霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 茶粕(ちやかす)〔一八二三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第4篇 清風一過 よみ(新仮名遣い):せいふういっか
章:第17章 茶粕 よみ(新仮名遣い):ちゃかす 通し章番号:1823
口述日:1925(大正14)年08月21日(旧07月2日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:御霊城 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:有明屋(有明家)、アメリカン・コロニー(アメリカンコロニー) データ凡例: データ最終更新日:2026-05-19 17:22:44 文字数:5706 OBC :rm64b17
愛善世界社版:229頁 八幡書店版:第11輯 581頁 修補版: 校定版:232頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 ブラバーサの親切(しんせつ)を罵詈(ばり)と叱咤(しつた)を以(もつ)て報(むく)ひ、002箒(はうき)で掃出(はきだ)さむ許(ばか)りの待遇(たいぐう)をして追返(おひかへ)した。003その翌日(よくじつ)、004狭苦(せまくる)しい霊城(れいじやう)の日(ひ)の丸(まる)の掛軸(かけぢく)の前(まへ)に、005オコリが直(なほ)つたやうな調子(てうし)でお寅(とら)はチョコナンと坐(すわ)り、006天津(あまつ)祝詞(のりと)を奏上(そうじやう)し始(はじ)めたり。
007(祝詞)『小北(こぎた)の山(やま)を始(はじ)めエルサレムの霊城(れいじやう)に神(かみ)つまります、008底津(そこつ)岩根(いはね)の大弥勒(おほみろく)の大神(おほかみ)、009日出(ひのでの)神(かみ)の命(みこと)もちて、010三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)、011寅子姫(とらこひめの)命(みこと)、012つまらぬ餓鬼(がき)を腹立(はらた)ち連(れん)の、013ヤクザ身魂(みたま)の為(ため)に、014身禊払(みそぎはら)ひ玉(たま)はむとして、015現(あら)はれませる荒井戸(あらゐど)の四柱(よはしら)の大神(おほかみ)、016もろもろの曲事(まがこと)罪(つみ)穢(けがれ)を払(はら)ひ玉(たま)へ清(きよ)め玉(たま)へ、017ブラバーサ、018お花(はな)の悪魔(あくま)を退(しりぞ)け玉(たま)へと申(まを)す事(こと)の由(よし)を、019天(てん)の大神(おほかみ)地(ち)の大神(おほかみ)、020底津(そこつ)岩根(いはね)の神(かみ)達(たち)共(とも)に、021徳利(とくり)聞(きこ)し召(め)せと畏(かしこ)みも申(まを)す。022ミロク成就(じやうじゆ)の大神(おほかみ)様(さま)、023上義姫(じやうぎひめ)の大神(おほかみ)様(さま)、024義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)大神(おほかみ)様(さま)、025大広木(おほひろき)正宗彦(まさむねひこの)命(みこと)様(さま)、026木曽(きそ)義仲姫(よしなかひめの)命(みこと)様(さま)、027朝日(あさひ)の豊阪昇(とよさかのぼ)り姫(ひめの)命(みこと)様(さま)、028岩根(いはね)木根(きね)立彦(たちひこの)命(みこと)様(さま)、029天(あめ)の岩倉放(いはくらはな)ち彦(ひこの)命(みこと)様(さま)、030厳(いづ)の千別彦(ちわきひこの)命(みこと)様(さま)、031四方(よも)の国中彦(くになかひこの)命(みこと)様(さま)、032荒(あら)ぶる神(かみ)様(さま)、033貞子姫(さだこひめの)命(みこと)様(さま)、034言上姫(ことじやうひめの)命(みこと)様(さま)、035その外(ほか)世(よ)に落(お)ちて御(ご)苦労(くらう)遊(あそ)ばした神々(かみがみ)様(さま)、036一時(いつとき)も早(はや)く世(よ)にお出(で)まし下(くだ)さいまして、037神政(しんせい)成就(じやうじゆ)、038万民(ばんみん)安堵(あんど)の神世(かみよ)が立(た)ちますやう、039偏(ひとへ)にお願(ねがひ)申(まを)します。040あゝ惟神(かむながら)霊(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』
