霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三章 草居(くさゐ)谷底(たにぞこ)〔一八〇九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第1篇 復活転活 よみ(新仮名遣い):ふっかつてんかつ
章:第3章 草居谷底 よみ(新仮名遣い):くさいたにぞこ 通し章番号:1809
口述日:1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:トンクたちのアジト あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-04-29 17:34:41 文字数:4396 OBC :rm64b03
愛善世界社版:35頁 八幡書店版:第11輯 508頁 修補版: 校定版:36頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 トンク、002テク、003ツーロの三(さん)人(にん)は僧院(そうゐん)ホテルの裏口(うらぐち)から二人(ふたり)を担(かつ)いだ儘(まま)、004一生(いつしやう)懸命(けんめい)に道路(だうろ)、005田畑(たはた)の嫌(きら)ひなくかけ出(だ)し、006キドロンの谷(たに)深(ふか)く川辺(かはべ)を伝(つた)ふて登(のぼ)り行(ゆ)き、007雨露(うろ)を凌(しの)ぐ許(ばか)りの自分(じぶん)の借家(かりや)へと持(も)ち運(はこ)び、008手荒(てあら)く二人(ふたり)を土(つち)の上(うへ)に投(な)げつけた。009守宮別(やもりわけ)はこの間(あひだ)に殆(ほとん)ど酔(よひ)も醒(さ)め、010丸(まる)い目(め)をギヨロづかせ、011ウンと云(い)つた限(き)り、012三(さん)人(にん)の顔(かほ)を睨(ね)めつけて居(ゐ)る。013お寅(とら)は勝気(かちき)の女(をんな)とて大地(だいち)に投(な)げつけられた際(さい)、014腰骨(こしぼね)をうち乍(なが)ら痛(いた)さを耐(こら)へて、
015お寅『こりや、016三(さん)人(にん)のアラブ共(ども)、017三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、018底津(そこつ)岩根(いはね)の大(おほ)ミロク、019日(ひ)の出(で)の神(かみ)の太柱(ふとばしら)お寅(とら)さまの肉体(にくたい)を、020お神輿(みこし)さまとして、021此処(ここ)迄(まで)つれて来(く)るのはいいが、022なぜ下(お)ろす時(とき)にも些(ちつ)と気(き)をつけないのか、023お神輿(みこし)が些(ちつ)と許(ばか)り損傷(いたん)だぞよ、024行儀(ぎやうぎ)も作法(さはふ)も知(し)らない馬鹿(ばか)野郎(やらう)だなア。025サア私(わし)を此処(ここ)まで連(つ)れて来(き)た以上(いじやう)は、026何(なに)か深(ふか)い計画(たくみ)があつてのことだらう。027きつぱりと白状(はくじやう)したがよい。028何者(なにもの)に頼(たの)まれたかその訳(わけ)を聞(き)かう。029これこれ守宮別(やもりわけ)さま確(しつか)りせぬかいなア。030何(なん)の為(た)めの強力(がうりき)だいな。031それだから無茶(むちや)苦茶(くちや)に酒(さけ)を呑(の)みなさるなと云(い)ふのぢや。032お前(まへ)さまはお前(まへ)さまとした所(ところ)で、033竜宮(りうぐう)の乙姫(おとひめ)さまの生宮(いきみや)は何(なに)をして居(ゐ)るのだらう、034ても扨(さ)ても気(き)の利(き)かない人足(にんそく)許(ばか)りだなア。035こりやアラブ、036早(はや)く神(かみ)の前(まへ)に白状(はくじやう)致(いた)さぬか、037神罰(しんばつ)が当(あた)つて脛腰(すねこし)が立(た)たぬやうにしてもよいか』
038 トンクは、
