霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 誤霊城(ごれいじやう)〔一八一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第1篇 復活転活 よみ(新仮名遣い):ふっかつてんかつ
章:第4章 誤霊城 よみ(新仮名遣い):ごれいじょう 通し章番号:1810
口述日:1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:御霊城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-04-30 20:55:48 文字数:6047 OBC :rm64b04
愛善世界社版:47頁 八幡書店版:第11輯 513頁 修補版: 校定版:48頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 お花(はな)は只(ただ)一人(ひとり)、002日(ひ)の丸(まる)の掛軸(かけぢく)の前(まへ)に暗祈(あんき)黙祷(もくたう)し乍(なが)ら、003両眼(りやうがん)から雨(あめ)の如(ごと)き涙(なみだ)をたらし、004聖地(せいち)の宣伝(せんでん)も予期(よき)した如(ごと)くに行(ゆ)かず、005未(いま)だに一人(ひとり)の信徒(しんと)も出来(でき)ぬ矢先(やさき)、006お寅(とら)、007守宮別(やもりわけ)の在所(ありか)が分(わか)らなくなつたので、008太(ふと)い吐息(といき)を洩(も)らしてゐると、009そこへ受付(うけつけ)のヤクが慌(あわた)だしく帰(かへ)り来(きた)り、
010ヤク『コレもし、011お花(はな)さま、012お花(はな)さま』
013と何回(なんくわい)も矢継早(やつぎばや)に呼(よ)ばはれ共(ども)、014お花(はな)はキヨロリとヤクの顔(かほ)を見乍(みなが)ら、015素知(そし)らぬ顔(かほ)をしてゐる。
016ヤク『もしお花(はな)さま、017これ丈(だけ)私(わたし)が呼(よ)んでゐるのに、018なぜ返事(へんじ)をして下(くだ)さらぬのですか、019聾(つんぼ)になられたのですか、020余(あま)り苛(ひど)いぢやありませぬか』
021お花『ソンナ人(ひと)は居(ゐ)ないよ』
022とプリンと横(よこ)を向(む)く。
023ヤク『ハヽヽハア、024コリヤ ヤクが悪(わる)かつた。025竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの生宮(いきみや)様(さま)、026あやめの花子(はなこ)殿(どの)、027一寸(ちよつと)こつちやを向(む)いて下(くだ)さい』
028お花『お前(まへ)はヤクかい。029何(なん)の用(よう)だなア』
030とすましてゐる。
031ヤク『何(なん)の用(よう)もかんの用(よう)もありますかいな。032乙姫(おとひめ)さまは日(ひ)の出神(でのかみ)の生宮(いきみや)さまの所在(ありか)が知(し)れないのに、033何(なに)して厶(ござ)るのですか』
034お花『何(なに)もして居(ゐ)ないよ。035おつつけ帰(かへ)つて厶(ござ)るといふ御(ご)神示(しんじ)があつたから、036余(あま)り慌(あわ)てるには及(およ)びませぬワイ。037チトお前(まへ)さまも落(おち)つきなさい。038ここの受付(うけつけ)になつてから、039殆(ほとん)ど一(いち)年(ねん)にも成(な)りますが、040月給(げつきふ)取(と)る許(ばか)りで、041一人(ひとり)の信者(しんじや)も出来(でき)たでなし、042私(わたし)だつて困(こま)るぢやないか、043些(ちつ)と活動(くわつどう)して下(くだ)さいな。044生宮(いきみや)様(さま)が悪者(わるもの)に攫(さら)はれて行(ゆ)かれるのを見(み)て居(を)り乍(なが)ら、045助(たす)けにも行(ゆ)かぬといふやうな、046ヤクザ人足(にんそく)のヤクさまには、047もう竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)も相手(あひて)にはなりませぬワイな』