041 ポンポンポンポンと四拍手(しはくしゆ)し終(をは)り、
042お寅『これトンクさま、043もうお茶(ちや)が沸(わ)いただらうな』
044トンク『ハイ、045夜前(やぜん)から沸(わ)いて居(を)りますよ』
046お寅『さうかいな、047ソンナラ一寸(ちよつと)、048ここへ持(も)つて来(き)ておくれ。049久(ひさ)し振(ぶ)りで大神(おほかみ)様(さま)にお祝詞(のりと)をあげたものだから、050喉(のど)が渇(ひつ)ついて仕方(しかた)がない。051あんまり熱(あつ)いと舌(した)をやけどするから、052そこは飲(の)みかげんにして、053トツトと持(も)つて来(き)ておくれや』
054トンク『ハイ、055今(いま)持(も)つて参(さん)じます。056オイ、057テクの奴(やつ)、058早(はや)く土瓶(どびん)をかけぬかい』
059テク『土瓶(どびん)をかけと云(い)つたつて、060夕(ゆふ)べの騒(さわ)ぎで、061天(てん)にも地(ち)にも掛替(かけがへ)のない土瓶(どびん)君(くん)、062切腹(せつぷく)して了(しま)つたぢやないか』
063トンク『エー、064気(き)の利(き)かぬ、065今(いま)の中(うち)に、066それ表(おもて)の瀬戸物(せともの)屋(や)へ行(い)つて買(か)つて来(く)るのだ。067同(おな)じ事(こと)なら白湯(さゆ)の沸(わ)いたのがあつたら、068白湯(さゆ)ぐち買(か)つて来(く)ればいいぢやないか。069サアサア、070ソツトソツト、071足音(あしおと)を忍(しの)ばせて』
072 テクは小便(せうべん)しに行(ゆ)くやうな顔(かほ)してソツと表(おもて)へ出(で)て了(しま)つた。
073お寅『これこれ、074何(なに)を愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐるのだい。075早(はや)くお茶(ちや)をおくれと云(い)ふのに』
076トンク『ハイ、077今(いま)差上(さしあ)げます。078一寸(ちよつと)待(ま)つて下(くだ)さいや』
079お寅『何(なん)とまア、080早速(さつそく)間(ま)に合(あ)はぬ男(をとこ)だこと。081あまりの愚図(ぐづ)で、082可笑(をか)しうて臍(へそ)がお茶(ちや)を沸(わ)かしますぞや』
083トンク『私(わたし)だつて夕(ゆふ)べの生宮(いきみや)様(さま)と、084ブラバーサとの掛合(かけあひ)を聞(き)いて居(を)つて、085臍(へそ)が夕(ゆふべ)から茶(ちや)を沸(わ)かして居(を)りますよ。086本当(ほんたう)にブラバーサの態(ざま)つたら、087なかつたぢやありませぬか』
088 トンクは話(はなし)を横道(よこみち)へ外(そ)らし、089一寸(ちよつと)でも暇(ひま)を入(い)れて、090テクが帰(かへ)つて来(く)る時間(じかん)を保(たも)とうとして居(ゐ)る。091お寅(とら)はブラバーサの攻撃(こうげき)らしい事(こと)をトンクが云(い)つたので、092喉(のど)の渇(かわ)いたのも忘(わす)れて了(しま)ひ、
093お寅『そら、094さうだろ。095お前(まへ)だつてのう、096トンク、097あの態(ざま)を見(み)たら臍(へそ)がお茶(ちや)を沸(わ)かす所(どころ)か、098睾玉(きんたま)まで洋行(やうかう)するだらう』
