霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 狂擬怪(きやうぎくわい)〔一八一七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第3篇 開花落花 よみ(新仮名遣い):かいからっか
章:第11章 狂擬怪 よみ(新仮名遣い):きょうぎかい 通し章番号:1817
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:橄欖山の山頂 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2017-11-26 18:56:58 文字数:5628 OBC :rm64b11
愛善世界社版:147頁 八幡書店版:第11輯 550頁 修補版: 校定版:149頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001 守宮別(やもりわけ)、002お花(はな)の両人(りやうにん)は漸(やうや)くにして橄欖山(かんらんさん)上(じやう)に登(のぼ)り、003涼(すず)しい樹蔭(こかげ)に佇(たたず)み、004風(かぜ)に面(おもて)をさらし乍(なが)らくだけたやうな、005嬉(うれ)しさうな顔(かほ)をして、006暫(しばら)く抱擁(はうよう)キツスをやつてゐると、007後(うしろ)の林(はやし)からバタバタバタと妙(めう)な音(おと)がしたので二人(ふたり)はビツクリして猫(ねこ)が交尾(つる)むだあとのやうに両方(りやうはう)にパツと三間(さんげん)許(ばか)り分(わか)れて了(しま)つた。
008お花『何(なん)だいな、009人(ひと)をビツクリさして、010私(わたし)は又(また)、011お寅(とら)さまぢやないかと思(おも)つたのに、012鷹(たか)の奴(やつ)、013本当(ほんたう)に私(わたし)の肝玉(きもだま)をデングリかへしよつたわ』
014守宮別『ハヽヽヽヽ、015お寅(とら)は昔(むかし)の高姫(たかひめ)の身魂(みたま)の再来(さいらい)だから、016鷹(たか)が現(あら)はれてビツクリさせよつたのも、017マンザラ因縁(いんねん)のない事(こと)もあるまい、018フツフヽヽヽ』
019お花『ア、020いやらしい、021あのタのつく奴(やつ)に碌(ろく)なものは一(ひと)つもありやしないわ。022狸(たぬき)に田吾作(たごさく)にタワケに高姫(たかひめ)、023まだまだタントタント、024タ印(じるし)はあるけれど、025気(き)に喰(く)はないもの許(ばか)りだわ、026それに一番(いちばん)いかない奴(やつ)は高歩貸(たかぶがし)、027猪飼野(いかひぬ)の権(ごん)さまだつて、028到頭(たうとう)鬼(おに)になつて了(しま)つたぢやありませぬか』
029守宮別『ウツフヽヽヽヽ、030同(おな)じタでも高天原(たかあまはら)は、031どうだい』
032お花『そのタと此(この)タとはタの種類(しゆるゐ)が違(ちが)ひますわ』
033守宮別『叩(たた)き潰(つぶ)して喰(く)ふタはどうだい』
034お花『好(す)きな人(ひと)に叩(たた)き潰(つぶ)され、035喰(く)はれるのは満足(まんぞく)ですわ』
036守宮別『タゴール博士(はかせ)やスタール博士(はかせ)はどうだい』
037お花『青目玉(あをめだま)の赤髭(あかひげ)の毛唐人(けたうじん)さまなんて、038ネツカラ虫(むし)が好(す)きませぬわね。039初(はじ)めて自転倒(おのころ)島(じま)からお寅(とら)さまと一緒(いつしよ)に来(き)た時(とき)、040旦那(だんな)さまと英語(えいご)でペチヤペチヤ云(い)つてゐた毛唐(けたう)さまも、041矢張(やつぱり)タがついてゐたやうですな』