039トンク『ハヽヽヽヽ。040気違(きちが)ひ婆(ばば)、041それや何(な)アに吐(ぬか)してけつかる。042誰(たれ)にも頼(たの)まれはせぬ。043貴様(きさま)の懐中(ふところ)にもつて居(ゐ)るお金(かね)が目的(もくてき)ぢや。044地獄(ぢごく)の沙汰(さた)も金(かね)次第(しだい)ぢやからキリキリちやつと渡(わた)したらよからう。045グヅグヅ致(いた)して居(を)ると生命(いのち)が無(な)いぞよ。046一方(いつぱう)の野郎(やらう)は酒(さけ)に喰(くら)ひ酔(よ)つて脛腰(すねこし)は立(た)たず。047高(たか)が婆(ばば)の一人(ひとり)位(ぐらゐ)、048捻(ひね)り漬(つぶ)すのは宵(よひ)の口(くち)ぢや。049金(かね)を渡(わた)さにや渡(わた)さぬでよい。050勝手(かつて)に取(と)つてやる。051サア覚悟(かくご)せい』
052と猿臂(ゑんぴ)をのばして、053胸倉(むなぐら)をグツと掴(つか)む。054お寅(とら)はその刹那(せつな)足(あし)を上(あ)げてトンクの睾丸(きんたま)を力一(ちからいつ)ぱい蹴(け)つた。055トンクはウーンと云(い)つた切(き)り、056地上(ちじやう)に大(だい)の字(じ)となつて了(しま)つた。057テク、058ツーロの二人(ふたり)は吃驚(びつくり)してトンクを呼(よ)び生(い)けようとする。059其(その)隙(すき)を考(かんが)へて守宮別(やもりわけ)はテクの足(あし)をグイと引張(ひつぱ)り俯向(うつむけ)にドンと倒(たふ)す。060お寅(とら)はツーロの首筋(くびすぢ)を鷲掴(わしづか)みにしながら挙骨(げんこつ)を固(かた)めて六(むつ)つ七(なな)つ撲(なぐ)り打(う)ちに打(う)ち据(す)ゑる。061ツーロはフラフラと眼(め)が暈(ま)うて又(また)もやばたりと其処(そこ)に倒(たふ)れて仕舞(しま)つた。
062お寅『サア、063守宮別(やもりわけ)さま、064其処(そこ)の藤蔓(ふぢつる)をもつて動(うご)かないやうに、065何奴(どいつ)も此奴(こいつ)も今(いま)の中(うち)に縛(くく)つておきなさい。066これからこれ等(ら)三(さん)人(にん)を厳(きび)しく詰問(きつもん)してブラバーサの陰謀(いんぼう)を白状(はくじやう)さしてやらねばなりますまい。067何(なん)と気味(きみ)の善(よ)い事(こと)、068遉(さすが)は日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)だけあつて偉(えら)いものだらう。069これ守宮別(やもりわけ)さま、070日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)には感心(かんしん)したらうな、071アラブの千匹(せんびき)万匹(まんびき)来(きた)るとも、072このお寅(とら)が、073フンと一(ひと)つ鼻息(はないき)するや否(いな)や、074何奴(どいつ)も此奴(こいつ)もバタバタと東京(とうきやう)のバラツクに二百十(にひやくとを)日(か)の大風(おほかぜ)が吹(ふ)いたやうにメチヤメチヤに倒(たふ)れて了(しま)ふのだよ。075日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)も聖地(せいち)へ来(き)てから、076だんだん出世(しゆつせ)を遊(あそ)ばし偉(えら)い御(ご)神徳(しんとく)の出来(でき)たものだ。077もう此(この)上(うへ)は三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)と名乗(なの)つても誰一人(たれひとり)非難(ひなん)するものはあるまい、078ヘヽヽヽ。079てもさても愉快(ゆくわい)の事(こと)だわい。080苦(くるし)みの果(はて)には楽(たの)しみあり、081万難(ばんなん)を排(はい)して勝利(しようり)の都(みやこ)に達(たつ)するとかや。082お前(まへ)さまも些(ちつ)と酒(さけ)をやめて心(こころ)の底(そこ)から私(わし)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)くのだよ。