霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 狂怪戦(けうくわいせん)〔一八一五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下 篇:第2篇 鬼薊の花 よみ(新仮名遣い):おにあざみのはな
章:第9章 狂怪戦 よみ(新仮名遣い):きょうかいせん 通し章番号:1815
口述日:1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所:丹後由良 秋田別荘 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年11月7日
概要: 舞台:橄欖山の坂道 あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]: 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:ウヅンバラ・チャンダー(ウズンバラ・チヤンダー) データ凡例: データ最終更新日:2026-05-06 17:05:35 文字数:4193 OBC :rm64b09
愛善世界社版:113頁 八幡書店版:第11輯 537頁 修補版: 校定版:114頁 普及版:63頁 初版: ページ備考:
001お花(はな)『有為(うゐ)転変(てんぺん)は世(よ)の習(なら)ひ
002天(てん)が地(ち)となり地(ち)は天(てん)と
003変(かは)る浮世(うきよ)の有様(ありさま)は
004お花(はな)と貴方(あなた)の事(こと)だらう
005寝(ね)ても醒(さ)めても夢現(ゆめうつつ)
006日(ひ)の出(で)の神(かみ)の生宮(いきみや)に
007頭(あたま)の先(さき)から爪(つめ)の端(はし)
008身(み)も魂(たましひ)も打(う)ちこみて
009惚(ほ)れて厶(ござ)つたお前(まへ)さま
010どうした風(かぜ)の吹廻(ふきまは)しか
011私(わたし)とコンナ仲(なか)となり
012二世(にせ)を契(ちぎ)つた夫婦(ふうふ)連(づ)れ
013此(この)聖場(せいじやう)の神(かみ)様(さま)も
014嘸(さぞ)や御(ご)嘉納(かなふ)なさるだらう
015何程(なにほど)神(かみ)ぢや仏(ほとけ)ぢやと
016高尚(かうしやう)な事(こと)を云(い)つたとて
017人(ひと)は肉体(にくたい)ある限(かぎ)り
018湧(わ)いて出(で)て来(く)る性(せい)の欲(よく)
019満(み)たす事(こと)をば知(し)らずして
020可惜(あたら)月日(つきひ)を送(おく)るのは
021天(てん)の与(あた)へた快楽(くわいらく)を
022蹂躪(じうりん)すると云(い)ふものだ
023ラブ・イズ・ベストをふり廻(まは)し
024自由(じいう)自在(じざい)に性(せい)の欲(よく)
025遂(と)げた処(ところ)で神(かみ)様(さま)の
026干渉(かんせう)すべき理由(りいう)はない
027あゝ面白(おもしろ)やたのもしや
028コンナ尊(たふと)き歓楽(くわんらく)を
029お寅(とら)婆(ば)アさまにだまされて
030竜宮海(りうぐうかい)の乙姫(おとひめ)の
031身魂(みたま)ぢや改心(かいしん)せにやならぬ
032もしも男(をとこ)に触(さは)つたら
033八万劫(はちまんごふ)の罪咎(つみとが)が
034一度(いちど)に現(あら)はれ日(ひ)に三度(さんど)
035極寒(ごくかん)極暑(ごくしよ)の苦(くる)しみを
036受(う)けると甘(うま)く騙(だま)かして
037私(わたし)を十(じふ)年(ねん)釣(つ)つて呉(く)れた
038ほんに思(おも)へば思(おも)ふ程(ほど)
039妾(わたし)は何(なん)と云(い)ふ馬鹿(ばか)だらう
040恋(こひ)に目醒(めざ)めた此(この)お花(はな)
041もはや弓(ゆみ)でも鉄砲(てつぱう)でも
042びくとも動(うご)かぬ磐石心(ばんじやくしん)
043固(かた)めた上(うへ)はお前(まへ)さま