042守宮別『ウン、043ありやお前(まへ)、044有名(いうめい)なお札(ふだ)博士(はかせ)のスタールさまと云(い)ふシオン大学(だいがく)の先生(せんせい)だよ』
045お花『大学(だいがく)の先生(せんせい)ナンテよい加減(かげん)のものですな。046貴方(あなた)のやうな立派(りつぱ)なお方(かた)や、047私(わたし)のやうな美人(びじん)を、048よう認(みと)めなかつたぢやありませぬか』
049守宮別『何(なん)と云(い)つてもお寅(とら)の、050あのスタイルでは一寸(ちよつと)見(み)た所(ところ)、051威厳(ゐげん)が無(な)いからのう。052私(わたし)だつて鉛(なまり)を銀(ぎん)だと云(い)ひ鷺(さぎ)を烏(からす)として紹介(せうかい)するのは大変(たいへん)に苦(くる)しかつたよ。053うすいうすいメツキのかかつた救世主(きうせいしゆ)だもの、054直(すぐ)に生地(きぢ)が見(み)えるのだから、055どうする事(こと)も出来(でき)なかつたよ。056然(しか)しお前(まへ)なら容易(ようい)に生地(きぢ)は見(み)えまい、057何(なん)と云(い)つても都育(みやこそだ)ちだからなア、058お寅(とら)のやうに山(やま)のほ寺(でら)の荒屋(あばらや)住(すま)ひで年(とし)を取(と)つた代物(しろもの)とは、059テンで比(くら)べ物(もの)にならないからな、060あの時(とき)お前(まへ)が日出(ひのでの)神(かみ)と名乗(なの)つてゐたなら、061うまくいつたかも知(し)れないよ』
062 お花(はな)は嬉(うれ)しさうに、
063お花『そら、064さうでせうね、065何程(なにほど)研(みが)いても金(きん)は金(きん)、066瓦(かはら)は瓦(かはら)ですもの。067もし旦那(だんな)さま、068これから私(わたし)が救世主(きうせいしゆ)と名乗(なの)つても成功(せいこう)するでせうかな』
069守宮別『そりや無論(むろん)の事(こと)だ。070お前(まへ)なら大丈夫(だいぢやうぶ)だ。071正札付(しやうふだつき)の救世主(きうせいしゆ)だよ』
072お花『これ、073旦那(だんな)さま、074物(もの)も相談(さうだん)ぢやが、075一(ひと)つお寅(とら)さまの向(むか)ふを張(は)り、076ブラバーサの面皮(めんぴ)をむく為(ため)に、077新(しん)ウラナイ教(けう)を立(た)てようぢやありませぬか。078そして世界(せかい)万民(ばんみん)の救世主(きうせいしゆ)と仰(あふ)がれて見(み)ようぢや厶(ござ)いませぬか』
079守宮別『そら、080面白(おもしろ)からう、081然(しか)し救世主(きうせいしゆ)の役(やく)はお前(まへ)か、082私(わたし)か、083どちらにしたら宜(よ)いか』
084お花『そら、085云(い)はいでも、086きまつてゐますがな。087天照(あまてらす)大御神(おほみかみ)様(さま)でも女(をんな)でせう。088平和(へいわ)の男神(をがみ)と云(い)ふものはありませぬからな』
089守宮別『いかにも、090さう聞(き)けや、091さうだ』
092お花『キリスト教(けう)だつて聖母(せいぼ)マリヤがあしらつてあればこそ、093その宗教(しうけう)が天下(てんか)に拡(ひろ)まつてゐるのですよ。094仏教(ぶつけう)だつて阿弥陀(あみだ)さま丈(だけ)では駄目(だめ)です。095お釈迦(しやか)さまを産(う)んだ麻耶(まや)夫人(ふじん)もあり、096又(また)三十三(さんじふさん)相(さう)具備(ぐび)した観世音(くわんぜおん)菩薩(ぼさつ)や弁才天(べんざいてん)があしらつてあるものだから、097仏教(ぶつけう)は燎原(れうげん)の火(ひ)のやうに世界(せかい)に燃(も)え拡(ひろ)がり、098三千(さんぜん)年(ねん)も立(た)つた今日(こんにち)迄(まで)命脈(めいみやく)を保(たも)つてゐるのですよ。099三五教(あななひけう)だつて坤(ひつじさる)の金神(こんじん)と云(い)ふ女神(めがみ)さまをあしらつてあるぢやありませぬか。100どうしても宗教(しうけう)を開(ひら)かうと思(おも)へや女(をんな)をあしらはねば駄目(だめ)ですわ』
