霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第八章 擬侠心(ぎけふしん)〔一八一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第2篇 鬼薊の花 よみ(新仮名遣い):おにあざみのはな
章:第8章 擬侠心 よみ(新仮名遣い):ぎきょうしん 通し章番号:1814
口述日:1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:橄欖山麓 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-07-31 03:14:07 文字数:3906 OBC :rm64b08
愛善世界社版:101頁 八幡書店版:第11輯 533頁 修補版: 校定版:101頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
派生[?]この文献を底本として書かれたと思われる文献です。[×閉じる]:出口王仁三郎著作集 > 第二巻 変革と平和 > 第三部 『霊界物語』の思想 > 擬侠心
001四、五人の労働者『僕(ぼく)の人生(じんせい)はどこにある
002朝(あさ)から晩(ばん)までタラタラと
003汗水(あせみづ)しぼつて金儲(かねまう)け
004しようと思(おも)つて人並(ひとなみ)に
005苦(くる)しみ悶(もだ)え汗膏(あせあぶら)
006殆(ほとん)ど尽(つ)きた此(この)体(からだ)
007膏(あぶら)のやうに絞(しぼ)られて
008身体(しんたい)頓(とみ)に骨立(こつりつ)し
009悲鳴(ひめい)をあぐるその中(うち)に
010君(きみ)と僕(ぼく)との人生(じんせい)は
011深(ふか)く潜(ひそ)んでゐるのだらう
012思(おも)へよ思(おも)へ友(とも)の君(きみ)
013資本(しほん)主義(しゆぎ)なる世(よ)の中(なか)は
014キヤピタリズムを唱(とな)ふれば
015大罪悪(だいざいあく)の酵母(かうぼ)だよ
016殺人(さつじん)強盗(がうたう)強姦(がうかん)や
017詐偽(さぎ)に窃盗(せつたう)脅喝(けふかつ)や
018まだあるまだある沢山(たくさん)に
019これもヤツパリ吾々(われわれ)が
020人生(じんせい)に処(しよ)する余儀(よぎ)なき手段(しゆだん)であるだらう
021このやうな事(こと)になつたのも
022キヤピタリズムの賜(たまもの)だ
023不労(ふらう)所得者(しよとくしや)の賜(たまもの)だ
024ガンヂガラミに縛(しば)つてる
025その方法(はうはふ)は警察(けいさつ)だ
026裁判所(さいばんしよ)だ刑務所(けいむしよ)だ
027も一(ひと)つひどいのは絞首台(かうしゆだい)
028おまけに憲兵(けんぺい)だ軍隊(ぐんたい)だ
029まだまだ無数(むすう)に手段(しゆだん)ある
030蜘蛛(くも)の巣(す)よりも巧妙(かうめう)に
031鋼鉄(かうてつ)よりも頑強(ぐわんきやう)に
032無数(むすう)の吸盤(きふばん)で吾々(われわれ)の
033生血(いきち)を吸(す)ふたり膏(あぶら)をば
034ねぶつて喰(くら)ふ資本(しほん)主義(しゆぎ)
035制度(せいど)の此(この)世(よ)にある限(かぎ)り
036君(きみ)等(ら)も吾(われ)等(ら)も助(たす)からぬ
037抑(そも)人生(じんせい)のおき所(どこ)が
038悪(わる)かつた為(ため)に吾々(われわれ)は
039膚(はだへ)は寒(さむ)く腹(はら)は餓(う)ゑ
040終(しまひ)にや縛(しば)られ殺(ころ)される
041何(なん)とかせねばならうまい
042悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)の此(この)制度(せいど)
043打(う)てや、こらせやブル階級(かいきふ)
