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霊界物語
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
第64巻(卯の巻)下
序文
総説
第1篇 復活転活
第1章 復活祭
第2章 逆襲
第3章 草居谷底
第4章 誤霊城
第5章 横恋慕
第2篇 鬼薊の花
第6章 金酒結婚
第7章 虎角
第8章 擬侠心
第9章 狂怪戦
第10章 拘淫
第3篇 開花落花
第11章 狂擬怪
第12章 開狂式
第13章 漆別
第14章 花曇
第15章 騒淫ホテル
第4篇 清風一過
第16章 誤辛折
第17章 茶粕
第18章 誠と偽
第19章 笑拙種
第20章 猫鞍干
第21章 不意の官命
第22章 帰国と鬼哭
余白歌
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霊界物語
>
山河草木(第61~72巻、入蒙記)
>
第64巻(卯の巻)下
> 第4篇 清風一過 > 第18章 誠と偽
<<< 茶粕
(B)
(N)
笑拙種 >>>
第一八章
誠
(
まこと
)
と
偽
(
いつはり
)
〔一八二四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下
篇:
第4篇 清風一過
よみ(新仮名遣い):
せいふういっか
章:
第18章 誠と偽
よみ(新仮名遣い):
まことといつわり
通し章番号:
1824
口述日:
1925(大正14)年08月21日(旧07月2日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年11月7日
概要:
舞台:
僧院ホテルの二号室、三号室
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-03-25 15:05:22
OBC :
rm64b18
愛善世界社版:
244頁
八幡書店版:
第11輯 587頁
修補版:
校定版:
247頁
普及版:
63頁
初版:
ページ備考:
001
僧院
(
そうゐん
)
ホテルの
第二号
(
だいにがう
)
室
(
しつ
)
には、
002
守宮別
(
やもりわけ
)
と
綾子
(
あやこ
)
の
二人
(
ふたり
)
が、
003
喋々
(
てふてふ
)
喃々
(
なんなん
)
と
何事
(
なにごと
)
かしきりに
喋
(
しや
)
べり
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
004
守宮別
『これや、
005
綾子
(
あやこ
)
、
006
昨日
(
きのふ
)
は
俺
(
おれ
)
の
睾丸
(
きんたま
)
を
引張
(
ひつぱ
)
つて
締
(
し
)
め
殺
(
ころ
)
さうとしたぢやないか。
007
それほど
憎
(
にく
)
い
俺
(
おれ
)
を、
008
再
(
ふたた
)
び
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
く
)
るとは
合点
(
がつてん
)
がゆかぬ。
009
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
の
払
(
はら
)
ひでも
請求
(
せいきう
)
に
来
(
き
)
たのかな』
010
綾子
『
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
が、
011
独身
(
どくしん
)
生活
(
せいくわつ
)
をして
厶
(
ござ
)
るお
方
(
かた
)
だと
許
(
ばか
)
り
思
(
おも
)
つて
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
ましたのに、
012
化物
(
ばけもの
)
のやうな
女
(
をんな
)
が
口
(
くち
)
の
間
(
ま
)
に
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
るものですから、
013
嫉
(
や
)
けて
耐
(
たま
)
らず、
014
前後
(
ぜんご
)
を
忘
(
わす
)
れて
真
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
015
どうぞ
耐
(
こら
)
へて
下
(
くだ
)
さいませねえ』
016
守宮別
『エー、
017
よしよし、
018
過
(
す
)
ぎ
去
(
さ
)
つた
事
(
こと
)
は
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いわ。
019
あのお
花
(
はな
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
020
見
(
み
)
かけによらぬ
淫乱
(
いんらん
)
婆
(
ばば
)
アでね。
021
妙
(
めう
)
な
関係
(
くわんけい
)
になつて、
022
俺
(
おれ
)
も
鳥黐桶
(
とりもちおけ
)
に
足
(
あし
)
をつきこみたやうな
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
023
幸
(
さいは
)
ひお
前
(
まへ
)
が
来
(
き
)
て
喧嘩
(
けんくわ
)
して
呉
(
く
)
れたおかげで、
024
お
花
(
はな
)
も
諦
(
あきら
)
めがついてよいと、
025
実
(
じつ
)
は
喜
(
よろこ
)
びて
居
(
ゐ
)
るのだ』
026
綾子
『
私
(
わたし
)
だつて
昨夕
(
ゆうべ
)
はゆつくり
貴方
(
あなた
)
と
語
(
かた
)
り
明
(
あか
)
さうと
思
(
おも
)
ひ、
027
親方
(
おやかた
)
さまにお
暇
(
ひま
)
を
願
(
ねが
)
ひ
折角
(
せつかく
)
やつて
来
(
き
)
ましたのに、
028
あの
騒
(
さわ
)
ぎで
恋
(
こひ
)
しい
貴方
(
あなた
)
と
引
(
ひ
)
きわけられ、
029
有明楼
(
ありあけろう
)
に
送
(
おく
)
り
返
(
かへ
)
された
時
(
とき
)
の
残念
(
ざんねん
)
さ。
030
昨夜
(
ゆうべ
)
は
一目
(