048ヤク『私(わたし)は此処(ここ)の受付(うけつけ)になつてから、049余(あま)り暇(ひま)なので、050これでは堪(たま)らないと思(おも)ひ、051エルサレムの町中(まちぢう)歩(ある)いて紳士(しんし)紳商(しんしやう)を一々(いちいち)訪問(はうもん)し、052ウラナイ教(けう)の宣伝(せんでん)をやり、053生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)威徳(ゐとく)を盛(さか)んに吹聴(ふいちやう)して居(を)ります。054何(いづ)れも一旦(いつたん)は感心(かんしん)して、055一辺(いつぺん)お話(はなし)が聞(き)きたい、056其(その)上(うへ)で信者(しんじや)になり度(た)いなどと、057異口(いく)同音(どうおん)に私(わたし)の顔(かほ)に免(めん)じて賛成(さんせい)しては下(くだ)さいますが、058何(なに)しろ生宮(いきみや)様(さま)の脱線(だつせん)がひどいので、059何時(いつ)も駄目(だめ)になつて了(しま)ふのですよ。060神(かみ)様(さま)なら神(かみ)様(さま)らしう、061何時(いつ)もチヤンと霊城(れいじやう)に立籠(たてこ)もつて、062声(こゑ)なくして人(ひと)を呼(よ)ぶといふ態度(たいど)をお取(と)りになつて居(を)れば可(い)いのに、063フンゾ喰(くら)ひの、064ドブ酒(ざけ)飲(の)みの守宮別(やもりわけ)を連(つ)れて、065アトラスの様(やう)な面(つら)をして、066徳利(とくり)をブラ下(さ)げた様(やう)な尻(けつ)をして、067市中(しちう)をブラつかれるものだから、068あのスタイルでは、069どうも尊敬(そんけい)の心(こころ)が起(おこ)らない。070そして言(い)ふ事(こと)が徹底(てつてい)してゐないから、071要(えう)するに日(ひ)の出島(でじま)の気違(きちがひ)だらうといふ噂(うはさ)が立(た)つて、072誰(たれ)も聞(き)くものがありませぬ哩(わい)。073毎日(まいにち)日日(ひにち)、074かう受付(うけつけ)にチヨコナンとコマ犬(いぬ)のやうに坐(すわ)つて居(を)つても用(よう)は無(な)し、075ダンジヤコ[※ダンジャコとは、イワシの稚魚を塩水で煮て干した食材。]を並(なら)べた様(やう)な筆先(ふでさき)を写(うつ)さして貰(もら)うて居(を)つても、076余(あま)り有難(ありがた)くはありませぬがな。077お前(まへ)さまも、078ようマア、079あんな生宮(いきみや)さまと一緒(いつしよ)にこんな所(ところ)迄(まで)やつて来(き)て、080能(よ)う嫌(いや)にならぬ事(こと)ですな』
081お花『コレ、082ヤクさま、083お前(まへ)は何(なん)といふ勿体(もつたい)ない事(こと)をいふのだい、084どうも霊(みたま)に因縁(いんねん)のない者(もの)は仕方(しかた)のない者(もの)だなア。085あんな立派(りつぱ)な救世主(きうせいしゆ)が、086お前(まへ)さまも矢張(やつぱ)り世間並(せけんなみ)に悪(わる)く見(み)えるのかいな』
087ヤク『ハイ、088何程(なにほど)贔屓目(ひいきめ)にみても、089普通(あたりまへ)の人間(にんげん)とより見(み)えませぬわ。090第一(だいいち)仰有(おつしや)る事(こと)が筋(すぢ)が立(た)つてゐませぬもの。091教義(けうぎ)が支離(しり)滅裂(めつれつ)で掴(つか)まへ所(どころ)が無(な)くつて、092既成(きせい)宗教(しうけう)の方(はう)が、093どれ丈(だけ)立派(りつぱ)だか知(し)れませぬよ。094私(わたし)も此(この)間(あひだ)からいろいろと就職口(しうしよくぐち)を考(かんが)へて居(を)りましたが、095半気違(はんきちがひ)の生宮(いきみや)さま所(とこ)に居(を)つた者(もの)だからといつて、096だアれも使(つか)つてくれないのです。097それで止(や)むを得(え)ず、098不快(ふくわい)で不快(ふくわい)でたまらないのを、099辛抱(しんばう)して居(ゐ)るのです。