霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 誤辛折(ごしんせつ)〔一八二二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第4篇 清風一過 よみ(新仮名遣い):せいふういっか
章:第16章 誤辛折 よみ(新仮名遣い):ごしんせつ 通し章番号:1822
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:御霊城、橄欖山 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2026-06-18 15:19:38 文字数:5267 OBC :rm64b16
愛善世界社版:215頁 八幡書店版:第11輯 576頁 修補版: 校定版:219頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 トルコ亭(てい)の細(ほそ)い路地(ろぢ)の衝(つ)き当(あた)りに、002お寅(とら)が設立(せつりつ)しておいた五六七(みろく)の霊城(れいじやう)には、003トンク、004テクの両人(りやうにん)が、005お寅(とら)と共(とも)に、006三(さん)人(にん)首(くび)を鳩(あつ)めて、007ヒソビソと話(はなし)に耽(ふけ)つて居(ゐ)る。
008お寅『コレ、009トンクさま、010一体(いつたい)あの守宮別(やもりわけ)さまとあやめのお花(はな)は、011どこへ行(い)つたのか、012お前(まへ)どうしても分(わか)らぬのかい』
013トンク『ハイ、014丸(まる)で煙(けむり)のやうな、015魔者(まもの)のやうなお方(かた)ですもの、016サーッパリ、017見当(けんたう)がつきませぬがな。018併(しか)し噂(うはさ)に聞(き)けば、019お花(はな)さまは守宮別(やもりわけ)さまと、020夫婦(ふうふ)約束(やくそく)をしられたとかいふ話(はなし)ですよ。021一昨日(おととひ)の晩(ばん)或(ある)人(ひと)から十字(じふじ)街頭(がいとう)で其(その)話(はなし)を聞(き)きましたので、022早速(さつそく)報告(はうこく)しようと思(おも)ひましたが、023生宮(いきみや)様(さま)の御(ご)病中(びやうちう)、024お気(き)をもませましては……と実(じつ)は控(ひか)えてをりました』
025 お寅(とら)は顔色(かほいろ)を変(か)へ、
026お寅『ナニ、027二人(ふたり)が結婚(けつこん)した。028ソラ本当(ほんたう)かいな、029ヨモヤ本当(ほんたう)ぢやあるまい』
030トンク『イエイエ、031実際(じつさい)の事(こと)云(い)やア、032貴方(あなた)が、033何(なん)でせう。034二人(ふたり)よつて、035何(なん)でせう。036守宮別(やもりわけ)とお花(はな)さまと手(て)を曳(ひ)いてやつて来(く)る所(ところ)を、037ペツタリ出会(でくは)し、038肚立(はらたち)紛(まぎ)れに卒倒(そつたう)なさつたのぢやありませぬか。039噂(うはさ)で聞(き)いたと云(い)ふのは実(じつ)はお正(しやう)月(ぐわつ)言葉(ことば)で、040実際(じつさい)、041私(わたし)も睦(むつ)まじ相(さう)にして歩(ある)いてる所(ところ)を目撃(もくげき)したのですもの。042なア、043テク、044さうだつたな』
045テク『ウンさうともさうとも、046あの時(とき)生宮(いきみや)さまがクワアッと逆上(ぎやくじやう)して、047暈(めまひ)を遊(あそ)ばし、048大地(だいち)に転倒(てんたう)されたぢやないか、049警察医(けいさつい)がやつて来(く)る、050群集(ぐんしふ)は山(やま)の如(ごと)くに出(で)てくるし、051もうエライ乱痴気(らんちき)騒(さわ)ぎで、052やつとの事(こと)生宮(いきみや)さまの気(き)がつき、053三台(さんだい)の俥(くるま)で、054生宮(いきみや)さまの警護(けいご)をし乍(なが)ら、055此処(ここ)へ帰(かへ)つて来(き)たのですワ』