083僧院(そうゐん)ホテルでお前(まへ)さまは何(なん)と云(い)ふ馬鹿気(ばかげ)た演説(えんぜつ)をするのだえ。084この私(わたし)をブラバーサと同(おな)じやうに余(あま)り信(しん)じないと云(い)つたぢやないか。085肝腎要(かんじんかなめ)の参謀長(さんぼうちやう)がそんな考(かんが)へをもつて居(ゐ)てどうしてこんな大望(たいまう)が成就(じやうじゆ)しますか。086些(ちつ)と心得(こころえ)なされ。087余(あま)り云(い)ふ事(こと)を聞(き)かないと小北山(こきたやま)のお寅(とら)さまぢやないが、088鼻(はな)を捻(ねぢ)ますぞや[※虎嶋寅子も「小北山のお寅」だが、ここ言及しているのは、浮木の村のお寅のことだと思われる。第45巻第6章「唖忿」で、浮木の村のお寅が小北山で、蠑螈別がここを出て行き高姫のところへ行くのだろうと嫉妬して、蠑螈別の鼻をねじりあげると、蠑螈別は気絶してしまう。「鼻を捻ますぞや」とは、そのことを言っているのだと思われる。]』
089守宮別『イヤもう改心(かいしん)致(いた)しました。090朝顔形(あさがほがた)の猪口(ちよく)がメチヤメチヤになつては耐(たま)りませぬからな、091ウフヽヽヽ』
092 トンクはウンウンと唸(うめ)き出(だ)した。093お寅(とら)はトンクの髻(たぶさ)をグツと握(にぎ)り、
094お寅『これやトンク、095恐(おそ)れ入(い)つたか。096往生(わうじやう)致(いた)したか。097どうぢや、098サア誰(たれ)に頼(たの)まれた白状(はくじやう)致(いた)せ』
099トンク『ハイ、100ハヽ白状(はくじやう)致(いた)します。101どうぞ其(その)手(て)を放(はな)して下(くだ)さい髪(かみ)が脱(ぬ)けます』
102お寅『ぬけたつて何(なん)だ。103お前(まへ)の頭(あたま)ぢやないか。104肉(にく)と一緒(いつしよ)にコポンと取(と)つてやる積(つも)りだ。105苦(くる)しきや白状(はくじやう)なさい。106魚心(うをごころ)あれば水心(みづごころ)だ。107白状(はくじやう)さへすれば今迄(いままで)の罪(つみ)は神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)に見直(みなほ)し聞(き)き直(なほ)して許(ゆる)してやる。108そして白状(はくじやう)した褒美(ほうび)にお金(かね)をやるから、109トツトと白状(はくじやう)したがよからうぞや。110かう見(み)えてもこのお寅(とら)は、111虎(とら)でもなければ狼(おほかみ)でもない、112三千(さんぜん)世界(せかい)の氏子(うぢこ)を助(たす)ける生神(いきがみ)様(さま)だからな。113敵(てき)たうて来(き)たものには鬼(おに)か大蛇(をろち)になるお虎(とら)[*「虎」は底本通り。「寅」が妥当。]であるけれど、114従(したが)つて来(き)たものには結構(けつこう)な結構(けつこう)な大(だい)歓喜天(くわんきてん)の女神(めがみ)様(さま)ぢやぞえ』
115トンク『ハイ、116白状(はくじやう)致(いた)します。117その代(かは)りにテク、118ツーロの縛(いましめ)を解(と)いてやつて下(くだ)さい。119私(わし)だけ助(たす)かつた所(ところ)で仕方(しかた)がありませぬから』
120お寅『これこれ守宮別(やもりわけ)さま、121何(な)んぢやいな、122気楽(きらく)さうに煙草(たばこ)ばかり呑(の)みつづけて、123ちつとお手伝(てつだ)ひをなさらぬか。124気(き)の利(き)かねえ男(をとこ)だなア』
125守宮別『到底(たうてい)神(かみ)様(さま)のお手伝(てつだ)ひは人間(にんげん)として出来(でき)ませぬわい。126マア悠(ゆつく)りと見物(けんぶつ)でもさして貰(もら)ひませうかい。127あた阿呆(あはう)らしい。128酒(さけ)も無(な)いのにこんな事(こと)を見(み)て居(ゐ)られませうか、129お寅(とら)さまも仲々(なかなか)気(き)が荒(あら)いですなア』