101守宮別『さうすると、102何(なん)だな、103世(よ)の中(なか)はサツパリ女尊(ぢよそん)男卑(だんぴ)にして了(しま)ふのだな』
104お花『そら、105さうですとも、106三五教(あななひけう)でさへも霊主(れいしゆ)体従(たいじう)と云(い)つてるでせう。107霊(れい)は女性(ぢよせい)を意味(いみ)し、108体(たい)は男性(だんせい)を意味(いみ)してるぢやありませぬか』
109守宮別『いかにも、110御尤(ごもつと)も、111分(わか)つてる。112ソンナラ、113之(これ)からお前(まへ)をお花(はな)大明神(だいみやうじん)と崇(あが)め奉(まつ)らう』
114お花『いやですよ、115お花(はな)なぞと、116私(わたし)は難浪津(なにはづ)に咲(さ)くや此花(このはな)冬籠(ふゆごも)り、117今(いま)を春(はる)べと咲(さ)くや木花(このはな)と、118帰化人(きくわじん)の王仁(わに)博士(はかせ)が歌(うた)つておいた、119難浪津(なにはづ)に生(うま)れたチャキチャキのお花(はな)ですもの、120どうか木花姫(このはなひめの)命(みこと)と云(い)つて下(くだ)さいな、121あの雲表(うんぺう)に聳(そび)えてゐるシオン山(ざん)を御覧(ごらん)なさい、122あの山(やま)だつて日出島(ひのでじま)の富士山(ふじさん)に、123よく似(に)てるでせう。124世界(せかい)の国人(くにびと)は、125あの山(やま)を尊称(そんしよう)してシオンの娘(むすめ)と云(い)つてるぢやありませぬか』
126守宮別『ナル程(ほど)、127どうしてもお前(まへ)は俺(わし)よりは役者(やくしや)が一(いち)枚(まい)上(うへ)だ。128そんなら今日(けふ)から改(あらた)めてお前(まへ)をシオンの娘(むすめ)、129木花姫(このはなひめの)命(みこと)、130新(しん)ウラナイ教(けう)の大教主(だいけうしゆ)と尊称(そんしよう)を奉(たてまつ)らうかな』
131 お花(はな)は嬉(うれ)しさうにニコニコし乍(なが)らチツト許(ばか)りスネ気分(きぶん)になり、132体(たい)をプイとゆすつて口(くち)に手(て)をあて、
133お花『ホヽヽヽ、134何(ど)うなと御(ご)勝手(かつて)になさいませ』
135守宮別『お気(き)に入(い)りましたかな、136イヤ重畳(ちようでふ)々々(ちようでふ)。137これで愈(いよいよ)三千(さんぜん)世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)もきまり新(しん)ウラナイ教(けう)の組織(そしき)も出来(でき)たと云(い)ふものだ。138サア之(これ)から一万(いちまん)円(ゑん)の資本(しほん)を以(もつ)て大々(だいだい)的(てき)活躍(くわつやく)を試(こころ)みようかい』
139お花『これ旦那(だんな)さま、140又(また)しても一万(いちまん)円(ゑん)一万(いちまん)円(ゑん)と仰有(おつしや)いますが、141此(この)一万(いちまん)円(ゑん)だつて使(つか)つたら、142減(へ)つて了(しま)ひますよ。143此(この)金(かね)はマサカの時(とき)の用意(ようい)とし、144貴方(あなた)と二人(ふたり)の生活費(せいくわつひ)位(ぐらゐ)は新宗教(しんしうけう)の所得(しよとく)で補(おぎな)ふやうにせなくちや駄目(だめ)ですよ』
145守宮別『何(なん)と、146お前(まへ)は大変(たいへん)な経済家(けいざいか)だのう』