100併(しか)し乍(なが)ら、101躓(つまづ)く石(いし)も縁(えん)のはしとやら、102縁(えん)あればこそ生宮(いきみや)様(さま)のお側(そば)で御用(ごよう)が出来(でき)たものだと思(おも)ひ、103昨夜(ゆうべ)も昨夜(ゆうべ)とて、104お寅(とら)さまの危難(きなん)を救(すく)ふべく、105会計(くわいけい)の金(かね)を六十(ろくじふ)円(ゑん)放(ほ)り出(だ)してお寅(とら)さまを助(たす)ける工夫(くふう)をしたのですよ。106其(その)六十(ろくじふ)円(ゑん)の金(かね)が無(な)かつて御(ご)ろうじ、107生宮(いきみや)さまは其(その)場(ば)で袋叩(ふくろだだ)きに会(あ)ひ、108半死(はんし)半生(はんしやう)になつて居(ゐ)られるかも知(し)れませぬよ。109夜前(やぜん)トツクにお帰(かへ)りの筈(はず)だのに、110まだ帰(かへ)つてゐられぬのは、111チツト不思議(ふしぎ)ですなア』
112お花『ヘン、113能(よ)う言(い)へます哩(わい)、114現(げん)に生宮(いきみや)さまがアラブに取(と)つ掴(つか)まへられた時(とき)、115お前(まへ)さまはジツとして見(み)て居(を)つたぢやないか。116そんな嘘(うそ)を云(い)つても、117私(わたし)がチヤンと見(み)て居(を)りますぞや』
118ヤク『乙姫(おとひめ)さま……だつて、119ジツとして見(み)て厶(ござ)つたぢやありませぬか。120神(かみ)様(さま)でさへ手出(てだ)しのできぬ乱暴者(らんばうもの)に、121どうしてヤクが手出(てだ)しが出来(でき)ませうぞ。122其(その)時(とき)の事情(じじやう)をマア聞(き)いて下(くだ)さい。123さうすれば私(わたし)の忠勤振(ちうきんぶり)がチツトは分(わか)るでせう』
124お花『ヘン、125おいて貰(もら)ひませうかい、126現在(げんざい)目(め)の前(まへ)に主人(しゆじん)の危難(きなん)を見乍(みなが)ら、127手(て)も足(あし)も能(よ)う出(だ)さぬクセに、128忠勤振(ちうきんぶる)なぞと鼠(ねづみ)が笑(わら)ひますぞや。129此(この)上(うへ)文句(もんく)があるなら言(い)つて御覧(ごらん)』
130ヤク『あります共(とも)、131真面目(まじめ)に聞(き)いて下(くだ)さい。132今夜(こんや)はキリストの聖日(せいじつ)でもあり、133僧院(そうゐん)ホテルで大(だい)演説会(えんぜつくわい)があり、134生宮(いきみや)さまも大々(だいだい)的(てき)獅子吼(ししく)をなさるといふ事(こと)を聞(き)いて居(を)つたので、135万一(まんいち)を慮(おもんばか)り、136警戒(けいかい)の任(にん)に当(あた)つて居(を)りますと、137生宮(いきみや)様(さま)が衆人(しうじん)環視(くわんし)の前(まへ)で、138ブラバーサさまを罵(ののし)り、139言語(ごんご)道断(どうだん)な事(こと)を仰有(おつしや)るので、140日頃(ひごろ)ブラバーサさまを信頼(しんらい)してゐる信者(しんじや)連(れん)が腹(はら)を立(た)て、141あの気違婆(きちがひばば)をやツつけてやらうかと、142私(わたし)が居(ゐ)るとは知(し)らずに、143コソコソ相談(さうだん)をやつてゐますので、144此奴(こいつ)アたまらぬ、145何(なん)とかして生宮(いきみや)さまを助(たす)け出(だ)さねばなるまいと、146傍(かたはら)を見(み)ればアラブが三(さん)人(にん)居(を)つたので、147ソツと金(かね)をわたし、148一(いち)時(じ)どつかへ生宮(いきみや)を隠(かく)してくれと云(い)つた所(ところ)、149アラブは早速(さつそく)諾(うなづ)いて、150あの通(とほ)りお二人(ふたり)の危急(ききふ)を救(すく)つたのです。151夕(ゆふ)べの騒(さわ)ぎで市中(しちう)は喧(やかま)しい噂(うはさ)が立(た)ち、152警察(けいさつ)の活動(くわつどう)となつて居(ゐ)る相(さう)ですから、153一(いち)時(じ)生宮(いきみや)さまもイキリぬきにどつかへ遊覧(いうらん)に行(い)つてゐられるのでせう。154これでも私(わたし)の忠勤振(ちうきんぶり)が分(わか)りませぬかなア』
