とつぱつ)か、375刮目(くわつもく)して次章(じしやう)を待(ま)たれむことを。
376(大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良 北村隆光録)
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