147お花『そら、148さうですとも、149生馬(いきうま)の目(め)をぬくやうな競争(きやうそう)の烈(はげ)しい大都会(だいとくわい)の真中(まんなか)で、150一文(いちもん)なしから立派(りつぱ)な家(いへ)屋敷(やしき)を買求(かひもと)め、151あやめのお花(はな)と云(い)つて満都(まんと)の有情(いうじやう)男子(だんし)の肝(きも)を焦(じ)らしたと云(い)ふ兵士(つはもの)ですもの。152世(よ)の中(なか)は経済(けいざい)を知(し)らなくちや何事(なにごと)も成功(せいこう)しませぬよ。153金(かね)さへあればバカも賢(かしこ)う見(み)え、154貴族院(きぞくゐん)議員(ぎゐん)だ、155衆議院(しうぎゐん)議員(ぎゐん)だ、156国家(こくか)の選良(せんりやう)だと、157持(も)て囃(はや)されませうがな。158矛盾(ほことん)議員(ぎゐん)だつて、159着炭(ちやくたん)議員(ぎゐん)だつて、160楠(くす)の子(こ)の墓(はか)議員(ぎゐん)だつて、161墓標(ぼへう)議員(ぎゐん)だつて、162ヤツパリお金(かね)の力(ちから)ですわ。163私(わたし)だつて文(もん)なしの素寒貧(すかんぴん)だつたら、164旦那(だんな)さまの目(め)には馬鹿(ばか)に映(うつ)るでせう。165又(また)一層(いつそう)、166顔(かほ)の皺(しわ)が深(ふか)く見(み)えるでせう』
167守宮別『成程(なるほど)感心(かんしん)だ、168然(しか)し乍(なが)らこれから新宗教(しんしうけう)を樹立(じゆりつ)しようと思(おも)へばチツト許(ばか)りは資本(しほん)が要(い)るよ。169先(ま)づ第一(だいいち)に政府(せいふ)に運動(うんどう)して、170宗教(しうけう)独立(どくりつ)の認可(にんか)を受(う)けねばならぬなり、171相当(さうたう)の出資(しゆつし)は覚悟(かくご)せなくちやなるまい。172お前(まへ)だつて一足飛(いつそくと)びに世界(せかい)の救世主(きうせいしゆ)となるのだもの、173少(すこ)し位(くらゐ)の犠牲(ぎせい)は覚悟(かくご)して貰(もら)はなくちやならないよ』
174お花『それや、175チツト許(ばか)り運動費(うんどうひ)の要(い)る位(ぐらゐ)の事(こと)は私(わたし)だつて知(し)つてゐますわ』
176守宮別『○○教(けう)[※聖師校正前は「天理」教]が独立(どくりつ)したのも運動費(うんどうひ)の百万(ひやくまん)円(ゑん)は要(い)つたさうだし、177××教(けう)[※聖師校正前は「金光」教]の独立(どくりつ)の際(さい)も五十万(ごじふまん)円(ゑん)の金(かね)を撒(ま)いたと云(い)ふ事(こと)だ。178陣笠(ぢんかさ)議員(ぎゐん)に出(で)ようと思(おも)つても五万(ごまん)や十万(じふまん)の金(かね)は飛(と)ぶのだからな。179そして万一(まんいち)、180マンが悪(わる)くて落選(らくせん)でもして見(み)よ。181十万(じふまん)円(ゑん)の金(かね)を溝(どぶ)に放(ほ)つたやうなものだ。182そして、183おまけに落選者(らくせんしや)の名(な)を天下(てんか)に吹聴(ふいちやう)されるのだ。184その事(こと)を思(おも)へば一万(いちまん)円(ゑん)の運動費(うんどうひ)位(ぐらゐ)費(つか)つた処(ところ)で落選(らくせん)する事(こと)はないのだから安(やす)いものだよ』
185お花『一万(いちまん)円(ゑん)も運動費(うんどうひ)を費(つか)つて教主(けうしゆ)になつた所(ところ)でつまりませんわ。186せめて三千(さんぜん)円(ゑん)位(ぐらゐ)で成功(せいこう)出来(でき)ますまいかな』