ひとめ
)
も
眠
(
やす
)
めなかつたのですよ。
031
幸
(
さいは
)
ひ
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
が
怪我
(
けが
)
をして
床
(
とこ
)
について
居
(
ゐ
)
るものですから、
032
見舞
(
みまひ
)
にやらして
呉
(
く
)
れと
親方
(
おやかた
)
にねだり、
033
やつとの
事
(
こと
)
で
恋
(
こひ
)
しい
貴方
(
あなた
)
のお
側
(
そば
)
に
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たのですわ。
034
貴方
(
あなた
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
罪
(
つみ
)
な
方
(
かた
)
ですね。
035
本当
(
ほんたう
)
は
守宮別
(
やもりわけ
)
さまで
在
(
あ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
036
私
(
わたし
)
に
漆別
(
うるしわけ
)
だなぞと、
037
よう
胡麻化
(
ごまくわ
)
されたものですなア。
038
お
寅
(
とら
)
さまとも
深
(
ふか
)
い
関係
(
くわんけい
)
があるなり、
039
お
花
(
はな
)
さまとも
関係
(
くわんけい
)
があり、
040
其
(
その
)
上
(
うへ
)
又
(
また
)
私
(
わたし
)
とも
関係
(
くわんけい
)
をつけ、
041
女
(
をんな
)
に
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
まして
喜
(
よろこ
)
んで
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふ、
042
女蕩
(
をんなたら
)
しの、
043
後家倒
(
ごけたふ
)
しの
勇者
(
ゆうしや
)
だから、
044
本当
(
ほんたう
)
に
私
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
が
出来
(
でき
)
ませぬわ。
045
コンナ
気
(
き
)
の
多
(
おほ
)
い
人
(
ひと
)
、
046
ふツつりと
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
らうかと、
047
幾度
(
いくど
)
か
思
(
おも
)
ひ
返
(
かへ
)
して
見
(
み
)
ましたが、
048
どうしたものか
罪
(
つみ
)
な
貴方
(
あなた
)
が、
049
可愛
(
かは
)
ゆうて
可愛
(
かは
)
ゆうて、
050
忘
(
わす
)
れられないのですよ。
051
どうか
私
(
わたし
)
を
下女
(
げぢよ
)
になつと
使
(
つか
)
つて、
052
お
傍
(
そば
)
において
下
(
くだ
)
さいな。
053
本妻
(
ほんさい
)
にならうなどと、
054
ソンナ
欲望
(
よくばう
)
は
起
(
おこ
)
しませぬからな』
055
守宮別
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふお
前
(
まへ
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
女
(
をんな
)
だらう。
056
お
前
(
まへ
)
の
父親
(
てておや
)
のヤクは、
057
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
代物
(
しろもの
)
だが、
058
何
(
なん
)
で
又
(
また
)
アンナ
男
(
をとこ
)
の
胤
(
たね
)
に、
059
お
前
(
まへ
)
のやうな
立派
(
りつぱ
)
な
淑女
(
しゆくぢよ
)
が
生
(
うま
)
れたのだらうかな。
060
まるきり
雀
(
すずめ
)
が
鷹
(
たか
)
を
生
(
う
)
みたやうなものだよ』
061
綾子
『ホヽヽヽヽ、
062
私
(
わし
)
を
讃
(
ほ
)
めて
下
(
くだ
)
さるのは
嬉
(
うれ
)
しう
厶
(
ござ
)
いますが、
063
肝腎
(
かんじん
)
のお
父
(
とう
)
さまをさうこき
下
(
おろ
)
して
貰
(
もら
)
ふと、
064
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
りお
腹
(
なか
)
の
虫
(
むし
)
が
騒
(
さわ
)
ぎますよ。
065
ねえ
旦那
(
だんな
)
さま』
066
守宮別
『ヤアこれは
失礼
(
しつれい
)
、
067
誠
(
まこと
)
に
悪
(
わる
)
かつた。
068
お
前
(
まへ
)
のやうな
女
(
をんな
)
を
女房
(
にようばう
)
にしたら、
069
一生
(
いつしやう
)
の
幸福
(
かうふく
)
だらうよ。
070
良妻
(
りやうさい
)
賢母
(
けんぼ
)
の
模範
(
もはん
)
になるかも
知
(
し
)
れないよ』
071
綾子
『
今日
(
こんにち
)
の
所謂
(
いはゆる
)
良妻
(
りやうさい
)
賢母
(
けんぼ
)
にや
成
(
な
)
りたくはありませぬわ。
072
良妻
(
りやうさい
)
賢母
(
けんぼ
)
などと
云
(
い
)
つて、
073
孔子
(
こうし
)
とか
孟子
(
まうし
)
とか
云
(
い
)
ふ
唐
(
から
)
の
聖人
(
せいじん
)
が、
074
女
(
をんな
)
の
道徳
(
だうとく
)
許
(
ばか
)
り
説
(
と
)
いて、
075
男
(
をとこ
)
の
事
(
こと
)
は
些
(
ちつ
)
とも
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ないぢやありませぬか。
076
第一
(
だいいち
)
に
良妻
(
りやうさい
)
とはドンナ
型
(
かた
)
の
婦人
(
ふじん
)
を
指
(
さ
)
すのか、
077
それから
定
(
き
)
めて
置
(
お
)
かねばつまりませぬわ。
078
此
(
この