155お花『ても偖(さて)も、156何(な)んといふ下手(へた)な事(こと)をするのぢやいな。157何程(なにほど)ブラバーサの信者(しんじや)が手荒(てあら)い事(こと)をせうと思(おも)つても、158生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)神徳(しんとく)には歯節(はぶし)は立(た)ちませぬぞや。159それに猶更(なほさら)、160立派(りつぱ)な警察(けいさつ)もあり、161人目(ひとめ)もあるのだから、162そんな心配(しんぱい)は御(ご)無用(むよう)だ、163お前(まへ)さまは永(なが)らく生宮(いきみや)様(さま)の側(そば)に居(を)つて、164あれ丈(だけ)の御(ご)神徳(しんとく)が分(わか)らないのかな、165ホンに盲(めくら)聾(つんぼ)といふ者(もの)は仕方(しかた)のない者(もの)だなア』
166ヤク『もし、167お花(はな)さま、168イヤ、169ドツコイ、170竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さま、171余(あま)り盲々(めくらめくら)といふて下(くだ)さいますな、172御(ご)神徳(しんとく)の程度(ていど)を知(し)つて居(を)ればこそ、173私(わたし)が案(あん)じて、174ああいふ手段(しゆだん)を取(と)つたのですよ、175乙姫(おとひめ)さまは日(ひ)の出(で)さまの御(ご)神力(しんりき)を買(かひ)かぶつて居(を)りますな』
176お花『かもうて下(くだ)さるな、177お前(まへ)さま等(ら)のやうな子供(こども)に分(わか)つてたまるかな。178大(だい)それた、179大枚(たいまい)六十(ろくじふ)円(ゑん)の金(かね)をアラブにやるなぞと、180誰(たれ)に許可(きよか)を得(え)て支出(ししゆつ)したのだえ。181生宮(いきみや)さまも乙姫(おとひめ)も許(ゆる)した覚(おぼ)えはありませぬぞや。182其(その)金(かね)こちらへ返(かへ)して下(くだ)さい、183返(かへ)すことが出来(でき)にや此(この)月分(つきぶん)と来月分(らいげつぶん)とで勘定(かんぢやう)する。184お前(まへ)さまは受付(うけつけ)だ、185支払(しはら)ひ役(やく)は命(めい)じて無(な)い筈(はず)だ。186委托金(いたくきん)費消罪(ひせうざい)で訴(うつた)へませうか』
187ヤク『二(ふた)つ目(め)には法律(はふりつ)をかへるとか、188警察(けいさつ)もいらぬよにするとか仰有(おつしや)るクセに、189猫(ねこ)がクシヤミしたやうな事(こと)でも警察(けいさつ)へ訴(うつた)へるのですか、190何(なん)とマア偉(えら)い神(かみ)様(さま)ですな。191お前(まへ)さまは最前(さいぜん)も雪隠(せつちん)の中(なか)から聞(き)いて居(を)れば、192ブラバーサやマリヤさまに向(むか)つて、193世界中(せかいぢう)から数珠(じゆず)つなぎに信者(しんじや)が参(まゐ)つて来(く)ると、194エライ駄法螺(だぼら)を吹(ふ)いて厶(ござ)つたが、195ここ一年程(いちねんほど)の間(あひだ)に猫(ねこ)の子(こ)一疋(いつぴき)訪問(はうもん)した事(こと)は無(な)いぢやありませぬか。196誠一(まことひと)つで開(ひら)くウラナイの道(みち)だからと云(い)ひ乍(なが)ら、197ようマア、198あんな嘘(うそ)が言(い)へました。199霊城(れいじやう)なぞと聞(き)いて呆(あき)れます哩(わい)』
200お花『ホヽヽヽヽ、201マア何(なん)と分(わか)らぬ代物(しろもの)だこと、202これ程(ほど)諸国(しよこく)の霊(れい)が、203数珠(じゆず)つなぎになつて、204生宮(いきみや)さまの神徳(しんとく)を慕(した)つて参拝(さんぱい)するのに分(わか)らぬのかいな。205それだから、206教会(けうくわい)とも宣伝所(せんでんしよ)ともいはないで、207御(ご)霊城(れいじやう)と書(か)いてあるのだよ』