044振(ふる)へよ、起(た)てやプロレタリヤ
045立(た)つべき時(とき)は今(いま)なるぞ
046政治(せいぢ)宗教(しうけう)法律(はふりつ)や
047倫理(りんり)や修身(しうしん)何(なん)になる
048吾(われ)等(ら)は命(いのち)を的(まと)にかけ
049子孫(しそん)のために悪制度(あくせいど)
050破壊(はくわい)せなくちや人生(じんせい)の
051大本分(だいほんぶん)が尽(つく)せない
052打(う)てや懲(こら)せやブルジョアを』
053と四五(しご)人(にん)の労働者(らうどうしや)が赤(あか)い旗(はた)を立(た)てて橄欖山(かんらんさん)麓(ろく)を歩(あゆ)んで来(く)る。054待(ま)ち構(かま)へて居(ゐ)た数名(すうめい)の警官(けいくわん)は有無(うむ)を云(い)はせず一人(ひとり)も残(のこ)らずフン縛(じば)つて了(しま)つた。
055警官(けいくわん)『コリヤ、056その方(はう)は今(いま)何(なに)を歌(うた)つてゐた。057不穏(ふおん)と認(みと)めるから捕縛(ほばく)したのだ。058調(しら)べる事(こと)があるからエルサレム署(しよ)迄(まで)キリキリ歩(あゆ)め』
059 その中(うち)の一人(ひとり)は盛(さかん)に首(くび)を振(ふ)り乍(なが)ら、
060トロッキー『オイ、061ポリス、062馬鹿(ばか)にすな、063俺(おれ)達(たち)はもとより主義(しゆぎ)の為(た)めに生命(いのち)を捨(す)ててゐるものだから、064拘引(こういん)位(ぐらゐ)は屁(へ)の茶(ちや)とも思(おも)つてゐないが、065然(しか)し乍(なが)ら、066人民(じんみん)の声(こゑ)を聞(き)いて省(かへりみ)たがよからうぞ。067貴様(きさま)は何(なん)だ、068僅(わづ)かな目(め)くされ金(がね)を貰(もら)ひやがつて人民(じんみん)の怨府(ゑんぷ)になり、069時代(じだい)錯誤(さくご)の張本人(ちやうほんにん)の部下(ぶか)となつて、070その日(ひ)を暮(くら)すとは実(まこと)に憐(あは)れつぽいものだのう。071俺(おれ)は、072かう見(み)えても世界(せかい)で有名(いうめい)なトロッキーだ。073どうだ、074今(いま)此(この)際(さい)俺(おれ)の云(い)ふ事(こと)を聞(き)いて一同(いちどう)の縛(ばく)を解(と)くか、075それとも時代(じだい)に目醒(めざ)めずして俺(おれ)等(たち)を拘引(こういん)するか。076忽(たちま)ち汝(なんぢ)が頭上(づじやう)に災(わざはひ)の来(きた)るは電光(でんくわう)石火(せきくわ)よりも速(すみや)かだぞ。077此(この)聖地(せいち)には俺(おれ)の部下(ぶか)が殆(ほとん)ど七八分(しちはちぶ)ある筈(はず)だ。078それだから何程(なにほど)法律(はふりつ)を喧(やかま)しく云(い)つても、079宗教(しうけう)を叫(さけ)んでも駄目(だめ)だ。080覚醒(かくせい)するなら今(いま)だが、081どうだ、082返答(へんたふ)を聞(き)かう。083それまでは一寸(いつすん)だつて吾々(われわれ)は動(うご)かないぞ』
084 警官(けいくわん)は互(たがひ)に顔(かほ)を見合(みあは)せ、085トロッキーと聞(き)いて、086稍(やや)恐怖心(きようふしん)に懸(か)られてゐる。087警官(けいくわん)は各(おのおの)耳(みみ)に口(くち)を寄(よ)せ善後策(ぜんごさく)について協議(けふぎ)をやつてゐる。088そこへ守宮別(やもりわけ)、089お花(はな)の両人(りやうにん)がホロ酔(ゑひ)機嫌(きげん)で現(あら)はれ来(き)たり、