130お寅『それや荒(あら)いとも、131アラブの荒男(あらをとこ)を三(さん)人(にん)迄(まで)、132荒肝(あらぎも)を取(と)つて荒料理(あられうり)をせうと云(い)ふのだもの。133随分(ずゐぶん)霊験(あらたか)な神(かみ)様(さま)だよ。134これアラブのトンク、135大略(あらまし)でよいから早(はや)く誰(たれ)に頼(たの)まれたと云(い)ふ事(こと)を白状(はくじやう)せぬか。136命(いのち)取(と)られるのが好(よ)いか。137お金(かね)を貰(もら)ふのがよいか、138どうぢや』
139トンク『実(じつ)の所(ところ)はお前(まへ)さま所(とこ)へ始終(しじう)出入(でいり)して居(ゐ)るヤクさまに頼(たの)まれました。140ヤクさまが金(かね)を吾々(われわれ)三(さん)人(にん)に二十(にじふ)両(りやう)宛(づつ)下(くだ)さいました。141そしてお寅(とら)さまが剣呑(けんのん)になつて来(き)た時(とき)は掻攫(かつさら)へて僧院(そうゐん)の裏(うら)から何処(どこ)かへ逃(に)げて呉(く)れと仰有(おつしや)つたのです』
142お寅『ホヽヽヽヽ、143甘(うま)い事(こと)、144どこ迄(まで)も云(い)ひ含(ふく)めたものだなア。145ブラバーサの奴(やつ)、146反間(はんかん)苦肉(くにく)の策(さく)をつかひよつて、147ヤクに頼(たの)まれたなぞと、148熱心(ねつしん)の信者(しんじや)とこのお寅(とら)と喧嘩(けんくわ)させようと思(おも)つて居(ゐ)やがるのだな。149どこどこ迄(まで)も油断(ゆだん)のならぬど倒(たふ)しものだ。150これやトンク本当(ほんたう)の事(こと)を云(い)へ。151ヤクさまぢやあるまいがな』
152トンク『イエ滅相(めつさう)な有体(ありてい)の事(こと)を申(まを)します。153御(ご)霊城(れいじやう)の受付(うけつけ)をして厶(ござ)るヤクさまが、154お前(まへ)さまが僧院(そうゐん)で演説(えんぜつ)をしられた時(とき)、155聴衆(ちやうしう)の中(なか)へ入(はい)つて厶(ござ)つて、156あまり聴衆(ちやうしう)の人気(にんき)が悪(わる)く殺気(さつき)が立(た)ち、157お前(まへ)さまを殺(ころ)してやらうと迄(まで)ひそびそ相談(さうだん)して居(ゐ)たものが有(あ)つたので、158ヤクさまが心配(しんぱい)して、159傍(そば)に居(を)つた私(わたし)等(たち)三(さん)人(にん)に大枚(たいまい)二十(にじふ)円(ゑん)宛(づつ)をそつと懐中(ふところ)に入(い)れ、160どうかお寅(とら)さまと守宮別(やもりわけ)さまを担(かつ)いで此(この)場(ば)を逃(に)げて呉(く)れ。161さうせぬとお二人(ふたり)の命(いのち)が危(あやふ)いと囁(ささや)きましたので、162二十(にじふ)円(ゑん)のお金(かね)まうけにお二人(ふたり)さまを担(かつ)ぎ出(だ)しました。163さうするとお前(まへ)さまの懐中(くわいちう)に、164ガチヤガチヤと余(あま)り沢山(たくさん)の金(かね)が入(はい)つて居(ゐ)さうなので、165此処(ここ)迄(まで)来(き)てから二重(にぢう)儲(まう)けをせうと思(おも)つて、166一寸(ちよつと)ごろついて見(み)たのですよ。167何(ど)うか耐(こら)へて下(くだ)さい。168しかし吾々(われわれ)三(さん)人(にん)が無(な)かつたらお前(まへ)さまの生命(いのち)が無(な)かつたかも知(し)れませぬよ。169これが正直(しやうぢき)正銘(しやうめい)一文(いちもん)の掛値(かけね)のない所(ところ)の白状(はくじやう)で厶(ござ)います』
170お寅『フーン、171さうかいな。172ても扨(さ)てもブラバーサと云(い)ふ奴(やつ)は剣呑(けんのん)な奴(やつ)だな。173矢張(やつぱ)り彼奴(あいつ)が此(この)生宮(いきみや)を殺(ころ)さうと思(おも)つて、174聴衆(ちやうしう)の中(なか)に暴漢(ばうかん)を匿(かく)まひ置(お)きよつたのだなア。175これトンクさま、176お前(まへ)さまはブラバーサをどう思(おも)ひますか』