)
事
(
こと
)
についちや、
079
女子
(
ぢよし
)
大学
(
だいがく
)
の
先生
(
せんせい
)
だつて、
080
的確
(
てきかく
)
な
説明
(
せつめい
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
081
夫
(
をつと
)
は
晩酌
(
ばんしやく
)
の
相手
(
あひて
)
や
飯焚
(
めした
)
き
許
(
ばか
)
りさしておいて、
082
良妻
(
りやうさい
)
だと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
りますが、
083
私
(
わたし
)
に
云
(
い
)
はすと、
084
忠実
(
ちうじつ
)
な
下女
(
げぢよ
)
たる
事
(
こと
)
を
強要
(
きやうえう
)
して
居
(
ゐ
)
るものでせう。
085
小供
(
こども
)
が
悪戯
(
いたづら
)
をすれば、
086
お
前
(
まへ
)
の
躾
(
しつけ
)
が
悪
(
わる
)
いからと
妻君
(
さいくん
)
を
叱
(
しか
)
りつける
許
(
ばか
)
りで、
087
賢母
(
けんぼ
)
の
何
(
なん
)
たる
事
(
こと
)
を
弁
(
わきま
)
へない
男
(
をとこ
)
が
多
(
おほ
)
いのですわねえ』
088
守宮別
『
如何
(
いか
)
にもそれやさうだ。
089
仲々
(
なかなか
)
利口
(
りこう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふわい。
090
それが
所謂
(
いはゆる
)
良妻
(
りやうさい
)
賢母
(
けんぼ
)
になるべき
資格
(
しかく
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るからだ。
091
オイ
綾子
(
あやこ
)
、
092
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
にお
前
(
まへ
)
より
外
(
ほか
)
に、
093
私
(
わし
)
は
好
(
す
)
きな
女
(
をんな
)
はないのだからな。
094
どうだ、
095
これから
一
(
ひと
)
つ
千辛
(
せんしん
)
万難
(
ばんなん
)
を
排
(
はい
)
し、
096
恋
(
こひ
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
となつて
善良
(
ぜんりやう
)
な
夫婦
(
ふうふ
)
の
模範
(
もはん
)
とならうぢやないか』
097
綾子
『
私
(
わたし
)
は
善良
(
ぜんりやう
)
なる
妻
(
つま
)
として、
098
どこ
迄
(
まで
)
も
仕
(
つか
)
へますが、
099
旦那
(
だんな
)
さまのやうに、
100
沢山
(
たくさん
)
な
細女
(
くわしめ
)
をお
持
(
も
)
ちなさつては、
101
善良
(
ぜんりやう
)
な
夫
(
をつと
)
とは
世間
(
せけん
)
から
云
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れますまい』
102
守宮別
『それやさうぢや、
103
実
(
じつ
)
に
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
をしたものだよ。
104
あの
執念深
(
しふねんぶか
)
いお
寅
(
とら
)
だつて、
105
お
花
(
はな
)
だつて、
106
仲々
(
なかなか
)
この
儘
(
まま
)
にしておいて
呉
(
く
)
れる
道理
(
だうり
)
もなし、
107
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
病院
(
びやうゐん
)
で
死
(
し
)
んで
呉
(
く
)
れるといいのだけれどなア』
108
綾子
『
旦那
(
だんな
)
さま、
109
ソンナ
無情
(
むじやう
)
な
事
(
こと
)
が
厶
(
ござ
)
いますか。
110
私
(
わたし
)
も
昨夜
(
ゆうべ
)
は
嚇
(
くわつ
)
と
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちましたが、
111
家
(
うち
)
にかへり、
112
よく
考
(
かんが
)
へてみましたが、
113
どれ
程
(
ほど
)
旦那
(
だんな
)
さまが
恋
(
こひ
)
しうても、
114
あれ
程
(
ほど
)
年
(
とし
)
をとられたお
寅
(
とら
)
さまや、
115
お
花
(
はな
)
さまがいらつしやるのに、
116
若
(
わか
)
い
私
(
わたし
)
が
独占
(
どくせん
)
すると
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にはいけますまい。
117
何程
(
なにほど
)
旦那
(
だんな
)
さまが
私
(
わたし
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さつても、
118
お
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
に
対
(
たい
)
してすみませぬもの。
119
私
(
わたし
)
の
若
(
わか
)
い
年
(
とし
)
や
美貌
(
びばう
)
で、
120
恋
(
こひ
)
を
争
(
あらそ
)
ふのなら、
121
何程
(
なにほど
)
お
寅
(
とら
)
さまやお
花
(
はな
)
さまが、
122
かにここ
をこいて
気張
(
きば
)
られても
耐
(
こた
)
へませぬ。
123
きつと
月桂冠
(
げつけいくわん
)
は
私
(
わたし
)
が
取
(
と
)
りますが、
124
併
(
しか
)
し
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふものは、
125
そんな
我儘
(
わがまま
)
勝手
(
かつて
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
126
どうか、