090守宮(やもり)『オ、091これはこれは誰(たれ)かと思(おも)へば警官(けいくわん)、092こなたで厶(ござ)るか。093さてもさても沢山(たくさん)な得物(えもの)が厶(ござ)つたものだな。094エー、095併(しか)し乍(なが)ら、096御(ご)忠言(ちうげん)で恐(おそ)れ入(い)りますが、097一寸(ちよつと)、098私(わし)の言(い)ふ事(こと)も聞(き)いて下(くだ)さい。099永(なが)くお暇(ひま)はとりません。100何(なん)のために労働者(らうどうしや)をお縛(しば)りになつたのですか、101労働者(らうどうしや)は抑(そもそ)も国家(こくか)生産(せいさん)機関(きくわん)の基礎(きそ)で厶(ござ)いますよ』
102トロッキー『イヤ、103お前(まへ)さまが噂(うはさ)に高(たか)い日出島(ひのでじま)の守宮別(やもりわけ)さまだな、104そして、105そこにゐるのは有名(いうめい)なお寅(とら)さまかい』
106守宮(やもり)『イヤ、107お寅(とら)さまは、108一寸(ちよつと)様子(やうす)があつて此(この)頃(ごろ)霊城(れいじやう)に神界(しんかい)のため立籠(たてこ)もつてゐられますよ。109私(わたし)はお寅(とら)さまのお弟子(でし)と、110……エー……、111神界(しんかい)の御用(ごよう)でお山(やま)に詣(まい)る途中(とちう)ですが、112貴方(あなた)等(ら)が縛(しば)られとるのを見(み)て、113どうも、114黙過(もくくわ)する訳(わけ)にも行(ゆ)かず、115今(いま)警官(けいくわん)とかけあつてゐる処(ところ)ですよ。116又(また)何(なん)のために、117こんな目(め)にお会(あ)ひになつたのですか』
118トロッキー『今日(けふ)は全国(ぜんこく)の農民(のうみん)が労働(らうどう)を祝福(しゆくふく)すると共(とも)に、119暴逆(ばうぎやく)極(きは)まる資本(しほん)主義(しゆぎ)の搾取(さくしゆ)と圧制(あつせい)に対(たい)し、120一斉(いつせい)に抗議(かうぎ)を投(な)げつけるため、121世界(せかい)の無産(むさん)階級(かいきふ)のために友情(いうじやう)を示(しめ)し、122又(また)吾々(われわれ)団体(だんたい)の決意(けつい)と団結(だんけつ)の一層(いつそう)強固(きやうこ)ならむ事(こと)を誓(ちか)ふために、123示威(じゐ)運動(うんどう)を全国(ぜんこく)一斉(いつせい)に行(おこな)ふ日(ひ)です。124農民(のうみん)組合員(くみあひゐん)は一人(ひとり)も洩(も)れ落(お)ちなく、125婦人(ふじん)も少年(せうねん)も、126これに加(くは)はつて吾々(われわれ)の無産(むさん)階級(かいきふ)団体(だんたい)を作(つく)るための運動(うんどう)最中(さいちう)、127わからずやのポリスに引(ひつ)かかつたのですよ。128警官(けいくわん)が何(なん)と云(い)ふか知(し)りませぬが一同(いちどう)に農民歌(のうみんか)を歌(うた)はせますから、129それを聞(き)いて農民(のうみん)の苦境(くきやう)をお覚(さと)り下(くだ)さい』
130 『農民歌(のうみんか)始(はじ)め』と号令(がうれい)するや縛(しば)られた六(ろく)人(にん)を初(はじ)め、131その附近(ふきん)に立(た)つて居(ゐ)た人々(ひとびと)も口(くち)を揃(そろ)へて歌(うた)ひ出(だ)した。132警官(けいくわん)は呆気(あつけ)にとられて黙(だま)つて聞(き)いてゐる。
133一同『農(のう)に生(うま)れて農(のう)に生(い)き
134土(つち)を耕(たがや)し土(つち)に死(し)す
135痩(やせ)たる土(つち)の香(かを)りにも
136汗(あせ)と涙(なみだ)に生(い)きむとす
137吾(わが)生活(せいくわつ)の悲愴(ひさう)さは
138ブルジョア階級(かいきふ)の夢(ゆめ)にだに
139感知(かんち)し得(え)ざる悲惨(ひさん)さよ
140アヽ吾(わが)生命(せいめい)に力(ちから)あれ
141吾(わが)運動(うんどう)に力(ちから)あれ。
142○
 
143春(はる)幾度(いくたび)か廻(めぐ)れども
144富(と)みおごれるは農民(のうみん)の