187守宮別『そら、188さうだ。189表(おもて)から運動(うんどう)と出(で)かけりや、190到底(たうてい)二万(にまん)や三万(さんまん)の端金(はしたがね)では駄目(だめ)だが、191そこは運動(うんどう)の方法(はうはふ)によつて三千(さんぜん)円(ゑん)でも漕(こ)ぎつけない事(こと)はない。192然(しか)し此(この)芸当(げいたう)は俺(おれ)ぢやなくちや打(う)てない芝居(しばゐ)だ』
193お花『そら、194さうでせうとも。195貴方(あなた)、196手続(てつづ)きをどうしてするお考(かんが)へですか』
197守宮別『マア、198さうだな。199幸(さいはひ)に日出島(ひのでじま)へやつて来(こ)られた時(とき)、200懇意(こんい)になつたお札(ふだ)博士(はかせ)のスタールさまも、201此(この)大学(だいがく)に居(を)られるし、202タゴール博士(はかせ)も今迄(いままで)二三回(にさんくわい)も文通(ぶんつう)をしておいたし、203キツト成功(せいこう)疑(うたがひ)なしだよ。204どうしても今(いま)の世(よ)の中(なか)はレツテルの流行(はや)る世(よ)の中(なか)だから博士(はかせ)とか大臣(だいじん)とか華族(くわぞく)とかの名(な)を列(なら)べて、205顧問(こもん)にせなくちや、206嘘(うそ)だからな』
207お花『「前車(ぜんしや)の覆(くつが)へるのは後車(こうしや)の警(いまし)め」と云(い)ふ事(こと)が厶(ござ)いませう。208何卒(どうぞ)博士(はかせ)や大臣(だいじん)、209華族(くわぞく)を引張(ひつぱり)込(こ)むのなら、210手段(しゆだん)として止(や)むを得(え)ませぬが、211人物(じんぶつ)のよしあしを調(しら)べてかかつて下(くだ)さいや。212三五教(あななひけう)の変性(へんじやう)女子(によし)のやうに、213シヤツチもない、214ガラクタ文学士(ぶんがくし)の鼻野(はなの)高三(たかざう)さまや、215鼻野(はなの)中将(ちうじやう)なぞ、216ドテライ爆裂弾(ばくれつだん)を抱(かか)へ込(こ)みて数十万(すうじふまん)円(ゑん)の借金(しやくきん)を負(お)はされ、217後足(あとあし)で砂(すな)かけられるやうな下手(へた)な事(こと)になつちやつまりませぬからな』
218守宮別『ソンナ事(こと)に抜目(ぬけめ)があるものかい。219マア安心(あんしん)したがよからう』
220 かく話(はな)す所(ところ)へシオン大学(だいがく)の教授(けうじゆ)を終(をは)り、221白(しろ)い帽子(ばうし)を頭(あたま)に頂(いただ)き乍(なが)ら、222太(ふと)いステッキをついて彼方(かなた)へ向(むか)つてボツボツ歩(あゆ)み出(だ)す紳士(しんし)があつた。223守宮別(やもりわけ)は一目(ひとめ)見(み)るより、
224守宮別『ヤア、225お花(はな)、226あれが有名(いうめい)なタゴール博士(はかせ)だよ。227あの人(ひと)に頼(たの)めば大丈夫(だいぢやうぶ)だからな。228しかし、229運動費(うんどうひ)が先立(さきだ)つから、230お前(まへ)一寸(ちよつと)三千(さんぜん)円(ゑん)許(ばか)り貸(かし)てくれないか』
231お花『今(いま)、232ここに現金(げんきん)は所持(しよぢ)して居(を)りませぬ。233郵便局(ゆうびんきよく)に行(い)つて来(こ)にや、234間(ま)にあひませぬわ』
235守宮別『いかにもさうだつたね。236それでは一(ひと)つ俺(おれ)が博士(はかせ)に会(あ)つて話(はな)して見(み)るから、237お前(まへ)が来(く)ると却(かへつ)て、238いかないから、239一寸(ちよつと)ここに待(ま)つてゐてくれ。240どうやら西坂(にしざか)から帰(かへ)られるやうだからね』
241お花『この機会(きくわい)を逸(いつ)せず、242早(はや)くおつついて掛合(かけあ)つてみて下(くだ)さいな』
243守宮別『よし、244ソンナラ行(い)つて来(く)る。245お花(はな)、246暫(しばら)くここに待(ま)つてゐてくれ。247どこの男(をとこ)が通(とほ)つても話(はな)しちやいけないよ』
