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第二一章 不意(ふい)官命(くわんめい)〔一八二七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第4篇 清風一過 よみ(新仮名遣い):せいふういっか
章:第21章 不意の官命 よみ(新仮名遣い):ふいのかんめい 通し章番号:1827
口述日:1925(大正14)年08月21日(旧07月2日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:僧院ホテルの三号室 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-05-25 08:29:14 OBC :rm64b21
愛善世界社版:274頁 八幡書店版:第11輯 598頁 修補版: 校定版:279頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 カトリックの僧院(そうゐん)ホテルの第三号(だいさんがう)(しつ)には、002ヤクが身体(からだ)(きず)八九分(はちくぶ)(どほ)全快(ぜんくわい)したのでチョコナンとして一人(ひとり)留守番(るすばん)をしてゐる。003そこへ(あわ)ただしく(かへ)つて()たのは、004あやめのお(はな)であつた。
005お花『ヤ、006(まへ)はヤク、007よう、008マア神妙(しんめう)留守(るす)をしてゐて(くだ)さつたな。009(わたし)留守中(るすちう)に、010(とら)綾子(あやこ)()なかつたかな』
011ヤク『ハイ(ねずみ)一匹(いつぴき)012生物(いきもの)()つては、013()たものは(ござ)いませぬ』
014お花守宮別(やもりわけ)さまは、015どこへ()つたのだい』
016 『ヘー』とヤクは(あたま)()(なが)ら、
017ヤク奥様(おくさま)()入院中(にふゐんちう)018(とら)さまがおいでになり、019(なん)だか(うれ)しさうにコソコソと(はなし)をして()られましたよ』
020お花『ナーニ、021(とら)()た?』
022(はや)くも(かほ)()()げて逆上(ぎやくじやう)しさうになる。
023ヤク『もしもし(おく)さま、024()るは()ましたがね、025旦那(だんな)さまに(こつ)ぴどく肘鉄(ひぢてつ)()まされて、026(じつ)は、027コソコソと()げて()にましたよ。028ソリヤ、029どうも気持(きもち)がよいの、030よくないのつて、031溜飲(りういん)三斗(さんと)(ばか)(さが)つたやうでしたがな』
032お花『イエイエ、033そら、034(うそ)だよ。035(さき)(かか)(うそ)つかぬと()つてな、036(まへ)(はじ)めに()つた言葉(ことば)事実(じじつ)だらうがな。037ソンナ気休(きやす)文句(もんく)にごまかされて、038機嫌(きげん)(なほ)すやうなお(はな)ですかいな。039ヘン、040(まへ)(まで)がグルになつて、041(ひと)馬鹿(ばか)にして(くだ)さるなや』
042ヤク『ハイ、043トツト、044モウ、045ネツカラ、046ハイ、047(なん)ですな。048ソノ、049アノ、050それそれ、051あの(なん)ですわい』
052お花『これ、053ヤク』
054()(なが)らお(はな)は、055煙管(きせる)火鉢(ひばち)(かまち)をカンと(たた)き、
056お花『お(まへ)のやうなガラクタ人間(にんげん)はトツトと(かへ)つて(くだ)さい。057月給(げつきふ)をやる(どころ)か、058ここの支払(しはら)ひもチヤンとして(かへ)りなさいや。059もうお(まへ)には(よう)はないからなア』
060とツンとして(よこ)()く。061ヤクは俯向(うつむ)いて(あたま)をガシガシとかいてゐると、062階段(かいだん)をトントンと(ひび)かせ(なが)ら、063(かへ)つて()たのは守宮別(やもりわけ)である。064(はな)一目(ひとめ)()るより武者(むしや)()りつきグツと胸倉(むなぐら)()り、065(こゑ)をふるはせ(なが)ら、