099トンク『ヘーヘー、100そらさうですとも。101肝(きも)が潰(つぶ)れて、102おつたまげる所(どころ)か睾丸(きんたま)はまひ上(あが)る、103おへそは腹(はら)がやける程(ほど)、104熱(あつ)い茶(ちや)を沸(わ)かします。105イヤ、106モウ、107茶々(ちやちや)無茶(むちや)で厶(ござ)いましたわい。108チヤンチヤラ可笑(をか)しい。109何程(なにほど)偉(えら)さうに云(い)つても生宮(いきみや)様(さま)の前(まへ)に現(あら)はれたら、110丁度(ちやうど)猫(ねこ)の傍(そば)へ鼠(ねずみ)が来(き)たやうなものですが、111ニャーんともチュのおろしやうが厶(ござ)いませぬわい。112エー、113テクの奴(やつ)、114気(き)の利(き)かない野郎(やらう)だな。115土瓶(どびん)を折角(せつかく)買(か)つて来(き)た処(ところ)で湯(ゆ)が沸(わ)く間(ま)が五分(ごふん)や十分(じつぷん)かかるだらうし、116此(この)間(あひだ)何(なん)と云(い)つてごまかしておかうかな』
117と口(くち)の中(なか)で呟(つぶや)いてゐる。
118お寅『これこれトンクさま、119今(いま)小(ちひ)さい声(こゑ)で云(い)つた事(こと)、120いま一度(いちど)、121云(い)つて下(くだ)さい。122ごまかすとは、123ソラ、124誰(たれ)をごまかすのだい』
125トンク『ヘー、126何(なん)で厶(ござ)います。127ブラバーサも立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)だと威張(ゐば)つてゐますが、128生宮(いきみや)様(さま)の鼻(はな)の息(いき)に、129もろくも散(ち)つた処(ところ)を考(かんが)へて見(み)ますと、130籾粕(もみかす)か胡麻(ごま)かすか、131かるい代物(しろもの)だなア……、132とこのやうに云(い)ふたのですわい』
133お寅『ホヽヽヽ、134籾粕(もみかす)ぢやのうて、135揉(も)み消(け)すのだらう。136胡麻粕(ごまかす)ぢや無(な)うて、137うまい事(こと)生宮(いきみや)を、138ごまかす積(つも)りだらうがな。139ソンナ嘘(うそ)を喰(く)ふやうな生宮(いきみや)ぢや厶(ござ)いませぬぞや』
140トンク『イエイエ、141決(けつ)して決(けつ)して、142勿体(もつたい)ない、143大弥勒(おほみろく)様(さま)の生宮(いきみや)を、144ごまかすなぞと、145人民(じんみん)の分際(ぶんざい)として、146そんな大(だい)それた事(こと)が出来(でき)ますものか。147第一(だいいち)、148私(わたし)の頭(あたま)が世(よ)の中(なか)の悪潮流(あくていりう)に、149もみにもみ潰(つぶ)され、150悪者(わるもの)共(ども)に、151ごまかされ、152脳髄(なうずゐ)が、153ひつからびて、154カスカスになつてゐますもの、155どうして生宮(いきみや)様(さま)のやうに当意(たうい)即妙(そくめう)の智慧(ちゑ)が出(で)ますものかい』
156お寅『これ、157トンク、158早(はや)くお茶(ちや)を、159おくれぬかいな』
160トンク『ハイ承知(しようち)致(いた)しました。161実(じつ)の処(ところ)は土瓶(どびん)の奴(やつ)、162あの、163何(なん)です。164ブラバーサの態度(たいど)に呆(あき)れたものと見(み)えまして、165腮(あご)を外(はづ)し、166腹(はら)迄(まで)破(やぶ)つて、167てこねて居(ゐ)るのですよ。168それだから、169最(もつと)も新(あたら)しい、170真新(まつさら)な、171清新(せいしん)な土器(どき)を買(か)つて来(き)て、172今日(けふ)の初水(はつみづ)を沸(わ)かし、173進(しん)ぜ度(た)いと存(ぞん)じまして、174今(いま)テクに買(か)ひにやつた所(ところ)で厶(ござ)います。175どうぞ一寸(ちよつと)、176お待(ま)ち下(くだ)さいませ』