056お寅『なる程(ほど)、057さう聞(き)くと、058夢(ゆめ)のやうにボーッと記憶(きおく)に浮(うか)んで来(く)るやうだ。059ハテナ、060コンナ大問題(だいもんだい)を今迄(いままで)スツカリ忘(わす)れて居(ゐ)たのかいな』
061トンク『そらさうです共(とも)、062エライ発熱(はつねつ)でしたよ。063昨日(さくじつ)迄(まで)ウサ言(ごと)計(ばか)り仰有(おつしや)つて、064吾々(われわれ)二人(ふたり)はどれ丈(だけ)介抱(かいほう)したか知(し)れやしませぬワ』
065お寅『いかにも、066憎(にく)い憎(にく)いあやめのお花(はな)奴(め)、067十(じふ)年(ねん)が間(あひだ)、068懇篤(こんとく)な教育(けういく)をうけ乍(なが)ら、069師匠(ししやう)の私(わたし)に揚壺(あげつぼ)をくはし、070おまけに人(ひと)の男(をとこ)を横領(わうりやう)して出(で)て行(ゆ)くとは、071犬畜生(いぬちくしやう)にも劣(おと)つた代物(しろもの)だ。072これが此(この)儘(まま)見逃(みのが)しておけるものか。073仮令(たとへ)両人(りやうにん)天(てん)を駆(か)けり地(ち)をくぐる共(とも)、074此(この)生宮(いきみや)が命(いのち)のあらむ限(かぎ)り、075岩(いは)をわつても捜(さが)し出(だ)し、076生首(なまくび)かかねばおくものか……』
077と面色(めんしよく)朱(しゆ)をそそぎ、078握(にぎ)り拳(こぶし)を固(かた)めて、079二(ふた)つ三(みつ)つ自分(じぶん)の胸(むね)をうち乍(なが)ら、080又(また)もやパタリと倒(たふ)れ伏(ふ)しけり。
081トンク『オイ、082テク何(ど)うせうかな。083しまひにや気違(きちが)ひになつて了(しま)やしまいかな』
084テク『サ、085さうだから、086守宮別(やもりわけ)、087お花(はな)の事(こと)はいふないふなと俺(おれ)が注意(ちうい)するのに、088トンク汝(きさま)が軽(かる)はずみな事(こと)を言(い)ふから、089コンナ事(こと)になつたのだよ。090男(をとこ)の口(くち)の軽(かる)いのも困(こま)るぢやないか』
091トンク『それだと言(い)つて、092いつ迄(まで)もかくしてゐる訳(わけ)にも行(ゆ)かず、093モウ余程(よほど)精神(せいしん)が安定(あんてい)したとみたものだから、094一寸(ちよつと)云(い)つてみたのだよ。095俺(おれ)だつて、096コンナになると思(おも)や、097うつかり喋(しやべ)るのぢやなかつたけれどなア』
098テク『兎(と)も角(かく)、099冷水(ひやみづ)でも汲(く)んで、100頭(あたま)を冷(ひや)してやらうぢやないか。101コンナ所(ところ)で死(し)なれて見(み)よ、102俺(おれ)達(たち)が殺(ころ)した様(やう)に警察(けいさつ)から睨(にら)まれたらつまらぬからな』
103トンク『一層(いつそう)の事(こと)、104今(いま)の内(うち)にトンクトンク テクテクと逃出(にげだ)したら何(ど)うだ、105到底(たうてい)駄目(だめ)だらうよ』
106テク『馬鹿(ばか)云(い)ふな。107ソンナ事(こと)をせうものなら、108益々(ますます)疑(うたが)はれて了(しま)ふよ。109一樹(いちじゆ)の蔭(かげ)の雨宿(あまやど)り一河(いちが)の流(なが)れを汲(く)んでさへ、110深(ふか)い因縁(いんねん)があるといふぢやないか。111仮令(たとへ)三日(みつか)でも養(やしな)つて貰(もら)つたお寅(とら)さまを見捨(みす)てて帰(かへ)れるものか。112そんな不義理(ふぎり)な事(こと)をすると、113アラブ一党(いつたう)の面汚(つらよご)しになるぢやないか。114絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)を以(もつ)て主義(しゆぎ)とする回教(くわいけう)のピュリタンを以(もつ)て任(にん)ずる吾々(われわれ)が、115ソンナ事(こと)がどうして出来(でき)ようかい。116お天道(てんだう)さまが御(お)許(ゆる)し遊(あそ)ばさないからの』