066お花『コヽヽこりや、067真極道(しんごくだう)()068(ひと)馬鹿(ばか)にするにも(ほど)があるぢやないか。069こりやガラクタ、070今日(けふ)は、071どこへ、072うろついて()つた。073あからさまに白状(はくじやう)せぬかい』
074守宮別『こりやこりや、075(はな)076さうやかましう()つても仕様(しやう)がないぢやないか。077マアそこ(はな)してくれ。078(おれ)やお(まへ)橄欖山(かんらんざん)(まゐ)つたと()いて、079(あと)()つかけて()たのだが、080ネツカラ姿(すがた)()えないので、081ここへ(かへ)つて()たのだ。082それより(ほか)は、083どつこへも()つては()ないのだからな』
084 お(はな)胸倉(むなぐら)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(つか)み、085こつき(なが)ら、
086お花『こりや極道(ごくだう)087(ひと)(めくら)にするにも(ほど)がある。088(とら)自動車(じどうしや)()り、089宣伝歌(せんでんか)(うた)つてけつかつたぢやないか。090エーエ、091辛気(しんき)(くさ)い、092(わし)やもう(これ)から国許(くにもと)(かへ)る。093(とら)意茶(いちや)ついてお(くら)しなさい』
094守宮別『そら、095さうだ。096(おれ)(じつ)自動車(じどうしや)()(こと)()つた。097(しか)し、098(これ)には(いは)因縁(いんねん)があるのだ。099(とら)(やつ)100失敬(しつけい)千万(せんばん)な、101(おれ)とお(まへ)結婚(けつこん)したのを遺恨(ゐこん)()ちよつてな、102(まへ)(おれ)との宣伝歌(せんでんか)(つく)つて、103(うた)つてるので、104業腹(ごふはら)()まらぬから、105自動車(じどうしや)からつき(おと)してやらうとヒラリと()つた(ところ)106(まへ)姿(すがた)()たものだから、107(まち)をあちこちと(さが)して(かへ)つて()たのだよ。108さう悪気(わるぎ)をまはしちや、109(おれ)だつてやりきれないぢやないか』
110お花成程(なるほど)111さう()きやさうかも()れませぬね』
112とパツと()(はな)す。
113守宮別『ア、114これで()()無罪(むざい)放免(はうめん)だ。115(はな)大明神(だいみやうじん)116否々(いないな)木花(このはな)咲耶姫(さくやひめの)(みこと)(さま)117ようマア(たす)けて(くだ)さいました。118有難(ありがた)感謝(かんしや)(いた)します』
119お花『オホヽヽヽ、120そしてその宣伝(せんでん)ビラは、121(まへ)さま()つてゐるのかい』
122守宮別『イヤ、123(あわ)てて(いち)(まい)も、124ヨウ、125とつて()なかつたのだ。126(しか)(うた)文句(もんく)(おぼ)えてゐるよ』
127お花何分(なにぶん)記憶(きおく)のよい守宮別(やもりわけ)さまだから、128(おぼ)えてゐらつしやるのでせう。129一寸(ちよつと)ここで(うた)ふて()かして(くだ)さいな』
130守宮別『よしよし、131(はら)()てなよ』
132()(なが)ら、133(くち)から出鱈目(でたらめ)宣伝歌(せんでんか)(うた)つて()せる。
134守宮別()てよ(こら)せよ守宮別(やもりわけ)を、
135()てよ(こら)せよ、あやめのお(はな)
136彼奴(あいつ)二人(ふたり)のガラクタは
137この()(みだ)悪神(あくがみ)
138と、139このやうな(こと)(ぬか)しよるのだよ。140()しからぬぢやないか。141一体(いつたい)(とら)(やつ)142半狂乱(はんきやうらん)になつてゐるのだからなア』
143お花成程(なるほど)144ひどい(こと)()ひますね、145サアその(つぎ)()かして(くだ)さいな』