177お寅『いかにも、178そりや結構(けつこう)だ、179いい処(ところ)へ気(き)がついた。180何(なん)と云(い)つても生宮(いきみや)様(さま)のお飲(あが)り遊(あそ)ばす土瓶(どびん)と、181トンク、182テクの奴連中(やつこれんちう)と、183今迄(いままで)のやうに一(ひと)つの土瓶(どびん)で茶(ちや)を沸(わ)かして居(を)つたのが間違(まちがひ)だ。184今日(けふ)から新(あたら)しくなつて、185イヤ誠(まこと)に結構(けつこう)だ。186神(かみ)様(さま)もさぞ御(ご)満足(まんぞく)遊(あそ)ばすだらう』
187トンク『それに、188生宮(いきみや)様(さま)、189よう考(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。190半狂人(はんきちがひ)の曲彦(まがひこ)や、191お花(はな)さまが使(つか)つてゐた土瓶(どびん)ですもの。192夕(ゆふ)べの騒(さわ)ぎで、193生宮(いきみや)様(さま)のお臂(いど)を使(つか)ひ、194神(かみ)様(さま)がお土瓶(どびん)様(さま)を、195滅茶(メチヤ)々々(メチヤ)にお割(わ)り遊(あそ)ばしたのだと、196私(わたし)はこのやうに、197おかげを頂(いただ)かして貰(もら)ひますわ』
198お寅『成程(なるほど)、199お前(まへ)の云(い)ふ通(とほ)り、200妾(わし)の聞(き)く通(とほ)り、201チツとも間違(まちがひ)ありますまい。202ホヽヽヽ』
203 かかる処(ところ)へ、204テクは青土瓶(あをどびん)をひつ下(さ)げて帰(かへ)り、
205テク『イヤ、206これはこれは、207お早(はや)う厶(ござ)います。208サアお茶(ちや)が沸(わ)きました。209どうぞお飲(あが)り下(くだ)さいませ』
210お寅『これテクさま、211新(さら)の土瓶(どびん)を買(か)つて来(き)て下(くだ)さつて誠(まこと)に結構(けつこう)だが、212湯(ゆ)を沸(わ)かすのなら、213何(なん)だよ、214初(はじ)めてだから、215あまり熱(あつ)いお湯(ゆ)を沸(わ)かすと、216お尻(しり)が割(わ)れますぞや。217そして燻(くす)べぬやうにせないと、218直(すぐ)お前(まへ)の顔(かほ)のやうに真黒(まつくろ)になるからな。219上等(じやうとう)の炭火(すみび)で沸(わ)かして下(くだ)さいや』
220テク『ヘー、221瀬戸物(せともの)屋(や)の爺(おやぢ)、222仲々(なかなか)気(き)の利(き)いた奴(やつ)で、223新(さら)の土瓶(どびん)で湯(ゆ)を沸(わ)かすのは仲々(なかなか)むつかしい、224商売柄(しやうばいがら)、225一(ひと)つ教(をし)へてあげませう、226と云(い)ひましてな、227それはそれは立派(りつぱ)な唐木(からき)で作(つく)つた角火鉢(かくひばち)の上(うへ)に、228ソツとのせて、229上等(じやうとう)のお茶(ちや)をチヨツトつまみ、230ガタガタガタと沸(わ)かして呉(く)れました。231本当(ほんたう)に飲(の)み加減(かげん)ださうで厶(ござ)いますよ』
232お寅『そりや仲々(なかなか)気(き)が利(き)いてゐる。233サア一(ひと)つこのコツプについで下(くだ)さい』
234テク『ハイ、235承知(しようち)致(いた)しました』
236と路地口(ろぢぐち)でソツと垂(た)れ込(こ)んでゐた小便(せうべん)の汁(しる)を七分(しちぶ)許(ばか)りついで、237恭(うやうや)しく手盆(てぼん)に乗(の)せ、238おち付(つ)き払(はら)つてお寅(とら)の前(まへ)につき出(だ)す。239お寅(とら)は喉(のど)が渇(かわ)いてゐるので、240小便(せうべん)とは気(き)が付(つ)かず、241飛(と)びつくやうにして、242グイグイグイと飲(の)み終(をは)り、
243お寅『ハ、244何(なん)だか、245妙(めう)な香(にほひ)がするぢやないか』
246テク『何(なん)と云(い)つても、247土瓶(どびん)が新(さら)で厶(ござ)いますから、248薬(くすり)の香(にほひ)がチツトは出(で)るさうです。249どうです、250も一杯(いつぱい)、251つぎませうか』