117トンク『そらーあ、118さうだ。119天道(てんだう)様(さま)の御(お)弔(とむら)ひだ、120空葬(そらさう)だ、121大(おほ)いに悪(わる)かつた。122ヨシ、123之(これ)からお前(まへ)と俺(おれ)と両人(りやうにん)が力(ちから)を併(あは)せ心(こころ)を一(いつ)にして、124此(この)生宮(いきみや)さまの命(いのち)を助(たす)け、125天晴(あつぱれ)全快(ぜんくわい)して貰(もら)つて、126此(この)霊城(れいじやう)を立派(りつぱ)に開(ひら)かうぢやないか。127俺(おれ)ア之(これ)から橄欖山(かんらんざん)へお寅(とら)さまの病気(びやうき)祈願(きぐわん)の為(ため)参(まゐ)つて来(く)るから、128お前(まへ)気(き)をつけて介抱(かいほう)してあげてくれ』
129テク『そら、130可(い)い所(ところ)へ気(き)がついた。131サ、132早(はや)く参(まゐ)つて来(き)て呉(く)れ。133後(あと)は俺(おれ)が引受(ひきう)けるからな』
134トンク『ヨーシ、135ソンナラ之(これ)からお参(まゐ)りして来(こ)うよ』
136と云(い)ひ乍(なが)ら、137夕日(ゆふひ)を浴(あ)びて、138橄欖山(かんらんざん)へと登(のぼ)り行(ゆ)く。139山上(さんじやう)の祠(ほこら)の前(まへ)に来(き)て見(み)れば、140ブラバーサが一生(いつしやう)懸命(けんめい)に何事(なにごと)か祈願(きぐわん)をこめてゐる。141トンクは傍(そば)により、
142トンク『もしもし貴方(あなた)は三五教(あななひけう)の宣伝使(せんでんし)様(さま)ぢや厶(ござ)いませぬか』
143ブラバーサ『ハイ、144左様(さやう)で厶(ござ)います。145貴方(あなた)はトンクさまぢやありませぬか。146何時(いつ)やらはエライ失礼(しつれい)を致(いた)しました』
147トンク『イヤもう、148御(ご)挨拶(あいさつ)痛(いた)み入(い)ります。149全(まつた)く私(わたし)が悪(わる)かつたので厶(ござ)いますから、150どうぞモウソンナこたア云(い)はないでおいて下(くだ)さいませ』
151ブラバーサ『時(とき)にお寅(とら)さまは御(ご)壮健(さうけん)にゐらつしやいますかな』
152トンク『ハイ有難(ありがた)う厶(ござ)います。153実(じつ)の所(ところ)は、154お寅(とら)さまと、155お花(はな)さま守宮別(やもりわけ)さまが大喧嘩(おほげんくわ)をせられまして、156終局(しまひ)の果(はて)にや、157守宮別(やもりわけ)さまはお花(はな)さまと一緒(いつしよ)に結婚(けつこん)とか何(なん)とか云(い)つて、158手(て)に手(て)を取(と)つて、159面当(つらあて)に霊城(れいじやう)を飛(と)び出(だ)して了(しま)はれたものですから、160生宮(いきみや)さまの御(ご)立腹(りつぷく)と云(い)つたら、161夫(そ)れは夫(そ)れは言語(げんご)に絶(ぜつ)する有様(ありさま)で厶(ござ)いました。162そこへ受付(うけつけ)にをつたヤクの奴(やつ)、163生宮(いきみや)さまの気(き)のもめてる最中(さいちう)へ毒舌(どくぜつ)を揮(ふる)つたものですから、164生宮(いきみや)様(さま)がクワツとなり、165ヤクを叩(たた)きつけようと遊(あそ)ばした其(その)刹那(せつな)、166ヤクの奴(やつ)、167庭箒(にはばうき)をひつかたげて飛出(とびだ)し、168途中(とちう)で生宮(いきみや)さまの御(ご)面体(めんてい)を泥箒(どろばうき)で擲(なぐ)りつけたり、169いろいろ雑多(ざつた)の侮辱(ぶじよく)を加(くは)へたものですから、170疳(かん)の強(つよ)い生宮(いきみや)様(さま)はたうとう逆上(ぎやくじやう)して了(しま)ひ、171それが元(もと)となつて、172今(いま)では発熱(はつねつ)し、173ウサ言(ごと)許(ばか)り云(い)つてゐられます。174こんな塩梅(あんばい)では、175生命(いのち)もどうやら覚束(おぼつか)なからうと存(ぞん)じ、176テクに介抱(かいほう)させておき、177私(わたくし)は此(この)祠(ほこら)へ御(ご)祈願(きぐわん)に参(まゐ)つた所(ところ)で厶(ござ)います。178いやモウエライ心配(しんぱい)で困(こま)りますワイ』