177トンク『さうですな、178どうか頭(あたま)を放(はな)して下(くだ)さい痛(いた)くて仕方(しかた)がありませぬわ。179アイタヽヽヽヽ、180痛(いた)いがな』
181お寅『余(あま)り話(はなし)に身(み)が入(い)つてお前(まへ)の頭(あたま)をブラバーサだと思(おも)ひ、182力(ちから)一杯(いつぱい)痛(いた)めたのは悪(わる)かつた、183まア耐(こら)へてお呉(く)れ。184これも時(とき)の災難(さいなん)だからな。185これこれ守宮別(やもりわけ)さま、186話(はなし)が分(わか)つた以上(いじやう)は、187テク、188ツーロの縛(いましめ)を解(と)いて上(あ)げて下(くだ)さい。189話(はなし)を聴(き)いて見(み)ねば分(わか)らぬものだ、190ほんに気(き)の毒(どく)だつたな。191とは云(い)ふものの三(さん)人(にん)が三(さん)人(にん)乍(なが)ら、192俄(にはか)にこのお寅(とら)を脅迫(けふはく)した罪(つみ)は許(ゆる)されないから、193痛(いた)い目(め)に遇(あ)つたからといつて怒(おこ)る事(こと)は出来(でき)まい、194これで帳消(ちやうけし)だ。195サアこれから改(あらた)めてお前(まへ)達(たち)三(さん)人(にん)と篤(とつくり)と相談(さうだん)をしよう』
196トンク『悪(あく)にかけたら抜目(ぬけめ)のない吾々(われわれ)三(さん)人(にん)、197金(かね)になる事(こと)ならドンナ御(ご)相談(さうだん)にも乗(の)ります。198私(わたし)だつてあのブラバーサには深(ふか)い深(ふか)い意恨(いこん)が厶(ござ)います。199マリヤの奴(やつ)を三(さん)人(にん)寄(よ)つて手籠(てごめ)になし、200念仏講(ねんぶつかう)でもやり、201楽(たの)しもうと思(おも)つて居(ゐ)た所(ところ)へ彼(あ)のブラバーサが、202仕様(しやう)も無(な)い歌(うた)を歌(うた)つて来(き)たものだから、203折角(せつかく)仕組(しぐん)だ芝居(しばゐ)も肝腎(かんじん)の所(ところ)でおジヤンになり、204オチコ ウツトコ、205ハテナの願望(ぐわんまう)も遂(と)げず、206すごすごと吾(わが)家(や)に帰(かへ)つたものだから仲々(なかなか)伜(せがれ)のやつ承知(しようち)をしませぬ、207オチコ、208コテノとなつて、209マストを立(た)てそれはそれは夜半(やはん)大騒動(おほさうどう)五人組(ごにんぐみ)が駆(か)け出(だ)すやら、210泥水(どろみづ)が出(で)るやら、211ヘヽヽヽヽン、212いやもうラツチもない事(こと)でした、213アハヽヽヽ』
214守宮別『ウフヽヽヽ、215ソンナ厚(あつ)い唇(くちびる)で、216真黒(まつくろ)な顔(かほ)して居(を)つて色(いろ)のこひの鮒(ふな)のつて、217些(ちつ)と食(く)ひ過(す)ぎて居(ゐ)るわい。218併(しか)し乍(なが)らブラバーサとマリヤに対(たい)し、219さう云(い)ふ経緯(いきさつ)があり意恨(いこん)が残(のこ)つて居(を)るとすれば何(ど)うだ、220反対派(はんたいは)の吾々(われわれ)の仲間(なかま)に入(はい)り、221幾何(いくら)でも金(かね)はやるからエルサレムの町(まち)に出(で)て、222ブラバーサ攻撃(こうげき)の大演説(だいえんぜつ)をやる気(き)は無(な)いか』
223トンク『ハイそれは合(あ)ふたり叶(かな)ふたり、224大(おほい)にやります。225のうテク、226ツーロお前(まへ)達(たち)も賛成(さんせい)だらう』
227テク『ウン尤(もつと)もだ、228テクさまの恋(こひ)の敵(かたき)のブラバーサ、229力一(ちからいつ)ぱい面皮(めんぴ)を剥(む)いてやり、230此(この)エルサレム町(まち)に居(を)れないやうにしてやるのも痛快(つうくわい)だ、231腹癒(はらい)せだ、232溜飲(りういん)が下(さが)るやうだ。233ようし面白(おもしろ)い面白(おもしろ)い、234面白狸(おもしろたぬき)の腹鼓(はらつづみ)だ。235喃(のう)、236ツーロ、237何程(なにほど)辛(つら)うても、238エルサレムの通路(つうろ)を縦横(じうわう)無尽(むじん)にテクついてブラバーサの罪状(ざいじやう)をトンクと市民(しみん)に分(わか)るやうに、239布留那(ふるな)の弁(べん)を揮(ふる)つて吹聴(ふいちやう)仕(し)やうぢやないか』