145吾々(われわれ)老若(らうにやく)男女(なんによ)等(ら)が
146汗(あせ)と膏(あぶら)の賜物(たまもの)ぞ
147汗(あせ)とあぶらを盃(さかづき)に
148汲(く)んでは花(はな)にたわむれつ
149秋(あき)の月(つき)をば慰(なぐさ)めに
150酒(さけ)汲(く)み交(かは)すブル階級(かいきふ)
151寒(さむ)く餓(う)ゑたる同胞(はらから)を
152蔑(さげす)み笑(わら)ひ鞭(むちう)てり
153鬼(おに)か大蛇(をろち)か狼(おほかみ)か
154悪魔(あくま)のはばる此(この)世界(せかい)
155立替(たてかへ)せずにおくべきか
156吾(われ)等(ら)が生命(いのち)に力(ちから)あれ
157吾(われ)等(ら)が運動(うんどう)に力(ちから)あれ。
158○
 
159たぎるが如(ごと)き小山田(をやまだ)の
160真夏(まなつ)真昼(まひる)も孜々(しし)として
161滝(たき)なす汗(あせ)をしぼるのも
162来(きた)らむ秋(あき)の八百穂(やほかい)の
163稲(いね)の実(み)のりの肥料(こやし)ぞと
164苦熱(くねつ)を凌(しの)ぎ草(くさ)とれば
165高楼(かうろう)絃歌(げんか)にさんざめく
166吾(われ)等(ら)は命(いのち)を的(まと)として
167此(この)悪風(あくふう)を根絶(こんぜつ)し
168吾(われ)等(ら)の未来(みらい)を救(すく)ふべし
169未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ
170吾(わが)活動(くわつどう)に力(ちから)あれ
171吾(わが)生命(せいめい)に力(ちから)あれ
172○
 
173曙(あけぼの)白(しろ)く星(ほし)寒(さむ)く
174刃(やいば)の如(ごと)き秋(あき)の風(かぜ)
175山野(さんや)の草(くさ)は枯(か)れ尽(つく)し
176地上(ちじやう)一面(いちめん)霜(しも)をおき
177鎌(かま)を握(にぎ)れる此(この)手先(てさき)
178霜(しも)ふみしめし足(あし)の先(さき)
179罅(ひび)凍傷(しもやけ)に血走(ちばし)れど
180憩(いこ)はむ暇(ひま)さへなかりしが
181その収穫(しうくわく)は大部分(だいぶぶん)
182地主(ぢぬし)の倉(くら)に収(をさ)まりて
183淋(さび)しく泣(な)ける寒狐(かんぎつね)
184住(す)む家(いへ)さへも壁(かべ)は落(お)ち
185見(み)るも悲惨(ひさん)な光景(くわうけい)ぞ
186あゝ人生(じんせい)はかくの如(ごと)
187悲惨(ひさん)で一生(いつしやう)を通(とほ)すのか
188否々(いないな)決(けつ)してさうでない
189天(てん)の与(あた)へし田種物(たなつもの)
190働(はたら)くものの所有(しよいう)ぞや
191不労(ふらう)所得者(しよとくしや)の権力(けんりよく)が
192どこに一点(いつてん)あるものか
193吾(われ)等(ら)の運動(うんどう)に力(ちから)あれ
194未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ。
195○
 
196汗(あせ)と涙(なみだ)と血(ち)を捧(ささ)げ
197地上(ちじやう)に画(ゑ)がく芸術(げいじゆつ)の
198誇(ほこ)りも空(むな)しく夢(ゆめ)と消(き)え
199汗(あせ)と涙(なみだ)に汚(よご)れたる
200吾(われ)等(ら)が辛苦(しんく)の結晶(けつしやう)は
201奢侈(しやし)逸楽(いつらく)の犠牲(にへ)となり
202飢(うゑ)と寒(さむ)さに子(こ)等(ら)は泣(な)く
203あゝこの惨状(さんじやう)をいかにして
204いつ迄(まで)看過(かんくわ)出来(でき)やうか
205吾(われ)等(ら)の命(いのち)に力(ちから)あれ
206未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ。