179ブラバーサ『話(はなし)を承(うけたまは)れば、180実(じつ)にお気(き)の毒(どく)な次第(しだい)です。181コンナ事(こと)を聞(き)いて聞逃(ききのが)す訳(わけ)にも行(ゆ)きませぬから、182平常(ふだん)は平常(ふだん)として、183私(わたし)は霊城(れいじやう)へ参(まゐ)りませう。184そして一時(いつとき)も早(はや)く御(ご)全快(ぜんくわい)なさる様(やう)に御(ご)祈願(きぐわん)をさして貰(もら)ひませう』
185トンク『ハイ、186そら御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う厶(ござ)いますが、187常平生(つねへいぜい)から、188貴方(あなた)を敵(かたき)の様(やう)に罵(ののし)つてゐられますから、189貴方(あなた)がお出(いで)になつたのをみて、190益々(ますます)逆上(ぎやくじやう)し、191上(あげ)も下(おろ)しもならないやうになつちや却(かへつ)て御(ご)親切(しんせつ)が無(む)になりますから、192何(なん)ならお断(ことわ)りが致(いた)したいので厶(ござ)いますワイ』
193ブラバーサ『ハヽヽヽ非常(ひじやう)な御(ご)警戒(けいかい)ですな。194併(しか)し人間(にんげん)といふ者(もの)はさうしたものぢや厶(ござ)いませぬよ。195災難(さいなん)の来(き)た時(とき)にや互(たがひ)に助(たす)け合(あ)ふのが人間(にんげん)の義務(ぎむ)ですからな。196何程(なにほど)我(が)の強(つよ)いお寅(とら)さまだつて、197滅多(めつた)に私(わたし)の親切(しんせつ)を無(む)になさる道理(だうり)はありますまい。198キツと喜(よろこ)んで下(くだ)さるでせう。199そして之(これ)を機会(きくわい)にお寅(とら)さまの心(こころ)を和(やは)らげ、200同(おな)じ日出島(ひのでじま)から来(き)た人間(にんげん)です。201和合(わがふ)の曙光(しよくわう)を認(みと)めたいと思(おも)ひますから、202たつて御(ご)訪問(はうもん)を致(いた)します』
203トンク『ヘーエ、204誠(まこと)に以(もつ)て、205お志(こころざし)は有難(ありがた)う厶(ござ)いますが。206併(しか)し乍(なが)ら私(わたし)は知(し)りませぬで、207どうか生宮(いきみや)さまに、208私(わたし)から病気(びやうき)の次第(しだい)を聞(き)いた、209なんて云(い)つて貰(もら)つちや困(こま)りますからな。210貴方(あなた)が勝手(かつて)に御(お)越(こ)しになつた事(こと)にしておいて頂(いただ)かねば、211後(あと)の祟(たた)りが面倒(めんだう)ですから』
212ブラバーサ『エ、213それなら、214私(わたし)は之(これ)から霊城(れいじやう)を訪問(はうもん)致(いた)しますから、215トンクさま、216貴方(あなた)はゆつくり御(ご)祈願(きぐわん)をなし、217エヽ加減(かげん)に時間(じかん)を見計(みはか)らつて何(なに)くはぬ顔(かほ)で御(お)帰(かへ)りなさい。218そすりやお寅(とら)さまだつて、219貴方(あなた)に小言(こごと)はありますまいからな』
220トンク『あ、221さう願(ねが)へば私(わたし)も安心(あんしん)です。222どうか宜(よろ)しう頼(たの)みませぬワ』
223 ブラバーサは急(いそ)いで山(やま)を降(くだ)り、224何(なに)くはぬ顔(かほ)して、225トルコ亭(てい)の細(ほそ)い路地(ろぢ)を伝(つた)ひ、226霊城(れいじやう)へ来(き)てみると、227テクが甲斐(かひ)々々(がひ)しく頭(あたま)を冷(ひや)してゐる。
228ブラバーサ『ヤ、229これはこれは、230テクさまで厶(ござ)いますか。231生宮(いきみや)さまは御(ご)不例(ふれい)にゐらつしやるのですかな』
232テク『ハイ、233左様(さやう)です。234そして又(また)お前(まへ)さまは何(なん)の御用(ごよう)で御(お)出(いで)になりました。235お前(まへ)さまの顔(かほ)見(み)ると生宮(いきみや)さまの御(ご)機嫌(きげん)が益々(ますます)悪(わる)くなり、236病気(びやうき)が又(また)重(おも)くなりますから、237トツトと帰(かへ)つて下(くだ)され』