252お寅『イヤ、253もう結構(けつこう)だ、254とは云(い)ふものの、255コンナ結構(けつこう)なお土瓶(どびん)のお新(さら)のお茶(ちや)をお粗末(そまつ)にお取扱(とりあつかひ)する御(お)訳(わけ)にはお行(ゆ)き申(まを)さぬから、256も一杯(いつぱい)ついで下(くだ)さい』
257テク『ヘー承知(しようち)致(いた)しました』
258と云(い)ひ乍(なが)ら又(また)もやコツプに今度(こんど)は九分(くぶ)五厘(ごりん)迄(まで)注(つ)いで見(み)た。
259お寅『ホヽヽヽヽ、260何(なん)と、261色(いろ)よう出(で)てゐること、262エー今日(けふ)は御(ご)褒美(ほうび)に大弥勒(おほみろく)の太柱(ふとばしら)、263日出(ひのでの)神(かみ)の生宮(いきみや)のお下(さが)りを、264お前(まへ)にも飲(の)まして上(あ)げやう。265結構(けつこう)な結構(けつこう)なお茶(ちや)様(さま)ぢやぞえ。266サア、267テクさま、268頂(いただ)いて下(くだ)さい。269滅多(めつた)に生宮(いきみや)様(さま)の口(くち)のついたお茶碗(ちやわん)で頂(いただ)くと云(い)ふ事(こと)は出来(でき)ませぬよ』
270テク『イヤ、271もう沢山(たくさん)で厶(ござ)います。272今日(けふ)は何(なん)だか腹(はら)が張(は)つて居(を)りますので、273水気(みづけ)は一切(いつさい)、274欲(ほ)しくは厶(ござ)いませぬ』
275お寅『このお茶(ちや)さまはな、276御(ご)供水(くすい)も同然(どうぜん)だ。277生宮(いきみや)が頂(いただ)けと云(い)つたら、278反(そむ)く事(こと)は出来(でき)ませぬぞや』
279テク『どうか、280おかげを、281トンクに譲(ゆづ)つてやつて下(くだ)さいませぬか』
282 トンクは、283テクの奴(やつ)どうも怪(あや)しい、284途中(とちう)で小便(せうべん)でもこいておきやがつたのぢやあるまいかと、285やや疑(うたが)ひ初(はじ)めてゐた最中(さいちう)なので、
286トンク『ヤー、287俺(おれ)も結構(けつこう)だ。288今日(けふ)は水気(みづけ)一切(いつさい)飲(の)み度(た)くない。289テク、290お前(まへ)が生宮(いきみや)様(さま)から頂(いただ)かして貰(もら)つたのだから一滴(ひとしづく)もこぼさず、291御(お)神徳(かげ)だ、292グツと、293思(おも)ひ切(き)つてやつておき玉(たま)へ。294俺(おれ)としては、295どうも、296何々(なになに)ぢや、297マア自業(じごう)自得(じとく)だ。298サアサア頂(いただ)いた頂(いただ)いた』
299お寅『これほど結構(けつこう)なお茶(ちや)様(さま)が、300お気(き)に入(い)らぬのかいな。301ソンナラ仕方(しかた)がない、302このお茶(ちや)さまは、303下(さ)げて、304あげる。305イヤ、306お茶(ちや)さまは放(ほ)かしなさい。307そして、308土瓶(どびん)を灰(はひ)でスツクリ中(なか)から外(そと)迄(まで)柄(え)迄(まで)、309研(みが)いておくのだよ』
310テク『ハイ、311承知(しようち)致(いた)しました』
312と匆々(さうさう)に裏口(うらぐち)の溝溜(どぶたま)りへ鼻(はな)に皺寄(しわよ)せ乍(なが)ら打(ぶ)ちあけ、313灰(はい)と水(みづ)と笹(ささら)[※校定版では「簓(ささら)」という文字に直している。]とで大(だい)清潔法(せいけつはふ)を行(おこな)ひ、314チヤンと走(はし)りの棚(たな)に安置(あんち)しておいた。
315お寅『これ、316テク、317トンクの両人(りやうにん)、318俄(には)かに、319干瓢(かんぺう)が欲(ほ)しくなつたから、320町(まち)へ出(で)て一斤(いつきん)程(ほど)買(か)つて来(き)て下(くだ)さいな』