208ヤク『ソンナラ、209私(わたし)の受付(うけつけ)は必要(ひつえう)がないぢやありませぬか。210一体(いつたい)何(なん)の受付(うけつけ)をするのですか』
211お花『身魂(みたま)相応(さうおう)の理(り)に仍(よ)つて、212悪者(わるもの)が出(で)て来(き)たり、213詐欺漢(さぎかん)が出(で)て来(き)たりせぬ様(やう)に、214番犬(ばんけん)の御用(ごよう)がさしてあつたのだよ、215霊(れい)なんか到底(たうてい)お前(まへ)等(たち)にや分(わか)らないから、216テンデそんなこた当(あて)にしてゐないのだ。217頭(あたま)から信用(しんよう)のないこた分(わか)つて居(ゐ)るのだからな』
218ヤク『ソンナラ何故(なぜ)宣伝(せんでん)に行(ゆ)け行(ゆ)けと私(わたし)に仰有(おつしや)るのですか』
219お花『現幽(げんいう)一致(いつち)の御教(みをしへ)だから、220現界(げんかい)の人間(にんげん)も宣伝(せんでん)する必要(ひつえう)があるのだ。221けれ共(ども)お前(まへ)の魂(たましひ)がテンで物(もの)になつてゐないものだから物(もの)にならないのだよ。222無用(むよう)の長物(ちやうぶつ)娑婆(しやば)ふさぎ、223穀潰(ごくつぶ)しの糞造器(ふんざうき)とはお前(まへ)の事(こと)だ。224こんな糞造器(ふんざうき)でも神(かみ)様(さま)は至仁(しじん)至愛(しあい)だから、225助(たす)けてやらうと思(おも)つて、226三十(さんじふ)円(ゑん)も月給(げつきふ)を出(だ)して飼(か)つてやつて居(ゐ)るのだよ。227世間(せけん)に目(め)の開(あ)いた奴(やつ)があつたら……何(なん)と神(かみ)様(さま)といふものは偉(えら)い者(もの)だ。228エルサレム中(ぢう)で相手(あひて)にしてのない蚰蜒(げぢげぢ)の様(やう)な男(をとこ)でも、229生神(いきがみ)さまならこされ、230三十(さんじふ)円(ゑん)も月給(げつきふ)をやつておいて置(お)けるのだ。231神(かみ)さまといふ者(もの)は偖(さて)も偖(さて)も感心(かんしん)な者(もの)だ。232……と此(この)様(やう)に思(おも)うて青(あを)い鳥(とり)が引(ひつ)かかつて来(く)る様(やう)に、233つまり、234おとりにおいて有(あ)るのだ……オツトドツコイこりや云(い)ふのぢやなかつた。235コレ、236ヤクさま、237こりや嘘(うそ)だよ。238お前(まへ)の副守(ふくしゆ)が一寸(ちよつと)私(わたし)の体内(たいない)を借(か)つて云(い)ふのだから、239屹度(きつと)気(き)にさへて下(くだ)さるなや、240オホヽヽヽ』
241ヤク『これで貴女(あなた)方(がた)の腹(はら)の底(そこ)はすつかり分(わか)りました。242私(わたし)も可(よ)い馬鹿(ばか)でした。243月給(げつきふ)も何(なに)もいりませぬ。244気好(きよ)うお暇(ひま)を下(くだ)さい。245其(その)代(かは)り覚(おぼ)えてゐなさい。246ヒヤツとする様(やう)な目(め)にあわして上(あ)げますから。247お前(まへ)さま方(がた)のカラクリを、248これから、249エルサレムの町中(まちぢう)演説(えんぜつ)して歩(ある)きますから、250足許(あしもと)の明(あか)るい内(うち)トツトと帰(かへ)りなさい。251イヒヽヽヽヽ。252ヤアこれで一(ひと)つ俺(おれ)も活気(くわつき)が出来(でき)て来(き)た。253悪魔(あくま)退治(たいぢ)の張本人(ちやうほんにん)となり正々(せいせい)堂々(だうだう)の陣(ぢん)を張(は)り、254日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)と力比(ちからくら)べだ。255此奴(こいつ)ア面白(おもしろ)い、256ウツフヽヽヽ』
257 お花(はな)は顔(かほ)を曇(くも)らせ乍(なが)ら、