146守宮別守宮別(やもりわけ)大広木(おほひろき)
147偽乙姫(にせおとひめ)のお(はな)()
148(おほ)きな山子(やまこ)(たく)らみて
149(しん)ウラナイの(をしへ)をば
150()てて(まこと)のウラナイ(けう)
151この霊城(れいじやう)(くつが)へし
152天下(てんか)()らうと(たく)みゐる
153(おに)より(じや)よりひどい(やつ)
154()めよ(さと)れよエルサレム
155老若(らうにやく)男女(なんによ)人々(ひとびと)
156(まこと)(まこと)神柱(かむばしら)
157()出神(でのかみ)より(ほか)にない
158と、159コンナ(こと)(ぬか)しよつてな、160本当(ほんたう)(はら)()つたものだから、161一寸(ちよつと)自動車(じどうしや)()りこみ談判(だんぱん)してゐたのだ。162(とら)(やつ)163(てこ)でも(ぼう)でもいく(やつ)ぢやないわ』
164お花(てこ)でも(ぼう)でも、165いかぬ、166そのお(とら)さまが(こひ)しいのだもの、167(わたし)()らぬかと(おも)つてコツソリと密約(みつやく)締結(ていけつ)したのでせう。168何程(なにほど)孫呉(そんご)兵法(へいはふ)(もち)ゐて、169(はな)さまをちよろまかさうと(おも)つても、170(この)一万(いちまん)(ゑん)一文(いちもん)生中(きなか)(わた)しませぬよ。171ホヽヽヽ。172この宣伝(せんでん)ビラはどうです』
173(ふところ)から四五(しご)(まい)174(ほう)()して()せる。
175守宮別成程(なるほど)176こりや……お(とら)の……()いたのぢやなからう、177文句(もんく)(ちが)ふぢやないか』
178お花『お(とら)()いたのぢやありませぬよ。179守宮別(やもりわけ)()ふガラクタが()いたのですよ。180サアこれでも返答(へんたふ)(ござ)いますかな、181イヒヽヽヽヽ』
182守宮別『イヤ、183降参(かうさん)した、184(まへ)にやもう(かな)はぬわい。185(こら)へてくれ、186今日(けふ)(かぎ)改心(かいしん)するからな』
187お花『ヘン、188どうなつと、189勝手(かつて)になさいませ。190改心(かいしん)せうと慢心(まんしん)せうと、191(まへ)さまの(たましひ)だもの、192(わたし)はもう愛憎(あいそ)()きました。193以後(いご)はモウ関係(くわんけい)(いた)しませぬ。194これから(くに)(かへ)つて、195(まへ)やお(とら)さまの脱線振(だつせんぶり)を、196(かさ)(かさ)をかけて吹聴(ふいちやう)しますから、197その(つも)りで()つて(くだ)さい、198ホヽヽヽヽ』
199 守宮別(やもりわけ)言句(げんく)(いで)ず、200当惑(たうわく)してゐると、201そこへ自動車(じどうしや)(よこ)づけにして(のぼ)つて()たのは、202(とら)である。203(とら)(いち)()気絶(きぜつ)してゐたが、204医師(いし)看護(かんご)によつて(たちま)全快(ぜんくわい)し、205(また)もやお(はな)守宮別(やもりわけ)(とら)へて、206脂下(やにさが)つてゐないかと、207()(もの)もとり(あへ)ず、208やつて()たのである。
209 お(とら)(この)(てい)()て、
210お寅『これはこれはお(はな)さまで(ござ)いますか、211(なん)とマアお(なか)のよいこと、212ホヽヽヽ、213(じつ)にお(うらや)ましう(ござ)いますわいな』
214 お(はな)悪胴(わるどう)()ゑ、215(とら)尻目(しりめ)にかけ(なが)ら、
216お花『お(とら)さま、217何程(なにほど)愛嬌(あいけう)をふりまいて(くだ)さつても駄目(だめ)ですよ。218一万(いちまん)(りやう)(かね)(わたし)のものですから、219御用(ごよう)()てる(わけ)には()きませぬわい。220ようマア守宮別(やもりわけ)さまと、221ここ(まで)(ふか)(たく)んで(くだ)さいましたね。222流石(さすが)(わたし)師匠(ししやう)一旦(いつたん)なつて(くだ)さつた生宮(いきみや)(さま)(だけ)あつて、223(すご)腕前(うでまへ)224(じつ)感服(かんぷく)(いた)しました。225サアサアこの動物(どうぶつ)を、226勝手(かつて)()わへて(かへ)りて(くだ)さい、227(わたし)には、228チツとも未練(みれん)(ござ)いませぬから』