321テク『ハイ、322エー、323私(わたし)一人(ひとり)お使(つかひ)に参(まゐ)ります。324お気(き)に入(い)りのトンクは、325どうかお側(そば)に於(おい)てやつて下(くだ)さい』
326お寅『イヤイヤお前(まへ)のやうな口穢(くちぎたな)いものは、327一人(ひとり)やると、328道(みち)で干瓢(かんぺう)をしがみて了(しま)ふから目方(めかた)が減(へ)つて大変(たいへん)な損害(そんがい)だ。329口近(くちちか)いものはヤツパリ行儀(ぎやうぎ)のよい、330トンクに買(か)つて来(き)て貰(もら)はう。331その代(かは)りにお前(まへ)は一寸(ちよつと)使(つかひ)に行(い)つて下(くだ)さい。332エルサレムのお宮(みや)へ、333私(わたし)の病気(びやうき)が本復(ほんぷく)したのでお礼詣(れいまゐ)りにだよ』
334 テクとトンクは『ハイハイ』と二(ふた)つ返事(へんじ)で小銭(こぜに)を、335引(ひ)ツつかみ立(た)つて行(ゆ)く。336干瓢(かんぺう)はツヒ近(ちか)くの店(みせ)にあるので、337十分(じつぷん)たたぬ間(ま)にトンクは一斤(いつきん)程(ほど)買求(かひもと)めて帰(かへ)つて来(き)た。
338トンク『生宮(いきみや)様(さま)、339えらう遅(おそ)うなつて済(す)みませぬ』
340お寅『おそい所(どころ)か、341お前(まへ)は夏(なつ)の牡丹餅(ぼたもち)だよ。342本当(ほんたう)に足(あし)が早(はや)いぢやないか。343使(つかひ)歩(ある)きは、344お前(まへ)に限(かぎ)るよ。345今日(けふ)は、346この生宮(いきみや)が干瓢(かんぺう)を煮(た)いて神(かみ)様(さま)にお供(そな)へをしたり、347お前(まへ)にも頂(いただ)かしたいから手(て)づから、348お料理(れうり)をしませう。349テクの奴(やつ)、350エルサレムのお宮(みや)へ詣(まゐ)れと云(い)つておいたのに、351又(また)どこに、352外(そ)れて行(ゆ)くか分(わか)らないから、353お前(まへ)、354御(ご)苦労(くらう)だが一寸(ちよつと)調(しら)べて来(き)て下(くだ)さらないか』
355トンク『成程(なるほど)、356委細(ゐさい)承知(しようち)致(いた)しました』
357と云(い)ふより早(はや)く、358窮屈(きうくつ)の皺苦茶(しわくちや)婆(ばば)アの小言(こごと)を聞(き)いて居(ゐ)るより、359外(そと)の空気(くうき)に触(ふ)れた方(はう)が面白(おもしろ)いと、360匆々(さうさう)に出(い)でて行(ゆ)く。361その後(あと)でお寅(とら)は干瓢(かんぺう)に鰹(かつを)のだしを入(い)れ、362グツグツと膨(ふく)れる処(ところ)迄(まで)煮(た)き上(あ)げ、363神(かみ)様(さま)にもお供(そな)へをし、364自分(じぶん)とトンクとの分(ぶん)をしまひおき、365あとの残(のこ)つた干瓢(かんぺう)を、366暫(しば)らく水(みづ)に浸(ひた)し、367甘味(あまみ)をぬいて了(しま)ひ、368再(ふたた)び土瓶(どびん)の中(なか)へつツ込(こ)み、369シスセーナ[※「シスセーナ」とは「放尿」を意味するモンゴル語だと思われる。入蒙記第15章「公爺府入」に「轎車の中で日出雄はセスセーナ(放尿)を煙草の空罐になし」という文がある。厳密に言えば「シェス」が「小便」、「シェーナ」が「小便する」という意味であり、両者が合体してしまって「シスセーナ/セスセーナ」という霊界物語の記述になったのだと思われる。]をやつて、370再(ふたた)び火鉢(ひばち)に土瓶(どびん)をかけ、371グツグツグツとたぎらし、372テクの膳(ぜん)を出(だ)して、373皿(さら)に一杯(いつぱい)盛(も)つておいた。374暫(しばら)くすると、375トンク、376テクは怖(こは)さうに帰(かへ)つて来(き)た。
377トンク『もし生宮(いきみや)様(さま)、378エー途中(とちう)でテクに出会(であ)ひまして、379無事(ぶじ)に帰(かへ)りまして厶(ござ)います』