127
お
寅
(
とら
)
さまと、
128
お
花
(
はな
)
さまの
仲
(
なか
)
を
和合
(
わがふ
)
させ、
129
仲好
(
なかよ
)
う
暮
(
くら
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
130
私
(
わたし
)
は
下女
(
げぢよ
)
となつて
忠実
(
ちうじつ
)
に
勤
(
つと
)
めさせて
頂
(
いただ
)
きますから』
131
守宮別
(
やもりわけ
)
は
綾子
(
あやこ
)
の
言葉
(
ことば
)
の
意外
(
いぐわい
)
なるに
驚歎
(
きやうたん
)
し
まじ
まじと
顔
(
かほ
)
を
打
(
う
)
ち
守
(
まも
)
り
乍
(
なが
)
ら、
132
守宮別
『ヤア
綾子
(
あやこ
)
、
133
お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だよ。
134
しかも
平和
(
へいわ
)
の
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
だ、
135
俺
(
おれ
)
も
今迄
(
いままで
)
の
心
(
こころ
)
をすつぱり
改
(
あらた
)
めて、
136
善良
(
ぜんりやう
)
なる
夫
(
をつと
)
となるから、
137
どうぞ
見捨
(
みす
)
てて
呉
(
く
)
れな』
138
綾子
『ハイ、
139
どうして
見捨
(
みす
)
てませう。
140
併
(
しか
)
し
旦那
(
だんな
)
さま、
141
私
(
わたし
)
だつてお
花
(
はな
)
さまだけの
年
(
とし
)
を
取
(
と
)
つて
居
(
を
)
りましたら、
142
きつとお
花
(
はな
)
さまのやうに
見捨
(
みす
)
てられたかも
知
(
し
)
れませぬよ。
143
それを
思
(
おも
)
ふと、
144
お
花
(
はな
)
さまや、
145
お
寅
(
とら
)
さまに
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
耐
(
たま
)
りませぬわねえ』
146
かく
話
(
はなし
)
して
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
へ
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
き
面貌
(
めんぼう
)
で、
147
ツーロの
案内
(
あんない
)
につれ
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
たのはお
寅
(
とら
)
であつた。
148
お寅
『ハイ
御免
(
ごめん
)
なさいませ。
149
憎
(
にく
)
まれ
者
(
もの
)
のお
寅
(
とら
)
が、
150
お
一寸
(
ちよつと
)
お
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しましたが、
151
どうか
暫
(
しばら
)
くでよろしいから、
152
守宮別
(
やもりわけ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
が
願
(
ねが
)
ひとう
厶
(
ござ
)
います』
153
と
三号室
(
さんがうしつ
)
[
※
守宮別と綾子が居るのは二号室。三号室は隣の部屋。
]
に
立
(
た
)
ちはだかつて
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
154
守宮別
(
やもりわけ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
し、
155
夜具
(
やぐ
)
を
頭
(
あたま
)
から
引
(
ひ
)
つかぶつて、
156
守宮別
『ヤア
大変
(
たいへん
)
だ、
157
お
寅
(
とら
)
がやつて
来
(
き
)
た』
158
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
身体
(
からだ
)
をビリビリふるはして
居
(
ゐ
)
る。
159
綾子
『ホヽヽヽヽ、
160
あのまア
旦那
(
だんな
)
さまの
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
。
161
お
寅
(
とら
)
さまが
御
(
ご
)
訪問
(
はうもん
)
下
(
くだ
)
さつたぢやありませぬか。
162
別
(
べつ
)
にこれと
云
(
い
)
ふ
悪事
(
あくじ
)
を
遊
(
あそ
)
ばしたのでもなし、
163
正々
(
せいせい
)
堂々
(
だうだう
)
とお
会
(
あ
)
ひなさつたらどうですか』
164
守宮別
『ヤ、
165
煩
(
うる
)
さい
煩
(
うる
)
さい。
166
留守
(
るす
)
だと
云
(
い
)
つて
逐帰
(
おひかへ
)
して
呉
(
く
)
れ、
167
頼
(
たの
)
みだから』
168
綾子
『
留守
(
るす
)
でもないのにソンナ
嘘
(
うそ
)
が
申
(
まを
)
されますか。
169
ソンナラ
私
(
わたし
)
が
代
(
かは
)
りにお
目
(
め
)
にかかりませうか』
170
守宮別
『おけおけ、
171
又
(
また
)
撲
(
なぐ
)
りつけられて、
172
病院行
(
びやうゐんゆき
)
をせなくてはならないやうになるぞ。
173
アンナ
狂人婆
(
きちがひばば
)
には
誰
(
たれ
)
だつて
叶
(
かな
)
はない。
174
况
(
まし
)
てお
前
(
まへ
)
の
美
(
うつく
)
しい
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
よつたら、
175
悋気
(
りんき
)
の
角
(
つの
)
がますます
尖
(
とが
)
つて、
176
ドンナ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はすか
知
(
し
)
れやしないわ』
177
綾子
『ホヽヽヽヽ、
178
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