044浮気心(うはきごころ)を払拭(ふつしき)し
045どこどこ迄(まで)も偕老(かいらう)の
046契(ちぎり)を結(むす)んで下(くだ)されや
047命(いのち)も宝(たから)もなげ捨(す)てて
048お前(まへ)に任(まか)した此(この)身体(からだ)
049焼(や)いて喰(く)はふと煮(に)て喰(く)はふと
050決(けつ)して不足(ふそく)は云(い)ひませぬ
051さはさりながら旦那(だんな)さま
052貴方(あなた)は本当(ほんたう)に水(みづ)くさい
053二世(にせ)を契(ちぎ)つた女房(にようばう)の
054ある身(み)で居(ゐ)ながらうかうかと
055義侠心(ぎけふしん)をば放(ほ)り出(だ)して
056トロッキーさまの身替(みがは)りに
057警察署(けいさつしよ)の門戸(もんこ)をば
058潜(くぐ)つてやらうと仰有(おつしや)つた
059義侠(ぎけふ)も仁侠(じんけふ)もよいけれど
060ソンナ無益(むえき)な犠牲(ぎせい)をば
061払(はら)つて居(を)つては世(よ)の中(なか)に
062生(いき)て行(ゆ)く事(こと)ア出来(でき)ませぬ
063これ許(ばか)りは旦那(だんな)さま
064私(わたし)が可愛(かあい)と思(おも)ふなら
065思(おも)ひとまつて下(くだ)されや
066人気(にんき)の悪(わる)い世(よ)の中(なか)は
067何時(いつ)騒動(さうだう)が起(おこ)るやら
068分(わか)つたものではありませぬ
069其(その)度毎(たびごと)に犠牲者(ぎせいしや)と
070なつて行(ゆ)かれちや此(この)お花(はな)
071どうして立(た)つ瀬(せ)がありませう
072軍人(ぐんじん)さまを夫(つま)にもち
073喜(よろこ)び勇(いさ)む間(ま)も非(あら)ず
074コンナ苦(くる)しい思(おも)ひをば
075させられやうとは知(し)らナンだ
076大和(やまと)魂(だましひ)か知(し)らねども
077今後(こんご)は止(や)めて下(くだ)されや
078可愛(かあい)女房(にようばう)が手(て)を合(あは)せ
079涙(なみだ)流(なが)して頼(たの)みます
080あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
081ウラナイ教(けう)の大御神(おほみかみ)
082千変(せんぺん)万化(ばんくわ)に移動(いどう)する
083夫(をつと)の心(こころ)を喰(く)ひ止(と)めて
084私(わたし)の身魂(みたま)にピツタリと
085釘(くぎ)鎹(かすがひ)を打(う)つたやうに
086離(はな)れないやう願(ねが)ひます
087これが一生(いつしやう)のお願(ねが)ひだ
088縁(えん)と云(い)ふもの妙(めう)なもの
089海外(かいぐわい)万里(ばんり)の此(この)国(くに)で
090何(なん)とも思(おも)ふて居(ゐ)なかつた
091守宮別(やもりわけ)さまが恋(こひ)しうなり
092足許(あしもと)さへも見(み)えぬ迄(まで)
093恋(こひ)の暗路(やみぢ)に迷(まよ)ひました
094私(わたし)は心(こころ)が狂(くる)ふたのか
095吾(われ)と吾(わが)身(み)が怪(あや)しうなり
096合点(がつてん)行(ゆ)かぬよになりました
097ホンに女(をんな)と云(い)ふものは
098男(をとこ)にかけたら脆(もろ)いもの
099男(をとこ)の一嚬(いつぴん)一笑(いつせう)が
100胸(むね)に五寸釘(ごすんぐぎ)打(う)つやうに
101苦(くる)しい思(おも)ひがして来(き)ます
102頭(あたま)に霜(しも)をちらちらと
103戴(いただ)く身(み)ながら村肝(むらきも)の
104心(こころ)は元(もと)の二八空(にはちぞら)
105胸(むね)はどきどき息(いき)つまり
106恥(はぢ)も外聞(ぐわいぶん)も何(なん)のその
107コンナ心(こころ)になつたのも
108罪(つみ)なお前(まへ)がある故(ゆゑ)だ
109広(ひろ)い天地(てんち)の其(その)間(あひ)に