380お寅『アヽそれはそれは御(ご)苦労(くらう)千万(せんばん)、381さア腹(はら)が減(へ)つただらう、382朝御飯(あさごはん)を食(あが)つて下(くだ)さい。383私(わたし)もお前(まへ)さまと一緒(いつしよ)に御飯(ごはん)を食(あが)らうと思(おも)つて、384空腹(すきばら)をかかへて待(ま)つて居(を)つたのだよ』
385トンク『それはそれは。386炊事(すゐじ)迄(まで)生宮(いきみや)様(さま)にさせまして、387オイ、388テク、389頂(いただ)かうぢやないか。390大弥勒(おほみろく)様(さま)のお手(て)づからの御(ご)料理(れうり)だ。391コンナ光栄(くわうえい)は、392滅多(めつた)にあるまいぞ』
393お寅『今日(けふ)は生宮(いきみや)が炊事(すゐじ)をするけれど、394明日(あす)からはトンクさまに願(ねが)ひますよ』
395トンク『はい、396承知(しようち)致(いた)しました』
397と三(さん)人(にん)は食卓(しよくたく)を囲(かこ)み、398干瓢(かんぺう)の副食物(ふくしよくぶつ)で、399朝飯(あさはん)をパクつき初(はじ)めた。
400トンク『何(なん)とマア、401干瓢(かんぺう)の味(あぢ)がいいぢやありませぬか。402何(なん)ともかとも知(し)れぬ味(あぢ)が致(いた)しますワ』
403テク『ン、404うまいな、405然(しか)し、406チツと臭(くさ)いぢやないか』
407トンク『何(なに)、408臭(くさ)いのが価値(ねうち)だ、409鰹(かつを)の煮(に)だしの香(かをり)だよ』
410テク『さうだらうかな』
411と云(い)ひ乍(なが)ら、412お寅(とら)もトンクも、413甘(うま)さうに喰(く)つてゐるので、414自分(じぶん)も怪(あや)しいと思(おも)ひ乍(なが)ら、415一切(ひとき)れも残(のこ)さず平(たひら)げて了(しま)つた。
416お寅『ホヽヽヽヽ、417これテク、418どうだつたい。419お前(まへ)には特別(とくべつ)の御(ご)守護(しゆご)が与(あた)へてあるのだよ。420最前(さいぜん)の返礼(へんれい)にな。421チツと許(ばか)り、422お報(むく)いしたのだから、423悪(わる)う思(おも)つて下(くだ)さるなや、424ホヽヽヽヽ』
425 テクは小田(をだ)の蛙(かへる)の、426泣(な)きそこねたやうな面(つら)をし乍(なが)ら、427ダマリ込(こ)んで了(しま)つた。428そこへスタスタ帰(かへ)つて来(き)たのはツーロであつた。
429ツーロ『御免(ごめん)なさい。430えらう遅(おそ)くなつて済(す)みませぬ。431只今(ただいま)かへりました。432ヤア、433トンク、434テクお前(まへ)は、435もう帰(かへ)つてゐるのかい』
436トンク『貴様(きさま)、437どこへ行(い)つて居(を)つたのだい。438生宮(いきみや)様(さま)は大変(たいへん)に立腹(りつぷく)して厶(ござ)つたぞ。439まるで鉄砲玉(てつぱうだま)のやうな奴(やつ)だな。440出(で)たら帰(かへ)る事(こと)を知(し)らないのだから、441困(こま)つたものだよ』
442ツーロ『ナニ、443大変(たいへん)暇(ひま)がいつて、444すまなかつたが、445その代(かは)り生宮(いきみや)様(さま)に対(たい)し、446ドツサリとお土産(みやげ)を持(も)つて来(き)たのだ。447お釈迦(しやか)様(さま)でも御存(ごぞん)じないやうな、448秘密(ひみつ)を探(さぐ)つて来(き)たのだからなア』
449お寅『これ、450ツーロ、451妾(わし)におみやげとは、452ドンナ事(こと)ぢやいな。453大方(おほかた)お花(はな)と大広木(おほひろき)さまとの秘密(ひみつ)でも探(さぐ)つて来(き)たのだらう』