207○
 
208咄(とつ)何者(なにもの)の奸策(かんさく)ぞ
209正義(せいぎ)の刃(やいば)に血(ち)は煙(けぶり)
210自由(じいう)の剣(つるぎ)をとりて立(た)つ
211雄々(をを)しき勇士(ゆうし)といたはしき
212妻子(つまこ)の上(うへ)に迫害(はくがい)の
213魔(ま)の手(て)は下(くだ)れり爪先(つまさき)を
214敏鎌(とかま)の如(ごと)く研(とぎ)すまし
215吾(われ)等(ら)が大切(だいじ)の玉(たま)の緒(を)を
216斬(き)らむと企(たく)むブル階級(かいきふ)
217倒(たふ)さにやならぬ吾々(われわれ)は
218この世(よ)この儘(まま)置(お)いたなら
219彼(かれ)等(ら)の為(ため)に亡(ほろ)ぼされ
220子孫(しそん)断絶(だんぜつ)するだらう
221吾(われ)等(ら)の生命(いのち)に力(ちから)あれ
222吾(われ)等(ら)の運動(うんどう)に力(ちから)あれ
223未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ。
224○
 
225壁(かべ)落(お)ち軒(のき)は傾(かたむ)けど
226五(ご)尺(しやく)の体(からだ)を休養(きうやう)する
227為(ため)には自由(じいう)の誇(ほこ)りあり
228吾(われ)等(ら)貧(まづ)しく疲(つか)れしも
229抱(いだ)く真理(しんり)に光(ひかり)あり
230永(なが)き搾取(さくしゆ)と圧制(あつせい)に
231反逆(はんぎやく)すべく起(た)てるなり
232未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ
233打(う)てよ懲(こら)せよブル階級(かいきふ)。
234○
 
235君(きみ)よ見(み)ざるや農民(のうみん)を
236全土(ぜんど)を覆(おほ)ひし団結(だんけつ)を
237君(きみ)聞(き)かざるや農民(のうみん)を
238来(きた)れよ友(とも)よと呼(よ)ぶ声(こゑ)を
239あゝ今(いま)吾(われ)等(ら)起(た)たずんば
240混沌(こんとん)の世(よ)を如何(いか)にせむ
241起(た)てよ振(ふる)へよ怒(いか)れよ狂(くる)へ
242未来(みらい)は吾(われ)等(ら)のものなるぞ』
243トロッキー『先(ま)づ吾々(われわれ)の主義(しゆぎ)は此(この)通(とほ)りで厶(ござ)います、244永(なが)らくの間(あひだ)、245農民(のうみん)は地主(ぢぬし)資本家(しほんか)のために生血(いきち)を絞(しぼ)られ、246痩衰(やせおとろ)へて参(まゐ)りました。247その為(ため)国家(こくか)の大本(たいほん)たるべき農民(のうみん)は身体(しんたい)骨立(こつりつ)し満足(まんぞく)な働(はたら)きも出来(でき)ないのです。248これに反(はん)して不労(ふらう)所得者(しよとくしや)たるブル階級(かいきふ)は豚(ぶた)の如(ごと)く、249象(ざう)の如(ごと)く肥太(こえふと)つて居(を)ります。250これも皆(みな)貧民(ひんみん)の生血(いきち)を搾取(さくしゆ)した結果(けつくわ)です。251神(かみ)の子(こ)と生(う)まれたる吾々(われわれ)人間(にんげん)が、252どうして此(この)惨状(さんじやう)を真面目(まじめ)に見(み)てゐる事(こと)が出来(でき)ませうか。253如何(いか)に宗教(しうけう)が倫理(りんり)を説(と)くとも、254天国(てんごく)を説(と)くとも、255法律(はふりつ)が八釜(やかま)しく取締(とりしま)つても、256パンなくして人(ひと)は世(よ)に生活(せいくわつ)する事(こと)は出来(でき)ますまい。257そのパンの大部分(だいぶぶん)を搾取(さくしゆ)する鬼(おに)や大蛇(をろち)の階級(かいきふ)を蕩滅(たうめつ)し、258平等愛(びやうどうあい)の世界(せかい)に作(つく)り上(あ)げるのは、259吾々(われわれ)志士(しし)たるものの天職(てんしよく)ではありませぬか。