110たつた一人(ひとり)のお前(まへ)さま
111私(わたし)の命(いのち)ぞ力(ちから)ぞや
112もしもお前(まへ)が死(し)んだなら
113さつぱり此(この)世(よ)は地獄(ぢごく)ぞや
114地獄(ぢごく)の底(そこ)の底(そこ)迄(まで)も
115好(す)きな貴方(あなた)と諸共(もろとも)に
116落(お)ちて行(ゆ)くなら厭(いと)やせぬ
117これ程(ほど)思(おも)ふて居(ゐ)る私(わし)を
118すげなう見捨(みす)てて下(くだ)さるな
119見捨(みす)てられたる其(その)時(とき)は
120地震(ぢしん)雷(かみなり)火(ひ)の雨(あめ)も
121まだまだおろか鬼(おに)となり
122大蛇(をろち)となりて素首(そつくび)を
123引(ひ)きぬきますよ旦那(だんな)さま
124先(さき)に気(き)をつけおきまする
125あゝ頼(たの)もしや頼(たの)もしや
126処(ところ)は世界(せかい)の中心地(ちうしんち)
127貴(たつと)き神(かみ)のあれませる
128橄欖山(かんらんざん)の聖城(せいじやう)で
129三四十(さんしじふ)年(ねん)も若返(わかがへ)り
130嶮(けは)しき御山(みやま)を手(て)を曳(ひ)いて
131詣(まゐ)る心(こころ)は天国(てんごく)の
132花(はな)咲(さ)き匂(にほ)ふ楽園(らくゑん)を
133百(もも)のエンゼルに導(みちび)かれ
134登(のぼ)つて行(ゆ)くやうな心地(ここち)ぞや
135あゝあゝ長生(ながい)きすればこそ
136年(とし)を取(と)つてから恋愛(れんあい)の
137本当(ほんたう)の本当(ほんたう)の味(あぢは)ひが
138分(わか)つて来(き)たのだ有難(ありがた)い
139日(ひ)の出(で)の神(かみ)や大(おほ)ミロク
140生宮(いきみや)さまの前(まへ)だとて
141コンナ楽(たの)しい潔(いさぎよ)い
142思(おもひ)を今迄(いままで)せなかつた
143ホンに貴方(あなた)は救世主(きうせいしゆ)
144天津(あまつ)御国(みくに)のエンゼルよ
145あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
146御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ。
147ホヽヽヽヽヽ、148これ守宮別(やもりわけ)の旦那(だんな)さま、149私(わたし)の思(おも)ひを汲(く)み取(と)つて下(くだ)さつたら、150余(あま)り憎(にく)ふは厶(ござ)いますまい。151どうかイターナルに愛(あい)を注(そそ)いで下(くだ)さいな。152道草(みちぐさ)を喰(く)つたり横(よこ)を向(む)ひたりしちや嫌(きら)ひですよ。153私(わたし)と云(い)ふ立派(りつぱ)な奥(おく)さまがあるのに元(もと)が軍人(ぐんじん)気質(かたぎ)だから要(い)らざる義侠心(ぎけふしん)を出(だ)し、154暴悪(ばうあく)無頼(ぶらい)のトロッキーなどの身替(みがは)りにアタ阿呆(あはう)らしい警察(けいさつ)へ縛(しば)られ行(ゆ)くナンテ、155そんな事(こと)は止(や)めて下(くだ)されや。156何程(なにほど)世(よ)の中(なか)を救(すくふ)と云(い)つたとてキリストさまのやうに磔刑(はりつけ)になつちやたまりませぬよ』
157守宮別『お前(まへ)と一緒(いつしよ)に磔刑(はりつけ)になつたらよいぢやないか、158万劫(まんごふ)末代(まつだい)名(な)が残(のこ)るぞよ。159お前(まへ)とお寅(とら)さまと口癖(くちぐせ)のやうに、160世界(せかい)の万民(ばんみん)を助(たす)けたら万劫(まんごふ)末代(まつだい)結構(けつこう)な名(な)が残(のこ)るといつて居(ゐ)たぢやないか。161昔(むかし)キリストが十字架(じふじか)にかかつて万民(ばんみん)の罪(つみ)を贖(あがな)つたと云(い)ふこのエルサレムで世界(せかい)の犠牲者(ぎせいしや)となり末代(まつだい)の名(な)を残(のこ)すのも人間(にんげん)としては痛快事(つうくわいじ)だよ。162なアお花(はな)さま』