179
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
と、
180
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
、
181
何程
(
なにほど
)
強
(
つよ
)
いとて
知
(
し
)
れたものぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
182
それなら
私
(
わたし
)
がお
寅
(
とら
)
さまに
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
に
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
ます。
183
どうか
折
(
をり
)
を
見
(
み
)
て
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
に
出
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
184
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らドアを
開
(
あ
)
け、
185
三号室
(
さんがうしつ
)
に
悠々
(
いういう
)
と
現
(
あら
)
はれ
見
(
み
)
れば、
186
お
寅
(
とら
)
は
火鉢
(
ひばち
)
の
前
(
まへ
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
しめ
)
て、
187
すぱりすぱりと
煙草
(
たばこ
)
を
燻
(
くゆ
)
らして
居
(
ゐ
)
る。
188
綾子
『アヽこれはこれはお
寅
(
とら
)
さまで
厶
(
ござ
)
いますか。
189
好
(
よ
)
くこそ
旦那
(
だんな
)
さまを
訪
(
たづ
)
ねて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいました。
190
ちつと
許
(
ばか
)
り
御
(
ご
)
不快
(
ふくわい
)
でやすみて
居
(
ゐ
)
られますので、
191
私
(
わたし
)
が
代
(
かは
)
つて
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げます。
192
私
(
わたし
)
は
有明家
(
ありあけや
)
の
賤
(
いや
)
しい
勤
(
つと
)
めをして
居
(
を
)
ります
綾子
(
あやこ
)
と
云
(
い
)
ふ
芸者
(
げいしや
)
で
厶
(
ござ
)
います。
193
ふとした
事
(
こと
)
から
守宮別
(
やもりわけ
)
さまの
御
(
ご
)
贔屓
(
ひいき
)
に
預
(
あづ
)
かり、
194
お
世話
(
せわ
)
になつて
居
(
を
)
ります。
195
どうかお
見捨
(
みす
)
てなく、
196
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
197
と
両手
(
りやうて
)
をついて
慇懃
(
いんぎん
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
をする。
198
お寅
『お
前
(
まへ
)
があの
評判
(
ひやうばん
)
の
高
(
たか
)
い
有明家
(
ありあけや
)
の
綾子
(
あやこ
)
さまですかい。
199
見
(
み
)
れば
見
(
み
)
る
程
(
ほど
)
お
綺麗
(
きれい
)
なお
子
(
こ
)
ですこと。
200
成程
(
なるほど
)
守宮別
(
やもりわけ
)
さまが
首
(
くび
)
つ
丈
(
たけ
)
はまつて、
201
呆
(
はう
)
けられるのも
無理
(
むり
)
は
厶
(
ござ
)
いますまい』
202
綾子
『
素性
(
すじやう
)
の
賤
(
いや
)
しい
女
(
をんな
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
203
到底
(
たうてい
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
をして
入
(
い
)
らつしやるお
方
(
かた
)
のお
傍
(
そば
)
へは、
204
寄
(
よ
)
りつけないのですけれど、
205
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
されて、
206
赦
(
ゆる
)
されて
居
(
ゐ
)
るのです。
207
私
(
わたし
)
の
父
(
ちち
)
がひどく
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になりましたさうで、
208
有難
(
ありがた
)
う
御
(
お
)
礼
(
れい
)
申上
(
まをしあ
)
げます』
209
お寅
『お
前
(
まへ
)
のお
父
(
とう
)
さまと
仰有
(
おつしや
)
るのは、
210
誰人
(
どなた
)
の
事
(
こと
)
だい』
211
綾子
『ハイ、
212
あの
酒喰
(
さけくら
)
ひの
仕方
(
しかた
)
のないヤクで
厶
(
ござ
)
います』
213
お寅
『ナントまア、
214
縁
(
えん
)
と
云
(
い
)
ふものは
不思議
(
ふしぎ
)
なものだなア。
215
さう
聞
(
き
)
くとヤクさまの
目許
(
めもと
)
にお
前
(
まへ
)
さまの
目
(
め
)
はよく
似
(
に
)
て
居
(
ゐ
)
ますわ。
216
どうして
又
(
また
)
ヤクさまのやうな
男
(
をとこ
)
に、
217
コンナ
娘
(
むすめ
)
が
出来
(
でき
)
たものだらうかな。
218
時
(
とき
)
に
綾子
(
あやこ
)
さま、
219
お
前
(
まへ
)
さまは
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
けばお
花
(
はな
)
さまを
逐出
(
おひだ
)
したと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だが、