258お花『コレ、259ヤクさま、260皆(みな)嘘(うそ)だよ。261お前(まへ)は正直(しやうぢき)だから、262直(すぐ)に腹(はら)を立(た)てて仕方(しかた)がない。263日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)と此(この)乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)が、264天(てん)にも地(ち)にもない大切(たいせつ)な宝(たから)として、265お前(まへ)を重宝(ちようほう)がつてるのだ。266そんな水臭(みづくさ)い事(こと)をいふものぢやありませぬがな』
267と皺(しわ)の寄(よ)つた顔(かほ)の目(め)を細(ほそ)うして、268ヤクの背中(せなか)をポンと叩(たた)く。269年(とし)は老(と)つて居(を)つても、270浪速(なには)の水(みづ)で洗(あら)ひさらした肌(はだ)、271まだ何処(どこ)やらに花(はな)の香(か)が残(のこ)つてゐる。272其(その)手(て)でお釈迦(しやか)の顔撫(かほな)でた式(しき)に、273お花(はな)の色目(いろめ)につり込(こ)まれ、274ヤクはつり上(あが)つた眉毛(まゆげ)を一寸(いつすん)許(ばか)り下(した)へおろし、275目尻(めじり)迄(まで)下(さ)げて、276時計(とけい)の八(はち)時(じ)二十分(にじふぶん)の様(やう)な顔(かほ)をし乍(なが)ら、
277ヤク『ヘヽヽヽヽ、278ソンナ優(やさ)しいお心(こころ)とは知(し)らず、279つい副守(ふくしゆ)があんな事(こと)を囁(ささや)きました。280どうぞ生宮(いきみや)さまがお帰(かへ)りになつても、281今(いま)の様(やう)な事(こと)は言(い)はない様(やう)にして下(くだ)さいや』
282お花『何(なん)ぢやいな、283ヤクさま、284眉毛(まゆげ)や目尻(めじり)が眠(ねむ)り草(ぐさ)の様(やう)に、285サツパリ下(さが)つて了(しま)ひ、286七(しち)時(じ)二十五(にじふご)分(ふん)の顔(かほ)ソツクリぢやないかい』
287ヤク『乙姫(おとひめ)さまのお顔(かほ)にも一(いち)時(じ)は低気圧(ていきあつ)が襲来(しふらい)し、288眉毛(まゆげ)が十一(じふいち)時(じ)五分(ごふん)になつて居(ゐ)ましたよ』
289お花『ソンナ時計(とけい)の話(はなし)や何(ど)うでもよい、290人(ひと)の顔(かほ)と時計(とけい)とゴツチヤ交(ま)ぜにしられちや困(こま)るからなア』
291 斯(か)く話(はな)して居(を)る所(ところ)へ、292ドヤドヤ人(ひと)の入(い)り来(く)る足音(あしおと)、293ヤクは素早(すばや)く表(おもて)へ駆(か)け出(だ)し、
294ヤク『ヤ、295これはお寅様(とらさま)、296能(よ)くマアお帰(かへ)り下(くだ)さいました。297乙姫(おとひめ)さまが大変(たいへん)なお待(ま)ちかねで厶(ござ)います。298サアサアとつとと奥(おく)へ御(お)通(とほ)りなさいませ』
299お寅『お前(まへ)はヤクザ者(もの)のヤクぢやないかい。300妾(わし)がアンナ目(め)に会(あ)つて居(ゐ)るのに傍観(ばうくわん)してるとは余(あんま)りぢやないか。301何程(なにほど)名(な)はヤクでも、302役(やく)に立(た)たぬ代物(しろもの)だなア』
303ヤク『ハイお花(はな)さま……オツトドツコイ乙姫(おとひめ)さまの生宮(いきみや)さまに、304惨々(さんざん)そんな事(こと)をいつて油(あぶら)を絞(しぼ)られて居(を)つた所(ところ)ですから、305どうぞ二重(にぢう)成敗(せいばい)は勘弁(かんべん)して下(くだ)さい』
306といひ乍(なが)ら狭(せま)い路地(ろぢ)を伝(つた)うて入(はい)つて来(き)た。307お花(はな)は嬉(うれ)しさうに手(て)をつかへて、
308お花『ヤ、309これはこれは、310能(よ)う帰(かへ)つて下(くだ)さいました。311日出(ひので)様(さま)、312大変(たいへん)待(ま)ちかねて居(を)りました。313今(いま)ヤクと心配(しんぱい)して居(を)つた所(ところ)で厶(ござ)いますよ』