163お花『嫌(いや)ですよ、164お花(はな)さまなんて他人(たにん)らしいソンナ言葉(ことば)おいて下(くだ)さい、165何程(なにほど)名(な)が残(のこ)ると云(い)つたつて命(いのち)が無(な)くなつて了(しま)へば肉体(にくたい)的(てき)歓楽(くわんらく)を味(あぢ)はふ事(こと)が出来(でき)ぬぢやありませぬか』
166守宮別『死(し)んで未来(みらい)で仲(なか)よく添(そ)ふたら好(よ)いぢやないか、167さうすれやお前(まへ)もお寅(とら)さまに取(と)りかへされる心配(しんぱい)も要(い)らず、168宇宙(うちう)第一(だいいち)の安全(あんぜん)地帯(ちたい)だよ。169俺(おれ)だつてトロッキーなどの身替(みがは)りになるやうな馬鹿(ばか)ぢやないが、170一寸(ちよつと)お前(まへ)に実(じつ)の処(ところ)は……義侠心(ぎけふしん)の強(つよ)い男(をとこ)だなア……とこのやうに思(おも)はし度(た)いので芝居(しばゐ)をやつて見(み)たのだ。171其(その)上(うへ)沢山(たくさん)の農民(のうみん)団体(だんたい)や労働(らうどう)団体(だんたい)が傍(そば)にごろついて居(ゐ)たものだから、172日(ひ)の出島(でじま)の守宮別(やもりわけ)と云(い)ふ男(をとこ)は義侠心(ぎけふしん)に富(と)んだ男(をとこ)だ、173彼(あ)れこそ真当(ほんたう)の救世主(きうせいしゆ)だと世界中(せかいぢう)に名(な)を広(ひろ)めやうと思(おも)つた私(わたし)の策略(さくりやく)だよ。174兎角(とかく)人間(にんげん)は広(ひろ)く名(な)を知(し)られないと仕事(しごと)が出来(でき)ないからなア。175あのウズンバラ・チヤンダーだつて実際(じつさい)に交際(つき)あつて見(み)ればコンマ以下(いか)の人間(にんげん)だ。176俺(おれ)から見(み)れば小指(こゆび)の端(はし)にも足(た)らないやうな小人物(せうじんぶつ)だ。177そいつがふとした事(こと)から事件(じけん)を捲(ま)き起(おこ)し世界中(せかいぢう)に名(な)が響(ひび)いたものだから、178世界(せかい)の阿呆(あはう)共(ども)がキリストの再来(さいらい)だ、179ミロクの出現(しゆつげん)だ、180メシヤだ、181などと担(かつ)ぐやうになつたのだ。182売名策(ばいめいさく)には労働者(らうどうしや)の中(なか)に入(い)つて一寸(ちよつと)味(あぢ)をやるのが一番(いちばん)奥(おく)の手(て)だよ、183ハヽヽヽ』
184お花『ホヽヽヽヽ、185何(なん)とまア抜(ぬ)け目(め)の無(な)いお方(かた)だ事(こと)。186それ丈(だけ)の知恵(ちゑ)がある癖(くせ)に今迄(いままで)どうしてお寅(とら)さまのやうな、187没分暁漢(わからずや)に食(くら)ひついて入(い)らつしやつたのですか』
188守宮別『お寅(とら)さまは変性(へんじやう)男子(なんし)の系統(ひつぽう)ぢやないか、189脱線(だつせん)だらけの分(わか)らない事(こと)を喋(しや)べり立(た)てて居(ゐ)ても、190何(なん)と云(い)ふても系統(ひつぽう)だから、191三五教(あななひけう)の没分暁漢(わからずや)連(れん)がコソコソとひつつきに来(き)よる。192そいつを利用(りよう)して、193つまり要(えう)するに三五教(あななひけう)の転覆(てんぷく)を企(くはだ)て、194変性(へんじやう)女子(によし)の地位(ちゐ)に取(と)つて代(かは)らうと云(い)ふ大野心(だいやしん)を持(も)つて居(ゐ)たからだ』