220
私
(
わたし
)
はそれを
聞
(
き
)
いて
本当
(
ほんたう
)
に
痛快
(
つうくわい
)
に
思
(
おも
)
ひましたよ。
221
どうか
精々
(
せいぜい
)
死力
(
しりよく
)
を
尽
(
つく
)
して、
222
あの
悪魔
(
あくま
)
を
排除
(
はいじよ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
223
守宮別
(
やもりわけ
)
さまの
御
(
お
)
身
(
み
)
の
為
(
ため
)
だからなア』
224
綾子
『お
寅
(
とら
)
さま、
225
承
(
うけたま
)
はりますれば
貴方
(
あなた
)
は、
226
守宮別
(
やもりわけ
)
様
(
さま
)
とは
師弟
(
してい
)
以外
(
いぐわい
)
の
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い
御
(
ご
)
関係
(
くわんけい
)
がお
有
(
あ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ですが、
227
それや
本当
(
ほんたう
)
で
厶
(
ござ
)
いますか』
228
お寅
『
本当
(
ほんたう
)
だとも、
229
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
結
(
むす
)
ばれた
御魂
(
みたま
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
だよ』
230
綾子
『それに
又
(
また
)
お
花
(
はな
)
さまにお
譲
(
ゆづ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたのですかい』
231
お寅
『
決
(
けつ
)
して
譲
(
ゆづ
)
りませぬ。
232
お
花
(
はな
)
の
奴
(
やつ
)
いろいろと
奸策
(
かんさく
)
を
弄
(
ろう
)
し
守宮別
(
やもりわけ
)
さまをちよろまかし、
233
私
(
わたし
)
の
男
(
をとこ
)
を
横取
(
よこどり
)
したのですよ。
234
本当
(
ほんたう
)
に
仕方
(
しかた
)
のない
売女
(
ばいた
)
ですよ』
235
綾子
『そりや
大変
(
たいへん
)
お
気
(
き
)
が
揉
(
も
)
める
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いませうね。
236
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
お
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します。
237
私
(
わたし
)
だつてやつぱし
守宮別
(
やもりわけ
)
さまを
横取
(
よこどり
)
したやうになりますわ』
238
お寅
『そらさうでせう。
239
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたし
)
の
男
(
をとこ
)
を
貴方
(
あなた
)
は
取
(
と
)
つたのぢやない。
240
私
(
わたし
)
の
男
(
をとこ
)
はお
花
(
はな
)
が
取
(
と
)
つたのだ。
241
お
花
(
はな
)
の
男
(
をとこ
)
を
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
さまが
取
(
と
)
つたのだ。
242
それだから
私
(
わたし
)
はお
前
(
まへ
)
さまに
対
(
たい
)
して
感謝
(
かんしや
)
こそすれ
恨
(
うら
)
みなどは
些
(
ちつ
)
とも
懐
(
いだ
)
いては
居
(
ゐ
)
ませぬよ。
243
お
前
(
まへ
)
さまがあつたらこされ、
244
私
(
わたし
)
の
胸
(
むね
)
が
晴
(
は
)
れたのですよ。
245
本当
(
ほんたう
)
に
御
(
ご
)
器量
(
きりやう
)
と
云
(
い
)
ひ、
246
スタイルと
云
(
い
)
ひ、
247
お
賢
(
かしこ
)
い
処
(
ところ
)
と
云
(
い
)
ひ、
248
守宮別
(
やもりわけ
)
さまには
打
(
う
)
つてすげたやうな
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
ですわ、
249
オホヽヽヽ』
250
綾子
『
誠
(
まこと
)
にすみませぬ、
251
畏
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
りました』
252
お寅
『これ
綾子
(
あやこ
)
さま、
253
お
花
(
はな
)
は
博愛
(
はくあい
)
病院
(
びやうゐん
)
へ
入院
(
にふゐん
)
して
居
(
ゐ
)
るさうだが、
254
彼奴
(
あいつ
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ても
負
(
ま
)
けちやいけませぬよ。
255
お
前
(
まへ
)
さまの
美貌
(
びばう
)
と
愛嬌
(
あいけう
)
とで
守宮別
(
やもりわけ
)
さまを
蕩
(
とろ
)
かし、
256
お
花
(
はな
)
の
方
(
はう
)
へは
一瞥
(
いちべつ
)
もくれないやうに、
257
守宮別
(
やもりわけ
)
さまの
心
(
こころ
)
を
翻
(
ひるがへ
)
して
下
(
くだ
)
さい。
258
私
(
わたし
)
も
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
お
前
(
まへ
)
さまに
応援
(
おうゑん
)
しますからなア』
259
綾子
(
あやこ
)
『
私
(
わたし
)
は
貴女
(
あなた
)
に
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ』
260
と
差俯向
(
さしうつむ
)
いて
顔
(
かほ
)
をかくす。
261
守宮別
(
やもりわけ
)
は
最前
(
さいぜん