314お寅『ヘン、315有難(ありがた)う、316感(かん)じ入(い)りました。317貴女(あなた)方(がた)の御(ご)親切(しんせつ)には……ブラバーサの計略(けいりやく)にかかり、318谷底(たにぞこ)へつれ込(こ)まれ、319命(いのち)を取(と)られ様(やう)と致(いた)しましたが、320幸(さいはひ)に日出(ひのでの)神(かみ)の御(ご)神力(しんりき)によりまして、321無事(ぶじ)に帰(かへ)つて参(まゐ)りました。322乙姫(おとひめ)さま、323さぞ面(めん)くらつたでせう。324ヤクと二人(ふたり)寄(よ)つて、325日(ひ)の出神(でのかみ)の居(を)らなくなつたのを幸(さいは)ひ、326此(この)霊城(れいじやう)の主人(あるじ)となり、327一大(いちだい)飛躍(ひやく)を試(こころ)みむとして厶(ござ)つた所(ところ)を、328目的(もくてき)と牛(うし)の尻(しり)がひとは、329向(むか)ふから外(はづ)れるとか申(まを)しましてね……誠(まこと)にお気(き)の毒(どく)さま。330ヘン巧言(かうげん)令色(れいしよく)、331偽善(ぎぜん)の御(ご)挨拶(あいさつ)は止(や)めて貰(もら)ひませうかい』
332 お花(はな)は泣声(なきごゑ)を出(だ)して、
333お花『コレ、334モウシ、335お寅(とら)さま、336余(あま)りぢや厶(ござ)いませぬか、337私(わたし)の心(こころ)が分(わか)りませぬか。338余(あま)り殺生(せつしやう)ぢや厶(ござ)いませぬかい。339十(じふ)年(ねん)此(この)方(かた)真心(まごころ)を尽(つく)して、340世間(せけん)の非難(ひなん)攻撃(こうげき)を受(う)け乍(なが)ら、341身命(しんめい)を賭(と)して、342貴女(あなた)に付(つ)いて来(き)た私(わたし)ぢや厶(ござ)いませぬか。343御(ご)冗談(じやうだん)仰有(おつしや)るにも程(ほど)がありますわ』
344お寅『冗談(ぜうだん)ぢやありませぬよ。345誠生粋(まこときつすゐ)の日出(ひのでの)神(かみ)の言葉(ことば)ですから、346慎(つつし)んでお聞(き)きなさい。347私(わたし)の心(こころ)が分(わか)らぬか……と仰有(おつしや)つたが、348分(わか)つて居(を)らこそ、349お前(まへ)さまに御(お)礼(れい)を申(まを)して居(ゐ)るぢやありませぬか。350第一(だいいち)の証拠(しようこ)は……いつも貴女(あなた)言(い)ふて居(を)つたでせう。351仮令(たとへ)地獄(ぢごく)のドン底(そこ)へでも、352命(いのち)を的(まと)にお伴(とも)致(いた)しますと、353口癖(くちぐせ)の様(やう)に、354うるさい程(ほど)、355百万遍(ひやくまんべん)をくる様(やう)に、356云(い)つておき乍(なが)ら、357人(ひと)の危難(きなん)を見(み)て、358助(たす)けようともせず、359ヤクと一緒(いつしよ)に、360ぬつけりことして霊城(れいじやう)にをさまり返(かへ)り、361第二(だいに)の計画(けいくわく)をやつて居(を)つたのでせう、362それに違(ちがひ)ありますまい。363お前(まへ)さまの様(やう)な水臭(みづくさ)いお方(かた)は、364主(しゆ)でもなけら、365家来(けらい)でもない。366又(また)師匠(ししやう)でも無(な)ければ弟子(でし)でもありませぬ。367乙姫(おとひめ)さまなぞと、368チヤンチヤラ可笑(をか)しい、369もう之(これ)から云(い)ふて下(くだ)さるな』
370お花『私(わたし)は素(もと)よりあやめのお花(はな)といつて、371何(なに)も知(し)らぬ者(もの)で厶(ござ)いましたが、372貴女(あなた)が竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)だと仰有(おつしや)つて下(くだ)さるので、373それを誠(まこと)と信(しん)じ、374今日(けふ)迄(まで)乙姫(おとひめ)で通(とほ)して来(き)ましたが、375云(い)ふてくれるなと仰有(おつしや)るのなら、376モウ之(これ)から言(い)ひませぬ。377さうすると、378お前(まへ)さまの日出(ひのでの)神(かみ)さまも可(い)いかげんなものぢや厶(ござ)いませぬか。379誰(たれ)が阿呆(あはう)らしい、380乙姫(おとひめ)の生宮(いきみや)と思(おも)へばこそ、381住(すみ)なれた自転倒(おのころ)島(じま)を立(た)つて、382コンナ他国(たこく)で、383不自由(ふじゆう)な生活(せいくわつ)を辛抱(しんばう)してゐるのですよ』