195お花『何(なん)とまア人(ひと)は見(み)かけによらぬものだ事(こと)、196夢(ゆめ)か現(うつつ)の守宮別(やもりわけ)さまと播陽(ばんやう)[※大阪の商人で、町人学者の「岡田播陽」(おかだ ばんよう、1873~1946年)のこと。]さまでさへ云(い)つて居(ゐ)られた位(くらゐ)だから、197酒(さけ)さへ呑(の)ましておけばいい男(をとこ)だと思(おも)つて居(ゐ)たに、198聞(き)けば聞(き)く程(ほど)頼(たの)もしい何(なん)と云(い)ふ立派(りつぱ)な男(をとこ)だらう。199併(しか)しそれも無理(むり)もない、200世界(せかい)の事(こと)にかけたら酸(すい)も甘(あま)いも辛(から)いも悟(さと)りきつた蹴爪(けづめ)の生(は)えた、201コケコツコウか、202尾(を)が二(ふた)つに分(わか)れた山猫(やまねこ)のやうなアヤメのお花(はな)を蕩(とろ)かすと云(い)ふ腕(うで)があるのだもの、203ホヽヽヽヽ。204油断(ゆだん)も隙(すき)もならない主人(しゆじん)だわ。205一(ひと)つ守宮別(やもりわけ)さま、206否(いな)旦那(だんな)さま貴方(あなた)の得意(とくい)な鈴虫(すずむし)のやうな声(こゑ)で詩吟(しぎん)でもやつて下(くだ)さいな。207私(わたし)ばつかりに歌(うた)はしてあまり平衡(へいかう)が取(と)れませぬわ』
208守宮別『よしよしお望(のぞ)みとあれば詩吟(しぎん)でも何(なん)でもやらう』
209と銅羅声(どらごゑ)を張(は)り上(あ)げ大口(おほぐち)をあけ、
210守宮別『月(つき)落(お)ち烏(からす)啼(な)いて霜(しも)天(てん)に満(み)つ
211暁(あかつき)に見(み)る千兵(せんぺい)の大河(たいが)を擁(よう)するを……  ゼスト……』
212お花『これ旦那(だんな)さま、213ソンナ旧(ふる)めかしい詩吟(しぎん)ならもう止(や)めて下(くだ)さい。214どうか私(わたし)の事(こと)を謡(うた)つて貰(もら)ひたいのですがなア』
215守宮別『よしよし、216それぢや新派(しんぱ)で一(ひと)つやつて見(み)やう。217歯(は)の浮(う)くやうな艶(つや)つぽい歌(うた)だよ、218オホン。
 
219 天(てん)を背景(はいけい)となし
220 地(ち)を舞台(ぶたい)となし
221 雲(くも)の袖(そで)をふるつて
222 大宇宙(だいうちう)に活躍(くわつやく)す
223 あゝ吾(われ)人(ひと)と生(うま)れて人(ひと)に非(あら)ず
224 さりとて獣(けもの)にも非(あら)ず
225 又(また)神(かみ)でもなければ仏(ほとけ)にも非(あら)ず
226 広(ひろ)い宇宙(うちう)に只(ただ)一点(いつてん)の肉塊(にくくわい)として
227 忽然(こつぜん)として住(す)めるのみ
228 あゝ天(てん)の時(とき)今(いま)や到(いた)りて
229 世界(せかい)の中心(ちうしん)地点(ちてん)
230 日(ひ)の出(で)の島(しま)の又(また)中心(ちうしん)
231 浪花(なには)の遊里(いうり)に初声(うぶごゑ)をあげたまひし
232 あやめの君(きみ)と懇親(こんしん)を結(むす)ぶ
233 吾(わが)現世(げんせ)に生誕(せいたん)して初(はじ)めての歓喜(くわんき)を知(し)る
234 医者(いしや)と南瓜(かぼちや)はヒネたのがよい
235 色(いろ)は年増(としま)が艮(とど)め刺(さ)す
236 あゝ何(なん)たる幸福(かうふく)ぞや
237 お寅(とら)の如(ごと)きは物(もの)の数(かず)ならず
238 其(その)面貌(めんばう)はアトラスの如(ごと)く
239 其(その)臀肉(でんにく)は搗臼(ひきうす)の如(ごと)し
240 アヤメの君(きみ)とお寅(とら)婆(ばば)を比較(ひかく)すれば
241 天空(てんくう)に輝(かがや)く月光(げつくわう)菩薩(ぼさつ)と
242 地中(ちちう)に潜(ひそ)む泥亀(どろがめ)の如(ごと)し
243 加(くは)ふるにお寅(とら)の懐中(くわいちう)には
244 僅(わづ)かに千金(せんきん)を剰(あま)すのみ
245 黄金(わうごん)万能(ばんのう)の現世(げんせ)に於(おい)て
246 万金(まんきん)を懐中(くわいちう)する
247 アヤメの君(きみ)こそは
248 富(とみ)においても最大(さいだい)優者(いうしや)なり
249 この夫人(ふじん)にしてこの金(かね)あり