260無論(むろん)宗教(しうけう)は精神(せいしん)的(てき)に人類(じんるゐ)を救(すく)ふでせうが、261焦眉(せうび)の急(きふ)なる衣食住(いしよくぢう)の問題(もんだい)を閑却(かんきやく)しては、262宗教(しうけう)の権威(けんゐ)も有難味(ありがたみ)も厶(ござ)いますまい。263そんな手(て)ぬるい手段(しゆだん)では、264今日(こんにち)の世(よ)を救(すく)ふ事(こと)は駄目(だめ)だと思(おも)ひます』
265守宮(やもり)『成程(なるほど)尤(もつと)も千万(せんばん)だ、266僕(ぼく)は大賛成(だいさんせい)を致(いた)します。267もし警官(けいくわん)どの、268どうか此(この)憐(あは)れな労働者(らうどうしや)を解放(かいはう)して下(くだ)さい。269その代(かは)り拙者(せつしや)が代人(だいにん)となり括(くく)られませう』
270お花(はな)『これ、271守宮別(やもりわけ)さま、272何(なん)と云(い)ふ事(こと)を、273お前(まへ)さまは仰有(おつしや)るのだい。274人(ひと)の罪(つみ)迄(まで)引受(ひきう)けると云(い)ふ事(こと)が、275何処(どこ)にありますか。276私(わたし)をどうして下(くだ)さるおつもりですか』
277守宮(やもり)『ナザレのイエス・キリストでさへも世界(せかい)万民(ばんみん)のため十字架(じふじか)にかかられたぢやないか。278俺(おれ)がいつも酒(さけ)を飲(の)んで浮世(うきよ)を三分(さんぶ)五厘(ごりん)で暮(くら)してゐるのも、279社会(しやくわい)人類(じんるゐ)のため命(いのち)を投(な)げ出(だ)してゐるからだ。280ブラバーサやお寅(とら)さまの様(やう)に口(くち)ばつかり云(い)つて居(を)つても誠(まこと)が無(な)けりや駄目(だめ)だ。281俺(おれ)は之(これ)から無産(むさん)階級者(かいきふしや)の代表(だいへう)となつて処刑(しよけい)を受(う)けるつもりだ』
282お花(はな)『それも、283さうで厶(ござ)いませうが、284これ守宮別(やもりわけ)さま、285お前(まへ)さまが、286そんな処(ところ)へ行(い)つた後(あと)は、287妾(わたし)はどうするのですか』
288守宮(やもり)『お前(まへ)は、289精(せい)出(だ)してお酒(さけ)の差入(さしいれ)をするのだ』
290お花(はな)『酒(さけ)なんか差入(さしいれ)は出来(でき)ますまい』
291守宮(やもり)『出来(でき)いでかい。292今(いま)の役人(やくにん)は皆(みな)飢(ひだ)る腹(はら)をかかへてブリキを佩(つ)つて威張(ゐば)つてゐるから、293ソツと金(かね)さへやれや何(なん)でも、294云(い)ふ事(こと)を聞(き)くよ』
295 かかる所(ところ)へ俄(には)かに四辺(あたり)騒々(さうざう)しく数百(すうひやく)人(にん)の、296暴漢(ばうかん)が現(あら)はれて警官(けいくわん)を十重(とへ)二十重(はたへ)にとりまき袋叩(ふくろだた)きにして了(しま)つた。297トロッキーと名乗(なの)る男(をとこ)、298及(およ)び縛(ばく)されて居(ゐ)た連中(れんちう)は、299この隙(すき)に各(おのおの)縄目(なはめ)をとき凱歌(がいか)をあげ何処(どこ)ともなく消(き)えて了(しま)つた。300守宮別(やもりわけ)お花(はな)は得意(とくい)になり、301鼻歌(はなうた)を歌(うた)ひ乍(なが)ら橄欖山(かんらんさん)上(じやう)目(め)がけて登(のぼ)り行(ゆ)くのであつた。
302(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於丹後由良 北村隆光録)
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