238ブラバーサ『帰(かへ)らうと思(おも)へば、239さう追立(おひた)てられなくても返(かへ)りますよ。240併(しか)し乍(なが)ら同国人(どうこくじん)の病気(びやうき)と聞(き)いて、241宣伝使(せんでんし)たる私(わたし)、242見逃(みのが)す訳(わけ)に行(い)きませぬから…』
243と云(い)ひ乍(なが)ら、244枕許(まくらもと)にツカツカとより、245熱誠(ねつせい)籠(こ)めて天(あま)の数歌(かずうた)を三唱(さんしやう)し、246大国常立(おほくにとこたちの)尊(みこと)、247神(かむ)素盞嗚(すさのをの)尊(みこと)助(たす)け玉(たま)へ、248許(ゆる)し玉(たま)へ…と祈願(きぐわん)するや、249今迄(いままで)火(ひ)の如(ごと)き発熱(はつねつ)に苦(くる)しみてゐたお寅(とら)は嘘(うそ)ついた様(やう)に熱(ねつ)は去(さ)り、250忽(たちま)ち起(お)き上(あが)り座布団(ざぶとん)の上(うへ)にキチンと行儀(ぎやうぎ)よく両手(りやうて)をのせ、
251お寅『ハ、252これはこれは、253何方(どなた)かと思(おも)へば、254ブラバーサさまで厶(ござ)いましたか。255ようマ御(ご)親切(しんせつ)に来(き)て下(くだ)さいましたね。256私(わたし)も此(この)間(あひだ)からチツと許(ばか)り風邪(ふうじや)の気(き)で臥(ふ)せつてをりましたが、257夜前(やぜん)あたりからスツパリと全快(ぜんくわい)致(いた)し、258モウ寝(ね)てゐるのも何(なん)だか辛気(しんき)臭(くさ)くて堪(たま)らないのですが、259日(ひ)の出(で)さまの御(ご)忠告(ちうこく)に仍(よ)つて、260養生(やうじやう)の為(ため)、261ねて居(を)りました。262決(けつ)してお前(まへ)さまの算盤(そろばん)の声(こゑ)で直(なほ)つたのぢや厶(ござ)いませぬから、263ヘン、264どうか恩(おん)に着(き)せて下(くだ)さいますなや。265併(しか)し乍(なが)ら此(この)霊城(れいじやう)へお前(まへ)さまが御(お)参(まゐ)りさして頂(いただ)いたのも、266ヤツパリ神(かみ)さまのおかげだよ。267此(この)お寅(とら)が病気(びやうき)だといふ噂(うはさ)をパーッと立(た)たせておき、268お前(まへ)さまの心(こころ)を引(ひ)く為(ため)に、269此(この)生宮(いきみや)をチツと許(ばか)り苦(くる)しめ遊(あそ)ばしたのだから、270必(かなら)ず必(かなら)ず仇(あだ)に思(おも)つちやなりませぬよ。271結構(けつこう)な結構(けつこう)な御(ご)霊城(れいじやう)さまへお前(まへ)さまが大(おほ)きな顔(かほ)で参拝(さんぱい)出来(でき)たのも此(この)お寅(とら)がチツと許(ばか)り悪(わる)かつたおかげだ。272神(かみ)様(さま)の御(お)仕組(しぐみ)といふものは偉(えら)いものだな。273サ、274之(これ)からブラバーサさま、275チツと我(が)を折(を)つて日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)を認(みと)めて下(くだ)さい。276いつ迄(まで)もいつ迄(まで)も変性(へんじやう)女子(によし)のガラクタ身魂(みたま)にトチ呆(はう)けて居(を)つちやダメですよ。277神政(しんせい)成就(じやうじゆ)に近(ちか)よつた此(この)時節(じせつ)に、278何(なん)の事(こと)ですいな。279早(はや)く改心(かいしん)して、280日(ひ)の出神(でのかみ)の片腕(かたうで)となつて、281ウラナイ教(けう)を開(ひら)き、282天下(てんか)万民(ばんみん)を塗炭(とたん)の苦(く)より救(すく)つて下(くだ)さいや』
283ブラバーサ『ハイ、284又(また)考(かんが)へておきませう。285先(ま)づ先(ま)づ御(ご)病気(びやうき)の御(ご)本復(ほんぷく)と聞(き)いて安心(あんしん)致(いた)しました。286私(わたし)一寸(ちよつと)用(よう)が厶(ござ)いますので、287之(これ)から御(お)暇(いとま)を致(いた)します』