248と云(い)ひ乍(なが)ら横(よこ)向(む)いてペロリと舌(した)を出(だ)し、
249守宮別『サア愈(いよいよ)お花(はな)の懐(ふところ)から三千(さんぜん)円(ゑん)の現(げん)ナマを引出(ひきだ)す手蔓(てづる)が出来(でき)た』
250とホクホクし乍(なが)ら、251タゴールの後(あと)を追(お)ふて西坂(にしざか)の下(くだ)り口(ぐち)へと駆(かけ)り行(ゆ)く。252お花(はな)は吉凶(きつきよう)如何(いか)にと、253片唾(かたづ)をのんで木蔭(こかげ)に佇(たたず)み、254のび上(あが)り乍(なが)ら様子(やうす)を見(み)てゐる。255守宮別(やもりわけ)はタゴールの後(あと)から坂(さか)を下(くだ)つて行(ゆ)く。256二人(ふたり)の白(しろ)い帽子(ばうし)が空中(くうちう)を歩(ある)いてゐるやうに見(み)えた。
257守宮別『もし貴方(あなた)はタゴール博士(はかせ)ぢやありませぬか』
258 タゴールは一寸(ちよつと)立止(たちど)まり、259後(あと)振(ふ)り向(む)いて、
260タゴール『ハイ、261拙者(せつしや)はタゴールです。262貴方(あなた)はどなたで厶(ござ)りますか。263ネツカラお目(め)にかかつた事(こと)は厶(ござ)いませぬが?』
264守宮別『ハイ、265私(わたし)は日出島(ひのでじま)から宗教(しうけう)視察(しさつ)に参(まゐ)りました守宮別(やもりわけ)と云(い)ふ海軍(かいぐん)軍人(ぐんじん)で厶(ござ)います。266シオン大学(だいがく)も仲々(なかなか)立派(りつぱ)に建築(けんちく)が出来(でき)ましたね。267これも全(まつた)く貴方(あなた)等(がた)のお骨折(ほねをり)の結果(けつくわ)で厶(ござ)いませう』
268タゴール『ハイ、269有難(ありがた)う、270仲々(なかなか)学校(がくかう)事業(じげふ)と云(い)ふものは思(おも)つたよりも費用(ひよう)の要(い)るもので、271容易(ようい)に完備(くわんび)する所(ところ)へは行(ゆ)きませぬ。272貴方(あなた)も宗教(しうけう)視察(しさつ)においでになつたのなら、273どうです、274シオン大学(だいがく)に入学(にふがく)なさつては』
275守宮別『ハイ、276有難(ありがた)う厶(ござ)います、277此(この)頃(ごろ)一寸(ちよつと)許(ばか)り脳(なう)を痛(いた)めてゐますので、278エルサレム病院(びやうゐん)になりと入院(にふゐん)致(いた)し、279全快(ぜんくわい)しました上(うへ)お世話(せわ)になりませう。280どうかその時(とき)は宜(よろ)しくお願(ねが)ひ申(まを)します』
281タゴール『ハイ、282承知(しようち)致(いた)しました。283十分(じふぶん)の便宜(べんぎ)を図(はか)りますから御(ご)安心(あんしん)下(くだ)さいませ』
284守宮別『ソンナラ、285どうか宜(よろ)しくお願(ねが)ひ致(いた)します。286貴方(あなた)の権威(けんゐ)と勢望(せいばう)によつて私(わたし)の目的(もくてき)を達成(たつせい)するやう御(ご)尽力(じんりよく)下(くだ)さいませ。287お願(ねが)ひ致(いた)します』
288タゴール『ハイ、289確(たしか)に承(うけたま)はりました。290左様(さやう)なら』
291と軽(かる)き挨拶(あいさつ)を交(かは)し坂道(さかみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。