384 ヤクは鼻息(はないき)あらく、
385ヤク『もしもし乙姫(おとひめ)さま、386否(いな)お花(はな)さまにしておきませう。387コンナ糞婆(くそばば)と縁(えん)を切(き)りなさいませ。388私(わたし)がお前(まへ)さまの参謀長(さんぼうちやう)となつて、389お寅(とら)さまの向方(むかふ)を張(は)り、390立派(りつぱ)に一旗(ひとはた)挙(あ)げて御覧(ごらん)にいれませう、391私(わたし)がお花(はな)さまの赤心(まごころ)は能(よ)う知(し)つてゐます。392側(そば)から聞(き)いてゐても余(あま)り無体(むたい)な事(こと)いふ婆(ばば)だから、393愛相(あいさう)が尽(つ)きた。394お花(はな)さま、395可(よ)い縁(えん)の切時(きりどき)だから、396覚悟(かくご)なさいませ』
397 お花(はな)は、
398お花『サア、399それでもナア』
400と首(くび)を傾(かた)むけてゐる。
401お寅『コリヤ、402ヤク、403何(なに)を横槍(よこやり)入(い)れるのだ。404お師匠(ししやう)様(さま)が弟子(でし)に向(む)かつて意見(いけん)をしてるのに、405ヤクザ人足(にんそく)がゴテゴテいふと云(い)ふ事(こと)があるものか、406ひつ込(こ)んで居(ゐ)なさい、407お前(まへ)の出(で)る幕(まく)ぢやない。408お前(まへ)とお花(はな)さまと寄(よ)つて、409妾(わし)をあんな目(め)に会(あ)はしたのだろがな。410チヤンと此処(ここ)に三(さん)人(にん)の証拠人(しようこにん)が連(つ)れて来(き)てあるのだから……』
411ヤク『アヽア、412分(わか)らずや許(ばか)りの所(ところ)に居(を)つても仕方(しかた)が無(な)いワ。413お花(はな)さま、414左様(さやう)なら、415又(また)お目(め)にかかりませう、416お寅(とら)婆(ば)アさま左様(さやう)なら、417守宮別(やもりわけ)と精々(せいぜい)意茶(いちや)つきなさい。418私(わたし)は私(わたし)の考(かんが)へを以(もつ)て、419何処迄(どこまで)もお前(まへ)さまの目的(もくてき)の妨害(ばうがい)をして上(あ)げますから、420イヒヽヽヽヽ』
421と腮(あご)をしやくり、422そこにあつた箒(はうき)を一本(いつぽん)かたげたまま、423尻(しり)ひんまくり、424何処(どこ)ともなく駆出(かけだ)して了(しま)つた。425此奴(こいつ)逃(に)がしてなるものかと、426お寅(とら)は金切声(かなきりごゑ)を張上(はりあ)げ、427でつかいお尻(しり)をプリンプリンと振廻(ふりまは)し乍(なが)ら、428埃(ごみ)に汚(よご)れた雑踏(ざつたふ)の街(まち)を人目(ひとめ)も恥(は)ぢず追(お)つかけて行(ゆ)く。429お寅(とら)はヤツと追付(おつつ)き、430首筋(くびすぢ)を掴(つか)まむとするや、431ヤクは箒(はうき)で大道(だいだう)の砂埃(すなほこり)をまぜ返(かへ)し、432お寅(とら)の顔(かほ)をポンと撲(なぐ)り乍(なが)ら又(また)もや駆(か)け出(だ)す、433お寅(とら)は両眼(りやうがん)に土埃(つちぼこり)を浴(あ)び、434皺枯声(しわがれごゑ)を張上(はりあ)げ、
435お寅『オーイオーイ誰(たれ)でも可(よ)いから、436其(その)ヤクを掴(つか)まへて呉(く)れ』
437と叫(さけ)んでゐる。438道(みち)行(ゆ)く人(ひと)は黒山(くろやま)の如(ごと)くお寅(とら)の周囲(まはり)を取(とり)まき、439見世物(みせもの)でも見(み)る様(やう)に口々(くちぐち)に罵(ののし)り居(ゐ)たりける。
440(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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