288お寅『ホヽヽヽ、289ヤツパリ心(こころ)に曇(くも)りがあると、290此(この)霊城(れいじやう)が苦(くる)しうて、291ゐたたまらぬと見(み)えますワイ。292第一(だいいち)霊国(れいごく)の天人(てんにん)のお住居(すまゐ)、293どうして八衢(やちまた)人足(にんそく)がヌツケリコと居(を)れるものかい、294ウツフヽヽヽ』
295ブラバーサ『お寅(とら)さま、296余(あま)りぢやありませぬか。297どこ迄(まで)も貴方(あなた)は私(わたし)を敵(てき)にする考(かんが)へですか』
298お寅『きまつた事(こと)ですよ、299三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、300底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)の生身魂(いくみたま)、301日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)を認(みと)めない様(やう)な妄昧(まうまい)頑固(ぐわんこ)の身魂(みたま)を何(ど)うして愛(あい)する事(こと)が出来(でき)ませうぞ。302日(ひ)の出様(でさま)が一生(いつしやう)懸命(けんめい)に艱難(かんなん)辛苦(しんく)を遊(あそ)ばして、303立派(りつぱ)な立派(りつぱ)な、304結構(けつこう)な、305心易(こころやす)い、306暮(くら)しよい、307みろくの大御代(おほみよ)を建(た)てようと遊(あそ)ばしてるのに、308悪魂(あくみたま)の変性(へんじやう)女子(によし)にとぼけて、309此(この)世(よ)を乱(みだ)さうと憂身(うきみ)をやつしてゐるお前(まへ)さまだもの、310之(これ)位(ぐらゐ)な大(おほ)きな敵(てき)は世界(せかい)にありませぬぞや。311此(この)神(かみ)は従(したが)うて来(く)れば誠(まこと)に結構(けつこう)な愛(あい)のある神(かみ)なれど、312敵対(てきた)うて来(く)る身魂(みたま)には鬼(おに)か大蛇(をろち)のやうになる神(かみ)ざぞえ。313お前(まへ)さまの心(こころ)一(ひと)つで楽(らく)に立派(りつぱ)に御用(ごよう)致(いた)さうと、314苦(くる)しみてもがいて地獄落(ぢごくおち)の悪魔(あくま)の用(よう)を致(いた)さうと、315心次第(こころしだい)で何(ど)うでもなるですよ。316コンナ事(こと)が分(わか)らぬやうで、317ヘン、318宣伝使(せんでんし)などと、319能(よ)う言(い)はれたものですワイ。320改心(かいしん)なされ、321足元(あしもと)から鳥(とり)が立(た)ちますぞや』
322ブラバーサ『ハイ、323有難(ありがた)う厶(ござ)います。324又(また)後(ご)して伺(うかが)ひますから左様(さやう)なら』
325お寅『ホヽヽヽたうとう、326八衢(やちまた)人足(にんそく)奴(め)、327生宮(いきみや)さまの御(ご)威光(ゐくわう)に打(う)たれて、328ドブにはまつた鼠(ねずみ)のやうに、329シヨンボリとした、330みすぼらしい姿(すがた)で、331尾(を)を股(また)へはさみて逃(に)げよつたぞ。332ホヽヽヽ、333コラ、334テク、335ブラバーサなんて偉相(えらさう)に云(い)つてるが、336私(わたし)にかかつたら三文(さんもん)の値打(ねうち)もなからうがな。337丸(まる)で箒(はうき)で押(おさ)へられた蝶々(てふてふ)の様(やう)に命(いのち)カラガラ逃(に)げていつたぢやないか、338イツヒヽヽヽ』
339テク『モシ生宮(いきみや)さま、340ヒドイですな、341テクも呆(あき)れましたよ』
342お寅『ひどからうがな。343いかなお前(まへ)でも呆(あき)れただらう。344耄碌(もうろく)魂(だましひ)のヒョロ小便使(せうべんし)めが、345あの逃(に)げて行(ゆ)くザマつたらないぢやないか。346それだから此(この)生宮(いきみや)の神力(しんりき)を信(しん)じなさいといふのだよ』