292 何事(なにごと)にも疑(うたが)ひ深(ぶか)い、293あやめのお花(はな)は実否(じつぴ)を探(さぐ)らむものと差足(さしあし)、294抜足(ぬきあし)、295守宮別(やもりわけ)とタゴールの問答(もんだふ)を聞(き)かむものとやつて来(き)たが『頼(たの)む、296承知(しようち)した』の一言(いちごん)を耳(みみ)に入(い)れ、297やつと安心(あんしん)しホクホクしてゐる。298守宮別(やもりわけ)は、
299守宮別『サア、300之(これ)から、301うまくお花(はな)をちよろまかさう』
302と後(あと)振(ふ)りかへり見(み)れば坂道(さかみち)の木(き)の茂(しげ)みからお花(はな)がニユツと顔(かほ)を出(だ)した。303守宮別(やもりわけ)は……サア失敗(しまつ)た……、304とサツと顔色(かほいろ)が変(かは)つたが、305元来(ぐわんらい)の横着物(わうちやくもの)、306そしらぬ顔(かほ)で、
307守宮別『ヤア、308お花(はな)、309お前(まへ)ここへ来(き)て居(ゐ)たのか、310博士(はかせ)と私(わし)の話(はなし)を残(のこ)らず聞(き)いたのだらう』
311お花『ハイ、312全部(ぜんぶ)は聞(き)きませなかつたが、313流石(さすが)は守宮別(やもりわけ)さま、314偉(えら)いお腕前(うでまへ)、315お花(はな)も感心(かんしん)致(いた)しました、316どうやら博士(はかせ)が承知(しようち)して呉(く)れたやうですな』
317 守宮別(やもりわけ)は此(この)言(げん)に虎穴(こけつ)を逃(のが)れたやうな心持(こころもち)で、318ソツと胸(むね)を撫(な)で下(お)ろし、319鼻(はな)の先(さき)でフーンと息(いき)し乍(なが)ら、
320守宮別『オイ、321お花(はな)、322俺(おれ)の腕前(うでまへ)は大(たい)したものだらう。323かうなりや三千(さんぜん)円(ゑん)の運動費(うんどうひ)は出(だ)さねばなるまい。324又(また)お前(まへ)の懐(ふところ)をゑぐつて済(す)まないけどな』
325お花『目的(もくてき)が成就(じやうじゆ)する為(ため)のお金(かね)なら、326たとへ一万(いちまん)両(りやう)要(い)つたつて構(かま)ひませぬわ。327サア之(これ)からシオン大学(だいがく)の立派(りつぱ)な建築(けんちく)を拝見(はいけん)して帰(かへ)りませうよ』
328守宮別『帰(かへ)らうと云(い)つたつて、329霊城(れいじやう)を飛(と)び出(だ)した以上(いじやう)宿(やど)がないぢやないか。330一体(いつたい)どこへ帰(かへ)るつもりなのだい』
331お花『ホヽヽヽヽ、332守宮別(やもりわけ)さまの初心(うぶ)な事(こと)。333あんなトルコ亭(てい)の路地(ろぢ)のやうな処(ところ)にある霊城(れいじやう)なんかに居(を)つたつて、334世間(せけん)の聞(き)きなれが悪(わる)くて仕方(しかた)がありませぬわ。335堂々(だうだう)と僧院(そうゐん)ホテルの間借(まが)りでもして活動(くわつどう)にかからうぢやありませぬか』
336守宮別『成程(なるほど)、337そいつは面白(おもしろ)い。338サア早(はや)く帰(かへ)らう、339どうやら機関(きくわん)の油(あぶら)が切(き)れさうだ。340酒(さけ)のタンクが空虚(くうきよ)を訴(うつた)へ出(だ)した』
341お花『ホテルに行(い)つて、342又(また)シツポリ御酒(ごしゆ)でも頂(いただ)きませう、343ホヽヽヽ』
344と笑(わら)ひ乍(なが)ら橄欖山(かんらんざん)を下(くだ)らむとするところへ、345霊城(れいじやう)の受付(うけつけ)をやつてゐたヤクがスタスタとやつて来(く)るのに出会(であ)つた。346ヤクは息(いき)をはずませ乍(なが)ら、
347ヤク『ヤアお二人(ふたり)様(さま)、348大変(たいへん)に探(さが)して居(を)りました、349サア帰(かへ)りませう』
350お花『これ、351ヤクさま、352お寅(とら)さまの様子(やうす)を聞(き)いただらうな』