240トンク『ヤア面白(おもしろ)い、241大(おほ)ミロクの生宮(いきみや)、242日(ひ)の出(で)の神(かみ)のお寅(とら)さまを大将軍(だいしやうぐん)と仰(あふ)ぎ、243守宮別(やもりわけ)様(さま)を参謀(さんぼう)総長(そうちやう)とし、244エルサレムの町(まち)を三方(さんぱう)四方(しはう)から突撃(とつげき)と出(で)かけようかい』
245お寅『これこれトンクさま、246決(けつ)してヤクに頼(たの)まれたなどと云(い)ふちやなりませぬよ。247ブラバーサに頼(たの)まれて、248あんな悪(わる)い事(こと)を致(いた)しましたが、249日(ひ)の出(で)の神(かみ)の御(ご)神力(しんりき)に怖(おそ)れて罪亡(つみほろ)ぼしに白状(はくじやう)致(いた)しましたと大声(おほごゑ)に云(い)ふのだよ。250分(わか)つたかな』
251トンク『ハイ、252事実(じじつ)を曲(ま)げて云(い)ふのは間違(まちが)ひやすうて些(ちつ)と許(ばか)りやり悪(にく)くて困(こま)りますが、253マア成可(なるべ)く貴女(あなた)の為(ため)になるやうブラバーサを攻撃(こうげき)致(いた)しませう』
254お寅(とら)『ブラバーサ憎(にく)む心(こころ)はなけれども
255世人(よびと)のために葬(はうむ)らむとぞ思(おも)う。
256聖場(せいじやう)を色(いろ)で汚(けが)したマリヤ姫(ひめ)を
257千(せん)里(り)の外(そと)に逐(おひ)やりて見(み)む』
258守宮(やもり)『吾(われ)は唯(ただ)薬師(やくし)如来(によらい)がましまさば
259如何(いか)な悩(なや)みも苦(くる)しからまじ。
260酒(さけ)呑(の)めばいつも心(こころ)は春(はる)の山(やま)
261笑(わら)ひ乍(なが)らに花(はな)は咲(さ)くなり。
262お寅(とら)さまお花(はな)さまでは気(き)が行(い)かぬ
263蒲萄酒(ぶだうしゆ)ビール酒(さけ)が好物(かうぶつ)。
264キリストも釈迦(しやか)も孔子(こうし)も神(かみ)さまも
265酒(さけ)に比(くら)べりやしやうもない奴(やつ)』
266お寅(とら)『又(また)しても守宮別(やもりわけ)さまの罰当(ばちあた)り
267腸(はらわた)までが腐(くさ)つて居(を)るぞや』
268守宮(やもり)『くさつても酒(さけ)と鯛(たひ)とは味(あぢ)がよい
269腐(くさ)らぬ先(さき)に呑(の)めばなほよし。
270ドブ貝(がひ)の腐(くさ)つたやうな香(にほ)ひより
271酒(さけ)の腐(くさ)つた香(にほひ)がよろしい』
272お寅(とら)『虫(むし)の喰(く)た松茸(まつたけ)股(また)にぶらさげて
273腐(くさ)れ貝(がひ)とは何(なに)を云(い)ふぞや』
274トンク『くさいやつ三(さん)人(にん)五(ご)人(にん)集(あつ)まつて
275臭(くさ)い相談(さうだん)谷底(たにそこ)でするも』
276テク『お寅(とら)さま手管(てくだ)の糸(いと)を繰返(くりかへ)し
277マリヤの腹(はら)を突(つ)かむとぞする』
278ツーロ『つらうても彼(かれ)の為(た)めなら町(まち)に出(で)て
279嫌(いや)な演説(えんぜつ)せねばなるまい』
280 お寅(とら)は、
281お寅『さア早(はや)く此(この)場(ば)を立(た)つて帰(かへ)りませう
282お花(はな)が霊城(れいじやう)に待(ま)つて居(ゐ)るだろ』
283と云(い)ひ乍(なが)ら、284吾(わが)営所(たむろ)を指(さ)して一行(いつかう)五(ご)人(にん)帰(かへ)り行(ゆ)く。
285(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良秋田別荘 加藤明子録)
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