454ツーロ『イヤ、455御(ご)賢察(けんさつ)恐(おそ)れ入(い)ります。456私(わたし)も実(じつ)は、457ヤクの後(あと)をおつかけて参(まゐ)りました所(ところ)、458行衛(ゆくゑ)が知(し)れないので申訳(まをしわけ)がないと存(ぞん)じ、459二三(にさん)日(にち)アメリカン・コロニーの食客(しよくきやく)をやつてゐましたが、460大広木(おほひろき)正宗(まさむね)さまとお花(はな)さまとが、461カトリックの僧院(そうゐん)ホテルで新(しん)ウラナイ教(けう)を立(た)てられると云(い)ふ事(こと)を聞(き)き、462ソツと見(み)に行(い)つた処(ところ)、463ヤクの奴(やつ)、464階子段(はしごだん)の下(した)に大(だい)の字(じ)になつて、465フンのびてゐるぢやありませぬか。466大勢(おほぜい)のボーイがよつて、467ワイワイ騒(さわ)いでゐる、468医者(いしや)が出(で)て来(く)る、469大変(たいへん)な騒動(さうだう)でしたよ』
470お寅『何(なん)と、471マア天罰(てんばつ)と云(い)ふものは、472恐(おそ)ろしいものだな。473此(この)生宮(いきみや)の面態(めんてい)を泥箒(どろばうき)でなぐつた報(むく)ひだらうよ。474それで一寸(ちよつと)、475溜飲(りういん)が下(さが)りました。476どうも神(かみ)さまと云(い)ふものは、477偉(えら)いものだわい。478そしてお花(はな)や大広木(おほひろき)正宗(まさむね)さまの様子(やうす)は聞(き)いて来(こ)なかつたかい』
479ツーロ『ヘーヘー、480聞(き)くの聞(き)かぬのつて、481大変(たいへん)な事(こと)が起(おこ)つて居(を)ります。482守宮別(やもりわけ)の大広木(おほひろき)さまはお花(はな)さまと結婚式(けつこんしき)を挙(あ)げ、483新宗教(しんしうけう)を樹(た)てやうとして厶(ござ)つた所(ところ)へ、484有明屋(ありあけや)の綾子(あやこ)と云(い)ふ白首(しらくび)が会(あ)ひに来(き)たものですから、485お花(はな)さまと大喧嘩(おほけんくわ)が起(おこ)り、486大広木(おほひろき)さまは種茄子(たねなす)を引張(ひつぱ)られて目(め)をまかすやら、487お花(はな)さまは頭(あたま)を殴(なぐ)られて発熱(はつねつ)し、488囈言(うさごと)許(ばか)り云(い)ふので、489博愛(はくあい)病院(びやうゐん)へ入院(にふゐん)しました』
490お寅『ホヽヽヽ、491何(なん)とマア神(かみ)さまは偉(えら)いお方(かた)だな。492誠(まこと)さへ守(まも)りて居(を)りたら神(かみ)が敵(かたき)を打(う)つてやるぞよと、493いつも日出(ひので)さまが仰有(おつしや)るが、494ヤツパリ悪(あく)は善(ぜん)には叶(かな)ひますまいがな、495然(しか)し有明屋(ありあけや)の綾子(あやこ)と云(い)ふ女(をんな)、496気(き)の利(き)いた奴(やつ)だ。497蹴爪(けづめ)の生(は)えたお花(はな)と喧嘩(けんくわ)するなぞと、498本当(ほんたう)に末頼(すゑたの)もしい。499ドーレ、500それでは、501守宮別(やもりわけ)さまの御(お)見舞(みまひ)に行(ゆ)かねばなるまい。502所在(ありか)が分(わか)つた以上(いじやう)は、503一刻(いつこく)も猶予(いうよ)は出来(でき)ぬ。504トンク、505テク、506お前(まへ)は神妙(しんめう)にお留守(るす)をしてゐて下(くだ)さい。507必(かなら)ず小便茶(せうべんちや)なぞを沸(わ)かしてはなりませぬぞや。508これツーロ、509案内(あんない)しておくれ』
510ツーロ『ハイ、511承知(しようち)致(いた)しました』
512と先(さき)に立(た)ち出(い)でて行(ゆ)く。513お寅(とら)はダン尻(じり)をプリンプリンと中空(ちうくう)に、514ブかつかせ乍(なが)ら、515表街道(おもてかいだう)へ出(で)て、516ツーロと共(とも)に自動車(じどうしや)を雇(やと)ひ、517カトリックの僧院(そうゐん)ホテルを指(さ)して急(いそ)ぎ行(ゆ)く。
518(大正一四・八・二一 旧七・二 北村隆光録)
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