347テク『生宮(いきみや)さま、348そら違(ちが)やしませぬか。349今(いま)の今迄(いままで)人事(じんじ)不省(ふせい)に陥(おちい)つて御座(ござ)つたのを、350ブラバーサさまがお出(いで)になり、351指頭(しとう)から五色(ごしき)の霊光(れいくわう)を発射(はつしや)して、352お前(まへ)さまの病気(びやうき)を助(たす)けて下(くだ)さつたぢやありませぬか。353それに貴方(あなた)は、354昨夜(ゆふべ)から病気(びやうき)が直(なほ)つてたナンテ、355ようマア嘘(うそ)が言(い)へたものですな。356私(わたし)は其(その)我慢心(がまんしん)の強(つよ)いお前(まへ)さまの遣口(やりくち)に呆(あき)れた、357といふのですよ』
358お寅『お黙(だま)りなさい。359アラブの黒(くろ)ン坊(ばう)のクセに神界(しんかい)の御(ご)経綸(けいりん)が分(わか)つてたまるかいな。360ソンナ事(こと)いつて、361此(この)生宮(いきみや)に敵(てき)たふやうな人(ひと)はトツトと帰(かへ)つて貰(もら)ひませう。362アタ気分(きぶん)の悪(わる)い。363エーエーそこら中(ぢう)がウソウソとして来(き)た。364これ、365テク、366塩(しほ)をもつてお出(い)で、367お前(まへ)の体(からだ)に悪魔(あくま)が憑(つ)いてる、368之(これ)からスツパリと払(はら)つて上(あ)げるからな』
369テク『イヤもう結構(けつこう)です』
370といつてる所(ところ)へ、371トンクはドンドンと露路口(ろぢぐち)の細路(ほそみち)を威嚇(ゐかく)させ乍(なが)ら帰(かへ)り来(きた)り、
372トンク『ヤア、373これはこれは、374生宮(いきみや)様(さま)、375いつの間(ま)にさう快(よ)くおなりなさいましたか。376私(わたし)は心配(しんぱい)致(いた)しまして、377テクに貴女(あなた)の介抱(かいほう)を命(めい)じおき、378エルサレムの宮(みや)へ御(ご)病気(びやうき)祈願(きぐわん)の為(ため)に御(ご)参拝(さんぱい)して来(き)たのです。379何(なん)と御(ご)神徳(しんとく)といふものは、380アラ高(たか)いものですな』
381お寅『それは大(おほ)きに御(ご)親切(しんせつ)有難(ありがた)う……とかういつたらお前(まへ)さまはお気(き)に入(い)るだらうが、382ヘン誰(たれ)がそんな事(こと)お前(まへ)さまに頼(たの)みました。383大弥勒(おほみろく)様(さま)の生宮(いきみや)、384三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、385日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)さまの肉体(にくたい)の、386病気(びやうき)を直(なほ)すやうな神(かみ)様(さま)がどこにありますか、387可(い)い加減(かげん)に呆(とぼ)けておきなさいや』
388トンク『オイ、389テク、390チツと可怪(あや)しいぢやないか、391病(や)み呆(はう)けて厶(ござ)るのだらうよ』
392テク『マアマア喧(やかま)しう言(い)ふな、393何時迄(いつまで)言(い)つたつて限(かぎ)りがないからな。394何(なん)と云(い)つても三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)様(さま)だから、395維命(これめい)、396維従(これしたが)うてゐさへすりや可(い)いのだ』
397と云(い)ひ乍(なが)ら、398余(あま)り相手(あひて)になるなといふ意味(いみ)を目(め)で知(し)らした。399お寅(とら)は布団(ふとん)を頭(あたま)からひつかぶり、400スヤスヤと眠(ねむり)に就(つ)きぬ。
401(大正一四・八・二〇 旧七・一 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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