)
から
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
たが
余
(
あま
)
りお
寅
(
とら
)
の
話
(
はなし
)
ぶりが
穏
(
おだや
)
かなのでやつと
安心
(
あんしん
)
し、
262
アアと
欠伸
(
あくび
)
をしながら、
263
三号室
(
さんがうしつ
)
に
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り、
264
守宮別
『ヤ、
265
これはこれはお
寅
(
とら
)
さま、
266
ようまあ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
267
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
り
私
(
わたし
)
はお
花
(
はな
)
の
奴
(
やつ
)
に
睾丸
(
きんたま
)
を
締
(
し
)
め
上
(
あ
)
げられ、
268
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
顔
(
かほ
)
は
掻
(
か
)
きむしられ、
269
蚯蚓膨
(
みみづばれ
)
が
出来
(
でき
)
ましたので、
270
臥
(
ふ
)
せつて
居
(
を
)
りました。
271
さアどうぞお
茶
(
ちや
)
なと
呑
(
あが
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
272
お寅
『ホヽヽヽ、
273
妙
(
めう
)
な
顔
(
かほ
)
だこと。
274
あまり
箸豆
(
はしまめ
)
なものだから、
275
天罰
(
てんばつ
)
が
当
(
あた
)
るのですよ。
276
全
(
まつた
)
く
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
さまがお
花
(
はな
)
の
手
(
て
)
を
借
(
か
)
りて、
277
貴方
(
あなた
)
を
御
(
ご
)
折檻
(
せつかん
)
なされたのだ。
278
よい
加減
(
かげん
)
に
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
なさらぬと、
279
怖
(
こは
)
い
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ますよ。
280
又
(
また
)
なんであんな
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
いお
花
(
はな
)
に
呆
(
とぼ
)
けたのです。
281
大方
(
おほかた
)
悪魔
(
あくま
)
に
魅
(
みい
)
られたのでせう』
282
綾子
『お
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
のお
話
(
はなし
)
の
邪魔
(
じやま
)
になるといけないから、
283
一寸
(
ちよつと
)
失礼
(
しつれい
)
さして
頂
(
いただ
)
きます。
284
父
(
ちち
)
が
病室
(
びやうしつ
)
を
其
(
そ
)
の
間
(
ま
)
に
見舞
(
みま
)
ふてやりますから』
285
と
粋
(
すゐ
)
を
利
(
き
)
かして
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退
(
しりぞ
)
いた。
286
お寅
『これ
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
287
なぜお
花
(
はな
)
のやうな
ガラクタ
霊
(
みたま
)
にお
前
(
まへ
)
さまは
呆
(
とぼ
)
けるのだい。
288
私
(
わたし
)
と
約束
(
やくそく
)
した
事
(
こと
)
を、
289
お
前
(
まへ
)
さまは
反古
(
ほご
)
にする
気
(
き
)
かい』
290
と
胸倉
(
むなぐら
)
をグツと
取
(
と
)
つて
揺
(
ゆ
)
する。
291
守宮別
『ヤお
寅
(
とら
)
さま、
292
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
は
尤
(
もつと
)
もだが、
293
これには
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い
訳
(
わけ
)
があるのだから、
294
決
(
けつ
)
してお
寅
(
とら
)
さまを
捨
(
す
)
てはせぬから、
295
まアとつくりと
私
(
わたし
)
の
腹
(
はら
)
を
聞
(
き
)
いて
下
(
くだ
)
さい』
296
お寅
『ヘン、
297
また
例
(
れい
)
の
慣用
(
くわんよう
)
手段
(
しゆだん
)
を
弄
(
ろう
)
し、
298
お
寅
(
とら
)
を
胡麻化
(
ごまくわ
)
さうと
思
(
おも
)
つたつて、
299
今日
(
けふ
)
は
其
(
その
)
手
(
て
)
には
乗
(
の
)
りませぬよ。
300
サ
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
白状
(
はくじやう
)
しなさい。
301
大
(
だい
)
それた
結婚
(
けつこん
)
するなぞと、
302
あまりぢやありませぬか』
303
守宮別
『まアお
寅
(
とら
)
、
304
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ちつけて
私
(
わたし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
一通
(
ひととほ
)
り
聞
(
き
)
いて
呉
(
く
)
れ。
305
実
(
じつ
)
はな、
306
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わし
)
と、
307
かうして
日々
(
にちにち
)
宣伝
(
せんでん
)
をやつて
居
(
ゐ
)
ても、
308
軍用金
(
ぐんようきん
)
があまり
豊富
(