353ヤク『ハイ、354エルサレムの町(まち)を貴方(あなた)の行衛(ゆくゑ)を尋(たづ)ねて、355ブラついて来(き)ますと十字(じふじ)街頭(がいとう)に黒山(くろやま)の如(ごと)き人(ひと)の影(かげ)、356何事(なにごと)の珍事(ちんじ)が突発(とつぱつ)せしかと、357人込(ひとごみ)の中(なか)からソツと窺(うかが)つて見(み)ればお寅(とら)さまが目(め)をまかして居(ゐ)る。358警察医(けいさつい)が飛(と)んで来(き)て注射(ちうしや)したり、359いろいろと介抱(かいほう)をした結果(けつくわ)、360お寅(とら)さまがたうとう息(いき)を吹(ふ)きかへしました。361トンクとテクの奴(やつ)、362お寅(とら)さまを俥(くるま)に乗(の)せ、363自分(じぶん)も後前(あとさき)を俥(くるま)で警固(けいご)し乍(なが)ら、364霊城(れいじやう)さして帰(かへ)り行(ゆ)く姿(すがた)を確(たしか)に認(みと)めました。365又(また)二三(にさん)日(にち)して身体(からだ)がよくなつたら煩(うる)さい事(こと)でせうよ』
366お花『これ、367ヤクさま、368お前(まへ)は、369あれ丈(だけ)私(わたし)に毒(どく)ついておいて、370何(なに)しに来(き)たのだい』
371ヤク『何(なに)しに来(き)たつて、372貴方(あなた)の家来(けらい)にして貰(もら)はうと思(おも)つたからですよ。373職業(しよくげう)紹介所(せうかいじよ)へ行(い)つて就職口(しうしよくぐち)を世話(せわ)して貰(もら)はうと思(おも)ひましたが、374あまり沢山(たくさん)な希望者(きばうしや)で、375三百(さんびやく)人(にん)の就職口(しうしよくぐち)に五千(ごせん)人(にん)の希望者(きばうしや)があるのですもの、376到底(たうてい)お鉢(はち)が廻(まは)りませぬわ。377どうか男一匹(をとこいつぴき)助(たす)けると思(おも)つて使(つか)つて下(くだ)さいな。378その代(かは)りに碗給(わんきふ)で結構(けつこう)で厶(ござ)いますから』
379お花『私(わたし)は今日(けふ)改(あらた)めて守宮別(やもりわけ)さまと結婚(けつこん)をしたのだから、380その積(つも)りで居(を)つて下(くだ)さいや。381そしてお寅(とら)さまの動静(どうせい)時々(ときどき)を洞察(どうさつ)して報告(はうこく)して下(くだ)さい。382それさへ立派(りつぱ)につとまるのならば、383番犬(ばんけん)を一匹(いつぴき)飼(か)ふたと思(おも)つて、384使(つか)つて上(あ)げますわ、385ホヽヽヽヽ』
386ヤク『もしお花(はな)さま、387否(いな)奥(おく)さま、388番犬(ばんけん)とは殺生(せつしやう)ぢやありませぬか、389なア旦那(だんな)さま』
390と守宮別(やもりわけ)の顔(かほ)を見(み)る。
391守宮別『フヽヽヽヽ、392マア大切(たいせつ)にして上(あ)げるよ。393私(わし)と二人(ふたり)に使(つか)はれて見(み)なさい。394お寅(とら)さまのやうなヒドイ使(つか)ひやうはせないからな』
395ヤク『ハイ有難(ありがた)う、396お役(やく)に立(た)つ事(こと)なら、397どんな事(こと)でも致(いた)しませう』
398 ここに三(さん)人(にん)は、399急(いそ)ぎ橄欖山(かんらんざん)を下(くだ)り、400僧院(そうゐん)ホテルに宿(やど)をとるべく、401山麓(さんろく)より自動車(じどうしや)をかつて意気(いき)揚々(やうやう)と進(すす)み行(ゆ)く。
402(大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良 北村隆光録)
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