229 守宮別(やもりわけ)は「この動物(どうぶつ)」と()はれたのを(みみ)に、230はさみ、231ムツト(はら)()て、
232守宮別『コーリヤ、233従順(おとなし)くしてゐればつけあがり、234一人前(いちにんまへ)男子(だんし)をば、235動物(どうぶつ)とは(なん)だ』
236拳固(げんこ)をかためて()つてかからむとする。237(はな)平然(へいぜん)として、
238お花『ホヽヽヽ、239弥之助(やのすけ)人形(にんぎやう)空踊(からおど)り、240(おに)(めん)(かぶ)つて(ひと)(おどろ)かすやうな下手(へた)真似(まね)はなさいますなや。241アタ阿呆(あはう)らしい。242ソンナ(こと)でヘコたれるお(はな)ですかいな。243(とら)(ばば)一緒(いつしよ)(たく)みた芝居(しばゐ)も、244かう楽屋(がくや)()えては、245ヘン、246()(どく)さま。247むしろ(わたし)(はう)から同情(どうじやう)(なみだ)(そそ)ぎますわいな。248イヒヽヽヽヽ』
249お寅『これ、250(はな)さま、251あまりぢや(ござ)いませぬか。252(じふ)(ねん)(わたし)(そば)()つて、253まだ、254(わたし)(こころ)(わか)らないのですか』
255お花『どうも(わか)りませぬな。256手練(てれん)手管(てくだ)のあり(だけ)(つく)し、257千変(せんぺん)万化(ばんくわ)にヘグレてヘグレておへぐれ(あそ)ばすヘグレ武者(むしや)258へぐれのへぐれのヘグレ神社(じんじや)生宮(いきみや)さまだもの』
259 ()(たがひ)(どく)ついてゐる(ところ)へ、260エルサレム(しよ)高等係(かうとうがかり)二人(ふたり)巡査(じゆんさ)(とも)()(きた)り、
261高等係(警察)守宮別(やもりわけ)さまに、262一寸(ちよつと)()にかかり()いから取次(とりつ)いで(くだ)さい』
263 階下(かいか)にシヤガンでゐたボーイは、264米搗(こめつき)バツタ(よろ)しく、265もみ()をしたり、266(こし)幾度(いくど)(かが)(なが)ら、
267ボーイ『ハイ、268(かしこ)まりました』
269(さき)()三号室(さんがうしつ)案内(あんない)した。
270高等係『エー、271ン、272()(どく)(なが)本署(ほんしよ)より守宮別(やもりわけ)さま、273(とら)さま、274(はな)さまに(たい)し、275聖地(せいち)退去(たいきよ)命令(めいれい)()ましたから、276どうか(この)書面(しよめん)受印(うけいん)をして(くだ)さい』
277守宮別『コリヤ()しからぬ、278退去(たいきよ)命令(めいれい)()けるやうな(わる)(こと)をした(おぼ)えは(ござ)いませぬがな』
279高等係()(かく)280この指令書(しれいしよ)()んで御覧(ごらん)なさい。281……聖地(せいち)風儀(ふうぎ)(みだ)し、282治安(ちあん)妨害(ばうがい)ありと(みと)むるを(もつ)て、283三日(みつか)以内(いない)聖地(せいち)退却(たいきやく)すべし。284万一(まんいち)(こば)むに(おい)ては刑務所(けいむしよ)(さん)年間(ねんかん)投入(とうにふ)すべきものなり。285……と(しる)されてあります。286()(どく)(なが)用意(ようい)をして(もら)はねばなりませぬ』
287(さん)(にん)から受印(うけいん)()り、288靴音(くつおと)(たか)階段(かいだん)(くだ)りかへり()く。
289大正一四・八・二一 旧七・二 於由良秋田別荘 北村隆光録)
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