250 この夫人(ふじん)にしてこの夫(をつと)あり
251 俗(ぞく)に所謂(いはゆる)鬼(おに)に金棒(かなぼう)とは
252 這般(しやはん)の消息(せうそく)を物語(ものがた)るものか
253 あゝ愉快(ゆくわい)なりカンランの山(やま)
254 夫(をつと)となり妻(つま)となつて此(この)艶姿(えんし)を天地(てんち)の万物(ばんぶつ)に観覧(くわんらん)せしむ
255 宇宙(うちう)の幸福(かうふく)を吾(われ)と汝(なんぢ)と独占(どくせん)して
256 生(いき)乍(なが)ら幸福(かうふく)の神(かみ)となり
257 万劫(まんごふ)末代(まつだい)生通(いきどほ)しの仙術(せんじゆつ)を学(まな)び
258 天地(てんち)と共(とも)に悠久(いうきう)に生(いき)むとす
259 あゝたのもしきかな たのもしきかな
260 カンランの神山(みやま)の夕(ゆふべ)
261 月(つき)は皎々(かうかう)として五色(ごしき)の雲(くも)の階段(かいだん)を昇(のぼ)り
262 星(ほし)は燦爛(さんらん)として金銀(きんぎん)の光(ひかり)を放(はな)つ
263 天(てん)清(きよ)く地(ち)又(また)清(きよ)し
264 吾(われ)清(きよ)く汝(なんぢ)又(また)清(きよ)し
265 半日(はんにち)の清遊(せいいう)実(じつ)に心胆(しんたん)を洗(あら)ふの思(おも)ひあり
266 喝(かつ)。267』
 
268お花『あゝ吃驚(びつくり)しましたよ、269狸(たぬき)のやうな口(くち)あけて、270喝(かつ)なんて何(なん)ですか。271喰(く)ひつかれるかと思(おも)ひましたよ』
272守宮別『あまりお前(まへ)が可愛(かあい)ので頭(あたま)から噛(か)ぶつてやらうと思(おも)つたのだ、273アハヽヽ』
274お花『オホヽヽヽ、275あのまア旦那(だんな)様(さま)のほどのよい事(こと)哩(わい)のう。276その声(こゑ)で蜥蜴(とかげ)喰(くら)ふか杜鵑(ほととぎす)式(しき)だから一寸(ちよつと)も油断(ゆだん)は出来(でき)ないわ』
277守宮別『おいお花(はな)、278もう黙(だま)つて行(ゆ)かう、279どうやら、280あの木蔭(こかげ)に人(ひと)が居(ゐ)るやうだ、281些(ちつ)と許(ばか)り見(み)つともないからなア。282お前(まへ)は二三間(にさんげん)離(はな)れてついて来(き)て呉(く)れ。283さうして人(ひと)の居(ゐ)る所(ところ)で旦那(だんな)さまなぞと云(い)つて貰(もら)つちや困(こま)るよ』
284お花『ハイ、285旦那(だんな)さまつて今日(けふ)限(かぎ)り申(まをし)ませぬ。286よう気(き)の変(かは)るお方(かた)ですな』
287と早(は)や悋気(りんき)の角(つの)を生(はや)して居(ゐ)る。
288 守宮別(やもりわけ)は小声(こごゑ)で、
289守宮別『あゝ女子(ぢよし)と小人(せうじん)は養(やしな)ひ難(がた)しとは能(よ)くいつたものだな。290柔(やさ)しく云(い)つたら自惚(うぬぼれ)る、291強(きつ)く云(い)へば吠(ほ)える、292殺(ころ)せば化(ば)けて出(で)ると云(い)ふ魔物(まもの)だからなア、293アーア』
294 お花(はな)は小声(こごゑ)でハツキリわからねどアーアの声(こゑ)を聞(き)き、295こいつは又(また)例(れい)の心境(しんきやう)変化(へんくわ)の境界線(きやうかいせん)ではないかと心配(しんぱい)のあまりサツト顔色(かほいろ)変(かは)り蟇蛙(ひきがへる)の鳴(な)き損(そこ)ねたやうな面(つら)をさらし居(ゐ)る。
296 路傍(みちばた)の五六(ごろく)間先(けんさき)の木(き)の下(した)から瓦(かはら)をぶちやけたやうな笑(わら)ひ声(ごゑ)が聞(きこ)え来(きた)りける。
297(大正一四・八・二〇 旧七・一 於由良 加藤明子録)
298(昭和一〇・三・一〇 於台湾別院蓬莱殿 王仁校正)
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