ほうふ
)
でないものだから、
309
立派
(
りつぱ
)
な
家
(
いへ
)
を
借
(
か
)
る
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
310
あんな
狭
(
せま
)
い
露地
(
ろぢ
)
の
家
(
いへ
)
で、
311
ミロクの
御
(
ご
)
霊城
(
れいじやう
)
だと
何程
(
なにほど
)
叫
(
さけ
)
んで
見
(
み
)
た
処
(
ところ
)
で
駄目
(
だめ
)
だから、
312
そこでお
花
(
はな
)
の
懐中
(
くわいちう
)
にある
一万
(
いちまん
)
円
(
ゑん
)
の
金
(
かね
)
を
此方
(
こちら
)
へひつたくり、
313
お
前
(
まへ
)
とホテルでも
借
(
か
)
り、
314
お
前
(
まへ
)
と
大々
(
だいだい
)
的
(
てき
)
宣伝
(
せんでん
)
をやらうと
思
(
おも
)
つて、
315
甘
(
うま
)
くお
花
(
はな
)
の
喉許
(
のどもと
)
に
入
(
はい
)
り、
316
八九分
(
はちくぶ
)
成功
(
せいこう
)
して
居
(
ゐ
)
る
所
(
ところ
)
だから、
317
さう
慌
(
あわ
)
てずに
暫
(
しばら
)
く
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ。
318
さうすれやお
前
(
まへ
)
も
私
(
わし
)
の
誠意
(
せいい
)
が
分
(
わか
)
るだらうから、
319
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
金
(
かね
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だからのう』
320
お寅
『なる
程
(
ほど
)
、
321
それで
分
(
わか
)
りました。
322
併
(
しか
)
し
祝言
(
しうげん
)
の
盃
(
さかづき
)
したのは、
323
チツと
怪
(
あや
)
しいぢやありませぬか』
324
守宮別
『
誰
(
たれ
)
が
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
から
祝言
(
しうげん
)
なんかするものかい。
325
そこ
迄
(
まで
)
して
見
(
み
)
せぬとお
花
(
はな
)
が
安心
(
あんしん
)
せないからだ』
326
お寅
『
成程
(
なるほど
)
、
327
滅多
(
めつた
)
に
守宮別
(
やもりわけ
)
さまに、
328
ソンナ
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
があらうとは
思
(
おも
)
はなかつたですよ。
329
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
さまも
矢張
(
やつぱり
)
偉
(
えら
)
いわい。
330
仰有
(
おつしや
)
つた
通
(
とほ
)
りだもの』
331
守宮別
(
やもりわけ
)
は、
332
守宮別
『ハヽヽヽ、
333
仕様
(
しやう
)
もない』
334
お
寅
(
とら
)
『
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
335
これ
守宮別
(
やもりわけ
)
さま、
336
有明家
(
ありあけや
)
の
綾子
(
あやこ
)
に、
337
お
前
(
まへ
)
さまは
有頂天
(
うちやうてん
)
になつて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
338
守宮別
『なに、
339
お
花
(
はな
)
の
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
まして、
340
悋気
(
りんき
)
の
角
(
つの
)
を
生
(
は
)
やさせ、
341
二人
(
ふたり
)
に
競争
(
きやうそう
)
させて、
342
お
花
(
はな
)
の
懐中
(
くわいちゆう
)
の
一万
(
いちまん
)
円
(
ゑん
)
をおつ
放
(
ぽ
)
り
出
(
だ
)
させる
算段
(
さんだん
)
だ。
343
あの
綾子
(
あやこ
)
は
決
(
けつ
)
して
俺
(
おれ
)
との
間
(
あひだ
)
に
妙
(
めう
)
な
関係
(
くわんけい
)
は
結
(
むす
)
びて
居
(
ゐ
)
ない。
344
彼奴
(
あいつ
)
は
芸者
(
げいしや
)
だから、
345
金
(
かね
)
さへ
遣
(
や
)
れや、
346
どんな
芝居
(
しばゐ
)
でも
打
(
う
)
つ
代物
(
しろもの
)
だから、
347
俺
(
おれ
)
に
惚
(
ほれ
)
たやうな
顔
(
かほ
)
をして、
348
お
花
(
はな
)
に
競争心
(
きやうそうしん
)
を
起
(
おこ
)
させ、
349
ますますあれの
愛着心
(
あいちやくしん
)
を
強
(
つよ
)
うさせ、
350
一万
(
いちまん
)
両
(
りやう
)
をおつぽり
出
(
だ
)
させ、
351
お
前
(
まへ
)
にそつと
渡
(
わた
)
すと
云
(
い
)
ふ
俺
(
おれ
)
の
六韜
(
りくたう
)
三略
(
さんりやく
)
だよ。
352
何
(
なん
)
と
甘
(
うま
)
いものだらう』
353
お寅
『
遉
(
さすが
)
は
軍人
(
ぐんじん
)
育
(
そだ
)
ち
丈
(
だけ
)
あつて、
354
軍略
(
ぐんりやく
)
にかけたら
偉
(
えら
)
いものだ。
355
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
も
守宮別
(
やもりわけ
)
の
神謀
(
しんぼう
)
奇策
(
きさく
)
には
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
きませうわいホヽヽヽ』
356
(
大正一四・八・二一
旧七・二
於由良海岸秋田別荘
加藤明子
録)
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